古村治彦です。
今年秋の第20回中国共産党大会で習近平(Xi Jinping、1953年-、69歳)中国国家主席は2期10年務めた最高権力者の座から降りることなく、更に1期5年、権力の座にとどまり続けるという話になっている。そうなると10年ごとに若い世代に最高指導部を引き継ぐという江沢民(Jiang Zemin、1926年-、95歳)と胡錦濤(Hu Jintao、1942年-、79歳)の時に行われた習慣が崩れることになる。ポスト習近平時代の中心と目されていた中国共産党指導部第6世代(1960年代生まれ)から最高指導者(国家主席・中国共産党総書記、中国中央軍事委員会主席を兼ねる)人物は出ないということになる。そして、次の第7世代(1970年代)から最高指導者が出る可能性が取り沙汰されている。最高指導者を出せなかった第6世代は「悲劇の世代」ということになりそうだ。
習近平がこれから更に2期10年最高指導者を務めるならば、第6世代から最高指導者は出ないが、1期5年で退けば、1期5年を第6世代からの最高指導者が務める可能性がある。第6世代のトップランナーは胡春華(Hu Chunhua、1963年-、59歳)副首相である。最近になって、習近平が胡春華を重用し始めているという報道もある。習近平が3期目の国家主席となる場合に、胡春華を政治局常務委員に引き上げ、首相のポストを与える可能性もある。そして、習近平が胡春華を最高指導者に引き上げて自身は院政を敷くという可能性もある。現在の政治局員序列第2位の李克強(Li Keqiang、1955年-、67歳)首相は全国人民代表大会常務委員長か中国政治協商会議主席に転身するということも考えられる。江沢民、胡錦涛の時とは違ったイレギュラーな人事となるが、これであれば第6世代の悲劇性を少しは薄めることもできるだろう。
習近平は中国共産党中央委員会主席(Chairman of the Central Committee of
the Chinese Communist Party)の職位を復活させ、この地位に就くという観測も出ている。党主席は権力が集中するポジションであり、1945年に設置され、毛沢東が亡くなる1976年までその地位に就いていた。その後は1976年から1981年まで華国鋒(Hua Guofeng、1921-2008年、87歳没)、1981年から1982年まで胡耀邦(Hu Yaobang、1915-1989年、73歳没)が就任したが、権力集中への反省から、鄧小平が廃止した。
この中国共産党中央委員会主席を復活させて、習近平が権力を掌握する可能性が出ている。現在、中国では習近平が中国共産党の「終身核心(eternal core)」とされている。習近平が権力を掌握したままで、これからの厳しい時代を乗り越えようとしている。中国はこれからの時代に備えようとしている。
(貼り付けはじめ)
分析:習近平は胡春華の「第6世代」全体をスキップする準備をしている(Analysis:
Xi prepares to skip over Little Hu's '6th generation')
-習近平国家主席陣営の内外で有望な政治家たちはトップにはなれない。

習近平主席のゆっくりだが着実な政治改造は中国の他のトップリーダーの生活をも変えようとしている。5月13日、河南省で小麦の収穫を観察する党総書記と複数の側近たち。
カツジ・ナカザワ筆
2022年5月20日
『アジア日経』紙
https://asia.nikkei.com/Editor-s-Picks/China-up-close/Analysis-Xi-prepares-to-skip-over-Little-Hu-s-6th-generation
東京発。中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は胡春華(Hu Chunhua、1963年-、59歳)副首相をどう見ているのだろうか?
58歳の胡春華副首相は、将来のトップリーダーと目されていた時期があった。胡錦濤(Hu
Jintao、1942年-、79歳)前国家主席や李克強(Li Keqiang、1955年-、67歳)首相と同じく、胡春華は共産主義青年団(Communist Youth League)の第一書記を務めた経歴がある。
胡錦涛と同じく、胡春華も長年にわたり、チベット自治区で働いた。チベット自治区は、動乱と民族紛争で知られていた。
胡錦涛前国家主席と同じ苗字だったことから、胡春華は「リトル・フー(Little Hu)」と呼ばれるようになった。
2008年、胡春華は国内最年少で河北省長に就任した。45歳の時だった。毛沢東(Mao
Zedong、1893-1976年、82歳没)、鄧小平(Deng Xiaoping、1904-1997年、92歳没)、江沢民(Jiang Zemin、1926年-、95歳)、胡錦濤(Hu Jintao、1942年-、79歳)、習近平(Xi Jinping、1953年-、69歳)と続く、中国指導者のいわゆる「第6世代(Sixth Generation)」の顔であることは間違いないところだ。

左から毛沢東主席、鄧小平、江沢民主席、胡錦濤主席、習近平主席。中国に6代目のリーダーが誕生するのは、しばらく先のことかもしれない。
胡春華(リトル・フー)の運命は2012年に習近平が中国共産党総書記に就任し、その直後に国家主席に就任すると一変した。習近平は太子党出身で政治的背景が異なり、2人の胡とは対立する派閥に属していた。
しかし、不安があるにもかかわらず、胡春華(リトル・フー)は生き延びてきた。
だから、2022年5月中旬に習近平(67歳)が河南省を訪問した際、胡春華が大勢の側近の一人として同行したことは特筆すべきことだった。視察に参加した5人の政治局員の1人であるだけでなく、国営放送の中国中央テレビで習主席と歩きながら話す姿も映し出された。
派閥の関係もあってか、胡春華は習主席の視察に常に同行する人物ではない。習近平の側近である劉鶴(Liu He、1952年-、70歳)副首相がその地位を確固として占めている。
劉鶴が習主席の河南省視察に同行しなかったことは噂の種になっている。
習近平と胡春華が手を結んでいるのか? 習近平と胡春華はより接近しているのか?
河南省訪問直前の5月12日、米紙『ウォールストリート・ジャーナル』紙は、中国政府がアメリカとの閣僚級貿易協議の代表を劉鶴から胡春華に交代させることを検討していると報じた。
商務部の報道官は記者会見でこの報道を否定したが、中国の対米窓口担当者を交代させることは、経済関係の行き詰まりを打開する一つの方法となり得るだろう。
胡春華(リトル・フー)にとって、習近平時代の9年間、眠れない夜が続いたに違いない。

