古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。X accountは、@Harryfurumura です。ブログ維持のために、著作のお買い上げもよろしくお願いします。

2026年08月

 古村治彦です。

 人間は愚かだ。必ず間違う。必ず失敗する。どんな大天才でも凡才でも、天皇だろうが、国王だろうが、教祖だろうが、法王だろうが、首相だろうが、国会議員だろうが、大学者だろうが、高級官僚だろうが、天才経営者だろうが、間違うし、失敗する。ここで問題になってくるのは、失敗や間違いをした後だ.素直に認めて、どこをどのように間違ったか、失敗したかを明らかにするということは言うのは簡単だが、実際にじっこうすることはかなり難しい。権威や地位のある人々にとっては特にそうだ。無誤謬性(間違わないこと)が基礎になっている場合には権威や地位を失うのではないかという懸念から失敗や間違いを糊塗したり、隠蔽したり、強弁したりということが起きる。「謝ったら負け」という言葉を耳にすることがあるが、そのような状態になる。官僚や政治家、学者にその傾向が強い。

 スティーヴン・M・ウォルトの下記論考は、失敗や誤り、間違いが明らかになった後で、人々はどのような行動を取り、発言をするかということを分析している興味深い内容だ。大きく分けると5つになるようだ。つまり、「(1)「私のせいではない。誤って誘導されたのだ」(1: “It’s Not My Fault; I Was Misled.”)、(2)「私の素晴らしい計画が計画通りに正確に実行されなかった」(2: “My Brilliant Plan Wasn’t Implemented Correctly.”)、(3)「歴史が私の主張の正しさを証明してくれるだろう」(3: “History Will Vindicate Me.”)、(4)「私は間違っていなかった。ただ、私たちはもっと激しく戦う必要があるのだ!」(4: “I Wasn’t Wrong; We Just Need to Fight Harder!”)、(5)「不平を言わず、弁解もせず、二度と言及しない」(5: “Never Complain, Never Explain, Never Mention It Again.”)」ということだ。私たちの身近でもこれらの言い訳の分類に入る言い訳を聞いたことがあるのではないだろうか。失敗や間違いを絶対に認めないという人もいるだろうが。

 イラン戦争に関しては、戦争の終わりが見えず、アメリカに戦争の出口の糸口がない中で、苦境に立っている。そうした中で、ドナルド・トランプ大統領は強気の発言を続けている。もちろん、「失敗した」と認めることは難しいだろうが、彼の融通無碍さであれば、素直に「失敗した」と認めて、国民と世界に向けて謝るということをすれば、人気は少しア回復するかもしれない。しかし、トランプであっても、それはできない。それほどに失敗や間違いを認めることは難しい。

(貼り付けはじめ)

良くない助言に対する非難をどのように免れるか(How to Escape Blame for Bad Advice)

-重要な戦略的判断を誤ったとしても責任を避ける方法がある。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2026年6月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/09/iran-advice-blame-accountability-escape/

donaldtrumpmarcorubio2025001

ワシントンDCのホワイトハウスにある「ステート・ダイニング・ルーム(公式晩餐会室)」で開かれた「アンティファ(Antifa)」に関する円卓会議でドナルド・トランプ大統領の耳元で言葉を交わすマルコ・ルビオ米国務長官(2025年10月8日)

政治家たちが自らの誤りを認めることに消極的であることは周知の事実だが、国際政治を研究し、時事問題について論評し、時には実行すべきことについて助言を行う私たちのような人間はどうだろうか? 誰もが過ちを犯す可能性を持ち、予測や提言を行う以上、時には判断を誤ることも避けられない。もしある専門家が不運にも(あるいは単に国際政治に関する疑わしい信念に固執していたために)誤った見解を述べ、それが政府の要人に採用されて深刻な悪影響を招いてしまったとしたら、その専門家はどう振る舞うべきだろうか?

前回のコラムで私は、ドナルド・トランプ米大統領がイランとの開戦という大きな過ちを犯したことを素直に認めれば、トランプ自身にとっても、アメリカ全体にとっても、そして世界にとっても有益だろうと述べた。しかし、繰り返し開戦を訴え、戦争は短期間で低コストに済み、多大な利益をもたらすと説くことで、その過ちへの道筋をつけた人々についてはどう考えればよいのか? 私がここで彼らにさらなる恥をかかせようとしているのではない(私が何もしなくても、事態そのものが彼らの過ちを浮き彫りにしている)。むしろ、重要な戦略的問題において判断を誤った後、どのような対応があり得るのかを考察したい。

もちろん、自らの誤りが明らかになった際の最も率直な対応は、その過ちを公に認め、そこから教訓を得ようとすることだ。私自身、過去に何度かそうした試みを行ってきたが、自身の過ちを認めるという点でどれほど成功したかについては、読者の皆様の判断に委ねたい。こうした姿勢をとったのは私だけではない。例えば、ジャーナリストのアンドリュー・サリヴァンは、2003年のイラク侵攻を支持したことが誤りであったという趣旨の長文を書いた。『ニューヨーク・タイムズ』紙の元編集主幹ビル・ケラーも、ニューヨーク・タイムズによる開戦に向けた報道姿勢について、ある種の「自己批判(mea culpa)」を行った。著名な「リベラル・ホーク(liberal hawks、介入主義的なリベラル)」であるアン・マリー・スローターも同様だ。彼女は後に、侵攻は不必要かつ無謀であると警告していた人々の声にもっと耳を傾けるべきだったと認めた。

自分の過ちを認めることには多くの利点がある。誠実さを保てるだけでなく、他者がその失敗から学ぶ助けにもなるし、何より正直かつ現実的な姿勢を示すことで、かえって周囲からの尊敬を集めることさえあるからだ。こうした利点を考えれば、事態が予想通りに進まなかった際、より多くの評論家や政治アナリストがこの道を選ばないというのは、少々不可解に思う。その代わりに彼らは、誤った助言をしたことの責任を回避するための「手段トップ5」のいずれか(あるいは複数)に頼る。

(1)「私のせいではない。誤って誘導されたのだ」(1: “It’s Not My Fault; I Was Misled.”)

隠せない失敗を犯したものの、自分のミスを認めたくない場合、他者から提供された不正確な情報のせいにすることは明白な戦術だ。典型的な例として、イラク侵攻への支持を「不正確な諜報情報(faulty intelligence)」のせいにした多くの人々が挙げられる。当時、イラクが大量破壊兵器を多数保有し、核兵器の開発を積極的に進めているといった主張がなされていた。しかし、こうした弁明は往々にして不誠実だ。なぜなら、開戦前のイラクに関する諜報情報が、戦争を正当化するために意図的に歪められていたことを示す証拠が少なからず存在したからだ。それを信じることを選んだのは、あくまで自分自身の責任だ。イランとの戦争について同様の主張をする人はまだ見かけないが、そうなるのも時間の問題だろう。

(2)「私の素晴らしい計画が計画通りに正確に実行されなかった」(2: “My Brilliant Plan Wasn’t Implemented Correctly.”)

責任を回避するもう1つの一般的な方法は、自分の提言は正しかったものの、担当者がそれを適切に実行できなかったと主張することだ。この言い訳(alibi)には長い歴史がある。ジョン・F・ケネディ大統領が「勝利には千人の父がいるが、敗北は孤児である(victory has a thousand fathers and defeat is an orphan、勝利の功績は多くの人が主張するが、敗北の責任は誰も負おうとしない)」と嘆いた言葉にもその傾向が表れている。実際、敗北の後には決まってスケープゴート探しが行われ、戦争を支持していた人々が「どうすれば勝てたか」という持論を展開するものだ。しかも、この主張は「もっと有能な指揮官がいれば」「別の戦略をとっていれば」「もう少し運が良ければ成功していただろう」といった、証明不可能な反事実(counterfactuals)に基づいているため、完全に反証することができない。これほど多くの人がこの言い訳を使うのも無理はない。

(3)「歴史が私の主張の正しさを証明してくれるだろう」(3: “History Will Vindicate Me.”)

責任を回避するためのもう1つの古くからの手法は、今日では大失敗に見える事態も、やがては「天才的な一手(a stroke of genius)」として称賛されるだろうと主張することだ。前述の2番目の手法と同様、こうした主張は反証が難しいため好まれる。十分な時間を待てば状況はいずれ好転するだろうし、そうなれば、その惨状を招いた張本人たちが手柄(credit)を主張し、自分たちは最初から正しかったのだと言い張ることができるからだ。例えば、イランの現体制は永遠には続かない。もし将来、より好ましい方向へ体制が変化すれば、現在の戦争を声高に求めた人々は(もし彼らがまだ存命であれば)、自分たちの助言に従わなければそのような変化は決して起こらなかったはずだと間違いなく主張するだろう。

この論法のヴァリエーションとして、「現状がいかに悪くとも、何もしなければ事態はさらに悪化していただろう」と主張するものがある。この種の議論は、「今の戦争がなければ、イランは(いずれ)核兵器を手にしていただろう」という決まり文句によく見られる。しかし、以下の事実は無視されている。すなわち、アメリカの情報機関は、テヘラン(イラン政府)が過去20年間にわたり積極的な核兵器開発計画を持っていなかったと繰り返し結論付けていること、トランプが2018年に破棄した核合意によってイランの核兵器保有への道が大幅に断たれていたこと、そしてイスラエルの指導者たちが30年にわたって「イランが核兵器を手にする寸前だ」と警告し続けてきたものの、その予測が当たったことは一度もないということだ。

(4)「私は間違っていなかった。ただ、私たちはもっと激しく戦う必要があるのだ!」(4: “I Wasn’t Wrong; We Just Need to Fight Harder!”)

戦争を主張したもののうまくいかなかった場合、自説を曲げずに(文字通り「銃を構えたまま」)強硬姿勢を貫き、事態を激化させ、決意を固め、当初の方針を維持することこそが必要だと主張する方法もある。これは、ウクライナへの初期侵攻が失敗した際にロシアのウラジーミル・プーティン大統領がとった対応であり、今日、ブレット・スティーヴンスのような戦争支持派のコラムニストたちがイランに関して主張し続けていることでもある。これに付随する主張として、たとえ開戦の当初の判断が軽率だったとしても、今や私たちの「信頼性(credibility)」が懸かっている以上、勝利のためにあらゆる手段を講じるべきだというものがある。こうした考え方をする人々は、往々にして開戦を正当化した際と同じ論拠に頼る。すなわち、敗北を認めれば破滅的な結果を招くとか、敵は追い詰められているとか、あと少しの時間と圧力をかければ輝かしい勝利を収められるといった主張だ。そして、紳士淑女の皆さん、これこそが「終わりのない戦争(forever wars)」が生まれる仕組みなのだ。

(5)「不平を言わず、弁解もせず、二度と言及しない」(5: “Never Complain, Never Explain, Never Mention It Again.”)

最後に、失態を演じてしまった専門家たちは、イギリスのベンジャミン・ディズレーリ首相の言葉とされる「不平を言わず、弁解もせず(Never complain, never explain)」という助言に従うこともできる。自分の過ちを認めたり、こじつけの言い訳をしたりする代わりに、単に「なかったこと」にし、失言に飛びつく批判者たちを無視して、そのまま先へ進む。著名なシンクタンクや有力メディアで安泰な地位(あるいは立派な大学での終身在職権)を確保しているなら、自分の間違いを認めたり、それについて思い悩んだりする必要はほとんどない。確かに、過去の過ちを認めようとしない態度は決して称賛されるべきものではないし、なぜ大きな間違いが起きたのかを私たちが理解する助けにもならない。しかし、現代の大衆の記憶は長く続かない。集団的な記憶喪失(collective amnesia)を当てにすれば、誤った予測を繰り返す専門家(や元政府高官)は、自らの助言がどのような結果をもたらしたかにかかわらず、その地位や影響力を維持できる。

不完全な点はあっても、私は依然として、対立する見解が自由に表明される「アイデアの市場(marketplace of ideas)」こそが、強制された思想の正統性よりも優れていると確信している。だからこそ、多くの人々が外交政策について深く考え、検討すべきアイデアを提示してくれることを望んでいる。しかし、そうした貢献の質を時間の経過とともに評価し、誰が正確で有益な助言をする傾向があり、誰の処方箋が事態を悪化させる傾向があるのか​​を見極めることができれば、そのプロセスはよりうまく機能するだろう。たとえ誤りを犯しがちな専門家が自分の間違いを認めたがらなくても、こうした評価の視点を持っていれば、彼らが間違いを犯した後に自身の評判を守ろうとして起こす「煙幕(dust-kicking)」を見抜き、誰の助言を受け入れるべきかを判断する助けになるはずだ。

自国の外交政策のあり方を提言する仕事に携わっている人々への助言としては、自分の過ちを素直に認めることを勧めたい。マーク・トウェインの賢明な言葉を借りれば、「正しいことをしなさい。そうすれば、ある人々は喜び、残りの人々は驚くでしょう(Do the right thing. It will gratify some people and astonish the rest)」ということだ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ウォルトは現代世界を読み解くために不可欠な主要概念を解説する5つのパートを持つニューズレター・マスタークラス『新しい地政学(The New Geopolitics)』の著者。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.social、Xアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)



sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 イラン戦争はアメリカとイスラエルの失敗(敗北)という評価で定まっている。そのために犠牲になった人々のことを思うとやりきれない気持ちになり、ご冥福をお祈りすることしかできない。人間はなんと愚かであろうかということを認識するとともに、ドナルド・トランプとベンヤミン・ネタニヤフの誤った判断に関しては、政治指導者としてそれ相応の責任を負わせることが必要だ。

 今回のイラン戦争に関して中国は表舞台で目立った活動はしていない。米中首脳会談やイランのアッバース・アラグチ外相の訪中があり、そこでイラン戦争について議論されたことはあるだろうし、アメリカとイランによる和平交渉実現には、パキスタンが仲介国として大きな役割を果たしたが、同時に裏方として中国がサポートをしたことは知られている。
middleeastcountrieschinausrussiarelations001

 また、アメリカがイラン戦争で失敗することで、相対的に中国が成功を収めることになっている。それは、中東地域におけるアメリカの存在感と影響力が低下しており、イラン戦争がそれに拍車をかけることになっているからだ。中東地域はイランを除いて、親米の国々ばかりであり、石油取引は米ドルのみで行うというペトロダラー体制によってウィンウィン関係になっていた。しかし、世界経済で少しずつであるが「脱ドル化(dedollarization)」の動きが始まっている。サウジアラビアは中国向けの石油取引で人民元での取引を行うようになっているのはその一例だ。

 下記論考にある通り、中国は「棚ぼた(windfall)」で相対的な成功を収めている。そして、イラン戦争は、国際政治の構造に大きな影響を与える。それは、アメリカへの信頼性の低下によって、アメリカの世界支配の終焉を早めるということになる。アメリカとイスラエルが大規模攻撃を行ったことで始まったイラン戦争であり、和平となるためには、アメリカとイスラエルがイランの提示する条件を受け入れることが基本となる。もちろん核開発に関しては国際的に受け入れがたいものはあるが、賠償やホルムズ海峡の管理については、イランの条件を受け入れるべきということになる。アメリカはイランに対して、再度の大規模攻撃がしにくい状況であり、イラン側としてはある程度交渉を引き延ばして、アメリカの苦境を長引かせることも可能となる。そうなると、アメリカへの信頼性も揺らぎ、同盟関係が変化していくことになる。そうなれば、相対的に中国の存在感と信頼性が高まることになる。

 私はトランプ大統領を「アメリカの世界支配を終わらせる墓掘り人」と表現したことがある。しかし、それは、アメリカの内向き志向をさらに強めるという意味であった。まさか、海外への介入で大きな失敗をして、アメリカの衰退を加速させる役割を果たすとは思っていなかった。しかし、現実にはトランプはそのような役割を果たしている。「敵に塩を送る」どころではない、利敵行為ということになる。

(貼り付けはじめ)

イラン戦争は中国への「贈り物」だ(The Iran War Is a Gift to China)

-一発の銃弾も撃つことなく、中国は湾岸地域における行動の自由を拡大し、自国産業の促進と新たな信頼を手に入れた。

ファリード・ザカリア筆

2026年7月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/07/17/iran-war-china-benefit-united-states-energy-economics-geopolitics-trump-xi/

xijinpingaiworldconference20260717001

北京のショッピングモールの屋外大型スクリーンに映し出された世界人工知能大会の開会式で演説する中国の習近平国家主席(7月17日)

イランとの戦闘が激化と沈静化(blows un and cools down)を繰り返す中、1つの傾向が明らかになっている。それは、この紛争から最大の利益を得ているのが中国ということだ。

中国は一発の銃弾を撃つ必要もなく、巨額の資金を投じる必要もなく、政治的資本を費やす必要なかった。しかし、過去30年間でどの危機よりも多くのものをこの事態から得ている。この紛争は、中国が長年掲げてきた3つの目標の実現を加速させた。すなわち、アメリカへの依存度が低い中東地域の実現、中国の重要技術への依存度が高い世界、そして真剣かつ安定した世界大国としての中国の評価の確立(a Middle East less dependent on America; a world more dependent on critical Chinese technology; and a reputation for Beijing as a serious and steady world power)だ。

