古村治彦です。

 ウクライナ戦争は開戦して(2022年2月24日)以来、1年以上経過した。現在の戦況は膠着状態であるが、ウクライナ側は5月に春季大攻勢をかけると発表している。私は、「どうして敵にも分かる形で大攻勢をかけるなどと発表するのだろうか、そんなことをすれば的に準備する態勢を取らせるだけではないか」と不思議に思っている。相手に不意打ちをかける形で大攻勢をかけることができれば効果があるだろうが、「大攻勢しますよ」と予告しているようでは相手に大打撃を与えることはできない。それに、大攻勢というからには、多数の兵員や多くの武器を終結させる必要があり、その様子は現在の人工衛星魏医術を使えば簡単に把握できるので、ロシアも簡単に把握し、守備を固める、また手薄になった、戦線の後方に対して長距離攻撃を行うこともできる。

 私は春季大攻勢をかけるというウクライナ側の威勢の良い発表の裏には、ウクライナ国内の厳しい情勢があるのだろうと考えている。太平洋戦争中、ミッドウェー海戦での惨敗後に、日本政府と軍部が事実を隠し、国民には威勢の良い報道を続けた。敗北し撤退することを「転進」と表現していたのは、霞ヶ関話法の「最高傑作」と言えるだろう。「日本はあんなにアメリカの軍艦を沈め、飛行機を撃ち落としているのに、国土が空襲されるようになっているのはどうしてだろうか」と国民は素朴に疑問を持ったということはなくて、「報道はウソなんだ」ということをしっかり認識していたと思う。西側メディアはウクライナ戦争開戦以来、「ウクライナが勝っている、ロシアは敗退を続けている」という報道に終始しているが、それならば今頃は、ウクライナ戦争は終わっていて、ロシアは崩壊しているはずだ。ウクライナ側としては、「一発逆転」「一撃講和」というところで、「大攻勢をかける」と宣伝しているのだろうが、第一次世界大戦末期のドイツの最後の大攻勢のように失敗に終わるだろう。

 ウクライナ戦争停戦のための交渉を仲介するのはやはり中国だろう。これまでだったら、アメリカがその任に当たるのが当然だった。しかし、アメリカは西側諸国の代表として、ロシアに制裁を科し、「戦争当事者の一方に肩入れしている準当事者」であり、ロシア側から見て「中立的な立場にある」とは見なされない。これは他の西側諸国も同じだ(日本も含まれる)。ロシアとウクライナ双方と関係を構築しているのは中国だ。だから、中国が仲介をすることになる。もし、アメリカが仲介役として表に出てくるとしても、中国との協力がなければ、仲介はうまくいかないだろう。米中関係はここ数年悪化しているが、もしここで米中両国が仲介役として協力関係が構築できれば、米中関係改善に役立つだろうが、そのような淡い期待をするのは間違いだ。ウクライナ戦争推進勢力(アメリカ国内で言えばネオコン派など)は対中強硬派でもあって、米中関係改善などを容認することはできない。

 アメリカは結局のところ、ウクライナ戦争終結の仲介役はできない。ウクライナ戦争もこれからしばらくだらだらと続く。「激戦地バフムト」という言葉がこれからまた何十日も連呼されることだろう。世界の不幸はこれからも続き、2度目の夏を迎えることになる。

(貼り付けはじめ)

ウクライナとロシアは超大国による和平計画を必要としている(Ukraine and Russia Need a Great-Power Peace Plan

-ワシントンと北京はどのようにヨーロッパでの戦争を止めることができるのか。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2023年4月18日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/04/18/ukraine-russia-china-united-states-peace-ceasefire/

米国防総省(ペンタゴン)からリークされた文書の内容を信じるなら、アメリカはウクライナに対してプランBを必要としている。ウクライナ領土の迅速な解放を望むのは当然だが、装備も訓練も不十分なウクライナ軍が、春季攻勢(spring offensive)に向けて準備を進めても、ロシアの防衛力に対して大きな成果を上げることはまずない。ウクライナの勝利というゼレンスキー政権の大胆な約束はおそらく実現せず、その間にウクライナはさらなる損害を被ることになるだろう。ウクライナに必要なのは平和であり、人口が多い敵国との消耗戦を長引かせることではない。しかし、戦争においてどれだけの人命が犠牲になろうとも、指導者たちはあまり気にしていない。

ジョー・バイデン政権の最高幹部たちは、表向きはどうであれ、この残酷な現実を理解しているだろうと私は見ている。戦時中は何が起こるか分からないが、ウクライナが劇的に大きな成果を上げたり、ロシア軍が崩壊したりすることは期待できない。むしろ、ウクライナの軍隊が、ロシアのウラジミール・プーティン大統領を説得して停戦に向かわせ、最終的には完全な和平協定を交渉するのに十分な働きをすることを期待している。この見解の非公式版としては、ラジ・メノンの思慮深く比較的楽観的な分析がある。しかし、ウクライナの攻勢が不調に終われば、プーティンは和平交渉を急ぐことはないだろう。ロシアも戦争が終わった方が良いとは思うが、戦争の主目的であるウクライナの戦略的中立化(strategic neutralization)が達成されるまでは、戦争を止ることはないだろう。

