古村治彦です。

 2022年2月24日にウクライナ戦争が始まり、2度目の夏を迎える。西側諸国はウクライナに支援を続け、今年の春にはウクライナが春季大攻勢(Spring Offensive)を開始したが、大きな成果は上がっていない。これは当たり前の話で、ウクライナ側があれだけさんざん「近々大攻勢をやるぞ」とウクライナ国内外で宣伝して回れば、ロシア側は準備ができる。防備を固めた要塞や基地を攻め落とすには、攻める側は数倍の戦力が必要であるが、ウクライナにはそれだけの戦力もない。

最近になって西側諸国がウクライナに対して、より強力な武器を支援する動きを見せているが、ウクライナ軍が戦力を落としているので、それを再強化するための「カンフル剤」ということになる。出血しながらカンフル剤で何とか心臓を動かしてウクライナを戦わせていているというのが西側の実態だ。西側諸国は一兵も出さずに、兵器を出しているから助けているでしょというふざけた態度に終始している。本当にウクライナを助けるというのならば、自国の若者たちをウクライナに送るべきだ。そうすれば戦争終結に対してより本気になるだろう。しかし、そのようなことをすれば、ロシアがどのような報復をするか分からないということで、西側は腰が引けている。

「西側(the West)」に対抗する「それ以外の国々(the Rest)」が、ロシアにとっての大後方(great back)となっている。ロシアの石油や天然資源を非西側諸国が購入している。ここで重要なのは、BRICsによる新共通通貨である。「ブリックス・ペイ」という「デジタル共通通貨」となるか、「ブリック」という通貨になるかは分からないが、「米ドル基軸通貨体制」に対する大きな脅威となる。ブリックス5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)にインドネシア、トルコ、メキシコを加えた「新G8」が貿易決済でブリックス共通通貨を利用するとなれば、ブリックス共通通貨が有効な決済通貨となり、国際通貨となる。米ドル決済体制によってアメリカは世界の石油と食料の貿易を支配する態勢が崩壊する。

 西側諸国、特にアメリカとイギリスは対ロシアで、ウクライナはEUにもNATOにも正式加盟していないのにロシアを刺激し、挑発するかのような行動を繰り返してきた。ウクライナの武力を増強し続け、ロシアに脅威を与えてきた。そのような「火遊び」の結果が今回のウクライナ戦争である。そして、ロシアが戦争に打って出ざるを得ない状況にしておいて(真珠湾攻撃直前の日本のように)、ロシアを戦争に引きずり込んで、一気にロシア経済を破綻させてロシアをつぶしてやろうというシナリオになっていた。しかし、ロシアはそのような危機的状況から脱した。っそして、ウクライナ戦争で負けない戦術に転換している。西側の短期間でのロシアの屈服というシナリオが崩れた時点で、西側の負けだ。戦争は多くの誤算の積み重ねだ。戦っている当事者たちはあらゆるレヴェルで多くの誤算を積み重ねていく。しかし、重要なのは戦略的な判断ミスを戦術レヴェルで挽回するということは困難だということだ(私はこの言葉を『銀河英雄伝説』で覚えた)。政治家の判断ミス、誤算を軍人がいくら奮闘しても挽回することはできないということだ。西側諸国の政治家の大きなミスは最後まで響くことになる。

(貼り付けはじめ)

プーティンが正しく行ったもの(What Putin Got Right

スティーヴン・M・ウォルト筆
2023年2月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/02/15/putin-right-ukraine-war/

ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は、ウクライナ侵攻を決定した際に多くのことを誤った。彼はロシア軍の軍事力を過大評価した。ウクライナのナショナリズムの力と、脆弱なウクライナ軍がウクライナを防衛する能力を過小評価した。西側諸国の結束、NATOやその他の諸国がウクライナ支援を決定執行するスピード、エネルギー輸入諸国がロシアに制裁を科し、ロシアからのエネルギー輸出と自国を切り離す意思と能力を見誤ったようだ。プーティンはまた、中国の支援意欲を過大評価していたかもしれない。北京はロシアの石油とガスを大量に購入しているが、モスクワに対して明確な外交的な支援や貴重な軍事援助を提供してはいない。こうした誤りと失敗を全て合わせると、プーティンが表舞台から去った後も長く残るであろう、ロシアにとってマイナスな結果をもたらす決断となってしまったということになる。戦争がどのような結果になろうとも、ロシアはプーティンが別の道を選んだ場合よりも弱体化し、影響力を失うだろう。

しかし、もし私たちが自分自身に対して正直であるならば、そして戦時下においては冷酷なまでに正直であることが必要不可欠であるならば、ロシアの大統領も正しいことをしたと認めるべきである。そのどれもが、開戦の決断やロシアの戦争遂行方法を正当化するものではない。これらの要素を無視することは、彼と同じ過ちを犯すことになる。つまり、相手を過小評価し、状況の重要な要素を読み違えることである。

彼は何を正しく実行したのか?

