古村治彦です。
今回は、「北米大陸は次の新興巨大市場になる」という論稿をご紹介します。著者は、アフガニスタンやイラクで米軍や多国籍軍を率い、オバマ政権ではCIA長官も務めながら、不倫スキャンダルで失脚したデイヴィッド・ペトレイアス退役陸軍大将です。ペトレイアスは、軍歴もさることながら、学歴も素晴らしいもので、陸軍士官学校、アメリカ陸軍指揮幕僚大学を優秀な成績で卒業し(戦前の日本陸軍で言えば恩賜の軍刀組です)、プリストン大学大学院(ウッドロー・ウイルソンスクール)で国際関係論の博士号を取得しています。
ペトレイアスの今回の論稿は、ハーヴァード大学ケネディスクールの研究員として発表した論稿の要約で、言いたいことは「北米大陸(アメリカ・カナダ・メキシコ)は次の新興巨大市場になる」という内容です。内容自体は目新しいものでないし、陳腐なもので、著者が有名であるくらいがウリです。
このように「アメリカは凄い」「アメリカは偉い」と言い続け、BRICSの台頭やAIIBに見られる、ヨーロッパと中国の結合に対抗しようとする姿は何だか哀れを誘うものです。アメリカとそれに追随する日本が中国を包囲する(自由と繁栄の弧やら安倍版の大東亜共栄圏的発想)つもりが、もっと大きく包囲され、気付いたら日米が孤立していたなんてことにならないように、今からでも動くべきでしょうが、日本はこのままアメリカの下駄の雪としてどこまでもついて行くしかないと思っている人たちが政権にいるために馬鹿な選択しかできないでしょう。
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北アメリカ大陸:次の巨大新興市場となるか?(North America: the
Next Great Emerging Market?)
―アメリカ、カナダ、メキシコが21世紀の世界経済を牽引する位置にいるその理由
デイヴィッド・ペトレイアス、パラス・D・バヤーニ筆
2015年6月25日
『フォーリン・ポリシー』誌
http://foreignpolicy.com/2015/06/25/north-america-the-next-great-emerging-market-united-states-mexico-canada/?utm_content=buffer7967b&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer
米連邦議会はついにバラク・オバマ大統領に対して、彼が交渉を妥結させようとしている環太平洋経済協力協定(TPP)と環大西洋貿易・投資協力協定(TTIP)に関する「促進」権限を与えようとしている。しかし、オバマ大統領の進める貿易協定についての長引く激しい議論は、将来の市場統合の価値に対するワシントンにおける疑念を増大させ、力強い世界経済の建設などできないという悲観論を拡大させている。こうした中で全く触れられない疑問が存在する。それは「アメリカと国境を接する近隣諸国は競争できるか?」というものだ。
この疑問に対する答えは、明らかに「イエス」だ。実際、緊密な市場統合、アメリカ、カナダ、メキシコ3カ国それぞれの経済力、4つの技術革命によって、3カ国は次の巨大な新興市場となれる位置に付けているのだ。
現在、世界市場は不確実な動きの中にあることは疑問の余地がない。中国の経済成長は鈍化している。投資主導の経済発展の疲れ、人口構造の変化、10年に渡る労働コストの上昇、財政赤字の急増、環境汚染と汚職の拡大といった問題と中国は戦っている。インドは、「モディ時代」が訪れようとしているが、経済成長を促すために必要な諸改革がまだ軌道に乗っていない。ブラジルは景気後退に陥り、「将来の大国」の地位に留まり続けているように思われる。
先進諸国もそれぞれ同じような問題を抱えている。日本は、安倍晋三首相による一連の経済改革である「アベノミクス」の下で、ある程度の成果を収めているが、経済における競争を導入し、企業の慣習を改革するという最も厳しい改革は不完全なままである。一方、日本の人口における構造変化の影響は深甚なものである。ユーロ圏は一時的なそれぞれの国で程度の異なる経済回復を経験している最中である。しかし、ヨーロッパの先進諸国は堅実な経済成長の道進むための実質的な諸改革を必要としている。
世界経済をこれまで牽引してきた国々の経済成長は鈍化しているが、北米諸国の経済は急速に発展できる位置にある。3か国の経済における重要な中核をなしているのが他に類を見ない市場統合である。確かにTPPやTTIPのような貿易協定にも問題はある。競争に晒されるアメリカ国内のいくつかの経済セクターでの雇用の喪失はその代表例だ。北米自由貿易協定(NAFTA)の下で、北米3カ国は繁栄を共に享受してきた。 貿易量は20年間で3倍になり、その総額は1兆ドルを超え、北米3カ国をまたいで数百万の雇用の創出が行われた。この事実は経済的つながりの改善が生み出す利益であり、注目に値する。
