古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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2026年10月

 古村治彦です。

 昨年出した拙著『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』(ビジネス社、2025年)で、シリコンヴァレーを拠点とした「新・軍産複合体(Neo Military-Industrial Complex)」が作られているということを明らかにした。私がアメリカで新・軍産複合体の形成が進んでいるということを本として発表したのは、『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(終話システム、2021年)からだ。それから数年が経過し、その姿が明らかになりつつある。書籍へのリンクはページの下にあるので、そこで是非お買い上げいただき、お読みください。

新・軍産複合体は戦車やミサイル、戦闘機ではなく、ドローンとソフトウェア、AIが主力製品である。そして、アメリカ国家も大きな防衛システムにテック産業を中心に参画させようとしている。それが、ドナルド・トランプ大統領がぶち上げた「ゴールデンドーム計画」である。これは、アメリカの国全体を1つのドームで覆うようにして(物理的にではなく)、防衛システムを構築するということであり、そのためにはビッグデータ解析などのプログラムが必要になる。そこに、トランプ大統領を支持し、2016年の大統領選挙で当選させたピーター・ティールのパランティア社やトランプと就かず離れずの盟友イーロン・マスクのスペースX社、VR開発の若き天才と称賛され、ティールやマスクの支援を受けてドローン開発企業を立ち上げ成功したパルマー・ラッキーのアンドゥリル社が参画することがすでに決まっている。

 先週、ピート・ヘグセス国防長官が現役将校を前にした演説(「軍の現状」という題名)を行い、」その中で、将官クラスの人員を20%削減するという内容があり、日本でも報道された。重要なことは、「プロジェクト・メリディアン(経線、子午線の意味)」の立ち上げを発表したことだ。これは、自律型(AI)兵器や最先端技術の兵器利用の開発・試験。実践配備のための大枠を答申することを目的としている。

このプロジェクトの共同座長に、イーロン・マスク、パルマー・ラッキー、そして、ニュート・ギングリッジ元連邦下院議長が就任し、120日後に報告書を発表するといとになった。マスクとラッキーについては繰り返さないが、ギングリッジは下院議長を退いて長いが、アメリカ政界に隠然たる影響力を保持している。共同座長にマスクとラッキーが任命されていることの意味は大きい。なぜならば、アメリカ軍と共同で兵器開発やソフトウェア開発を行うのは彼らの創業した企業群であり、そこにはピーター・ティールのパランティア社も絡んでくるのは理の当然だからだ。ここから「自律型戦軍」が立ち上がると、マスクやラッキーの影響力も大きく働く部隊が誕生するということになる。シリコンヴァレーのテック企業が国家プロジェクトに参画し、大きな利益を得る。それが新・軍産複合体の構造ということになる。

 シリコンヴァレーの起業家たちはリバータリアンと呼ばれる、市場と自由を至上とし、国家の介入を嫌う、国家に関わることを嫌うとされてきた。しかし、実際には国家と深く結びつくことで技術開発を進め、巨額の利益を得るという形になっている。新自由主義時代の次は国家の時代が戻ってくる。それをシリコンヴァレーが先取りしていると言えるだろう。

(貼り付けはじめ)

ピート・ヘグセス国防長官が軍事兵器開発プロジェクトにイーロン・マスクを起用(Pete Hegseth Taps Elon Musk For Military Weapons Development Project)

アントニオ・ペケーノ四世(『フォーブス』誌スタッフ、テック産業などの特報担当ニューズ記者)筆

2026年9月30日

『フォーブス』誌

https://www.forbes.com/sites/antoniopequenoiv/2026/09/30/pete-hegseth-taps-elon-musk-for-military-weapons-development-project/

●重要事項(Topline)

ピート・ヘグセス国防長官は、スペースX社の経営者であるイーロン・マスクを「プロジェクト・メリディアン(Project Meridian[子午線・経線・頂点の意味])」の共同リーダーに指名した。この億万長者である実業家は、アメリカ軍向けの新たな兵器や技術の開発について調査・特定・提案を行うこの新イニシアティヴにおいて、主導的な役割を担うことになる。

●重要な事実(Key Facts)

・ヘグセス長官は、マスクが、アンドゥリル(Anduril)社およびオキュラス(Oculus)社の共同創業者であるパルマー・ラッキー、そして、元連邦下院議長ニュート・ギングリッチ(ジョージア州選出、共和党)と共に、このプロジェクトを共同で主導する。

・「プロジェクト・メリディアン」の立ち上げに関する覚書には、このプロジェクトが「将来の戦場を研究し」、アメリカ軍将兵が「そうした環境で優位に立つ」ための兵器や技術を特定し、さらに「それらの能力の開発、試験、実戦配備を開始する(start developing, testing and fielding these capabilities)」ための解決策を提案すると記されている。

・覚書の中でマスクの名は明示されていないが、「プロジェクト・メリディアン」は「国防総省外の重要な視点を活用し、トップクラスの技術者、イノヴェーター、ビジネスリーダー、政策立案者、国家安全保障の専門家からなるグループの知見を取り入れる」としている。

・このプロジェクトの調査結果と提言は2027年1月28日までにヘグセス長官のオフィスへ提出される予定だ。

●注目すべきポイント(What To Watch For)

アメリカ国防総省のウェブサイトによると、このプロジェクトの提言は、機密指定されていない報告書として一般に公開される予定だ。

●重要な背景(Key Background)

国防総省によるこのプロジェクトは、昨年「政府効率化省(Department of Government Efficiency、DOGE)」を率いたことに続く、マスクとトランプ政権との新たな関わりを示すものとなる。DOGEにおいて、マスクは「特別政府職員」として組織を主導したが、法的に定められた130日間の任期満了をもって退任した。「プロジェクト・メリディアン」におけるマスクの役割は、公式な役職というよりは、むしろ助言を行う立場に近いものと見られる。マスクは2024年の大統領選挙でドナルド・トランプを支持・献金し、トランプの2期目の初期には自ら「親密な相棒(First Buddy、ファースト・バディ)」という呼称を受け入れていた。しかし、連邦財政赤字を拡大させると主張してトランプの「一つの美しい予算案(Big Beautiful Bill)」を激しく批判したことで、両者の関係は決裂した。マスクが新党結成を示唆し、さらにこの予算案への批判を続けたのに対し、トランプはテスラ社やスペースX社への連邦補助金を打ち切ると警告した。両者の対立は2025年6月に決定的となった。当時、マスクは未公開の「エプスタイン文書」にトランプの名前が含まれており、それこそが文書が公開されない理由だと主張した。その後、両者の関係は修復に向かい、今週ホワイトハウスで開催されたハイテク・サミットでは、マスクが重要な役割を果たした。このサミットは、人工知能(AI)とそれが人類にもたらす短期的な存続の危機に対する懸念が高まる中で開催された。

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ニュート・ギングリッチが国防総省の「将来の戦争」に関する120日間のタスクフォースで共同リーダーに指名される(Newt Gingrich Tapped by Pentagon to Co-Lead 120-Day Future of Warfare Task Force)

コリン・ラッグ筆

2026年10月1日

『コリン・ラッグ・ニューズ』

https://www.collinruggnews.com/newt-gingrich-tapped-by-pentagon-to-co-lead-120-day-future-of-warfare-task-force/

ニュート・ギングリッチ元連邦下院議長が、国防総省の「プロジェクト・メリディアン(Project Meridian)」を共同主導する人物として選出された。これは、将来の戦場におけるアメリカの優位性を確保するために必要な兵器、自律型システム、および先端技術を特定することを目的とした、120日間の取り組みだ。ピート・ヘグセス国防長官は、ヴァージニア州クワンティコ海兵隊基地で行った「軍の現状(State of the Force)」に関する演説の中でこの人事を発表し、ギングリッチをイーロン・マスクやパルマー・ラッキーといった著名なテクノロジー業界のリーダーたちと並ぶ役割に据えた。

この戦略パネルは、21世紀型の防衛能力を開発・試験・実戦配備するための、実行可能な提言をまとめることを目指している。ヘグセス長官は、軍事戦略の抜本的な見直しの一環としてこの諮問プロジェクトを立ち上げ、ロボット工学、人工知能(AI)、最先端の作戦用ハードウェアを軍がどのように運用すべきか、そのあり方を再構築する任務を民間出身のリーダーたちに託した。

「プロジェクト・メリディアンは、イーロン・マスク、パルマ―・ラッキー、そしてニュート・ギングリッチという、我が国屈指の英知を持つ3名によって共同主導される」。

●プロジェクト・メリディアンの内部:現代の戦闘に向けた120日間の青写真(Inside Project Meridian: The 120-Day Blueprint for Modern Combat)

「プロジェクト・メリディアン」の使命は、高強度紛争においてアメリカ軍が直面し得る具体的な作戦上のギャップを特定することにある。単なる理論的な研究にとどまらず、この諮問グループは即座に実行可能な導入プロセスを確立しなければならない。ヘグセス長官は、この委員会が全軍にわたり重要技術を試験・実戦配備するための実行可能な計画案を提示し、最終的に包括的な公開報告書と機密扱いの付録を作成することになると述べた。

このタスクフォースは、軍の指揮系統における大規模な構造改革と並行して活動する。ヘグセス長官は、戦闘軍全体にロボット・自律型システムを迅速に展開・拡大させることを目的に、「Autowarcom(オートウォーコム)」と称される新たな4つ星大将級の統合戦闘軍「自律型戦軍」を創設した。これにより、自律型システムに関するドクトリンが、高レヴェルの戦闘計画策定に直接組み込まれることになる。

●何故ギングリッチなのか? 政策のヴェテランがテック業界の巨人たちに合流(Why Gingrich? Policy Veteran Joins Tech Industry Giants)

イーロン・マスクやパルマー・ラッキーといったテック業界の有力者が、スペースX社やアンドゥリル・インダストリーズ社(両社とも国防総省と最大41億6000万ドル規模の契約を締結)を通じて防衛産業で大きな存在感を示す一方で、ニュート・ギングリッチは、数十年にわたる国家安全保障戦略および連邦議会工作の経験をもたらしている。ギングリッチはテック業界との直接的なビジネス上のつながりこそないが、軍事政策や防衛プロジェクトには長年関与し続けており、空軍大学(Air University)から名誉博士号も授与されている。

ギングリッチは長年にわたり、積極的な外交政策の姿勢を提唱してきた。その一例として、2005年当時からイランの脅威に対して一貫して厳しい態度を取ってきたことが挙げられる。ギングリッジが加わることで、政治・ドクトリン面での経験と民間セクターの迅速な開発能力が融合し、政策面での実績と商業的な製造力がバランスよく組み合わされることになる。

●防衛技術の優先順位をめぐるバランス調整(Balancing Defense Tech Priorities)