ジョー・バイデン政権は、「前例のない制裁(unprecedented sanctions)」の脅威がプーティンの侵攻を抑止することを期待し、そしてこの制裁を科すことでプーティンの戦争マシーンの首を絞め、民衆の不満を引き起こし、プーティンを方向転換させることを期待した。プーティンは、われわれがどんな制裁を科そうとも、ロシアはやり過ごすことができると確信して戦争に踏み切った。ロシアの原材料(エネルギーを含む)にはまだ十分な需要があり、GDPはわずかな減少で済んでいる。長期的にはもっと深刻な結果を招くかもしれないが、制裁だけではしばらくの間は紛争の帰趨は決まらないと考えたプーティンの判断は正しかった。

第二に、プーティンは、ロシア国民が高いコストを許容し、軍事的挫折が自身の失脚につながることはないと正しく判断した。プーティンは、戦争が短時間で低いコストに終わることを望んで始めたのかもしれないが、最初の挫折(setbacks)の後でも戦争を続け、最終的には予備兵力を動員して戦い続けるという決断を下したのは、ロシア国民の大半が自分の決断に賛同し、出てきた反対派を抑え込むことができるという彼の信念を反映したものだった。しかし、ロシアは甚大な損失にもかかわらず、またプーティンの権力維持を危うくすることなく、大規模な部隊を維持することができた。もちろん、それが変わる可能性もあるが、これまでのところ、この問題に関してもプーティンが正しいことが証明されている。

第三に、プーティンは、他国が自国の利益に従うこと、そして自分の行動が万国から非難されることはないことを理解していた。ヨーロッパ、アメリカ、その他いくつかの国は鋭く強く反応したが、グローバル・サウス(global south)の主要メンバーや他のいくつかの主要な国(サウジアラビアやイスラエルなど)はそうではなかった。戦争はロシアの世界的なイメージの向上にはつながっていないが(国連総会での戦争非難の票が偏っていたことが示している)、より具体的な反対は世界の一部の国に限られている。

とりわけ重要なのは、ウクライナの運命が西側諸国よりもロシアにとって重要であることをプーティンが理解していたことだ。読者の皆さんに心に留めていただきたいことは、ロシアにとってウクライナの命運は、自国を守るために多大な犠牲を払っているウクライナ人にとっての命運よりも決して重要ではないということだ。しかし、プーティンは、ウクライナの主要な支持者たちよりも、コストとリスクの負担を嫌がらない点で優位に立っている。プーティンが有利なのは、西側の指導者たちが弱虫だからでも、臆病だからでも、屁理屈をこねているからでもない。

このような利害と動機に関わる、根本的な非対称性が、アメリカ、ドイツ、そしてNATOの他の多くの国々が対応を慎重に調整した理由であり、ジョー・バイデン米大統領が最初からアメリカ軍の派遣を否定した理由である。プーティンは、ウクライナの運命には数十万人の軍隊を送り込んで戦わせ、死に至らしめる価値があると考えるかもしれないが、アメリカ国民は息子や娘たちをウクライナに反対させるために送り込むことに同じような気持ちは持っていないし、持つはずもないということを正しく理解していた。ウクライナ人が自国を守るのを助けるために何十億ドルもの援助を送る価値はあるかもしれないが、その目的は、アメリカがアメリカ軍を危険な目に遭わせる、もしくは核戦争の重大なリスクを冒すほど重要なものではない。このような動機の非対称性を踏まえ、私たちはアメリカ軍が直接関与することなくロシアを阻止しようとしている。このアプローチがうまくいくかどうかはまだ明確ではない。

