古村治彦です。
2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
2024年5月19日に、イランのエブラヒム・ライシ大統領とホセイン・アミール=アブドラヒアン外相、他に政府高官たちが乗ったヘリコプターが墜落事故を起こし、搭乗員たちが全員死亡した。大統領と外相という最重要の政府高官たちが同じヘリコプターに登場していたというのは、安全管理の面から解せないところであるが、ライシ大統領の事故に、アメリカやイスラエルが絡んでいるということはひとまずないようだ。
今回の事故で、イランとイスラエルとの間の状況がさらに悪化するということはないと考えられる。これまで、イスラエルがシリアのダマスカスにあるイラン大使館を攻撃し、イスラム革命防衛隊の司令官クラスを殺害している。報復として、イランはイスラエルにドローンやミサイルによる攻撃を行った。両国間の関係が悪化し、より大規模な戦闘ということになれば、両国が直接領土を接してはいないので、航空機やミサイルによる攻撃が主体となり、最後は核兵器使用ということまで考えられる。ライシ大統領は、イランの国家最高指導者であるアリ・ハメネイ師の意向に沿って、強硬な態度を取ってきた。しかし、同時に、状況がさらに悪化しないように、細かい点で配慮を見せてきた。この流れは変わらないようだ。しかし、イスラエルと対峙する、レバノンのヒズボラとガザ地区のハマス、それらを支援するイスラム革命防衛隊を強化することは忘れないだろう。
イランにしてみれば、イスラエルとそれを支援するアメリカが国際世論の批判に晒されて、孤立することが望ましい。実際に、イスラエルによるガザ地区での作戦実行が過剰な防衛であって、一般市民に大きくの犠牲者が出ているということは、批判を招いている。ハマスについては、パレスティナ内部でも決して大きな支持を集めている訳ではないが、パレスティナの代表のような振る舞いをし、イランにとって有効な存在になっている。ハマスとヒズボラを使って、イスラエルを攻撃するということはイランにとって重要な戦略となっている。
更には、イランが紅海の入り口にあるイエメンのフーシ派も支援していることも大きい。これによって、貿易海運に影響が出ており、アメリカが率いる西側諸国にとっては頭が痛い問題である。
イランが中国やロシアの支援を受けて、中東での動きを活発化させている。それは、中国が仲介してのサウジアラビアとの国交正常化合意が実現したことが大きい。サウジアラビアも向米一辺倒から脱却しており、中東におけるアメリカとイスラエルの重要性が縮小している。重要なのは、中東の現状が核兵器使用の大きな戦争にまで進まないようにコントロールすることであり、イランもそれを望んでいるようだ。
(貼り付けはじめ)
イランがイスラエルに勝てると信じているその理由(Why Iran Believes
It’s Winning Against Israel)
-イラン政府は、地域秩序の再構成(regional reordering)が進行中であると結論づけた。大統領と外務大臣が亡くなってもその流れは変わらないだろう。
アリ・ヴァエス、ハミドレザ・アジジ筆
2024年5月20日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2024/05/20/iran-israel-war-deterrence-raisi-crash/?tpcc=recirc_latest062921
バグダッドのイラン大使館前にて、イランの故エブラヒム・ライシ大統領を弔う人々のキャンドルリストの横で警備するイラク軍兵士(5月20日)
日曜日(5月19日)、イランのエブラヒム・ライシ大統領とホセイン・アミール=アブドラヒアン外相を含む数名の政府高官がヘリコプター墜落事故で死亡した。この事件は、4月にイランとイスラエルの間で前例のないエスカレーションが起こった後に発生し、イランの地域政策と現在進行中のイスラエルとの対立に潜在的な影響を与えるのではないかという予測が出ている。
イラン行政府のトップに突然空白が生じたにもかかわらず、イランの外交・地域政策の戦略的方向性は、主に最高指導者アリ・ハメネイ師(Ayatollah Ali Khamenei)によって決定され、イスラム革命防衛隊(Islamic
