古村治彦です。
2022年11月15日、16日にインドネシアのバリでG20サミットが開催された。G20サミット期間中に日中、日米、米中の二国間の首脳会談が実施された。現代は情報通信技術の発展によって、直接対面しなくても顔を見ながら話をすることができる。リモートワークやリモート飲み会ということが日本でも盛んになっている。しかし、多くの人々が異口同音に述べているのは、「やはり直接会った方が話は進みやすい、誤解が少ない」ということだ。不思議なもので、画面を通さないでお何場所で直接会って話をした方が良いということだ。これはどうも世界共通の感覚のようだ。
中国が厳しい新型コロナウイルス対策(ゼロコロナ対策)を行っているのは日本でも報道されている。国内で厳しいロックダウンを実施しているし、外国からの渡航も制限している。そのために、外交官や専門家たちの相互交流が制限され、その結果として米中間の緊張関係が高まっているということが今回ご紹介する論稿の趣旨だ。相手が何を考えているか、自分が何を考えているか、胸襟を開いて話し合う、もしくは言葉ではない、たとえば表情や態度といったことからの推察や洞察が相互理解に深く寄与している。
新型コロナウイルス感染拡大で直接の首脳会談の機会も減っている。そうした中で、ウクライナ戦争が勃発したのは象徴的だ。お互いがお互いの考えを理解する機会を持たずに、敵意を高め続けていけばそのような悲劇的な結果になる可能性も高まる。首脳同士が直接会談を持つということは非常に重要である。
更に言えば、そうしたトップ外交だけではなく、民間の交流も重要だ。観光旅行も物見遊山ではあるが、相互理解にとって重要だ。相互に学生たちが留学し合うということは将来にとって重要だ。
新型コロナウイルス感染拡大によって世界規模で相互交流が中断された。その間に相互理解ではなく、相互不信が進んでしまったとしたらそれもまた新型コロナウイルス感染拡大がもたらしたマイナスの影響だ。新型コロナウイルスに打ち勝つために、相互理解を深めるために、交流を促進できるよう方策を整えることが重要だ。
(貼り付けはじめ)
習近平・ジョー・バイデン会談は中国の破壊的な孤立を解消するのに役立つかもしれない(Xi-Biden
Meeting May Help End China’s Destructive Isolation)
-北京は世界から危険なほど孤立している。
スコット・ケネディ
2022年11月14日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2022/11/14/xi-biden-meeting-china-isolation/
中国は、悪名高い「ゼロ新型コロナウイルス」管理策と海外渡航制限により、1970年代半ば以降で最も深刻に孤立した状態になっている。中国の都市生活者の多くは、自国が北朝鮮のような孤立化の方向に進んでいると見ており、数年前に作られた造語「西朝鮮(West Korea)」を自国を表現するために使うことが多くなっている。中国はまだ「隠者の王国(Hermit Kingdom)」にはなっていないが、新型コロナウイルス発生後、ワシントンのシンクタンクの専門家として初めて中国を訪れた私は、中国の孤立化が平壌と同様に世界にとって危険であることを確信した。
G20サミットに併せて、インドネシアのバリ島で会談したジョー・バイデン米大統領と習近平中国国家主席は、互いの孤立を解消することが最優先課題であり、そうすることが両国の自己利益になると同時に、世界の他の国々の利益にもなると理解していたようである。これは、悲惨な状況になっているだけに、緊急に必要なことである。
北京首都国際空港に隣接する検疫ホテルの窓からの風景が、中国が内向きになったことを知る最初の手がかりとなった。北京へのフライトは2019年の水準から3分の2以上減少し、私が滞在した10日間、海外の航空会社の飛行機が着陸してくるのを見なかった。市内では、外国人観光客の不在がさらに鮮明になった。私が宿泊したホテルはアメリカの大手チェインに属していたが、宿泊客が少ないため、レストランは週のうち何日かしか営業していなかった。
2020年初頭、中国は外国人観光客への門戸を閉じた。かつて中国の大都市で見慣れたバックパッカーも、高級バスに乗った裕福なツアー客も、1人も見かけなくなった。それ以来、多くの国々からの駐在員やその家族、そして彼らの子供たちを教えていた欧米諸国出身の教師たちが去っていった。多国籍企業のCEOたちはかつて中国に集まっていたが、今は離れている。各国の大使館は人手不足に陥っている。北京はもはや進取の気性に富む外交官にとって人気のある目的地ではなく、主にゼロ新型コロナウイルス政策のおかげで、以前よりも苦労の多い場所になっているからである。何度も追放され、ヴィザの取得に何年もかかった結果、ほんの一握りのアメリカ人ジャーナリストしか中国に残っていない。
私のような欧米の学者は、長い検疫のために主に中国を避けているが、カナダ人のマイケル・コブリグのような扱いを受けるかもしれないと懸念する専門家も存在する。コブリグは外交官から学者に転身し、カナダがアメリカの引渡し要求に応じてファーウェイ幹部の孟晩舟を拘束した報復として、同じカナダのマイケル・スパーバーとほぼ3年間不当に収監された人物だ。
次世代の中国専門家となり得たかもしれない若いアメリカ人の数は少なくなっている。米政府関係者によると、2018年のピーク時に1万1000人以上いたアメリカ人留学生は、現在、中国全土で300人未満に減っているということだ。
滞在する外国人は、常にその理由を自問する。配偶者が中国人であるとか、子供の教育を中断させたくないとか、儲かる仕事があるとか、答えは様々である。ある友人は「義務感から中国から離れないのだ」と打ち明けた。「もし、私が去ったら、誰がここで目撃するのだろう」と彼は述べた。
