古村治彦です。

 今回のウクライナ情勢では、日頃リベラルで人命尊重、人権尊重を主張してきた人々が、一気に戦争賛美者・戦争屋(warmongers)になり、単純極まる好戦主義者(hotheads)になってしまっている。「ロシアが悪い」から「暴露膺懲(暴戻露西亜を膺懲せよ・戦時中の「暴戻支那を膺懲す」という言葉から取った)」へ激昂し、「アメリカはアメリカ軍をウクライナに送れ」と言い出すほどだ。勧善懲悪の出来の悪い三流ドラマを見ている感覚なのだろう。

 アメリカ国内の言論では、対ロシア、対中戦争を同時に戦う、二正面作戦を展開すべきだという主張、二正面戦争問題(two-front-war problem)に関する主張も出てきている。それをやれば第三次世界大戦だ。アメリカ兵がロシア兵と中国兵と直接戦うことになれば、それはもう誰にも止められない状況になり、最終的には核兵器使用まで行きつくということになる。それでも良いということならば、それを主張すればよい。しかし、私は反対だ。そんな過度に単純なことでは、現在の複雑に絡み合った世界を維持管理、運営することはできない。

 幸いなことに、アメリカ政府、バイデン政権は第三次世界大戦を引き起こすという考えはないようだ。第一次世界大戦、第二次世界大戦で悲惨な戦いと占領の舞台となったヨーロッパ諸国もそんなことは望んでいないだろう。それぞれの国内にはもちろん跳ね上がりの、バカ右翼みたいな連中はいるだろうが。しかし、状況の推移次第では手遅れということにもなりかねない。各国の指導層は常に慎重に鈍重に動かねばならない。しかし、庶民の激昂ぶりを思うにつけ、メディアの言いなりになって、突然勇ましくなって戦争に突入していくというのはこういうことだったんだなということを体験できるのは、何とも興味深い体験だ。

 NATO(北大西洋条約機構、1949年署名成立)の創設の経緯を考えれば、冷戦終結後に快勝すべきだったと私は考える。ソ連と対峙するため、ソ連を仮想敵として集団的自衛のためにできた組織だ。冷戦後にロシアは力を失ったが、NATO自体は東側に拡大していった。1955年にNATOに対抗するために、ソ連はワルシャワ条約機構を作った。しかし、その加盟国がNATOに加盟していった。それはロシアを圧迫することであった。それが結果的に正しいことだったのかということも検証されねばならない。

 アメリカはソ連、そしてロシアが「不安感」と「被害者意識」で対外政策を実行するということは第二次世界大戦直後から分かっていたはずだ。それを追い込むだけ追い込んで、中国とどんどん緊密に手を組むような方向に進めていった。ヘンリー・キッシンジャーの中露離間策としての米中国交正常化のようなことができる人物がアメリカにいなかったのは、アメリカと世界にとって不幸なことだった。単純なネオコン・人道的介入主義的思考がアメリカと西側世界を支配したことが不幸の始まりだった。

 アメリカの現在の国力で二正面戦争を戦うことは不可能だ。しかし、それを志向する勢力がアメリカ国内におり、対外政策のイニシアティヴをとるようなことになれば、世界はもっと危険な場所になっていく。

(貼り付けはじめ)

ワシントンはロシアと中国両方との戦争に備えなければならない(Washington Must Prepare for War With Both Russia and China)

―アジアに軸足を置き、ヨーロッパを忘れるという選択肢はありえない。

マシュー・クローニグ筆

2022年2月18日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/02/18/us-russia-china-war-nato-quadrilateral-security-dialogue/

ロシアが第二次世界大戦以降で、最大規模のヨーロッパ地域における陸上での侵攻を予告する中、21世紀で最も重大な戦略的問題が明らかになりつつある。その問題とは、アメリカは、修正主義的(revisionist)で独裁的(autocratic)、核武装した(nuclear-armed)大国であるロシアと中国をいかにして同時に管理できるのか、ということだ。多くの政治家や防衛分野の専門家たちは、その答えを、ワシントンはヨーロッパにおけるロシアへの対応を控えめにして、インド太平洋における中国がもたらすより大きな脅威に焦点を当てるべきだ、と主張している。

この答えは間違いであることが後に分かるだろう。

アメリカは依然として世界規模での利益を有する世界を主導する超大国であるが、ヨーロッパとインド太平洋のどちらかを選択する余裕はない。その代わりに、ワシントンとその同盟諸国は、ロシアと中国を抑止し、必要であれば同時に打ち負かすことのできる防衛戦略を生み出すべきである。

ここ数週間、バイデン大統領は、NATOの東側の前線を強化するために数千人の米軍を派遣しているが、これには十分な理由がある。ウクライナで大規模な戦争が起きれば、国境を越えてロシア、ベラルーシ、ウクライナと国境を接するNATOの7つの同盟国に脅威を与えかねない。さらに、もしプーティン大統領がウクライナで成功したら、そこでとどまるだろうと楽観的に考えられるだろうか?