Revolutionary Guard Corps、IRGC)の影響を受けており、今後も変わらないと見られている。しかし、イランとイスラエル間の最近の事態悪化は、既にイランの戦略的思考(strategic thinking)と地域的計算(regional
calculations)に影響を与えている。
イランにとって、イスラエルが4月1日にダマスカスにあるイラン大使館を攻撃し、高級指揮官を含む、イスラム革命防衛隊メンバー数人を殺害したことは一線を越えた。イランの立場からすれば、標的の幹部と施設の性格の両方が、イスラエルによる容認できない、事態悪化を意味する。
当面の問題として、テヘランは、イランが主権領土に相当すると見なしている場所への攻撃を放置すれば、イスラエルがイラン領内で、更に多くのイラン政府高官を標的にする可能性があると考えている。しかし、おそらく、より重要なことは、イラン政府関係者たちが、ダマスカスにあるイラン大使館攻撃を、ヒズボラの後方支援を断ち切ることを目的としたものであり、イスラエルによるレバノン侵攻という、より大きな目的に向けての中間的な動きと認識したことであろう。
2023年12月にイスラエルがダマスカス郊外で、イスラム革命防衛隊のラジ・ムサビ准将を殺害したことで、レヴァント地域におけるイランの非国家同盟組織の支援を担当する、イランの後方支援担当責任者(chief of logistics)が排除された。2024年1月の同様の攻撃で、シリアにおけるイスラム革命防衛隊の情報諜報責任者が解任され、4月1日にはモハメド・レザ・ザヘディ将軍が殺害されたことで、レヴァント地域の作戦責任者が排除された。
イランはまた、国内および地域の同盟国、組織の面子を保つ必要もあった。4月のダマスカス攻撃後、一部の強硬派は指導部を公然と批判し始めた。そのため、テヘランは武力で対応しなければならないと考えたが、戦争を引き起こすことなく、ある程度の抑止力を回復する必要があった。
4月14日未明、イスラエルに対し、高度に電波誘導を用いた大規模な無人機とミサイルによる攻撃を実施することで、戦争にならない範囲での報復を行った。優先事項は死と破壊ではなく、むしろイスラエルの領土を直接攻撃する勇気があることを示すことであった。もちろん、攻撃の規模を考えると、死と破壊の危険が当然のこととしてあった。イラン政府はおそらく、イスラエルとアメリカの防衛能力に関する重要な情報を収集しながら、自国が持つ能力のどの部分を公開するかを選択した可能性が高い。
イスラム革命防衛隊の航空宇宙戦隊司令官は、イランが今回の作戦のために準備した能力の20%未満しか投入しなかったのに対し、イスラエルは、アメリカや他の同盟諸国の支援を受け、防衛兵器をフル動員しなければならなかったと示唆した。これらの主張が少しでも正確であれば、イランがより高度な兵器を用いて、更なる大規模な攻撃を行う場合、特に奇襲的で長期間に及ぶような攻撃の場合、今回成功した防衛を再現できるのかという疑問が生じる。
イスラエルとそのパートナーたちは、この攻撃をほぼ無力化すること(neutralizing)に成功したが、テヘランは支持者・支援者の間での立場を強め、おそらくアラブ各国の路上で、パレスティナの権利擁護を公言し実行しているという評判を高めた。ガザでの戦争の惨状から国際的な関心をそらすことなく、このようなことが成し遂げられた。この事実は、アメリカやヨーロッパ諸国の大学キャンパスで行われた親パレスティナ派の抗議行動によって、より浮き彫りにされた。
この観点からすると、今回のイランによる攻撃の成功は、その限定的な軍事的成果からではなく、より強力な超大国の支援を受けている、強力な敵を直接標的にしたという事実そのものからもたらされた。ハメネイ師が主張しているように、イランがイスラエルに送った重要なシグナルは、イスラエルがイラン軍を切り崩し、レヴァントでの行動ができないようにすることを目的とする、今後の作戦を抑止するために、テヘランはある程度のリスクを受け入れることができるということであった。
しかし、この攻撃の直後に、イスラム革命防衛隊の最高司令官が設定したレッドライン(イランの標的に対するいかなる攻撃も、イランがイスラエルを再び直接攻撃する原因となる)は、イスラエルが現地時間4月19日にイスファハンで行った空対地ミサイル攻撃(イラク領空からS-300ミサイル防衛システムのレーダーを空対地ミサイルで攻撃、ナタンツの機密核施設に近接)に照らして、すぐに空威張りであることが示された。
