「中国怖い怖い」「中国が攻めてくる」「中国と戦ってやる(アメリカが戦う前提で)」という浅薄な中国脅威論が日本でも幅を利かせている。これは、中国に関するある一つのイメージに基づいて、事実を冷静に分析することなしに、自分勝手なストーリー作りということになる。外国を知る、外国の知識を蓄積する、データを集め分析するということは大変難しい作業だ。大きな象を数十センチの至近距離から見るようなもので、頭を見るか、鼻を見るか、足を見るかということになって、全体を把握することは難しい。文化が違う国を理解することは難しい。しかし、「難しい、難しい」と言い続けるだけでは、意味がない。私たちは手に入る知識やデータを冷静に、客観的に分析するという技法を獲得しなければならない。

 アメリカは戦後しばらく、ソ連(ロシア)研究に多額の資金を投入し、多くの俊才がソ連研究に参加した。1970年代からは日本研究、そして現在は中国研究に資金と人材を投入している。それでは、どれだけの成果を挙げているのかという話になると、これはなかなか難しい。各分析家、研究家、学者たちがそれぞれの意見を述べているが、その幅も広い。アメリカでも「中国怖い怖い」から「冷静に観察しよう」まで、専門家発で様々な意見が飛び交っている。

 中国の台頭は事実である。経済的にも軍事的にも政治的にも世界の大国になっている。こうした事実を踏まえて、中国を「正しく」怖がるということが必要だ。その際に、まず過激な意見や分析は排除すべきだ。こうした意見や分析はどこか無理が出る。自分たちの願望に基づいたストーリーなので、事実とは合わないところも出てくる。そうした部分を敏感に感じられるようになるべきだ。

 アメリカが中国を正しく怖がることができれば、世界の安定と平和が保たれる。現在のジョー・バイデン政権の外交政策を司る人物たちは、そうしたことができていないようである。だから、世界は不安定になり、平和に対する脅威が高まっている。

(貼り付けはじめ)

中国をどれだけ怖がるべきか(Here’s How Scared of China You Should Be

-このことはこれから述べる5つの疑問に対する回答による。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2023年8月7日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/08/07/china-rise-geopolitics-great-power-scared/

アメリカの大戦略(grand strategy)に関する現在の議論で重要なことは、中国との競争に優先順位を置くべきかどうかという疑問である。アメリカはこの疑問の解決に向けて、どれだけのリソース(資金、人材、時間、関心など)を対中関係に割くべきなのか? 中国はアメリカがこれまで直面したことのない地政学的な最大の挑戦者(脅威)なのか、それとも土台が弱い、砂上の楼閣なのか? 中国への対抗は、他の全ての問題(ウクライナ、気候変動、移民、イランなど)よりも優先されるべきなのか、それとも数ある問題の中の1つに過ぎず、必ずしも最重要ではないのか?

エルブリッジ・コルビーのような一部の専門家にとって、中国対策は最優先事項であり、アメリカの指導者はウクライナやその他の外交問題に気を取られてはならないということになる。私の共著者であるジョン・ミアシャイマーと、ハーヴァード大学での同僚であるグレアム・アリソンも同様に、中国からの挑戦、特に戦争リスクの高まりに懸念を抱いているようだ。最近の米外交問題評議会(Council on Foreign Relations)のタスクフォースは、アジアにおける軍事的トレンドが中国に有利にシフトしていると主張し、特に台湾海峡における抑止力(deterrence)強化のための努力を強化するよう求めた。ハル・ブランズとマイケル・バックリーは、中国のパワーはピークに近づきつつあり、北京が最終的な衰退を食い止めるためにできることはほとんどないと考えている。対照的に、クインシー・インスティチュートの同僚であるマイケル・スウェインとコーネル大学の学者ジェシカ・チェン・ワイスは、私たちは中国がもたらす危険を誇張していると考えており、2つの国家が疑心暗鬼の自己充足スパイラル(self-fulfilling spiral of suspicion)に陥り、最終的にどちらが競争に勝つにしても、両者がより悪い状況に陥ることを心配している。

これらの様々な評価は、最近の中国の将来の進む道筋に関する意見のほんの一例に過ぎない。誰の考えが正しいか、私には分からない。読者である皆さんもそうだろう。これらの専門家の中には、私よりも中国についてよく知っている人もいることは認める。もちろん私にも直感はあるが、真剣に中国を観察している人たちのコミュニティが統一的なコンセンサスを得られていないことに不満を感じている。そこで、公益事業として(そして彼らを少し鼓舞するために)、中国に関する私の大きな疑問トップ5を紹介しよう。これらの質問に対する答えは、あなたがどれだけ心配すべきかを教えてくれるだろう。

第1問:中国経済の未来は明るいのか、暗いのか、それともそれらの中間か?