プーティンは旧ロシア帝国の復活に明確な関心を持っていることを表明している。ポーランド、ルーマニア、バルト諸国など、脆弱な東欧諸国が次のターゲットとなる可能性がある。ロシアがNATOの同盟諸国の領土に侵入することに成功すれば、西側同盟の終焉を意味し、アメリカの安全保障上の関与が世界的に信用されなくなる可能性がある。

中国による脅威も深刻である。元米国インド太平洋軍司令官フィリップ・デビッドソン提督は、中国が今後6年以内に台湾に侵攻する可能性があると予測している。これは米国が負けるかもしれない戦争である。もし中国が台湾を手に入れることに成功すれば、アメリカが主導するアジアの秩序を崩壊させることになる。世界的にも同じことが起きるようになるのである。

更に言えば、ロシアと中国の連携も進んでいる。今月のロシアのウラジミール・プーティン大統領と中国の習近平国家主席の首脳会談が示すように、モスクワと北京は軍事面を含め、より緊密な戦略的パートナーシップ(協力関係)を築きつつある。これらの独裁者たちは、アメリカの同盟構造に対する二重の攻撃を調整したり、相手の攻撃によってもたらされる気晴らしを日和見的に利用したりすることが可能である。つまり、ヨーロッパとインド太平洋の両方で、諸大国による戦争が同時に発生する深刻なリスクが存在するのだ。

この問題に対処するために、多くの人々がただ単にうまくいかない答えを提案している。バイデン政権は当初、ロシアとの関係を「安定的かつ予測可能な(stable and predictable)」ものにし、中国に集中することを望んでいた。プーティンは別の考えを持ち、現在、世界がウクライナで見ているように、その考えは変わってしまった。残念ながら、ワシントンは自国に敵対する国々がどのように侵略を続けるかを解決することはできない。

また、ワシントンが中露間を引き離す、あるいはロシアと連携して中国に対抗することを期待する人々もいるが、これらは現実的な解決策ではない。

しかし、最近最も受け入れられているのは、ワシントンはヨーロッパよりもインド太平洋を選ぶべきだという見当違いの意見である。政治家や専門家たちの中には、アメリカにはロシアと中国の両方に対抗するための資源が不足していると主張する人々がいる。こうした人々は、中国のパワーとアジアの富を強調し、アジアを優先すべきであると主張している。ワシントンがアジアに軸足を移す(Washington pivots to Asia)一方で、ドイツなどヨーロッパ地域内の豊かな国々は、NATOの防衛のために力を貸すべきだというのだ。実際、ウクライナ危機のために策定が遅れているバイデン政権の国家防衛戦略(National Defense Strategy)は、二正面戦争問題(two-front-war problem)への明確な解決策を提示しないまま、中国に焦点を当てたものになると予想される。

しかし、優れた戦略は明確な目標から始まるものであり、ワシントンの目標はヨーロッパとアジア両方の平和と安定を維持すること(to maintain peace and stability)である。ヨーロッパにおけるアメリカの利益は、プーティンとアメリカのヨーロッパにおける同盟諸国との間だけで解決させるには、あまりにも重要である。実際、アメリカの最大の貿易・投資パートナーはアジアではなくヨーロッパ連合であり、この不均衡は(米国が経済的デカップリングを目指す)中国を除けば、より顕著になる。

更に言えば、中国はヨーロッパや中東で軍事演習を行っている。中国に軍事的に対抗するということは、アジアだけでなく、世界規模で対抗するということである。また、習近平はアメリカの決意を測っており、ウクライナでの対応が弱ければ、中国が台湾に進出する可能性が高くなる。

加えて、アメリカはフランスとは異なり、資源の制約から国家の安全保障について苛酷な戦略的選択を迫られることもない。要するに、アメリカの大国のライヴァルである中露のうち、1つにしか対処できない防衛戦略を発表すること(今度の国家防衛戦略に期待されていることだが)は、失敗のための計画となるのだ。

その代わり、アメリカと同盟諸国は、ロシアと中国の両方を抑止し、必要であれば、同じ時間枠の中で同時に打ち負かすことができる防衛戦略を設計しなければならない。バイデンの防衛戦略の発表が一時停止されたことは、初心に帰ってこれを正しく理解する機会を提供するものとなる。

