古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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2026年08月

 古村治彦です。

 日本国内には「日本は核武装すべきだ」という考えを持つ人々が数百万人単位でいる。彼らは自分たちこそが「大人の態度」を取っており、「日本は戦争被爆国であり、その惨禍を経験している以上、核兵器の存在自体に反対し、また、日本の核武装に反対する」という主張に対して、「お花畑」「平和ボケ」という悪罵を投げつける。日本の核武装が実現する時は、世界が第三次世界大戦に近づくときである可能性が高い。もっとも、日本が核武装をするということは国民世論の反対が大きいので可能性が高くはないと考えられる。

 このブログで頻繁にご紹介しているスティーヴン・M・ウォルトの論考をここでご紹介したい。その内容は「核の優位性を追求することは大いなる無駄だ」という内容だ。アメリカは世界最大の国防予算を誇る。第2位から第10位の国の国防予算を足し合わせても、アメリカ一国には及ばないほどだ。その中にはどうしても無駄や浪費が出てくるが、その改善策は無駄なプログラムへの支出を削減、もしくは停止することだとウォルトは指摘している。

 ウォルトは、核兵器の拡大や近代化は無駄だと述べている。それは、核兵器の本質は「相互確証破壊(Mutually Assured DestructionMAD)」による威嚇・抑止にあり、すでに十分な第二次打撃能力(報復能力)を備えている場合、それ以上に核弾頭や送達兵器を増やしても、安全保障上の優位性はほとんど高まらないからだ。「相互確証破壊(MAD)」とは、核兵器で攻撃を受けても、残った核攻撃能力で相手国を完全に破壊できるという状態のことで、MADによって、相手国は先制攻撃を思いとどまるという論理構成になる。アメリカ、ロシア(ソ連)、中国はお互いにそのような状態にある。これ以上、いくら改善や増大を進めても抑止効果は高まらないということになる。必要最低限の核兵器保有で十分であるのに、「相手を上回って屈服させる」という方向で、増大を進めた結果が地球を難渋会も破壊しても足りないほどの核弾頭保有ということになった。ウォルトの議論は簡単に言えば、「最低限の核武装で良い」ということになる。

 それならば、「日本も最低限の核武装をすべきじゃないか」という主張が出てくるだろう。日本の防衛に核兵器が必要であろうかというそもそものところから考えてみたい。日本を攻撃する合理性を持つ国は存在しない。日本の通常兵器と自衛隊の実力を考えると、日本を攻撃することはかなりの困難を伴う。その困難さを超える利益ということを考えると、今の日本を攻撃して得られるものはない。そんなことをするくらいなら、円安で安くなった日本を金で買いあさる方がずっと安上がりで、しかも感謝される。日本を軍事的に攻撃する国は国際社会から大きな制裁を受けることになる。ましてや核攻撃をするような国はその存立自体が危ぶまれる。現在の国際社会で核兵器を使用するということはそれだけで実質的に犯罪行為である。日本人を奴隷化すると言っても、これだけ少子高齢化が進んだ国の国民を奴隷にして何の意味があるのか。膝が痛い、腰が痛いという高齢者たちばかりの国だ。

 日本は核武装をする方がかえって危険である。日本が核武装することで、周辺諸国との関係では緊張感が高まる。「日本が再びアジア侵略の野望を持つようになっているのではないか」という懸念を持たれて、警戒感を持たれ、世界の成長エンジンである東アジア、東南アジアとの関係が悪化することも考えられる。日本は国際協調の途を堅持しなければならない。そして、アメリカとの関係を維持しながらも、多角的な外交関係も志向すべきである。そのために最も邪魔となるのが核武装論である。

(貼り付けはじめ)

核の優位性を追求することは意味を持たない(The Quest for Nuclear Superiority Makes No Sense

-政府にとって最善の節約策は完全に不要な兵器に資金を浪費するのを止めることだ。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2026年6月25日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/25/nuclear-arsenal-modernization-weapons-no-sense/

世界各国は毎年、国防に数十億ドルを費やしているが、その資金の一部はどうしても浪費されてしまう。「無駄、詐欺、乱用(waste, fraud, and abuse)」を好む人はいないが、多岐にわたる軍事計画に巨額の資金を投じる以上、それらを完全に排除することは不可能だ。この問題に対処するためのより効果的な取り組み(例えば、米国防総省がたまには会計監査に合格できるようになることなど)が望まれるが、国防費を節約する最も明白な方法は、単に、不必要な能力や実現不可能な目標の追求に資金を浪費しないこと(to simply not waste money pursuing unnecessary capabilities and impossible goals)だ。

具体例を挙げる。主要な軍備管理条約(the major arms control treaties)の多くが失効または破棄された今、アメリカ、ロシア、中国は、核戦力の近代化と拡大に数千億ドルを費やそうとしている。他の核保有諸国も、規模はより控えめとはいえ、戦力の強化を進めている。

しかしながら、この場合、「近代化(modernizing)」とは単に老朽化したり時代遅れになったりしたシステムをより信頼性の高いものに置き換えることだけを意味する訳ではない。それは、戦力の致死性、精度、ステルス性、標的変更の迅速性(lethal, accurate, stealthy, rapidly retargetable)などを高め、保有する核弾頭の数を大幅に増やすことも意味する。そして、こうした支出の背後にある根本的な目標は、単に各国の「第二次攻撃能力(second-strike capability)」を維持することではない。なぜなら、主要諸国にとってその能力を維持することは比較的容易だからだ。むしろアメリカ(そしておそらく他のいくつかの国)は、容認しがたい被害を受けることなく核戦争を遂行できる「信頼できる能力(a credible ability)」を獲得しようとして、多額の資金を費やすことになる。

ここで問題となるのは次の点だ。核時代の当初から明らかだったことではあるが、核兵器の性質上、ある程度の能力を持つ敵対国に対して「完全な無敵性(攻撃を一切受けない状態)」(genuine invulnerability against any reasonably capable adversary)を確保することは極めて困難ということだ。現代の核兵器は小型・軽量で隠しやすく、かつ甚大な破壊力を持っている。どの国であれ、主要都市に5発や10発の原爆や水爆が着弾すれば、政治的に得られるいかなる利益をもはるかに上回る、恐ろしい規模の惨事となるだろう。ニューヨーク、ボストン、ロサンゼルス、シアトル、あるいはワシントンDCを失うこと、あるいは中国が上海、北京、香港、広州を失うことと引き換えに、どのような利益が得られるのか想像してみて欲しい。

敵方の「セカンド・ストライク(second strike、報復攻撃)」を完全に回避できるという確信がない限り、一国の指導者が核のボタンを押すことはないだろう。例外があるとすれば、無人の地域への示威攻撃によって自らの決意を示そうとする場合か、あるいは戦争が不可避だと確信し、先制攻撃を仕掛けようとする場合くらいである。しかし、何十年にもわたって批判者が警鐘を鳴らしてきたように、より破壊力の高い先制攻撃能力を保有することは、後者の危険性を高め、危機の安定性を損なうことになる。

ライヴァル諸国による攻撃や独立への脅威を抑止するために必要なのが比較的少数の兵器による報復能力(to retaliate with a relatively small number of weapons)という「もっともらしい能力(a plausible capacity)」だけであれば、潜在的な敵国の戦力を完全に無力化する能力を得るために巨額の資金を投じることはほとんど意味がない。

この考え方の論理―かつて国家安全保障問題担当米大統領補佐官のマクジョージ・バンディが「存立抑止(existential deterrence)」と呼んで有名になったものは、これまで説得力を持って反論されたことはない。しかし、アメリカも旧ソ連も、これを政策の基本として受け入れることはなかった。それどころか冷戦中、双方は巨額の資金を投じて、より精度の高いミサイル、優れた偵察・対潜水艦戦能力、ミサイル防衛システムなどを開発した。その理由は、「相互確証破壊(mutually assured destructionMAD、訳者註:敵から核攻撃を受けても生き残った核戦力で報復し、相手国を完全に破壊できる状態にすることで先制攻撃ができないようにすること)」という論理から脱却できると信じていたからか、あるいは敵の攻撃を抑止するには核による全面的な壊滅という脅しが必要だと考えていたからか、あるいは防衛関連企業が大きな政治的影響力を持っていたからか、あるいはこれら全てが複合的に絡み合っていたからだった。

こうした取り組みは長らく、「核の優位性(nuclear superiority)」の必要性や想定される利点に関する、専門的で難解な議論によって正当化されてきた。まず、専門家の多くは、「拡大抑止(extended deterrence)」に信憑性を持たせるためには、核を用​​いた戦闘において優位な能力が必要だと考えている。非核保有国の同盟諸国を防衛するためにアメリカが核兵器を使用する可能性があると敵国に確信を持たせるには、アメリカが敵国に与える損害が、敵国からアメリカに与えられる損害を上回る能力をアメリカが持っている必要がある、とされた。もしアメリカが「エスカレーション・ドミナンス(escalation dominance、紛争激化の段階において優位に立つ能力)」を有していれば、敵国は、紛争をどの段階までエスカレートさせたとしても最終的には自国が相対的に不利な立場に置かれることを理解し、武力行使を思いとどまるだろうという論理構成だ。

しかし、この議論は説得力に欠けるものであった。なぜなら、相手がより大きな被害を受けると分かっていれば、事態をエスカレートさせ、自らも甚大な損害を被ることを厭わないだろうと想定しており、しかも、同盟諸国も敵対国もそのように信じていると仮定していたからである。

しかし、アメリカの経済学者トマス・シェリングや他の学者たちが何十年も前に指摘したように、危機における「決意(resolve)」は、単に戦力の均衡やどちらがより大きな被害を受けるかによって決まるものでない。特に、双方が破滅的な結果に直面するような状況ではなおさらだ。本当に重要なのは、どちらがその争点となっている問題をより重視し、最大のリスクを冒したり最大のコストを負担したりする覚悟があるかという点だ。

国家は通常、他者から何かを奪うことよりも、自国がすでに持っているものを守ることを重視する。そのため、核抑止の論理(the logic of nuclear deterrence)は、たとえ戦力が相手より多少劣っていたとしても、現状維持(the status quo)を図る側に圧倒的に有利に働く。

ここ最近、学者の中には、優れた核戦力を持つ国家の方が危機において優位に立つ可能性が高いと主張する人たちもいるが、そうした研究には概念的・方法論的に深刻な問題があり、政策の根拠とすべきではない。そもそも、もし核の優位性がそれほど強力な威圧の手段であるならば、なぜロシアは核兵器を誇示してウ​​クライナにドンバス地方を放棄させることができないのか、また、なぜアメリカは核使用の脅しを使ってイランに自国の意思を押し付けることができないのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最小限の抑止(minimum deterrence、ミニマム・ディターランス)」や「存立のための抑止(existential deterrence、エグジステンシャル・ディターランス)」がいかに強力なものであるかは、アメリカが他国による少数の原始的な核兵器の保有さえも阻止しようとどれほど尽力してきたかを考えれば明らかだ(アメリカ自身は何千発もの核兵器を保有しているにもかかわらず)。それはなぜか? それは、たとえ小規模な核戦力しか持たない核保有国であっても、対峙するのは危険だとアメリカの指導者たちが理解しているからだ。また、アメリカはリビア、イラク、イランといった非核保有国への攻撃を思いとどまることはなかったが、北朝鮮に対しては武力行使を行っていないという事実も考慮すべきだろう。北朝鮮が保有する核兵器は数十発程度であり、運搬手段も(向上しつつあるとはいえ)限定的なものだ。アメリカは平壌に対して圧倒的な「核の優位性(nuclear superiority)」を誇っているが、それが金正恩の決断に対して大きな(あるいは何らかの)影響力を与えているようには見えないし、米大統領に彼との戦争を始めようという気にさせている訳ではない。アメリカの核兵器は、金正恩がアメリカの死活的利益(vital interests)を脅かすのを抑止してはいないが、その効果はせいぜいその程度にとどまっている。

アメリカの核戦力増強を支持する論拠は、技術の進歩によって既存の核戦力の多くが生存の危機に直面し、アメリカが(将来的には他国もそうなるかもしれないが)長年追い求めてきた「第一撃能力(first strike capability、先制攻撃能力)」の獲得に近づいていると主張する学者たちによっても補強されてきた。彼らの主張によれば、ミサイルの精度、監視能力、標的変更能力、弾道ミサイル防衛、対潜水艦戦能力の向上により、アメリカは強力に武装した敵対国であっても第一撃で武装解除させることが可能になり、敵に残されるのはごく少数の兵器だけとなるため、それらはアメリカのミサイル防衛システムによって迎撃できるということだ。

「核の優位性」は莫大な戦略的利益をもたらすものであり、かつその獲得は手の届くところにあるという2つの主張を合わせると、多額の費用を投じた核戦力の近代化や、ロシアと中国を相手に同時に核戦争を戦い「勝利(win)」できるだけの戦力増強を行うことへの説得力ある根拠が形成されるように見える。

しかし残念なことに、アメリカが確実な第一撃能力をすでに保有している、あるいはその獲得が目前にあるという主張は疑わしい、さらには危険な前提に基づいている。例えば、他国の核戦力に対する大規模攻撃(ロシアの場合、数百もの標的をほぼ同時に攻撃する必要がある)を、事前の十分な演習や敵への察知なしに、現実の状況下で最初の一回目にして成功させられると仮定している点だ。複雑な軍事作戦に精通している人なら誰でも、そのようなことが起こる可能性がいかに低いかを知っている。歴史上最も成功した奇襲攻撃でさえ、少なからぬ手違いや標的の取りこぼし、その他の不具合を伴っていた。

さらに言えば、アメリカが平時に何の警告もなしに、数百から数千発の核兵器を用いた「青天の霹靂(へきれき)」のような攻撃(a bolt-from-the-blue attack)を仕掛けると想定しない限り、議論の対象となるのは、双方がすでに厳戒態勢にあり、攻撃の兆候を察知すれば即座に警告下攻撃(launch on warning)を行う可能性が高い危機的状況だ。理論上のモデルやウォーゲーム(war game、机上演習)とは異なり、現実的な核シナリオにおいては、人的ミスや過度に楽観的な計画の前提が1つあるごとに、アメリカ本土に向けて飛来する核弾頭の数が増えることを意味する。

さらに、第一撃攻撃を受けることを懸念する敵対勢力が、ある程度の数の兵器をうまく隠匿し、それらを運搬するための非従来型の手段を周到に検討していないという前提に立っている。北朝鮮やロシア、中国、あるいはその他の国々が、漁船やプレジャーボートを装ってボストン港に爆弾を送り込み、報復攻撃を行うのを何が阻止できるだろうか? 密輸業者が毎月何トンもの違法薬物をアメリカに持ち込めるのであれば、外国の敵対勢力もまた、必要だと判断したり、単なる報復を望んだりした場合、同様の手法を考案してアメリカ本土に爆弾を持ち込む可能性があると考えられる。実際、分別ある米大統領であれば、そうした可能性を否定するようなことはしないはずだ。

まとめると、アメリカが今後数年間で費やすと見込まれる数兆ドルもの資金の一部は不必要なものであり、実質的には兵器研究所や航空宇宙関連企業のための「完全雇用政策(a full-employment policy)」に過ぎない。もちろん、これは既存の兵器の老朽化に伴う核戦力の近代化を行うべきではないとか、アメリカの抑止力の生存性を脅かすような動向を監視すべきではないと言っているのではない。当然ながら、アメリカはその双方を行うべきだ。

真の問題は、ロシアや中国の核抑止力を明確に脅かすような形で攻撃戦力やミサイル防衛を増強すべきかどうかという点にある。そのような増強を行えば、必然的に相手側もそれに対抗して戦力を増強することになるでしょう。これこそまさに「軍拡競争(arms race)」と言える事態ではないか?