国防総省が防衛生産、ソフトウェア統合、無人プラットフォームのあり方を検討する中、このイニシアティヴは極めて重要な戦略的バランスの調整を迫られている。

・実戦配備の迅速化:数年を要する調達サイクルを短縮し、最前線の戦闘員向けに迅速な試作・実証(prototyping)を行う。

・自律型システムの大量展開:陸・海・空にまたがる多正面紛争シナリオに対応するため、自律型ハードウェアを大量に配備する。

・宇宙・サイバー領域での優位性確保:通信やリアルタイムの標的捕捉を支える軌道上での作戦上の優位性を維持する。

●再編をめぐる対立:文民改革派 vs. 軍上層部The Restructuring Divide: Civilian Reformers vs. Senior Brass

国防総省の主要な見直しは常に職業軍人が主導するものだという誤解が広く存在しますが、「プロジェクト・メリディアン」はこの前例を覆すものだ。共同リーダー3名はいずれも現役軍人としての経歴を持たず、ギングリッチはヴェトナム戦争時に学生および父親であることを理由とした徴兵猶予を受けており、マスクとラッキーは民間産業を通じて影響力を築いてきた。

今回の任命は、国防総省全体で大規模な組織・人員削減が進められる中で行われた。ヘグセスは、軍の将官(陸・空・海兵隊の将軍および海軍の提督)のポスト約800のうち20%を1月までに削減する計画を発表した。これは当初示唆されていた10%削減の倍にあたる。ヘグセスは、こうした将官の整理・削減は、肥大化した官僚機構や重複する階層を排除し、作戦上のヴィジョンを民間セクターのイノヴェーターや信頼できる政治家へと転換するために不可欠であると説明している。

■ニュート・ギングリッチ:防衛政策のドクトリン、長期的地政学戦略、そして、立法・行政間の連携調整

■イーロン・マスク:民間ロケット打ち上げシステム、宇宙領域での作戦、および軌道上防衛インフラ

■パルマ―・ラッキー:自律型兵器システム、AI搭載戦闘プラットフォーム、および巡航ミサイルの拡張可能な生産体制

提言策定までの期間はわずか120日間であり、ギングリッチをはじめとする共同リーダーたちは、1月に予定される指揮官ポストの削減が実施される前に、軍の近代化の優先順位を抜本的に見直すという極めて厳しいスケジュールに直面している。

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ピート・ヘグセス国防長官による将校への演説から得られる7つのポイント:戦争の未来、信仰、そして新たな地盤(7 takeaways from Hegseth’s address to officers: Warfare’s future, faith and a new base)

フィリプ・ティモティジャ、エレン・ミッチェル筆

2026年9月30日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/defense/6121765-pete-hegseth-takeaways-command-warfare-base/

ピート・ヘグセス国防長官は水曜日、現役の将校たちに向けた広範な演説の中で、矢継ぎ早にいくつかの発表を行った。

演説の冒頭、長官は自身の「十八番(bread and butter)」とも言えるテーマに終始した。すなわち、文化戦争(culture-war)をめぐる不満の表明、国防総省(DOD)からの「ウォーク(woke:社会正義や多様性に過度に配慮する姿勢)」の排除、イランとの戦争に関する報道をめぐるメディアへの批判、そして「戦士精神(warrior ethos)」の復活とアメリカ軍の「再建(rebuilt)」の宣言だ。

しかし一方で、長官は注目すべき発表もいくつか行った。それらは、信仰を重視する自身の姿勢を反映したものや、新たな戦闘軍(combatant command)の創設、大学との連携、そして各州知事が誘致を競い合うことになるであろう国内の新規軍事基地の構想などが含まれていた。

ヴァージニア州クワンティコ海兵隊基地で行われたヘグセス長官の52分間にわたる演説の要点は以下の通りだ。

(1)自律型戦闘に特化した新たな統合軍(New combatant command focused on autonomous warfare)

ヘグセス長官は、ドローンや防衛用ロボット技術といった自律型戦闘能力(autonomous warfare)の開発に特化した、新たな4つ星大将が指揮する戦闘軍の創設を発表した。

ヘグセス長官によると、この組織は「現代の軍事史上、平時における最も迅速な転換」として、戦闘軍全体に自律型・ロボット技術の能力を拡大・展開するための「軍種(陸・海・空軍など)に匹敵する権限」を持つことになる。運用開始は来年10月1日を目指している。

「自律型戦闘軍」、通称「AutoWarCom(オートウォーコム)」は、当初、元海兵隊員で現在は国防総省の「国防イノヴェーション・ユニット(Defense Innovation Unit、DIU)」を率いるオーウェン・ウェストと、海軍特殊部隊SEALsの上級曹長であるマックス・ストラサイザーが主導する。その後、4つ星大将の指揮官が発表される予定だ。

「この司令部は、専任の人員、予算、調達権限を有し、将校および下士官・兵のための専門的な軍務キャリアパスを構築することになる」と、ヘグセスは水曜日の覚書で述べた。

ヘグセス長官は覚書の中で、この新しい司令部が演習や過酷な環境下で「現実的な対抗勢力(realistic opposition)」を相手に装備や部隊編成の試験を行い、戦場で何が有効かを見極めることになると説明した。

(2)「プロジェクト・メリディアン」と戦争の未来(Project Meridian and warfare’s future)

ヘグセス長官は、戦争の未来を検討する国防総省の新たな取り組み「プロジェクト・メリディアン」を、スペースX社およびxAI社のCEOであるイーロン・マスク、アンドゥリル社の共同創業者パルマー・ラッキー、そしてニュート・ギングリッチ元連邦下院議長(ジョージア州選出、共和党)が主導することを明らかにした。

ヘグセス長官は、このプロジェクトの目的は、アメリカのイノヴェーター、上級指導者、技術者らの力を結集し、数十年先を見据えて「明日の紛争に向けた独創的な解決策を予測すること」にあると述べた。

「意図的に未来志向のものにしている」とヘグセスはこのプロジェクトについて語り、新たな戦略や政策を策定するためのものではないことを明確にした。

「将来の紛争を最も的確に予測できる人々が、必ずしも国防総省内にいる訳ではないということを認める謙虚さを持つべきだ」とヘグセスは述べた。「自ら問いを立て、自らそれに答えることには、明白なバイアスやリスクが伴うからだ」。

ヘグセス長官によると、マスク、ラッキー、ギングリッチは、エミール・マイケル国防次官(研究・工学担当)の指揮の下、「地下から月の彼方に至るあらゆる将来の戦場において、私たちの子供や孫の世代が必要とする兵器やシステムを、創造的な制約や制限にとらわれることなく発見、開発、実戦配備すること」に注力することになる。

ヘグセス長官が発表を行った際、これら3人の男性は全員ペンタゴン(米国防総省)に同席しており、ヘグセス長官は「プロジェクト・メリディアン」に関する最初の会合を、このイヴェントの直後に同省内の機密情報取扱施設(SCIF)で行うと述べた。

(3)各州に対して「次なる偉大なアメリカ軍基地」の誘致を求める(States invited to bid for ‘next great American’ base)

ヘグセスは各州知事に対し、「次なる偉大なアメリカ軍基地」の受け入れ先となるための誘致提案を行うよう呼びかけた。

「我々は全米の知事および州兵総監に対し、この偉大な共和国のために立ち上がり、最高の提案を提示するよう呼びかける」とヘグセス国防長官は述べた。

「もしもあたなの州が、1万5000人から2万5000人の偉大なアメリカ軍将兵を受け入れる名誉を望むなら、その理由と具体的な実現方法を示して欲しい。煩雑な手続きを排除し、用地を提供し、軍人の家族を最大限に歓迎する体制を整える」と、彼は演説の中で語った。

ワシントン州のエヴェレット海軍基地は1990年代に開設された、アメリカ国内で最後に建設された基地である。この基地には、複数の誘導ミサイル駆逐艦や沿岸警備隊の艦船が配備されている。

ヘグセス長官は、新しい基地は「無機質な政府施設」にはならないと述べ、ペンタゴンは「ダイナミックかつ自立した戦力投射の拠点」を計画・設計していくと主張した。

ペンタゴンによると、この基地は商用電力網から独立し、独自の発電設備、自律型システム、高度な防空機能を備えたものになるということだ。

「自家発電、近代的な防空システム、最先端技術を備えた、数十万エーカー(数千平方キロメートル)規模の施設だ。まさに要塞(fortress)だと考えていただきたい」とヘグセス長官は語った。将兵には「最高級の兵舎や世界水準の訓練施設」が提供され、その家族には「質の高い住宅、学校、保育、医療施設を備えた活気あるコミュニティ」が用意されることになる。

ヘグセス長官は、国防総省のエネルギー・施設・環境担当次官補であるデール・R・マークスに対し、国防総省が進める基地の最適地の特定、評価、選定、および準備に向けた取り組みを主導するよう指示した。

「破壊的技術の急速な進歩、対等な敵対国間での戦略的連携の強化、そして国防や国土の重要インフラに対する執拗かつ巧妙なサイバー攻撃の継続、これらにより、現代的かつ強靭な態勢の構築が不可欠となっている」とヘグセス長官は水曜日の覚書で述べた。

(4)基地を民間送電網から切り離す「フォートレス・アメリカ」構想(‘Fortress America’ takes bases off civilian grid)

水曜日に明らかにされたもう1つの新たな取り組みが「要塞化されたアメリカ(Fortress America、フォートレス・アメリカ)」構想である。ヘグセス長官はこの構想について、「アメリカ本土のための国家的な保険(a national insurance policy for the American homeland)」になると主張した。

「フォートレス(Fortress)」とは、「強靭性、部隊リソース、エネルギー供給、生存性のための連邦業務(Federal Operations for Resilience, Troop Resources, Energy Supply and Survivability)」の頭文字をとったものであり、ヘグセス長官によれば、この構想の下ではアメリカ内の全ての主要軍事施設が、民間の送電網から独立して独自の電力を供給することになるという。

「敵対勢力がサイバー攻撃や破壊工作、あるいはその他の手段で送電網を停止させたとしても、私たちの基地の明かりは消えない。航空機は飛び続け、指揮センターの機能が停止することもない」とヘグセス長官は語った。

この取り組みはまた、レアアース(希土類)、特殊金属、半導体、推進剤といった重要なサプライチェインを国内回帰させることも意図している。これらは全て「アメリカで採掘され、米国で精製され、米国の労働者によって米国で製造される」ものとなる。

加えて、ヘグセス長官は、弾薬、燃料、医薬品、血液といった極めて重要な物資について、国防総省が戦略的備蓄を積み増すと述べた。その備蓄量は、「世界の供給網が寸断されたとしても、実際の戦争では間違いなく寸断されるものだが、アメリカが戦い続けられるほど十分な規模」にするという。

これを実現するため、ヘグセス長官は、アメリカ軍が「アメリカ国内のあらゆる施設をサイバー侵入、破壊工作、ドローン攻撃に対して強靭化し(hardening)、高地や電波領域、衛星、周波数帯といった優位性を確保している」と語り、国防総省こそが「国家全体の保険(the insurance policy for the entire nation)」になるだろうと主張した。