5月13日、河南省南陽市で撮影された習近平と胡春華。北京は、胡春華がアメリカとの閣僚級貿易協議の中国代表に就任するとの噂を否定している。
中国の国会である全国人民代表大会は2022年3月、副首相をより柔軟に任命・解任しやすくする法案を押し通して可決させた。
この新ルールにより、習近平は側近を副首相に昇格させ、その人物を次期首相にする道を開いたとの憶測が飛び交っている。
習近平は同じ全人代で、内モンゴル自治区の石炭産業の腐敗を問題にした。習近平は内モンゴル自治区の石炭産業の腐敗を問題視し、「関係者を何世代にもわたって炙り出し、徹底的に処罰する」と宣言した。
胡春華はかつて内モンゴル自治区のトップを務めた。
習近平は2022年の5年に1度の中国共産党大会を控え、政治的に敏感な時期にこのような激しい言葉を発したのである。
4年前(2017年)、前回の全国大会の直前、同じく第6世代の新星、孫政才(Sun
Zhengcai、1963年-、59歳)が汚職容疑で突然粛清された。孫政才は当時、重慶市のトップで政治局員だった。
孫政才の失脚は、習近平が次代の国家指導者候補の政治生命を決める権利を有していることを思い知らされる衝撃的な失脚であった。
胡春華(リトル・フー)は自分の微妙な立場を自覚し、目立たないように、着実に任務をこなしてきた。
ある古くからの知人は、胡春華の人柄と能力を高く評価している。この人物は「彼は相当な酒豪で、いろいろな話題について自分の意見を言うことができるインテリだが、今の胡は、よく観察しておくしかない」と付け加えた。

2017年10月、北京の人民大会堂で開催された共産党全国大会において、重慶市共産党の陳敏爾書記が重慶市代表団の討論会に出席した。
2年前、習近平は同様に、胡春華を伴って注目の地方視察を行った。
2019年4月、習近平は重慶にいた。ホスト役を務めたのは側近の陳敏爾(Chen
Min'er、1960年-、61歳)、重慶市のトップだった。陳は60歳だ。しかし、そこには胡春華の姿もあった。視察の主目的は、胡春華が副首相として担当する政策分野である貧困撲滅である。
今回の習近平の河南省訪問の主な目的は、「南北分水嶺プロジェクト(South-to-North
Water Diversion Project)」の視察であった。胡春華は、水の豊富な中国南部と北部を結ぶメガプロジェクトの責任者だ。
書類上、担当の副首相である胡春華が習近平に同行するのは当然であった。その気になれば、習近平は胡春華が他の政治的な目的で今回の視察同行に選ばれたのではないことを説明できたはずだ。
しかし、チャイナ・ウオッチャーたちがどのような分析を行おうとも、一つだけはっきりしていることがある。胡春華が中国の新しい対米貿易交渉のトップに抜擢されるかどうかはともかく、彼はもはや将来の習近平の後継者候補ではない。
それは胡春華が習近平と対立する派閥に属しているからではない。同じことは、習近平の側近で第6世代に属する陳敏爾や上海市トップの李強(Li Qiang 、1959年-、63歳)にも言える。
陳敏爾と李強は、習近平が浙江省トップを務めていたときの部下であった。彼らは習近平の政治集団の中核をなす「浙江派(Zhejiang faction)」に属している。しかし、習近平が政権を維持する以上、どちらも真の後継者にはなり得ない。
複数の党幹部は「第6世代」の悲劇についてささやき始めた。彼らは、「この言葉は無意味になった」とささやき合っている。
ある中国共産党高官は、「第6世代リーダーを語ることは政治的に難しくなった。この世代は追い越され、現在50歳前後の若い世代に注目が移っている」と語った。

「李強のような第6世代のリーダーについて語ることは政治的に難しくなっている」。
習近平は2017年、指導者の10年の任期の途中で、将来のトップリーダー候補を少なくとも2人、政治局常務委員会(Politburo Standing Committee)に登用し、後継者として育成できるようにするという長年の党の伝統を破った。
習近平は、2012年に総書記に就任する5年前の2007年に政治局常務委員に就任している。習近平のライバルである現職の李克強首相も2007年に政治局常務委員に就任している。
胡春華をはじめとする第6世代のリーダーたちは、2022年の中国共産党大会に向けて、更なる昇進を目指した戦いに挑むことになる。
しかし、競争に勝って常務委員会に入った者は誰であっても、党の最高指導者への道を歩む名誉を得ることはできない。加えて、政治局常務委員や首相の権限は大幅に縮小されるかもしれない。
習近平は権力を集中的に手中に収めている。習近平は党総書記、国家主席の地位にとどまることなく、さらに高い地位、場合によっては党主席を目指すだろう。
毛沢東が終身在任した党主席という地位は、1982年に鄧小平が独裁を防ぐために正式に廃止した。習近平が復活させれば、政治局常務委員や首相の地位は低下することになる。
一方、習近平の側近たちは、これまでとは違った人生を歩むことになる。2022年の全国代表大会以降に新設される習近平を中心とした中央集権体制のもとで、重要なポストを担うことになるだろう。
新しい統治システムの構築が水面下で始まろうとしている。その制度設計は、人事以上に重要な意味を持つ可能性が高い。
(貼り付け終わり)
(終わり)
![]()

コメント