あるいは、アメリカは妥協を受け入れ、相手国を交渉による何らかの自制へと導き、より低いコストとリスクで自国の抑止力を維持しようとするだろうか? もし、アメリカにその意思がなければ、アメリカ人、ロシア人、中国人、そしてその他の国の人々は皆、経済的に困窮することになり、国家の力をより有益な分野に充てるべき資源が浪費され、核戦争のリスクも高まることになるだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。彼は、現代世界を理解・展望する上で不可欠な主要概念を解説する5部構成のニューズレター・シリーズ『新しい地政学(The New Geopolitics)』著者。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.social Xアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 月刊誌『ザ・フナイ』誌2026年10月号から「オピニオン」欄に10回の予定で文章を連載いたします。アメリカ政治と国際政治について掲載します。今月は「分断」をキーワードに文章を書きました。師である副島隆彦先生が長く連載を持っておられ、毎月文章を掲載しています。私の文章だけでは当然高く感じてしまうと思いますが、先生の記事も合わせてということで、是非手に取ってお読みください。

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ザ・フナイ vol.228(2026年10月号)
※『ザ・フナイ』2026年10月号に掲載された新刊の宣伝を掲載します↓
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世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理

 『ザ・フナイ』2026年7月号はアメリカ建国250周年記念ということで、私の文章を掲載していただきました。イラン戦争開戦に関する文章を書きました。まだ販売中ですので、是非お読みいただければ幸いです。

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ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)

 よろしくお願い申し上げます。

(終わり)

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世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 以下のスティーヴン・M・ウォルト教授の論考は、是非多くの方々に読んでいただきたい内容だ。タイトルの通り、「戦争は無意味(pointless)になってきている」という内容だ。冷戦期から現在まで、アメリカは多くの戦争を戦ってきた。大きな戦争で言えば、朝鮮戦争やヴェトナム戦争であるが、これらの戦争は多額の戦費を支出し、多くの人命を失いながら、勝利することはできなかった。最近で言えば、アフガニスタン戦争やイラク戦争、イラン戦争について評価をすると、敗北となる。アメリカは自分が必ず勝てると「事前評価」をしている国に対してのみ軍事行動を取っている。それなのに失敗続きである。例外は、ジョージ・HW・ブッシュ政権下での第一次湾岸戦争である。この時はイラクをクウェートから排除するという目的を堅持し、それ以上に拡大しなかったこともあり、戦争を無駄に拡大せずに成功を収めた。アメリカは多くの戦争を戦いながら、目的を達成できず、かえって外交での方が成功を収めている。米中国交正常化やオスロ合意、イランとの核開発に関する合意などである。

 今回のイラン戦争について考えてみると、軍事力の面で言えば、アメリカが圧倒している。イランは中東地域に限れば、軍事大国であるが、それでもアメリカには遠く及ばない。しかし、世界にとって重要なチョークポイントであるホルムズ海峡を確保し、レバノンのヒズボラ、ガザ地区のハマス、イエメンのフーシ派といった新イラン勢力を支援しながら、アメリカとイスラエル、ペルシア同盟諸国に揺さぶりをかけ、こちらも紅海の出入り口として重要なチョークポイントであるバブ・エル・マンデブ海峡にも影響を与えるという戦術で、アメリカとイスラエルに対抗し、成功している。イランも国内数千カ所を攻撃され、最高指導者アリ・ハメネイ師をはじめとする最高指導層を殺害され、また、子供を含む多くの民間人にも犠牲が出ているが、崩れることなく、対抗している。ナショナリズムと宗教の強靭さとドローンやAIなどのテクノロジーの低コストがイランに味方をしている。まさに「アメリカは戦闘(battle)には勝っているが、戦争(war)には負けている」ということになる。
 アメリカや日本でも米中戦争を懸念するふりをして、使嗾している勢力がいる。しかし、米中戦争は最も無意味な戦争になるだろう。そして、日本がそれに巻き込まれて、唆されて、中国と軍事衝突するなどということも無意味である。

 19世紀のアメリカ、そして、現在の中国は戦争から遠ざかることで国力の充実に成功した。このことを私たちは教訓として拳拳服膺すべきである。そして、日本が日本国憲法で定めている「戦争放棄」、専守防衛こそはこの教訓に当てはまるものであるということを再認識したい。

(貼り付けはじめ)

戦争は無意味なものとなってきている(War Has Become Pointless

-軍事紛争(miliary conflict)はこれまで常に存在してきた。それがもはや意味をなさなくなってきている。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2026年7月6日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/07/06/war-iran-ukraine-israel-united-states-russia-pointless/

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アラスカ州アンカレッジでのロシアのウラジーミル・プーティン大統領(2025年8月15日);ワシントンでのイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相(2025年4月7日);ワシントンでのドナルド・トランプ大統領(2025年8月14日)

『戦争論(On War)』を読んだことがなくても、カール・フォン・クラウゼヴィッツの有名な格言「戦争とは他の手段による政治の延長である(war is the continuation of politics by other means)」は知っているかもしれない。彼の主張しているポイントは、戦争には常に明確な政治的目的が必要であり、その目的こそが戦略の選択や軍事力の行使のあり方を導くべきだということだ。望ましい政治的成果をもたらさない限り、戦場での華々しい戦果も無意味なものとなる。

私は最近この問題についてよく考えているが、現代世界における戦争はますます無意味なものになりつつあるのではないかと考え始めている。その様に述べるのにはかなりの躊躇がある。それは、戦争はコストが増大し、発生頻度は減るだろうという過去の予測は、ことごとく外れてきたからだ。例えば、1849年、ラルフ・ワルド・エマーソンは「戦争はもはや末期状態にあり、文明が野蛮に打ち勝つことが確実であるのと同様に、普遍的な平和もまた確実である(War is on its last legs, and universal peace is as sure as is the prevalence of civilization over barbarism)」と書いた。第一次世界大戦前には、ポーランドの銀行家ジャン・ド・ブロッホが、軍事技術の進歩によって戦争はあまりに危険なものとなり、「自滅という代償を払う以外には」不可能になりつつあると論じた。

同様の文脈で、1909年に初版が出版されたノーマン・エンジェルの『大いなる幻想(The Great Illusion)』は、相互依存関係(interdependence)にある以上、大国間戦争(great power war)がもたらすコストは、得られるいかなる利益をも上回るだろうと警告した。より最近では、ジョン・ミューラーやスティーヴン・ピンカーといった学者たちが、戦争は「時代遅れ(obsolete)」とまではいかなくとも「廃れつつある(obsolescent)」と論じたが、彼らの予想をはるかに超える規模の新たな紛争が勃発するのを目の当たりにすることになった。軍事史家の故マイケル・ハワードは、ミューラーの著書『破滅からの後退(Retreat from Doomsday)』の書評の中で、戦争が消滅しつつあるという記述を読んだ慎重な人物なら、「自分の防空壕がきちんと整備されているか確認するだろう」と皮肉を込めて述べている。

従って、戦争が消滅しつつあるとは私は言わない。戦争がなくなることはない。ただ、その無意味さが増しているだけだ。近年の歴史について考えてみよう。

第二次世界大戦以降、アメリカは数多くの戦争を行ってきたが、対等なライヴァルや他の大国を相手にした戦争はなかった。その代わり、強力な同盟国を持たない弱小国を相手に戦うことがほとんどだった。それにもかかわらず、1991年の第一次湾岸戦争や、1983年の強力なグレナダへの取るに足らない侵攻を除けば、その戦績は芳しいものではない。朝鮮戦争は引き分けに終わり、ヴェトナム戦争は明らかな敗北だった。湾岸戦争で勝利できたのは、アメリカが戦争を始めたのではなく、多くの同盟諸国の支援があり、そしてジョージ・HW・ブッシュ大統領が「イラクをクウェートから追い出し、その軍事力を大幅に解体する」という限定的な政治目標を堅持するという賢明な判断を下したことが大きな要因だった。ソマリアへの介入は屈辱的な撤退に終わり、コソヴォ紛争は実質的に引き分け、そして現在「終わりのない戦争(forever war)」として知られるイラクやアフガニスタンでの紛争は、多大な犠牲を伴う敗北となった。ドナルド・トランプによるイランへの愚かな攻撃は戦略的な大失敗であり、支持者たちは必死になって(しかし説得力に欠ける形で)それを否定しようとしている。

これらの戦争のほとんどは、アメリカをより安全にしたり繁栄させたりするどころか、むしろ戦わなかった場合よりも悪い状況を招いた。このリストには、ピート・ヘグセス国防長官による、ラテンアメリカからの麻薬密輸容疑者を標的とした殺人を伴う作戦も加えられるだろう。この作戦は数十億ドルの費用を費やし、罪のない人々を殺害し、国際法に違反しているにもかかわらず、違法薬物の供給にはほとんど、あるいは全く効果を上げていない。一言で言えば、これらの戦争は無意味なのだ。

それでは、旧ソ連や今日のロシアはどうだろうか? 1979年のアフガニスタン侵攻は、ソ連の経済問題を悪化させ、最終的な崩壊の可能性を高めることになった大きな失策だった。2022年のウクライナ侵攻も同様に、多大な犠牲を伴う泥沼の戦いとなっている。4年にわたる戦争と数十万人の死傷者を出した末にウラジーミル・プーティンが得たものといえば、ウクライナの当初の領土の約20%に過ぎない。ロシアがこの戦争を始めた主な狙いは、ウクライナが西側諸国に接近するのを阻止することにあったかもしれないが、プーティンは自軍の能力、ウクライナ側の抵抗の粘り強さ、そしてキエフが他国から支援を取り付ける能力を明らかに読み違えていた。たとえこの戦争が、ロシア側の切実な安全保障上の懸念に一部起因していたとしても、今となってはその意義はますます失われているように見える。さらに忘れてはならないのは、シリアのバシャール・アサド政権を支えようとしたロシアの試みが結局は失敗に終わったこと、そしてアフリカ各地の独裁者への支援も、最近になって考えると、決して得策とは言えない状況にあるということだ。

イスラエルについて考えてみよう。イスラエルは数多くの戦術的勝利を収めてきたが、それらが永続的な戦略的利益をもたらすことはないようだ。ガザ地区でのジェノサイドはハマスを壊滅させていないし、幾度となく繰り返される爆撃やレバノン南部への再占領も、ヒズボラを排除するには至っていない。爆撃によって勝利を手にできるという信念は、イスラエルを安全にするどころか、むしろ「ならず者国家(a pariah state)」へと変貌させ、アメリカとの特別な関係を危うくしている。ヨルダン川西岸地区におけるパレスティナ人への継続的な不当な扱いに加え、イスラエルの戦争中毒(Israel’s addiction to war)は、近隣諸国の多くとの関係正常化を阻んでいる。本来なら、こうした国々との終わりのない戦争よりも、関係正常化こそがイスラエルの長期的な未来にとって遥かに有益なはずなのだ。(ちなみに、ハマスについても同様のことが言える。2023年10月7日にイスラエルに対して行った殺戮を伴う攻撃は戦争犯罪であり、パレスティナ独立国家の樹立という目標を前進させることには何も貢献しなかった。)

実際、どこを見ても、無意味な紛争の例ばかりを目にする。サダム・フセインは2つの戦争、イランへの侵攻と1990年のクウェート占領を始めたが、そのどちらも完全な失敗に終わった。スーダンやリビアの内戦における各勢力は、自国を疲弊させただけであり、最終的に勝利を収める側にとっても、それは「ピュロスの勝利(a pyrrhic victory、訳者註:損害ばかりが大きく割に合わない勝利)」となるだろう。サウジアラビアのイエメン介入は、数万人もの不必要な死者を出した以外には何の結果ももたらさなかったし、インドとパキスタンが時折繰り広げる国境衝突も、成功や決定的な成果とは程遠いものだ。長引くコンゴ紛争に至っては語り始めるのも嫌なほどだ。

その一方で、誰がうまくやっているだろうか? それは中国だ。それは、中国はこうした戦争の全てに関与せず、国内での国力増強(building power at home)に専念してきたからだ。科学と技術における支配の追求(pursuing scientific and technological dominance)、貿易、投資、多国間外交の場での関与、そしてグリーン技術の提供を通じて、世界的な影響力を築き上げてきた(building global influence through trade, investment, diplomatic engagement at multiple forums, and the provision of green technologies)。19世紀の大半を通じてアメリカがそうであったように、他の大国が破滅的な戦争で互いに消耗し合う間に、距離を置いて関与を避けるというのは賢明な戦略である(remaining aloof while the other major powers punch themselves out in ruinous wars turns out to be a smart strategy)ことが証明されている。