イランにとって、イスラエルとの暗闘が現状に戻ることは、おそらく受け入れられる結果だろう。テヘランからすれば、せいぜい、シリアにおけるイランの武器輸送と施設を標的とするイスラエルのマバム(「戦争の中の戦争[war within the wars]」)キャンペーンの範囲を制限する方法を見つけることだろう。イランは少なくとも、イスラエルがイランの上級指揮官を標的にすること、そして、イラン国内で屈辱的な秘密工作を行うのを止めさせたいと考えている。イランがこれらの目的を達成できるかどうかを判断するのは時期尚早である。
今、重要なのは、イスラエルとイランの二国間の対立(bilateral rivalry)が、より広い地域情勢の中でどのように位置づけられるかということである。イスラエルとアメリカは、アラブ諸国との一時的な地域協力関係(ad hoc regional cooperation with Arab states)を活性化させ、ミサイルの一斉射撃を阻止したと自慢することができた。しかし、関係するアラブ諸国は、イスラエルから名指しされたり、味方についたと見られたりすることを避けたがった。イスラエルがアラブ諸国の行動を、自国に有利な反イラン地域同盟(anti-Iran regional alliance)の出現を示唆するものだと決めつけようとしたのとは反対に、アラブ諸国の指導者たちは、イスラエルとイランとの間の緊張が、自国を銃撃戦に巻き込む可能性があるという、以前から恐れていたことが証明されたと考えたのである。
イランの指導者たちは、ヒズボラという地域的な槍の先端を使わなかった、自分たちの報復が、更なる事態悪化の可能性を軽減することに成功したと、今のところは確信しているようだ。イランの攻撃からイスラエルを守るには10億ドル以上の費用がかかり、少なくとも5カ国が参加する大規模なティームワークが必要であるのに対し、イランには攻撃に2億ドルの費用がかかったということは、イスラエルもアメリカも、更なる戦闘を求めていないことを暗示している。したがって、イスラエルとアメリカ軍がおそらく同じことをしているのと同じように、イランには学んだ教訓に焦点を当てる余地がある。
イランがパンチを手加減してやったと主張しているにもかかわらず、アメリカ政府当局者たちは、その目的は「明らかに重大な損害と死者を引き起こすことであった」と評価している。今回の場合、パンチは当たらなかった。これは攻撃の脆弱性と防御力の両方の結果であると思われる。長距離を飛行するイランの無人機はほぼリアルタイムで探知され、発射体の多くはイスラエル領土に到達する前に迎撃されたからだ。かなりの割合(おそらく半分程度)が迎撃された。弾道ミサイルのうち多くが、自然に失敗して到達できなかったと報じられている。
これらの欠陥を正すために、イランはイスラエルに近い地域で武器の開発と備蓄を強化し、シリアでのプレゼンスの強化を必要とするだけでなく、将来の攻撃手段の一環として極超音速ミサイルを含むより先進的なミサイルの開発を加速させようとする可能性がある。
イスラエルによるイランへの報復は、イスラエルがイランの核施設に重大な損害を与える能力を持っていることをイランの指導者たちに思い知らせるものだった。また、イラン国内における、S-400のような、より高性能な防空システムの欠如や、近隣の空域に侵入するイスラエルの本質的に揺るぎない能力といった、テヘランの主要な欠点も露呈した。前者の欠点に対処するため、テヘランは、イランとヨーロッパの関係を更に悪化させることになるとしても、弾道ミサイルと引き換えにロシアの最新兵器を入手する努力を強化するだろう。
後者の欠点に対処するために、特にシリアでは、ロシアに助けを求める可能性もある。しかし、イラクではアメリカ軍が立ちはだかり、イランは、イラクの民兵組織にアメリカ軍基地を狙い続けるよう促し、イラク政府への政治的圧力を強めることで、イラクから約2500人のアメリカ軍を追い出そうとする動機をより高める可能性が高い。
