古村治彦です。

 昨年、ウクライナ戦争中にNATO加盟を行ったスウェーデンであるが、その国内ではスパイ事件が起きていた。子供のころにイランで生まれ、そのご家族と共にスウェーデンに移民してきた兄弟がスウェーデンの情報機関のために働きながら、ロシアのためにスパイ活動を行っていたということが明らかになり、逮捕・起訴された。

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ペイマン・キアとパヤム・キアの兄弟は、スウェーデンで育ち、大学教育まで受けた。その後はスウェーデンの情報機関に採用された。この兄弟がスウェーデンの情報機関のためにどのような仕事をしていたのかは明らかになっていないが、イラン生まれという特性を生かして中東関係、イラン関係の仕事をしていたことは容易に想像される。しかし、2010年代中盤頃からロシアとの「二重スパイ(mole)」の疑いが浮上し、長年にわたる捜査の結果として逮捕、起訴された。彼らはスウェーデンの情報機関の関係者の名簿をロシア側に渡している。ロシア側はこの名簿を使って二重スパイづくりを行ったと考えられる。キア兄弟以外にも二重スパイが存在するだろう。

 スパイというのはだいたいが二重スパイになる。私たちが映画やテレビで見る華やか世界の裏側での殺し合いということが実際にはないのと同じで、スパイで採用されている国にだけ忠誠を誓うという人はあまりいないだろう。キア兄弟の場合には、イランとの関係も考えられるとなると、三重スパイだったことも考えられる。ウクライナとロシアとの間で戦争は続いているが、両国は文化や言葉が近いので、それこそ二重スパイが多く活動していることだろう。

 アメリカのCIAには世界各国を担当する情報官たちがいる。彼らもまたスパイと言えるだろう。私が大学学部在学中に、両親がアメリカ西海岸で商売をやっている、アメリカの大学から交換留学でやって来たという日系人と知り合った。この学生は日本語の聞き取りはできるが、読み書きは勉強中だった。その後、今度は私がアメリカ西海岸のその学生が行っていた大学に留学した。そこで、私が授業を履修したある教授と親しく話すような間柄になり,雑談の中で、「私の教え子で優秀な日系人の学生がいたのだが、CIAに入ってね。以前に授業に来て話をしてもらったのだけど、ボディガードを連れていたよ」ということになり、もしやと思って詳しく話をしてみるとその学生だった。この学生はCIAで日本担当の仕事をしているのだろうと思う。

 AIやインターネットが発達しても情報を取り、分析するのは人間の仕事だ。AIやコンピュータが二重スパイになることはないだろうが、人間であれば弱みを握られたり、脅迫されたりすれば二重スパイになってしまうだろう。それが人間らしいということになるのだろうと変な結論になってしまった。

(貼り付けはじめ)

スウェーデンのスパイスキャンダルはスパイのリクルートについての厳しい疑問を引き起こす(Sweden’s Espionage Scandal Raises Hard Questions on Spy Recruitment

-各国の情報機関は海外生まれの市民をスパイのリクルートの対象とするかどうかについて議論を行っている。

エリザベス・ブラウ筆

2022年11月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/16/sweden-spy-scandal-russia-iran-questions-recruitment/

先月(2022年10月)、ノルウェー当局は、ブラジルの学者を装って自国に潜入していたロシアの軍事諜報部員の容疑者を逮捕した。そして今、さらに劇的なスパイ事件がスウェーデンで発生している。イラン生まれの兄弟2人いて、その内の1人がスウェーデンの諜報部員を務めたことがあるが、ここ数年にわたりロシアのためにスパイ活動をしていたとして起訴された。彼らのスパイ活動は深刻な被害をもたらす可能性があり、敵対する国に生まれた人間は、その国や同盟諸国から特に勧誘されやすいという、諜報活動における長年の問題を浮き彫りにしている。

42歳になるペイマン・キアは、スウェーデンにおけるサクセスストーリーの体現者だ。キアは1980年代に家族とともにイラクから脱出してスウェーデンに到着し、1994年にスウェーデン国籍を取得した(弟のパヤム・キアも同様だ)。ウプサラ大学で学士号と修士号を取得し、スウェーデン税関の調査官となった。

わずか数カ月後、防諜を担当するスウェーデン保安局(Swedish Security ServiceSÄPO)に採用された。3年半の勤務の後、2011年2月、ペイマン・キアはスウェーデンの対外情報機関であるMUST軍情報サーヴィスに参加した。この部門もまた外国の情報諜報を担当する。スウェーデンのメディアによれば、MUST在籍時、ペイマン・キアは機関の奥の院であるKSIに所属していたとさえ報じられている。

しかし、MUSTに参加して間もなく、兄のキアはロシアの軍事情報機関であるGRUのスパイ活動を開始した。スパイ活動はMUSTでの勤務中も、その後のSÄPOでの新たな配属先でも、そして2015年12月に始めたスウェーデン食品庁の安全担当最高責任者としての仕事でもずっと続いていた。しばらくして、彼は弟パヤムを引き入れたようで、彼はGRUとの交流の後方支援をしていたという容疑で起訴されている。

しかし、兄弟は自分たちが考えるほど賢くはなかった。SÄPOは長い間2人を監視していた。2015年から16年にかけて、早くもSÄPOは2人に関して二重スパイ(mole)の可能性を調査しており、2017年にはスパイハンターたちは、その痕跡がペイマン・キアにつながっていると結論づけた。ほぼ5年間、彼らは兄弟2人を監視下に置き、スウェーデン食糧庁の機密データが比較的少ないことから、立件するためにはリスクを冒す価値があると判断したのか、昨年2人は逮捕された。ペイマンは自分の担当範囲外のMUSTSÄPOの文書に多数アクセスし、彼とパヤムはそれをGRUの担当者に渡したと考えられている。ペイマンはまた、SÄPOの全員分の名簿をロシア側に渡した。