国際政治におけるパワーは、最終的には経済にかかっている。「ソフト・パワー(soft power)」、個々の指導者の天才性、「国民性(national character)」の重要性、偶然の役割など、いくらでも語ることはできる。簡単にまとめると、国が自国を守り、より広い環境を形成する能力は、最終的にはその国の経済力にかかっているということになる。大国になるには人口が多くなければならないが、同時に相当な富と多様で洗練された経済も必要となる。高度な兵器を大量に製造し、一流の軍隊を訓練し、他国が買い求め、自国民の生活を豊かにする商品やサーヴィスを提供し、世界中に影響力を行使できる余剰資金を生み出すことができるのは、ハードな経済力があってこそということになる。他国から有能で経済的に成功していると認められることは、他国から尊敬され、助言を聞いてもらい、自国の政治モデルの魅力を高める良い方法でもある。

過去40年間の中国の経済パフォーマンスは特筆すべきものであり、大国から脱落するほど中国経済が悪化するとは誰も考えていない。しかし、新型コロナウイルス後の不振が示すように、中国経済は現在、弱まる見込みのない逆風に直面している。高齢化と人口減少が進み、増え続ける定年退職者を支える労働者はますます少なくなっている。若年層の失業率は21%を超え、全要素生産性の伸びは過去10年間で急激に低下している。中国の金融システムは依然として不透明で大幅な債務超過であり、先行成長の主要な源泉である不動産セクターは特に問題を抱えている。これらを総合すれば、なぜ多くのアナリストが中国の長期的な見通しについて悲観的なのか、容易に理解できるだろう。これから述べるように、アメリカの政策と中国の指導者の資質が、これらの問題を更に悪化させる可能性がある。

しかし、中国を空売りするのは危険な賭けということになる。中国の産業は、太陽光発電や風力発電技術など重要なセクターを独占しており、電気自動車産業は他国を凌駕している。世界トップクラスの建設会社のうち3社(年間売上高1位を含む)が中国企業だ。中国は、重要な鉱物や金属へのアクセスを確保するために多大な労力を費やしてきた。中国が将来にわたって主要な経済プレーヤーであり続けると予測するに足る十分な理由がある。大きな問題は、中国がアメリカを追い越すのか、それとも経済力のほとんどの面で永久に遅れを取るのか、あるいは大まかに同程度になるのか、ということだ。その答えが分かれば、どの程度心配すべきなのかが分かるはずだ。

第2問:アメリカの輸出管理(export control)は機能するだろうか?

1つ目の質問にどう答えるかは、ジョー・バイデン政権の対中経済戦争が成功すると思うかどうかにかかっている。中国が先端半導体(および関連技術)にアクセスできないようにすることで、アメリカはこの重要な分野での技術的優位を維持したいと考えている。アメリカ政府高官たちは、こうした措置は狭い国家安全保障上の懸念(ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官は「小さな庭と高いフェンス(small yard and high fence)」と表現している)に限定されたものだと主張しているが、本当の狙いは、中国の技術的進歩をより広い範囲で遅らせることにあると思われる。

ここで出てくる疑問は、このキャンペーンが長期的に成功するかどうかということだ。部分的なデカップリング(切り離し)であっても、コストがかからないということはない。このような制限は、アメリカや、アメリカのキャンペーンに協力しなければならない他の国々の技術革新を遅らせることにつながるだろう。技術的障壁が100%有効であるということはなく、この政策は中国に、時間をかけて自給自足を高める大きなインセンティヴを与えることになる。これらの理由やその他の理由から、これらの措置がどれほど効果的であるかについては、十分な知識を持った専門家の間でも意見が分かれている。

1941年に日本に対して行ったように、輸出管理が功を奏した場合、対象となる国家が黙ってそれを受け入れるとは限らないことを忘れてはならない。中国は既にアメリカ企業や同盟諸国に報復しており、その対抗措置はそれだけにとどまらないかもしれない。

しかしながら、重要なことは、このキャンペーンがうまくいくと思っているのであれば、中国がアメリカの優位性や既存の世界秩序に長期的な挑戦をしてくることを心配する必要はないということだ。しばらくはうまくいくかもしれないが永遠には続かない、あるいはいずれ中国や他の主要国で反発を招くと考えるのであれば、もっと懸念すべきである。

第3問:習近平はもう一人の毛沢東なのか、それとももう一人のリー・クワン・ユーなのか?