今は何が起きているだろうか? なぜ、クラウゼヴィッツの基準である、開戦者が明確な政治的目標を掲げ、それを妥当なコストで達成できたという基準を満たす戦争を見つけるのはこれほど難しいのだろうか? 考えられる理由は少なくとも4つある。

第一に、核兵器の存在が理由として挙げられる。主要大国(および一部の他の国々)にとって、核兵器を保有していることは、他国が自国に対して行える行動に明確な制約を課すことになる。核兵器は実際の戦争遂行にはあまり役に立たないが、他国による征服の試みを抑止する上では極めて有効だ。確かに、核保有国が攻撃を受けた例はある(1973年10月のエジプト・シリアによるイスラエル攻撃や、インド・パキスタン間の深刻な国境紛争など)。しかし、こうしたケースで攻撃を仕掛けた側は限定的な目標しか持っておらず、相手国を征服しようとは考えていなかった。核兵器の影が「決定的な勝利(decisive victories)」を不可能にするため、戦争の政治的目標は必然的に限定的なものとならざるを得ない。しかし、戦争で達成できる目標が限定的であれば、その目標達成のために国家が費やそうとするコストもまた、自ずと制限されることになる。

第二に、決定的な政治目標の達成をさらに困難にしているのが、現代のナショナリズムの力だ。ナショナリズムは、外国からの侵略者に対して社会が猛然と戦うよう駆り立てるからだ。アメリカはこのことをヴェトナム戦争で思い知らされたが、その教訓をすぐに忘れ、イラクやアフガニスタンで再び思い知らされることになった。プーティンもウクライナで同様の過ちを犯した。イスラエルのシオニストとパレスティナのナショナリストは互いに、相手側の国民的アイデンティティの強靭さや、自らの共同体を守るために戦う意志の強さを過小評価してきた。これこそが、あの紛争が最終的な解決を見ないまま続いている理由の1つだ。

第三に、戦争はますます無意味なものとなっているのは、グローバライゼイションと相互依存(globalization and interdependence)によって、国家は領土を拡大しなくても豊かになれるようになったからだ。アメリカは、グリーンランドのような地域を支配しなくても、そこに存在する資源や資産から利益を得ることができる。真に有望な機会があればアメリカ企業が投資を行えばよいし、あるいはそうした投資を行う外国企業とアメリカが貿易を行えばよい。また、アンドリュー・コーやジョナサン・マーコウィッツが示したように、たとえ(豊富な油田のような)極めて価値の高い領土を征服したとしても、すでに大規模かつ多様な経済を持つ国家にとって、そこから得られる経済的利益は比較的小さいものだ。極端な例を挙げれば、もし中国が台湾を円滑に併合したとしても、中国のGDP全体に上乗せされるのはわずか5%に過ぎない。これは決して無視できない数字ではあるが、それ単独で情勢を一変させるようなものではない。しかも台湾は、すでに高度に発展した経済を持っている。小規模な経済圏を持つ国では計算が異なるが、そうした国々にとっても、経済的利益のために領土を奪取するより、国内の発展を通じて豊かになる方がはるかに賢明な選択と言える。

注意:私は経済的な相互依存によって戦争が不可能になったと言わないし、ホルムズ海峡のような重要な地理的チョークポイント(chokepoints)を支配することが、一部の国家に強力な交渉力を与えるという事実を否定することもない。私が指摘したいのは、単に、国家にとって戦争よりも貿易を通じて目的を達成する方が一般的に容易だということだ。さらに、他国が「相互依存を武器化(weaponize interdependence)」できるという事実は、戦闘のコストを増大させ、大国を含むあらゆる国家にとって野心的な政治目標の達成を困難にする可能性がある。国家は今後も戦争を行うだろうが、だからといってそれが賢明な選択であるとはならない。

そして、テクノロジーとそれが現代の戦場に与える影響についても考える必要がある。F-35が誇る驚異的な技術力や、アメリカやイスラエルなどが実施する複雑な諸兵科連合(combined arms、訳者註:歩兵、戦車、航空機など異なる兵科を連携させ効果を向上させる戦術)作戦の能力に目を奪われるあまり、戦争の様相が、一見して圧倒的に優勢な敵を相手にする場合であっても、徐々に地元の防衛側に有利な方向へと変化していることを見落としてしまいがちだ。アメリカはイラクやアフガニスタンにおいて、制空権を確保し、複雑な戦場をリアルタイムで監視する能力を持ち、圧倒的な火力を誇っていたが、それでも敗北した。ロシア軍はウクライナ軍を数で圧倒しており、2022年以降、その軍事的な遂行能力も大幅に向上させているが、それでも領土を1平方キロ獲得するたびに甚大な損害を被っている。

こうした傾向は、安価でありながら高度化が進むドローンの登場(もちろんそれらも重要だが)だけが原因ではない。小火器の拡散、標的捕捉・監視能力の向上、即席爆発装置(IED)の開発、そして自爆攻撃の利用といった要因も関係しており、これら全てが敵対的な地域の占領や維持を困難にしている。言い換えれば、こうした事態の進展は、かつてアメリカが支配していた「グローバル・コモンズ(the global commons)」の範囲を縮小させ、MITのバリー・ポーゼンが「係争地帯(contested zone)」と呼んだ領域を拡大させた。この領域では、より弱い敵対勢力であっても、強大な力を持つ大国に対して甚大なコストを強いることが可能だ。アメリカ海軍は依然として強力な戦力だが、今日、ペルシア湾内を自由に航行していないのには理由がある。こうした戦争の様相の変化は、強力なナショナリズムと相まって、外国政府に圧力をかけたり、不穏な動きを見せる住民を鎮圧したりすることを、より困難なものにしている。

誤解しないで欲しいのだが、私は各国が安全保障への懸念を捨て、剣を鋤に持ち替えて軍備を放棄すべきだと言っているのではない。結局のところ、ある国が自衛のための備えを固めているからこそ、他国は費やすコストに見合うだけの利益を得ることが難しくなる。つまり、有利な勢力均衡(a favorable balance of power)を維持し、信頼に足る抑止力(a credible deterrent)を備えておくことは、依然として重要だということだ。しかし、私たちはこの状況が何を意味するのかを認識する必要がある。それは、自衛(self-defense)は容易になる一方で、侵略戦争(aggressive wars)はますます無意味になりつつある。侵略戦争は、アメリカにとっても、その他のどの国にとっても、うまくいっていない。よって、ある国について、「直ちに阻止しなければならない致命的な脅威(mortal danger that must be stopped immediately)」と「容易に崩れ去る砂上の楼閣(a fragile house of cards that will be easy to topple)」ということを同時に主張する、言葉巧みなシンクタンクの研究員やロビイスト、あるいは私利私欲に走る外国の指導者が説いてきたときは、このことを思い出して欲しい。彼らの主張は間違っているということを。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ウォルトは現代世界を読み解くために不可欠な主要概念を解説する5つのパートを持つニューズレター・マスタークラス『新しい地政学(The New Geopolitics)』の著者。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 ドナルド・トランプ大統領は、ジェイムズ・モンロー大統領が1823年に提唱した、ヨーロッパとアメリカによる西半球をめぐる相互不干渉主義であるモンロー主義(Monroe Doctrine)をもじって、「ドンロー主義(Donroe Doctrine)」を標榜している。モンロー主義は「ヨーロッパの争いにアメリカは干渉しないので、ヨーロッパ諸国は西半球に介入しないように」というものであり、「西半球(Western Hemisphere)」は、アメリカの勢力圏(Sphere of Influence)であるということを宣言したものである。20世紀はアメリカが超大国として世界を支配してきたが、アメリカの国力の低下(decline)もあり、アメリカの一極支配構造は崩れている。そして、米中二極構造になりつつある。G2体制と呼ばれることもある。また、ロシアを入れて、「ヤルタ2.0」とも言われる。アメリカの一極支配の終焉に続くものとして、「アメリカは西半球、南北アメリカ大陸の支配を続ける」ということが、「ドンロー主義」である。世界の他の地域については、「アメリカは撤退する」ということになる。そうなれば、頼るのは中国ということになる。実際に中国が進出している。
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 アメリカにとって問題は、ラテンアメリカに中国が進出し、地歩を固めているということだ。2000年頃は貿易額で見ても分かる通り、中国の影響力は小さかった。しかし、今や南米諸国のほとんどにとって中国は最大の貿易相手国となっている。また、中国から多くの投資が行われている。その間にアメリカは何もしなかった。それが今になって急に、「南米はアメリカの勢力圏、属国だ。昔からそうだった」と言われて、「はい、その通りでございます」とは言わないし、言えない。「ヤンキー帝国主義(Yankee Imperialism)で酷い目に遭った。アメリカが行ったり、支援したりした選挙干渉や内戦などで酷いことになった」という反感がある。投資や経済協力は歓迎するが、アメリカが今になって、宗主国気取りでやって来て「言うことを聞け」は通用しない。
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 トランプ政権はヴェネズエラを攻撃し、キューバに厳しい経済制裁を科している。新中国派の牙城であるこれらの国々を崩して、中国の影響力を削ごうとしている。これはアメリカにとって非常に簡単な仕事だ。しかし、その効果は一過性でしかなく、これらの国々の国民はキューバ革命とシモン・ボリヴァルの独立革命の誇りを維持している。アメリカからの攻撃がかえって国民に反米意識と団結を生み出してしまうという逆効果になってしまう。この点はイランに似ている。中国は「民間企業がビジネスでやっていることなので」という建前で粛々と進出を続けていく。アメリカがやるべきことは「長期的な経済面を中心とした投資や経済協力」である。こうした長期的な仕事はアメリカにとっては苦手な分野である。どかーん、ぼこーんと一気に壊してしまえということになってしまう。そうして、世界に反米の種をまき続けてきた。もうすでに中国の存在感を簡単などかーん、ぼこーんで排除することはできないし、短期間で、中国に取って代わることもできない。それでも、地道に続けていけばまだ良いのであるが、それは今のアメリカには極めて困難であり、ほぼ不可能なことであろう。

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アメリカはラテンアメリカから中国を排除することはできない(The U.S. Can’t Exclude China From Latin America

-ワシントンは中国をラテンアメリカから排除しようとするのではなく各国に対してより優れた戦略的選択肢を提示すべきである。

ブライアン・フォンセカ筆

2026年6月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/08/latin-america-us-china-national-security-strategic-displacement/

写真

ペルーのチャンカイにあるチャンカイ港の様子(2025年9月30日)

アメリカのジェイムズ・モンロー大統領がヨーロッパ列強に対し、西半球(the Western Hemisphere)への介入を戒める警告を発してから2世紀近くが経過した今、アメリカはこの地域における地政学的な課題に再び直面している。過去20年間で、中国は中南米およびカリブ海地域において、経済、技術、戦略面でのプレゼンスを劇的に拡大させてきた。しかし、今日の状況はモンロー・ドクトリンが掲げられた当時とは根本的に異なっている。

モンロー・ドクトリンは排除の戦略(a strategy of exclusion)であった。すなわち、西半球において外部勢力が領土的・政治的な支配権を確立することを阻止しようとするものだった。しかし、そうした枠組みは21世紀の競争の現実を反映していない。中国は征服や占領(conquest or occupation)によって中南米での影響力を拡大しているわけではない。むしろ中国は、中南米のインフラ、貿易ネットワーク、エネルギー・システム、デジタル・エコシステム、そして戦略的産業の内部へと深く入り込んでいる。

中国が行使する影響力は、武力によるものではなく、経済的な統合、技術への依存、そして構造的な優位性を利用したものだ。中国は今や、中南米における主要な貿易相手国であり、重要な資金提供元であり、さらには一次産品や農産物輸出の重要な市場となっている。インフラの慢性的な不足、低成長、長年にわたる投資不足に直面する多くの中南米諸国にとって、中国との関わりはイデオロギーの問題ではなく、経済的な必要性に基づいているのである。

アメリカが現実的に中国を中南米から排除することは不可能である。また、中南米の各国政府に対し、ワシントンか北京かの二者択一を迫るようなこともすべきではない。西半球に位置する国々の大半が求めているのは、単に多角化された経済関係(diversified economic relationships)と、より大きな戦略的自律性(greater strategic autonomy)なのである。

中国による関与の全てが、同レヴェルの戦略的重要性を有するということはない。アメリカは、ラテンアメリカおよびカリブ海地域における中国のあらゆる商業活動に反射的に反対するのではなく、地政学的および国家安全保障上の影響が最も大きい分野において、中国の影響力を置き換える(displace)ために選択的に競争すべきだ。アメリカにとってこれは、「戦略的拒否(strategic denial)」から、私が「戦略的置換(strategic displacement)」と呼ぶアプローチへと転換することを意味する。

第一に、アメリカは戦略的インフラを優先事項とすべきである。中国企業は、ラテンアメリカ全体にわたり、港湾、物流回廊、輸送ハブ、エネルギー・システムといった分野でその存在感を拡大してきた。これらの資産は単なる商業事業にとどまらない。それらは貿易の流れ、サプライチェインへのアクセス、海上輸送の接続性、そして戦略的な機動力を左右するものだ。重要インフラや通商を支配することは、永続的な政治的・経済的影響力を行使する手段となり得る。

2024年に開港したペルーのチャンカイ港は、こうした力学を如実に示している。中国の海運大手である中遠海運(Cosco)が主導して開発されたこの港は、南アメリカとアジア市場をより直接的に結びつけると同時に、太平洋の貿易回廊や地域のサプライチェインにおける中国の役割を強化するよう設計されている。アメリカは単にこうしたプロジェクトに反対するのではなく、より競争力のある資金調達手段やインフラ整備の代替案をラテンアメリカ諸国に提示しなければならない。

第二に、アメリカはラテンアメリカ全域において、デジタル・インフラ、通信、データ・ガヴァナンスの分野で、より積極的に競争を展開する必要がある。ファーウェイ(Huawei)やZTEといった中国のハイテク企業は、通信インフラ、クラウド・システム、監視技術、スマートシティ構想、デジタル決済プラットフォームなど、ラテンアメリカのあらゆる分野に深く浸透している。