中国政府は、中東地域における軍事的な安全保障の保証者としてアメリカに取って代わろうとはしていない。そうした役割には多大なコストを伴う関与が必要だからだ。中国の狙いはもっと単純かつ巧妙なものだ。それは、ペルシア湾岸諸国をアメリカの影響圏からある程度引き離すことにある。そして、ドナルド・トランプ大統領が、中国の習近平国家主席のためにその役割の多くを担ってくれている。

アメリカのペルシア湾岸の同盟諸国は、アメリカが混乱したやり方でこの戦争を遂行し、現地の都市やインフラ、経済に及ぶ被害をほとんど顧みない様子を目の当たりにしてきた。現在、ペルシア湾岸地域は2つの陣営に分かれつつある。アラブ首長国連邦(UAE)はイスラエルやアメリカとの関係を深めている。しかし、サウジアラビアを筆頭に、カタール、オマーン、さらにはイラクやトルコを含むより大きなグループは、バランスを取ることで長期的な安全を確保しようとするだろう。つまり、アメリカとの関係を維持しつつ、イランとの対話や中国との関係改善も図るということである。

これこそが、北京が志向してきた地域秩序そのものだ。2023年、中国はサウジアラビアとイランの国交正常化を仲介した。それ以来、サウジアラビアはアメリカ主導のデータセンターや半導体関連のプロジェクトへの参加を見送ってきた。サウジアラビアは中国製のミサイルやドローンを購入し、中国海軍との合同演習を実施したほか、戦闘ドローン「翼竜(Wing Loong)」の現地生産についても検討を進めている。2016年から2025年にかけて、中国から中東地域への防衛関連輸出の80%以上をペルシア湾岸諸国が占めた。アメリカの安全保障の枠組みに取って代わろうとする国は存在しないが、各国は選択肢を求めており、選択肢が増えることはアメリカの影響力を低下させることになる。

中国にとってより大きな成果と言えるのは地形学分野での勝利だ。一見すると、石油の約7割を輸入に頼る中国は、この戦争による最大の敗者の1人になるはずだった。しかし、長年にわたる備えのおかげで、中国はこの衝撃を他国の多くよりも巧みに乗り切った。中国は供給源を多角化し、世界最大級と推定される石油備蓄を構築し、石炭の利用を継続し、原子力発電を拡大するとともに、他の主要国が追随できない規模で経済分野における電化を進めてきた。

現在、中国のエネルギー消費に占める電力の割合は約30%に達しており、これはアメリカやヨーロッパを4割近く上回る水準だ。2024年には、世界で新たに導入された風力および太陽光発電設備の半分以上を中国が占めるまでになった。こうした要因が重なり、中国は戦時中、石油の輸入量を日量約400万バレル削減することができた。

イラン戦争は、中国の重要技術にとって巨大な宣伝の場となっている。世界各国の政府が、太陽光発電、蓄電池、風力タービン、電気自動車(EV)、送電網の整備を進めようとしている。中国は世界の太陽光パネル製造能力の約91%、リチウムイオン電池製造能力の約89%を掌握している。ブルームバーグが追跡調査しているクリーンエネルギー関連技術のほぼ全てにおいて、中国企業が少なくとも70%の製造を担っている。エネルギー供給への不安が長引くほど、世界は中国が支配的な地位にある産業への依存を強めることになるだろう。

また、この戦争は中国の重要な目標である「世界貿易における米ドルの支配力の弱体化(weakening the dollar’s hold over global commerce)」を後押ししている。報道によれば、イランはホルムズ海峡を通過する一部のタンカーに対し、取引を中国の人民元[renminbi](または暗号通貨[cryptocurrency])で決済することを条件に許可を与えた。中国とそのパートナー国は、アメリカの制裁によるリスクを低減するため、人民元建ての貿易を事実上拡大させている。移行は緩やかなものとなるだろうが、米ドル支配からの脱却という傾向は今や明白となっている。

最後に、評判の面での「棚ぼた(windfall)」とも言える利益がある。ドナルド・トランプ政権は、体制転換(regime change)、イランの核開発計画の破棄、弾道ミサイル能力および地域内の代理勢力への支援の終了といった壮大な目標を掲げてこの戦争に臨んだ。しかし、そのいずれも恒久的な成果としては達成できていない。それどころか今や、事態が始まる前から開かれていたホルムズ海峡を単に開放することさえも希望するような状況になっている。

トランプ大統領はこの対立を選び取った結果、数百億ドルを費やし、アメリカの弾薬を浪費し、アジアから軍事資産を転用し、同盟諸国を動揺させた。そして、アメリカの圧倒的な力をもってしても、誤った戦略と一貫性のない戦術では悪い結果しか生まないことを露呈させた。

一方、中国の動きは極めて限定的だ。イラン産原油の購入を続け、湾岸諸国との関係を維持しながら、イランの防衛や湾岸地域の警備に伴うコストは回避した。これこそ北京が志向するアプローチであり、劇的な対立を避け、着実に影響力を蓄積していく方法だ。

過去25年間、アメリカが中東地域での3つの大規模な軍事介入で疲弊する一方で、中国は製造業の力、技術力、そして外交関係を蓄積してきた。ワシントンが行動するのに対し、北京は機会を待つという姿勢を取った。もちろん、中国もエネルギー価格の高騰、サプライチェインの混乱、世界的な需要の減退といった形で、この対立による代償を支払っている。

しかし、力とは常に相対的なものだ。アメリカの目標、同盟関係、そして信頼性が受けた損害と比較すれば、中国は優位に立ったと言えるだろう。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

(貼り付け終わり)

(終わり)



sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 イラン戦争は、アメリカの脆弱さと共に、イランの強靭さを明確に示した。長年にわたる経済制裁によって厳しい状況にありながら、アメリカとイスラエルによる大規模攻撃に寄ってもイランは崩れなかった。もちろん、国内の締め付け、弾圧があることは承知している。そのために国民が声を上げられない、行動できないということはあるだろう。しかし、アメリカとイスラエルが事前に期待していた、イラン国内での反政府運動の発生や民衆蜂起は起きなかった。イラン国民は、もちろんイラン政府に対して不満を持っているだろうが、それよりもアメリカとイスラエルへの反撃と政府への支持のためにまとまってしまったようだ。アメリカとイスラエル、特にイスラエルの事前の期待は大きく外れることになった。

 それは、イランが、イスラム体制であると同時に、ペルシア帝国以来の「誇り」を保持して言うことを示している。紀元前550年のアケメネス朝ペルシアが成立した。アケメネス朝ペルシアは世界初の帝国(広大な領土と他民族を支配する中央集権的な政治体制)である。イランでは、イスラム体制になって、それまでの歴史、特にイスラム前の歴史について否定的な評価をして、そのように教育していた時代もあったが、今では、肯定的な評価となっている。イラン国内にはナショナリズムが残っている。その後の歴史では、モンゴルやトルコなどの侵略を受けながらも、独自の言語や文化を守ってきたという誇りがある。
iranhistory001

 「ペルシア以来の歴史」と「イスラム体制」の2つがイランのアイデンティティとなっており、それに対する外部からの攻撃はイラン国民を団結させることになる。そして、どんなに苦しくても、外部勢力に対抗するということになる。それは命がけの行為となる。今回のイラン戦争で亡くなった人々は犠牲者(victims)であるにとどまらず、殉教者(martyr)である。イスラム今日の側面と殉教者であると同時に、ペルシア帝国以来の歴史の殉教者ということになる。こういった分析を『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』で行っている。是非お読みいただきたい。
sekaiwashuukyousensounitotsunyuushita002

 イランは誇り高く、独立を守るということに最上の価値を置いている。そのための犠牲は殉教ということになる。これでは安易に手を出して、攻撃をしてしまうと、大変なことになる。容易に戦争は終わらない。アメリカとイスラエルが敗北を認め、謝罪し、イラン側の条件をのまない限り、戦争は終わらない。そんなことはできないので、ズルズルとなってしまう。アメリカとしては泥沼に引きずり込まれ、ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡封鎖の責任を取らされるということになる。イラン側もあまり条件を吊り上げると、アメリカとイスラエルが嫌気をさして大規模攻撃を行う可能性があるので、出方を注意しなければならない。そのためには中国とロシアと連携し、ドナルド・トランプ政権の意向をうまくくみ取る必要がある。

(貼り付けはじめ)

世界はイランに間違った質問を投げかけ続けている(The World Keeps Asking Iran the Wrong Question)

-イスラム共和国が成立する以前からこの国は常に同じことを望んできた。

アリ・ハシェム筆

2026年5月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/19/iran-politics-strategy-war-sanctions-hormuz/?tpcc=recirc_featured_horizontal051524

過去半世紀にわたり、イランに関する本格的な分析の多くを方向づけてきた問いは、「イスラム共和国は何を求めているのか」というものだった。これは合理的な疑問だが、正しい疑問ではない。イスラム共和国の歴史は47年だが、現代のまとまりある政治的実体としてのイランの歴史は5世紀続いている。この2つを混同したことが、半世紀近くにわたるアメリカの政策の失敗、合意の崩壊、そして現在の形で予測した者がほとんどいなかった戦争を招く結果となった。

より有益な問いは、「イランは何を求めているのか」というものだ。ここで言うイランとは、現在の政府や最高指導者のことではなく、革命よりはるか以前にその戦略的本能が形成され、それ以降のあらゆる体制の変化を生き抜いてきた国家そのもののことだ。サファヴィー朝、ガージャール朝、パラヴィー朝、そしてイスラム共和国は、いずれも同じ地理的・歴史的遺産を基盤として活動してきた。政府は変わっても、その論理は変わらなかった。

イラン高原は西をザグロス山脈、北をアルボルズ山脈に囲まれ、世界でも有​​数の過酷な砂漠によって分断されており、中央アジア、南アジア、中東の結節点に位置している。主要な陸上帝国は全て、この土地に関与しなければならなかった。インド洋への野心を抱く海洋勢力も全て、その南端にある海峡を考慮に入れざるを得なかった。

こうした地理的条件は、歴代の王朝に一貫した教訓をもたらした。それは「内陸部を守るだけでは内陸部を確保できない」ということだ。高原内部に戦略を限定した支配者は、やがてその一部を失うことになった。一方、外へと勢力を広げ、高原を単なる標的(a target)からハブ(hub、拠点)へと変えた支配者こそが、最も長く存続した。

現代において、この論理が最も明確に表れているのがホルムズ海峡だ。世界の石油供給の約5分の1がこの海峡を通過している。2026年のイラン戦争の初期段階でイランが通航制限の動きを見せた際、実際にタンカーが停止させられる前に、エネルギー市場は反応を示した。核兵器を持たず、アメリカに対抗しうる通常戦力も持たない国であっても、その地理的位置ゆえに世界の市場を動かすことができる。これこそが地理的遺産(a geographical inheritance)であり、政府の交代によって崩れ去るものではない。

誰が権力を握ろうとも、イランの戦略的行動を貫く3つの確信がある。

第一の確信は、弱さは他国からの介入を招くという認識である。1813年のグリスタン条約と1828年のトルクメンチャーイ条約により、イランはコーカサス地方の領土を奪われた。1907年の英露協約では、イラン側の意向を無視して勢力圏に分割された。それ以降の歴代政権は、これらの出来事を構造的な警告として捉えてきた。すなわち、抑止力(deterrence)を発揮できない国家は、その主権(sovereignty)を外部から管理されることになるという教訓である。核開発計画、地域的なネットワーク、そしてミサイル戦力といった要素は、ある側面において、いずれもこの警告に対する対応策なのである。

第二の確信は、主権は決して譲歩の対象にはなり得ないという点だ。1890年代初頭のタバコ・ボイコット運動や1951年のアングロ・イラニアン石油会社の国有化は、単発的な出来事ではない。それらは時代を超えて繰り返された、同一の反射的反応であった。1976年、リチャード・ヘルムズ駐イラン米大使がヘンリー・キッシンジャー国務長官に行った報告の中で、この点が的確に表現されている。「核をめぐる緊張が存在するのは、イランが、自国の主権を損ないかねない外部からの干渉を一切容認しようとしないからである」。この一文は、2015年、2021年、そして、2026年に行われた核交渉に関するあらゆる報告書においても、そのまま当てはまるものであった。

そして第三の確信であり、最も一貫して過小評価されてきたのが、イランは自らを単なる「地域大国(a regional power)」とは見なしていないという点である。1979年の革命は、一般的に地域的な文脈―シーア派政治勢力の台頭、湾岸地域の安全保障体制の再編、統治勢力としての政治的イスラムの出現―で語られることが多い。

しかし、その革命がもたらした最も直接的かつ重大な影響は、世界規模のものだった。わずか1年の間に、イランはワシントンにとっての極めて重要な戦略的パートナーという立場から、超大国とは異なる「第三の道(a third path)」を追求する国家へと変貌を遂げた。人質事件は、その後一世代にわたってアメリカの国内政治のあり方を変えた。イラン・イラク戦争には、米ソ超大国やヨーロッパ諸国の大部分の諜報機関や兵器産業が巻き込まれた。イラン製の無人機「シャヘド(Shahed)」は、ヨーロッパでの戦争にまで投入されるに至った。2026年の紛争は世界のエネルギー市場を動かし、複数の海上ルートにおける海運保険に混乱を招き、湾岸地域の石油に依存するあらゆる経済―すなわち世界の大多数の経済―に、戦略の再考を迫ることとなった。最高指導者であったルーホッラー・ホメイニ師は、革命を世界の隅々にまで輸出すると語った。彼は本気だった。

半世紀の隔たりがある2つの発言が、その継続性を如実に物語っている。1つ目は1960年代、イラン秘密警察の中東担当局長モジタバ・パシャイ大佐によるものだ。彼は、シャー(shah、国王)がレバノンの諸政党を支援していた理由をこう説明した。「イラン国内での流血を防ぐためには、地中海東岸において(ナセル主義[Nasserism]という)脅威と戦い、これを封じ込めなければならない」。2つ目は2016年1月、最高指導者アリ・ハメネイ師がシリアやイラクで戦死した兵士の遺族に向けて語った言葉である。「もし彼らが現地へ赴き敵と戦っていなかったら、敵は国内に侵入していただろう。私たちはケルマンシャーやハマダーンで敵と戦わなければならなくなっていただろう」。2つの発言の論理は、両政権の性質は異なっていたとしても、同一である。

外部から見れば、シャーの親欧米的な姿勢はこのパターンから逸脱しているように見えたかもしれない。だが、実際はそうではなかった。彼もまた、イスラム共和国と同様の論理に基づいて核能力の獲得を追求していた。シャーはイスラエルとの軍事提携も模索した。ワシントンが外部の監視を伴う核の安全保障措置を求めた際、彼がそれに抵抗したのはイデオロギー上の理由からではない。そのような監視を受け入れることは、過去どの時代のイランの統治者も決して容認できなかった「従属的な地位(a subordinate status)」を認めることになってしまうからだった。

同じパターンは現在も見られる。パキスタンでの協議において、最高指導者モジタバ・ハメネイ師は、他者が設定した条件でイランが交渉に応じることはないと同席した当局者たちに明言した。ワシントンとテルアビブは、核開発計画、ミサイル、地域的なネットワークへの圧力といった形で事態を「封じ込める(contained)」ことを意図して2026年の戦争に臨んだ。しかし、イランはその枠組みを拡大させた。軍事的圧力が一定の閾値に達すると、テヘランはホルムズ海峡を封鎖し、対立を世界的な経済危機へと変貌させたのである。ワシントンが「ゲームのルール(the rules of the game)」を定めようとするたびに、テヘランは「競技の場(the playing field)」そのものを変えてしまうのだ。

包括的な制裁、特定の対象を狙った制裁、暗殺作戦、サイバー戦、代理勢力への支援、直接的な軍事行動―これら全てが試みられてきた。しかし、いずれも当初期待されたような戦略的変革をもたらすことはなかった。それどころか、それらは一貫して(この一貫性自体が重要なデータとして扱われるべきだが)事態を加速させる結果を招いた。すなわち、核開発の加速、地域ネットワークの深化、そして政治体制のさらなる強固化である。

2002年の「悪の枢軸」演説(“axis of evil” speech)は、最も明確なケーススタディとなる。911同時多発テロ後の数ヶ月間、テヘラン(イラン政府)はアフガニスタン問題で協力し、アフガニスタンの政治的将来を議論するボン会議に参加し、ワシントンとの間接的な対話ルートを開設した。モハンマド・ハタミ大統領を中心とする改革派陣営は、こうした行動を取ることで、国内政治における現実的なリスクを負った。イラン当局者は、自らが歩み寄りの姿勢を示した以上、相手からの応酬(互恵性[reciprocity])も期待できると考えていた。ロイヤル・ホロウェイ(ロンドン大学)で行った私自身のこの時期に関する研究でも、ジョージ・W・ブッシュ米大統領の演説について、ジャック・ストロー元英外相の表現と同様の証言が一貫して得られた。それは「彼らが冒したリスクに対する裏切り(a kick in the teeth for the risks they had taken)」というものだ。イランのモハンマド・ジャヴァド・ザリフ元外相は後に、わずか数日のうちに「協力の政策(policy of cooperation)」が「対立の政策(policy of confrontation)」に変貌した経緯を語っている。