確かに、中露を同時に打ち負かす戦略の策定は困難だが、不可能を可能とする(square the circle)ための方法はいくつもある。

第一に、ワシントンは国防費を増加させることだ。資源の制約から厳しい選択を迫られると主張する人々とは反対に、アメリカはロシアと中国よりも支出を大きくする余裕がある。アメリカは世界のGDPの24%を占めているのに対し、中国とロシアは合計して19%である。今年の国防費は、ロシアと中国が合計で3100億ドルに過ぎないのに対して、米国は7780億ドルを支出する予定である。

更に言えば、アメリカは国防費を倍増(現在GDPの2.8%を占めている)させても、冷戦時代の平均(GDPの約7%)を下回る可能性がある。実際、この新しい冷戦が前回の冷戦と同様に危険であることを考えると、21世紀の新たな防衛技術に焦点を当てた有意義な国防費の増額が必要である。

中国の台頭により、アメリカが経済的に優位に立てる時代は終わったと言う人もいるかもしれない。しかし、経済成長とともに中国内部の機能不全が姿を現している。習近平のような独裁者は、経済的パフォーマンスよりも政治的統制を優先する。

習近平は、民間セクターを取り締まり、自由化改革を後退させることで中国の成長モデルを損ないつつある。習近平の攻撃的な外交は国際経済関係を動揺させている。その結果、中国の経済は停滞しつつある。ロシアの長期的な経済見通しはさらに悪いものとなっている。つまり、この新しい戦略的競争が2対1の軍拡競争になったとしても、ワシントンが勝つ可能性が高いのである。

加えて、アメリカはヨーロッパとインド太平洋の同盟諸国を積極的に主導し、自由世界の防衛戦略を構築することができる。米国とその正式な条約加盟国は世界のGDPの60%近くを占めており、これらを合わせれば、中国とロシアに対して有利な軍事力バランスを維持するための資源を容易に集めることができる。ヨーロッパのNATOやアジアの二国間同盟のような既存の公式同盟は、日米豪印4カ国戦略対話(Quadrilateral Security Dialogue)のような新しい取り決めを使って補完することができる。

しかし、アメリカがヨーロッパから撤退すると脅せば、同盟諸国は自国の防衛のために更なる措置を講じる必要に迫られるが、は自力でそれを行うことはできないだろう。むしろ、アメリカが積極的に主導し、アメリカが同盟諸国に防衛を提供するモデルから、同盟諸国の自衛に貢献するモデルへと移行すべきなのだ。そのためには、主要な同盟諸国をアメリカの軍事計画に組み込み、責任を分担し、兵器開発と取得のための合理的な分業(rational division of labor)を考案することが含まれる。

ヨーロッパの同盟諸国は洗車と大砲に投資し、アジアの同盟諸国は海上機雷、ハープーン・ミサイル、潜水艦を購入する必要がある。アメリカ陸軍はヨーロッパを優先し、アメリカ海軍はインド太平洋を担当し、より増強されたアメリカ空軍は両地域で重要な役割を果たすべきである。さらに、アメリカは核の傘(nuclear umbrella)のような戦略的能力、超音速ミサイルを含む世界規模で展開する通常攻撃能力(conventional strike capablities)、および情報重宝、監視調査、偵察能力を提供すべきである。

最後に、必要であれば、ワシントンは常に冷戦における作戦書を参考にし、ライヴァルによる局地的な通常兵器の優位性を相殺するために、核兵器により大きく依存することができるだろう。ヨーロッパにおけるアメリカの戦術核兵器(tactical nuclear weapons)の存在は、数十年にわたって巨大なソ連赤軍(Soviet Red Army)を抑止するのに役立った。同様に、アメリカは、中国の台湾への海と空からの侵攻やロシアのヨーロッパに対する戦車を使った侵攻を抑止するための最後の手段として、脅威的な非戦略的核攻撃に依存することができる。

確かに、核抑止力(nuclear deterrence)にはリスクがあるが、核兵器は4分の3世紀(75年間)にわたってアメリカの防衛戦略の根幹を構成する役割を果たしてきた。

中国とロシアを同時に抑止することは容易ではない。しかし、ワシントンが大国としてのライヴァル国であるロシアと中国、どちらかに対処しているふりをするよりはましだ。幸いなことに、フランクリン・ルーズヴェルト元アメリカ大統領は、第二次世界大戦中、一つの戦域での勝利だけを選択しなかった。バイデンは彼を手本に、ヨーロッパとインド太平洋における米国の利益を同時に守る計画を立てるべきだ。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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