これらのシステムは政治的に中立なものではない。それらはデータ・ガヴァナンスの基準を形成し、サイバーセキュリティ上の脆弱性を生み出すほか、将来的には中国による情報収集や政治的影響力工作の機会を拡大させる恐れもある。ZTEの支援を受けて開発されたヴェネズエラの「祖国カード(fatherland card)」システムは、デジタル・システムがいかにして政治的監視や社会統制の手段へと変貌し得るかを示す極端な事例である。

第三に、アメリカ政府は、重要鉱物(critical materials)に対する高まる関心を、持続的な対米州戦略へと転換しなければならない。ラテンアメリカは、先端製造業、半導体、エネルギー技術、防衛システムに不可欠なリチウム、銅、レアアース(希土類)などの鉱物資源を豊富に埋蔵している。中国はすでに、これらの資源に関連する採掘、加工、輸送の各ネットワークにおいて、特にアルゼンチン、ボリヴィア、チリからなる「リチウム・トライアングル(lithium triangle)」を中心に、強固な地位を築いている。

アメリカは、アルゼンチンやチリのように市場環境がパートナーシップの構築に適した国々において、融資可能な(bankable)プロジェクトへの資金提供に注力すべきだ。同時に、加工、精錬、およびオフテイク(offtake、生産物の引き取り)に関する取り決めを支援し、ヴァリューチェインのより多くの部分を西半球内に留めるようにすべきである。目指すべきは単なる原材料の確保ではなく、中国が支配する加工・物流への依存を低減させる、強靭な鉱物サプライチェインの構築である。

第四に、アメリカは西半球におけるエネルギーの強靭性を戦略的優先事項と位置づけるべきである。中国の国営・政府系企業は、西半球全域で送電、再生可能エネルギー、石油生産、および広範なエネルギーインフラへの投資を拡大してきた。例えばペルーのリマでは、中国企業が発電、送電、配電の各システムにおいて支配的な地位を占めている。

これらのプロジェクトの多くは、個々に見れば商業的に合理的であるかもしれないが、それらが複合的に組み合わさることで、国家の強靭性や長期的な経済発展にとって極めて重要な分野における中国の関与を深めることになっている。

第五に、アメリカは西半球全域における宇宙関連およびデュアルユース(dual-use、軍民両用)のインフラに対し、より一層の注意を払う必要がある。衛星システム、航空宇宙分野での協力、人工知能(AI)、高度な通信技術に関連する中国の投資は、正当な商業目的を支えるものであると同時に、中国による戦略的なアクセスや情報収集能力を拡大させる可能性も秘めている。

アルゼンチンのネウケンにある中国運営の深宇宙探査施設は、こうしたプロジェクトの多くを取り巻く不透明さを象徴する事例である。表向きは民生用とされているものの、この施設の透明性の欠如や、中国の軍事関連宇宙機関とのつながりは、アメリカや地域の当局者の間で根強い懸念を招いている。

ラテンアメリカにおける米中間競争は、本質的にイデオロギー的なものではなく、構造的なものだ。アメリカはこの地域に対し、長きにわたり「放置(neglect)」と「過剰な警戒(alarmism)」の間で揺れ動いてきた。そのアプローチは一貫性を欠いており、中国の活動のほぼ全てを脅威と見なす一方で、信頼に足るアメリカの経済的代替案を十分に提示できていない。こうした戦略は、中国の国家運営のあり方や、ラテンアメリカの各国政府が直面している経済・開発上の切迫した課題を誤解している。

例えば、ボゴタで建設中の中国製地下鉄システムを見てみよう。アメリカはこのプロジェクトを地政学的な競争という観点から捉えてきた。しかし、このプロジェクトと中国との関わりが、西半球の勢力均衡を決定づける可能性は低いと言える。ワシントンは、こうした個別の商業的案件を戦略的な勝利であるかのように扱う一方で、長期的により大きな影響を及ぼす分野を疎かにすることも多い。

アメリカは、中国が支援する象徴的なインフラ・プロジェクトを阻止することに固執するのではなく、長期的な戦略的強靭さを形作る分野において、より積極的に競争を展開すべきだ。

西半球における中国の優位性は、単にコストの低さやインフラ建設のスピードに由来するものではない。それは、中国政府が長期的な地政学的目標の達成に向けて、金融、外交、産業政策、そして企業活動を一体化させる能力を持っていることに起因している。アメリカが中国の国家資本主義モデル(state-capitalist model)を模倣する必要はないが、国家安全保障上、戦略的に重要な意味を持つ分野でアメリカ企業が競争できるよう促すための、組織的かつ統合された枠組みは必要だ。

この戦略的な置換には必然的に制約が伴う。ブラジル、メキシコ、コロンビア、チリといった国々は、大国間競争の受動的な競技場(passive arenas)ではない。それらの国々は独自の国益や開発の優先順位、そして「戦略的自律性(strategic autonomy)」に対する独自の考え方を持っている。ラテンアメリカ諸国の政府の多くは、二者択一的な地政学的陣営への参加を強いるように見えたり、アメリカの「パターナリズム(paternalism、父権的干渉主義)」に対する懸念を再燃させたりするような枠組みには抵抗感を示している。

例えば、ブラジルは、北京とワシントンの双方と多角的なパートナーシップを追求する、自立したグローバルな主体としての自意識を強めている。中国はブラジルにとって最大の貿易相手国であり、農業、エネルギー、インフラ、技術といった各分野における主要な投資国でもある。

南アメリカの多くの国でも同様の状況が見られる。中国を全面的に排除することを軸にしたアメリカの戦略は、政治的にも経済的にも失敗に終わるだろう。さらに、中国が戦略的な足場を簡単に明け渡すことはない。中国はこの地域全体で、長年にわたり商業関係の構築、金融面での依存関係の形成、外交的影響力の拡大、そして制度的なプレゼンスの確立に投資を続けてきたからだ。

アメリカ企業がラテンアメリカの重要分野でより効果的に競争できるよう望むのであれば、ワシントンはこの地域への長期投資に伴う財務的・政治的リスクを低減させる必要がある。つまり、民間部門の関与を促進するために、アメリカ国際開発金融公社(the U.S. International Development Finance CorporationUSIDFC)や輸出入銀行(the Export-Import Bank)、その他の公的金融メカニズムといった機関をより積極的に活用すべきだ。

何よりも重要なのは、アメリカが真剣かつ一貫した姿勢で、経済面からこの地域との関わりを再構築することだ。ラテンアメリカの多くの国において中国の影響力が拡大したのは、アメリカが不在であったり、対応に一貫性がなかったり、あるいは地域へのアプローチにおいて安全保障上の懸念を過度に重視しすぎたりしたためだった。この地域の国々は、地政学的な争いの場となることを望んではいない。彼らが求めているのは、投資(investment)、近代化(modernization)、そして信頼できる長期的なパートナーシップ(reliable long-term partnerships)だ。

ラテンアメリカおよびカリブ海地域において、アメリカは依然として中国に対して圧倒的な優位性を保っている。地理的な近接性、深い文化的つながり、教育ネットワーク、民間部門の技術革新、金融の厚み、そして長年にわたる民主政治体制に基づくパートナーシップなどがその強みだ。こうした優位性を活かすには、単なる反応的なレトリック(rhetoric)ではなく、競争力のある国家統治術(statecraft)が求められる。

※ブライアン・フォンセカ:フロリダ国際大学の国防・国家安全保障研究担当副アカデミック責任者(provost)兼ジャック・D・ゴードン公共政策研究所所長。ワシントンDCを拠点とするシンクタンク「ニュー・アメリカ」国際安全保障フェロー。Xアカウント:@BrianPFonseca

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 古村治彦です。

 2026年11月の中間選挙が近づき、話題になることが多くなっている。ドナルド・トランプ大統領の支持率も「中間選挙が近づく中で下落」というような表現をされることが多い。中間選挙(midterm election)は、政権に対する「中間試験(midterm exam)」の意味合いが強く、これまで、政権を握っている党に不利な結果が出ることが多かった。現在のトランプ大統領の支持率は約39%、不支持率は約59%となっている。支持率が40%を切るのは厳しいが、「何があってもトランプを支持する人たち」がそれくらいはいるということになる。中間選挙では連邦下院の全議席(435議席)と連邦上院(10っ議席)の約3分の1の議席の選挙が実施される。また、一部州の知事選挙も実施される。それ以外にも地方の選挙も実施される。注目はやはり連邦議会の選挙だ。大統領の支持率が低いと結果に反映されるということがあり、今回で言えば共和党が不利な状況となっている。
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 現状では連邦上院では共和党が53議席、民主党系が47議席、連邦下院では共和党が217議席、共和党系無所属が1議席、民主党が212議席、欠員が5議席となっている。現在までの各種世論調査を見てみると、民主党に追い風が吹いているようであるが、上下両院で民主党が過半数を奪取できるかどうかは微妙な情勢だ。連邦下院では民主党が217議席、共和党が218議席となり、僅差で共和党、連邦上院では50対50となり、同数の場合には、連邦上院の議長役となる副大統領が1票を投じることになるので、上院もかなりの僅差で共和党が過半数ということになる。しかし、これだけの僅差となると、議会運営は難しくなる、日本の様に党議拘束ということはないので、全員が一致しての投票行動ということはあまりないからだ。

 民主社会主義勢力は「アメリカ民主社会主義者(Democratic Socialists of AmericaDSA)」という組織を結成している。これは民主党とは別組織であるが、この組織の会員が民主党員として各種の予備選挙に出て勝利し、民主党の候補者になっている。2016年大統領選挙でのバーニー・サンダース連邦上院議員の躍進以来、民主社会主義の躍進は続いている。しかし、民主党の候補者になることまではできるが、本選挙で勝てるかどうかという問題はある。社会主義という言葉、民主社会主義が掲げる政策に対しての支持は無党派層に広く浸透してはいない。「過激、急進的」ということで忌避されることもある。また、民主党内部にも穏健、中道、エスタブリッシュメントがある以上、民主党内部にも拒否反応がある。DSAは独自の政治勢力、最終的には政党として民主党とは別で行動すべきと考える人たちもいる、一方で、これまでうまくいっているのでそのまま続けるべきという意見もある。

 現状では、民主社会主義勢力は都市部を中心に大学教育を受けた若者たちを中心に支持を拡大している。今回の中間選挙で民主党内部での影響力を大きく拡大することは確実となっている。これもまたアメリカの国力の衰退や帝国としての終わりが近づくという、大きな構造変化によって出てきた現象であると言えるだろう。

(貼り付けはじめ)

民主社会主義の勢いが高まる中、アメリカ民主社会主義者(DSA)は自らに問いかけている。「次はどうするのか?」(Amid a democratic socialist surge, the DSA asks itself: What’s next?

-アメリカ民主社会主義者(、Democratic Socialists of America DSA)の指導部にとって、2026年の予備選挙は、期待していた以上の勝利をもたらすものとなった。今、彼らはその影響力をさらに拡大しようとしている。

カレン・タマルティ筆

2026年8月3日

『ワシントン・ポスト』紙

https://www.washingtonpost.com/politics/2026/08/03/amid-democratic-socialist-surge-dsa-asks-itself-whats-next/

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週末にシカゴで開かれたアメリカ民主社会主義者(DSA)の会合にメンバー約600人が参加した

シカゴ発。アメリカの民主社会主義運動(democratic socialist movement)の指導者たちにとって、2026年は、彼らがかつてはあえて期待することさえしなかったほどの成功を収めた年となっている。

「自分の生きている間にこんなことが可能になるとは思ってもみなかった」とシカゴで週末に開催され、600人のメンバーが集まった3日間の会議の最中、インタヴューに応じた「アメリカ民主社会主義者(the Democratic Socialists of AmericaDSA)」の共同議長アシック・シディークは述べた。「私たちが収めつつある成果を目の当たりにして、驚きを感じているメンバーも確かにいるが、それは決して何もないところから突然生まれたものではない」。

シディークが述べるところでは、DSAの会費を支払う会員たちは非常に若く、「DSAの基準で言えば、私はもう年長者だ。私は30代ではあるのだが」ということだ。

「サミット」と銘打たれたこのDSAの集会では、参加者同士が「同志(comrades)」と呼び合っていた。彼らをここに集めた思想を物語るものとして、「ICE(移民関税執行局)を廃止せよ(Abolish ICE)」と書かれたTシャツや、「地主(や大家)どもクソ食らえ(Land Lords Suck)」と主張するバッジ、さらには19世紀のスローガンである「労働は、それが生み出したすべてのものに対する権利を有する(Labor is entitled to all it creates)」と記されたポスターなどが販売されていた。展示ホールのテーブルの1つには、「ディア・リーダー(鹿の指導者、Deer Leader)」と名付けられた雄鹿の剥製が置かれており、その角の間にはDSAの赤い野球帽が挟まれていた。

しかし、祝賀ムードが漂う一方で、ある深刻かつ戦略的な問いがそこにはあった。それは、「次はどうするのか?」という問いだ。

昨年、民主社会主義者のゾーラン・マムダニがニューヨーク市長に選出されて以来、DSAの全国運営組織が正式に公認、あるいは地方支部が支援した候補者たちは、市議会議員選挙から連邦議員選挙に至るまで数多くの予備選挙で次々と勝利を収めてきた。その中には、現職のヴェテラン議員を打ち負かしたケースも含まれている。

DSAの会員数は全国で12万人近くにまで増加していて、これはドナルド・トランプが2期目の大統領に当選した2024年当時の2倍以上の規模だ。先週発表されたCNNの世論調査では、民主党員および民主党支持層の成人の3分の1が、自らを「民主社会主義者」であると認識していることが明らかになった。

こうした数字こそが、民主党エスタブリッシュメントが「政治的な自殺願望(political death wish)」とみなす事態を懸念する理由となっている。先月実施された『ワシントン・ポスト』紙とイプソス社による調査では、民主党員の4人に3人が大統領候補として民主社会主義者を支持することに前向きな姿勢を示したが、全米の一般有権者で同様の考えを持つ人は半数に満たないという結果だった。

