アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 2015年5月初めに、自民党若手(当選回数がまだ少ない議員たち)が「過去を学び『分厚い保守政治』を目指す若手議員の会」という勉強会を立ち上げました。会員資格は当選回数2回までの衆議院議員と2013年に初当選した参議院議員だそうです。

 

 この会は、「自民党若手のハト派」議員たちの集まりで、安倍首相とその周辺の「歴史修正主義的」「過剰なナショナリズム」と対峙するための会だと指摘されています。下の記事にあるように、自民党宏池会に所属した元幹事長、古賀誠元衆議院議員が背後にいて関与しているとさえ言われています。

 

 設立趣意書にある「歴史修正主義的な過剰なナショナリズムを排し」という文言は、

 

 自民党には代々、保守本流と保守傍流という2つの流れがありました。旧自由党系の流れを汲むのが保守本流で、旧改進党系・旧日本民主党系の流れを汲むのが保守傍流です。現在の最大派閥である清和会(細田派[実質は安倍派])は保守傍流です。保守本流はハト派的な傾向を持ち、保守傍流はタカ派的な傾向を持っています。

 

 20世紀末からの自民党内部の政治史を振り返ってみれば、保守傍流側、特に清和会からの保守本流側の攻撃とそれによる保守本流側の縮小と分裂がありました。保守本流を形成したのが旧田中派(木曜会、経世会、平成研究会)、旧大平派(宏池会)でしたが、これらはスキャンダルや分裂で勢力が衰えてしまいました。そして、「改革志向(従米志向)」の強い保守傍流、清和会の天下となりました。

 

 現在の日本政治の状況は自民党の一強多弱状態ですが、自民党内部もまた清和会の一強多弱状態にあります。こうした巨大な勢力に対峙する場合に、それに対する対応としては、「味方になる(バンドワゴニング、bandwagoning)」と「小さい者同士が一緒になって対抗する(バランシング、balancing)」があります。

 

 今回の動きは「バランシング」のための動きであると思います。こうした動きについて、対抗される側の安倍首相は不快でしょう。また、この会には細田派(安倍派)所属の福田達夫氏が参加しています。達夫氏は、祖父・福田赳夫、父・福田康夫がともに首相を務めたサラブレッドで、慶應義塾大学法学部卒(卒業後にジョンズ・ホプキンズ大学SAISに留学)で三菱商事勤務後、父康夫氏が首相在職中は総理大臣秘書官を務めました。ちなみに安倍晋三首相の兄・安倍寛信氏は東大法学部卒業後、三菱商事に入社し、役員を務めました。この寛信氏の息子さん(安倍首相にとっては甥にあたる寛人氏・慶應義塾大学卒)が安倍首相の後継者と目されています。

 

 細田派(安倍派)の清和会は、福田赳夫が創設した派閥で、その後、安倍派、三塚派、森派、町村派、細田派と続いてきました。福田赳夫は岸信介派に参加していましたが、岸退陣後に岸派が分裂し、その多くに擁立されて福田派を結成しました。ですから、創設者は福田赳夫ですが、源流は岸信介です。福田は1962年から25年以上派閥のオーナーと君臨したために、安倍晋太郎への禅譲が遅れました。結果として安倍氏が病気に倒れて結果として首相の座を逃したために、「福田氏が早く禅譲していてくれれば」という思いが安倍氏を支えた人々にあったと言われています。

 

 清和会(安倍派)はこの世の春を謳歌しています。しかし、「驕る平家は久しからず」という言葉もあります。こうした若手の動きは潰されてしまうでしょうが、その種を完全に無力化することはできないでしょう。

 

(新聞記事・雑誌記事転載貼り付けはじめ)

 

自民党:若手議員らが「過去を学ぶ」勉強会7日設立

 

毎日新聞 20150501日 2017分(最終更新 0503日 1950分)

http://mainichi.jp/select/news/20150502k0000m010064000c.html

 

 自民党の若手「ハト派」議員らが7日、勉強会を設立する。「歴史修正主義的な過剰なナショナリズムを排し、保守の王道を歩む」と設立趣意書に掲げ、穏健な保守こそ自民党の歩むべき道だと訴えていく構えだ。

 

