古村治彦です。
2021年5月29日に発売となった最新刊『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)のアマゾンでの販売ページにレヴューが掲載されました。参考にしていただいてお読みください。
アメリカでは新型コロナウイルス感染拡大が収まりつつあるということで、人々の需要が高まっているが、供給はなかなか回復しない中で、物価が上昇、インフレ懸念が高まっているという内容の記事をご紹介する。
アメリカではここ1年間ほどは新型コロナウイルス感染拡大もあり、経済活動が鈍化し、物価上昇率も低かった。しかし、2021年4月の上昇率は4%超となった。物価上昇率の推移は以下のグラフの通りだ。同時期の日本のグラフも併せて掲載する。
ここ1年間のアメリカの物価上昇率
日米で共通して行われているのは異次元の金融緩和であり、その目的はインフレ率2%の達成である。しかしながら、以下のグラフの通り、その目的を達成することはできていない。4%を超える物価上昇率は行き過ぎであるが、そもそもが物価下落が続いていたところに経済回復の兆しを受けての大幅な上昇となった。
ここ25年間のアメリカの物価上昇率
ここ25年間の日本の物価上昇率
人々の生活が苦しいと感じられるのは物価上昇率が賃金上昇率を上回る場合である。賃金上昇率が物価上昇率を上回れば、人々の消費にも余裕が出て、生活が楽に感じられる。日本では物価下落が続くデフレーション状態が長年続き、デフレ率よりも賃金の下落率が高いので、生活が苦しいということになる。日本は平成から令和にかけての約30年間にわたり、ほぼ経済成長がなく、賃金が下がり続け、物価の下落率はそれよりも小さいために、生活の苦しさだけが続いてきた。
ここ1年間のアメリカの賃金上昇率
ここ1年間の日本の賃金上昇率
ここ25年間のアメリカの賃金上昇率
ここ25年間の日本の賃金上昇率
前回もご紹介したが、バイデン政権は600兆円規模の予算を提案している。連邦議会での審議でかなり削られるだろうが、このような大型予算もまたインフレ懸念を増やす材料となっている。これからどのような動向となるかを中止する必要がある。
(貼り付けはじめ)
ホワイトハウスではインフレへの恐怖感が高まる(Inflation fears grow
for White House)シルヴァン・レイン
2021年5月16日
『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/policy/finance/553671-inflation-fears-grow-for-white-house
物価上昇はバイデン大統領と連邦準備制度(Federal Reserve)への新型コロナウイルスによる景気後退からの回復から逸れないようにするためにインフレを阻止しなければならないとするプレッシャーを高めている。
消費者需要は、政府による景気刺激策、ワクチン接種状況の改善、そして感染拡大の抑止によって大きくなっている。消費者需要の高まりによって国際的な供給チェインに歪みが出ている。製造業部門やその他新型コロナウイルス感染拡大の影響が深刻な産業部門はロックダウンが続いた1年を終えて、回復のために奮闘している。しかし、供給の不足とコストの上昇によって苦闘を余儀なくされている。
こうした様々な要素が重なった結果、消費者物価指数(consumer price
index、CPI)は今年の4月には4.2%の上昇、過去12カ月では0.8%の上場を記録した。労働省は先週、2008年以降では、最速の年間での上昇率となったと発表した。食料品とエネルギーの価格はより高騰しており、それらを除外しても、消費者物価指数は1982年以降、最大の月間の上昇率を記録した。
消費者支出が増加しているのは楽観主義が拡大していることを示しているが、アメリカ国民がここ10年以上の間にアメリカで対処したことがないインフレ率に直面しており、バイデン政権はその点で政治的リスクに直面している。
アメリカ国民の間でインフレ率に関して懸念が深まっている。その結果として、バイデンの経済政策と、2022年の中間選挙で共和党との僅差を守りたいという民主党の希望が潰えてしまう可能性がある。
リバータリアニズムの研究で知られるケイト―研究所の経済政策専門家ジョージ・セルジンは次のように述べている。「現在、人々は消費を拡大させている。そして、4月の消費者物価指数が示しているのは、消費者たちは専門家の予想よりも活発に消費しているということだ」。
セルジンは続けて次のように述べた。「供給への衝撃はこれからも続いていく。それによって4月の指数は影響を受けている。しかし、大きな流れにおいては、需要と購買力が抑制されているが、人々は最終的に消費を拡大させ始めている」。
消費者による支出が増大することでコロナウイルス感染の不況からの回復がアメリカ構内で起きることで、インフレーションが起きるだろうと見られている。しかし、予想以上の急激な物価上昇は、共和党所属の連邦議員たちからの更なる批判を真似ている。共和党の議員たちは数か月にわたり、ホワイトハウスと連邦準備制度のインフレーション対応を批判してきた。