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DSAの会員数は全国規模で約12万人と急拡大している

DSAのメンバーも、これが難題であることを認めている。それは単に大統領選レヴェルの話にとどまらない。彼らの綱領における長期的な目標の多く例えば刑務所制度の廃止、国境の開放、国防総省の予算削減、そして連邦上院の廃止などは、エスタブリッシュメントの考え方から大きくかけ離れている。

しかし、彼らは、ニューヨーク市のような民主党の圧倒的な地盤以外の地域であっても、民主社会主義者の候補者を擁立することをためらうべきではないと主張している。そうした候補者の1人がフランチェスカ・ホンだ。彼女は、重要な激戦州であるウィスコンシン州で8月11日に行われる知事選挙の民主党予備選挙において、混戦を抜け出しリードしている状況だ。

会員数1万5000人を擁するDSAニューヨーク市支部の元共同議長ジェレミー・コーハンは「左派が予備選挙に勝って本選挙で負ければ災厄となるだろうが、中道派が予備選挙に勝って本選で負けた2016年もまた災厄だった」と述べた。彼はこの発言の中で、党エスタブリッシュメントの王朝の旗手だったヒラリー・クリントンと、民主社会主義というブランドを全国的なレヴェルにまで押し上げたバーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)との間で繰り広げられた激しい争いに言及した。

コーハンは「勝利するためにはこれらのリスクを取らねばならない」とコーハン氏は述べた。

DSAのメンバーは、大きな自律性を持つ支部に所属しており、多くのメンバーはさらに、互いに意見の対立も多い十数個の「コーカス(caucus、党内グループ)」のいずれかにも参加している。今後、彼らにとっての重要な問いとなるのは、民主党を左傾化させるために揺さぶりをかけるべきか、それとも彼らが「ダーティ・ブレイク(dirty break、汚れた決別)」と呼ぶような、党との決別を行うべきか、ということだ。

ヒューストン支部から参加した正看護師であるセレナ・エルミタニオは、DSAの理事会に相当する27名で構成される「全国政治委員会(National Political Committee)」のメンバーだ。彼女はまた、DSA内部のマルクス主義的かつ労働運動を重視するグループ「ブレッド・アンド・ローゼズ・コーカス(Bread & Roses caucus)」のメンバーでもある。

エルミタニオは、民主党との完全な決別は「戦術として理にかなっている」と述べた。なぜなら、そうしなければDSAは、労働者の懸念を代弁しない既存の体制内組織内部の「下位のパートナー(a junior partner)」に甘んじることになるからだ。

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会議に参加するDSAメンバーのケイティ・シムズ(右)

これとは反対の立場を取るのが、ニューヨーク州イサカ支部のメンバーであるケイティ・シムズだ。彼女はDSAの選挙活動を統括し、「改革派(reformist)」とされる「ソーシャリスト・マジョリティ・コーカス(Socialist Majority Cacus)」のメンバーでもある。(DSAのメンバーは、自分たちが中道や穏健と評されることを嫌う。)

シムズは、「私たちは民主党の支持層を取り込もうとしている。慕って、うまくいっている活動を止めるのは理にかなっていない」と述べた。

もう一つの課題は、政府運営する医療制度といったDSAの主要な理念には賛同しているものの、「民主社会主義者」という肩書きを掲げない候補者を当選させるために、ヴォランティア主導の選挙活動を今後も投入すべきかどうかという点だ。

例えば、火曜日に行われたミシガン州の重要な連邦上院議員選挙民主党予備選挙において、DSAの活動家や現場の支援者たちは、進歩主義候補のアブドゥル・エルサイードを非公式に支援している。エルサイードは自らを社会主義者ではなく、「資本主義の仕組みを理解している資本家」だと主張しているが、DSAのメンバーたちは支援した。

しかし、他の地域ではDSAの支部はそれほど寛容ではない。オーランド支部は最近、支部の支持を求めていた郡委員会候補者に対し、支持を得るためにウェブサイトに「民主社会主義者」という言葉を掲載する必要があると伝えたと支部メンバーのクリフ・コノリーは述べた。コノリーによれば、その10分後には、この候補者のウェブサイトのトップに「労働者家族のために戦う民主社会主義者」という文言が掲げられたということだ。

DSAの注目度の高い全国的な支持を獲得するには、候補者は一連の基準を満たす必要があるとDSAの幹部たちは述べている。その基準とは、単なる「進歩主義派(progressive)」にとどまらず、自らを「民主社会主義者」であると明確に位置づけていること、DSAの強力な支部があり強固な組織的基盤による支援を受けられる地域で出馬すること、親イスラエル・ロビーからの資金提供を拒否すること、そして、米移民関税執行局(ICE)の廃止やule

ルサレムを首都とするパレスチナ国家の樹立といったDSAの政策的立場を支持すること、などだ。

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連邦議事堂に姿を見せたアレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)は大統領選挙においてDSAの支持獲得の最有力候補と目されている(2026年7月)

また、DSA全国委員会は支持を求める候補者に対して厳格な面接プロセスを課しており、指導部によれば、このプロセスはマムダニの勝利以降、さらに要求の高さが上がっているということだ。

当面の課題の一つは、2028年の大統領選挙に向けた支持決定のプロセスを策定することであり、早ければ来年3月か4月までの決定を目指している。

もし出馬を決断すれば、支持獲得の最有力候補となるのはアレクサンドリア・オカシオ=コルテス連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)だ。しかし、DSAの大統領選検討委員会委員長であるアレックス・ペリテリは、仮に支持を決定するとしても、それはDSAにとってより長期的な戦略の一環になるだろうと述べている。

DSA指導部は、現在の構成員の多くを占める「若年層、都市部居住者、大卒者」というグループを超えて、組織と運動の裾野を広げる必要性を認識している。彼らは、大統領選挙への全国的な取り組みがその助けになると考えている。

「候補者を擁立することの魅力は、全米の何百万人もの人々にアプローチするためのプラットフォームが得られる点にある」とペリテリは述べた。彼自身、2016年の大統領選挙でサンダースのために戸別訪問を行ったことが政治活動の始まりとなった。

しかし彼らは、2028年の選挙は長い道のりの始まりに過ぎないと明確に述べている。ペリテリは「私たちは選挙を社会主義運動とDSAを成長させるための手段だと捉えている」と付け加えて述べた。「私たちの目標は資本主義から社会主義への移行を実現することであり、それは一度の選挙運動で達成できるものではない」。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理

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 古村治彦です。

 「スピード信仰」が蔓延している。「ファストフード」「ファストファッション」「タイムパフォーマンス」「倍速視聴(ドラマや映画を倍速で見る)」「本を読まないでAIに内容をまとめさせて読む」といったことが行われている。時間がかかること、手間がかかること、面倒くさいことは確かに嫌だ。しかし、それが行き過ぎているようだ。佐藤優先生との対談本『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』でも、このことについては話をした。ますます急速に変化し続けていき、複雑化していく社会を深く理解するためには、本を読むこと、できれば古典を読むことが重要だということで意見が一致した。通り一遍の表面的な情報を知って理解した気持ちになっていてはいけないということである。
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 「スピード信仰」は政治にも向けられている。「何も決まらない・何も決められない政治」「アメリカをはじめとする外国の政治はスピーディ」という誤ったイメージを前提にして、日本政治が改悪されてきた。そもそもが民主政治体制は議論が基礎基本であり、様々な意見や考えが集約されて方向性を見出すということであり、時間がかかり、手続きが煩雑で、迂遠なものである。それが嫌なら、独裁政治が一番良いのである。民主政治体制など廃止してしまえばよいということになる。そのように言ってしまえば身も蓋もないことになるのでより検討してみる必要がある。

 現代の「スピード信仰」は最新の技術革新の結果である。簡単に言えば「便利な生活になればなるほどこらえ性が亡くなっている」ということである。技術革新によって私たちの生活は便利になっているのは間違いない。しかし、同時にこれまでなかった技術に振り回されることにもなり、不安を感じる。そのために政治に対する要求も高まる。以下の論考から引用する。

(引用貼り付けはじめ)

偉大な政治学者サミュエル・ハンティントンは、「政治における根本的な問題は、社会や経済の変化に対して政治制度の発展が遅れてしまうことにある(the primary problem of politics is the lag in the development of political institutions behind social and economic change)」と指摘した。大規模な変化は不安を招く。そして不安を抱えた社会は、政治に対してより多くのことを求める。市民は指導者に対し、秩序を回復し、安全を確保し、そして誰の手にも負えないように思える力に対して自分たちが再びコントロールを取り戻せるよう支援することを望む。

しかし、今日のテクノロジーは人々の期待を劇的に高める一方で、それと比較すると、民主的な政府の対応能力を低下させてもいるものだ。

(引用貼り付け終わり)

 国民は民主政治体制の存続を望むのならば、その本質を理解し、安易な方向に流れないということが重要である。しかし、それは非常に困難なことでもある。

(貼り付けはじめ)

世界中の有権者が激怒している真の理由(The Real Reason Voters Everywhere Are Furious

-ロンドンから東京に至るまで各国政府は技術革命がもたらした期待に応えられずにいる。

ファリード・ザカリア筆

2026年7月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/07/24/technology-revolution-ai-democracy-voters-politics-populism-fear-anxiety/

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パリで開催された技術革新の展示会「VivaTech(ヴィヴァテック)」で演説を行うフランスのエマニュエル・マクロン大統領(6月19日)

今週、イギリスはわずか10年余りで7人目となる首相を迎えた。フランスでも、ここ数年の間にほぼ同数の首相が入れ替わっている。次期大統領には、かつては「のけ者(outcast)」扱いされていたマリーヌ・ル・ペンが選ばれる可能性も十分にある。ドイツでは、数年前までは小規模な勢力に過ぎなかった極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が、現在世論調査で首位に立っている。安定していて慎重、あるいは退屈でさえあると見なされがちな東アジアの民主政治体制諸国でさえ、日本、韓国、台湾の政権は、高まる国民の怒りの中で苦境に立たされている。ポピュリストが政権を握っている国々でも、状況はそれほど変わらない。ドナルド・トランプは現在、任期のこの時点における歴代のアメリカ大統領の中で、最低水準に近い支持率にとどまっている。

今日の民主政治体制は機能できるのだろうか?

民主政治体制諸国の多くで、政府は巨額の税収を確保し、借入を行い、支出を続けている。経済協力開発機構(OECD)加盟国における政府支出は現在、平均して国内総生産(GDP)の40%以上となっており、中央政府の対GDP債務比率は過去30年間で2倍以上に膨れ上がった。しかし、国民は自分たちがその恩恵を受けているとは感じていないようだ。

なぜこのようなことが起きたのか? その要因の一部は経済にある。住宅価格の高騰、所得の伸び悩み、そして格差の拡大が、国民の怒りを増幅させてきた。しかし、経済的な要因は物語のほんの一部に過ぎない。アメリカは他の多くの先進国よりも力強い経済成長を遂げてきた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領の下では失業率が低下し、アーンスト・アンド・ヤング(EY)の分析によれば、フランスは7年連続でヨーロッパ最多の外国直接投資案件を獲得している。韓国は経済的な成功を収めた国であり、日本もかつては復活の兆しを見せていた。それにもかかわらず、至る所で民主政体政権は不人気だ。

より大きな要因として挙げられるのは、私たちが歴史的な大技術革命(great technological revolutions)の只中に生きているという点だ。こうした変革は、常に深い不安や恐怖を伴うものだ。

これほどの規模の技術的変革(technological transformation)が前回起きたのは、おおよそ1880年から1920年にかけてのことだった。電気、電話、鉄道、自動車、そして映画といった技術が、あらゆる産業や人々の生活様式を一変させた。何百万人もの人々が農村を離れて都市へと移り住み、世界貿易が地域経済を揺るがした。一夜にして巨万の富を築く者が現れる一方で、古くからの職業は姿を消していった。こうした激動の中で、人々の不満や怒りは政治的な動きへと結びついていった。左派は共産主義へ、右派はファシズムへと傾倒していった。その後に続いたのは、新たな大衆運動、文化的な激変、そして世界大戦だった。

私たちが今経験している革命は、電気ではなくデジタル技術によるものだ。コンピュータに始まり、インターネット、スマートフォン、ソーシャルメディア、そして現在は人工知能(AI)へと進化してきた。中でもAIは、最も大きな変革をもたらすものとなるかもしれない。先週、ディープマインド社のデミス・ハサビスが語ったように、「私たちは本質的に、砂に思考させる方法を見つけ出した(We’ve essentially found a way to make sand think)」のだ(シリコンチップは砂から作られている)。知能を大量生産する能力それも、月を追うごとに強力になっていく知能を生み出す能力は、間違いなく史上最大の技術的偉業と言えるだろう。しかし、それは同時に、社会に最も大きな混乱をもたらす可能性を秘めていることも意味する。

偉大な政治学者サミュエル・ハンティントンは、「政治における根本的な問題は、社会や経済の変化に対して政治制度の発展が遅れてしまうことにある(the primary problem of politics is the lag in the development of political institutions behind social and economic change)」と指摘した。大規模な変化は不安を招く。そして不安を抱えた社会は、政治に対してより多くのことを求める。市民は指導者に対し、秩序を回復し、安全を確保し、そして誰の手にも負えないように思える力に対して自分たちが再びコントロールを取り戻せるよう支援することを望む。

しかし、今日のテクノロジーは人々の期待を劇的に高める一方で、それと比較すると、民主的な政府の対応能力を低下させてもいるものだ。

私たちは車を3分で呼べ、荷物はその日のうちに届く。AIは複雑な質問に数秒で答え、人間なら数カ月かかるような難題をわずか数分で処理する。当然ながら、市民は政府にも同様の効率性を求めるようになる。しかし、民主政治体制はスピードを重視するようには設計されていない。その設計の根底にあるのは「正統性(legitimacy)」だ。民主政治体制は交渉や妥協を重ね、司法の判断を仰ぎ、弱者を保護し、対立する利害のバランスを取る。こうした歯止めこそが、民主政治体制を権威主義(authoritarianism)から区別する要素なのである。それにもかかわらず、テクノロジーが猛スピードで進化する現代において、それらのプロセスはしばしば「機能不全(paralysis)」のように見えてしまう。

