古村治彦です。
「ウクライナ疲れ(Ukraine fatigue)」という言葉がある。これは、ウクライナを支援する西側諸国で、ウクライナ支援の財政負担に対して、「物価高などで自分たちの生活も苦しいのに、いつまでウクライナ支援を続けねばならないのか、巡り巡って増税になるだけのことだろう」という考えが国民の間で広がっているというものだ。以前に紹介したヨーロッパ諸国の世論調査では、「正義(justice)を望むか、和平(peace)を望むか」という項目になっていたが、これも正義はウクライナ戦争と支援の継続、和平はウクライナ戦争の停戦をそれぞれ意味し、和平派が増えているということだ。これもウクライナ疲れということになる。
ウクライナ支援の大部分はアメリカが担っている。アメリカからの資金と武器でウクライナは戦っている。アメリカからの支援が縮小されれば、ウクライナ軍の攻勢も止まってしまうという構図だ。
これまで米連邦議会はバイデン政権から要求されたウクライナ支援に関しては可決成立させてきた。それどころか、米国防総省が提出した支援策の内容について、「これでは足りない」「この武器を入れた方が良いのではないか」ということで更に増額したり、武器の種類を増やしたりしてきた。これは、地元に軍事産業の工場がある議員たちがお手盛りで、地元にお金を落とすためにやっている。戦争は産業になっており、それによって儲かる、生活が成り立つということでもある。しかし、共和党のトランプ派の一部の議員たちや民主党の進歩主義派の議員たちはウクライナ支援に対して反対票を投じてきた。こうした議員たちは国内問題優先(アメリカ・ファースト)であり、海外の戦争にアメリカが関わるべきではないというアイソレイショニズムの考えを持っている。
アメリカ中間選挙で、連邦下院では共和党が過半数を掌握した。トランプ派の候補者たちが多く当選した。民主党では進歩主義派の議員は少し増えた程度となった。連邦下院共和党はこれから党内に増えたトランプ派への対応が難しくなる。ウクライナ支援に賛成か、反対かという分裂線で考えれば、共和党の一部と民主党の一部、エスタブリッシュメント派が協力することになる。バイデン政権のウクライナ支援は安泰ということになる。しかし、これはアメリカ国民の「ウクライナ疲れ」を反映しないということになる。アメリカ国民の多くが望んでいるのは物価対策であり、ウクライナ戦争の停戦である。バイデン政権はこれからウクライナ政府に停戦に向けて圧力をかけるように、国民と連邦議員の一部から圧力をかけられることになるだろう。
(貼り付けはじめ)
アメリカ連邦議会からウクライナへ:私たちはまだあなた方を支援する(Congress
to Ukraine: We’ve Still Got Your Back)
-アメリカ連邦議員たちはウクライナに対する長期関与への疑念を払拭するため安全保障会議に集結する。
ロビー・グラマー筆
2022年11月21日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2022/11/21/ukraine-congress-war-russia-u-s-committed-republicans-democrats/?tpcc=recirc_latest062921
ノバスコシア州ハリファックス(カナダ)発。アメリカの中間選挙の数週間後、アメリカの超党派の連邦議員たちがカナダで開かれた国際安全保障会議に出席し、アメリカの同盟国にメッセージを発した。私たちは全てをウクライナに与える。
キエフやヨーロッパの他の地域では、中間選挙で共和党が僅差で勝利したことを受けて、ウクライナに対するアメリカの軍事支援の継続について懸念する声が出ている。共和党所属連邦議員の一部はウクライナへの支援を疑問視し、アメリカの武器供与、援助、支援を停止するよう求めている。しかし、他の連邦議員たちは、このシナリオが連邦議会の大多数の意見を代表していないと主張し、こうした主張に反発している。
連邦上院外交委員会の共和党側幹部委員であるジム・リッシュ連邦上院議員は、ウクライナの対ロシア戦争への支援継続について問われ、「これはおそらく、私が連邦議員になって以来、最も超党派的な問題の1つだろう。私たちは超党派でこれを行う義務がある。私たちはこの件では手を組んでいる」と答えた。
リッシュをはじめとする民主、共和両党の議員8人は、国家安全保障の指導者や専門家が毎年集まるハリファックス国際安全保障フォーラムで、ウクライナやカナダなどNATO諸国の要人らにメッセージを伝えた。
このメッセージは、少なくとも短期的には、ウクライナ人や他のNATO加盟諸国の間に残る疑念を和らげたようである。ヨーロッパ各国とウクライナ政府の高官たち5人は一部が匿名を条件にしてインタヴューに応じてこのように答えた。
しかし、2024年の大統領選挙サイクルが始まる中、アメリカ政治がどのようになるのか、特に戦争が何年も長引き、支援の費用が積み重なった場合、ウクライナやヨーロッパ各国の不安や恐れを和らげることはほとんどなかった。