その後に続いた事態は、構造的に予測可能なものでした。ワシントンの目的は共存ではなく体制転換(regime change)にあるというハメネイ師の確信は、この出来事によって揺らぐどころか、むしろ裏付けられる結果となった。核開発計画は加速し、地域的なネットワークは深化し、抑止の枠組みは拡大した。これは強硬派がその局面を操作したからではなく、協力の申し出が無視された瞬間に、根底にある論理が再び支配的になったからである。

圧力をかけられているイランの行動は、主にイデオロギーに基づくものではなく、戦略的なものだ。イランに対し抑止の枠組みを解体するよう要求することは、イスラム共和国に穏健化(to moderate)を求めている訳ではない。それは、過去5世紀の歴史が「破局を招く条件(the condition from which catastrophe comes)」であると示してきた状況を、イランに受け入れるように迫ることに等しい。いかなるイラン政府もそれを受け入れることはできない。なぜなら、それを受け入れることは、「弱さは介入を招く(Weakness invites intervention)」という根本的な教訓を認めることになるからだ。譲歩(concession)を引き出すための圧力が、かえって阻止しようとしていた行動を誘発している。

キッシンジャーはヴェトナム問題の処理に長年携わった末に、北ヴェトナムが彼自身の想定とは全く異なるもの―すなわち時間、忍耐、そして米国の政治的意志の漸進的な摩耗―のために戦っているのだと結論付けた。テヘランも同じ論理で動いている。イランはこの局面での勝利を目指しているのではない。アメリカが「出口(exit)」を必要とする時が来た際に、存続可能な状態を維持しようとしている。ヴェトナムにおけるキッシンジャーの過ちは、紛争を拡大させたことではなく、相手も自分と同じ「勝利(victory)」の定義を共有していると思い込んだことにあった。ドナルド・トランプ政権も今、同様のディレンマに直面している。国内で正当化できる条件で戦争を終わらせることもできなければ、テヘランが拒否し続けている枠組みなしに撤退することもできない。対立が長引けば長引くほど、その痛みはイランや石油市場、海運、サプライチェイン、そして湾岸地域の安定に依存する経済圏の枠を超えて広がっていく。ホルムズをめぐる問題で打撃を受けるのは、イランだけではない。

核拡散のリスクは現実のものだ。その地域的ネットワークは、実際に暴力を引き起こしてきた。分析上の見解を修正したからといって、こうした懸念が消え去る訳ではない。修正によって変わるのは、それらの懸念に対処するための条件だ。

真の安全保障を保証し、イランを単なる「管理すべき問題(a problem to be managed)」ではなく「正当な抑止の利益を持つ当事者(a party with legitimate deterrence)」として扱い、さらに、歴史的経緯から構造的に受け入れがたい「従属的な地位(subordinate status)」をイランに強いないような取り決めであれば、それは維持される可能性がある。一方、イランが近代史を通じてあらゆる時代に拒絶してきた条件を強いるような取り決めは、どの政府が担当しようともうまくいかないだろう。自国の戦略的論理が禁じていることを実行できるイランの政府など存在しないからだ。

ワシントンが現在直面している困難は、テヘランに対話の相手がいないことではない。依然として、間違った問いを立てていることにある。

※アリ・ハシェム:中東地域における戦争、外交、政治の変革を取材するジャーナリスト・研究者。アルジャジーラの特派員、ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ・イスラム教・西アジア研究センター研究員。Xアカウント:@alihashem

(貼り付け終わり)

(終わり)



sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 19世紀、インド植民地化を進めた大英帝国と南下政策でインド洋を目指したロシア帝国はアフガニスタンをめぐり衝突した。このことをチェスに例えて、「グランド・チェスボード(Grand Chessboard)」、「グレイト・ゲーム(Great Game)」と呼んだ。中央アジアと呼ばれる地域は諸大国の進出を招く地域である。現在もまたそうである。現在は、レアアースをめぐり、アメリカ、中国、EUが進出をしている。
centralasiancountriesmap001

 アメリカやEUは中央アジア5カ国との関係を深めようとしている。中国は一帯一路計画を策定し、ユーラシア大陸全体の協力関係を構築しようとしている。諸大国が狙っているのはレアアースだ。中央アジア諸国はレアアースを多く埋蔵している。レアアースを制する者が21世紀世界を制するということで、諸大国は中央アジアへの進出を進めている。

 しかし、中央アジアに関しては中国に一日(いちじつ)の長がある。中国は多層的な国際的枠組みに中央アジアを組み込んでいる。それが上海協力機構(Shanghai Cooperation Organization、SCO)であり、一対一路構想(the Belt and Road Initiative、BRI)である。また、BRICSにはオブザーバー国としてウズベキスタンとカザフスタンが参加している。
shanghaicooperationorganizationmap101
beltandroadinitiativemap101

 中国は、中央アジア諸国との間で、多層的な国際的枠組みを通じて、多くの分野での協力関係を深化させている。欧米諸国は、「レアアースを中国が支配している」と主張し、警戒し、中国を排除しようと躍起になっているが、それならば、中央アジア諸国にはレアアースや重要な天然資源が多く埋蔵されているということが分かっていたのだから、そのために時間をかけて、努力を傾けて、中央アジア諸国との協力関係を構築してきたのかということになる。欧米諸国が「札束で頬を叩けば尻尾を振ってなびいてくる」という考えでいる場合、中国を出し抜いて中央アジアでの勝負に勝つということは不可能である。

 欧米諸国が遅ればせながら、様々な形で協力関係を構築しようとしている。「●●パートナーシップ協定」というものをいくつも締結している。しかし、既に中国ががっちりと固めている中で、この牙城を崩すことは非常に難しい。中央アジア諸国はロシアとの関係も深いということもポイントになる。21世紀のグレイト・ゲームは今のところ、中国とロシアに軍配が上がりそうである。

(貼り付けはじめ)

中央アジアで新たな「グレイト・ゲーム」が進められている(A New Great Game Is Underway in Central Asia)

-世界の諸大国は重要鉱物を求めて新たな争奪戦を繰り広げている。

ジョヴァンニ・レゴラノ筆

2026年7月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/07/20/great-game-central-asia-rare-earths/?tpcc=recirc_trending062921

talcogoldtajikistan2025001

タジキスタン西部のサリタグ鉱山にある露天掘り現場でタジキスタンと中国の合弁鉱業会社「タルコ・ゴールド(Talco Gold)」の作業員たちがアンティモンを採掘している(2025年8月26日)

2026年2月中旬、アメリカ政府はウズベキスタンとの間で、ウズベキスタンが保有する重要鉱物へのアクセスを拡大するための合意を締結した。アメリカ国際開発金融公社(the U.S. International Development Finance Corp、DFC)とウズベキスタン(中央アジアで最多の人口を擁する国)との間のこの「共同投資枠組み(the Joint Investment Framework)」は、探査、採掘、加工を含む重要鉱物のバリューチェイン全体にわたる投資を優先させることで、両国間の協力を推進することを目指すものである。DFCが「歴史的」と評したこの合意には、将来の鉱物およびインフラ・プロジェクトを担う「アメリカ・ウズベキスタン共同投資持株会社(U.S.-Uzbekistan Joint Investment Holding Co.)」の設立案も盛り込まれた。

この動きは、トランプの政権復帰以来、アメリカが中央アジアの旧ソ連5カ国への働きかけを強め、ロシアが長年支配し、近年では中国が主導的役割を果たそうと躍起になっているこの資源豊富な地域において、アメリカの影響力を拡大しようと取り組んできた成果である。

しかし、中央アジア諸国への接近を図っているのはアメリカだけではない。この地域におけるロシアの伝統的な存在感が中国に取って代わられる形で後退する一方で、欧州連合(European Union、EU)やイギリスもこの地域との関係を強化しており、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)といった湾岸諸国もまた、この分野で重要なビジネス・パートナーシップを築いている。

経済協力開発機構(the Organization for Economic Cooperation and Development、OECD)でグローバル関係・協力担当副局長を務めるカリム・ダウは、19世紀の大半を通じてイギリスとロシアの帝国がこの地域を巡って繰り広げた政治的・外交的対立に言及し、「まるで『グレイト・ゲーム(Great Game)』のようだ」と語った。ダウは「資源確保をめぐる世界的な競争の中で、この地域の鉱物資源を巡る激しい争奪戦が起きている」とも語った。中央アジアは、埋蔵量は豊富ながら未開発のままとなっているレアアース(希土類)をはじめとする重要原材料の争奪戦において、主要な舞台として浮上している。

これらの国々への進出を大きく進めてきた中国は現在、こうした資源の供給および精製の双方において世界を圧倒する存在となっている。例えば、国際エネルギー機関(the International Energy Agency、IEA)の「2025年重要鉱物見通し(2025 critical minerals outlook)」によれば、中国は硫酸マンガンやリン酸といった重要鉱物のサプライチェインを支配している。また、中国は精製分野でも主導的な地位にあり、IEAの報告書で分析された20種類の重要な戦略的鉱物のうち19種類において、平均で約70%の市場シェアを握っている。

こうした状況を背景に、世界の主要経済国は、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタンといった国々が抱える莫大な資源の獲得を競い合っている。OECDによると、中央アジアは世界のマンガン鉱石埋蔵量の39%、クロムの31%、鉛の20%、亜鉛の13%、ティタンの9%、アルミニウムの6%、銅の5%、コバルトの5%、モリブデンの5%を保有している。

カザフスタンは、ヨーロッパ連合(EU)が重要物資と指定した34種類の原材料のうち21種類を輸出可能となっている。キルギスは世界第3位のアンティモン埋蔵量を、ウズベキスタンは世界第11位の銅埋蔵量をそれぞれ有している。ウズベキスタンはすでに、リチウムおよびモリブデンの生産に向けた開発に着手している。

これらの素材は、太陽光パネルや風力タービンから蓄電システムに至る幅広いクリーンエネルギー技術に加え、デジタル技術や防衛技術にとっても不可欠だ。その結果、これらの元素に対する需要は今後大幅に拡大すると見込まれている。例えば、国連貿易開発会議(the United Nations Conference on Trade and Development、UNCTAD)は最近、リチウムと黒鉛の需要が2040年までにそれぞれ353%、131%増加すると予測した。

2026年2月の合意に先立ち、トランプは昨年11月、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの首脳をワシントンに招き、重要鉱物をめぐるパートナーシップについて協議を行った。その後、アメリカは鉱物に関するサミットを開催し、その結果、ウズベキスタンを含む11カ国との間で、重要鉱物の供給に関する初期段階の覚書(memorandums of understanding、MOU)が締結された。

これと並行して、EUも中央アジア地域との関係強化に向けた取り組みを再活性化させた。昨年11月下旬にウズベキスタンで開催された第3回EU・中央アジア経済フォーラムでは、6つの主要な合意が成立した。これには、民間投資を呼び込むための地質データの近代化や、重要原材料の透明性の高いサプライチェイン構築に向けたプロジェクトへの資金提供が含まれる。さらに、中央アジア全域におけるこれらの鉱物の持続可能な採掘開発に向け、EUとヨーロッパ復興開発銀行(the European Bank for Reconstruction and Development、EBRD)との間で300万ユーロ(約340万ドル)規模の協定も結ばれた。

2026年6月には、サウジアラビアとカザフスタンが、鉱業分野での協力強化、鉱物探査や関連技術に関する知見の共有、共同での鉱業投資の促進を目的とした覚書に署名した。一方、ロシアは、自国の勢力圏とみなす中央アジアにおいて、アメリカやEUがレアアースや重要鉱物の確保に向けた動きを強めていることに懸念を表明している。特に、中国も中央アジア地域への関心を高めている中でのこうした動きを警戒している。

ロシアのミハイル・ガルージン外務次官は2026年5月、「ワシントンが重要鉱物やレアアース(希土類)をめぐる協定の締結を強力に推進していることを懸念している」と述べた。「これは単なる経済競争の問題ではなく、ロシアを排除し、私たちの国境のすぐ近くに西側諸国が主導するインフラを構築しようとする試みなのである」。

中央アジア地域の鉱物資源に対する関心の高まりは、一般的に、これらの国々にとって経済成長を促進し、経済の多角化を図る好機と捉えられている。しかし、こうした資源の開発にはいくつかの課題も伴う。 OECDは2026年3月の報告書の中で、「独立以来、地質調査が行われていないことや、旧態依然とした埋蔵量報告システムが使用されていることから、潜在的な投資家は資源の賦存量に関する信頼性の高い最新のデータを入手できずにいる。また、この資源セクターにおける国内国有企業の優位性や、過去に外国の投資家との間で生じた紛争も、投資意欲を削ぐ要因となっている」と指摘した。

OECDは3月の報告書の中で、「独立以来、地質調査が十分に行われてこなかったことや、旧態依然とした埋蔵量報告システムが使用されていることから、潜在的な投資家は資源の賦存量に関する信頼できる最新のデータを入手できずにいる。また、この資源セクターにおける国内国有企業の優位性や、過去に外国投資家との間で生じた紛争も、投資意欲を削ぐ要因となっている」と指摘した。

コンサルティング会社「アウトポスト・ユーラシア(Outpost Eurasia)」の上級アナリストであるアルジャン・メイルハノワは、探査活動の近代化が極めて重要な第一歩であると述べた。メイルハノワは「地質マッピングへの人工知能(AI)の活用やデータのデジタル化といった先端技術の導入において、外国からの技術支援を受けることは、現地の能力を構築しつつ資源管理を改善する助けとなるだろう」と語った。さらに彼女は、外国からの投資には、技術移転や現地での一定程度の加工能力の確立といった「開発上の利益(developmental dividends、ディベロップメンタル・ディビデンド)」が伴うべきだと付け加えた。

中央アジア諸国が直面する重要な課題は、重要鉱物ビジネスが経済成長の原動力となるか、それとも世界の大国や富裕国への依存を永続させるものとなるか、という点にある。「新興国において、重要鉱物の採掘は、コモディティ(commodity、一次産品)への依存を悪化させ、環境破壊を招き、社会経済的な不平等を拡大させる恐れがある」とメイルハノワは指摘する。「投資が資源の採掘のみに集中し続ければ、中央アジアもこうした落とし穴に陥るリスクがある」。

世界各国がこの分野における中国の圧倒的な支配力に対抗しようとする中、中国自身は比較的高いレヴェルの自給自足体制を維持している。しかし、ハーグ研究所(Hague Research Institute)の最近の報告書によれば、中国もまた、特にレアアース(希土類)に関して、差し迫った課題に直面している。

競合する大国による「脱中国(away from China)」的なサプライチェイン再構築の動きに加え、資源の枯渇や世界的な技術競争の激化といった問題にも直面している。こうした課題への解決策の1つとして考えられるのが、中央アジアのような主要な新興地域との間で、安定的かつ戦略的なパートナーシップを確立することである。ハーグ研究所の報告書の執筆者たちは、中国とカザフスタンがウラン採掘で採用した既存のモデルを基盤としつつ、探査・採掘から分離・精製、さらには高度な製造に至るまで、垂直統合型産業(vertically integrated industries)の構築を支援する形で中国が協力できるのではないかと主張している。

この報告書によると、中国のアプローチは、短期的な株主価値の最大化や規制リスクの回避を優先しがちな欧米の資源企業の姿勢とは対照的だ。中国は中央アジア諸国と連携し、採掘から中流工程(加工)、下流工程(最終製品への応用)までを統合した産業モデルを構築する可能性がある。「中国の二国間協定には、技術移転、職業訓練、インフラ投資といった要素が盛り込まれることが多く、協力関係は単なる資源採掘の取引ではなく、開発プロジェクトとして位置づけられている」と報告書は指摘している。

欧米諸国が中国への依存脱却を模索する動きの一環として、トランプ政権は先月フランスで開催されたG7サミットにおいて、重要鉱物を対象とした欧米の貿易圏を構築し、それらの価格に協調的な「価格下限(price floors)」を設けるという提案を再び持ち出した。現在、これらの鉱物は一般的に透明性の低い相対取引(over the counter、OTC)で行われており、その価格は中国の市場価格に連動している。中国が圧倒的な生産シェアを誇るため、中国の価格が世界市場の指標となる傾向がある。