キア兄弟は金(きん)と米ドルで多額の報酬を受け、2人とペイマンの妻はそれをスウェーデン・クローネに換えて銀行口座に預けていた。キャッシュレスの進んだ国では珍しいことだが、キア一家は日常の買い物に現金を使っていた。兄弟のやり取りには、「ラスキー(Rasski)」との会合やカナダへの逃亡計画などが詳細に記されている。

ペイマンは自宅に機密文書を隠し持っていることが分かり、当局はUSBメモリやその他の電子機器も押収した。弟パヤムは逮捕される直前にハードディスクを処分しようとしたが失敗した。監視は成功し、兄弟は自分たちの正体がばれるとは全く考えていなかった。カナダへの逃亡計画も未遂に終わった。スウェーデン国防大学社会安全保障センターの戦略アドヴァイザーのマグヌス・ランストルプは次のように指摘している。「キア兄弟がロシアに渡したと思われる資料は信じられないほど機密性が高い。「SÄPOの職員名簿を渡すということはそれだけで非常に重大なことだ。ロシアに、誰を勧誘のターゲットにすべきかのリストを渡したようなものだ」。

イランがこの事件でどのような役割を果たしたかは、まだ公にはされていない。しかし、スウェーデン国防大学の上級顧問で情報学を専門とするペール・トゥンホルムは次のように述べている。「イランとロシアが協力していることはよく知られている。情報・諜報活動はチームスポーツである。情報・諜報活動に関しては、アメリカでさえも友人を頼りにしている。例えば、イランがCIAの秘密通信を解読したとき、その情報を中国に伝えた。米英両国が加盟するファイヴ・アイズは、諜報活動のほとんどの側面を共有している」。

トゥンホルムが指摘しているように、スウェーデンの情報機関ではかつて、敵対する国で生まれた人間を採用することを控えた。ヨーロッパ地域の他の数カ国は、現在もその方針を採用しているが、スウェーデンは近年、その方針を弱めている。これは紛れもないリスクである。トゥンホルムは「他国で生まれた人が信頼できない訳ではない。しかし、母国にいる家族に圧力をかけるなどして、より勧誘の対象になりやすいというリスクは存在する」。

ロシアがキア兄弟のバックグラウンドを利用して彼らを募集対象として特定した可能性はあるが、この2人の兄弟は貪欲に動機付けられていたようで、これが完全にロシアのため二重スパイとなった原動力でもある。

しかし、この事件は、ロシアの情報機関がいかにこれまでにはない革新的な勧誘を行っているかを示す警鐘となる。ヨーロッパ諸国には、ほんの数十年前に比べてはるかに多くの外国生まれの住民がいるため、ロシアと中国はより多くの人材にアクセスすることができる。ノルウェーで逮捕されたGRU幹部とされる「ホセ・アシス・ジャンマリア」は、グレイゾーンの侵略を研究する学者として地元の大学に勤めていた。これは、学術的関心を装ってノルウェーをはじめとする様々な人々に接触するための完璧なプラットフォームと言える。

しかし、この問題の裏返しとして、効果的な情報活動に最も必要な文化的背景や言語能力を持つのは、まさにそうした外国生まれの人々のコミュニティであることが多い。例えば、ドイツ系アメリカ人は第二次世界大戦中、アメリカの諜報活動に貢献した。イスラエルは、イスラエルの市民権を得た無数の外国人の能力を利用している。

アメリカ情報機関では、中国系アメリカ人が機密任務の許可を得るのにしばしば問題に直面し、その問題は実際の危険性よりも偏見に関係していると主張する人たちもいる。アメリカに帰化した元CIA職員ジェリー・シン・リーは当初、中国にあるアメリカ資産を危険に晒したとして非難され、中国のためのスパイ行為を認めて19年の刑を受けたが、イランと中国におけるCIAの大量損失は、CIA自身の不注意によって引き起こされたように思われる。

トゥンホルムは「100パーセントのセキュリティなどありえない。ロシア人、中国人、イラン人を採用しないこともリスクだ。彼らは私たちが必要とする技術や人脈を持っている。しかし、リスクは認識しておく必要がある」と述べた。

キア兄弟は最高で25年の懲役刑に処せられる。圧倒的な証拠が存在するにもかかわらず、彼らは容疑を否認している。彼らの裁判を前に、多くのスウェーデン人は、SÄPOに所属していた軍人であり、1979年にソヴィエトのスパイとして逮捕され、スウェーデンで過去最大のスパイスキャンダルを引き起こしたスティグ・ベルグリングを思い起こすだろう。ベルグリングは長い懲役を言い渡されたが、夫婦の面会中に脱走し、西側の二重スパイにとってお定まりのモスクワへ向かった。キアス夫妻のカナダの計画から判断すると、彼らはスウェーデンから逃げるつもりでいたが、ロシアには向かわなかったようだ。今、彼らは刑務所に向かう可能性が高い。

※エリザベス・ブラウ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、アメリカ・エンタープライズ研究所研究員。ハイブリッド、グレイゾーンの脅威といった出現しつつある国家安全保障に対する防衛を専門としている。イギリス国家緊急事態対応準備委員会の委員も務めている。ツイッターアカウント:@elisabethbraw

(貼り付け終わり)

(終わり)

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