ソーシャルメディアはこの溝をさらに広げている。政府の失策は即座に露見し、期待外れの出来事は瞬く間に拡散して論争となる。不満を抱いた市民は、政府が対応を始める前に、何千人もの人々を動員することさえできる。

こうした状況は、現代のポピュリズムがたどる奇妙な軌跡を説明する一助となる。トランプ(アメリカ)、ボルソナーロ(ブラジル)、ミレイ(アルゼンチン)といった政治家たちは、制度的な行き詰まりを強引に打破すると約束することで台頭した。しかし、いざ政権の座に就くと、彼らの多くは、自らが取って代わった指導者たちと同じ現実に直面することになる。今日の「反体制派の挑戦者(insurgents)」も、明日には「期待外れの現職指導者(disappointing incumbents)」に早変わりしてしまう。

人々が民主政治体制への信頼を失ったようには見えない。選挙や憲法、独立した司法制度に背を向けてはいない。しかし、民主政治体制のパフォーマンスには強い不満を抱いている。民主政治体制国家は今一度、住宅やインフラの建設、公共サーヴィスの近代化、技術変化への対応、不平等の是正といった課題を、迅速かつ効果的に成し遂げられることを証明しなければならない。

歴史を振り返れば、楽観視できる根拠も見えてくる。自由な社会は、技術の激変期には往々にして最も脆弱に見えるものだ。動きが遅く、絶えず議論を繰り返すからだ。しかし長い目で見れば、自由な社会は権威主義体制よりも優れた適応力を見せてきた。なぜなら、暴力や弾圧に頼ることなく、学び、過ちを正し、進路を変更することができるからだ。

民主政体の指導者たちは、テクノロジーとスピードを競おうとすべきではない。それは不可能だからだ。しかし、粘り強い取り組みと有能さを示すことで、民主政治体制が確実に成果を上げられることを証明すべきだ。そうすれば人々は理解するだろう―説明責任(accountability)に伴う「摩擦(friction)」や正統性の重みは、システムの「欠陥(bugs)」などではないのだということを。それらこそが、私たちの自由を守るのである。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

(貼り付け終わり)

(終わり)

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世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 佐藤優・古村治彦著『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』(ビジネス社)が発売になります。発売日は2026年9月1日です。

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世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』←クリックするとアマゾンのページに移動します

 『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』は佐藤先生との2冊目の対談だ。今回の対談はイラン戦争開戦後に行われ、イラン戦争、米中首脳会談、高市早苗政権について分析を行った。その中で、私たちは「宗教」や「使命感」といったアプローチの重要性について話した。今回の対談は非常に内容の濃い内容となっている。

 以下に、まえがき、目次、あとがきを掲載します。参考にしていただき、是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

(貼り付けはじめ)

まえがき   佐藤優(さとうまさる)

 ロシア・ウクライナ戦争と米イラン戦争によって、世界は新しい時代に入った。1991年12月のソ連崩壊後、アメリカを中心とする民主主義、人権、市場経済などの価値観を基準とする外交は過去の時代のものとなった。これに代わって、力の均衡を原理とするリアリズム(現実主義)外交が主流を占めるようになった。

 実は、この変化に日本外交は、西側諸国の中では適切に対応している。ロシア・ウクライナ戦争に関し、日本は政治的にウクライナを支持しているが、ロシアからLNG(液化天然ガス)を輸入し続けている。ウクライナに殺傷能力を持つ装備品を供与していないG7(日米英仏独伊加)中唯一の国だ。米イラン戦争に関し、日本はアメリカを支持しているが、イランとも比較的良好な関係を維持し、日本のタンカーがホルムズ海峡を通過することを革命防衛隊が認めている。

 このような外交を展開できているのは、日本のインテリジェンス能力が高いからだ。具体的には、国家情報局(2026年7月31日、内閣情報調査室を改組・格上げ)の情報収集と分析の能力が高いからだ。インテリジェンスの要は近未来情勢分析にある。政策とインテリジェンスは分離されている。同時に、国家情報局が首相に示した近未来情勢分析の枠組みから外れる政策を採用しても、それが成果を出す可能性は低い。外交には立場がある。日本の場合、日米同盟は、いわば数学でいう公理系を形成しており、その前提を崩すような政策を日本が取ることはできない。この制約条件を無視した外交は、評論家や学者が行う頭の体操ならばともかく、政治家や職業外交官としては無責任だ。アメリカの基本的立場と国際政治のリアリズムの間で均衡点を見いだすのが、国家を担う政治指導者の責任なのである。

 日本のインテリジェンスが比較的成果を出しているのには、私が見るところ、二つの要因がある。第一は、価値観ではなく、現実の力関係に基づいて情勢を分析するリアリズムだ。第二は、各国の指導者が持つ内在的論理を尊重することだ。国家指導者には、さまざまな性格の人がいる。合理性を重視する人もいれば、感情的な人もいる。さらに、それぞれの国家を成り立たせている基本原理がある。

 現在、国際政治の主要なプレイヤーになっているのは、トランプ米大統領、習近平中国国家主席、プーチン・ロシア大統領、ネタニヤフ・イスラエル首相、モジタバ・ハメネイ・イラン最高指導者、金正恩・朝鮮労働党総書記らだが、本書ではこのうち一神教文明(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)に属するトランプ、プーチン、ネタニヤフ、モジタバを扱った。程度の差はあれ、ヨーロッパ、北アメリカ、日本では、宗教が人間の行動規範ではなくなる世俗化が進んでいる。しかし、ストレートに信仰と政治を一体化させているモジタバだけでなく、一見すると世俗化されたように見えるが、その背後で宗教的な超越性が強く表れているトランプ、ネタニヤフ、プーチンの内在的論理を解明することに本書では力を入れた。

本対談に丁寧にお付き合いいただいた古村治彦氏に深甚なる謝意を表します。また、本書の刊行にあたっては、ビジネス社の小笠原豊樹氏、フリーランスの編集者兼ライターの水波康氏に多大なお力添えをいただきました。心より御礼申し上げます。

2026年7月31日、曙橋(東京都新宿区)の自宅にて、

佐藤優(さとうまさる)

=====

世界は「宗教戦争」に突入した「神に選ばれた」支配者の使命と論理目 次

まえがき(佐藤 優) 2

第1章 世界は「宗教戦争」に突入した──イラン戦争の〝合理〟を超える〝使命〟 11

■トランプはなぜイラン攻撃を決断したのか 12

ホルムズ海峡封鎖で世界は一変した 12

ネタニヤフのプレゼンテーション 18

「対ナチス戦」に転換したトランプ 23

崩壊した「軍事大国イラン」という神話 27

イランが狙うパキスタンの核 32

■神に選ばれた確信と使命 38

死者との連帯を強調したモジタバ・ハメネイ 38

トランプ版聖書が意味するもの 45

ネタニヤフが担う「ユダヤ民族存続」の使命 51 対立する「神に選ばれた確信」 58

■始まった21世紀の宗教戦争 63

トッドの「宗教ゼロ」は当てはまらない 63

目に見えない価値観の闘いがイラン戦争の本質 67

第2章 トランプは変節していない──宗教で読み解く「支配者の論理」 71

■トランプはなぜ止められないのか 72

トランプの政権基盤は揺らいでいない 72

第3次世界大戦を阻止したトランプ 84

トランプの「ダークトライアド」と「理性の狡知」 89

トランプは神の召命に逆らえない 94

■メディアが報じないイランの脅威 98

イランは特殊なイデオロギーの国 98

47年間続くアメリカとの戦争 103

モジタバ・ハメネイの危険な意思決定 110

トランプが放棄したオバマの核合意 114

■クリスチャン・シオニズムの謎を解く 118

『エクソダス』が変えたアメリカ人のユダヤ観 118

終末論が生んだ親イスラエル思想 123

イスラエルはなぜ戦い続けるのか 127

第3章 世界は敗北していない──「西洋の敗北」から米中ロ3極体制へ 131

■台湾カードを握る中国 132

米中首脳会談の基本は協商関係 132

米中は対等な関係となった 138

台湾カードを握る中国 145

■アメリカはなぜ敗北し続けるのか 149

見えてきたアメリカの限界 149

アメリカの国力が落ちている理由 156

イラン戦争はアメリカにとっての世界最終戦になるはずだった 163

■米中ロ世界3極体制の出現 168

ウクライナ戦争が独ロ戦になる怖さ 168

アメリカを側面から支援したロシア 172

世界は米中ロの3極体制となる 179

第4章 大変革する世界、日本の選択──高市戦略は国益にかなうか 185

■高市政権と孤立する日本の危機 186 高市政権が持つ「偽物の強さ」 186

協商は同盟を壊す ── 日本だけが気づかない米中協商 192

日本が行う「周回遅れの喧嘩外交」 195

日本外交は無能ではない 200

ホルムズ危機が直撃する日本 205

日本が米中共通の敵とされる危険性 209

■世界と日本は連動している 216

明の成立と南北朝の動乱 216

トルデシリャス条約と「徳川の平和」 221

アヘン戦争と天皇親政 226

■世界の大変革に日本はどう立ち向かうか 230

メディアや国民は日本の危機を理解できていない 230

「本を読まない人」にお金が集まる時代 235

反・新自由主義が日本の生き残り策 240

あとがき(古村治彦) 245

=====

あとがき                 古村治彦(ふるむらはるひこ)

 本書は、佐藤優先生との2冊目の対談本である。現代の日本を代表する知識人である佐藤先生との対談の機会をいただけることは私にとって光栄なことだ。また、絶好の挑戦の機会ともなる。そして、自分自身の力不足を痛感し、改めて精進を誓う。佐藤先生に深く感謝申し上げます。

 今回の対談は、アメリカとイスラエルによるイランへの大規模攻撃が実施され、その後、60日間の停戦の覚書MOUが締結された後に行われた。アメリカとイランは停戦に合意したが、その後もアメリカ軍とイラン革命防衛隊の双方による攻撃は続き、ホルムズ海峡の状況も先行き不透明ということになっている。ホルムズ海峡の迂回ルートとなっている紅海 Red Seaのバブ・エル・マンデブ海峡 Bab al-Mandab Straitでは、イエメンの新イラン組織フーシ派がサウジアラビアのタンカーに攻撃を実施した(2026年7月23日)。紅海の状況も不安定になると、世界経済への悪影響は増大する。覚書締結で楽観ムードが流れたが、イラン戦争は収束していない。アメリカはウクライナ戦争に加え、イラン戦争でも出口を見いだせない状態になっている。

 トランプ政権の2期目は「アイソレイショニズムIsolationism」「アメリカ・ファースト」という、トランプ政権の基礎となる考え方である「アメリカ国内問題の解決を優先し、海外では戦争を起こさない」から外れ、ヴェネズエラへの奇襲攻撃とニコラス・マドゥロ大統領夫妻の拘束とイスラエルと共同でイランへの大規模攻撃を実施した。その他にもカナダやグリーンランドの併合に言及したり、キューバに対して厳しい経済制裁を科したりしている。「海外には関わらないと言っていたのに」とトランプを支持したアメリカ国民ですら不可解に感じている。

 トランプ政権のこうした一連の行動について様々な分析や評論がなされている。今回の対談を通じて、私たちは、「宗教」や「信念」、「使命感」というアプローチから、イラン戦争に関わる重要人物であるドナルド・トランプ大統領、ベンヤミン・ネタニヤフ首相、モジタバ・ハメネイ師の行動について分析した。「経済合理性」や「利益」を前提にしてばかりでは理解が上辺(うわべ)だけになってしまう。その基底(きてい)にある宗教や文化について私たちは知識を持ち、社会を見る目を養うようにするべきだ。そうすることで、本質を明確に捉えることができ、将来を見通すことができる。

 アメリカ帝国が衰退し、中国が台頭し、米中G2体制が構築されつつある中で、西洋近代600年の培った価値観やシステムが揺らいでいる。アメリカ国内でも自由、平等、人権、法の支配 rule of law(ルール・オブ・ラー)、民主政治体制 democracy(デモクラシー)、資本主義 Capitalism(キャピタリズム)に対する疑念が生まれている。暗黒啓蒙Dark Enlightenment(ダーク・エンライトンメント)やポストリベラリズム Postliberalismと呼ばれる「反動的な reactionary(リアクショナリー)」思想潮流が生まれている。また、左派では民主社会主義 Democratic Socialism(デモクラティック・ソーシャリズム)が勢いを増している。これからは私たちがこれまで培ってきた常識 common sense(コモン・センス)が通用しなくなってくる。佐藤先生が指摘しておられるように、日本は「本を読まない人にお金が集まる」社会になってしまっているが、複雑化する社会をより深く理解するためには、やはり本、できれば古典を読み、基礎教養を学ぶことが必要となる。本書がその手助けとなれば望外の喜びだ。

 ビジネス社の小笠原豊樹氏と水波ブックス代表の水波康氏には対談の調整とまとめをしていただいた。記して感謝申し上げます。

2026年7月

古村治彦(ふるむらはるひこ)

(貼り付け終わり)

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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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 古村治彦です。

 私はブログや著書の中で、馬蹄理論(horseshoe theory)を紹介した。2016年のアメリカ大統領選挙において、共和党ではドナルド・トランプ、民主党ではバーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァ―モント州選出、無所属)が人気を集め、トランプ主義と進歩主義がこの大統領選挙のポイントになった。そして、この両者の主張が実は近いものとなっており、大きくは反エリート・反エスタブリッシュメントのポピュリズムと、エスタブリッシュメントの戦いという構図になっていることが明らかになった。民主党の予備選挙で苦戦し、本選挙で敗れたヒラリー・クリントンは、バーニー・サンダースとドナルド・トランプが代表するポピュリズムに敗れたということになる。この全く相いれないトランプとサンダースが既存の政治に対する抗議の声を集めるポピュリストであり、彼らの主張が似てくるということを説明するのに使われるのが馬蹄理論である。その概念図は以下の通りだ。
horseshoetheory101

 現在、民主党内部で勢力を伸ばしているのが民主社会主義(Democratic Socialism)だ。都市部を中心に、若者たちの間で支持が拡大しており、民主社会主義を標榜する候補者たちが、連邦議員選挙や地方選挙で民主党の予備選挙に勝利して候補者になっている。しかし、そもそもはリベラリズムこそは、そのような既存の政治や権益に反対し、因習を打破し、個人の幸福を増幅させるためのイデオロギーであった。ところが、現在では、エスタブリッシュメント、体制派のイデオロギーとなって、人気を失っている。下記論考の著者ザカリアはリベラリズムの失敗について次のように書いている。