この計画に対し、EU(当局者は貿易圏の将来的なガヴァナンスなど、提案のいくつかの側面について懸念を表明)や、価格規制に警戒感を示す鉱業企業からは慎重な反応が示された。有力企業や鉱業関連団体の中には、価格設定を行うことに反対する意見も出た。サミットの閉幕に際し、G7諸国は重要鉱物における中国への依存低減に向けて連携することで合意し、データ共有のための新たなプラットフォームの立ち上げや、共同備蓄の強化を進める方針を打ち出した。

つまり、中央アジアは今後も、こうした鉱物資源の調達をめぐる競争の中心であり続けると見られる。そして、ここ数年で中央アジア地域との間に築かれた数多くのパートナーシップに続き、今後さらに多くの連携が生まれることになるだろう。

※ジョヴァンニ・レゴラノ:イタリアを拠点とするジャーナリスト

(貼り付け終わり)

(終わり)



sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 今年11月の中間選挙に向けて、現在、各地で連邦上下両院議員選挙や知事選挙の、民主党と共和党の予備選挙が実施されている。予備選挙はそれぞれの党の候補者を決める選挙であり、予備選挙を勝ち抜いて党の候補者となり、11月の本選挙に挑むということになる。現職の議員でも予備選挙で敗北して本選挙に出られずに退任ということは頻繁に起きる。連邦下院議員選挙は2年おきに実施され、野心を持つ挑戦者にとっては良いチャンスとなる。現職にとっては選挙対策に忙殺され、4期、5期くらい務めると心身ともに疲弊し、自ら引退して、ロビイストに転身したり、元の職業に戻ったりする人も多い。

 日本でも、民主党の予備選挙で、民主社会主義者、進歩主義者の候補者たちが勝利を収めていることが報じられている。このブログでもすでにご紹介している。それと同時に、左派の有権者の投票だけでは本選挙には勝てないということで、民主党支持の有権者をまとめるために、アメリカ民主社会主義者(DSA)を抜けて、民主党の候補者になるという人も出ていることもご紹介した。

 共和党がトランプの党になり、元は民主党を支持していた、労働組合に加盟していた白人労働者たちの党になりつつあることは知られている。以前は「共和党は経営者や白人の党、民主党は労働者やマイノリティの党」という色分けになっていたが、それが崩れつつある。労働者階級だからと言って民主党を自動的に支持することはないということを2016年の大統領選挙が明らかにした。こうした有権者は「民主党を支持してきたが、民主党は自分たちを見捨てて、新自由主義を受け入れ、自分たちの生活は悪くなった。それを隠すために、同性愛や人種、DEIといった社会や文化に関わる問題に傾注してきた」という感情を持っている。生活の心配がないエリート層は経済問題よりも、社会・文化問題に関心を持ち、よりリベラルな方向に進めようとしている。それについていけない労働者階級は「頭が悪い」と切り捨てるということになる。

 しかし、有権者の数で言えば、エリートよりも非エリートの方が多く、労働者介入の方が多い。民主党内部ではリベラルなエリートたちは大きな集団であっても、社会全体で見れば、その大きさと影響力は小さくなる。本選挙で勝つには、中道派やエスタブリッシュメント、更には共和党支持者も巻き込んでいかねばならない。

 民主社会主義者たちは経済問題を中心にして選挙戦を戦っているが、文化や社会問題について、あまり急進的にならずに、国民の世論に従う形で、底から半歩位離れるくらいの主張をするようにすれば、本選挙でも勝つ可能性が高まる。しかし、熱心な支持者である社的な有権者たちが離れるというディレンマを抱えることになる。ここをどのよう差配するかということが民主党にとって重要になってくる。

(貼り付けはじめ)

民主党は間違った問題の解決をしようとしている(Democrats Are Solving the Wrong Problems)

-民主党は文化的な問題において信頼に足る存在であることを中道派の有権者に示す必要がある。

ファリード・ザカリア筆

2026年8月7日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/08/07/democrats-moderates-liberals-progressive-politics-working-class-primary-elections-republican-party-trump/

abdulelsayed20260806001

ミシガン州上院議員選挙民主党予備選挙で勝利したアブドゥル・エルサイードがミシガン州デトロイトで行われた記者会見で話をしている(8月6日)

民主党はディレンマに直面しており、ミシガン州の連邦上院議員選挙民主党予備選挙はその状況を如実に示していた。カリスマ性のある進歩主義派のアブドゥル・エルサイードが、民主党エスタブリッシュメントの支持を受けた穏健派のヘイリー・スティーヴンス連邦下院議員を破った。エネルギーは間違いなくエルサイードにあった。しかし、『ワシントン・ポスト』紙の分析によると、エルサイードの支持はミシガン州内で最も高学歴な郡や大学町に集中しており、一方のスティーヴンスは多くの地方や低所得地域で善戦していた。ここにディレンマがある。左派には情熱があるものの、本選挙で民主党が勝利するために必要な票は、依然として中道派が握っているのだ。

進歩主義派の答えは、経済面でよりポピュリスト的な姿勢を取ることでこの問題を解決できるというものだ。つまり、富裕層を批判し、給付を拡充し、それによって労働者階級にアピールするのだ。しかし、こうした考えは実際の労働者階級には響いていない。ピュー・リサーチ・センターの調査によると、民主党支持者のうち、自らを「民主社会主義者(democratic socialists)」と称する政治家を好むと答えたのは、大卒者では41%に上るのに対し、大卒でない層ではわずか26%にとどまっている。また、高所得の民主党支持者の方が低所得の支持者よりも民主社会主義者に好意的であり、その比率は40%対24%となっている。

民主党は長年、労働者階級の支持を取り戻すことを夢見てきた。ジョー・バイデン大統領は、経済政策を前面に打ち出し、ここ数十年で最大規模の労働者階級への働きかけを行った。バイデン政権はインフラ、工場、クリーンエネルギー、半導体分野に数千億ドルを投じたが、その多くは共和党支持の強い郡へと流れていった。それにもかかわらず、2024年の選挙では、ドナルド・トランプが大卒でない有権者や年収5万ドル未満の有権者の支持を獲得し、労働者階級のヒスパニック系や黒人有権者の間でも支持を伸ばした。過去30年間、民主党は経済政策において左傾化してきたが(クリントンよりオバマが左寄り、オバマよりバイデン氏が左寄り)、同じ期間に労働者階級は着実に民主党から離れていった。

ここから得られる教訓は、経済政策が重要ではないということではない。しかし、民主党の問題は、経済政策において中道寄りすぎると見られていることにあるのではない。民主党は、医療や、現在も大きな関心事である生活コスト(the cost of living)といった問題では、常に共和党をリードしている。民主党の弱点は、犯罪、移民、国境管理、そしていわゆる「ウォーク(woke:社会正義や差別に高い関心を持つ姿勢)」なアジェンダといった、文化的・社会的な問題にある。一例を挙げると、「アーギュメント(The Argument)」による世論調査では、トランプを支持しないものの共和党への投票に傾いていた有権者の間において、犯罪対策への信頼度で共和党が47%対1%で、民主党を大きくリードしていた。

民主党は圧力を受けているが、文化的な問題で中道寄りになるよりも、経済政策で左派寄りになる道を選ぶ方がはるかに容易だと感じている。国境管理の徹底、常習的な違反者への処罰、能力主義の擁護、あるいは生物学的な性の重要性といったことを率直に口にすれば、活動家や権利擁護団体、そして高学歴な党スタッフからの反発を招く恐れがあるからだ。そのため、多くの有権者を自分たちから遠ざけている文化的な姿勢には手をつけず、代わりに巨額の補助金や新たな給付策を提示したり、億万長者への攻撃を強めたりする。

しかし、事実はその逆であることを示唆している。ある研究では、29の政策課題における民主党の方針転換が検証されたが、選挙で最も大きな成果が得られたのは、社会・文化的な問題において中道寄りへ舵を切った場合であることが明らかになった。また別の報告書によれば、労働者階級の有権者は、リベラルな大卒層に比べて、国境警備の強化、犯罪の減少、警察官の増員をはるかに重視していた。一方、リベラルな大卒層が重視したのは、権威主義への抵抗、トランスジェンダーの権利や中絶へのアクセスの保護、そして気候変動対策だった。

この溝が深まったのは、労働者階級の有権者が単に右傾化した(lurched to the right)からではなく、むしろ大卒の民主党支持者がより急激に左傾化した(moved left further)からだ。アメリカ政治学者ニコラス・ジェイコブスの分析によると、2000年の時点では、民主党支持者と労働者階級の有権者の双方において、移民の受け入れ拡大を支持する割合は約8%に過ぎなかった。しかし、2020年には、民主党支持者の48%がこれを支持したのに対し、労働者階級の有権者では24%にとどまった。中絶に関する意見の差は、1980年には3ポイントだったが、2024年には30ポイントにまで拡大した。宗教や家族のあり方、そして政府が税金を無駄遣いしないという信頼感についても、大きな隔たりが生じている。

トランプは、こうした乖離が持つ政治的な力を理解している。選挙集会で彼が激しく批判する内容を聞いてみて欲しい。トランスジェンダーの選手、DEI(多様性・公平性・包摂性)を推進する官僚機構、エリート大学、犯罪、そして制御不能な国境といった問題だ。彼は、こうした問題が有権者の直感(gut)に深く訴えかけるものであることを知っている。

民主党がトランプを模倣したり、マイノリティを見捨てたり、反動的になったりすることが解決策ではない。国民皆保険制度や富裕税によってニューディール時代の連合が復活するという幻想を捨てるべきだ。あの時代もあの連合ももはや存在しない。幸いなことに、民主党は既に強力な現代的連合を築いている。大卒者、女性、マイノリティ、若年層、そして大都市圏の多くの労働者階級や中間層の有権者たちの連合だ。これらの有権者が求めているのは社会主義革命(a socialist revolution)ではなく、手頃な価格の住宅、質の高い学校、利用しやすい医療、安全な街路、国境管理、合法的な移民、そして経済成長といった、成果を出す効果的なリベラルな政府だ。そして、おそらくこれは、民主党が他の労働者階級にも再び支持を広げる助けとなるだろう。

民主党は、文化的に中道派の有権者に対し、リベラリズムは思いやりと寛容、開放性と無秩序、平等とイデオロギー的同調を明確に区別できることを示す必要がある。ミシガン州は、民主党の支持基盤、つまり予備選挙で投票するアメリカ人のごく一部にとって、民主党のエネルギーがどこにあるのかを示した。試練は、民主党がそのエネルギーを、国民全体に受け入れられる常識的な政治へと転換できるかどうかだ。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

(貼り付け終わり)

(終わり)



sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 アメリカの国力低下、衰退が続く中で、世界構造も大きく変化していく。アメリカが世界の警察官として世界各地の安全保障に責任を持つということはなくなる。アメリカは世界から撤退していく。世界各国は「自力」で防衛をしなければならないということになるが、これは同時に、アメリカ抜きで地域的な枠組みを構築し、防衛費を抑制する機会でもあるが、現状はそのようになっていない。各国は防衛費増額を進めている。

 アメリカは同盟諸国に防衛費増額を厳命している。NATOのヨーロッパ諸国は防衛費の対GDP比5%への引き上げを決定している。これは防衛費3.5%にプラスして関連インフラ整備1.5%という内訳になっている。2010年代には1%台だったが、現在は2%台になっている。日本も防衛費の対GDP比3%に向けて動いている。少子高齢化で国力が低下していく中で、防衛費だけは増額していく。「周辺の安全保障環境の悪化」という宣伝が日米両政府からなされているが、その環境悪化を招いているのは周辺諸国だけではなく、日米両国の武力増強の動きでもある。「安全保障のディレンマ(Security Dilemma)」と呼ばれるが、近接する国同士が安全保障に不安を持ち、防衛力を増強し合い、結局のところ、お互いの安全は低下するということになる。東アジアの現状はこの安全保障のディレンマの状況でもなく、アメリカ(の一部)に踊らされた日本の政治家たちが勝手に独り相撲で安全保障環境の悪化を喚いているだけのことである。

 NATO諸国が防衛費を増額することで、自分たちの防衛を自分たちで考えるようになると、アメリカの意向に反するようになる、アメリカの言う通りには動かなくなるということになる。これが通常の動きである。「自分でお金を払っているのだから他人にとやかく言われる筋合いはない」ということになる。しかし、日本の場合には、防衛費を増額したところで、アメリカの属国であることは変わらない。「アメリカの属国であるから、アメリカの厳命通りに防衛費を増額し、その多くをアメリカからの武器購入に充てる」ということになる。日本の防衛費増額は「貢物の増額」ということでしかない。この点がヨーロッパと異なる。

 日本がアメリカの属国状態から脱することは非常に困難である。戦後日本の80年間がそうであった。あらゆるシステムが属国であり、アメリカに奉仕することを前提にして作られている。属国であることを止めるということは国家をもう一度作り変える必要があるからだ。それには非常な痛みが伴うし、そのきっかけをつかむことも難しい。しかし、アメリカが衰退し、世界から退場していくという状況になっている。日本も一緒に沈み、衰退していくことになるだろう。しかし、アメリカが世界を手放すと決めた時、日本の属国状態にも変化が起きるだろう。

(貼り付けはじめ)

古いNATOが失われればアメリカはその存在を懐かしむことになるだろう(The United States Will Miss the Old NATO When It’s Gone)

-防衛費を増額するヨーロッパはワシントンへの依存度を下げ、同時にその意向を過度に尊重することもなくなる。

ファリード・ザカリア筆

2026年7月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/07/10/trump-nato-summit-rutte-defense-spending-greenland/

receptayyiperdoganmarkruttedonaldtrump2026natosummit001

トルコのアンカラで開かれたNATO首脳会議にて写真撮影に応じるトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領、NATOのマーク・ルッテ事務総長、そしてアメリカのドナルド・トランプ大統領(左から)(7月8日)

それは、NATO(北大西洋条約機構)諸国に「公平な負担(fair share)」を求めたことだ。歴代の米大統領も長らく負担の分担について不満を漏らしてきたが、トランプのやり方は粗野で芝居がかっており(theatrical)、取引的なものだった。しかし、彼が示したその考え方自体は、広く共有されていたものでもある。そして、ヨーロッパ側もそのメッセージを理解した。アメリカ以外のNATO諸国の防衛費は、2014年には合計GDP(国内総生産)の1.4%だったが、2025年には約2.3%に達している。

しかし、望んだことの実現については注意深くあらねばならない。

一般的には、ヨーロッパの支出が増えればアメリカの支出は減ると考えられがちだ。それは明らかに誤りだ。ヨーロッパの防衛費がここ数十年で最高水準にあるにもかかわらず、トランプは2027年度予算として1兆5000億ドルという巨額の国防予算を提案している。

アメリカの防衛費は、これまで一度もNATOの必要性だけで決定されたことはない。それは、世界中に基地や艦隊を配備し、様々な責務を負う「世界規模の超大国(a global superpower)」としてのアメリカの役割を反映したものだ。アメリカは、ロシアの抑止、中国への対抗、中東での軍事力行使、世界の海上交通路(シーレーン)の保護、本土防衛、核の優位性維持、宇宙空間での優位確保、ドローンや人工知能(AI)分野での主導権、そして遠隔地で戦闘を行う能力の維持などを求めている。実際、国際戦略研究所(International Institute for Strategic Studies、IISS)の2018年の試算によれば、ヨーロッパにおける直接的な防衛支出は、アメリカの防衛費総額の5%ほどに過ぎなかった。

ヨーロッパの支出が増加するにつれ、ヨーロッパ大陸はアメリカへの依存度を下げ、アメリカに対して従順ではなくなっていくだろう。

75年以上にわたり、NATO内での圧倒的な優位性は、アメリカに多大な利益をもたらしてきた。アメリカはヨーロッパ全域に30以上の軍事基地を保持し、それらの基地はヨーロッパのみならず、アフリカ、中東、アジアにおいても軍事力を展開する足掛かりとなってきた。イラクやアフガニスタンでの戦争、そして最近の対イラン情勢を含む中東でのアメリカの軍事作戦は、ヨーロッパにおける基地利用や領空通過の権利に大きく依存してきた。NATO諸国は、行われている戦争に反対の立場であっても、アメリカによる施設利用を容認することが頻繁に起きた。しかし、アメリカを信頼できない、あるいは敵対的だと見なすようになれば、ヨーロッパ諸国はアメリカの意向に配慮する必要性を感じなくなるはずだ。

アメリカはこれまで、経済的な対抗措置を含む広範な戦略において、同盟諸国が常に自国の方針に追随すると想定してきた。しかし、元国防総省高官セレステ・ワランダーが『フォーリン・アフェアーズ』誌上で指摘しているように、ヨーロッパはすでに独自の国益と手段を有している。ヨーロッパはロシアの凍結資産の大部分を保有しており、ロシアの海運、金融、技術分野に対して独自の制裁を科している。また、ロシアの主要銀行を排除したことで極めて重要な役割を果たした決済システム「SWIFT」の本拠地もヨーロッパにある。もしアメリカがウラジーミル・プーティン大統領との取引のためにモスクワへの圧力を緩和しようとしても、ヨーロッパはそれを拒否するかもしれない。あるいは、アメリカがイランや中国への圧力を強めようとしても、ヨーロッパは二の足を踏む可能性がある。

