サウジアラビアとイランはこれまで対立を深刻化させてきた。両国の対立が最高潮に達したのは、2016年のことだった。サウジアラビアがシーア派指導者を処刑して、それに対して、イラン国民がテヘランのサウジアラビア大使館を襲撃するという出来事が起きた。一連の出来事の後、両国は国交を断絶した。
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そうした状況下、サウジアラビアとイラン両国は2023年4月、7年ぶりに国交正常化を行うと発表した。両国を仲介したのは中国だ。両国は中東の地域大国として相争う関係だった。そもそもは戦後のアメリカが構築したペトロダラー体制(石油の取引はドルのみで行うという密約を基礎とした)を支える、親米の産油大国(王制)であったが、1979年のイランのイスラム革命で、イラン国内において王制が崩壊し、更にイランは反米へと転換した。サウジアラビアはイスラム革命の飛び火を懸念し、イランと激しく対立するようになった。サウジアラビアはアラブ人でイスラム教スンニ派、イランはペルシア人でイスラム教シーア派という違いもある。
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中国がサウジアラビア・イラン両国の激しい対立を収めたということは、中東にとっては地域情勢の安定に大きな貢献となる。他のアラブ諸国はサウジアラビアに追随することが多く、独自にイランと事を構える力はない。サウジアラビアの意向に従うということになれば、中東は一気に安定する。中東地域の地図を見れば分かる通り、サウジアラビアとイランはペルシア湾をはさんで対峙する位置関係になっている。ペルシア湾岸が安定することは、石油の安定供給にとって必要不可欠である。

 中国にとっては、対立する国々を仲介して国交正常化・関係改善に成功したということは、世界の舞台における中国の実力を示すことができたというのは大きい。これまでそうした役割は西側諸国、特にアメリカが世界覇権国として独占してきた感があるが、それが大きく変わることを象徴する出来事であった。中国にしてみれば、安定した石油輸入の確保が最優先だ。
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 対イランでまとまっていたアラブ諸国はイスラエルとの国交正常化や関係改善を模索していた。イランのパワーに対抗するために、イスラエルを味方にしたいという動きだった。しかし、これでは4度の中東戦争を戦ったアラブの大義は崩れることになる。パレスティナ難民の存在は無視されることになる。ベンジャミン・ネタニヤフ首相はパレスティナに対して「二国共存」とは異なる、強硬な姿勢を取っている。そうした中で、アラブ諸国がイスラエルと国交正常化・関係改善を行うことは裏切り行為ということになる。

 サウジアラビアがイランと国交正常化を決めたことで、中東地域における力関係が変化する。中東地域の二大親米国、アメリカの同盟国であるサウジアラビアとイスラエルの関係は悪化している。サウジアラビアはアラブ人、イスラム教の守護者を自認しているが、イスラエルのネタニヤフ政権によるパレスティナに対する強硬な姿勢は容認できない。また、サウジアラビアはバイデン政権とは仲が悪い。バイデン政権とイスラエルも又微妙な関係になっている。サウジアラビアが中国陣営にシフトする姿勢を鮮明にしていることを考えると、中東におけるアメリカの拠点が崩れてしまうことになる。もちろん、サウジアラビアが今すぐに完全にアメリカと切れるということはないし、サウジアラビア国内のアメリカ軍基地を撤去するということはないだろう。しかし、サウジアラビアが少しでも中国寄りの姿勢を見せることで、中東におけるアメリカの動きと影響力は制限を受けることになる。
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 サウジアラビアとイランの国交正常化によって、中東におけるアメリカの拠点は崩され、イスラエルは孤立する。そうした事態を防ぐために、アメリカはサウジアラビアとイスラエルの関係を改善したい。しかし、そうした動きはなかなかうまく行っていない。中国とイスラエルの関係については、中国がネタニヤフ首相の訪中を招請するなど、関係の深化に努めている印象だ。イスラエルが親米の同盟国を止めるということは考えにくいが、中国はイスラエルに対しても働きかけを行っている。中東における世界覇権国としての動きができているのがアメリカなのか、中国なのか分からない状況になっている。世界は動いている。

(貼り付けはじめ)

サウジアラビア・イスラエル間の和平合意はそれを進める価値などない(A Saudi-Israeli Peace Deal Isn’t Worth It

-アメリカが最新の中東政策に大きな努力を傾けたことを公開することになるだろう理由

スティーヴン・M・ウォルト筆

2023年6月27日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/06/27/saudi-israel-biden-blinken-peace-normalization/