(引用貼り付けはじめ)

ウールドリッジが指摘する第二の失敗は、リベラル派自身の地位に関わる問題であるだけに、より耳の痛い話だ。リベラリズムは「メリトクラシー(meritocracy、能力主義)」を信奉している。歴史的に見れば、これはリベラリズムの最も崇高な理念の1つだった。生まれや人種、カースト、階級ではなく、才能と努力によって人が成功を収めるべきだと主張してきた。しかし時が経つにつれ、能力主義によって選ばれたエリート層は、それ自体が一種の「貴族階級(aristocracy)」へと硬直化してしまった。

リベラル派のエリート層は社会正義を掲げながらも、卒業生の子供を優先的に入学させる「レガシー入試(legacy admissions)」の撤廃にはほとんど何もしようとしない。彼らは貧困層の社会的地位向上を望むが、それが自分たちの住む緑豊かな住宅街への住宅増設を伴うとなれば話は別だ。個人の能力や功績を称賛する一方で、個人の人間性よりも集団的アイデンティティ(group identity)に基づいて人を判断しがちな、巨大な多様性推進の官僚機構(a vast diversity bureaucracy)を作り上げてしまった

(貼り付け終わり)

 「リムジン・リベラル」という言葉がある。リムジンのような高級車に乗り、大邸宅に住みながら、口を開けば、平等や福祉について語る金持ちのリベラルを揶揄する言葉である。ハリウッドの映画スターや人気歌手でもリベラルな主張しながら煌びやかな暮らしをしているということについて、人々は矛盾や偽善を感じている。彼らが正当に得た利益でどのような暮らしをしようがそれは勝手であり、何も悪いことではないのであるが、「お前たちの言っていることは口先だけだ」と捉えられてしまう。

 リベラリズムが再生し、再び人々の支持を得るためには、「口先だけ」と捉えられないようにすることであり、そのためには以前は持っていた「急進性」を再び取り戻すことだ。そのためには民主社会主義の主張を取り入れ、批判にも真摯に向き合うことが必要ということになる。

(貼り付けはじめ)

リベラリズムは急進的にならねばならない(Liberalism Must Get Radical

-かつては攻撃対象であった「エスタブリッシュメント(the establishment)」のイデオロギーとなった。それがリベラリズムは敗北しつつある理由だ。

ファリード・ザカリア筆

2026年6月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/26/liberalism-socialism-populism-mamdani-democratic-primary-elections-burnham-revolution-wooldridge/

zohranmandani2026001

ニューヨーク・ブルックリンにて、ニューヨーク市選出の連邦議会候補クレア・バルデス(マムダニが民主党予備選挙で支持した3人の進歩主義派候補の1人)の開票を見守る集会で、ニューヨーク市長ゾーラン・マムダニが演説を行った(2026年6月23日)

大西洋を挟んで起きた最近の2つの出来事が、ある共通の問題を浮き彫りにしている。イギリスでは、威厳あるキア・スターマーの後任首相として有力視されているのがアンディ・バーナムであり、彼は「ビジネスに友好的な社会主義(business-friendly socialism)」を信条に掲げている。一方ニューヨークでは、民主党予備選挙で民主社会主義者が目覚ましい勝利を収めた。これは、急進的な左派勢力が、抗議の声を政治的権力へと転換する道を見出したことを示唆している。

まず断っておくが、左派が一様に社会主義に向かって突き進んでいる訳ではない。ニューヨーク市外の多くの予備選挙では、穏健派の民主党員が勝利を収めている。市外の激戦区の1つでは、退役軍人のケイト・コンリーが圧勝した。しかしながら、ある種のリベラリズムが、その勢いや自信を失いつつあり、自らが代表すると主張する人々とのつながりも希薄になっていることは確かだ。

エイドリアン・ウールドリッジの近著『革命的中道(The Revolutionary Center)』は、啓蒙時代から現代に至るリベラリズムの知的歴史を描いた素晴らしい1冊だが、この本の中で著者は、かつてリベラリズムが政治において最も急進的な勢力であったことを想起させている。当時、それは世襲の特権、独占的権力、検閲、貴族制、聖職者の権威、そして閉鎖的なギルドといったものに挑む存在だった。それは、エスタブリッシュメント側のイデオロギーではなく、むしろエスタブリッシュメントを打ち砕くための「破城槌(battering ram)」のような役割を果たしていた。

今日、リベラリズムは権力と同一視されるようになった。名門大学、財団、メディア機関、大企業、そして官僚機構といった権力中枢と結びついている。ウールドリッジは、こうした状況が2つの深刻な失敗を招いたと主張している。

第一の点は「受動性(passivity)」だ。現代のリベラリズムは、少なくとも1990年代以降、自由市場と自由な個人を称揚してきた。実際には、それは経済活動と私生活の双方で規制を撤廃し、その結果生じる事態を「自由の代償(the price of freedom)」として受け入れることを意味していた。市場においては、これが企業の統合や格差の拡大を野放しにする結果を招いた。私生活においては、リベラルは、特定の行動が社会を破壊しかねないものであると指摘することに躊躇するようになった。

その結果がリベラル的宿命論(liberal fatalism)だ。薬物依存や精神疾患を抱えた人々が街頭で野宿生活を送っていても、リベラルはそれを単なる住宅問題として片付けることが多い。何百万人もの人々が肥満関連の病気に苦しんでいるが、リベラルは、消費者を加工食品中毒に陥らせている企業を追及するよりも、「食品砂漠(food deserts、生鮮食品を入手しにくい地域)」のせいにすることを選びがちだ。ソーシャルメディア企業もまた、消費者の注意を奪い合うという点で同様の手法を採用している。

ウールドリッジは、「リベラル・パターナリズム(父権主義、liberal paternalism)」の復権を提唱している。この言葉は、現代人の耳には耳障りだ。しかし、リベラルな社会とは、個人の権利を尊重すると同時に、個人に責任を求める社会であるべきだ。自由は国家によってのみ脅かされるのではなく、依存症、独占、犯罪、無知、そして何らかへの依存によっても破壊され得るということを理解すべきだ。

これは社会主義を擁護する主張ではない。より真の姿に近いリベラリズムを求める主張だ。リベラル派が市場を支持すべきなのは、市場が強者による支配や格差の拡大を許容するからではなく、真の競争があれば「持たざる者(弱者)」が強者に挑むことが可能になるからだ。健全な市場とは、4社程度の企業が業界をひそかに分割し、弁護士やロビイスト、アルゴリズムを駆使して新規参入者を排除するような市場ではない。新規参入者が台頭し、消費者が選択を行い、労働者が自由に移動し、既存の企業が失敗し得るような市場こそが健全なのである。

ウールドリッジが指摘する第二の失敗は、リベラル派自身の地位に関わる問題であるだけに、より耳の痛い話だ。リベラリズムは「メリトクラシー(meritocracy、能力主義)」を信奉している。歴史的に見れば、これはリベラリズムの最も崇高な理念の1つだった。生まれや人種、カースト、階級ではなく、才能と努力によって人が成功を収めるべきだと主張してきた。しかし時が経つにつれ、能力主義によって選ばれたエリート層は、それ自体が一種の「貴族階級(aristocracy)」へと硬直化してしまった。

リベラル派のエリート層は社会正義を掲げながらも、卒業生の子供を優先的に入学させる「レガシー入試(legacy admissions)」の撤廃にはほとんど何もしようとしない。彼らは貧困層の社会的地位向上を望むが、それが自分たちの住む緑豊かな住宅街への住宅増設を伴うとなれば話は別だ。個人の能力や功績を称賛する一方で、個人の人間性よりも集団的アイデンティティ(group identity)に基づいて人を判断しがちな、巨大な多様性推進の官僚機構(a vast diversity bureaucracy)を作り上げてしまった。

これが最も顕著に表れているのが初等・中等教育の現場である。真にリベラルな政治とは、まず子供を起点に考えるものだ。アメリカの子供たちを置き去りにしながら自らの権力を拡大させるだけの組織―労働組合、官僚機構、教育委員会、大学の学部など―があれば、それらすべてに立ち向かう姿勢が必要だ。

民主社会主義者や右派ポピュリストが支持を広げているのは、まさにこの点においてだ。彼らは、人々が「自分のために戦ってくれる誰か(someone to fight for them)」を求めていることを理解している。彼らが提示する解決策は、時に誤ったものであるかもしれない。左派は階級闘争(class warfare)、保護主義、国家統制を掲げ、右派は保護主義、民族的怨嗟(ethnic resentment)、人種的な過去への郷愁を煽る。しかし、彼らは既得権益に果敢に挑む「アウトサイダー」のように映る。自由が単なる無秩序を意味するように思える世界において、彼らは人々を守る存在として提示される。

リベラリズムが直面する危機を脱する道は、リベラリズムを放棄することではない。その「急進的な精神(radical spirit)」を取り戻すことだ。リベラル派は今一度、独占、世襲による特権、閉鎖的なシステム、そして不公平な仕組みを憎む存在となるべきだ。真の競争、真の能力主義、そして真の機会均護を擁護しなければならない。市場を圧殺する企業権力、内部関係者を保護する政府権力、そして個人の尊厳の代わりに集団的アイデンティティを優先する官僚機構を生み出す文化的権力―これら全てに立ち向かうべきだ。

ウールドリッジが論じるように、「中道」とは単に左派と右派の中間地点にあるものではない。それ自体が独自のやり方で革命的である必要がある。リベラリズムが掲げた偉大な約束は、人々を自由の名の下に放置し、衰退させることではなかった。人々が自らの人生を豊かに花開かせるために必要な手段、ルール、そして責任を与えることこそが、その約束だった。

リベラリズムは、凝り固まった権力に対する反乱として始まった。それが今後も生き残るためには、再びそのような存在へと立ち返るしかない。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

(貼り付け終わり)

(終わり)



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 古村治彦です。

 ジョージア州選出のジョン・オソフ連邦上院議員(民主党)が11月の本選挙に向けた選挙集会で、トランプ大統領の個人秘書ナタリー・ハープの名前を出して、トランプ大統領を揶揄したことで注目が集まっている。トランプ政権側は、オソフ議員を口汚く罵っている。その内容は以下の記事にある。ナタリー・ハープは現在30代半ば(1991年生まれ)の女性だ。ハープは骨肉腫を患い、未承認治療薬を利用して改善した、これは未承認治療を合法化する法律に署名したトランプ大統領のおかげだという内容を2019年にフォックス・ニューズに出演して述べたことで、トランプ大統領の目に留まり、2020年の共和党全国大会でも演説を行うまでになった。
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ナタリー・ハープ



その後はテレビ局で働いていたが、2024年の大統領選挙でトランプ陣営に参加した。そして、トランプ大統領の個人秘書となった。ハープは、トランプのSNSの発信を手伝い、トランプが後述する内容を代わりに打ち込むということを行っている。また、トランプにとっての最側近の地位にあり、情報を選別して伝える役割を果たしているということだ。下世話になってしまうが、若い女性が世界の最高権力者の近くにいるということは、どうしても色々と勘繰りたくなるものである。以下のイギリス紙『インディペンデント』紙のウェブサイト掲載記事にあるヴィデオ映像を見ると、その「親密さ」がどうしても際立ってしまう。

https://www.independent.co.uk/news/world/americas/us-politics/trump-natalie-harp-new-nickname-b3034437.html←クリックするとページに移動します

 オソフ議員は、「無用な戦争をして、人々の省察を苦しめているのに、トランプはきちんとした仕事をしていない」ということを述べており、これだけならばここまで注目を浴びることはなかった。そこに、若い女性が秘書として親密な関係を持ち、その秘書と遊びまわっているというようなことを述べたために注目を浴びることになった。ホワイトハウス側の口汚い罵倒は、かえって、トランプが実際のそのようになっていることを示しているとも言える。ナタリー・ハープの存在が政治的にどうこうということにはならないだろうが、トランプにとっての「情報の門番」の役割を果たしているというのは気になるところである。このような役割は通常であれば、大統領首席補佐官(White House Chief of Staff)が担うのであるが、スージー・ワイルズ首席補佐官の存在感や影響力が落ちていることがあるのではないかと推測される。もちろん、そこまでのことではなく、ただの埋め草記事程度ということもありうるが。

(貼り付けはじめ)

ナタリー・ハープとは何者か? オソフ上院議員がトランプ大統領の側近を巡り個人的な対立を激化させる(Who is Natalie Harp? Ossoff ignites personal feud over Trump’s aide

ベツィ・クライン、アレハンドラ・ジャラミロ筆Betsy Klein

2026年8月17日

CNN

https://edition.cnn.com/2026/08/17/politics/ossoff-natalie-harp-trump

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連邦議事堂でのジョン・オソフ連邦上院議員(2026年1月)

2028年大統領選挙の有力候補と見なされている民主党の有力議員がドナルド・トランプ大統領の最側近を攻撃したことで個人的な対立が起きた。この対立は、中間選挙の重要な激戦区にも波及する可能性がある。

11月に再選を控えるジョージア州選出のジョン・オソフ連邦上院議員は、アトランタで開かれた選挙集会での演説中、トランプが最高司令官としての務めを本当に果たしたいと考えているのかを激しく問い質す中で、トランプの側近でありながら一般にはあまり知られていない人物の名を挙げた。

オソフは集会で次のように述べた。「空母『リンカーン』の乗組員たちが彼の戦争を戦い、彼が私たちの弾薬や石油の備蓄を無駄に費やしている間、大統領は会議中に居眠りをし、ゴルフをプレーし、株式の売買を行っている」。

オソフ議員は続けて述べた。「彼はこの職務を遂行する気などないのだ。彼が望んでいるのは、自身の舞踏室を建設することや、カタールの首長から贈られた、防備も手薄と思われる『空飛ぶ宮殿』でナタリーと共に旅をすることだ」。ここで言及されたナタリーとは、大統領の個人秘書であるナタリー・ハープのことだ。