さらに、兵器の問題もあります。NATOにおけるアメリカのリーダーシップがもたらした隠れた利点の1つは、ヨーロッパ諸国がアメリカの兵器を購入してきたことだ。F-35戦闘機、高機動ロケット砲システム(ハイマース、HIMARS)、パトリオット・ミサイル、P-8哨戒機など、数多くのシステムが購入されてきたが、その理由は単にそれらが優れているからだけではない。それらの兵器がヨーロッパとアメリカを結びつける役割を果たしてきたからだ。装備を共通化すれば共同作戦が容易になるし、アメリカ軍が関与し続けるという安心感を最前線の国々に与えることにもなる。

しかし現在、ヨーロッパの当局者たちはアメリカのハードウェアへの依存を減らす必要性について公然と語るようになっている。彼らは、将来的にトランプ政権がソフトウェアの更新や予備部品の供給、あるいは運用支援を差し止める事態を懸念している。アメリカの大統領がグリーンランドに対して脅しをかけるような状況を目の当たりにすれば、デンマークは次世代兵器の調達先としてアメリカを選ぶかどうか、慎重に再考せざるを得なくなるだろう。

アメリカの防衛関連企業にとって、これは大きな損失となり得る。そしてアメリカの戦略にとっても、その影響はさらに甚大なものとなる可能性がある。兵器の販売は単なる商取引ではない。それは協力関係や戦略の共有といった慣行を醸成するものでもあるからだ。

最後に、もう1つの危険がある。「ヨーロッパ」が支出を増やすと軽々しく述べるが、防衛予算は依然として各国の管轄下にある。しかも、ヨーロッパの政府の多くは財政難に陥っている。アナリストのリアナ・フィックスが『フォーリン・アフェアーズ』誌上で指摘しているように、支出能力が最も高い国はドイツだ。そして今、ドイツは驚くべき規模でその支出を拡大し始めている。

これは必要なことだ。ドイツはあまりにも長い間、消極的な姿勢を取り過ぎてきた。ドイツはヨーロッパに深く根を下ろしたリベラルな民主政治体制国家であり、その政治的DNAに攻撃的な衝動が潜んでいるなどと恐れる理由はない。しかし、国際政治においては規模と力が重要だ。近隣諸国をはるかに上回る額を防衛費に充てるドイツの姿は、必然的にフランスやポーランド、そして周辺の小国に不安を抱かせることになるだろう。

1945年以降のアメリカの戦略が際立っていたのは、まさにこの問題を解決した点にある。その戦略のおかげで、ヨーロッパ諸国は、かつての大国のように振る舞ったり考えたりする必要がなくなった。アメリカの「傘(umbrella)」の下で、フランスとドイツは互いに勢力均衡を図る必要がなくなった。アメリカは、何世紀にもわたって壊滅的な戦争を引き起こしてきたヨーロッパ域内の対立を抑え込み、安定的かつ平和で、親米的な体制を築き上げた。

私たちは連鎖反応を引き起こしている。やがてアメリカ人は、かつてのNATOを懐かしく思うようになるだろう。それはNATOが公平だったからではなく、アメリカを中核に据えた、世界史上最も成功した安全保障体制だったからだ。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

(貼り付け終わり)

(終わり)



sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 イラン戦争は一時的に停戦になっているが(その期間は60日間)、最終的な戦争終結の見通しは立っていない。アメリカ軍とイラン革命防衛隊は相互に攻撃を繰り返したり、攻撃を停止したりしている。ドナルド・トランプ大統領は激しい言葉遣いでイランを非難し、イランへの大規模攻撃を示唆するかと思えば、攻撃を中止すると述べるなど、一貫性に欠ける振る舞いを続けている。「トランプは最後の最後には弱腰になって逃げる(Trump Always Chickens Out、TACO)」という言葉が出てきた所以である。

 イラン戦争はアメリカとイスラエルによって開始され、圧倒的な戦力を用いて各戦闘でイランに対して大きな被害を与えた。しかし、イランを屈服させることはできなかった。イランの体制転換や政権転覆を実現することはできなかった。イランからの反撃で湾岸諸国やイスラエルで被害が出た。アメリカが提供する防衛システムも完璧ではないということが明らかになった。

 さらに言えば、イランがホルムズ海峡を封鎖し、イエメンの新イラン組織フーシ派が公開の出入り口であるバブ・エル・マンデブ海峡でも武力攻撃が発生することで、世界経済に悪影響を与えている。戦争を開始することでアメリカの影響力や指導力は低下している。「アメリカは戦闘(battle)では勝利しているが、戦争(war)に負けている」ということになる。
suezcanalbabelmandebstraithormuzstraitmap001

 ヴェトナム戦争はアメリカの外交再作に大きな影響を与えた。国力が低下し、「アメリカの衰退(decline)」という言葉が囁かれるようになる原因となった。イラン戦争はヴェトナム戦争よりもより深刻な影響をアメリカに与える可能性がある。アメリカがイラン戦争の泥沼に足を取られることで、他の地域への関与が制限される。具体的にはアジアへの関与が減少することになる。アメリカが進めようとしている「中国封じ込め(containment of China)」は厳しい状況となる。世界覇権国アメリカの地位は脅かされることになる。

 ドナルド・トランプ大統領はアイソレイショニズム、「アメリカ・ファースト(アメリカ国内問題解決優先主義)」を主張して大統領になった。それにもかかわらず、ヴェネズエラ、キューバ、グリーンランドへの野心をあらわにして批判をした。しかし、これは「西半球(Western Hemisphere)」支配、「ドンロー主義」という観点からすればまだ理解できる。しかし、イラン戦争に関しては全く主義主張と反する。アメリカの国力を削り、アメリカの影響力を減少させる行為である。このような政策の選択を行ったトランプをただ非難することは簡単だ。その裏側にあるものは何かについて、私は佐藤優先生との2冊目の対談『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』で検討した。是非お読みいただきたい。
sekaiwashuukyousensounitotsunyuushita002

(貼り付けはじめ)

イランはヴェトナム以上の敗北である(Iran Is a Bigger Defeat Than Vietnam)

-選択戦争(a war of choice)がワシントンにとって戦略的な大失敗に転換した。

ポウル・マスグレイヴ筆

2026年6月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/16/iran-vietnam-strategy-defeat/

ドナルド・トランプ米大統領は2期目の就任演説で、「先の大統領選挙が我が国の歴史上、最も偉大で最も重要な選挙として記憶されること」を望むと語った。しかし、彼が起こした「湾岸戦争(Gulf War)」に敗北したことで、トランプはその目標を皮肉な形で達成してしまった。イランに対する軍事行動を起こすという決断は、周囲からの後押しもあったとは言え、あくまで彼自身の意志によるものだった。その結果招かれた事態の逆転は、ヴェトナム戦争におけるアメリカの敗北をはるかに上回る戦略的な大惨事(a strategic calamity)となっている。

イランとの戦争における敗北は、一見したところ、アメリカの過去の軍事的敗北とは全く異なる様相を呈している。戦争の展開の速さと、戦場が遠く離れているという地理的条件が、この一連の出来事全体にどこか現実味の薄い雰囲気を漂わせているからだ。1814年のようにホワイトハウスが焼き払われた訳でもなければ、存在しない徴兵制に対する抗議デモが起きている訳でもない。ドーハに拠点を置く私自身、最初の数週間は頭上を飛び交うミサイルを目にし、その音を耳にしていたにもかかわらず、ここ数週間の状況には戸惑いを覚えている。食料品を買い出し、まだ安価なガソリンを給油し、遠く離れた場所にいる共著者たちとZoomで打ち合わせをする中で、私は何度も自問した。「ここは戦地なのだろうか(Is this a war zone?)」。

この紛争においてアメリカ軍側に大きな人的被害が出ていないこともまた、アメリカの敗北の規模を覆い隠している。確かに、この戦争は多くの命を奪った。戦闘員や民間人を含め、数千人ものイラン人が犠牲になった。しかし、アメリカ側の死者ははるかに少ない。現時点でアメリカ軍将兵の死者は20人未満であり、その多くは一度の攻撃によるものだった。

それに比べれば、ヴェトナムの人々が「アメリカ戦争(the American War)」と呼ぶあの紛争の規模は、圧倒的かつ衝撃的なものだった。東南アジアの空やジャングルの広範囲を舞台に10年以上続いた戦闘で、数百万人が命を落としたが、そのうちアメリカ人は6万人弱に過ぎなかった。

その経験があまりに痛ましいものだったため、ある世代の人々にとって、「ヴェトナム」という言葉は、その名を冠した現実の国や社会を指すものではなくなっていた。長年にわたる紛争を経てもなお、彼らはその国や社会についてほとんど無知なままだったからだ。アメリカにおける用法として、「ヴェトナム」は主に、アメリカが経験したある種の出来事を表す比喩や象徴として理解されていたのだ。

多くの一般のアメリカ人にとって、それは個人的な悲しみを意味するものだった。一部のエリート層にとって、ヴェトナム戦争は権力の傲慢さ(the hubris of power)に対する教訓となる出来事であり、また別の人々にとっては、現代における適切な戦略的判断を妨げる過ちでもあった。しかし、ヴェトナム戦争が国家の歴史に刻まれた「汚点(a stain)」であるという点では、国民的な合意が存在していた。シカゴ・グローバル・アフェアーズ評議会が2014年に行った世論調査では、アメリカ人の58%がヴェトナム戦争を「暗い時代(dark moment)」と捉えていたのに対し、誇るべきものと答えたのはわずか12%にとどまった。

今日の視点からあの紛争を理解する上で最も難しいのは、ワシントンにとって最終的にはさほど重要ではなかったにもかかわらず、なぜアメリカがあれほど激しく戦ったのかという点かもしれない。当時戦争を遂行したアメリカの政策立案者たちは、現代では到底考えられないほどの犠牲を容認していたが、その戦争におけるアメリカの敗北は、結局のところ、アメリカのより広範な戦略目標にとって大した問題ではなかった。実際、ヴェトナム戦争と結びつけて語られることになる「ドミノ理論(domino theory)」(ある国が共産化すれば近隣諸国もそれに続くという考え方)については、早くも1964年の時点で、アメリカ政府内部の議論において疑問が呈されていた。

この戦争がアメリカ人にとって最終的に無関係なものであったからといって、それが重要ではなかった訳ではない。東南アジアの不安定化は重大な問題であった。カンボジアの集団墓地は、ヴェトナムの国境を越え、和平協定が正式に調印された後もなお波及し続けた紛争の犠牲を、無言のうちに物語っている。戦争の結果はヴェトナムにとって重大な意味を持ったし、その後の数年間に逃亡した難民たちの絶望もまた同様であった。

しかし、そうした事実を踏まえても、アメリカ自身にとっては、多大な犠牲を伴う敗北の結果は、長期的には比較的軽微であり、国内的な問題にとどまるものであったという事実は変わらない。アメリカは、より広範な冷戦において勝利を収めた。今日のヴェトナムは、アメリカに対して驚くほど好意的な国となっている。

この状況を、トランプの戦争の余波と比較してみよう。アメリカは、自ら選択して始めたこの戦争の開戦時と比べて、間違いなく弱い立場に置かれており、アメリカの核心的な戦略目標も損なわれている。

この紛争における軍事的な戦いぶりを、イラクのサダム・フセイン大統領によるクウェート占領を覆すためにアメリカ主導の連合軍が行った戦争と比較してみると、その対照は際立っている。1990年から1991年にかけての紛争では、イラク軍があっけなく壊滅させられたように見えたその様子が、世界に衝撃を与えた。

対照的に、イランとの紛争においてアメリカの兵器が示した技術的に優れた性能は、アメリカの兵器備蓄の不足という問題によって影が薄くなり、イラン・イスラム共和国よりも強力な敵との紛争に対するアメリカの備えに疑問を投げかける結果となった。この紛争におけるハイテク戦闘の記憶として長く残るのは、データベースの誤作動と思われる事態の結果として命を落とした、血にまみれたイランの女子生徒たちの遺体が入った袋の姿だろう。また、アメリカの防衛システムはイランのミサイルや片道攻撃型ドローンに対して良好な性能を発揮したものの、イランはそれらのシステムを突破して大きな打撃を与えることに成功した。このことは、より集中した攻撃を行う敵や、長期にわたる紛争において、それらのシステムがどれほど通用するのかという疑問を抱かせるものとなった。

戦略的な観点から見れば、その結果はさらに深刻である。アメリカはある種の「政権交代(regime change)」を実現したとはいえ、テヘランを従順的属国(a pliable client)に変えるどころか、戦争によってイランをより強硬な姿勢へと追い込み、事実上、イスラム革命防衛隊に国の主導権を握らせる結果となった。イスラエルとアメリカの兵器は、開戦当初こそ残酷なまでに高い効果を発揮したが、最終的には武力行使による解決の限界を露呈させ、結果としてイランに大きな利益をもたらした。イランの核開発計画は、これまでにイスラエルとアメリカによる2度の共同空爆に耐え抜いてきた。3度目の空爆が行われたとしても、それ以上の成果が得られる可能性は低いと思われる。

国際システムにおけるアメリカの指導力への影響は、さらに甚大なものであった。この軍事行動に反対していたとされる地域の同盟諸国が、戦闘に伴う負担の大部分を負うことになったからだ。何よりも重要なのは、イランがホルムズ海峡を封鎖する能力を行使することで、世界規模での経済的影響力を行使できると学んだことである。

航行の自由(freedom of navigation)は、2世紀以上にわたりアメリカの戦略的な中核的目標(a core U.S. strategic objective)をなしてきた。19世紀初頭には、トマス・ジェファーソン大統領が地中海沿岸諸国への貢納金の支払いを停止させるために海軍を派遣したほどである。ホルムズ海峡の自由な通航が失われる可能性は、貿易ルートが「兵器化(weaponization)」される兆候となり、世界貿易に永続的かつ甚大な被害をもたらす恐れがある。

戦争の終わり方は、その始まり方と同じくらい多くのことを物語るものだ。ヴェトナム戦争後、アメリカはヴェトナムやその近隣諸国から事実上背を向け、より戦略的に重要な地域に注力することができた。世界的なグリーンエネルギーへの移行とアメリカの炭化水素(石油・ガス)生産の拡大という組み合わせにより、ワシントンの一部の人々にとっては、湾岸地域からの同様の撤退が魅力的に映るかもしれない。しかし、ヴェトナム戦争後のような撤退を再現することは困難だろう。

何と言っても、今日の世界経済は1970年代よりもはるかに相互に深く結びついており、経済ネットワークにおいて湾岸地域が果たす役割は、かつてのインドシナが担っていた役割よりもはるかに大きなものとなっている。世界のサプライチェインは、湾岸地域の炭化水素だけでなく、ヘリウム、肥料、アルミニウムにも依存する構造になっている。その結びつきは経済的なものだけにとどまらない。アメリカとイスラエルとの継続的な関係は、中東地域からの完全な撤退を非現実的なものにすると同時に、さらなる、そしておそらくはより激しい紛争の可能性を高めている。イランのミサイル開発や、潜在的な核開発計画の進展は、中東地域のみならず、ヨーロッパや南アジアにとっても、2030年代の展望をはるかに深刻なものにしている。

どのような政権下であれ、アメリカは国内外で自らの力が弱まる中で、こうした事態に直面することになるだろう。同盟諸国はアメリカの能力に対する信頼を失い、国民は有益な関与であってもそのコストを負担しようとはしなくなり、競合国はワシントンの意志に挑戦する可能性を高めることになるだろう。そうした結果は、ヴェトナム戦争におけるアメリカの失敗よりもはるかに長期的かつ深刻なものとなるだろう。

しかし、1つだけ似ている点がある。数十年後、このアメリカの紛争を振り返る学生たちは、私がかつてヴェトナム戦争について抱いたのと同じ疑問を抱くことになるはずだ。「なぜこの戦争が起きたのか?」。学者たちは綿密な調査に基づいた多くの答えを提示するだろう。しかし、最終的に誰もが納得できるような答えは1つとして示されないだろう。

※ポウル・マスグレイヴ:カタール・ジョージタウン大学政治学准教授。

(貼り付け終わり)

(終わり)



sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 このブログで先月、民主社会主義勢力の躍進についてご紹介した。ニューヨーク市やコロラド州デンヴァーといった大都市での民主社会首位勢力の躍進は日本でも報道された。ニューヨーク市を地盤とするアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)連邦下院議員やニューヨーク市長ゾーラン・マムダニの人気、特に若い人たちの間での人気は高まっている。AOCは大統領選挙の候補者としても名前が挙がっているが、まだ30代であり、まずはニューヨーク州選出の連邦上院議員への鞍替えを考えているのではないかと思う。