(5)士官候補生のための非アイヴィーリーグ大学と連携(New non-Ivy League partnerships for cadets)

ヘグセス国防長官はまた、士官候補生の層を拡大するために、新たに5つの大学と提携すると発表した。

「アメリカズ・コア・オブ・カデッツ(America’s Corps of Cadets)」と呼ばれるこの軍事訓練プログラムには、ルイジアナ州立大学、リバティ大学、タスキーギ大学、ミシシッピ州立大学、ヒルズデール・カレッジが参加する。

ヘグセス長官は、「私たちには、士官学校や上級軍事大学といった教育機関から輩出される士官がさらに必要であり、今日、それを実現する」と述べた。

ヘグセス長官によれば、各校は「卓越した軍事大学(distinguished military college)」として位置づけられ、「士官候補生の規律、戦術教育、軍事組織のあり方において、極めて高い水準を維持すること」が求められるという。

アメリカ軍の士官の多く​​は、陸軍士官学校(ウェストポイント)、海軍兵学校(アナポリス)、空軍士官学校といった士官学校から任官しており、テキサスA&M大学やシタデル(サウスカロライナ州の軍事大学)などの上級軍事大学がそれに続いている。

水曜日に公表された国防総省の覚書によると、ヘグセス長官のオフィスは30日以内に実施に着手し、4カ月以内には、アンソニー・タタ国防次官(人事・即応担当)がこのプログラムの主導的な担当部署へと移行することになる。

「アイヴィーリーグからリベラルアーツ・カレッジに至るまで、私たちの大学は、反米的かつDEI(多様性・公平性・包摂性)を崇拝する『ウォーク(Woke)』思想の工場(anti-American DEI [diversity, equity and inclusion] worshipping woke factories)と化してしまった。不屈の精神や勇気といった資質は、ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)や社会正義に取って代わられた」とヘグセス氏は述べた。「神と国家は、チェ・ゲバラやクリティカル・セオリー(批判理論)と置き換えされたのだ」。

(6)宗教問題担当室の設置(Creates Office of Religious Affairs)

ヘグセス長官は最後の宣言の中で、国防総省内に「トップに直属する」宗教問題担当室を設置すると表明した。

「最先端技術、新たな基地や駐留体制、そしてより優れた教育の仕組み、これらは全て、私たちの共和国にとって最も不可欠な要素である『信仰(faith)』がなければ不完全なものに過ぎない」とヘグセス長官は集まった軍人たちに語りかけた。

ヘグセス長官は、部隊がどこに派遣されようとも「最高水準の宗教的支援(first-class religious support)」を提供することは国防総省の「神聖な責務(a sacred duty)」であると述べ、この問題を二の次として扱ってきた過去の政権を厳しく批判した。

「ポリティカル・コレクトネスや世俗的ヒューマニズムは発言権を得たが、従軍牧師(chaplains)はそうではなかった。予算は削減され、資源や人員の必要性は無視され、基地内の礼拝所は荒廃した」とヘグセス長官は主張した。「信仰や宗教に関する決定は、個室にこもる世俗的なキャリア官僚や、お役所仕事の規則を振りかざす弁護士たちによってなされてきた」。

ヘグセス長官は、水曜日から「宗教問題担当室(Office of Religious Affairs)」が「長官への直通ルート」を持つことになり、この部局は「予算の確保、インフラ整備の要求、そして宗教的支援の強化」を行うことになると述べた。

ヘグセス長官は頻繁に自身の信仰について言及しており、軍人の精神的な健康は、身体的・精神的な健康と「同等に重要である」と明言している。

ヘグセス長官は今年初め、アメリカ軍の従軍聖職者団(Chaplain Corps)の制度を刷新し、聖職者である将校が階級章を着用するのを廃止し、代わりに自身の宗教的所属を示す記章を着用すると発表した。これは従軍聖職者団組織に対する2つの大きな変更点の1つだ。

(7)ヘグセス長官が将官の削減を擁護(Hegseth defends officer cuts)

演説の冒頭で、ヘグセス長官は国防総省における将官(陸軍・空軍の将官および海軍の提督)の20%を削減するという自身の計画を擁護し、国防総省においてこの大規模な刷新は長らく必要とされていたものだと主張した。

「メディアはこれを粛清(a purge)と呼ぶが、私はこれを説明責任(accountability)であり、長らく遅れていた措置、率直に言えば、最低限必要なことだと捉えている。いつものことだが、メディアが非難の言葉として投げかけるものを、私はむしろ成果(an accomplishment)として誇りに思っている」とヘグセス長官は述べた。

ヘグセス長官は「私は申し上げたい、その組織文化を助長してきた当の本人たちを使って、文化を変えることなどできない。どの階層においても、人事はすなわち政策そのものなのだ」と語った。

この動きは陸軍、海軍、空軍の全軍にわたる上級幹部職に影響を及ぼすものであり、ヘグセス長官が将官の数を10%削減する措置を主導してから1年を経て実施されるものとなる。

彼はすでに各軍種にわたり20人以上の高級将校を解任または退任に追い込んでおり、こうした人事異動は、与野党双方の連邦議会議員に動揺を与えている。

ヘグセス長官は演説の中で次のように述べた。「昨年の演説は、あの将軍たちに向けたものではなかった。あれはあなた方、つまり私たちの軍の屋台骨であり、最前線に立つ現在および将来のリーダーたちに向けたものだった」

(貼り付け終わり)

(終わり)


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『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 アメリカ帝国の衰退は明らかになっている。ドナルド・トランプが大統領になってもそれは変わらない。大きな流れを変えることはできない。誰が大統領になろうとも変わらない。アメリカの一極支配は終わる。中国が対等な超大国となり、G2で世界を管理することになる。世界は西側諸国(the West)と西側以外の国々(the Rest)に分かれる。そして、これからは西側以外の国々の時代になっていく。500年続いた西洋近代支配は終焉を迎える。日本人は西洋に憧れ、名誉白人になることに狂奔したが、それも意味をなさなくなるだろう。
 下記論考は「トランプがアメリカを弱体化させた」という趣旨であるが、私の認識は異なる。トランプであろうが、誰であろうが、アメリカの弱体化を止めることはできない。ジョー・バイデンでも駄目だったではないか。アメリカの信用を維持できたかとなるとそれは違うということになる。ドナルド・トランプの第一次政権が中国に対して貿易戦争を仕掛け、それに対して、民主党側は批判したが、バイデン政権もまた中国に対して厳しい姿勢を維持するしかできなかった。それは、アメリカの国力が落ち、保護貿易をするしか他に選択肢がないからだ。
 米ドルと米国債の信認が落ちているのもその流れの中にある動きだ。アメリカの経済力の低下は戦後80年の大きな流れだ。20世紀であれば、米ドルは世界最強の通貨であり、経済が破綻しているような国家、自国通貨の信用が全くない国で、米ドルが流通するということは普通にあった。米国債は世界で最も安全な資産であった。世界各国の外貨準備や中央銀行の資産は米ドルと米国債で形成されていた。石油取引は米ドルでのみ実施されるというペトロダラー体制もあり、ドルは世界最強の通貨であった。単純化して言えば、アメリカはドル紙幣を擦りさえすればなんでも買うことができた。世界各国は農産物や工業製品をアメリカに売って、ドルを手に入れて石油を買う、もしくは安全な米国債を買うということをしていた。アメリカに投資をすることで利益を上げることができた。そのようなアメリカにとっては天国のようなシステムは終わりを迎えようとしている。世界各国は米ドルではなく、実物資産、具体的には金の購入に動いている。
 経済力が低下すれば、軍事力も低下する。アメリカは大規模戦争を戦う力を失いつつある。ウクライナ戦争への支援に加えて、イラン戦争も実施していることで、大規模戦争を行っているような状況であるが、アメリカ軍の物資や武器が不足し、補給が厳しいために、将兵の士気が低下しているということが報じられている。第二次世界大戦、朝鮮戦争、ヴェトナム戦争と20世紀のアメリカは大規模な戦争を長期間にわたって実施することができた。しかし、21世紀のアメリカにはそれだけの国力はない。
 繰り返しになるが、アメリカを弱体化させたのはトランプではない。弱体化したらトランプが大統領になったということの方が正確だ。そして、これは歴史の必然である。私たちは自身の頭の中を根本的に変更しなければならない。
(貼り付けはじめ)
トランプがアメリカを弱体化させた10の方法(The Top 10 Ways Trump Has Made America Weaker)

-彼はあらゆる意味で「悪い方向」においてアメリカ史上最も大きな影響を及ぼした大統領の1人だ。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2026年8月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/08/17/top-10-trump-america-weaker/

donaldtrump20250714001

ワシントンのホワイトハウスにある「ステイト・ダイニング・ルーム(公式晩餐会用食堂)」で開かれた「信仰担当室(Faith Office)」主催の昼食会にてウェイトトレーニングについて語るドナルド・トランプ米大統領(2025年7月14日)

MAGA(マガ):「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again)」。これこそが、ドナルド・トランプ米大統領が国民に掲げた公約だ。彼を選べば、国はかつての活力(mojo)を取り戻し、国内の調和、経済的活力、国内主権、そして世界的な影響力を備えた黄金時代(a golden age of internal harmony, economic vitality, domestic sovereignty, and global influence)に回帰する。それは、とりわけグローバル化の荒波に翻弄され、移民や「グローバリスト」が内側から国を蝕んでいると信じていたアメリカ人にとって、魅力的なヴィジョンとなった。

トランプ大統領の2期目が折り返し地点(the midway point)を迎えようとしている現在、彼がアメリカ史上最も大きな影響を及ぼした大統領の1人であることに疑いの余地はない。残念ながら、彼の行動がもたらした結果のほぼ全ては有害なものとなっている。それはアメリカの大多数の人々にとってだけでなく、世界におけるアメリカの相対的な力や地位にとっても同様だ。側近や家族は恩恵を享受しているかもしれないが、彼の行動が積み重なって生み出す結果は、「偉大さへの回帰(a return to greatness)」ではなく、より弱体化し、分断されたアメリカ(a weaker and more divided America)となるだろう。

その具体的な例を挙げていく。

(1)アメリカの約束に対する信頼の破壊(Destroying confidence in U.S. promises)。信用の重要性は時に過大評価されがちだが、約束が守られると信じられなければ、諸外国はワシントンと協力しようという意欲を失うだろう。訴訟や破産を繰り返した実業家としての経歴を通じてそうであったように、トランプは自身の脅しが大抵は中身のない虚勢(empty bluster)に過ぎず、その公約には何の意味もないことを繰り返し露呈してきた。彼はイランとの間で成功していた核合意を破棄し(その行動がうまく機能しただろうか?)、今では自身の1期目にカナダやメキシコと交渉し「史上最高の取引(the best deal ever)」だと自画自賛した貿易協定さえも非難している。関税を巡る二転三転する対応(on-again, off-again approach)、主要同盟諸国への支援打ち切りを繰り返す脅し、そしてウクライナによるパトリオット迎撃ミサイルの製造を容認するという提案を理由も示さずに撤回したことなど、これらは全て、彼の言葉に何の意味もないことを明白に物語っている。全くの無価値だ(Zip. Nada)。