この状況は、ウクライナ人、そして西側で最も声高な支持者たちが、自国の運命を多くの無関係な問題と結びつけるために莫大な労力を費やしている理由にもなっている。彼らに言わせれば、ロシアがクリミアやドンバスのどこかを支配することは、「ルールに基づく国際秩序(rules-based international order)」にとって致命的な打撃であり、中国が台湾を掌握することへの誘いとなり、どこの国の独裁者にとっても恩恵となり、民主政治体制の破滅的な失敗であり、核兵器による恐喝は簡単で、プーティンはそれを使って英仏海峡まで軍隊を進軍させることができるというサインだということになる。西側諸国の強硬派は、ウクライナの運命がロシアにとって重要であるのと同様に私たちにとっても重要であるかのように見せるために、このような議論を展開するが、そのような脅しの戦術は、おおざっぱな調査にすら耐えられない。21世紀のこれからの行方は、キエフとモスクワのどちらが現在争っている領土を支配することになるのかによって決まるのではなく、むしろ、どの国が重要な技術を支配するのか、気候変動や他の多くの場所での政治的展開によって決まる。

この非対称性を認識することは、核兵器による威嚇(nuclear threats)が限定的な効果しか持たない理由や、核兵器による恐喝(nuclear blackmail)に対する恐怖が見当違いである理由も説明できる。トーマス・シェリングが何年も前に書いたように、核兵器による応酬(nuclear exchange)は非常に恐ろしいものであるため、核兵器の影の下での交渉は「リスク・テイクの競争(competition in risk taking)」となる。誰も核兵器を1発たりとも使いたくはないが、特定の問題をより重視する側は、特に重要な利害がかかっている場合には、より大きなリスクを冒すことを避けることはないだろう。このような理由から、ロシアが壊滅的な敗北を喫しそうになった場合、核兵器を使用する可能性を完全に否定することはできない。繰り返すが、西側の指導者たちは意志薄弱であったり、臆病であったりするのではなく、賢明で慎重に振舞っているのだ。

これは、私たちが「核兵器による恐喝nuclear blackmail)」に屈していることを意味するのだろうか? プーティンはこのような脅しを使って、別の場所で更なる譲歩を勝ち取ることができるのだろうか? 答えは「ノー」である。なぜなら、プーティンが先に進めば進むほど、動機の非対称性がわれわれに有利に働くからである。ロシアが自国の重要な利害に関わる問題で他国に譲歩を強要しようとしても、その要求は耳に入らないだろう。プーティンがバイデンに電話して、「もしアメリカがアラスカをロシアに返還することを拒否したら、核攻撃を仕掛けるかもしれない」と言ったとしよう。バイデンは笑って、酔いから醒めたらかけ直すように言うだろう。ライヴァルの強圧的な核兵器による威嚇は、決意の均衡(balance of resolve)が私たちに有利な場合には、ほとんど、あるいはまったく通用しない。長い冷戦(long Cold War)の期間中、米ソ両国は、自由に使える膨大な核兵器があったにもかかわらず、非核保有国に対してさえ、核兵器による恐喝を成功させたことはなかったことを思い出すことには価値がある。

しかしながら、この状況が変化する可能性がある方法が1つあり、それは安心できる考えではない。アメリカとNATOがウクライナに提供する援助、武器、諜報、外交支援が増えれば増えるほど、その評判が結果に結びつくようになる。これが、ヴォロディミール・ゼレンスキー大統領とウクライナ人がますます洗練された形態の支援を要求し続ける理由の1つである。西側諸国を自分たちの運命にできるだけ密接に結びつけることが彼らの利益になる。ちなみに、私はこのことで彼らを少しも責めない。私が彼らの立場だったらそうするだろう。

風評被害は誇張されがちだが、重大な物質的利益が危機にさらされていなくても、そうした懸念が戦争を継続させることがある。1969年、ヘンリー・キッシンジャーは、ヴェトナムがアメリカにとって戦略的価値が低く、勝利への道筋が見えないことを理解していた。しかし彼は、「50万人のアメリカ人のコミットメント(関与)によって、ヴェトナムの重要性は決着した。今必要なのは、アメリカの約束に対する信頼なのだ」と述べた。その信念に基づき、彼とリチャード・ニクソン大統領は、「名誉ある平和(peace with honor)」を求めて、さらに4年間もアメリカの参戦を続けた。ウクライナにエイブラムス戦車やF-16を送るのも同じ教訓からとなるだろう。武器が増えれば増えるほど、私たちはより献身的になる。残念なことに、両陣営が自らの死活的利益には相手に決定的な敗北を与えることが必要だと考え始めると、戦争を終わらせることは難しくなり、エスカレートする可能性が高くなる。

繰り返すと次のようになる。プーティンが戦争を始めたのは正しかったとか、NATOがウクライナを助けるのは間違っているとか、そういうことを示唆するものではない。しかし、プーティンは全てにおいて間違った訳ではない。プーティンが正しかったことを認識することが、ウクライナとその支持者が今後数カ月をどのように過ごすかを決めるはずだ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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