本誌とのインタヴューにおいて、リック・スコット連邦上院議員(フロリダ州選出、共和党)は次のように述べている。「歴史において、資金供給の大幅な増加があったところでインフレーションが起きなかった例を私は知りません」。
ホワイトハウスと連邦準備制度の高官たちは、新型コロナウイルス感染拡大が始まってから、約900万の雇用が失われたままであり、経済が過熱する心配はないと述べている。政府高官たちは、困窮者たちに対する支援を取りやめる状況にはなく、2007年から09年まで続いた複数年にわたる緩慢な回復が起きるリスクの可能性があると述べている。
バイデン大統領と民主党所属の連邦議員たちは、3月に1兆9000億ドル規模の新型コロナウイルスの救済法案が可決されて以降、インフラ整備のために数兆ドル規模の支出を行おうとしている。共和党所属の連邦議員たちは、道路、橋梁、河川のようなインフラの中核に関して、民主党側と合意に達しているが、バイデン大統領のより広範な支出に対しては反対し、そのような支出をすればインフレ率をより高くしてしまうと主張している。
スコットは「無謀な支出を止めねばなりません。連邦政府は収入の範囲内で活動を始めるべきなのです」と述べた。
インフレを批判している人々は、連邦準備制度が少なくとも2022年よりも前に利上げを行うことはないと明確に否定の姿勢を示したことで懸念を募らせている。
経済学者の多くはこうした懸念を否定し、経済が通常の回復ペースに戻ることで、これから数か月の高いインフレ率の後に物価は、落ち着いていくだろうという連邦準備制度の見込みを共有している。
コンサルタント会社「マクロポリシー・パースペクティヴ」の上級エコノミストのローラ・ロズナー=ウォーバートンは「急激な物価上昇はここ2カ月間だけのことだ」と述べた。
ロズナー=ウォーバートンは「4月の消費者物価指数を見て過剰に反応するのは時期尚早だし、過剰な心配だと考えている」とも述べた。
ロズナー=ウォーバートンは、4月の物価上昇は三つの短期間の要素によるものだとしている。それらの要素とは、深刻な物価下落の後の1年における急激な上昇が統計に反映されたこと、新型コロナウイルス感染拡大による一時的な供給に対する制限、抑制されていた需要の開放である。
ロズナー=ウォーバートンは次のように述べている。「昨年、物価は大幅な下落を記録した。今年、そうした物価下落の報告はない。1年ごとで見ていくと、インフレ率は人工的に高くなっているように見えてしまうが、それは昨年物価が大幅に下落したからだ」。
ロズナー=ウォーバートンは続けて次のように語っている。「家賃、航空運賃、娯楽、自動車保険、家庭で使われる財やサーヴィスの価格は昨年大幅に下落したが、今年は上昇している。それらが4月の物価上昇にも大きく影響している」。
いくつかの財の価格が通常のレヴェルに戻ることでインフレーション率がより高く押し上げられているが、その他の財の供給不足はより大きな影響を与えている。先月の消費者物価指数の上昇の約3分の1は、中古車と中古トラックの価格が10%も上昇したことだけで起きているのだ。
ロズナー=ウォーバートンは、中古自動車の流通が大きくなったのは、半導体供給の不足のために起きたと述べている。半導体の供給不足のために新車の生産が落ち込み、中古車の流通が盛んとなったのだ。全体の供給が阻害されている。より多くの州でコロナウイルス感染拡大関連の制限が解除されている中でより多くのアメリカ国民が出かけようとしている。そうした中で、新型コロナウイルス感染拡大中に所有する自動車の数を減らしていたレンタカー会社も自動車を人々の需要に見合うように動いている。需要は大きくなっている。
ロズナー=ウォーバートンは「供給は現在の重要に徐々にではあるが見合うようになっていく。そして、需要もまた、財政刺激策の影響が縮小していく中で、小さくなっていくだろう。現在のボトルネック(訳者註・制限された供給と開放された需要)はこれかもずっと続くようなものではない」と述べた。
従って、より高いインフレ率がこれからどのように継続していくのか、どれほどの期間続いていくのかということは不透明であり、それらの先行き不透明さと不安定さがバイデン大統領と連邦準備制度理事会のジェローム・パウエル議長に重くのしかかる。
連邦準備制度はインフレに対するアプローチを変更したことを金融市場に売り込もうとしている。それは、この10年間の中央銀行が定めた物価上昇率に届かなかったことを穴埋めするために物価上昇を許容するというものだ。
10年以上にわたり、物価上昇率は連邦準備制度が定めた2%の年間目標を下回ってきた。それによって賃金上昇率を阻害し、中央銀行の利上げの能力を損なわせてきた。こうした流れを変えるために、パウエルと連邦準備制度の幹部たちはこれまでの物価上昇率の低さを補うために物価上昇が軌道に乗り、雇用が最大限のレヴェルに達するまで利上げはしないと主張している。少なくとも2022年までは利上げはできないだろうと見通している。
前述のセルジンは次のように述べている。「これらの理由によって連邦準備制度が利上げをすることは困難な状況だ。そうなると、物価上昇率2%達成ために必要となって、連邦準備制度が果たして果敢に利上げができるのかどうか心配になってくる」。
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