『ニューヨーク・タイムズ紙』は、ジョー・バイデン政権がイスラエルとサウジアラビアの関係を正常化させるための「希望の薄い戦い(long-shot bid)」に挑んでいると報じた。両国の関係正常化のためには、イスラエルがパレスティナの住民たちを虐待し続けているというサウジアラビアの懸念を払拭し、サウジアラビアの先進的な民生用核開発計画をイスラエルに受け入れさせる必要がある。バイデンとアントニー・ブリンケン米国務長官は手一杯の状況だ。ウクライナ戦争はそれほどうまくいっていないし、中国との建設的な関係を再構築するのは困難な課題となっている。バイデンとブリンケンはイランの核開発プログラムについて、非公式の交渉を何とか実現しようとしている。しかし、アメリカの外交政策立案担当者たちに傲慢さが、失礼、野心が欠けていると非難した者は存在しない。

一見したところ、サウジアラビアとイスラエルの関係正常化を推進することは、何の問題もないように思える。 アメリカの指導者たちは長い間、イスラエルの近隣諸国がイスラエルの存在を受け入れ、恒久的な和平に達することを望んできた。カーター政権が推進した1978年のキャンプ・デイヴィッド合意とそれに続くエジプト・イスラエル和平条約、そして1994年のイスラエル・ヨルダン和平の仲介などは、そのような衝動と冷戦期において中東におけるソヴィエト連邦の影響力を削ごうという関連した目的に駆られてのことだった。残念なことに、オスロ合意の枠組みの中で「2国家共存による解決(two-state solution)」を達成しようとしたその後の努力は、アメリカが公平な調停者(evenhanded mediator)ではなく、代わりに「イスラエル側の弁護士(Israel’s lawyer)」として行動したこともあって、惨憺たる失敗に終わった。それでも、アラブ・イスラエル間の長い敵対関係を考えれば、リヤドとテルアビブの正常化が平和を強化し、地域の経済発展を促進すると考えるのは簡単だ。なぜワシントンは、最も親密な、地域パートナーである2国間の折り合いをつけようとしないのだろうか?

実際、この突然のサウジアラビアとイラン間の関係改善の推進が、現在においてはほとんど意味を持たないのには、2つの大きな理由がある。

第一に、イスラエルとアラブ諸国の間で深刻な紛争が起こる危険性は、すでにほとんどなくなっている。イスラエルが、敵対的で人口の多い大規模なアラブ連合(ソ連によって武装・訓練されたメンバーもいる)に包囲されることを心配しなければならなかった時代は、とうの昔に終わっている。多勢に無勢で弱いはずのダヴィデ(デイヴィッド)であるイスラエルが、強力なはずのゴリアテ(ゴライアス)であるアラブ連合と戦った数次にわたる戦争でことごとく勝利したことを忘れてはならない。今日、イスラエルはこの地域で最も強力な軍隊を持ち、中東で唯一の核兵器保有国である。サウジアラビアはどんなことがあってもイスラエルを攻撃するつもりはないし、ヨルダン、イラク、エジプトも同様だ。シリアは厳密にはまだ交戦国だが、ボロボロのアサド政権もイスラエルには指一本触れることはないだろう。実際、これらの国のほとんどは、ガザのハマスやもちろんイランも含め、長い間、イスラエルと協力して敵対してきた。

誤解しないで欲しい。完全な国交正常化は、特にイスラエルにとっては素晴らしいことであり、バイデン政権はおそらく、米国イスラエル公共問題委員会(American Israel Public Affairs CommitteeAIPAC)のような団体から賞賛を得るだろう。しかし、国交正常化は地域政治を一変させるものではなく、既に存在する状況を成文化し(codify)、より可視化する(more visible)ものにすぎない。公然の秘密(open secret)としては、サウジアラビア(および他の湾岸諸国)が、たとえ公の場でそれを認めようとしなかったとしても、ずっと以前にイスラエルを黙認していた(tacitly accepted)ということだ。つまり、仮にバイデンが進めている希望の薄い試みが成功したとしても、アメリカにとっての戦略的メリットは小さいということだ。

