古村治彦です。

 

 アメリカの外交専門誌『フォーリン・ポリシー』誌に2016年5月27日付で’All King Trump’s Men’(モーリー・オトゥール筆)というタイトルの記事が掲載されました。これは、映画『オール・キングス・メン(All King’s Men)』をもじったものです。この映画は、連邦上院議員とルイジアナ州知事を務め、当時のフランクリン・D・ルーズヴェルト大統領が最も恐れたヒューイ・ロングをモデルとしたものです。このタイトルは、共和党の大統領選挙候補者ドナルド・トランプをロングになぞらえたものです。ヒューイ・ロングの著書には"Every Men a King"(皆が王様)というタイトルのものがあります。「オール・キングス・メン」(皆が王様の家来)はこれとは反対の意味を指す言葉です。



 記事の内容は、トランプがこれまでに会談を持った人物たちの中で、トランプが政権を獲得した場合に、政権入りするのではないかと思われる人々の紹介です。そして、彼らはトランプと完全に考えが一致してはいないと著者のモーリー・オトゥールは書いています。今回はこの記事の内容をご紹介します。

 

具体的には、元連邦下院議長ニュート・ギングリッジ、連邦上院議員で連邦上院外交委員会委員長ボブ・コーカー(テネシー州選出)、連邦上院議員トム・コットン(アーカンソー州選出)と言った人々です。既に支持を表明しているニュージャージー州知事クリス・クリスティについて、トランプは当選した暁には政権移行ティーム(Transition Team)の委員長にしたいと述べました。政権移行ティームの委員長は、首席補佐官や閣僚のポストに選ばれることが確実なポストです。トランプは、クリスティについて、素晴らしい司法長官になるだろうとも述べています。

 

 トランプがワシントンを訪れて、ジェイムズ・ベイカー元国務長官と会ったということは既にこのブログでお伝えしました。その時に、トランプは共和党の政治家たちとも会談を持っています。その中にトム・コットンとボブ・コーカーが含まれていました。その翌週にトランプは、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官の自宅を訪問したということも既にお伝えしました。

 

 ニュート・ギングリッジは1990年代に連邦下院議長を務めた人物で、半世紀ぶりに共和党が連邦下院で過半数を取ることに貢献した人物です。1994年に「アメリカとの契約」という保守的な綱領を携えてワシントン政治に登場しました。ギングリッジはNAFTAを支持し、イラク戦争やリビアへの介入を支持したのですが、現在は、全く反対の立場のトランプを支持しています。「現在のアメリカの国家安全保障システムと外交政策システムは現実離れしている」「トランプが政権に入れる人の70%はワシントンの外から連れてくるべきだ」と発言しています。

 

 ボブ・コーカーについては、トランプの副大統領候補になるのではないかという憶測も流れていましたが、コーカーは今のところ否定しています。コーカーは、オバマ政権に対して批判的ですが、同時に、ホワイトハウスと連携して移民制度改革を行った人物で、「超党派(bipartisan)」という評価を受けている人物です。また、トランプについては、「大衆煽動者を勝利させてはならない」「イスラム教徒の一括入国禁止は我らが偉大な国の価値観と諸原理に反対するものだ」と発言していました。しかし、現在では、トランプが「より現実的な」外交政策の方向へ「進化している」と考えていると発言しています。そして、経験豊かなアドヴァイザーを迎え入れることでトランプはより大きな利益を得るだろうとも述べています。

 

 トム・コットンはアーカンソー州選出の連邦上院議員です。ハーヴァード大学法科大学院卒業のエリートで弁護士として働き始めたばかりの時に、2001年9月11日の同時多発テロに衝撃を受けて、アメリカ陸軍に入隊し、イラクやアフガニスタンに派遣されました。彼は軍在籍中にニューヨーク・タイムズ紙の記事に対して反論の文章を書き、それが注目され、ネオコンのウィリアム・クリストルに見出されました。そして、2014年の連邦上院議員選挙に当選しました。

 

 トム・コットンはトランプの発言に対して批判をしてきましたが、「ヒラリーよりもより多くの点で考えが一致する」とも述べています。また、「全世界に対する制限のない関与」の見直し、「軍の建て直し」という点では一致しているとも述べています。

 

 共和党の政治家たちは、不承不承トランプを支持するということになっています。もしくははっきりと「民主党、ヒラリーを勝たせたくないので、トランプに投票はするが支持はしない」ということを述べている人たちもいます。トランプは過激な発言をしていることはもうすでに知れ渡っているのですが、彼らは、その中のいくつかで自分と考えが合うものを選び出して、トランプのこうした考え(発言)は自分と同じだし、彼もだんだん現実的になっているから支持するという表現をしています。

 

 この記事の中で、トランプの時に矛盾する発言内容はアメリカの有権者たちの抱える矛盾を象徴するものだとしています。ピュー・リサーチ・センターの最新の世論調査によると、有権者の60%が「アメリカは自国の問題に対処して、他国の問題は他国に任せるべきだ」と考えているが、同時に、ここ10年で、より多くのアメリカ人、特に共和党支持者たちは「軍事支出は削減すべきではなく、増加させるべきだ」とも考えているということです。

 

 トランプの外交政策は、「アイソレーショニズム(Isolationism、国内問題解決優先主義)」であり、「アメリカ・ファースト(アメリカの抱える国内問題をまず第一に解決しよう)」ということです。

 

 トランプの選対では、トランプは外交政策について、「専門性と現実性を高める(professionalizing)」最中にあるとしています。このprofessionalizingの過程は、同時に、「手なづける(tamig)」ものでもあって、トランプは少しずつ、取り込まれていっているように思われます。エスタブリッシュメントの人々はバカではないのでエスタブリッシュメントをやっていられる訳で、トランプを取り込もうとすることは当然です。また、トランプも本気で大統領になろうというのなら、「より現実的に」ならねばなりません。

 

ただ、トランプの出現はアメリカの大きな地殻変動(もしくは帝国の衰退)の象徴ではあると私は考えています。そして、外交関係でいえば、ヒラリーよりはずっとまし、ということになります。最悪よりはまし、ということになります。

 

(終わり)