古村治彦です。

 アメリカでは現在、インフレーション率の上昇が問題になっている。インフレーションとは簡単に言うと、物価が上昇することだ。物価が上昇するということは、需要が供給を上回っている状態のことだ。好景気となればインフレが進む。経済が激しく動くことで起きる摩擦熱のようなものだ。流通する貨幣量が増えるからインフレになる。

 ジョー・バイデン政権が進めようとしている社会支出法案が可決成立すると、巨大な政府支出によって貨幣量が増大して、インフレになるのではないかと考えてしまう。しかし、以下の記事にあるが、民主党系の経済学者たち、代表としてノーベル賞を受賞したポール・クルーグマンはそんなことはないと述べている。同じ民主党系の経済学者として知られる、こちらもノーベル賞受賞者のラリー・サマーズはインフレーションが信仰する懸念を表明している。

 同じ現象を見てもこのように、ノーベル賞を受賞したような世界的な経済学者たちが意見を異にしているというところに、社会科学の難しさ、社会科学の複雑さがあると思う。社会は非常に複雑であり、それを単純化して、一本貫く法則を見つけようとする営為が社会科学であるが、それはほぼ絶望的に困難、不可能であると思われる。

 インフレーションについて言えば、「政府が大規模支出をすればインフレーションが信仰するのか、しないのか」は極めて重要な問いだが、これに対する答えは確たるものはない。そして、これまでに起きたこととの類似点を探すことになる。以下の記事にあるように、戦後アメリカでインフレーション率が5%を超えた時期は6回ある。クルーグマンは終戦直後のインフレと今回のインフレはよく似ているとしている。これは供給側に問題があり、人々の需要を満たすだけの製品などを供給できないことで起きるインフレだということになる。従って、生産力、供給が調整できればインフレは収まるということになる。クルーグマンはこのように考えているようだ。

 インフレについては「コストプッシュ型」と「デマンド(需要)プル型」がある。コストプッシュ型とは、自然的な要因などで製品の価格が高騰することで起きるインフレであり、デマンドプル型とは、需要が高まることで供給が追い付かずに起きるインフレだ。クルーグマンは現在の状況をデマンドプル型と考えているようだ。しかし、供給サイドが限界に達している場合、それ以上は供給ができないということになる。そうなれば、需要が下がらない限り、物価上昇、インフレは収まらない。海外要因で言えば、中国の存在ということがある。中国の需要は凄まじい。新型コロナウイルス感染拡大を抑え込んだこともある。経済回復をいち早く進めようとしている。

 日本の場合は円安傾向もあり、海外からの食料品や石油、天然ガスの価格が上昇している。それがいろいろな製品の値上げにも結び付いてしまっている。賃金の上昇も見込めない中での物価上昇は最悪のシナリオである。スタグフレーションと言ってもよい。

 アメリカは来年中間選挙を控えている。インフレ退治はバイデン政権の最大の課題となるが、常識的に考えて、大型支出を行うことでインフレが進行するということになる。「現在は調整局面だ」ということで押し通すことになるだろうが、インフレが続けば、民主党にとって2022年の中間選挙は厳しい結果が待っていることになる。

(貼り付けはじめ)

リベラル派の経済学者たちがメモを発表:「ビルド・バック・ベター」法案はインフレーションを悪化させる可能性は小さい(Liberal economists got the memo: Build Back Better couldn't possibly worsen inflation

メリル・マシューズ筆

2021年11月23日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/finance/582805-liberal-economists-got-the-memo-build-back-better-couldnt-possibly-worsen

民主党は、「ビルド・バック・ベター(Build Back BetterBBB)法案」に盛り込まれた巨額の新たな政府支出が、数十年来の猛烈なインフレを起こさせるのではないかという考えを払拭しようとしている。『ニューヨークタイムズ』紙の寄稿者であるリベラル派の経済学者ポール・クルーグマンが、「歴史が述べているのは、“インフレーションについてパニックになるな”ということだ(History Says Don't Panic About Inflation)」の中で、それを裏付ける意見を述べている。

クルーグマンがつけたタイトルにはそうあるが、実際に歴史はそのようには言っていない。

しかし、これは押し売りだ。クルーグマンは、ホワイトハウス経済諮問委員会(White House Council of Economic Advisors)が2021年7月6日に発表した「今日のインフレに関する物語の歴史的比較(Historical Parallels to Today's Inflationary Episode)」という記事に基づいて主張している。