一国レヴェルで言えば、アメリカ経済は根本的な有利さを保持している。それは、比較的自由化されたビジネス環境、技術革新と企業家精神に富んだ文化、大きくて動きが速い資本市場、技術的な先進性を生み出し、製品化する小規模企業である。カナダの銀行システムは世界で最も健全であることは証明されている。カナダの石油とガス生産部門は協力である。昨年の石油価格の下落では影響を受けたがそれでもその強さは健在だ。メキシコはマクロ経済の面で高い安定性を達成している。現在、海外の国々での労働コストが上昇し続けているが、メキシコの現政権はメキシコが製造業の一大拠点になるための諸改革を強調している。
こうした強みに加えて、北米3カ国は4つの部門の大きな変化から恩恵を蒙っている。この4部門とは、エネルギー、先進製造業、生命科学、情報技術である。 これら4つのこれまでの制限を打ち破る革命によって、北米アメリカ大陸は次の新興巨大市場として世界に登場することになるだろう。
これらの大転換は共鳴し合って起きている。採掘技術の発展によって、石油埋蔵量は拡大し、石油と天然ガスの価格は安くなった。これによってアメリカはエネルギー上の独立を得ただけでなく、製造業の復活も果たした。製造業では、ロボット工学と3Dプリンターによって、工学における基準が向上し、コストを下げることが出来た。クラウド・コンピューターとビッグデータを通じてIT技術の応用は拡大した。これらを使って、アメリカの製造業と生命科学は、それぞれ「産業インターネット」と「ヘルスケア・インターネット」を出現させつつある。
北米各国の経済は、これらの諸分野で有利な位置を占めているが、こうした動きを加速させるために、政策決定者たち、特にアメリカ連邦議会が行えることはまだまだたくさん存在する。
第一にそして最も重要であるが、米連邦議会は政府の財政を規律あるものにすることでビジネス環境を改善する必要がある。これには、アメリカの社会保障制度の改革と、慎重に選ばれた軍事・非軍事プログラムの削減によって予算の大幅削減と転換を行う必要が出てくる。これらの予算とプログラムの削減は理想的には、アメリカの企業に対する税制の再構築と共に行われることが望ましい。それには複雑さと世界で最高水準にある全体としての税率の削減が行われるべきだ。
加えて、アメリカ連邦議会はアメリカが技術革新の先頭ランナーでいられるようにいくつかの方策を立てるべきだ。軍事用・非軍事用の科学研究に対する連邦予算は、2009年以降、対GDP比で20%以上も下落している。これを上昇させねばならない。応用研究に対する企業の投資を継続させるために、研究開発に関する減税措置は高級に継続させるべきだ。IT関連企業がサイバーテロとの戦いに参加することを認める法律の成立によって、各企業と米国土安全保障省との間での情報共有が以前に比べてだいぶ楽になった。これは、IT部門におけるアメリカの指導的な立場を守る上で重要不可欠だ。
教育システムと移民システムの改革によって、アメリカは世界中の最高の人的資源を魅了することになるだろう。各州の政策決定者たちは、厳格な教育に関する基準、特に数学、科学、読解能力に関する基準を設け、高い質の教育を提供する特別認可学校などを通じてより大きな競争と選択を促すべきだ。連邦議会は包括的な移民改革法案を通過させ、H-1Bヴィザの拡大、教育と仕事を持つ移民の受け入れの促進のためのシステム作り、非熟練労働者たちのための永住権や市民権獲得の道筋づくりを行うべきだ。
北米大陸がエネルギー生産部門でトップを維持するために、大統領と連邦議会は、カナダからアメリカへ石油を輸出するためのキーストーンXLパイプラインを承認すべきだ。そして、アメリカ国内で生産された石油の輸出を許可し、更には、電力の移送のための高電圧の送電システムの建設によって再生可能エネルギーの開発を促進するようにすべきだ。米環境保護庁には水圧粉砕式に対する奇声を行う権限が与えられた。これによって、シェールガス生産を安全なものにする高質のそして共通の基準が決められ、これまで各州でまちまちだった規制が統一された。結果として、シェールガス革命は継続されることになった。
最後に、連邦議会はアメリカ国内の物理的、そしてデジタル的な社会資本を強化するために投資を賢く行うべきだ。国家社会資本銀行を創設し、自動車燃料税を増税しかつスライド制にし、どこでも使えるブロードバンド・インターネットを発達させる戦略を立てることで、アメリカの生産性が向上だろう。
こうした根本的な強さは、アメリカ、カナダ、メキシコが現在の不確実な世界経済の状況を乗り切ることの手助けとなる。逆風に対する政策から順風に対する政策に転換することで、連邦議会は今日起きている4つの革命の成果を確かなものとすることができ、これから数十年間の経済の大変化を進め、アメリカと北米の近隣諸国の将来に大きな経済的な果実を与えることが出来るようにすることができる。
※著者たちはハーヴァード大学ケネディ記念行政学・政治学大学院付属ベルファー記念科学・国際問題研究センターから共同執筆した報告書を発表した。タイトルは「次の大規模新興市場となるか?:北米大陸における4つの融合された革命の評価」
(終わり)








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