中国の急速な台頭は、毛沢東支配以後の「集団指導(collective leadership)」の下で始まった。たとえ鄧小平が中国共産党のヒエラルキーの中で「同輩中の首席(first among equals)」であったとしても集団指導体制が堅持されてきた。しかし今日、習近平は毛沢東時代以降初めて、権力を自身に集中させ、毛沢東のようなカルト的な人格崇拝を促進している。そうした人格崇拝においては、彼の思想は完全無欠、無誤謬であり、彼の決定に疑問を呈することは不可能ということになる。

一国の権力を1人の人間に任せきりにすることは、たいていの場合、災いの原因となる。人間は無誤謬ではない。野心的で意志の強い人物が制約を受けることなく活動できるようにすれば、大きな過ちを犯し、長い間修正されない可能性が高くなる。毛沢東の無謀な大躍進政策[Great Leap Forward](何百万人もの死者を出した飢饉を引き起こした)や、文化大革命(Cultural Revolution)で中国が被った被害を考えれば明らかだ。それでもまだ警告が足りないなら、トルコのレセップ・エルドアン大統領の金融政策に対する悲惨な見解や、かつてツイッターとして知られていたソーシャルメディア・サイトでイーロン・マスクが仕切るようになって起きている大混乱の代償について考えてみればいい。

確かに、不利な状況を逆転する、もしくは市場を打ち負かし続け、深刻な誤りを犯すことのないごく少数の人物たちが存在する。ウォーレン・バフェットやリー・クワン・ユーはそのレヴェルに近いかもしれないが、ほとんどの指導者はそのレヴェルに達していない。私が言いたいのは、中国の短期的、中期的な未来は、習近平が自分で思っている半分でも賢いかどうかに大きくかかっているということだ。最近の秦剛前外交部長と軍幹部数名の粛清が思い起こさせるように、習近平は明らかに権力強化の天才である。しかし、彼は新型コロナウイルスの管理を誤り、中国経済で最も輝かしいスターの何人かを貶め、中国の世界的イメージの着実な低下を指揮してきた。そして、権力を手に入れれば入れるほど、彼の政策判断は悪化しているように見える。中国経済の見通しについて弱気な人は、習近平がおそらく終身的に指導者の地位に座り続けるであるという事実を心強く思うかもしれない。

第4問:アジアは効果的にバランスを取るか?

習近平の大きな失敗の1つは、中国の近隣諸国が力を合わせて北京を牽制しようとするのを効果的に阻止しなかったことだ。中国の台頭は他のアジア諸国にとって何らかの懸念材料になるはずだったが、中国の世界的野心を公然と宣言し、「戦狼外交(wolf warrior diplomacy)」を採用し、知覚された侮辱に過剰反応し、台湾や南シナ海で攻撃的なサラミ戦術(訳者註:敵を少しずつ撃滅していく戦術)を採用したことで、問題は更に悪化した。

その結果はどうなるか? インドとアメリカは接近を続け、現在では日本とオーストラリアとともに四極安全保障対話(Quadrilateral Security Dialogue)に参加している。AUKUS協定は、アメリカ、オーストラリア、イギリスの戦略的関係(および安全保障協力)を強化した。日本は防衛費を急増させ、韓国との微妙な関係を修復しつつある。より遠い地域においては、ヨーロッパ連合(European UnionEU)が中国からの投資に魅力を感じなくなりつつあり、ヨーロッパとアジアの世論は中国の国際的な役割に警戒感を強めている。

とは言え、こうした措置の最終的な効果はまだ分からない。以前にも書いたように、アジアにおける均衡する連合(balancing coalition)は集団行動上の重大な問題に直面しており、ヨーロッパはそこで主要な戦略的役割を担う意図を持っていない。これらの国家を隔てる距離は大きく(そのため、遠くで問題が起きれば、一部の国家は引き下がるかもしれない)、誰も中国市場への完全なアクセスを失いたくはないし、韓国や日本のような国々には問題のある過去がある。これらの国の多くは、自分たちがただ乗りしている間、アンクル・サム(アメリカ)に中国に関する問題解決を任せたいと思うかもしれない。これらの国々はまた、アメリカが対立的になりすぎると神経質になる傾向がある。

バランス・オブ・パワー(力の均衡)理論(balance of power theory)、もしくは脅威理論(threat theory)から予想できるが、アメリカとアジアのパートナー諸国は今日、積極的に中国に対してバランスを取っている。もしそうであれば、中国がアジアで覇権(hegemony)を握る可能性はかなり低くなり、戦争のリスクは低下する。そうでない場合は、もう少し心配する必要があるだろう。この場合、アメリカが分裂しかねない連合を率い、やりすぎとやりなさすぎの間のスイートスポットを見つけられるかどうかに、多くのことがかかっている。それに賭けたい人はいるだろうか?

