古村治彦です。
チャールズとデイヴィッドのコーク兄弟と言えば、一時期はアメリカ政治を陰で操る大実業家というイメージだった。バラク・オバマ政権成立後に始まった保守派の草の根運動ティーパーティー運動に全面的な資金提供を行ったのがコーク兄弟だった。ドナルド・トランプ政権のマイク・ペンス副大統領、マイク・ポンぺオ国務長官などは連邦議員時代にコーク兄弟から政治資金提供を受けていたこともあり、このブログでも紹介したが、「コーク兄弟のための国務長官だ」とまで言われるほどだった。
デイヴィッド(左)とチャールズ
コーク兄弟も弟デイヴィッドが2019年に79歳で死去してしまい、85歳になる兄チャールズが残された。コーク家には4名の男性兄弟がおり、長男はフレデリック(2020年に86歳で死去)、次男がチャールズ(85歳)、その次が双子でデイヴィッド(2019年に79歳で死去)、ビル(80歳)という構成になっていた。兄弟たちの父フレッドが創設したコーク・インダストリーズを従業員13万人の大企業に育てたのは、チャールズとデイヴィッドの力が大きい。長男は芸術家肌で事業には全くの不向き、末っ子のビルはコーク・インダストリーズに入っていたが、兄たちと喧嘩別れし、自身でオックスバウという会社を立ち上げ成功させた。また、ヨットの世界的な大会アメリカズ・カップでも優勝している。
コーク兄弟はリバータリアニズムを信奉していることでも知られていた。リバータにリアニズムについて簡単に言うと、反税金、反福祉、反規制、反大規模政府ということで、徹底的に規制や制限を嫌い、無政府主義にまでつながる思想である。コーク・インダストリーズの主要ビジネスが石油採掘や精製で、政府の既成と常に戦ってきたということもある。そのため、現実政治では、民主党ではなく、共和党と共和党所属の政治家たちを応援してきた。
コーク兄弟は自分たちが政治献金をするだけではなく、政治献金をする大金持ちたちのネットワーク作りも行い、成功した。コーク兄弟に誘われて政治献金をするようになった大金持ちたちも多い。
こうしたことは拙訳『アメリカの真の支配者 コーク一族』(ダニエル・シュルマン、講談社、2016年)に詳しく述べられている。
チャールズが今になって後悔している、というのが下の記事だ。コーク兄弟はさんざん当時のオバマ政権と民主党を攻撃した形になっている。それが今になって「分断を招いた」として「間違っていた」と後悔しているというのだ。そして、貧困問題やホームレス、麻薬中毒といった社会的な問題について取り組みたいなどと殊勝なことを述べている。
コーク兄弟はトランプ大統領が嫌いで、2016年の段階では対抗馬を支援していたし、トランプが共和党の大統領選挙候補者に指名されても全く動かなかった。質実剛健を旨とする中西部に生まれ育ち、実業(コーク・インダストリーズの主要なビジネスは石油採掘と精製、更に父親以来の牧場経営もある)の世界で生きていたチャールズ(兄や弟たちはフロリダ州や東海岸で贅沢な暮らしをしてきた)と、トランプでは肌合いが全く異なるということはあるだろうし、チャールズからすれば、「お前はずっと民主党員だったし、保護貿易主義者ではないか」という反感が強いと思われる。
チャールズは前回紹介した「トランプ現象、トランプ主義」に恐れおののいたのだろう。チャールズもまた名門中の名門大学マサチューセッツ工科大学を卒業して会社経営を行っているエリート側の人間だ。そして、リバータリアニズムを信奉し、関連著書を読み漁ってきた研究者タイプの人間でもある(書斎は本で埋め尽くされている)。しかし、現実は厳しい。チャールズは、トランプ現象、トランプ主義をアメリカの衰退の始まりともとらえて、高尚な思想運動や政治運動ではなく、足元の共同体や社会が抱える諸問題に取り組むという決心をしたのだろう。しかし、それはもう手遅れだ。アメリカの分断は分裂に向かう
バイデン・ハリスという新政権誕生に何の高揚感もないのは、トランプ現象で本の表紙が開かれた、アメリカの衰退のページが新たにめくられたと人々が感じているからだろう。世界中の人々が、「デモクラシーの本家本元だと威張り腐って、俺たちに散々説教してきたが、お前らの選挙制度一つ、うまくやっていないじゃないか。もっと効率的で公正で、疑義を挟まれない形でできる選挙のやり方を教えてやろうか」と思うようになっている。
チャールズの言葉は何かとても物悲しく、アメリカの終わりを印象付けるものだ
(貼り付けはじめ)
チャールズ・コークは自身の党派性について後悔:「やれやれ、私たちは間違ったのか!」(Charles
Koch regrets his partisanship: 'Boy, did we screw up!')
カエラン・デシー筆
2020年11月13日
『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/homenews/news/525878-charles-koch-regrets-his-partisanship-boy-did-we-screw-up
共和党への大口献金者チャールズ・コークは、党派性を持ち続けた数十年を後悔し、政治的な分裂の間をつなぐことに注力したいと望んでいると発言した。『ウォールストリート・ジャーナル』紙が金曜日に報じた。
大統領選挙直前に行ったインタヴューの中で、85歳になるリバータリアニズムを信奉しているビジネス界の大立者は、ウォールストリート・ジャーナル紙に対して、これまで保守的な大義のために多額の資金を投じてきたが、今の関心は貧困、麻薬中毒、ギャングによる暴力、ホームレス、累犯といった諸問題に関心が移りつつあると述べた。
長年にわたり、チャールズとデイヴィッドのコーク兄弟は保守的な大義と候補者たちに資金を投入するための影響力を持つネットワークを構築した。チャールズ・コークはコーク・インダストリーズの最高責任者の地位にとどまり続けている。コーク・インダストリーズは13万人の従業員を抱える数十億ドルを稼ぎ出すコングロマリットである。
コークが共著として木曜日に発売開始した最新刊『人々を信じる:トップダウンの世界のためのボトムアップの解決法』の中で、自身の党派性の強い政治がもたらす分断と呼ぶものについて考察している。
チャールズは本の中で「やわやれ、私たちは間違ったのか!」と書いた。そして、「なんてことだ」とも書いた。
コークは統合を呼びかけているが、2020年の選挙において共和党所属の候補者たちへ多額の資金のほとんどを投じた。280万ドルを共和党に寄付し、民主党の候補者には22万1000ドルを寄付した、とウォールストリート・ジャーナル紙は報じている。
コークは、大統領選挙候補者ジョー・バイデンと副大統領候補者カマラ・ハリスの選挙の勝利に対して祝意を表した。そして、「私たちは選挙後の時間を使ってより良い前進の方法を見つけたい」と述べた。
トランプ大統領と共和党所属の連邦議員たちのほとんどはバイデンを大統領選挙勝利者と言及することを拒絶している。連邦議員たちは選挙結果についてトランプ陣営が行っている法律的な争いを支持している。
コークは、「私たちは党派争いのために、政治について過剰に期待し、私たち自身とお互いについて過小に期待するようになってしまっている」と述べた。
(貼り付け終わり)
(終わり)
アメリカ政治の秘密
ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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