「連邦議員たちは、私たちやウクライナが聞くべきメッセージ、つまり、彼らは皆、今ここで献身しているというメッセージを伝えてくれた」とあるヨーロッパの政府高官は匿名を条件に語った。ドナルド・トランプ前大統領が使用した「アメリカを再び偉大にする(Make America Great Again、MAGA)」というスローガンを指して、「2年経った今でも、私たちはトランプ後の二日酔いの状態にある。しかし、2024年以降に何が起こるのか、新たなトランプ派連合(MAGA coalition)が超党派のウクライナ支援を無効にできるのか」とこの政府高官は述べた。
ジョー・バイデン米大統領は今月、軍事・人道支援を含むウクライナへの緊急資金として370億ドルを連邦議会に要求した。これは、ウクライナ軍がロシア軍に次々と痛烈な勝利を収め、重要な港湾都市ケルソンを奪還した後の大規模な資金投入となった。
ハリファックスでの会議でロイド・オースティン米国防長官は、アメリカのウクライナ支援は大西洋をまたぐ安全保障とアメリカ経済の健全性の両方にとって不可欠であり、ヨーロッパはアメリカにとって最大かつ最重要な貿易相手国の1つであることを強調した。オースティン長官は次のように述べている。「北米に住む私たちには、この問題を放置しておくという選択肢はない。アメリカとEUの貿易関係は世界最大規模である。だから、侵略者がヨーロッパに巨大な安全保障上の危機を作り出せば、アメリカ人やカナダ人の日常生活に打撃を与えることになる」。
このような主張が、物価が上昇し続けるアメリカ国民にどれだけ共鳴し続けるかは不明だ。複数の新しい世論調査の結果では、ウクライナ戦争に何百億ドルもの資金を投入し続けることで、アメリカの政治家たちが将来、有権者からの圧力に直面する可能性があるという初期的な警告となっている。特に西側諸国がインフレと格闘し、大きな世界経済の後退に備えている。
今月初めに発表された『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の世論調査によると、共和党支持の有権者の48%が、アメリカはウクライナ支援に過剰な努力をしていると考えており、3月の6%から上昇した。ハリファックス国際安全保障フォーラムとイプソス世論調査グループが行った別の世論調査では、88%のアメリカ人が、経済的に困難な時期には世界に目を向けず、内向きになるべきだと考えていることが明らかになった。
ドナルド・トランプ政権下でウクライナ特使を務めたカート・ヴォルカーは、有権者はヨーロッパが公正な負担を担っていないと考えれば、ワシントンは最終的にウクライナ支援にブレーキをかけるような政治的圧力に晒される可能性があると指摘する。
ヴォルカーは『フォーリン・ポリシー』誌に対して、「ヨーロッパが行動を共にし、ウクライナをもっと支援するようにならなければ、アメリカではそれが政治的な責任になる」と語った。また、2024年の大統領選挙サイクルで、アメリカの対ウクライナ支援をめぐる新たな議論が再燃するとの見通しも示した。
民主党のある有力議員は、アメリカの同盟諸国が「ウクライナ疲れ(Ukraine
fatigue)」がワシントンに定着する懸念を共有するのは理解できると語った。連邦上院外交委員会のメンバーである民主党のクリス・クーンズ連邦上院議員は、「私は西側諸国がエチオピア疲れ(Ethiopia fatigue)になるのを見てきたし、西側諸国がソマリア疲れ(Somalia
fatigue)になるのを見てきたし、西側諸国がアフガニスタン疲れ(Afghanistan fatigue)になるのを見てきた。歴史に基づけば、それは理解できる懸念である」。
「しかし、この会議に過去最大の議会代表団が参加した理由の1つは、ウクライナ人と会い、彼らの話を聞き、私たちの強力な支援を提供するためだ。私たちには、連邦下院と連邦上院、共和党と民主党があります。私たちの間には1インチの違いもない」と述べた。
このような安心感を与えるメッセージは、戦争が何年も長引いた場合にアメリカによるウクライナ支援が継続されるかどうかについて同盟諸国の信頼を損ねるような、連邦議会内部の小さなスキャンダルが相次いだ後に出された。その中には、バイデンにロシアとの直接外交を求める進歩主義的な議員たちの不器用な手紙や、ほんの一握りの親トランプの共和党所属の連邦議員たちがウクライナに「もう1ドルも」与えないことを誓った書簡も含まれていた。
ハリファックスの会議に出席した米連邦議員たちは、これらのコメントがメディアで大々的に取り上げられたことに不満を爆発させ、両党の大多数の議員たちのウクライナ支持を反映していないと述べた。
連邦下院外交委員会のメンバーである民主党のサラ・ジェイコブス連邦下院議員は外交政策について次のように語った。「最も挑発的なことを言っている1人か2人を取り上げるのは常に簡単だ。大体において、ウクライナが自衛するために必要なものを確保し続ける必要があるということは、幅広い超党派のコンセンサスがある」。
ジム・リッシュ議員も同じようなメッセージを発した。「ウクライナの闘争に関与することを躊躇している人はほんの一握りだ。その人たちは、あなたたちからたくさんのインクをもらっている。だから大多数に目を向けよう」。
※ロビー・グラマー:『フォーリン・ポリシー』誌外交・国家安全保障記者。ツイッターアカウント:@RobbieGramer
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