これには現実的な結果が伴う。例えば、トランプが二枚舌(double-dealing)で予測不能な人物だというごく当然の評判は、彼がイランとの紛争を終わらせるのに苦労している理由の1つとなっている。イランの指導者たちは彼の言葉を一切信じておらず(なぜ信じる必要があるだろうか?)、彼を窮地から救い出す前に、まずは具体的な譲歩を求めている。また、世界各国がリスクを分散させ、より信頼できるパートナーを求めているのも、こうした理由があるからだ。

(2)アメリカ軍の能力低下(Reducing U.S. military capability)。巨額の予算を投じ、アメリカの「殺傷能力(lethality)」を誇示し、男性兵士のテストステロン確保も進めたにもかかわらず、トランプ大統領とピート・ヘグセス国防長官はアメリカ軍を弱体化させ、同盟国やパートナー国への攻撃を抑止するアメリカの能力を損なってきた。

どのようにしたか? イランとの愚かな紛争を始め、重要な兵器の備蓄を枯渇させ、艦船や飛行隊、兵士を何カ月にもわたって任務に就かせ続け(その結果、自殺未遂が相次いだと報じられている)、軍の能力を疲弊させた。こうした行動は、有益な軍事能力を無駄に浪費し、潜在的な敵国にアメリカの弱点を示し、兵士の士気を悲劇的な事態を招きかねないほど低下させた。トランプとヘグセスがアメリカの軍事資産を浪費している間に、将来の敵となり得る国々は、軍備を増強し、研究や訓練を重ね、着々と準備を進めてきた。

さらに悪いことに、トランプとヘグセスは軍を政治利用し、MAGA運動に忠実な組織へと変えようとしている。ヘグセスは、「ウォーク(woke 訳者註:社会正義や差別に対する意識の高い姿勢)」と見なした将校を積極的に排除しようとしてきた。また、彼らをよく知る上官からの推薦や輝かしい実績があるにもかかわらず、不釣り合いなほど多くの女性や有色人種の将校を解任したり、昇進を拒否したりしてきた。さらに、士官学校を含む軍全体にイデオロギー的な同調を強要しようともしている。

これは危険な動きです。故サミュエル・ハンティントンが著書『軍人と国家(The Soldier and the State)』で論じたように、軍を政治的争いから超越した存在に保つ規範や組織文化に基づく「軍の専門性(professionalism)」は、私たちの歴史を通じて大きな資産となってきた。将校は憲法に対して宣誓を行うのであって、特定の政党や大統領に対して行うものではない。彼らは「義務・名誉・祖国(Duty, Honor, Country)」を最優先する規範を重んじることが求められている。彼らは支持政党によって評価されることはなく、上級将校は時を経て両党の政権に喜んで仕えてきた。軍の上層部(およびいわゆる軍産複合体[military-industrial complex]の他の構成要素)は国家安全保障の問題に多大な影響力を持っているが、文民統制(civilian control)の下にあり、特定の政党が権力を不当に奪取したり維持したりするための道具となったことは一度もない。

今日でもその状況は変わっていないと私は考えるが、懸念すべき傾向が見られる。そして、もしトランプが軍を自身の権力のための忠実な道具に変えられるなら、間違いなくそうするだろうと私は確信を持っている。もし彼がそれに成功すれば、軍は戦闘力においてさらに劣る組織となってしまうだろう。

(3)外交能力の解体(Dismantling diplomatic capacity)。マルコ・ルビオは、国務長官、国家安全保障担当大統領補佐官、国立公文書館の長官代行など、多くの肩書きを(候補として)取り沙汰されてきたが、時に彼は、かつて牛乳パックに掲載されていた「行方不明の子供」の写真を私に想起させる。「この男性を見かけなかったか?」と尋ねたくなるほどだ。ルビオは、イランとの紛争やウクライナ問題など、今日国家が直面している主要な課題から事実上遠ざけられてきた。その一方で、彼とトランプは、再構築に何十年もかかるような形で、アメリカの外交能力と国際的な存在感を組織的に弱体化させてきた。

ルビオが国務省の指揮を執る中で、中国が国際機関への関与を拡大し続けている一方で、アメリカは60以上の国際機関から一方的に脱退した。ルビオは海外の領事館や事務所を閉鎖し、数十もの大使ポストを空席のままにしている。アメリカ外交官協会(the American Foreign Service Association)が実施した包括的な調査によると、回答者の98%が士気の低下を報告し、86%がこうした措置によって業務遂行能力が阻害されていると回答した。報告書のタイトルが全てを物語っている。アメリカの外交機関は「崩壊の危機(breaking point)」に瀕している。

トランプが好んで頼る特使たちが極めて有能かつ効果的に機能しているのであれば、それほど大きな問題ではないかもしれない。しかし、スティーヴ・ウィトコフやジャレッド・クシュナーといった素人の外交官、あるいはJ・D・ヴァンス副大統領の振る舞いを見れば、実際はそうではないことが明らかだ。

(4)アメリカの科学的優位性の毀損(Undermining U.S. scientific preeminence)。科学技術における主導権は、長年にわたりアメリカの世界的な力の基盤の1つとなってきた。中国が明確に理解しているように、科学的な力は将来さらに重要性を増すだろう。この課題に対し、トランプは何をしてきたか? 彼は広範な科学研究への連邦政府の支援を削減し、根拠のない理由で大学を攻撃し、無知で不適格な科学懐疑論者(ロバート・F・ケネディ・ジュニア保健福祉長官など)を要職に任命した。さらに、自身の発言やソーシャルメディアでの激しい投稿を通じて彼らの誤った主張を拡散し、科学者ではない人物を科学顧問に任命し、知識や専門性よりも無知の方が好ましいという考えを積極的に助長してきた。

こうした行動は影響を及ぼしているのだろうか? 間違いなく及ぼしている。アメリカ物理学協会(the American Institute of Physics)によると、物理学分野の博士号取得者がアメリカを離れる割合は過去30年間で最高水準に達しており、わずか1年前のほぼ2倍になっている。その結果生じるこの分野(および他の分野)での頭脳流出(brain drain)は、アメリカを、本来あるべき姿よりも知識、革新性、生産性、そして安全性の低い国にしてしまうだろう。それは、ワシントンにとって最大のライヴァルに科学的優位性を明け渡すことになりかねない「オウンゴール(an own goal)」だ。

(5)「グリーン・トランジション(環境に配慮した経済への移行)」への乗り遅れ(Missing the green transition)。これに関連する失策は、トランプが長年にわたり気候変動を否定し、再生可能エネルギーに反対し、化石燃料の燃焼拡大に固執してきたことに起因する。この分野の文献を読んだり、長期的な気候変動の傾向に注目したりしている人なら誰でも知っているように、こうした姿勢は狂気でさえある。それは、より深刻な気候問題や気候変動に関連する死者数の増加、そして多くの人々の苦しみを招くだけでなく、トランプの政策によって、アメリカが19世紀型の「煙突産業(旧来の重厚長大産業)」(the smokestack technologies of the 19th century.)の技術を担う一方で、中国が未来のグリーン技術(太陽光、風力、蓄電池など)を支配する状況を決定づけてしまった。核融合技術がごく近い将来に商業的に実現し、広く普及すると信じない限り、トランプによる気候変動問題への対応は、アメリカをより弱く、より貧しく、そしてより温暖な国にしてしまうだろう。

(6)法の支配の形骸化(Eroding the rule of law)。トランプが法や規則を軽視していることは良く知られている。彼は、自らの怒りを買ってしまった不運な個人への報復に法制度を利用する一方で、あらゆる法的制約から自らを守るために多大な労力を費やしてきた。彼の個人的な弁護士であり、極めて従順なトッド・ブランシュを司法長官に指名し、人事承認させたことは、こうした動きの最新の段階に過ぎない。彼のこうした取り組みは、イデオロギー的に足並みを揃え、従順な姿勢を示す連邦最高裁判所によって後押しされてきた。連邦最高裁は、ごく一部の場面では彼の行動を抑制したこともあったが、大半においてはそれを容認し、権限を強化する役割を果たしてきた。

なぜこれが重要なのだろうか? それは、アメリカの司法制度の公正さに対する信頼が、アメリカ人にとっても、またアメリカとの貿易や投資を望む外国人にとっても、安心感をもたらすものだからだ。法が公平に解釈され、偏りなく透明性を持って執行されるという信頼があれば、恣意的あるいは政治的動機に基づく決定のリスクが減り、ひいてはビジネスを行う際のリスクも低減される。仮にアメリカの司法制度が政治化し腐敗したと見なされるようになったとしても、外国人がアメリカとの関係を完全に断つことはないだろう。なぜなら、そうした問題がさらに深刻な国は他にも数多く存在するからだ。しかし、アメリカは、かつて自国を極めて魅力的なパートナーたらしめていた重要な特質の1つを、みすみす失ってしまうことになる。

(7)選挙の公正さへの脅威(Threatening electoral integrity)。民主政治体制は、自由で公正な選挙と、選挙結果が投じられた票を正確に反映しているという市民の信頼の上に成り立っている。トランプは当初から選挙制度の公正さに対して疑念を抱かせるような言動を繰り返してきた。その最たる例が、2020年の選挙で実際には自分が勝利したという、根拠のない主張を執拗に繰り返したことだ。実際、選挙の公正さを損なう行為の最も明白な例は、トランプ自身による2020年の敗北を覆そうとする試みだった。彼は怒れる群衆を扇動して連邦議会を襲撃させ、州の選挙管理当局者に圧力をかけて自身の票を上積みさせようとし、さらにはマイク・ペンス副大統領(当時)に対し、宣誓に背いて選挙結果の認定を拒否するよう迫った。真の選挙不正の証拠を探しているなら、これ以上の例はないだろう。

ここで懸念される危険は、選挙に対する国民の信頼が損なわれることで、敗者が有権者の多数の意思を拒絶し、不正に選ばれたと誤認している当局者の決定を受け入れなくなり、さらには国を分断する権力者共同謀議論(conspiracy theories)の餌食になってしまうことだ。選挙が常に不正操作されているという思い込みほど、愛国心や市民としての連帯感を蝕むものはないが、トランプとその取り巻きが行ってきたのは、まさにそのようなことなだ。

(8)権力の抑制と均衡の放棄(Abandoning checks and balances)。行政府の権限拡大はトランプから始まった訳ではない。トランプの2期目においてその動きを加速させた要因、連邦議会の無力さや、「単一の行政府(unitary executive)」の理論を支持する構成となった連邦最高裁などのいくつかは、彼が2024年に再選される以前からすでに存在していた。また、自身の権限に対する制約を疎ましく思い、議会の承認や司法の裏付けを得ることなく、ただ自分の望む通りに行動したいと願った大統領は、彼が初めてではない。