 最近で言えば、ミシガン州の連邦上院議員選挙民主党予備選挙で、バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)が支援した急進左派のアブドゥル・エルサイードが、中道穏健派のヘイリー・スティーヴンス連邦下院議員を破って、民主党の候補に選ばれた。今年11月の本選挙で、共和党の候補者マイク・ロジャース元連邦下院議員と連邦上院議員の議席を争うことになる。

 エルサイードはイスラエル、特にベンヤミン・ネタニヤフ首相への激しい批判を選挙戦で展開していた。ユダヤ人やユダヤ教徒は切り離し(エルサイードは「ユダヤ人とユダヤ教を愛し尊敬している」と発言している)、イスラエルの実行している政策とその責任者であるネタニヤフ首相への批判を展開した。これに対して、アメリカ政治を牛耳ってきたイスラエル・ロビーの代表格AIPACが対抗馬であるスティーヴンス連邦下院議員に多くの選挙資金と反エルサイードのCMを展開したが、エルサイードが勝利した。本選挙に向けて、共和党のロジャースにイスラエル・ロビーから莫大な資金が流れることになるだろうが、それがかえってロジャースの足を引っ張る可能性もある。

 ウィスコンシン州知事選挙では、フランチェスカ・ホン州下院議員が支持を拡大している。現職で選挙を不出馬を表明したトニー・エヴァースは、サラ・ロドリゲス副知事を担ごうとしたが、選挙資金をめぐるスキャンダルで出馬断念となり、ミルウォーキー郡のデイヴィッド・クロウリー郡長を支援することになった。急進左派の勢力に穏健中道や民主党エスタブリッシュメントたちは戦々恐々としている。それは自分たちの既得権益が荒らされるということもあるが、本選挙で、無党派層から「急進的過ぎる」ということで支持を得られないという可能性もあるからだ。

 実際に、アメリカ民主社会主義者(DSA)に所属し、民主党予備選挙に立候補し勝利した候補者がDSAから抜け、その理由を「選挙区の有権者を団結させる、まとめる」ためとしている。民主社会主義勢力の勢いは伸びているが、民主社会主義を支持する人たちの支持だけで本選挙を勝てるということはない。やはり穏健中道や政治的関心の低い人たちも巻き込んでいかねばならない。民主社会主義勢力としては、これからいかにしてリーチを広げていくかということが重要になってくる。

(貼り付けはじめ)

急進左派が激戦州ミシガンで勝利、米民主予備選 中間選挙の試金石

Nolan D. McCaskill ロイター通信

2026年8月5日午後 5:00 GMT+931分前更新

https://jp.reuters.com/world/us/N2O2ZVTILNNM3L3GCA6V2PH4SA-2026-08-05/

[5日 ロイター] - 11月の米連邦上院選に向け、中西部ミシガン州で実施された民主党の上院予備選で、イスラ​ム系の急進左派のアブドゥル・エルサイード氏が‌勝利した。穏健派候補のヘイリー・スティーブンス下院議員を接戦の末に破った。

エルサイード氏は5日に開いた記者会見で、民主主義につ​いて「今後は常に『これは国民のものであり、わ​れわれが主導権を握る』と断言できるようになる」⁠と語った。

AP通信によると、開票率99%時点でエルサイード氏​の得票率は48.5%、スティーブンス氏は47.5%だった。

エルサイード氏は「メ​ディケア・フォー・オール(国民皆保険制度)」を提唱するなど、民主社会主義を掲げ、イスラエルへの軍事支援停止を公約に選挙戦を展​開した。一方、スティーブンス氏は民主党指導部や親​イスラエル団体の支援を受けていた。

abdulelsayedmichigan20260805001

写真はイスラム系の急進左派のアブドゥル・エルサイード氏。8月5日、米ミシガン州デトロイトで撮影。 REUTERS/Rebecca Cook

今回の予備選は、経済ポピュリズム‌や反⁠エスタブリッシュメント(既得権益層)を訴える急進左派と、党主流派に近い穏健派の対決という構図となり、民主党の今後の方向性を占う試金石として注目された。ま​た、イスラエル支​援を巡る⁠対立も主要な争点となった。

ミシガン州は2024年の米大統領選でトランプ大統領が勝利した激戦州の一つ。​エルサイード氏は州全体の予備選で勝​利した初⁠の急進左派候補となる。

11月の本選では、共和党候補のマイク・ロジャース元下院議員と対決する。

ロイター/イプソスが4日までにまとめた最⁠新の世​論調査によると、民主党支持者で「リ​ベラル」と自認した割合は71%、「保守」と回答した割合は16%だった。イスラエル​への軍事・経済支援については、支持が16%にとどまり、57%が反対だった。

=====

メモ:左派がエルサイードの勝利の勢いを取り込もうとしている(The Memo: Left looks to seize on momentum from El-Sayed’s win)

ナイオール・スタンジ筆

2026年8月5日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/6012536-abdul-el-sayed-michigan-democratic-primary-progressive-movement/

火曜日、ミシガン州やその他のいくつかの州で行われた予備選挙の結果は、必ずしも圧倒的な勝利とは言えなかったものの、民主党左派は依然として力強い勢いを維持した。

ミシガン州での注目の選挙戦は、進歩主義派(the progressive)の公衆衛生専門家アブドゥル・エルサイードが僅差で勝利した。これによりエルサイードは、マイク・ロジャース元連邦下院議員(ミシガン州選出、共和党)と戦う、連邦上院選挙の民主党公認候補となる。

ヘイリー・スティーヴンス連邦下院議員(民主党)に対するエルサイードの予備選挙勝利は、事前の世論調査の予測よりもはるかに接戦となった。予備選挙直前の複数の調査ではエルサイードが2桁のリードを保っていたが、最終的にはスティーヴンスを約1ポイント差で下す結果となった。

進歩主義派のストラティジストたちは、この結果を期待外れと見なしたり、勝利の差が小さかったことを11月の本選におけるロジャースとの対決に向けた警告信号と捉えたりする見方を否定している。

むしろ彼らは、エルサイードが成し遂げた偉業の大きさを強調している。公職に就いた経験が一度もない彼が、外部からの巨額の資金援助という圧倒的な強みを持つ4期目の現職女性連邦下院議員を打ち負かしたからだ。

スティーヴンスの立候補を支援し、エルサイードを阻止するために費やされた資金は6000万ドルを超えた。その総額の約半分は、AIPAC(the American Israel Public Affairs Committee、アメリカ・イスラエル公共問題委員会)関連の資金源から拠出されたものだ。

ガザ地区におけるイスラエルの行動に対し、民主党支持者の多くが強い反発を抱く中、AIPACによる資金提供は党内で大きな論争の的となっている。イスラエルの行動を「ジェノサイド(genocide)」と呼ぶエルサイードは、このAIPAC問題をスティーヴンスへの攻撃材料として利用しようとした。

全体像としては、エルサイードは外部からの資金投​​入において約8対1という圧倒的な劣勢にありながらも、最終的に勝利を収めたということだ。

バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)の元外交政策顧問であり、現在は国際政策センター副代表を務めるマット・ダスは本コラムに対し、エルサイードの選挙戦の結果が期待外れだったとする見方は「馬鹿げている」と語った。

ダスは「要するに、アブドゥル・エルサイードは前例のない規模の外部資金攻勢に直面し、彼を徹底的に排除しようとする民主党主流派とも対峙しなければならなかった。しかし彼は、素晴らしいメッセージ、確かな政治的手腕、そして極めて優れた組織力によって、それらを乗り越えた」と述べた。

エルサイードとスティーヴンスの選挙戦は、動揺が続く民主党内に存在するより大きな対立構造を象徴するものだった。

イスラエル・パレスチナ問題を越えて、エルサイードはよりポピュリスト的なメッセージを前面に押し出した。それは「政治から金を排除し、人々のポケットに金を入れ、全員にメディケア(公的医療保険)を(Money out of politics, money in your pocket, Medicare-for-All)」というスローガンに集約される。一方、より慎重で中道的な人物であるスティーヴンスは、対立候補を「セレブリティ(celebrity)」候補だと批判し、本選挙では勝てない人物だと決めつけた。

エルサイードは、サンダース上院議員、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)、エリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)、そして同じミシガン州選出のラシダ・トレイブ連邦下院議員(民主党)など、進歩主義派運動の主要な有力者のほぼ全員から支持を受けた。

スティーヴンスは、引退を表明していたゲーリー・ピーターズ連邦上院議員(ミシガン州選出、民主党)に加え、グレッチェン・ウィットマー・ミシガン州知事(民主党)やチャールズ・シューマー連邦上院少数党(民主党)院内総務(ニューヨーク州選出、民主党)からの支持を取り付けていた。

エルサイードの勝利を受け、民主党は迅速に結束を図った。ピーターズとウィットマーはエルサイードを支持し、スティーヴンス自身も支持を表明した。時に激しい対立もあった予備選挙の後だったが、彼女のメッセージは指名候補となったエルサイードに温かく受け止められた。

シューマーと、連邦上院民主党の選挙活動を統括するキルステン・ギルブランド連邦上院議員(ニューヨーク州選出、民主党)は、エルサイードを支持する共同声明を発表した。また、シューマーに近い政治活動委員会(PAC)である「連邦上院多数党PAC(Senate Majority PAC)」は、エルサイードの立候補を後押しする巧みな広告を公開した。

それでも、エルサイードを勝利に導こうと党内の各派閥が結集している状況であっても、民主党内の亀裂がすぐに完全に修復されることはないだろう。

近年、左派の挑戦者たちは、党主流派寄りの現職議員を相手に大きな成果を上げている。彼らは、より野心的な政策課題と、それを実現するために戦う強い情熱を求める党の草の根支持層(the party’s grassroots supporters)の多くのエネルギーをうまく取り込んできた。

火曜日には、もう1人の進歩派であるミシガン州下院議員ドノヴァン・マッキニー(民主党)が勝利を収めた。マッキニーは、ミシガン州連邦下院第13選挙区の民主党予備選挙で現職のシュリ・サネダー連邦下院議員(民主党)を破った。

ミシガン州の別の地域でも左派が勝利を手にした。「サンライズ・ムーブメント(Sunrise Movement)」共同創設者であるウィル・ローレンスが、ミシガン州第7選挙区の連邦下院民主党予備選挙で勝利を確実にした。

ミシガン州でのこれらの勝利は、左派が収めた一連の成果の最新の事例に過ぎない。

6月のニューヨーク州予備選挙では、アドリアーノ・エスパイヤット連邦下院議員(民主党)が、「アメリカ民主社会主義者(Democratic Socialists of America、DSA)」のメンバーであるダリアリザ・アビラ=シュバリエに敗れた。ダン・ゴールドマン連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)も、左派のライヴァルであるブラッド・ランダーに敗れた。

その1週間後には、ダイアナ・デゲット連邦下院議員(コロラド州選出、民主党)が予備選挙でDSAメンバーのメラト・キロスに敗れた。デゲットは連邦議会で16期目を目指していたが、彼女の初当選は1997年であり、それはキロスが生まれた年でもあった。

それ以前にも、ニューヨーク市長選挙でゾーラン・マムダニ(民主党)がアンドリュー・クオモ元知事(当時)を破るという歴史的な勝利を収めた出来事があった。

しかし、左派は途中で敗北も喫している。火曜日にはミズーリ州で敗北があった。進歩主義派の有力候補であったコリ・ブッシュが、かつて保持していたセントルイス地域の議席をウェスリー・ベル連邦下院議員(民主党)から奪還しようと挑みたが、大差で敗れた。

民主党の支持層内部におけるこうした意見の相違は、数多くの著名な対立も引き起こしている。

ジョン・フェッターマン連邦上院議員(ペンシルヴァニア州選出、民主党)やヴェテランのストラティジストであるジェームズ・カーヴィルなど、より中道的な路線を支持する人々は左派を激しく批判している。彼らは、社会が分断されている状況下であっても、選挙の勝敗は中道層を取り込めるかどうかにかかっていると主張している。

これに対し、進歩主義派も同様の応酬を見せている。サンダースは火曜夜、CNNのアビー・フィリップのインタヴューに応じ、もしカーヴィルが民主党内の左派勢力に対してそれほどの疎外感を抱いているのなら、「自分で新しい党を立ち上げる(start his own party)」べきだと示唆した。

中道派が特に懸念しているのは、ミシガン州におけるエルサイードのような人物の動向だ。ミシガン州は激戦州の1つであり、2024年の選挙ではトランプ大統領が当時のカマラ・ハリス副大統領を僅差で破った場所でもある。

エルサイードはDSAのメンバーではなく、自らを社会主義者と称していないが、それでも共和党側は彼を主流派から外れた人物として印象づけようとするだろう。

ロジャースは水曜朝、ソーシャルメディアへの投稿でエルサイードを「過激派(extremist)」と呼んだ。

これに対し、ダスのような進歩主義派は、左派寄りの人物こそが有権者の現在の心情と共鳴するのに適した立場にあると反論した。

ダスは、「政治を『左から右』という軸で捉え、地理的な中央にいるのが最も安全だとするような見方には、私はどうも説得力を感じない」と述べた。

ダスは続けて、「今は、既成勢力による政治のあり方に愛想を尽かすアメリカ人が増えている時期だ」と続け、有権者が求めているのは「何よりもまず、真実を語ってくれる候補者であり、自分たちが苦境にあることを理解し、それを救うためのヴィジョンを提示してくれる候補者だ」と語った。

ミシガン州をはじめとする各地で、左派はこうした見解を実際に試す機会を迎えることになる。

=====

民主社会主義者たちはウィスコンシン州で次の大勝利を目指してホンに期待を寄せる(Democratic socialists turn to Hong in Wisconsin with hopes for next big win)

キャロライン・ヴァキル筆

2026年8月5日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/6008300-hong-wisconsin-democratic-socialist-primary-test/

ウィスコンシン州知事選におけるフランチェスカ・ホン州下院議員(民主党)の着実な支持拡大は、今回の選挙戦において、民主社会主義者や極左勢力にとって最大の試練の場となりつつある。

火曜日の予備選挙を控え、ホンは民主党候補者の中で有力な地位を占めているが、一方で、ウィスコンシン州知事トニー・エヴァースを含む党主流派は、ミルウォーキー郡のデイヴィッド・クロウリー郡長を支持する姿勢を固めている。

エヴァースたちは、ホンが11月の本選挙で共和党の指名候補となる見通しのトム・ティファニー連邦下院議員に勝利する可能性は低いと示唆しているほか、彼女の出馬が接戦となっている他の下院選や地方選の民主党候補に悪影響を及ぼしかねないと懸念している。

しかし、ホンは、有権者は党主流派に対して不満を抱いていると主張し、現代初の民主社会主義者としての知事就任を目指す中で、有権者にとって最も重要な課題に取り組むことに注力している。

ホンは『ザ・ヒル』誌のインタヴューに対し、「労働者階級出身の候補者として、『自分たちと同じ人間だ』と有権者に言われるとき、民主党や他の候補者が誤解しているかもしれないのは、人々が求めているのは『自分たちを気にかけてくれる人物』だという点だ」と述べた。

今年、民主社会主義者や進歩主義派は、予備選挙での指名獲得や現職議員を破るなど、目覚ましい躍進を遂げてきた。しかし、こうした勝利の多くは、ニューヨーク州やコロラド州といった民主党の地盤が強固な連邦下院選挙区でのものだった。そうした中、激戦州であるミシガン州では、火曜日に行われた上院予備選挙において、進歩主義派のアブドゥル・エルサイードが、穏健派のヘイリー・スティーヴンス連邦下院議員(ミシガン州選出、民主党)を僅差で破るという結果が出た。

ホンは、8月11日に行われる知事選挙でティファニーに挑むべく、他の3人の民主党候補と競い合う中、この連勝の勢いと反既成勢力のムードを追い風にしたいと考えている。現職のエヴァースが3選不出馬を決定したため、『クック・ポリティカル・レポート』によると、この選挙戦は「接戦(toss-up、トスアップ)」と予測されている。

ウィスコンシン州を拠点とする民主党のストラティジストであるジョー・ゼペッキは「民主党側のエネルギーがどこにあるのか、もはや誰も見て見ぬふりはできないだろう」と語った。

しかし、激戦州であるウィスコンシン州(2024年の選挙ではトランプ大統領と民主党のタミー・ボールドウィン連邦上院議員の双方を選出した)において、ホンは厳しい視線に晒されている。その理由は、「アメリカ民主社会主義者(DSA)」との関わりや、過去にソーシャルメディアで行った発言にある。それらの発言には、警察予算の削減や警察の廃止、感謝祭の中止、さらにはウィスコンシン州発祥の有名チェーン店「カルヴァース」への批判などが含まれていた。

DSAマディソン支部のメンバーであり、他のいくつかの地元支部からも支持を受けているホンだが、現在は過去の発言やDSA全国組織から距離を取ろうと努めている。

「知事に警察予算を削減する権限はなく、私はスローガンだけで政治を行うつもりもない」と、ホンは先月行われた民主党知事候補討論会(唯一の討論会)で述べた。また、感謝祭やカルヴァースに関する投稿については、「冗談で」行った可能性もあると『ザ・ヒル(The Hill)』誌に語っている。

