古村治彦です。

 

 今回は、中国の国際的な動きを分析した記事をご紹介します。タイトルに付けた通り、「既存の秩序をより良くする協力者となるか、新たな秩序を構築しようとする競争者となるか」が最大の関心ということになります。筆者自身は答えを出していませんが、私は、単純な二分法ではなく、この2つはそれぞれに当てはまると考えます。そして、前の記事でも書きましたが、中国が覇権国となる動きは止められないだろうと考えます。

 

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中国はどのようなタイプの大国になりたいのか?(What Type of Great Power Does China Want to Be?

 

ロバート・A・マニング筆

2016年1月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/01/05/what-type-of-great-power-does-china-want-to-be/

 

 アメリカ、日本、その他の同盟諸国である世界の諸大国にとって、中国の台頭に対する懸念は1つの流れとなっている。中国は世界経済と既存の国際機関に積極的に参加している。しかし、既存の地域的、世界的秩序に挑戦することになる代替の組織を創設することで大国としての役割を果たそうとしている。ここ数カ月の一連の動き、その中でも特に気になる中東において中国が始めた積極的な外交姿勢は、中国の世界戦略を判断を下す際に、それを複雑なものとしている。

 

 ここ最近の数カ月、世界は、中国外交の興味深い、そして少なくとも戦術的な動きを目撃している。2008年以降、中国は「喧嘩腰」の攻撃的な外交姿勢を取ってきた。それが、より穏やかで友好的な関与へと変わってきている。その一例が昨年の9月に開かれた中国の習近平国家主席とアメリカのバラク・オバマ大統領との間で行われた首脳会談である。この会談で、習近平は、米中間の間で争いの種となっていたインターネット上の安全保障に関してアメリカと協力することを表明した。また、アジア地域に対してはこれまでの姿勢とは全く逆の姿勢を取るようになった。習近平は日本の安倍晋三首相と2度にわたって会談した。また、日中韓の三国メカニズムを復活させた。そして、ヴェトナム、フィリピンとの間の関係を正常化させた。習近平の行動の中で最も創造的で、前例のないものとなったのが、シンガポールでの馬英九台湾総統との会見であった。

 

 ヴェトナム政府とフィリピン政府は南シナ海の南沙諸島をめぐり中国と激しく争っている。中国は友好的な姿勢を打ち出す魅力攻勢を行っているが、これは、攻撃的な姿勢は意図とは逆の結果しか生み出さないこと、そして、アジア地域全体、日本やインドといった国々がアメリカとの同盟やそれぞれとの間の同盟を強化する動きを見せるという、アメリカに対して思いがけない利益を与えてしまっていることに中国が気付いたということを示している。習近平の外交攻勢策の中核をなすのは恐らく、彼のアメリカのアジアにおける「勢力均衡の再構築」に対応するためのユーラシア大陸を西に進むという「軸足の転換」ということである。: 「一帯一路」計画によって、中国は近隣諸国に対して気前の良い援助を行うようになっている。

 

 ここで大きな疑問がわいてくる。それは、中国の気前の良い外交は戦術的な転換に過ぎないのか、それとも中国中心の秩序作りという自分の能力を超えた課題を行うことは困難でありそこから方向転換した方が良いということに気付いたのだろうか、というものだ。

 

 例えば、中国が初めてアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設を提案した時に起きた懸念は、世界銀行、IMF、アジア開発銀行のようなブレトンウッズ体制を構成する諸機関に取って代わることを意図したものではないのか、というものであった。中国は、AIIBは、基準を共有できる世界銀行とアジア開発銀行のパートナーとなり、競争者にはならないと主張した。AIIBが正式に発足してから、しかし現在までのところ、答えは出ていない。

 

しかし、AIIB、BRICS銀行、上海協力機構、習近平が進める「アジア人のためのアジア」という新しい安全保障の枠組み、世界の準備通貨としての人民元、ボアオ・フォーラム(ダボス世界経済フォーラムの代替になる)の存在は、既存の世界秩序と競合するものである。これらは中国が恥辱の世紀を過ごした後に世界においてふさわしい地位を得ようとする努力を示すものである。

 

 それともこうした中国の動きは危険分散戦略に基づいたものなのだろうか?最近の一連の動きは別の流れを示しているとも言える。それは、改革された国際システムの中江中国は、経済的、地政学的な地位にふさわしいより重要な役割を果たそうとしているというものだ。その一例が、IMFにおける中国の役割の拡大である。IMFは最近、特別引出権(SDR)と呼ばれる様々な貨幣のバスケットに人民元を加えることを決定した。その割合は、アメリカ・ドルに次いで第二位(10.9%)となり、イギリス・ポンド、日本・円、ユーロを超えるものとなった。加えて、アメリカ連邦議会が最終的に2010年のIMF改革案を承認したことで、中国はIMFにおける投票権の割合を7.9%にまで拡大させた。

 