とは言え、憲法に組み込まれた権力分立や抑制と均衡(チェック・アンド・バランス)を強引に踏みにじろうとするトランプの姿勢は、アメリカの歴史上類を見ないものであり、その長期的な影響は甚大なものとなるだろう。例えば、連邦準備制度の政治的独立性に対する信頼が揺らげば​​海外の投資家は警戒心を強めることになり、大統領の行動に対する歯止めがなくなれば、アメリカの信頼性や予測可能性について他国の懸念を招くことになる。また、国民の支持を得たり議会に説明したりすることなく大統領が何でも自由にできるとなれば、現在のイランとの対立激化のような、思慮に欠ける失態を招く可能性が高まる。トラ​​ンプを、それに反する圧倒的な証拠があるにもかかわらず、神の摂理を体現する無謬の存在(an infallible agent of divine Providence)だと信じ込んでいない限り、アメリカの憲法秩序に対するこうした攻撃は、大いに懸念すべき事態であるはずだ。

(9)建設的な対話の放棄(Abandoning civil discourse)。アメリカの政治的言説を粗野で下品なものへと変質させた責任は、何よりもトランプにある。その要因の1つは、彼が恥じることなく嘘をつく姿勢と能力(共和党の大部分にまで伝染した性質)にあるが、それだけではない。下品な侮辱や暴力的な言葉遣い、反対派を犯罪者や売国奴、あるいはそれ以下の存在として描く支離滅裂な罵倒、そして国民の半数に対するあまりにも露骨な軽蔑といった振る舞いも大きな要因だ。

ヴァンス副大統領をはじめとする彼の支持者たちも、同様の手法を取り入れている。アメリカ人を互いに対立させ、複雑な問題に関する真剣な議論を、まるで学校の運動場での悪口の言い合いのような低次元の争いへと変質させることは、さらなる分極化(polarization)や政治的膠着(gridlock)、そして愚かな決断(dumb decisions)を招く元凶となる。アメリカの現職大統領や副大統領が自ら敵の望むような振る舞いをしている様子を見て、敵対勢力はさぞかし喜んでいることだろう。

(10)アメリカの「ソフトパワー」の破壊(Torching U.S. soft power)。これら全てを合わせると、かつては強大だったアメリカの「ソフトパワー」がリアルタイムで崩壊しつつあるという現実が浮かび上がる。思想を同じくする政治家の一部(主にラテンアメリカ諸国)の間ではトランプの人気は高いものの、全体として見れば、世界の多くの国々の目にはアメリカの地位が著しく低下したと映っている。欠陥を抱えた民主政治体制はもはや他国の憧れの対象ではなく、老朽化が進んだインフラは外国からの訪問者を感嘆させるどころか失望させている。さらに、トランプの略奪的とも言える政策は、かつては世界で最も親米的だった国々(カナダやデンマークなど)さえもアメリカから遠ざけてしまった。

何よりも最悪なのは、彼の気まぐれな意思決定(erratic decision-making)と、能力不足の取り巻きへの依存(reliance on unqualified lackeys)が、持続的な世界的影響力の源である有能さというオーラ(aura of competence)を損なってしまったことだ。アメリカへの評価が、北朝鮮、アフガニスタン、イラン、あるいはイスラエルと大差ないレヴェルにまで落ち込んでいるとなれば、何かが決定的に狂ってしまったことは明らかだろう。

公平を期すために言えば、トランプの2期目が完全な失敗だった訳ではない。彼は小国でトランプ支持派の当選を後押ししたり、一部の同盟国から短期的な経済的譲歩を引き出したりしたほか、最近のワールドカップでは、FIFA(国際サッカー連盟)にアメリカ男子代表選手への処分を撤回させたことさえある(もっとも、その甲斐なくティームは次の試合で敗退したが)。NATO(北大西洋条約機構)首脳会議に出席しても、大きな外交問題を起こさずに済ませることさえできた。

しかし、2期目における彼の最大の功績(accomplishment)は、自分自身と取り巻きを富ませたことにある。まあ、それは決して小さな成果ではないだろうし、そもそも彼が政界入りした真の理由もそこにあったのかもしれない。任期が終わる頃には彼の家族は莫大な富を手にしているだろうが、国家は弱体化し、病み、怒りに満ちた状態になっているはずだ。以前は不明瞭だったとしても、今や明白な事実がある。「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again)」というスローガンは、最初から単なる詐欺(just a scam)に過ぎなかったということになる。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。彼は、現代世界を理解・展望する上で不可欠な主要概念を解説する5部構成のニューズレター・シリーズ『新しい地政学(The New Geopolitics)』著者。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.social Xアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)


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 古村治彦です。

 イスラエルとパレスティナの和平こそは現代の最大の難事と言わざるを得ない。ウクライナ戦争やイラン戦争の停戦ももちろん難事であるが、イスラエルとパレスティナ紛争はこれらよりも解決が難しいのではないかと思ってしまうほどだ。イスラエルとパレスティナ国家の二国共存が決まってからも、イスラエルはその実態を骨抜きにしようとし、入植地拡大という形で占領地を固定化しようとしている。さらに、日本と同様に、極右勢力が政権を奪取して以降、国際協調などには目もくれず、暴力的な施策を進めている。

 ドナルド・トランプ米大統領はイスラエル寄りの姿勢を崩していないが、平和評議会(Board of Peace)を設立し、パレスティナ問題の解決を図ろうとしている。しかし、ガザ地区の非武装化は良いとしても、パレスティナ人を移動させて、リゾート開発を行う(「中東のリヴィエラを目指す」)という青写真を出して世界を困惑させている。それには、岐阜ドナルド・トランプと同様に不動産開発にも携わる娘婿ジャレッド・クシュナーの存在もある。クシュナーはウクライナ戦争やイラン戦争の停戦交渉にも関わり、同時に、パレスティナ問題にもかかわっている。義父ドナルド・トランプの代理人とも言える立場にある。

 パレスティナ側はこのような動きを受け入れていない。トランプやイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ハマスの武装解除を強く求め、ハマス側はイスラエル軍のガザ地区での攻撃停止と完全撤退を条件として合意したが、実質的には不可能であろう。イスラエルがガザ地区からの撤退を実施する可能性は限りなく低いからだ。少なくとも、ベンヤミン・ネタニヤフ政権が続く限り、イスラエルがパレスティナ国家との二国共存を推進するということはあり得ない。

しかし、その姿勢は既に世界各国に明らかになっている。アメリカ国内でもイスラエルに対する支持が現書している。そうなると、ますます意固地になって、居丈高な姿勢を取ることになるだろう。パレスティナ問題について国際社会がどのようなそしきや機関を作っても意味はない。イスラエルが解決する意向を持たねば何も進まない。そして、現在のアメリカはそれを支持し、擁護するだけの力を持っている。しかし、アメリカが西半球に引きこもる時代が近いうちにやってくる。そうなると、イスラエルは、そして、日本は国際的な孤立を避けられないということになる。そのことを認識して、問題解決を進めることが重要だが、残念なことに、イスラエルも日本も内部にいる人間たちは「アメリカに従って、アメリカの威を借りて威張っていれば大丈夫」という考えから抜け出せないでいる。
(貼り付けはじめ)

誰もがトランプ氏のガザ和平案が消滅するのを待っている(Everyone Is Waiting for Trump’s Gaza Plan to Die)
-平和評議会(the Board of Peace)はあまりに欠陥が多く、完全に実行不可能であることが明らかになった。

アンチャル・ヴォーラ筆

2026年6月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/05/trump-gaza-peace-board-israel-war/?tpcc=recirc_latest062921

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2025年10月13日、エジプトのシャルム・エル・シェイクにて、ガザ紛争終結に向けた首脳会議の看板の横で身振りを交えながらポーズをとるドナルド・トランプ米大統領。イスラエルとハマスの間では、米国が仲介した捕虜・人質の交換および停戦合意が成立している。

2025年10月、ドナルド・トランプ米大統領はハマスとイスラエルの間の停戦実現に尽力し、大々的な宣伝と共に、この長引く紛争を解決するための青写真として20項目の計画を発表した。当時、イスラエルは人質の奪還を、ハマスはガザ地区への容赦ない爆撃の停止を必死に求めていた。しかし、双方は自らの最大限の要求について譲歩するつもりはなく、また、成果を挙げることに執念を燃やす米大統領の機嫌を損ねることも望んでいなかった。

両者はそれぞれ独自の理解に基づいてトランプの計画に同意した。イスラエルは合意された境界線まで撤退するがガザ地区の約53%の支配権を維持し、ハマスが武装解除した後にのみ、破壊し尽くされた地域の再建を許可するつもりであった。一方のハマスは、将来のパレスティナ国家樹立に向けた確実な道筋が整った段階で武装解除について協議する構えだった。どちらの側も先に譲歩する用意はできていなかった。計画には、実行の順序が明記されていなかったからだ。

これが計画の唯一の欠陥という訳ではない。計画では、「ガザ地区の非武装化プロセス(process of demilitarization of Gaza)」を独立した監視団の監督下で、「合意された武装解除プロセスを通じて(through an agreed process of decommissioning)」実施するとされていた。しかし、誰が監視団となるのか、あるいはそのプロセスが具体的にどのようなものになるのか―例えば、ハマスがまず重火器を放棄するのか、それとも小火器やトンネル、兵器製造施設を放棄するのか―については何ら明記されていなかった。

こうした混乱こそが、ガザ紛争に決定的な終止符を打つはずだったトランプ主導の「平和評議会(Board of Peace)」の進展を遅らせる主要な原因となっている。トランプの関心がイランとの戦争に向けられる中、ガザ地区の人々は依然として悲惨な環境下で暮らす以外にない状況が続いている。

平和評議会の重要な任務の1つは、ガザ地区の治安を維持するための国際安定化部隊(an international stabilization force)、アラブ諸国やヨーロッパ諸国、さらにはインドネシアなどの一部のアジア諸国からの部隊で構成される部隊を編成することであった。言い換えれば、必要とあれば武力を行使してでもハマスの武装解除を断行することが期待される国際武装部隊である。

ガザ地区に上陸した兵士は一人もいない。国際安定化部隊(ISF)は依然として構想段階にとどまり、現地で活動する実力組織にはなっていない。元イスラエル軍情報部大佐で、かつて国家安全保障担当首相補佐官代理を務め、現在はイェルサレム戦略安全保障研究所(Jerusalem Institute for Strategy and Security、JISS)の副所長であるエラン・レルマンは、『フォーリン・ポリシー』誌に対し、「私たちの代わりにハマスと戦うという任務を担おうとする者は誰もいない」と語った。