「それらは、私自身が異なる立場にいた時に抱いていた考えであり、今は知事選挙に出馬するという立場にある」と彼女は述べ、さらに次のように続けた。「何を実現できるかについて、分別を持ち、現実的である必要がある」。

しかし、来週の民主党の指名争いでホンが勝利した場合の11月の本選挙での勝算を民主党主流派が懸念する中、共和党側は彼女の過去の発言を格好の攻撃材料にしている。

ティファニーは火曜日、ソーシャルメディアへの投稿でホンを揶揄し、「私の立場をはっきりさせておきたいが、知事に就任しても感謝祭(サンクスギビング)を中止することはない。念のため、改めて言っておく価値があると思う」と書いた。

トランプ大統領の支持を受けるティファニーは、ホンの進歩主義的な政治姿勢を徹底的に攻撃している。彼女は、シェフであり元レストラン経営者でもあるホンを「急進的(radical)」と呼び、11月の選挙ではウィスコンシン州として「大きな政府による社会主義を拒絶(reject big-government socialism)」するよう訴えている。

一方、エヴァースを含む一部の民主党員は、本選挙でティファニーと対決する候補者としてホンが最適であるかどうかに疑問を呈している。

エヴァース知事は月曜日の『ミルウォーキー・ジャーナル・センティネル』紙とのインタヴューで、ホンが11月にティファニーに勝利するのは「おそらく無理だろう(probably not)」と述べた。彼は、民主社会主義者であるホンを「極めて才能のある人物」と評しつつも、「結局のところ、重要なのは政策課題だ」と付け加えた。

エヴァース知事の発言について尋ねられたホンは、『ザ・ヒル』誌に対し、「私たちが掲げている政策課題こそが有権者の共感を最も呼んでいるものであり、最も多くの票を獲得する人物こそが、当選の可能性が最も高い候補者だと考えている」と語った。

エヴァース知事は、一度は選挙から距離を取ったものの、サラ・ロドリゲス副知事(民主党)が選挙資金をめぐる疑惑を受けて出馬を断念した後に再出馬したデイヴィッド・クロウリー郡長に対し、最後の最後で支持を表明した。

クロウリーは、同じく民主党のグウェン・ムーア連邦下院議員(ウィスコンシン州選出)からも支持されている。一方、ウィスコンシン州選出の民主党連邦議会議員のうち、残る2人であるボールドウィン連邦上院議員とマーク・ポーカン連邦下院議員は、この選挙戦について態度を明らかにしていない。ホンは、イルハン・オマル連邦下院議員(ミネソタ州選出)やロウ・カンナ連邦下院議員(カリフォルニア州選出)といった進歩主義派の民主党議員から支持を受けている。

デーン郡民主党のライアン・センデルバッハ委員長は、ウィスコンシン州知事選の予備選挙、とりわけホンの出馬をめぐって、党内に「不安や緊張感」が広がっていることを認めている。

民主党員の間では、ホンが指名を獲得した場合、連邦下院選や州議会選における党の勝算に悪影響が及ぶのではないかという懸念が生じている。

支持率が1桁にとどまっているもう一人の知事選候補、ケルダ・ロイズ州上院議員(民主党)は、『ザ・ヒル』誌に対し、「選挙名簿のトップ(知事候補)は、当然ながら下位の候補者にも影響を及ぼす」と語った。

ロイズは、共和党が予備選挙でホンを支援するために資金を投じている理由について、「有権者は自問すべきだ」と指摘した。

ロイズはさらに、「彼らは明らかに、トム・ティファニーが知事になるだけでなく、ウィスコンシン州で共和党が知事職と州議会上下両院を独占する(trifecta、トライフェクタ)道筋があると確信しているのだろう。そのことは、私たち全員にとって脅威となるはずだ」と付け加えた。

民主党は、ウィスコンシン州連邦下院第3選挙区での議席奪還を重要な好機と捉えている。この選挙区では、2024年に共和党のデリック・ヴァン・オーデン連邦下院議員が民主党のレベッカ・クックを僅差で退けた。選挙分析サイト「Decision Desk HQ」は、クックとヴァン・オーデンが再対決するこの11月の選挙戦において、民主党が優位に立つと予測している。

また、マディソン(ウィスコンシン州)では、民主党が州議会(下院および上院)の主導権奪還を目指している。ウィスコンシン州議会は2011年以来、共和党が支配し続けてきた。

一方で、ウィスコンシン州の他の民主党関係者からは、ホンの勝算や、もし彼女が火曜日の予備選挙を勝ち抜いた場合に11月の本選挙へ及ぼす影響について、期待を寄せる声も上がっている。

センデルバッハは、「人々の関心事や政治に求めるものは非常に多様だ。従って、一般的に『苦戦するだろう』と見られている地域で、フランチェスカ・ホンが実際に苦戦するとは限らないと私は見ている」と述べ、さらに次のように続けた。「有権者は単に『左右のスペクトラム(spectrum、政治的立ち位置)』上に存在し、その適当な物差しの上で自分に最も近い候補者を選ぶ、といった単純な存在ではない」。

ゼペッキの見解では、現在の国政レヴェルの政治情勢から考えて、ホンは極めて有利な立ち位置にいるということだ。

「既成政治への反発が強く、政治家に苛立ち、何か新しいものを求めている人々にとって、彼女はまさにその通りの候補者というポジションにいる」と彼は語った。

=====

ミシガン州連邦下院選挙の候補者が選挙区の「団結」を図るためDSAを離脱したと表明(Michigan House candidate says he left DSA to ‘unite’ district)

フィンヤ・スワイ筆

2026年8月5日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/6012655-lawrence-lapses-dsa-membership/

進歩主義派の候補者であるウィル・ローレンス(民主党)は水曜日、ここ1カ月の間に「アメリカ民主社会主義者(DSA)」の会員資格を失効させたことを明らかにした。ローレンスはその理由について、激戦区であるミシガン州第7選挙区において、浮動票層を結束させることに注力したかったためだと説明している。

ローレンスは水曜日のCNNとのインタヴューで、「DSAや彼らが全米で展開している活動には大いに敬意を抱いているが、私たちがここで掲げている政策綱領は、第7選挙区の各地で有権者と対話を重ねる中で作り上げられたものであるという点を、明確にしておく必要があると感じた」と語った。

バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)の支持を受ける「サンライズ・ムーブメント」の共同創設者であるローレンスは、ランシングを拠点とする選挙区で行われた火曜日の民主党予備選挙(3候補による争い)で勝利し、11月の本選挙ではトム・バレット連邦下院議員(ミシガン州選出、共和党)と対決することになる。

ローレンスは、自身の選挙運動が選挙区と住民から寄せられた懸念事項を主軸に据えていることを有権者に理解してもらうため、アメリカ民主社会主義者(DSA)の会員資格を更新しなかったと述べた。

「私はこの選挙区の住民を代表し、人々の心を一つにするような課題に取り組むためにここにいるのだということをはっきりとさせておきたい」とローレンスは語った。

ローレンスは、生活費、医療費、ガソリン代、食料品価格といった主要な進歩主義派の争点を挙げ、これらが選挙区全体で人々の共感を呼んでいると指摘した。そして、自身の目標は有権者を「団結させる(unite)」ことだと述べた。

ローレンスはCNNに対し、DSAの会員資格を更新しなかったのは本選挙に進出したことによる判断ではないと語った。また、DSAとの間に根本的な意見の相違があるかどうかについては明言を避け、個別の政策課題についてはその都度対応していく意向を示した。

その代わりに、彼は自らを「オーガナイザーと連携を築く者(organizer and coalition builder)」と位置づけ、地域社会の懸念に基づいた政策課題を掲げていると説明した。

ローレンスは火曜日に行われた民主党予備選挙で、元駐ウクライナ米大使のブリジット・ブリンクと、元海軍特殊部隊(SEALs)隊員のマット・マースダムを破った。ブリンクはミシガン州のジェニファー・グランホルム元知事(民主党)とジム・ブランチャード元知事(民主党)の支持を受けていた一方、マースダムはエリッサ・スロットキン連邦上院議員(ミシガン州選出、民主党)の支持を受けていた。

(貼り付け終わり)

(終わり)



sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 ヨーロッパは2度の世界大戦の舞台となり、その反省から二度と域内で戦争を行さないという決意の下で、経済協力から政治統合、安全保障協力という道筋をたどり、ヨーロッパ連合と共通通貨ユーロまで生み出した。ヨーロッパで戦争が起きるということを想像することは難しくなっている。

 ヨーロッパの安全にとって重要なのはドイツの動向である。19世紀からドイツ問題(Germann Question)という課題がある。それは、「統一された強力なドイツがヨーロッパ全体の安全環境を不安定化させるのでそれ以下に防ぐか」ということである。考えてみると、2度の大戦共に「主役」となったのはドイツである。もちろん、その他の大国(昔風に言えば列強、powers)も重要なプレイヤーであったが、統一ドイツが戦争の理由となったのは歯科なことだ。ドイツの隣にはフランスがある。フランスもまた列強であり、ヨーロッパの強国であり続けた。ドイツとフランスの関係が悪化することがヨーロッパの安全に大きな悪影響を与えるということは確かである。長年の「宿敵(nemesis)」と言うことができる。

 戦後のヨーロッパ史は、一面ではドイツとフランスの和解の歴史であった。両国の間で紛争の理由となった石炭と鉄鋼の共同管理のために1952年に、フランス・西ドイツ・イタリア・ベネルクス3国(ベルギー・オランダ・ルクセンブルク)ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体(European Coal and Steel Community、ECSC)が発足した。これがヨーロッパ連合(EU)につながった。フランスとドイツは「恩讐を越えて」、「小異を捨てて大同につく」ということで協力関係を築いてきた。

 しかし、最近になって、その協力関係がうまくいっていないということがあるようだ。以下の記事に紹介されている。共同での戦闘機開発計画が破綻したのはその一例だ。1990年に、アメリカのシカゴ大学教授ジョン・J・ミアシャイマーは「バック・トゥ・ザ・フューチャー:冷戦後のヨーロッパにおける不安定性(Back to the Future: Instability in Europe After the Cold War)」という論文を発表した。1990年に当時の西ドイツと被害ドイツが統合することでドイツが再統一された。このことはお祝いムードを持って迎えられたが、ミアシャイマーは、そのようにうまくいかない、良いことばかりではないという主張を行った。

米ソ両両大国がヨーロッパから撤退することで、二極システム(bipolar system)から多極システム(multipolar system)に移行(復帰)することから不安定さが増す(以前のヨーロッパのようになる)、ヨーロッパ各国は相互に不信感を持ち軍拡競争に進む可能性がある(安全保障のディレンマ[Security Dilemma])、ナショナリズムの台頭が起きるなどの指摘を行った。論文の発表当時は、「過激な内容だ」という批判も起きたが、現状では予言的な部分もある論文となっている。仏独関係の悪化と不安定化はこの論文の通りとなっている。

 アメリカの撤退によってヨーロッパが過去に戻るということは不安定化が進むということになる。このヨーロッパの教訓から私たちは国際協調と不安定化に進む要因の排除について考えねばならない。その見本となるのが東南アジア諸国連合(ASEAN)である。ヨーロッパの様に統合に進まなくても地域内協力を進めることができ、それがいかに安定を生み出すかということを私たちは学び、東アジアにおいても実行するべきだと考える。

(貼り付けはじめ)

ヨーロッパは1952年の状態に逆戻りしている(Europe Is Back in 1952)

-フランスとドイツが再び軍事的なライヴァル関係に陥ったことはヨーロッパの他の国々にとって悪いニューズである。

キャロライン・デ・グロイター筆

2026年7月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/07/20/europe-germany-france-eu-1952/

friedrichmerzemmanuelmacron001

モンテネグロのティヴァトにあるポルト・モンテネグロで開催されたEU・西バルカン首脳会議の合間に行われた会談の前にドイツのフリードリヒ・メルツ首相とフランスのエマニュエル・マクロン大統領が言葉を交わした(2026年6月5日)

私は最近、あるヨーロッパの外交関係の高官に、7月7日、8日にトルコのアンカラで開催されたNATO首脳会議から得た、最重要の教訓は何かと質問した。この人物は躊躇なく次のように答えた。「ヨーロッパ諸国の全首脳が、一部の者が足並みを乱したり(breaking ranks and bending over)、ドナルド・トランプの機嫌を取ろうと必死になったりすることなく、1つのグループとして行動した初めての機会だったことだ」。

これは、長年アメリカの軍事的保護に依存してきたヨーロッパ各国が、ついに自立に向けて態勢を整えつつあるかのように聞こえるかもしれない。しかし、この新たな結束(newfound unity)は、彼らが共同の決意を持って強力なヨーロッパ防衛に取り組む準備ができていることを意味するということではない。

ヨーロッパの中で最も環大西洋関係を重視してきた(trans-Atlantic-oriented)国々でさえ、アメリカがヨーロッパの防衛責任から徐々に手を引こうとしている現実を、ようやく受け入れ始めている段階にあると言える。しかし現時点では、ヨーロッパ各国は依然としてアメリカの防衛関連企業に大きく依存している。2024年にはアメリカ製の防衛関連製品に680億ドルを費やたが、これは2017年から2021年の平均支出額である110億ドルと比べると桁違いの数字だ。さらに悪いことに、ヨーロッパの二大経済大国であるドイツとフランスの間には大きな亀裂が生じている。ヨーロッパの防衛体制の要となるべき独仏間の信頼関係が、崩壊の危機に瀕している。

これはヨーロッパ全体にとっての問題となる。ヨーロッパ統合は1952年に「二度と戦争をしない(no more war)」をスローガンに掲げて始まった。当時、フランスと西ドイツ(およびイタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)は、自国の防衛産業について、国家を超越した権限の下に置いた。その唯一の目的は、再び世界大戦が起こることを不可能にすることだった。しかし、長い平和と数十年にわたる軍事軽視の時代を経て、ロシアからのハイブリッドな脅威や軍事的脅威に直面する中、かつて戦争の当事者であったヨーロッパ各国は再び自国の防衛産業への投資を始めている。ただし今回は共同で取り組むのではなく、単独で進める傾向が強まっている。ここ数カ月の間に、フランスとドイツの共同防衛プロジェクトの1つが大きな音と共に破綻し、他のプロジェクトも停滞している。

第一に、その破綻について取り上げる。ヨーロッパの防衛統合を象徴するプロジェクトとして構想された「将来戦闘航空システム(Future Combat Air System、FCAS)」は、各国間の産業競争を「仏独共同開発の戦闘機(a Franco-German fighter jet)」という共通の目標へと転換するヨーロッパの能力を象徴するものとなるはずだった。6月初旬に発表されたこの計画の失敗は、ヨーロッパにおいて産業の分断が再燃していることを浮き彫りにした。それは、共通の防衛イニシアティヴへの協力が最も必要とされているまさにその時に、協力を阻害する要因となっている。

スペインも参加していた将来戦闘航空システム計画が暗礁に乗り上げた主な理由は、主導的な役割を担う2つの企業が協力関係を築けなかったことにある。当初の主要契約企業であったフランスのダッソー社は主導権を握ることに固執し、パートナーであるドイツのエアバス・ディフェンス社には情報をほとんど共有しなかったと報じられている。エアバス社の幹部は、知的財産(intellectual property、IP)や特許に関する合意形成の難しさを指摘していた。

これは、産業ナショナリズムが防衛協力を損なった明確な事例だ。事態が収拾不能に陥った背景には、ヨーロッパにおいて防衛プロジェクトにおける役割分担や、ノウハウおよび知的財産から生じる将来的な利益(非軍事分野を含む)の配分に関する枠組みが存在しないという問題がある。明確なルールや規制がない状況では、最も力のある主体が全てを独占することになる。こうした事態は、かつて規制が不十分(あるいは不適切)だった銀行や製薬業界でも見られたことだ。

将来戦闘航空システム計画の破綻は、防衛産業における役割分担や知的財産の公正な配分に関するヨーロッパのルールが早急に必要であることを示している。れおは、ロシアの脅威やアメリカのヨーロッパからの撤退といった状況下で、各国や企業は防衛分野への投資を急ピッチで進め、共同プロジェクトを立ち上げているからだ。

例えば、フランス、ドイツ、イタリア、スペインは「ユーロドローン(Eurodrome)」の開発に取り組んでいる。また、複数の国々が「宇宙の盾(スペース・シールド、space shield)」の構築を進めており、ウクライナを支援したり、ウクライナと共同生産を行ったりしている。さらに今月には、ドイツ、スペイン、フランス、イタリア、ノルウェー、オランダ、スウェーデン、イギリス、ウクライナからなる「弾道ミサイル防衛連合(antiballistic coalition)」が、フランスの革命記念日の前日にパリで会合を開いた。この会合は、ウクライナの民間人を標的とするロシアの兵器を迎撃可能なミサイル防衛システムを生産するため、各国および各産業界の取り組みを調整することを目的としていた。7月14日には、ヨーロッパの決意を示すべく、ウクライナ軍を含む外国部隊がパリ市内を行進した。