第二に、バイデンとブリンケンは、サウジアラビアとイスラエルの関係改善を推進することで、アメリカのポートフォリオの中で、最も感謝を示さない顧客の2名に対して、乏しい政治資金を浪費するという無駄な努力をしている。イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相はアメリカ大統領を軽蔑の目で見てきた歴史があり、バイデンとの関係も冷え切っている。彼は現在、イスラエル史上最も強硬な政府(hard-line government)を率いており、ヨルダン川西岸地区の植民地化を正当化し、パレスティナ住民(米国市民を含む)に対するますます暴力的なキャンペーンを促進している。バイデン政権は、イスラエルが民主政治体制から遠ざかっていることを含めて、こうした動きを快く思っていない。一方、イスラエルはウクライナでの戦争に関しては一貫して中立を堅持しながらも、アメリカの軍事的・外交的支援を惜しみなく受け続けている。もちろん、ネタニヤフ首相とその一派はイスラエルの最善の利益のために行動しているに過ぎないが、彼らの行動はバイデン政権にとって警鐘となるはずだ。

サウジアラビアはもうアメリカが外交的に配慮をするべき相手ではない。2018年にサウジアラビアの諜報員によってジャーナリストのジャマル・カショギが殺害された事件を無視したとしても、サウジアラビアは最近、アメリカに対して厳しい態度を取る、アメリカの利益をもたらさない同盟国となっている。イエメンでの軍事作戦は、アメリカの支援が破壊的でほとんど無意味な戦争を助長したという点で、人道的災害であり、アメリカのイメージに打撃を与えた。リヤドはまた、ウクライナをめぐっても傍観者となっており、ロシアの石油を交渉して低い価格で購入する一方で、自国産の石油を割高で輸出することで、ロシアの戦争マシーンを養い続けている。加えて、サウジアラビアは昨秋、価格を維持するためにロシアと減産を調整し、バイデン政権を怒らせた。ムハンマド・ビン・サルマン王太子は中国に対して着実に接近しており、サウジアラビア政府高官は、特に経済分野において、アメリカの庇護に代わる選択肢を歓迎することを明らかにしている。

ここでも誤解して欲しくない。サウジアラビアはバイデン政権に意地悪をするためにこのようなことをしているのではない。彼らは自国の利益に従っているだけだと主張することもできる。リヤドからすれば、ウクライナの運命は重要な問題ではなく、中国に手を差し伸べ、アメリカの保護への依存を減らすことは戦略的に理にかなっている。しかし、それならば何故ワシントンはリヤドとテルアビブの取引を仲介しようとして、時間と労力と潜在的な影響力を浪費しているのだろうか?

ここで明確にしておきたい。もしこの2つの国(サウジアラビアとイスラエル)が共に現時点で関係を正常化することに意味があると考えるなら、アメリカは反対しないだろうし、反対すべきではない。しかし、アメリカが両国を説得するために労力を費やす必要があると考える理由は何だろうか?

バイデンとブリンケンは、この地域におけるアメリカの影響力低下を懸念し、中国の最近の外交成果に警戒している可能性がある。サウジアラビアを説得してイスラエルとの関係を正常化させれば、たとえその戦略的意義がささやかなものであったとしても、アメリカはまだ目に見える外交的成果を上げられることを示すことができる。サウジアラビアを説得し、核兵器開発への野心を封印させることができれば、真の成果となるだろうが、その可能性はあまり高くない。

この試みにはもう一つ大きなマイナス面がある。バイデンとブリンケンはイスラエルとサウジアラビアの関係正常化を推し進めることで、イスラエルのアパルトヘイト(人種隔離政策)にとって世界をより安全なものにする手助けをしていることになるのだ。もちろん、サウジアラビアがイスラエル一国家体制の現実に反対することはないだろうが、国交正常化はパレスティナ人を永久に服従させることは問題ないと言っているに等しい。バイデンとブリンケンは、人権に真剣に取り組むという彼らの主張を嘲笑し、ロシアのウクライナ併合や中国の少数民族ウイグルの扱いに反対することが、独立した観察者たちの目には偽善的に映るとしても、このプロセスを止めたり覆したりするために何かをするつもりはない。 もしあなたが、どうして世界の多くの国々がもはや米国を進歩の鼓舞する道標として見なしていないのかと不思議に思っているなら、その答えの一端がそこにある。

国務省の「やることリスト」にある他の全ての項目を考えると、なぜこの希望の薄い試みを行っているのか、私には全くもって理解できない。 そして、少なくともやってみる価値はあると考える人々には、取引の仲介を試みては失敗し、ワシントンが無能に見える可能性を思い出してもらいたい。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

(貼り付け終わり)
(終わり)

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