古村治彦です。
今回から3回に分けて、外交・国際問題専門誌『フォーリン・ポリシー』誌に掲載されたハーヴァード大学教授スティーヴン・ウォルトの国際関係論の一潮流であるリアリズムについての論説を皆様にご紹介します。
ウォルト教授は私も翻訳作業に参加した『イスラエル・ロビー』の著者の一人で、国際関係論の大物学者です。今回の論説では、彼が信奉している国際関係論の一潮流であるリアリズムを紹介し、「これまでの3名のアメリカ大統領がリアリズムの諸原理に従っていれば、世界はもっと違って、より良いものになっていた」と主張しています。
私は拙著『アメリカ政治の秘密』の中で、このリアリズムとネオコン・人道主義的介入の対立がアメリカ外交の流れだということを書きました。合わせてお読みいただければと思います。
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リアリストの世界はどのように見えるのか?(What Would a Realist
World Have Looked Like?)①
イラク問題、大量破壊兵器、イスラエル・パレスチナ問題、シリアとロシアまでの中で、アメリカはアメリカの最大の誤りのいくつかをどのようにしたら避けることが出来ただろうか。
スティーヴン・M・ウォルト(Stephen M. Walt)筆
2016年1月8日
『フォーリン・ポリシー』誌
http://foreignpolicy.com/2016/01/08/what-would-a-realist-world-have-looked-like-iraq-syria-iran-obama-bush-clinton/
アメリカの外交政策を研究している全学徒にとっての疑問、それは「外交政策研究分野における卓越したそしてよく知られたアプローチが、世論形成の場、特に主要な新聞の中で隅に追いやられているのはどうしてだろうか?これまでの記録を見てみれば、このアプローチが他のアプローチよりも好成績をあげているのに、隅に追いやられているのだ」というものだ。
私はもちろん、リアリズムを好んでいる。私はリアリズムとリアリストが現在、完全に少数派に追いやられているというつもりはない。第一、今現在、あなたはリアリストの書いた文章を読んでいる。しかし、民主党内のリベラル介入主義(liberal internationalism)や共和党内のネオコンサヴァティズム(neoconservatism)に比べて、リアリズムが人々の目に触れることは極端に少なく、政策に与える影響もその存在に比べて小さい。
外交政策研究の分野の中で、リアリズムが隅に追いやられている状況は驚くべきものだ。リアリズムは国際問題研究の分野で伝統的なアプローチとなっている。そして、ジョージ・ケナン、ハンス・モーゲンソー、ラインホールド・ニーバー、ウォルター・リップマンなどのリアリストたちは、過去においてアメリカの外交政策について鋭い、示唆に富んだ言葉を数多く残している。リアリズムは国際問題の学術的な研究において基礎となる考え方となっている。ここまで述べてきた通りだとすると、この洗練された思想体系は外交政策の議論の中で確固とした地位を保持していると皆さんは考えることだろう。そして、本物のリアリストはアメリカ政治や学術の世界において大きな影響力を持っているのだろうと思っているに違いない。
更に言えば、過去25年にわたるリアリズムの行ってきた予測は、リベラル派とネオコン派の行ってきた予測よりもより質の高いものであった。しかし、冷戦終結後の25年間のアメリカの外交政策立案の分野においてリベラル派とネオコン派が大多数を占めてきた。更には、歴代大統領は、リベラル派・ネオコン派の主張を政策として追求し、リアリズムを無視する場合が多かった。また、主要なメディアはリアリストに対して、考え方を拡散するための手段を与えてこなかった。
その結果は以下の通りだ。冷戦が終結した時、アメリカは世界の諸大国に対して有利な立場に立っていた。この時、アルカイーダの存在は取るに足らないものであり、中東における和平プロセスはしっかりと進んでいた。アメリカは「一極」世界で指導的な立場を享受した。権力政治は過去の遺物となったと考えられ、人類はグローバライゼーション時代において豊かになることに忙しくなり、繁栄、民主政治体制、人権が国際政治の重要なテーマとなった。リベラルな価値観は世界の隅々にまで行き渡るだろうと考えられた。そのペースがゆっくりとしたものであっても、アメリカの力はその拡散に貢献するだろうと見られていた。
状況は急激に変化している。対ロシア、対中国関係は徐々に敵対的になっている。東ヨーロッパ諸国とトルコにおける民主政治体制は後退している。中東全域の状況は悪いから最悪に移ってきている。アメリカは過去14年間にアフガニスタンで数十億ドルを使ってきた。しかし、タリバンは勢力を維持しているし、更に勝利を収める可能性を持っている。アメリカはイスラエルとパレスチナとの間の「和平プロセス」を20年にわたり仲介し、関与してきた。しかし、それによって「和平プロセス」は実現から遠ざかっている。更には、地上で最も明確にリベラル派の理想が現実化したヨーロッパ連合は、修復方法が見つからないような厳しい状況に直面している。
こうした状況は、次の疑問を生み出す。それは、「最近の3人のアメリカの大統領たちがリベラルやネオコンではなく、リアリズムの諸原理に従っていれば、アメリカと世界はより良いものになったのではないだろうか?」というものだ。この疑問に対する答えは「イエス」だ。
皆さんにリアリズムについて説明したい。リアリズムは、「パワー(力、権力)」を政治における中心要素であると考える。国家は、自国を他国から守ってくれる世界政府が存在しない世界において自国の安全保障を維持することを第一に考える存在だ、と考える。リアリストは、軍事力は国家の独立と自律性を維持するために必要不可欠だと考える。しかし、リアリストは、軍事力が多くの場合に意図しなかった結果を生み出すための手段にもなり得るとも考える。リアリストは、ナショナリズムと地域的アイデンティティは強力で持続的だと考える。そして、次のように考える。国家はほとんどの場合、自己中心的である。利他主義はほぼ存在しない。信頼関係が醸成されることは稀だ。規範や国際機関は強力な国家が行うこと大して限定的な影響力しか行使し得ない。まとめると、リアリストは、国際問題に関して悲観的な見方をし、それがどんなに抽象的なイデオロギーを基にした、魅力的な設計図に従って世界を作り変えようとする試みに懸念を持っている。
(つづく)









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