海外に出かける中国人の数も減っている。中国人経営者、観光客、学者などは、旅行に対する不安や帰国後の長い検疫を避けたいなどの理由で、ほとんど家にこもっている。外国人との広範な交流の政治的リスクは新型コロナウイルス感染拡大前に高まっていたようだが、学者の多くは、新型コロナウイルスを国内に持ち帰ることを恐れて、大学が海外旅行を承認してくれないと本誌に語っている。最新のデータによると、2021年時点で30万人を超えるアメリカへの留学生を含め、海外にはまだ多数の中国人留学生がいるが、そのほとんどは検疫の要求のために故郷から切り離された状態だ。
物理的な隔離と直接の接触の制限がもたらす結果は深刻だ。相互理解がまず犠牲になる。文書を読んだり、オンラインで会議を開いたりしても、顔を合わせての長時間の交流の代わりにはならない。北京と上海における中国側との会話から、アメリカ、ウクライナ、台湾、技術競争、新型コロナウイルス、その他の問題に対する公式および個人の意見の幅について、ネットで得るよりはるかに大きな洞察を得ることができた。また、現地に赴くことで、それらの意見や議論が中国国内の社会力学によってどのように形成されているかを知ることができた。
更に言えば、直接会っての交流が少ないため、中国の政策コミュニティでは、アメリカを悪者扱いし、中国のあらゆる行動を正当化し、北京がワシントンとの闘いに勝利していると結論づける、揺るぎないコンセンサスを特徴とする「共鳴室(echo chamber)」の形成が強化される。このような歪んだ見方を打破する唯一の効果的な方法は、長期的かつ反復的な対面での関与と外交だ。協力の拡大が目的であれ、抑止が目的であれ、効果的なコミュニケイション(聞くことと話すことの両方)が重要である。
中国の外交政策専門家で長年の友人である人物が「必要なものは全てオンラインで手に入るから、もうアメリカに行く必要はない」と本誌に語っていたが私は深く憂慮している。「もし私が国務省に行ったとしたら、米中間の諸課題のリストを渡されるだけだ」と彼は言った。しかし、他の国の人々はもちろん、色々なアメリカ人と旅行して話をしなければ、アメリカの政策の原点や、アメリカ人が中国の政策をどう評価しているかを理解することはほぼ不可能だ。同じことが、オフィスから中国を見るアメリカ人にも当てはまる。
また、限られたつながりによって、相手に対する非人間化(dehumanization)、共感の欠如(lack of empathy)、そして問題が解決され関係が修復されることへの希望を放棄する行為、すなわち離反(estrangement)を生み出す。ワシントン同様、北京でも関係の軌跡について運命論に(fatalism)遭遇した。その結果、最悪の事態を想定した計画が強化され、それが双方の行動と反撃の悪循環を生み、さらなる緊張の激化(escalation of tensions)を招いている。
米中両国は今、そのような状況に置かれているが、そこに留まっている必要はない。習近平・バイデン会談では、3時間半の間に幅広いテーマについて議論し、台湾に関するレッドラインを明確にし、ロシアと北朝鮮に向けた核兵器の使用に反対する共通の合意を打ち出すことに成功した。しかし、それ以上に注目すべきは、米中両国の高官たちによる定期的な交流を行う権限を与えることで合意したことだ。その場限りのコミュニケイションにとどまらず、いくつかのワーキンググループを通じて対話を進めると発表した。
アメリカ人の中には、北京との対話は中国の時間稼ぎであると懸念する人がいるのも当然のことだ。正しい姿勢は、対話の機会を与え、それがうまくいかなければ中断することである。また、バイデン政権が現在進めている、中国の軍事力を助ける可能性のある先端技術の制限、アメリカの技術革新に対する支援の拡大、中国の人権侵害に対する発言、台湾に関する公約の遵守などを、対話の拡大が妨げることはないと考えられる。
次のステップは、双方が双方向の海外渡航を促進することだ。最初は企業幹部、学者、学生、そして最終的には観光客の渡航を促進する。そのためには、航空便の増便を許可し、中国の場合はヴィザの発給を増やし、検疫期間を最近設定された8日間を下回るまで徐々に短縮することが必要であろう。公衆衛生上のリスクを最小限に抑えるため、中国は海外からの入国者に対する検査の頻度を増やし、国内の人々に対してはワクチン接種を拡大し、十分な治療薬を入手・配布し、新型コロナウイルス患者の増加に備えて病院を準備することができるだろう。
最終的には、相手国に赴任する双方の記者の数を制限することをめぐる対立の解決策を見出すことだ。中国はアメリカの記者の中国へ戻ることを歓迎すべきである。それは、海外から中国を報道しようとするよりも、現地にいた方がニュアンスやバランスの取れた報道ができる可能性が高いからだ。そしてアメリカは、中国の報道機関の全社員が、実際には生粋のジャーナリストであることを保証する方法を見出すことができるはずである。
米中両国の政府と社会の間で直接対面してのコミュニケイションを拡大することは、明白な紛争の可能性を減らし、アメリカの国家安全保障と経済を強化し、米中両国が気候変動やその他の地球規模の課題に協力して取り組む可能性を高める方法で、責任を持って戦略的競争(strategic competition)を追求するための中核となるものである。
※スコット・ケネディ:戦略国際問題研究所(Center for Strategic
and International Studies、CSIS)上級顧問、中国ビジネス・経済学部門評議員会長。
(貼り付け終わり)
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