ブルガリア元国防相ニコライ・ムラデノフが平和評議会の上級代表(high representative)に任命され、ガザ統治のための新たなテクノクラート(technoctatic)主導のパレスティナ組織「ガザ行政国家委員会(National Committee for the Administration of Gaza、NCAG)」を率いている。NCAGのウェブサイトによれば、NCAGはガザ地区における「日常的な公共サーヴィス」の運営を担うことになっており、事実上のガザの「亡命政府(government in exile)」と広く見なされている。しかし、NCAGは数カ月にわたりカイロのホテルで足止めされており、ガザの地には一歩も足を踏み入れていない。

ヨーロッパ外交問題評議会(European Council on Foreign Relations、ECFR)の客員研究員であるムハンマド・シェハダは、ハマスがムラデノフを「イスラエルの圧力下で動いている」と疑っており、意図的にNCAGのガザ訪問を阻止していると指摘した。その狙いは、ハマスが武装解除に応じるまで、復興や政治プロセスの進展を遅らせることにあるとされている。3月には、ハマスの意思決定機関である政治局のメンバーであるバセム・ナイムがXに投稿し、ムラデノフが「アメリカやイスラエルを喜ばせるため(to please the Americans and Israelis)」、パレスティナの人々を犠牲にして「自身の目的(own ends)」を達成しようとしていると非難した。

一方、ガザの住民は、紛争前と比べて半分以下の広さの地域に密集して暮らしている。イスラエル軍は停戦後もさらに土地を占拠し、いわゆる「イエローライン(yellow line)」を越えて進出した。この境界線は、イスラエルが管理するガザ地区の53%の地域とハマス支配地域を隔てる、黄色のコンクリートブロックで示された境界だ。

イスラエル軍はさらに約11%の領土を占拠するまでに拡大し、現在ではガザ地区の64%を支配下に置いている。新たにイスラエルが支配する区域の境界は、地図上で「オレンジライン(orange line)」として示され、事実上の新たな境界線となっていると報じられている。イエローラインとオレンジラインの間(イスラエルが拡大した緩衝地帯にあたる地域)に居住する人々に支援物資を届けるには、イスラエル側の事前承認が必要とされている。

また5月末には、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相がイスラエル軍に対し、ガザ地区の70%を掌握するよう指示したと述べた。この発言は、イスラエルがガザ地区の領土拡大や占領を意図しているのではないかという疑念を強めるものとなった。

さらに活動家たちは、パレスティナ人の追放が国家政策の一環として行われていると指摘している。パレスティナ人の移動の自由を擁護するイスラエルの法律団体「ギシャ(Gisha)」や、イスラエル国内のアラブ人の権利を支援する法律センター「アダラ(Adalah)」は、ガザ地区での生活の様々な側面について実態を記録し続けてきた。2月には、エジプト経由のラファ検問所からガザ地区への帰還を試みるパレスティナ人住民に対し、「嫌がらせや違法な制限」が課されていると主張し、それらの「即時停止」を求める書簡をイスラエル当局に送付した。

ギシャは2月、戦争中にガザ地区を離れた人々のうち再入国を許可されたのはごくわずかであると主張した。また、イスラエル国防省の部局である「占領地政府活動調整官(COGAT)」が、2023年の開戦前にガザ地区外にいたパレステクナ人の帰還を阻んでいるとも指摘している。

ギシャの事務局長タニア・ハリーは、「エジプトには10​​万人以上のパレスティナ人が滞在しており、そのうち約3万人がガザ地区への帰還を希望して登録しているが、入国が許可されるペースは極めて遅い」と述べている。ハリーによれば、交渉で合意された条件に基づき、毎日50人の患者が付き添い人と共にガザ地区から出国し、同数の人々がガザ地区へ帰還できるはずだといいます。しかし、実際に行き来している人々の数は「人為的に低く抑えられている」とハリーは指摘している。

交渉の際、エジプトは、出国を許可される人々の数と帰還する人々の数を同数にすべきだと主張した。イスラエルがパレスティナ人を呼び戻さないのではないかという懸念から、エジプトやその他のアラブ諸国はガザ地区を離れるパレスティナ人を受け入れざるを得なくなる事態を恐れている。一方で、『フォーリン・ポリシー』誌の取材に応じた活動家たちは、イスラエルは帰還を望むパレスティナ人を受け入れることよりも、パレスティナ人がガザ地区から出ていくことを強く望んでいると指摘した。

ハリーは、ガザ地区からパレスティナ人を追放することが国家の方針であるように見えると述べた。「イスラエルは、パレスティナ人にガザ地区から出ていくことを望むという意向を非常に率直に示しており、それを隠そうともしていない。イスラエルのカッツ国防相は、ガザ地区のパレスティナ人を受け入れてくれる国を探しているとさえ発言している。政策の目標は極めて明確だ」と彼女は『フォーリン・ポリシー』誌に語った。

人権団体「ギシャ」や「アダラ」は、パレスティナ人のガザ地区への帰還を阻むことは「住民の強制移送(forcible transfer of a population)」にあたり、戦争犯罪を構成すると主張している。

レルマンは、イスラエルの極右勢力の一部がガザ地区を占領し、パレスティナ人を追放する意向を表明していると指摘した。これはおそらく、ネタニヤフ政権の一員であり、ガザ地区からのパレスティナ人の「自発的移住(voluntary emigration)」を支持してきたイタマル・ベン・グヴィル治安相やベザレル・スモトリッチ財務相を指しているだろう。

しかしながら、レルマンは、パレスティナ人の追放が政府の方針であるとは考えていないとも付け加えた。レルマンによれば、その構想は、ハマスがもはや脅威ではなくなるまでイスラエル軍がガザ地区に駐留し続けるというものだ。

「ムラデノフはイェルサレムに対し、ハマスが武装解除に応じる気配はなく、国際安定化部隊も派遣されないことをネタニヤフ首相に伝えるよう求めた」とレルマンは述べた。つまり、ハマスの武装解除に必要な条件をイスラエル自身が作り出さなければならないということだとレルマンは付け加えた。

「その戦略はガザ地区を征服することではなく、ハマスの司令官を排除し、全面的な衝突には至らない範囲で少しずつ前進しながらハマスの支配地域を縮小していくことにある」と、レルマンは『フォーリン・ポリシー』誌に語った。

ECFR(欧州外交評議会)の研究員であるシェハダは、イスラエルが完全な武装解除を出発点としようとしているのに対し、ハマスは段階的な兵器廃棄を求めているという点が問題だと指摘した。シェハダによれば、もしハマスが小火器などを手放せば、イスラエルの入植者がその地域に入り込み、占拠する恐れがあるということだ。

シェハダは、「もし兵器がなくなり、ハマスが解体されれば、ヨルダン川西岸地区で起きているのと同様に、入植者たちが入り込み、数カ月のうちにガザ地区を掌握してしまうだろう」と述べ、ヨルダン川西岸地区における入植者による暴力行為に言及した。「トランプの和平案における取り決めは、イスラエルによる占領を防ぐための保証とは見なされていない」。

一方、イスラエル政府は、2023年10月7日のような攻撃の再発を防ぐためにハマスの武装解除を図っているに過ぎないと主張している。イスラエル国内では、ハマスを打倒する前にパレスティナ国家樹立について議論することは、10月7日の攻撃に対する「ご褒美」と見なされ、ハマスを勢いづかせる恐れがあるとの懸念が出ている。またハマス側は、イスラエル軍に兵器を引き渡せば、イスラエルと協力関係にある地元の敵対勢力から攻撃されることを危惧している。

ハマスは、パレスティナ国家樹立に向けた現実的な道筋が整うまでの間(5年、10年、あるいは15年)、NCAGの監督下で武器を廃棄または保管する用意があると表明している。ハマスのナイムは昨年12月、「停戦や休戦の期間中は一切武器を使用しないというパレスティナ側の保証を前提に、武器の凍結、保管、あるいは放棄について協議することは可能だ」と述べている。

一方、レルマンはNCAGを非武装の組織と見なしており、そのようなプロセスを実効的に監視する能力はないと考えている。「ハマスの言葉が本心だとは到底信じられないし、(武器の保管という提案は)観測気球(a trial balloon)に過ぎないように聞こえる」と彼は指摘する。

要するに、事態を前進させることに消極的な姿勢は、単なる不信感だけでなく、イスラエルとパレスティナ双方が(たとえそれが自滅的な結果を招くものであっても)自分たちの方が優位に立っていると感じていることに起因している。ハマスは、イランをめぐる紛争におけるアメリカとイスラエルの失態や、レバノンの武装組織ヒズボラが存続していることに勢いづいているようだ。自らが守るべき人々が困窮し荒廃した生活を送っているにもかかわらず、ハマスは武器を保持し続け、いずれまた戦術を再開できると考えているのである。

イスラエルは自国の軍事的優位性を認識しており、パレスティナ人を追放し、戦禍に見舞われた200万人もの人々から住居や医薬品、義肢を奪っているとの非難を浴びながらも、ハマスを効果的に追い詰めていると考えている。イスラエルとパレスティナの双方は、トランプがホワイトハウスを去ること、そして、平和評議会が静かに消滅することを待ち構えている。

※アンチャル・ヴォーラ:ブリュッセルを拠点とする『フォーリン・ポリシー』誌のコラムニストであり、ヨーロッパ、中東、南アジア情勢について執筆している。これまでに『タイムズ・オブ・ロンドン』紙で中東情勢を取材したほか、アルジャジーラ・イングリッシュやドイチェ・ヴェレ(DW)でテレビ特派員を務めた経験を持つ。以前はベイルートやデリーを拠点とし、20カ国以上で紛争や政治に関する報道を行ってきた。Xアカウント:@anchalvohra

(貼り付け終わり)

(終わり)


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『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 『ザ・フナイ』の連載(全10回)の2回目の文章が掲載される『ザ・フナイ』2026年11月号(229号)が発売になります。発売日は2026年10月1日です。

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ザ・フナイ vol.229(2026年11月号)←クリックするとアマゾンのページに移動

 今回の文章は2001年9月11日に発生した911同時多発テロ事件について取り上げました。事件発生当時、私も大学院に入学したばかりでしたが、大きな影響を受けました。個人的な経験から始まり、911事件は「アメリカの外交政策の結果であり、報復であった」という分析を紹介しました。そして、911事件に影響を受け、現在、アメリカ政治に大きな影響力を持つピーター・ティールについて書きました。ご興味がある方は是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

 

(終わり)


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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 古村治彦です。