オソフのこの批判に対し、聴衆からは歓声が上がり、X上のコメントでも、特にハープの名前を挙げた点に注目が集まった。

月曜日、この民主党上院議員の発言について尋ねられたトランプ大統領は、オソフ議員をコメディアンのキャラクター「ピーウィー・ハーマン(Pee-wee Herman、訳者註:pee-weeとは「とても小さい」「子供向けの」を意味する俗語)」になぞらえ、大統領執務室でCNNのクリステン・ホームズ記者に対し、「(政治などより)他のことをする方がずっといい」と語った。その後、話題をホワイトハウスの建設工事へと転じ、「素晴らしい施設を建設している」と述べるとともに、自身の進めるイースト・ウィング(東棟)のプロジェクトについて、「単なる舞踏室などというものではない」と誇らしげに語った。

ホワイトハウスは以前からオソフ議員の発言を注視しており、月曜日朝には報道担当部門を通じてオソフ議員を激しく非難した。

ホワイトハウスのコミュニケーション・ディレクターを務めるスティーヴン・チャンはソーシャルメディアへの投稿で、「ジョン・ジャックオフ(Jon Jackoff、訳者註:jackoffは男性の示威行為を示す卑俗n表現)は、政界きっての『カック(cuck、訳者註:妻を他の男性に寝取られた男性の意味。頼りない男性、意志薄弱な男性を指す言葉)』な負け犬に違いない。国のために尽くす勤勉な人々を貶めるのではなく、ジョンは自らの魂の奥底を見つめ直し、なぜ自分がこの国を憎む惨めな人間なのかを自問すべきだ」と書いた。

ホワイトハウス報道官デイヴィス・イングルは、オソフ議員を「バラク・オバマのコスプレをした、見ていて痛々しい、女々しい演劇少年(cringeworthy, feminine theatre kid cosplaying as Barack Obama)」であり、「軽量級の敗者(lightweight loser)」だと評した。

これらの罵倒は、ホワイトハウスがオソフ議員をいかに注視しているかを浮き彫りにしている。オソフ議員は中間選挙を「汚職、生活費の高騰、そして失敗に終わった世界的なリーダーシップ」に対する信任投票と位置づけており、2028年の大統領選挙への出馬の可能性も取り沙汰されているからだ。

オソフ議員は再選を目指し、激戦州(パープル・ステート)であるジョージア州において、トランプの支持を受け、また親密な関係にあるマイク・コリンズ連邦下院議員と対決する。6月のFOXニューズの世論調査では、ジョージア州の登録有権者の間でオソフ議員がコリンズ議員を13ポイントリードしていたが、両党の選挙ストラティジストたちは、今後数カ月の間に接戦になると見ている。

オソフ議員によるトランプ大統領への挑発行為が、ソーシャルメディア上での反論以外の反応―例えばコリンズ議員への資金援助の強化など―を引き出すかどうかは、現時点では不明だ。計画に詳しい2人の人物によると、トランプは自身の政治資金管理団体(PAC)である「MAGA Inc.」を通じて、今後の選挙戦で使用する4億ドルの資金を確保しており、数週間以内に数百万ドル規模の資金を投入することをすでに承認しているということだ。

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ワシントンDCのイースト・ポトマック・パークにあるゴルフ場を視察するドナルド・トランプ大統領とダグ・バーガム内務長官に同行するホワイトハウス補佐官ナタリー・ハープ(中央)(2026年6月28日)

この出来事を契機にしてハープへの注目も再び高まった。ハープは、週末のマール・ア・ラーゴやニュージャージー州ベッドミンスターのゴルフクラブへの移動に頻繁に同行するなど、大統領から最も信頼される個人補佐官の1人であり、そして情報源として頭角を現している。イランからの脅威を受けてトランプがエアフォース・ワンからこっそり抜け出し、より小型の航空機に乗り換えた際も、同行したごく少数の側近の中に彼女の姿があった。

ハープは、トランプにとって情報の「門番(gatekeeper)」のような役割を担うようになっている。彼女が大統領の目に留まったのは2019年のことだ。Foxニューズのインタヴューで、骨肉腫を患いながらも生命の危機に瀕する事態を乗り越えた自身の経験を語り、その生還はトランプの「試す権利(訳者註:未承認の治療薬を試験的に使用する権利)」政策のおかげだと述べたことがきっかけだった。

「私はもう、がんで死ぬことはない。トランプ大統領のおかげで、がんと共に生きている」と彼女は番組「フォックス・アンド・フレンズ」に出演して語った。この出演を機に、「信仰と自由(Faith and Freedom)」会議や2020年の共和党全国大会で登壇する機会を得て、さらにワン・アメリカ・ニューズ・ネットワーク(OANN)での役割も担うようになり、トランプを支持・擁護する人物としての地位を確固たるものにした。そして2022年には、大統領の個人秘書として働き始めた。

『ニューヨーク・タイムズ』紙の報道によると、ハープは2023年にトランプへ称賛や個人的な内容を含む手紙を多数送り、周囲の人々を「動揺(unnerved)」させたということだ(ニューヨーク・タイムズの報道によれば、ある手紙には「私にとって重要なのはあなただけ」、別の手紙には「あなたに喜びをもたらしたい」と記されていた)。

現在、ハープはプリンターを携えてトランプに随行しており、大統領はソーシャルメディアへの投稿やテキストメッセージの多くを口述し、ハープが打ち込んでいる。こうした「親密さ(proximity)」が、彼女に影響力を持つ地位(a position of influence)をもたらしているのだ。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理

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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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 古村治彦です。

 ドナルド・トランプ大統領の目玉政策に高関税政策がある。輸入品に対して高関税をかけることで国内での生産を促すというものだ。保護主義的政策である。ただ、関税の影響を受けるのは国内の消費者たちもそうである。上乗せされた分は消費者が支払うことになる。海外の生産者たちは価格上昇による売り上げの減少によって被害を受けるが、消費者たちは関税分を負担することになる。アメリカの生産能力が下がっている現状では、輸入を大きく削減することはできず、結果として消費者の支払いが増えることになる。

 トランプ関税について、アメリカ国内では連邦最高裁判所が無効の判決を下した。これによってなくなるはずであるが、トランプ政権は何とかして高関税政策を続けたい。そのために法律の細かい条文を持ち出してきて何とかしようとしている。それが「強制労働(forced labor)」だ。下記論考の著者ファリード・ザカリアは次のように書いている。以下に引用する。

(引用貼り付けはじめ)

トランプ政権は、カンボジアや中国、ノルウェー、日本、オーストラリアに至るまで、あらゆる国が強制労働によって製造された製品を自国市場から排除できておらず、その不作為がアメリカの通商に悪影響を及ぼしていると主張した。この主張はあまりにも明白なこじつけであり、かつ対象範囲も広すぎる(スウェーデンがカンボジアと同列に扱われるのか?)ため、その意図は明らかだ。これはほぼ間違いなく、トランプに不利な最高裁判決の精神を骨抜きにするための法的口実をホワイトハウスが必要としたために考え出されたものだろう。

(引用貼り付け終わり)

 このような事実がない、もしくはあってもその割合が相当小さいのに、難癖をつける形で「お前たちは強制労働をやっているだろう、だから高い関税をかけて制裁してやる」という形で、高関税政策を続けようとしている。事実ではないことを政策の理由にするということは逸脱行為であるし、非常に危険だ。でっち上げで他国を制裁するという形で、実は一般国民に影響を与えるということは不誠実ということになる。不誠実な政策決定を実行しなければならない官僚たちも気の毒であり、こうした人々は被害者ということになる。高関税制度自体は政策として実行されてきた歴史があり、適切なタイミングで、十分な準備の下に実行されることは間違いではない。問題は思いつき、行き当たりばったりで実行されることである。アメリカの政策の失敗は世界に大きな影響を与えることになる。

(貼り付けはじめ)

トランプの新たな関税計画に潜む不誠実(The Dishonesty Inside Trump’s New Tariff Plan

-関税を存続させるために連邦機関は虚偽の内容を証明するよう命じられている。

ファリード・ザカリア筆

2026年7月31日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/07/31/trump-tariffs-global-trade-dishonest-lie-economics-manufacturing-aluminum/

donaldtrump20260727001

ミシガン州へ向かう大統領専用機「エアフォース・ワン」の機内で発言するドナルド・トランプ米大統領(7月27日)

アメリカ連邦最高裁判所がドナルド・トランプ大統領の関税への執着に終止符を打ったと考えているならばそれは間違いだ。連邦最高裁は2026年2月、世界中のほぼ全ての国からの輸入品に課税する大統領の広範な「解放の日(Liberation Day)」関税について、大統領にはそのような非常事態権限がないとして無効と判断した。この判決に対しトランプ大統領は、極めて異例かつ不明瞭で、場合によっては違法ともなり得る手段を法律の中に探し求め、極めて類似した関税を復活させようとしている。

まず導入されたのは、一時的な世界一律関税だった。その期限が切れると、政権は不公正な貿易慣行を理由に、60の経済圏(国・地域数にして80カ国以上)を対象として10〜12.5%の関税を課した。カナダに対しては、1930年のスムート・ホーリー関税法第338条という、それまで一度も発動されたことのない条項を持ち出した。

これら広範な新関税の根拠として、ここ数カ月の間に突如として持ち出されたのが「強制労働(forced labor)」の疑いだ。トランプ政権は、カンボジアや中国、ノルウェー、日本、オーストラリアに至るまで、あらゆる国が強制労働によって製造された製品を自国市場から排除できておらず、その不作為がアメリカの通商に悪影響を及ぼしていると主張した。この主張はあまりにも明白なこじつけであり、かつ対象範囲も広すぎる(スウェーデンがカンボジアと同列に扱われるのか?)ため、その意図は明らかだ。これはほぼ間違いなく、トランプに不利な最高裁判決の精神を骨抜きにするための法的口実をホワイトハウスが必要としたために考え出されたものだろう。

これは単なる政治的な印象操作の域を超えている。トランプ大統領はアメリカ政府に対し、事実ではないと知りながら、ある事柄を事実として正式に認定するよう命じているように見える。各機関は調査結果を公表し、法的な論拠を構築し、そして最高裁の判断を回避するという明白な目的のために捏造された虚偽に対して、アメリカという国家の権威を付与しなければならない状況になっている。組織の腐敗とはこのようにして進む。まず真実を曲げるよう求められ、次に嘘を事実だと証明するよう求められる。やがて嘘が日常化し、誰もそれを異常だと思わなくなる。それは、ジョージ・オーウェルが描いた世界へと続く道である。

ちなみに、「世界奴隷制指数(Global Slavery Index)」を作成している人権団体「ウォーク・フリー(Walk Free)」の推計によれば、アメリカは年間1696億ドル相当の強制労働によって製造された疑いのある製品を輸入しており、これはG20諸国の中で圧倒的に多い数字となっている。もちろん、だからといってアメリカの取り締まり体制が、トランプが標的としたあらゆる国のそれよりも劣っていると証明されてはいない。しかし、それによってトランプ政権の道徳的姿勢は、ただでさえ不条理なものが、さらに不条理なものに見えてくる。

新たなデータが次々と明らかになるにつれ、関税に反対する経済的な根拠は日増しに強まっている。ジョー・バイデン政権下で急増し、2024年9月には年率換算で約2500億ドルのピークに達した製造業関連の建設支出は、今年5月までに約1750億ドルへと減少した。トランプの再登板以来、製造業の雇用は約7万5000人分も減少している。工場生産高は増加したが、その伸びは先端製造業や人工知能(AI)分野に集中しており、その多くはトランプの大統領就任前に計画された投資を反映したもので、関税とはほとんど関係がない。

数カ月前に全米商工会議所が取り上げたグレッグ・フレーリーの例を見てみよう。彼は、アリゾナ州で民間航空機向けのアルミニウム部品を製造する中小企業「FALCO」の経営に携わっている。FALCOは、トランプが支援を公言している「アメリカ人労働者を雇用するアメリカの工場」という、まさにその典型的な企業だ。

FALCOのアルミニウム調達コストは72%上昇した。FALCOは単純にアメリカ産金属を購入する訳にはいかない。全米商工会議所によると、国内生産はアメリカの需要の約半分を賄うにとどまり、その生産量の多くは市場に流通していないからだ。そのため、FALCOはアルミニウムを輸入し続け、関税を支払い、その損失を自社で負担せざるを得ない状況だ。フレーリーによれば、FALCOは採用の凍結や事業拡大の延期を行い、自然減による人員の2割削減を容認し、手元資金を取り崩すとともに、顧客への請求に「関税追加料金」を上乗せするなどの対応を取っている。

その一方で、いわゆる「解放の日(Liberation Day)」の混乱後も、トランプは輸入アルミニウムへの関税を50%に引き上げ、最近ではアメリカに製錬所を建設する生産者に対して割引を提示した。しかし、世界最大級のアルミニウム生産者であるリオ・ティントは即座にこれを拒否した。つまり、この関税政策は「アメリカの製造業者のコスト増(higher costs for an American manufacturer)」「雇用の減少と投資の縮小(fewer jobs and less investment)」「誘致を狙った外国生産者による新規製錬所建設の不実現(no new smelter from the foreign producer it was meant to entice)」という、三重の悪結果をもたらしたのです。

その論理は本末転倒になっている。アルミニウム製錬は、アメリカのアルミニウム関連雇用のごく一部を占めるに過ぎない。雇用の大半は、リサイクル部門や、金属を航空機部品、自動車、缶、機械、建材などに加工する中流・下流工程の産業が生み出している。トランプ大統領は、より多くの雇用を支え、アルミニウムに依存するはるかに大きな産業基盤に課税することで、上流工程のほんの一部分を保護しようとしているのだ。

80年にわたり、アメリカは市場と貿易の開放に向けて世界を主導してきた。しかし、トランプはわずか2年足らずの間に、アメリカを事実上、最も保護主義的な主要先進国へと変貌させた。その結果もたらされたのは、製造業の復興ではない。物価の上昇、投資の低迷、製造業雇用の減少、そして失敗に終わった経済信条を擁護するために、虚偽を公式な政策とすることさえ厭わない政府の姿だ。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

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