 中国は気候変動分野でアメリカと緊密に協力してきている。最近、パリで締結されたCOP21気候変動に関する協定においても重要な役割を果たした。中国は、アメリカとその他のG7諸国が受け入れられる合意内容を認めるように発展途上諸国に対して様々な働きかけを行った。気候変動に関するアメリカの交渉責任者トッド・スターンは後に、「中国以上に我々と協力した国は存在しない」と述べた。

 

 より興味深い動きは、中国が新たに中東全域でより積極的な外交を展開していることである。中国は、アメリカ主導の国際システムの中で、アメリカに対してタダ乗りをすることを中核的な外交指針として正当化してきた。ASEAN加盟諸国がそうしているように、他国の国内問題には不介入という原理を堅持してきている。しかし、2015年12月26日、北京でシリア政府関係者とシリアの反体制の各グループの代表者たちが一堂に会した。この時、中国はシリアの内戦の解決に貢献するという決意を内外に示した。シリア内戦では30万人以上が死亡し、数百万の難民がシリアから避難している状況だ。

 

 国連安全保障理事会は昨年12月に、シリアの和平プロセスの道筋を示すロードマップとなる決議を可決した。その直後、中国はシリア政府関係者を中国に読んで、和平プロセスについて協議した。この動きは、習近平が国家の最高指導者に就任して以降の、中国の積極的な外交姿勢の一環と言える。習近平は、中国の偉大な指導者であった鄧小平の遺した指導方針である「韜光養晦(低姿勢で長時間耐えて力を蓄える)」を明確に否定した。

 

 同様に、アメリカがアフガニスタンからの撤兵を進めている中、中国は、タリバンとアフガニスタン政府との間を仲介しようとしている。中国はより積極的な役割を果たそうとしている。10年前、アメリカと同盟諸国はアフガニスタンで戦った。この時、中国は傍観者としての立場を崩さなかった。そして、アフガニスタンの鉱物生産分野に数十億ドル規模の投資を行い、目立たないようにして利益を得ていた。

 

 中国が中東で果たす役割は大きくなっているが、これは国際社会における地位を高めたいという希望だけではなく、中東における経済的利害が大きくなっていることを反映している。中国は国内で消費する石油の60%を輸入に頼っている。そのほとんどは中東から輸入している。中国の国有石油企業は各社とも中東、特にイラクとイランにおいて油田やガス田に対して積極的に投資を行っている。

 

 中東における中国の新たな積極的外交姿勢は良い結果を生み出すかと言うと、それは難しいと言わざるを得ない。シリアで始まっているが、中東での政治プロセスは大変に難しく、骨の折れるものとなるであろう。そして、イラン、ロシア、サウジアラビアといった内戦に介入している諸大国がそれぞれ受け入れることが出来る結果となるものが生み出されるまで、中国が主導しての内戦終結は難しい。同様に、アフガニスタンにおける内戦状態も終結の気配を見せていない。実際のところ、状況はより複雑化している。それは、イスラミック・ステイト勢力が争いに加わっているからだ。更に言うと、争いが絶えないこれらの地域における中国の影響力は現在のところ限定的なものにとどまっている。

 

 しかし、重要な点は、シリアとアフガニスタンでの中国外交は、アメリカの外交政策に沿ったものとなっているということだ。中東では、複雑に入り組んだ形で民族と宗教を基にした争いがこれからの10年も続くであろうと考えられている。そして、中国がこれからも新しい外交姿勢を堅持すると仮定する。そうするとその結果は、アメリカ外交にとって悩ましいものを中国が肩代わりしてくれるということになり、望ましいということになる。

 

 より大きな疑問は、中国の中東におけるより積極的な動きから、中国の世界システムに対する意図を読み取ることが出来るか、何か結論めいたものを導き出せるのか、というものである。それ以外にも様々な疑問がわいてくる。中国は、既存のシステムの中で更なる力を自国に与えてくれる現在の流れをそのまま受け入れるだろうか?それもと、中国の積極的な外交姿勢は、見直された、中国主導の秩序構築に向けた踏み石なのであろうか?AIIBは世界銀行とアジア開発銀行のパートナーとなるのか、それともその懸念は解消されていない競争者となるのか、どちらだろうか? 南シナ海における争いにおいて中国は妥協の方向に進むのだろうか?中国政府は、アメリカとの間で二国間の投資協定を結び、国内最優先の政策からアメリカ企業が中国市場に参加しやすくするだろうか?また、その中でも特に気になる疑問は、中国は争いが起きやすい分野である、インターネット、航空、宇宙、海上において、国際的な規範を受け入れるだろうか、というものである。

 

 アメリカと日本にとって、何が中国の意図を示す重要な指標となるのかを決定することは重要だ。これまで述べてきた諸問題は、そうした指標策定の手始めとなる。中国の動きのいくつかは、アメリカが推奨している、国際システムにおける「責任ある利害保持者」としての動きとしてはふさわしくないものであるように見える。中国の積極的な動きは、既存の秩序の見直しを求めていることを明確に示している。しかし、現在の時点で、何か結論を出すということは困難である。それは、状況は複雑であることを示しているからだ。この複雑な状況はこれからの20年の間にはっきりと理解しやすいものになっていくだろう。

 

(終わり)