 アメリカのドナルド・トランプ大統領とロシアのウラジーミル・プーティン大統領は個人として良好な関係を続けているが、米露関係は停滞気味である。スティーヴ・ウィトコフ特使とトランプの娘婿ジャレッド・クシュナーがウクライナ戦争停戦に向けて動いているが、進展はない。戦争が長引けば長引くほど、ウクライナにしても、ロシアにしても戦争を停止するハードルが上がる。戦争は止め時が難しい。一方的に勝利できる場合(第二次世界大戦における連合国と枢軸国の関係)であれば、武力的な抵抗が終わり、降伏の意思表示ということになるが、戦争が大きな進展がないままに、日常化してしまうと、結局、その状態が固定化されてしまう。ウクライナ戦争で言えば、ロシア側は攻撃初頭でウクライナ軍が崩壊し、降伏するという計算違いを起こし、ウクライナ側は大攻勢をかけようとして失敗してしまった。現状は大きな進展はない。疲れ果てるまでこの状況を続けるしかない。しかし、ヨーロッパ諸国をはじめとする西側諸国は、ウクライナが死なない程度に「輸血」をして(ロシアに対して大きな効果を持つ武器は与えないが、小競り合い程度には勝つ武器を与え)、ロシアに対して出血を強要するという状況の維持を行っている。それは、ロシアの弱体化が自分たちの国益につながると考えているからだ。ロシアからの安いエネルギー資源輸入で生きてきたヨーロッパ諸国はなんと愚かだろうか。

 下記論考では、トランプ大統領がプーティン大統領との良好な関係を利用して、停戦を進める、そのためにロシアに条件を受け入れ、ロシアと「ウィン・ウィン」の関係を築こうとやっきになっていることに警鐘を鳴らしている。その根拠として、サブプライムローン危機で、アメリカ経済が厳しい状況だった際に、プーティン大統領が中国に、「債権を売り払って暴落させて、アメリカ経済に大ダメージを与えよう」と持ち掛けたことを取り上げている。中国側は断ったが、プーティンは時刻も大きなダメージを受けるが、アメリカのダメージを優先するような人物だとザカリアは述べている。

 この主張には説得力があるが、2008年当時と現在の世界の状況が大きく変化をしているとも考慮しなければならない。当時のロシアはジョージア侵攻を行っており、アメリカはそれに対して厳しい態度で臨んでいた。ロシアとしては戦争に負ける訳にはいかない。アメリカを牽制するためにもそのような行動に出た。重要なことは、債券を売るということがアメリカ側に伝わるように、中国側に話を持ち掛けたことである。中国に断られたので取りやめたが、自分たちはやる気だとアピールすることで、アメリカを怯えさせ、牽制する動きに出たのである。もちろん、アメリカに打撃を与えるという意図もあっただろう。しかし、本気でアメリカに大打撃を与える意図はなかったと考える方が合理的だ。そして、この時から、ロシアは外貨準備高におけるドルの割合を減らし、金保有を進めて、また、決済システムの構築を行ってきた。ウクライナ戦争が継続できているのもこれらが要因になっている。

 トランプ大統領はウクライナ戦争を停戦することを公約として当選した大統領である。公約実現のために、プーティンとの関係を利用するのは当然のことだ。それが米露両国にとって利益になれば良いことである。プーティンと「ウィン・ウィン」の関係を築けないと考えるのは浅慮であると言わざるを得ない。そのような関係を築かざるを得ない方向に進めることが外交の巧者であると言えるだろう。現在のアメリカにそのような匠はいない。

(貼り付けはじめ)

ウラジーミル・プーティン大統領との「ウィン・ウィン」という危険な幻想(The Dangerous Fantasy of a Win-Win With Putin)

-ロシアの大統領は取引の成立を目指すビジネスマンではない。

ファリード・ザカリア筆

2026年9月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/09/11/putin-trump-united-states-russia-ukraine-negotiations-deal-foreign-policy/

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モスクワで拍手を送るロシアのウラジーミル・プーティン大統領(9月9日)

ドナルド・トランプ大統領の交渉担当者であるスティーヴ・ウィトコフとジャレッド・クシュナーは、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領との最近の会談に、心底圧倒された様子だった。ウィトコフは、これらの会談は自身の人生における経験の中で「最高(thee top)」のものだと熱っぽく語っている。ウィトコフとクシュナーは両方ともロシアを潜在的なパートナーと見なし、トランプと同様に、プーティンとの「ウィン・ウィン(win-win)」な解決策を模索するビジネスマンの視点でロシアに向き合っている。

そこで、同じくビジネスの世界から政府高官に転身した人物、ゴールドマン・サックスの元CEOのハンク・ポールソンがプーティンについて学んだ教訓を振り返る価値があるだろう。財務長官だったポールソンは、2008年8月の北京オリンピックに合わせて訪中した。当時、世界金融危機が深刻化しつつあり、市場はアメリカの住宅ローンの大半を保証する巨大機関であるファニーメイ(Fannie Mae、連邦住宅抵当公庫)とフレディマック(Freddie Mac、連邦住宅金融抵当公庫)をめぐって懸念を強めていた。

北京でポールソンは、「息が止まるほど驚いた(took my breath away)」と述べた知らせを受けた。ロシア当局者が中国に接触し、中露両国でファニーメイとフレディマックの証券を大量に売却しようと持ちかけたというのだ。その狙いは、すでに揺らいでいたアメリカ経済への圧力を強め、おそらくは破綻へと追い込むことにあった。中国はこの提案を拒否した。

このストーリーが何を物語っているかを考えて欲しい。アメリカの金融システムが大恐慌以来最悪の危機に瀕していたその時、プーティンはアメリカが窮地に陥っている隙を突く方法を探っていた。たとえアメリカの深刻な経済崩壊が、ロシアを含む世界全体に必然的に打撃を与えることになる可能性があってもそのようなことをしていたのである。プーティンは、アメリカに大打撃を与えられるのであれば、共倒れ(lose-lose)の結果を招くリスクさえも受け入れる姿勢を見せていた。

それは、ビジネスマンの思考とは正反対に近いものだ。しかし、プーティンはこれまで一度も、取引(deal、ディール)を求めるビジネスマンであると自称したことはない。彼はロシアのナショナリストであり、経済的、人口動態的、そして政治的に世界の舞台で国力が後退していく中でも、ロシア帝国やソヴィエト帝国の崩壊とともに失われた力と領土を回復しようと目指している人物だ。

アメリカとその影響力を弱めることを目指した外交政策をプーティンが長年追求してきたことを、現在のドナルド・トランプ政権が認識するには何が必要なのだろうかという疑問が出てくる。トランプとイランとの対立について考えてみよう。イランにとって最大の軍事同盟国である大国はどこか? ロシアはテヘランに対し、最新鋭の航空機や戦車、その他多数の兵器を供給してきた。ロシアはイランと情報を共有しており、ウクライナの戦場で鹵獲(ろかく)したアメリカの兵器をイランに送っている。これは、イランがそれらを逆行分析(reverse engineer)し、アメリカに対して使用できるようにするためだ。『フィナンシャル・タイムズ』紙は最近、ロシアがアメリカの空母を脅かす能力を持つラムジェット推進の超音速巡航ミサイルの開発を、イランに対して密かに支援してきたことを明らかにした。これらは、抽象的な地政学的ゲームのための兵器ではない。アメリカの防衛網を突破し、米兵を殺傷するために設計されたものだ。

トランプは、アメリカが圧倒的な優位に立つ西半球(a Western Hemisphere in which the U.S. reigns supreme)というヴィジョンを抱いている。そのヴィジョンに反する動きを長年続けてきた大国はどこだろうか? 2001年から2018年にかけて、ヴェネズエラの武器輸入の70%以上をロシアが占めていた。現在、トランプ政権はキューバやニカラグアにも目を向けているが、キューバやニカラグアの軍事装備もまた、その大部分がロシア製だ。

こうした動きはアフリカにも及んでいる。モスクワは武器、資金、政治的支援、そして傭兵を活用して影響力を拡大し、西側諸国を排除しようとしてきた。ワグネル・グループは当初、ロシアの国家権力と連携して活動する組織として始まったが、やがてリビアからサヘル地域に至るまで、モスクワの野望を遂行するための手段となっていった。さらにロシアは、アメリカを主要な戦略的敵対国とみなす他の2つの核保有国、北朝鮮や中国との軍事的な連携も強化している。

ロシア・ウクライナ戦争を終わらせるためのトランプ政権のアプローチは、基本的にこの紛争においてモスクワの側に立つというものだった。トランプは、ウクライナが開戦したという誤った主張を行い、ウォロディミール・ゼレンスキー大統領を独裁者と呼んだ。トランプ政権は、ウクライナをNATO(北大西洋条約機構)に加盟させないこと、ロシアが占領した領土の多くを返還させないこと、そしてウクライナの軍事力を制限することなど、ロシア側の主張をあらかじめ容認する姿勢を示してきた。

アメリカの軍事支援は縮小し、一時は極めて重要な情報共有さえも停止されていた。キエフ訪問中に話を聞いたウクライナの将軍や兵士たちは、アメリカの支援が失われたことを、ロシアによる侵攻以来、ウクライナが被った最大の戦略的打撃だと語った。ウクライナとそのヨーロッパのパートナーたちは、ロシアの攻撃に耐え、それに対抗する術を見出してきた。しかし彼らが何よりも懸念しているのは、アメリカに見捨てられることによる、より深刻で長期的なダメージだ。

プーティンとの取引を模索することや、全ての当事者が何らかの利益を得られるような解決を望むこと自体に、何ら問題はない。しかし、外交とは、交渉の相手を理解することから始まる。ウィトコフやクシュナーは、プーティンを「ウィン・ウィン」を求めるビジネスマンだと見なしている。しかし、プーティンのこれまでの行動は、彼が全く異なる人物であることを示唆している。彼は、アメリカを弱体化させることができるのであれば、自国ロシアに犠牲を強いたり、他国を不安定化させたり、あるいは自ら損失を被るリスクを冒したりすることも厭わない人物だ。

ハンク・ポールソンは18年前、北京でその教訓を学んだ。現在、外交の場に立つアメリカのビジネスマンたちもまた、モスクワでその教訓を学んでくれることを期待したい。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria
(貼り付け終わり)
(終わり)


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 古村治彦です。

 先日の米中首脳会談については、このブログでも私の考えを書いた。その記事を是非読んでいただきたい。アメリカの有識者は米中首脳会談についてどのような感想を持ったのかが分かる記事を以下にご紹介したい。その内容を簡単に言えば、「習近平国家主席はドナルド・トランプ大統領のふるまいを身近で観察し、アメリカが進むべき方向を見失っていると感じ取ったのではないか」ということである。