 名称は「過去を学び『分厚い保守政治』を目指す若手議員の会」。衆院当選2回の国場幸之助氏、武井俊輔氏(ともに岸田派)、石崎徹氏(無派閥)が発起人代表を務め、各派の若手議員が発起人に名を連ねる。参加資格は同党所属の当選1〜2回の衆院議員と、2013年参院選で初当選した参院議員。

 

 有識者を講師に招き、戦後70年の歴史について理解を深める。初会合の講師は、村山富市内閣から小泉純一郎内閣まで官房副長官を務めた古川貞二郎氏の予定だ。

 

 設立趣意書は「国民各界各層の広範な思いを大きく包摂し漸進していく」ことが自民党の役割だとして、より幅広い国民の支持を得る必要性を強調している。

 

 発起人の一人は「ヘイトスピーチなど隣国との対立をあおるような風潮に対し、強い問題意識を持っている議員が自民党にいることを示し、保守への信頼を勝ち取りたい」と語った。【影山哲也】

 

 

自民党内に“反安倍の会” 背後にはアノ古賀誠氏?〈週刊朝日〉

 

dot. 520()1141分配信

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150520-00000008-sasahi-pol

 

 安倍晋三首相のブレーキ役となれるのか。

 

 自民党の若手議員27人が7日、「過去を学び『分厚い保守政治』を目指す若手議員の会」を発足させた。昨年から猛スピードでタカ派路線を進む安倍政権に、「穏健な保守こそ、自民党の進むべき道」と訴えることも考えている。

 

 会の代表は当選2回の衆院議員3人。自民党ハト派の「宏池会(こうちかい)」(岸田派)の武井俊輔氏(40)と国場幸之助氏(42)、無派閥の石崎徹氏(31)。中国外交を重視し安倍首相に批判的な福田康夫元首相の長男、達夫氏(48)も会に参加している。

 

 7日の初会合で武井氏は「今年は戦後70年の重要な節目。幅広い保守の一翼を担うための学びを深めていく」と意義を強調した。会のメンバーの一人は言う。

 

「安倍さんが進める安全保障政策に危うさを感じている自民党議員は少なくない。これまで公明党にブレーキ役を押し付けてきたが、自民党にも多様な意見があることを知ってもらいたい」

 

 25日には作家の浅田次郎氏を講師に招く。浅田氏は、安倍政権の集団的自衛権の行使容認の動きについて「憲法9条が空洞化してしまう」「首相の政治手法は非常識」といった批判をしてきただけに、反安倍の機運が高まりそうだ。

 

 今回の一連の動きはある人物がウラで指示している、と永田町では囁かれている。元自民党幹事長で宏池会の名誉会長、古賀誠氏(74)だ。

 

 古賀氏も集団的自衛権の行使容認を進める安倍首相について、「自分が最高責任者だから自分で決めるというのは、愚かな坊ちゃん総理だ」と批判。3月末のテレビ番組では「自民党の先生方、なぜ黙っているんだ」と奮起を促している。

 

 武井氏は古賀氏の“関与”を否定するが、宏池会の中堅議員は「古賀さんの指示を受けての行動でしょう」と推測する。

 

「武井、国場は国会議員になる前から、古賀さんに大変世話になっている。宏池会の会長だった大平正芳元首相の墓参りも一緒に行くほどです。大型連休のニュースの少ない絶妙なタイミングで会を発足させたことをみても、古賀さんの指示があったのではないか」

 

 7日に発足した勉強会だが、入会者は増え、すでに30人を超えた。当初は会の発足を容認した官邸も、警戒を強めているという。

 

 政治評論家の浅川博忠氏は「官邸側の切り崩し工作が始まる」と指摘する。

 

「首相にしてみれば、安保関連法案の国会審議が始まるというのに、身内が足を引っ張るなという心境でしょう。今後、あらゆる“脅し”をかけて会を弱体化させるのではないか。一方、古賀氏もそうはさせじと対抗するはずです」

 

 ようやく声を上げたハト。意地を見せられるか。

 

(本誌取材班=一原知之、小泉耕平、牧野めぐみ、山岡三恵/今西憲之、黒田 朔)

 

※週刊朝日 2015529日号

 

(新聞記事・雑誌記事転載貼り付け終わり)

 

(終わり)