それでは何をすべきか? 戦争が始まって以来、外部の人々は、中国がその影響力と有利な立場を利用して、モスクワに取引をさせ、戦闘を終結させることを期待してきた。しかし、その期待は今のところ裏切られている。なぜなら、中国はこの戦争によっていくつかの明らかな利益を得ているからである。欧米諸国の制裁によってロシアは中国への依存度を高め、北京には石油やガスが安く提供し、アメリカがアジアに関心を向けるのを防いできた。しかし、戦争をいつまでも引きずることは、北京にとっても問題である。中国はヨーロッパ諸国と仲直りし、貿易、投資、先端技術の流れを妨げず、徐々にヨーロッパとアメリカの間に楔を打ち込むことを切望している。中国の指導者たちは、自らを紛争に無関係な当事者として見せようとしているが、ロシアがウクライナを攻撃している間、ロシアの親友の1人であることは変わらず、これらの目標のどれもが達成することが難しくなっている。

したがって、中国の指導者たちは、戦争が早期に終結することを望んでいるかもしれないし、適切な状況であれば、その目的のために自らの影響力を行使することも厭わないだろうと考える理由がある。この可能性だけでも、アメリカの政策立案者たちは心配になるはずだ。 もし、北京がイランとサウジアラビアの仲介に成功したのに続き、ウクライナの平和の仲介役として自らを位置づけるとしたらどうだろう? もし、中国がそれを成功させることができれば、(非常に大きな「もし」であるが)、アメリカを、協力の促進よりも争いや対立の種をまくことに長けた衰退した大国という印象付けを行う努力を強化し、平和と調和に真摯に取り組む新興国として中国のイメージを高めることができるだろう。

ここで大胆なアイデアを提示する。北京とワシントンの双方が戦争を終わらせることに関心を持っているのだから、バイデン政権は中国を招待して、ウクライナとロシア双方を交渉のテーブルに着かせるための共同作業を行うべきである。事実上、アメリカはキエフに影響力を行使することを提案し、北京はモスクワに影響力を行使することに同意するだろう。もしこのことに成功すれば、2つの国が手柄を分け合い、どちらも相手に対するプロパガンダの勝利を主張することはできない。

奇想天外に聞こえるだろうか? しかし、このような大国間の協力には、歴史的な前例がある。例えば、冷戦の最中、1967年の六日間戦争(第三次中東戦争)を終結させ、1973年の十月戦争(第四次中東戦争)を停戦させるための国連安保理決議を米ソ両国が共同して支持した。両大国が戦争を止めたいと願い、それぞれが自分の側についている国々に圧力をかけて同意させたという点では、今日の状況に似ている。実際、ゲーレン・ジャクソンが新著『失われた平和』で明らかにしているように、ソ連の指導者たちは、それぞれが同等の役割を果たす中東に関する包括的な和平会議の開催をワシントンに何度も求めようとしたが、アメリカの反対によって阻まれた。

また、アメリカと中国が共同で仲介する合意は、モスクワとキエフが自分たちの主要な後援者が手配し、推進した合意を反故にする可能性が低いため、存続する可能性が高くなる。このように、中国とアメリカが純粋にウクライナの平和的解決を望むのであれば、そのような努力は成功すると考える理由がある。

しかし、それは簡単な話ではない。停戦は比較的簡単かもしれないが、ロシアが併合したと主張する領土の大部分を支配したままとなり、不安定な凍結紛争(frozen conflict)を生むことになる。真の平和条約を締結するには、国境、復興支援、捕虜の送還、戦争犯罪の説明責任、安全保障、黒海とアゾフ海の通過協定など、多くの厄介な問題で合意する必要があるが、どれも簡単に解決できるものではない。ジョー・バイデン政権は、これまでの勝利至上主義(triumphalism)を撤回しなければならないし、そのような努力は、タカ派のNATO同盟諸国、特に東ヨーロッパの同盟諸国からの厳しい批判や、大部分のウクライナ人ではないにしても一部の人々の抵抗につながることは間違いない。

更に言えば、米政府関係者たちは、この取り組みにおいて北京に同等の地位を与えることを嫌うかもしれない。彼らは、北京に戦争終結の役割を与えることで、中国のヨーロッパとの再関与を促進し、世界の民主政体諸国を結束させて北京に対抗するというアメリカの長期的な努力を損なうことになるという懸念を持つだろう。しかし、これには中国側にも明らかなリスクがある。戦争を終結させれば、アメリカはアジアに注力できるようになり、中国の習近平国家主席にとってはこのことを最も望まないこととなるだろう。

しかし、戦争を継続すること、より正確に言えば、戦争を終わらせるための真剣な努力をしないことは、世界の他の国々から見て、同意しがたい立場だ。だからこそ、バイデン政権はこの考えを真剣に受け止めるべきだ。少なくとも、中国に平和的解決のための共同作業を求めることは、北京の手を煩わせることになる。誰も真剣に考えない無意味な「平和提案(peace proposals)」にとどまるのではなく、アメリカが中国と共同で平和構想(peace initiative)に取り組むことを提案すれば、北京は我慢するか黙るかを迫られることになるだろう。中国がこのようなアメリカの誠実な提案を拒否すれば、平和への約束が空虚なものであることが露呈することになる。それだけに、北京はこの提案を真剣に受け止め、協力に応じるかもしれない。そして、この構想が成功すれば、大国間協力(great-power collaboration)のメリットを再認識させることができるだろう。

これは果たしてうまくいくだろうか? 私には分からない。率直に言って、このような提案には、近年、アメリカの外交官たちに不足している、ある種の想像力の飛躍(imaginative leap)が必要であろう。しかし、主な代替案はもっと悪いものに見えるし、試して失敗した場合のコストはわずかなものだろう。もしバイデン政権がこの案を気に入らないとしたら、もっと良い案を考えていることを期待したい。それが何なのか、早く知りたいものだ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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