バイデン政権のホワイトハウスがこの記事を発表したのは4ヶ月以上前であり、当時はまだインフレが現実のものとはなっていなかったが、可能性はあるが統制されているように見えた。しかし、現在インフレ率は着実に上昇し、今後もさらに上昇していくだろう。

しかし、ビルド・バック・ベター法案は上院に送られ、修正されるか、あるいは否決されることになる。クルーグマンを含む大金持ちたちは、猛烈なインフレーションを当然懸念する層の人々、つまり上院議員と一般国民に対して、「獣はすぐに檻に戻される」と説得しようとしている。

しかし、クルーグマンとホワイトハウスが見逃している重要なポイントが少なくとも一つ存在する。

ホワイトハウス経済諮問委員会の報告書によると、第二次世界大戦以降、「消費者物価指数(CPIConsumer Price Index)で測定して、物価上昇率が5%以上を記録した時期が6つ存在している」。ホワイトハウス経済諮問委員会とクルーグマンは、現在のインフレーションと最もよく似ているのは終戦直後の1946年から1948年までのものだと主張している。

その理由は簡単だ。戦時中は配給制(rationing)と価格統制(price controls)で消費が抑制されたため、終戦時に潜在需要(pent-up demand)が高くなった。これは、新型コロナウイルス感染拡大から抜け出しつつある現在、潜在需要が高くなっていることとよく似ている。

しかし、戦後、製造業者たちが戦時中に必要な製品から消費者向けの製品に移行していく途中であったために供給が制限された。これは、現在のサプライチェインの問題が供給を制限しているのと似ている。

クルーグマンは私たちに次のように教えている。「しかし、インフレーションは長くは続かなかった。インフレーションは1948年に最高潮を迎えたが、1949年までにデフレーションに転換した。物価は下落し始めた。インフレーション率の急激な上昇に対して政治家たちが行った最大の過ちはその一過性の性質を評価分析しなかったことだ」。

クルーグマンの助言は以下の通りだ。「現在目撃している物価の急上昇については心配するな」。現在の物価の急上昇は、新型コロナウイルス感染拡大から抜け出しつつある現状の複雑な組み合わせの結果なのであって、バイデン大統領による浪費の結果ではないというものだ。現在のインフレーション問題は1948年の場合がそうだったように、早期に解決されるだろう。

民主党系の著名な経済学者の中にインフレーションについて懸念を表明している人たちがいることに注意する必要がある。ラリー・サマーズ元財務長官は今年2月から、つまりバイデンの1兆9000億ドルのアメリカ救済計画が可決される前から、ホワイトハウスがインフレーション圧力を無視しているとして警告を発してきた。

オバマ政権のエコノミストだったジェイソン・ファーマンは、AP通信とのインタヴューで、より率直な意見を述べた。「彼らは火に灯油を注いだのだ!」

しかし、最近になって、両者とも、ビルド・バック・ベター法案の全支出は今日のインフレーション圧力にほとんど、あるいはまったく影響を与えないと主張している。

クルーグマンの言う当時と現在の比較の違いの一つは、「富の効果(wealth effect)」である。これは、自宅や株価などの資産が上昇すると、人々は経済的な安心感を得て、より多くの支出をしようとするというものだ。

株式市場の下落は逆効果になることもある。ダウ平均株価は1946年4月にピークを迎え、急速に下降を始めた。1948年11月の不況の始まりまでに、ダウ平均株価はその価値の3分の1を失ってしまった。

ダウ平均株価の継続的な下落が、より多くの商品の需要を押し下げ、インフレーションの圧力を弱めたかもしれない。

今日は、その正反対のことが起こっている。株価指数は最高値を更新している。そして、国民の多くが市場に投資している。さらに、個人の貯蓄率はパンデミック中に過去最高を記録した。富の効果は、少なくとも今のところまだ影響を及ぼしており、人々は物価が上がっても、より多くの商品を購入するよう促すことになっているだろう。

バイデン大統領の進めるビルド・バック・ベター法案は巨大なそしてコストのかかる政治的、経済的ギャンブルである。バイデンによる大きな支出はインフレーションの唯一の原因ではないが、ファーマンが言っているように、「火に灯油を注いだ(poured kerosene on the fire)」のである。現在、バイデンはその支出をさらに増やしたいと考えている。

このままインフレーションが続けば、来年の選挙で民主党はさらに厳しい状況に追い込まれるかもしれない。政治家のキャリアにとって、猛烈なインフレーションよりも危険なのは、怒れる有権者たちだからだ。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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