ドイツのフリードリッヒ・メルツ首相もその式典に同席していた。しかし、1950年代のようにフランスとドイツが資源を出し合って兵器を共同購入・生産するのではなく、現在ではより小規模な国々がそうした動きを主導している。それらの国々はヨーロッパ連合(EU)からの資金援助を受け、共同調達を行っている。自国だけでは必要な兵器を生産できないため、共同プロジェクトこそが、最も低コストかつ効率的な選択肢となっている。

あらゆる事態が猛烈なスピードで動いている。動く金額も天文学的だ。ヨーロッパ各国は1990年代のベルリンの壁崩壊以降、国防費を削減してきたが、今やほぼゼロからの再出発を余儀なくされている。北大西洋条約機構(NATO)の最新の統計によれば、ヨーロッパの加盟国およびカナダにおける2025年の国防費は、2024年と比べて20%増加する見通しだ。こうした活発な動きは新たな機会をもたらす一方で、懸念されるリスクもある。それは、政府の支援を受けた巨大企業が他社を市場から締め出し、弱肉強食のジャングルのような状況に陥ってしまうことだ。

仏独共同の戦闘機開発計画が破綻したのはまさにこのためだ。ドイツとフランスには強力な兵器メーカーが存在するが、それらはヨーロッパのレヴェルでの協力を目指す政治指導者の決定を無視しているかのように振る舞っている。フランスのエマニュエル・マクロン大統領が将来戦闘航空システム(FCAS)を、ヨーロッパの新たな戦略的自律と主権を象徴する仏独共同生産のショーケースにしようとしていた一方で、フランスのダッソー社はドイツのパートナー企業をあらゆる面で排除し始めた。費用の半分を負担していたドイツ側は、激しい不満を持った。この問題は最高レヴェルの政治の場で幾度となく取り上げられたが、ついにメルツ独首相が我慢の限界に達し、6月に計画を白紙撤回する結果となった。スペイン側には事前の連絡さえなかった。

もしフランスとドイツが今後、防衛力を主に自国主導で再構築するようなことになれば、ヨーロッパは元の状態に戻ることになる(come full circle)。そもそも、各国の軍事力を統合し、アメリカの安全保障の傘と組み合わせることで、ヨーロッパ大陸は80年間にわたり平和を享受してきたのだ。もしヨーロッパ各国が80年ぶりに再び互いに戦争を始められるような状況になるのであれば、とるべき唯一の道は、各国の防衛産業を規制し、再び超国家的な権限の下に置くことであろう。

だからと言って、防衛を国単位で行えないということではない。適切に規制されたEU防衛市場において、各国が互いに兵器や装備品を発注・生産し、調達を調整(ソフトウェアの互換性がある兵器システムで相互に協力できるようにする)している限り、懸念すべきことはほとんどない。小規模な国々では、すでにこうした動きが広がっている。問題が生じるのは、ヨーロッパ全体を統括する基本計画が存在せず、その結果、ドイツがほぼドイツ国内の工場に、フランスがフランス国内の工場にのみ発注を行うような場合だ。

ドイツは将来戦闘航空システム計画の失敗から教訓を得たのだろうか? エアバス社のミヒャエル・シェルホルンが「ドイツの産業界に中心的な役割を担ってほしい」と発言したことは、そうではないことを示唆している。一部の人々は、ドイツが非ドイツ系企業と真のヨーロッパ・コンソーシアムを形成するような対応をとることを期待していた。彼らの考えでは、ドイツは産業ナショナリズム(industrial nationalism)の犠牲者となった経験がある以上、他国に対して同様のことを強いるのではなく、全ヨーロッパ規模での解決策を選ぶはずだと思われたからだ。

しかし、実際にはそうならなかった。ドイツはエアバス社を主導役とし、数社のドイツ系パートナー企業を従えた新たな戦闘機開発プログラム「ティーム・ジェネレーション6(Team Gen 6)」を立ち上げた。要するに、ドイツはダッソー社に対抗しうる「ナショナル・チャンピオン(national champion、自国を代表する有力企業)」を育成することで、報復に出ようとしているのかもしれない。

フランスとドイツの企業が共同所有するKNDS戦車プロジェクト(KNDS tank project)も順調とは言えない。ここでもドイツは共同所有のあり方に不満を抱き、独自の戦車開発に乗り出したと報じられている。新たな戦車コンソーシアムには他のヨーロッパ企業も参加しているが、ドイツ主導であり、フランス企業は排除されている。一方、海洋哨戒プログラムである「仏独海洋航空戦システム(Maritime Airborne Warfare System、MAWS)」もストップした。さらに宇宙・衛星プロジェクト(偵察や通信を担う最大1000基の衛星群を構築する計画)においても、ドイツは当初協力を予定していたフランスのパートナーを計画から外した。

ヨーロッパ統合の伝統的な推進役であるフランスとドイツが防衛プロジェクトを巡って対立し、時には報復的な動きさえ見せる中、今や他の国々には、そうした報復の連鎖を未然に防ぎ、この分野における業務分担や知的財産の扱いに関するヨーロッパ共通のルール作りを推進する役割が求められている。

ここで北ヨーロッパ諸国が役割を果たすかもしれない。世界的な地政学的危機の渦中にあり、バルト三国、ベネルクス諸国、ポーランド、そしてEU非加盟のノルウェーに囲まれたスウェーデン、デンマーク、フィンランドといった国々は、共同プロジェクトの必要性を痛感しており、ブリュッセル(EU中枢)において初めて声を上げ、主導権を握ろうとしている。特にスウェーデンは強固な防衛産業を擁しており、ベルリンのシンクタンクであるドイツ外交評議会で地政学経済プログラムを率いるシャヒン・ヴァレは、「ヨーロッパの防衛における調整役(aggregator)として台頭する可能性がある」と指摘している。ヴァレによれば、スウェーデンは「周辺に位置する重武装の中立国(well-armed neutral on the margins)」という立場からヨーロッパの表舞台へと移行しつつあり、フランスやドイツを含む複数の企業や国々と契約を結んでいる(ただし、フランスとドイツが揃って関与する案件ではない)。

北ヨーロッパの各小国は、ヨーロッパ防衛の「要衝(anchor)」となり得るだろうか? あるいは少なくとも、機能不全に陥った仏独の防衛連携に対する十分な対抗勢力となり得るのだろうか? そして、もしフランスやドイツで極右勢力が政権を握った場合、この機能不全はヨーロッパにとってどれほど深刻な事態を招く恐れがあるのだろうか?

多くの疑問が残されている。しかし、一つ確かなことがある。その答えは、ヨーロッパの人々が自らの近年の歴史から何かを学んだのか、それとも学ばなかったのかを、いずれ明らかになるだろう。

※キャロライン・デ・グロイター:『フォーリン・ポリシー』誌のコラムニストであり、オランダの新聞『NRC』の欧州特派員兼コラムニストを務めている。現在はブリュッセル在住。Xアカウント:@CarolineGruyter

(貼り付け終わり)

(終わり)



sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 このブログで以前にもご紹介したが、ドナルド・トランプ大統領は大統領在職中であるにもかかわらず、頻繁にかつ大規模に株式取引を行い、巨額の利益を得ている。また、トランプ大統領の親族も同様のことを行っている。インサイダー取引や株価操作が疑われるが(この疑いは濃厚だと思われるが)、今のところ、深刻な問題になっていない。以下の記事であるように、司法長官代行がトランプの親族と事業体に対する税務調査の永久免除を発表したことや、トランプの株式取引が政府措置に先んじる形で行われたことを考えると、これは深刻な問題である。何も問題がないのなら税務調査の永久免除ということにはならない。「何もやましいことはない。是非調べてください」ということになる。それがそうではないというのは犯罪行為があったということを自白しているようなものだ。

「トランプ取引」の具体例としては、2026年1月6日にエヌヴィディア株を購入し一週間後にエヌヴィディアへの輸出許可が出たこと、米商務省がトランプの親族と利害関係を持つ量子コンピューティング企業への投資を発表したこと、UAEからトランプの暗号通貨ベンチャーへの巨額投資、不動産取引、国防総省と契約を結んだドローン企業への出資などが挙げられる。トランプは制度を悪用してむしろ古風で露骨な私利追求を加速させているという指摘が出ている。

下記論考の著者ザカリアは、この件に関して、アメリカの制度的脆弱性を露呈しており、建国の父たちの憲法設計は公職者が共有する「市民的規範」を前提としていたが、現実には政党や支持基盤の個人崇拝によりその前提が損なわれつつあると指摘している。また、こうした非常事態に対する成熟した対応は報復ではなく法の支配の回復であり、トランプ政権の後には規範を法制化し大統領の倫理的免責を制限することで、大統領職が二度と一族の私的ビジネスの場とならないよう法的仕組みを確立することが急務であるとも主張している。

トランプ一族が大統領職を利用して巨額の利益を手にしていることは、今は問題にならなくても、退任後にはやはり大きな問題となるだろう。トランプとトランプの子供たちに対して、日本で言えば国税庁にあたるIRS(内国歳入庁)が徹底的な調査を行うだろう。税務調査の永久的な免除ということはまず許されない。トランプ以降の政権で、必ず問題となり、覆されることになる。そして、厳しい調査が実施され、逮捕者が出るほどのスキャンダルになる可能性もある。アメリカの法の支配と規律が試されることになる。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプの極めて無謀な2期目(Donald Trump’s Incredibly Reckless Second Term)

-歯止めを失い利益追求へと向かう大統領。

ファリード・ザカリア筆

2026年5月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/22/trump-family-corruption-immunity-loyalty-second-term-united-states/

ドナルド・トランプ大統領の2期目について、グリーンランドやカナダを併合しようとする拙劣な試み、世界の大半を対象とした大規模な関税引き上げ、法律を無視した非人道的かつ効果の少ない移民取り締まり、そして国連の承認も連邦議会との協議も明確な戦略もなく突如として開始された戦争についてどうしても目が留まる。従って、『ワシントン・ポスト』紙のオーナーであり、明らかに聡明で成功を収めた実業家であるジェフ・ベゾスが今週、「彼(トランプ)は1期目の頃よりも、より成熟し、より自制の効いた人物になっていると思う」と語ったのを聞いて、私は驚かされた。

トランプの1期目が「自制の効いた(disciplined)」ものだったのは、彼自身に自制心があったからではなく、彼が何らかの制約を受けていた(constrained)からだ。トランプは、不本意ながらも、共和党主流派や国家安全保障の専門家エリートたちの意見に従うことが多々あった。初期の立法課題はポール・D・ライアン連邦下院議長によって形成され、ラインス・プリーバス首席補佐官によって実行された。経済顧問のトップであったゲーリー・コーンは、トランプが長年望んでいた世界的な関税引き上げを思いとどまらせようと繰り返し説得した。周囲の将軍たちは、イランに対しては慎重な対応を、NATO(北大西洋条約機構)に対しては支持を、そしてウクライナに対しては武器供与を行うよう促した。

しかしながら、トランプがその1期目から学んだ教訓は、「専門知識が重要である」ということではなかった。「専門家たちは十分に忠実ではなかった」ということだった。2021年1月6日の連邦議事堂襲撃事件の後、多くの政府高官が彼から距離を置き、中には彼を公然と非難する者さえ出てきた。そのため今回、彼は「忠誠(fealty)」を最大の資質とする人々を周囲に固めた。経歴が平凡であればあるほど好都合だ。そうした人々は、自らの地位の全てを彼に負っているからだ。そこでは、プロセスは衝動に、手続きは直感に、そして統治は「腹の虫(直感的な思いつき)」に取って代わられている(Process has given way to impulse, procedure to instinct, government to gut)。

しかし、トランプの1期目と2期目の間で最も際立った違いは、政策そのものではない。それは「私腹を肥やすこと(enrichment)」―その規模、厚顔無恥さ、そして抑制に対する露骨な軽視―にある。今週初め、司法長官代行は、トランプ本人、その家族、および彼の事業体に対し、過去の税務関連の不正行為に関するあらゆる監査や捜査を免除すると発表した。しかもその発表によれば、この免除措置は「永久に(forever)」続くものとされている。

その前の週、トランプは自身の株式ポートフォリオにおいて、第1四半期だけで約3700件もの取引が行われていたことを明らかにした。その多くは、ある銘柄にとって有利な政府の措置や声明が出る直前にその株が購入されるという、疑わしいほど都合の良いパターンをたどっていた。例えば、今年1月6日にはエヌヴィディア(NVIDIA)の株式を50万ドル分購入しているが、その1週間後、エヌヴィディアはH200チップを中国へ販売する許可をアメリカ政府から得ている。

それだけではない。今週、米商務省はトランプ一家が利害関係を持つ量子コンピューティング企業への投資を発表した。さらに、トランプ一家の暗号通貨ヴェンチャー(crypto venture)に対するUAE(アラブ首長国連邦)からの5億ドルの投資や、この企業のステーブルコインを利用したUAEからの20億ドルの投資、トランプ・オーガナイゼイションによる相次ぐ不動産取引、あるいはトランプ一家が出資し後に国防総省との契約を獲得したドローン企業といった事例も忘れてはならない。ある数字が全てを物語っている。ロイターの試算によれば、2024年前半から2025年前半にかけて、トランプ・オーガナイゼイションの収入は5100万ドルから8億6400万ドルへと急増した。これはある種の「規律(discipline)」を示唆している。すなわち、大統領という地位を金銭的利益に変えることに専念する、執拗なまでの規律である。

トランプ・オーガナイゼイションは、トランプ本人やその家族、そして組織自体が、個別の投資の指示や影響力行使に関与することはないと主張し続けてきた。

より根本的な疑問は、なぜこのようなことが可能なのか、そしてなぜこれほど抵抗が少ないのか、という点にある。汚職を研究する専門家たちは長い間、先進民主政治体制国家における不正行為は、選挙献金やロビー活動のネットワーク、コンサルティング契約といった、より巧妙で制度化されたものになると想定してきた。しかしトランプは、先進工業諸国の精緻なシステムを悪用し、それとは対照的な、はるかに粗野なもの―つまり、古臭い個人的な私腹を肥やす行為old-fashioned personal grift()―を加速させている。

一般国民は懸念を抱き、その数は増えている。しかし、トランプを抑制し得る唯一の支持層である「MAGA(Make America Great Again)」の支持者たちは、そうは思っていないようだ。極端な分断が進む国(a hyperpolarized country)であるアメリカでは、汚職はもはや客観的な道徳的欠陥(an objective moral failing)としては判断されない。それは「自分たちの仲間(tribe)」というフィルターを通して見られるものとなっている。「自分たちの側」が行うことであれば、それは「フェイクニューズ(fake news)」か「巧みな政治(clever politics)」、あるいは「正当な報復(justified revenge)」のいずれかとして片付けられてしまう。

この事実は、アメリカの体制が抱えるより根深い脆弱性を露呈させている。建国の父たち(Founding Fathers)は見事な憲法上の枠組みを構築したが、その基盤には明文化されなかったある前提があった。それは、公職に就く者たちが、不文律としての「市民的規範」(unwritten civic norms)に対する共通の責任意識を保ち続けるという前提である。ジェイムズ・マディソンが描いた「野心には野心をぶつけて対抗させる(ambition must be made to counteract ambition)」という構想は、連邦議会が行政権力に対して自らの権限をあくまで守り抜くことを前提としていた。マディソンは、1人の人物への個人崇拝(personality cult)のために、政党が自らの制度的な野心や矜持を放棄してしまうような事態など、想像をしていなかったのである。

法的な歯止め(legal guardrails)は、多くのアメリカ人が認識しているよりもはるかに脆弱なものだ。大統領は、連邦政府の一般的な利益相反法規(federal conflict-of-interest laws)の適用を事実上免除されている。上述したような行為の多くは、たとえ閣僚のトップであっても深刻な法的危機の渦中に追い込まれるようなものだ。しかし大統領に関しては、最高裁判所が「公的な行為(official acts)」に対する唯一の是正手段は弾劾(impeachment)と、連邦上院の3分の2以上の賛成による有罪判決(conviction)のみであるとの判断を下している。党派対立が激化する現代において、それを実現するには「市民的奇跡(a civic miracle)」とも呼ぶべき事態が必要となるだろう。

こうした常軌を逸した事態に対する成熟した対応とは、報復(revenge)ではなく、法の支配の回復(a restoration of the rule of law)である。トランプ政権の後、アメリカという共和国にとっての急務となるのは、規範を法制化し、大統領職に認められている倫理的な免責特権を制限することだ。そして、世界最高位の公職が二度と一族の私的なビジネスの場と化すことのないよう、法的な仕組みを確立することである。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

(貼り付け終わり)

(終わり)



sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