 以下の論考の著者ハワード・W・フレンチは憶測であるとしながらも、トランプの「滑稽な姿」や国内政治と外交の区別をつけることができない様子を見て、「アメリカ自体が自信を失い、進むべき方向性を見失っている」と感じ取っただろうと書いている。この観察と感想は非常に重要である。フレンチが具体例として出しているのは、ホワイトハウスの壁に飾られた歴代大統領の肖像画(肖像写真)をトランプが習近平に紹介しているシーンだ。トランプは、ジョー・バイデンの肖像写真をオートペン(署名が自動できる装置で歴代大統領も使用)の写真に変更して飾らせている。そして、紹介する際に、必ずバイデンを笑いものにする。習近平は周りにつられて笑いはしたが、駄々っ子のトランプをあやすかのようだ。国内政治で対立し、激しく非難し合っていても、他国に対してはそのようなことをしないというのは不文律である。しかし、トランプがバイデンを嘲笑する姿を見て、習近平は哀れを感じたことであろう。
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 私たちがもっと悲しむべきは、日本の高市早苗首相がこの署名の紹介のところで、トランプに媚びて、下卑た馬鹿笑いをしているところだ。フレンチのような有識者、外交について長年見てきた人物から見て、トランプの姿は滑稽であり、哀れを誘うということになる。それならば、そのような哀れを誘うトランプに対して、下卑たお追従をする日本の高市早苗首相にはどのような感想を持つだろうか。もはや独立国の指導者とすら思われないだろう。それが日本の真の姿であるということを私たちは認識しなければならない。
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こんな無能な思考力の欠如した指導者しか選べない日本とはなんと哀れな国だろう。自信を失った、哀れな国家に付き従う属国の悲哀ということについて、私たちはよくよく考えねばならない。現実から目を背けて、「日本の●●は世界一!」「二歩人は世界で最も●●な民族!」と言わねば、精神が保てないということは分かるが、私たちは冷静になって、現実を見る目を養わねば、悲惨な歴史を繰り返すことになる。もしくは、アメリカの作家マーク・トウェインが述べた、「歴史は繰り返さないが、歴史は韻を踏む(History doesn't repeat itself, but it rhymes)」という言葉を拳拳服膺しなければならない。私は歴史が繰り返すにしても、韻を踏むにしても、非常な器具を持っている。それは、今から81年前と同様の結果が起きるのではないかと考えているからだ。

(貼り付けはじめ)

習近平は実際にトランプについてどう考えているのか(What Xi Actually Thinks of Trump)

-習近平中国国家主席はドナルド・トランプ政権下のアメリカは進むべき道を見失ったと結論づけた可能性が高い。

ハワード・W・フレンチ筆

2026年9月28日

『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/09/28/xi-trump-summit-washington-us-china/

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ワシントンのホワイトハウスにあるローズ・ガーデンに姿を見せたドナルド・トランプ米大統領と中国の習近平国家主席(9月24日)

ワシントンで行われたドナルド・トランプ米大統領と中国の習近平国家主席との首脳会談における最も重要な成果の1つは私たちがすぐに、そしてこれからもずっと見ることができないものであろう。

それは、米中両国が共同声明を発表できなかったことや、会談内容に関する双方の発表に大きな食い違いがあることとは関係ない。むしろそれは、習金平が訪米を終えるにあたり、2つの関連する問いについて持ったであろう、個人的な見立てに関わるものである。すなわち、「トランプとは本質的にどのような人物なのか?」、そして「彼の政権は、世界の現行超大国としてのアメリカの現状について何を物語っているのか?」という問いについてである。

こうしたコラムは必然的に推測の域を出ないものだが、あえて私の見解を述べてみたい。第一の点は単純明快だ。トランプ大統領が習主席をレッドカーペットで厚遇し、事あるごとに持ち上げたあの極端なへつらい(extraordinary unctuousness)は、トランプ自身がしばしば信じているような、2人の間に真の友情を芽生えさせることなど到底あり得ないものだった。

他の国々と同様、中国も過去数十年にわたり多くの過ちや誤算を犯してきた。しかし、毛沢東時代以降の中国では、規律あるプロセスを経て政策が策定されている。その目的は、中国の、少なくとも中国共産党の、利益を冷静かつ合理的に評価することだ。一般的な意味での個人的な友情など、このプロセスとは何の関係も持たない。この原則は、習主席とロシアのウラジーミル・プーティン大統領(モスクワは北京にとって状況に応じた同盟相手である)との間で見られる、あの親密さを演出するパフォーマンスにさえ当てはまるだろう。

やや推測が進んでしまうことになるが、習主席は、トランプ大統領が「権威主義的なリーダーシップとはこうあるべきだ」と解釈して見せる振る舞いを、非常に滑稽なものとして見ていたかもしれない。トランプが国王のような権力を夢見ているというのは、アメリカの政治評論においてよく語られる話だ。そうでなければ、彼が金(ゴールド)を多用することや、記念碑的な建造物、とりわけ後世に自分の名を残すようなものを熱望することをどう説明できるだろうか? しかし、トランプが習主席をホワイトハウス内で案内し、ヘリポートや建設中の舞踏室を誇らしげに紹介する様子を見ていた習主席は、トランプを「馬鹿者(a fool)」だと見なしたに違いないと私は考えずにはいられない。習主席が過去13年余りにわたり自らの手中に強大な権力を集中させてきた一方で、彼が個人的な誇示や自己顕示のために費やした労力は、ほとんど皆無に等しい。

トランプが習主席をあるパヴィリオンへと案内した際、習主席は相手に対して悪い印象を抱いたに違いない。そこは金箔を施した壁に歴代米大統領の肖像画が掲げられた場所で、肖像画は昇順に並べられ、トランプのものが一番高い位置に飾られていたからだ。それだけでも悪趣味極まりないが、さらにトランプは、自身の前任者であるジョー・バイデン氏の肖像画が飾られた額縁の前で立ち止まった。そこにはバイデンの肖像画の代わりに、オートペン(署名代行機)の写真が収められていた。これはバイデンが(歴代大統領と同様に)公的な文書に署名する際によく使用していた機器である。

トランプ大統領が認識していなかったと思われるのは、国内政治と最高レヴェルの国際関係は、日常的に慎重に区別されるべきものだという点だ。「政治は水際で終わる(politics stops at the water’s edge)」という、外交に関するアメリカの古くから尊重されてきた格言が示す通りである。習主席自身、2022年10月に中国共産党の最高幹部が集まる党大会の場で、前任者の胡錦濤を退席させたことで波紋を呼んだことがある。これは、内部の不和が公の場に表れることが稀な中国において、異例の出来事であった。しかし、習主席が海外で前任者の誰かを公然と悪く言うなど、到底考えられないことだ。なぜなら、国家運営の心得を十分に備えた多くの国の指導者と同様に、習主席もまた、海外での重要な責務の1つは、自国とその体制の結束した姿をアピールすることだと理解しているからだ。

少なくとも習主席は、トランプが自身の前で米メディアをこき下ろし、中国メディアが北京の意向通りに報道することに対して隠しきれない羨望を口にした際、トランプが事態を根本的に取り違えていると感じたはずだ。トランプは、政府寄りの報道とは、自身の気に障る批判を行う報道機関を排除することによって実現するものだと考えているようだ。だが、習主席はそうではないことを知っている。アメリカと中国の報道体制の違いは、民主政治体制と独裁制という根本的な相違に根ざしているからだ。

しかし、そこにはさらなる要素がある。アメリカ憲法によって保障された報道の自由は、単なる法的な規定にとどまらず、自らを批判する者を恐れない体制が持つ、より深い国家としての自信を長年にわたって反映してきた。こうした状況を目の当たりにし、私は次のような疑問を持つに至った。習近平は、単に1人の大統領が漫画のような滑稽な姿(cartoonishness)を晒しているのを見ていたのではなく、中国の指導者たちが長年敬意を抱き、時には羨望の眼差しさえ向けてきたあの自信(the self-confidence)を含め、進むべき道を見失いつつある国家の兆候をそこに見て取ったのではないか?

比較のために、それぞれが全く異なる体制の頂点でどのように振る舞ってきたかを見てみよう。習近平の統治は、戦略的かつ極めて強い意志を持って、ほぼ絶対的な権力(near-absolute power)を掌握しようとする動きとして捉えるべきだ。一部の人々にとっては、その動きは彼が2012年後半に中国の指導者に就任する前から始まっていた。2012年9月、彼は約2週間にわたって公の場から姿を消したことがある。多くの説によれば、彼はこの空白期間を利用して古参幹部たちに迫り、毛沢東時代以降に就任した他の指導者たちよりもはるかに大きな権限を自分に与えるよう確約させたという。

それ以来、習近平は徹底した反腐敗キャンペーンを巧みに利用してきた。単に汚職を取り締まるだけでなく、自身の忠誠心が疑わしい党幹部を排除するためである。中国人民解放軍の上層部に対しても同様の手法をとり、主要な将官クラスの有力者たちを次々と投獄したり、退役させたりしてきた。こうした一連の動きにより、習近平は毛沢東時代から続いてきた「5年任期を2期まで(two five-year mandates)」とする慣例を回避し、無期限に統治する権力を手中に収めた。彼の権力掌握の手法は、大蛇(a boa constrictor)が獲物を仕留める様子に例えられるかもしれない。つまり、徐々に、しかし容赦なく締め付けを強めていく方法である。

だからと言って、習近平が国を正しい方向に導いているとか、中国の台頭が不可避であるとか、あるいは中国内部に深刻な矛盾がないなどと考えるべきではない。しかし、トランプ率いるアメリカについても、同じことが言える訳ではない。

トランプの行動、とりわけ2期目における行動がアメリカの利益につながると結論付けるのは難しい。私が悲観的になる理由の多くは、彼のリーダーシップのスタイルにある。習近平と比べると、トランプは全くの素人のように見える。好奇心に欠け、知識も乏しく、直感や気まぐれで動く即興的な人物だ。自制心に乏しく衝動的で、自らの偉大さや機知、知恵を誇示することに喜びを見出すような人物だ。

これを厳しい評価だと感じるなら、共和党への近年の最大級の献金者の1人である億万長者、ピーター・ティールによる、トランプのリーダーシップに対する最近の批判を考えてみてほしい。ティールは、トランプの第2次政権が第1次政権時の内部対立を是正しようとするあまり、行き過ぎた対応をとったと指摘している。具体的には、忠誠心テスト(loyalty tests)を課した結果、彼の言葉を借りれば「頭はそれほど良くないが忠実な人々で構成された政権」が生まれた。そうした選択がもたらす戦略的な帰結は今、イランや中東全域からウクライナ、さらには東アジアに至るまで、世界の舞台で現実のものとなりつつある。

その結果、トランプは、習主席が陥りかねない最も危険な誤算の1つを、現実のものとする可能性を著しく高めてしまった。習主席は今後、自らの能力や中国の力を過大評価する(例えば、台湾や日本をめぐる力関係において)一方で、トランプ政権下の自滅的な失態からアメリカが立ち直る可能性を過小評価するようになるかもしれない。言うまでもなく、その回復は決して容易なことではないことは明らかだ。

※ハワード・W・フレンチ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授、長年にわたり海外特派員を務めた。最新作に『第二の解放:高潮期のンクルマ、汎アフリカ主義、そしてグローバル・ブラックネス(The Second Emancipation: Nkrumah, Pan-Africanism, and Global Blackness at High Tide)』がある。ブルースカイ・アカウント: @hofrenchbluesky.social、 Xアカウント:@hofrench

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