古村治彦です。


 昨日、共同通信で、そして今朝の東京新聞で報道された、「アメリカからのプルトニウム返還要求」というニュースについて考えたことを書いていきたいと思います。


 このプルトニウム返還に関して、怒りや戸惑いを示す意見が起きています。「世界で最も重要な二国間関係である日米関係を揺るがすものだ」「オバマ政権だからこういうことが起きるのだ」という主張もあります。


 確かにオバマ政権になってから「核セキュリティー」が重視され、核兵器に転用可能な物質の管理を厳しくする動きになっているようです。しかし、これはアメリカ側か見れば、自国の世界の安全と安定のために合理的な動きと言えます。リスクを小さくするのは合理的な動きです。


 「日本がテロリストにプルトニウムを横流しできる訳がない」「IAEAの厳しい監視の下にあるではないか」という反発もあると思います。しかし、日本だから特別扱いする、とか日本の管理体制を絶対的に信頼するという選択肢はアメリカにはないようです。


 このニュースが出たこの時期は、安倍首相が靖国参拝からわずか1カ月後、ダヴォス会議で現在の日中関係を第一次世界大戦前の英独関係に譬えて数日後、オバマ大統領による一般教書演説を直前に控えています。日本では国会が始まり、都知事選の選挙活動の真っ只中です。


 これらのことと結び付けられることは当然ながらニュースソースたちは分かって話をしたと思われます。そのことの意味を考えてみなければなりません。


 言い切ってしまえば、「安倍政権への不信」が根底にあると思います。ほっておくと勝手に「核武装」に向けた動きにまで出るのではないか、日本は数カ月で不完全ではあるが核兵器を作る物理的、人的、知的能力を有している、最悪のシナリオでそれを中国に向けて使うのではないかという懸念をアメリカが持つのは仕方がないことだと思います。


荒唐無稽であることはその通りなんですが、このように考えてもおかしくないほど、安倍政権への不信は高まっているのだと思います。外国から見てみれば、日本の国民一人一人のことは見えませんが、当たり前のことですが、指導者たちの動きはよく見えます。


 2014年に入って、政治的にも経済的にも安倍政権に対する包囲網ができつつあるように感じます。まるで太平洋戦争の直前の時期のように。


(新聞記事転載貼り付けはじめ)


●「米、日本にプルトニウム返還要求 300キロ、核兵器50発分」


2014年1月26日付 共同通信

http://www.47news.jp/CN/201401/CN2014012601001661.html


 核物質や原子力施設を防護・保全する「核セキュリティー」を重視するオバマ米政権が日本政府に対し、冷戦時代に米国などが研究用として日本に提供した核物質プルトニウムの返還を求めていることが26日、分かった。


 このプルトニウムは茨城県東海村の高速炉臨界実験装置(FCA)で使う核燃料用の約300キロ。高濃度で軍事利用に適した「兵器級プルトニウム」が大半を占め、単純計算で核兵器40~50発分程度に相当する。


 日本側ではこれまで「高速炉の研究に必要」と返還に反対する声も強かったが、米国の度重なる要求に折れて昨年から日米間で返還の可能性を探る協議が本格化している。


2014/01/26 19:59   【共同通信】



●研究用プルトニウム300キロ 米、日本に返還要求


2014年1月27日付 東京新聞

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014012702000135.html


 核物質や原子力施設を防護・保全する「核セキュリティー」を重視するオバマ米政権が日本政府に対し、冷戦時代に米国などが研究用として日本に提供した核物質プルトニウムの返還を求めていることが分かった。複数の日米両政府関係者が明らかにした。


 このプルトニウムは茨城県東海村の高速炉臨界実験装置(FCA)で使う核燃料用の約三百キロ。高濃度で軍事利用に適した「兵器級プルトニウム」が大半を占め、単純計算で核兵器四十~五十発分に相当する。


 日本側ではこれまで「高速炉の研究に必要」と返還に反対する声も強かったが、米国の度重なる要求に折れて昨年から日米間で返還の可能性を探る協議が本格化している。米側は三月にオランダで開かれる「第三回核安全保障サミット」を機に返還合意をまとめたい考えだ。


 オバマ政権は核テロ阻止の観点から、兵器転用可能な核物質量の「最少化」を提唱。二〇一〇年に初の核安保サミットを主宰した前後から、東海村にある日本原子力研究開発機構のFCA用のプルトニウム三百三十一キロ(うち核分裂性は二百九十三キロ)を問題視し、日本に返還を求めてきた。


 英国産のプルトニウムも含まれているため、米国は英国の理解を得た上で日本から米国への「第三国移転」を図りたい考え。外交筋によると、日米英三カ国間でも政策調整が進められている。


 文部科学省などはこれまで「研究に必要。他では取れない良いデータが取れる」と主張。日本は原発の使用済み核燃料の再処理によって他にも約四十四トンのプルトニウムを保有するが、「研究用のものと比べ不純物が多く、高速炉研究には使えない」(日本の政府系専門家)という。


 東京電力福島第一原発事故後、日本のプルトニウム消費の見通しが立たず、米政府は日本側に懸念を伝達していた。FCAは高速炉の特性を調べるため造られ一九六七年に初臨界した。


(新聞記事転載貼り付け終わり)


(終わり)