第5問:世界の残りの地域はどうするだろうか?

最後の疑問は、中国そのものについてではなく、世界の他の国々の対応についてである。明確なパターンが出現しつつある。中国を最も懸念するアジア諸国は互いにより接近し、アメリカに引き寄せられつつある。ヨーロッパ諸国の大半は、アメリカの保護に依存しているため選択の余地がなく、しぶしぶアメリカに尽き従っている。南アフリカ、サウジアラビア、ブラジル、そしてその他の国々にとっては、中国とアメリカの対立は、これらの大国が米中両国を翻弄し、米中両国との関係から利益を得るチャンスとなる。

ここで重要な問題となるのは、米中両国のうちどちらがこの新しいゲームを最も効果的にプレイできるかということだ。アメリカは過去30年間、多くの発展途上国において多くの善意を無駄遣いしてきたが、その失敗が中国にチャンスを与えている。しかし、「一帯一路構想(Belt and Road Initiative)」をはじめとする中国自身の行動は、多くの人が期待するようなゲームチェンジャーにはなっていない。アメリカはヨーロッパと東アジア・太平洋地域の大部分の国々と同盟関係を結び、中国はロシアと発展途上国の主要国と同盟関係を結び、その他の中堅国はその間を行き来している。これらのスコアカードの顔ぶれは完璧に一致する訳ではなく、チームを入れ替えた選手もいるだろうが、全体的なパターンは以前見たものと同様となっている。

更にもう1つについて述べる。

また、名前を知られていない選手もいるかもしれない。もし本当に中国について心配したいなら、あるいは脅威を煽ることが仕事の一部なのであるならば、部外者がその真偽を判断することがほとんど不可能なほどの、人々の恐怖心を煽り立てるシナリオにいつでも頼ることができる。1950年代の赤狩り(Red Scare)が典型的な例だ。多くのアメリカ人が、自分たちの社会の中に、愛国的な市民のふりをしながらも、実際には邪悪なクレムリンの支配者に密かに忠誠を誓っている大勢の人々が浸透してきており、蝕まれていると本気で信じていた。そのような懸念は過大で大袈裟だったが、誤りであることを証明する(disprove)ことも難しかった。私たちは他人の内心や忠誠心をどうやって知ることができるだろうか?

このような観点から見ると、中国のハッカーたちがアメリカの重要なインフラに密かに埋め込んだとされるコンピュータ・マルウェアを発見し、除去するためのアメリカの取り組みについて述べた最近の『ニューヨーク・タイムズ』紙の記事をどう考えればいいのだろうか? 中国のハッカーたちの意図は、将来の衝突の際にアメリカの軍事的な反応を破壊する、もしくは遅らせることだと報じられている。サイバー空間における真珠湾攻撃の懸念は以前からあったが、この記事ではその危険性が非常に現実的であることを示唆している。と言うのも、マルウェアがどの程度効果的なのか分からないし、サイバーセキュリティの専門家がまだ見つけていない、もっと危険なコードがどこかに潜んでいないと100%言い切れないからだ。

しかし、ニューヨーク・タイムズの記事で私が驚いたのは、匿名のアメリカ政府高官たちへのインタヴュー(つまり、公式に許可されたリーク)に基づいているにもかかわらず、中国における同様の取り組みについてほとんど何も語っていないことだ。ある中国政府高官が、自国が直面しているサイバー攻撃について不満を述べているのを引用しているが、そのほとんどが「アメリカから」だと主張している。中国が何年も前からアメリカの重要なインフラにマルウェアを仕込んでいて、国家安全保障局や米サイバー軍司令部にいる資金力のある天才たちが防衛を演じているだけだとは考えにくい。もしそうなら、私たちはもっと大きな問題を抱えることになる。

中国をどのくらい怖がるべきか? 私には分からない。歴史に照らし合わせれば、アメリカは中国からの挑戦に過剰に反応する可能性の方が、過小に反応する可能性よりも高い。しかし、私たちの行動が過剰だと思うか、過小だと思うかは、上記の5つの疑問にどのように答えるかによって、かなりの程度変わってくる。賢明な中国の専門家たちが額を寄せ合い、意見の相違の幅を狭めようとしてくれるのであれば、これほどありがたいことはない。そうすることで、この重要な戦略的問題について、この問題に関心を持つ私たちが、より良い情報に基づいた議論を行えるようになる。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505