テヘランはまた、シリアのユーフラテス川以東で、既に不安定な状態にあるクルド人主導のシリア民主軍の支配を緩めるための努力を強化する可能性が高い。これにより、イランは、シリアへの(そしてその先のレバノンへの)陸上アクセスポイントを増やし、同時にユーフラテス川西岸のデイル・エゾル州での影響力を強化することができる。最後に、テヘランは度重なる諜報活動の失敗により、国外にいる上級指揮官の所在が明らかにされてしまったことや、国内が脆弱になったことへの対処にも注力するだろう。
イラン指導部は、イランが10月以来実証してきた能力、つまり地域パートナーの非対称戦闘能力と、イスラエル上空を飛ぶイランのミサイル弾頭の永続的なイメージが、ガザ紛争の余波と相まって、地域秩序の再構成の前兆となる可能性があると信じている。
イラン政府の目には、イスラエルは世界的にますます排斥されると映っている。ロシア、中国、インドのような他の大国が影響力を拡大するにつれ、アメリカはもはやこの地域の最も重要なプレーヤーではなくなるだろう。そしてペルシア湾岸アラブ諸国(Gulf Arab states)は、イランに対して団結することを避け、代わりにシリアやヒズボラなどのイランの同盟国や組織との関係改善を目指すことになるだろう。
イラン指導部は、短期間に核弾頭を開発できる、制限核兵器保有国(threshold
nuclear weapons state)としてのイランの地位を強化したいという願望でこのヴィジョンを補完している。特に、西側諸国が効果的で持続的な経済制裁緩和を行う能力があるかについてのテヘランの悲観的な見方を考慮すれば、イランの核能力の大幅な縮小を目的とした将来の合意は困難ということになるだろう。
しかし、イランの指導者たちは、永続的な現実が彼らの強気な物語を台無しにし、短期および中期の両方のリスクをもたらすことに気づくかもしれない。イランとイスラエルがゲームの新しいルールをまだ完全に定義してテストしていないことを考えると、特にイランは自慢の戦略的忍耐力(strategic patience)を放棄し、より攻撃的な姿勢に置き換えるべきだと信じる、政府内の人々が優勢であるように見えるため、両国は誤算を示す可能性がある。これらの強硬派は、イスラエルが、近いうちにイランが越えてはならない一線を堅持する姿勢を試すことになり、イランがそれに失敗すれば、4月14日に取った多大なリスクから得られる利益は失われると信じている。
そうなれば、双方の誤算(miscalculation)のリスクが高まり、壊滅的な打撃を与えかねない状況悪化の連鎖につながりかねない。中期的には、イランが中東で消滅しつつあるパクス・アメリカーナ(Pax Americana、アメリカによる平和)に代わる新たな秩序が生まれつつある、と見ていることが、かえってペルシア湾岸アラブ諸国が、アメリカの安全保障をより強固なものにする要求を倍加させ、テヘランが直面する脅威に対する認識を深めることになりかねない。
※アリ・ヴァエス:インターナショナル・クライシス・グループのイランプロジェクト部長、ジョージタウン大学外交学部非常勤講師。ツイッターアカウント:@AliVaez
※ハミドレザ・アジジ:ジャーマン国際・安全保障問題担当研究所訪問研究員。シャヒド・バレスティ大学地域研究助教(2016-2020年)。テヘラン大学地域研究学部訪問講師(2016-2018年)。ツイッターアカウント:@HamidRezaAz
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ライシ大統領の死がイランの未来に意味するもの(What Raisi’s Death
Means for Iran’s Future)
-ヘリコプター墜落事故によるライシ大統領の突然の死は、地域的な混乱の中でイランに不確実性をもたらす。
ジャック・ディッチ筆
2024年5月20日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2024/05/20/iran-president-helicopter-crash-raisi-politics-supreme-leader/
イラン大統領エブラヒム・ライシがシリアのダマスカスを訪問(2023年5月3日)
イランのエブラヒム・ライシ大統領は日曜日、他のイラン政府高官たちの一団を乗せたヘリコプターがイラン北部の山中に不時着した事故で死亡し、イランと中東地域の将来に大きな疑問を生じさせた。
イラン国営のイスラム共和国通信が確認したところによると、ホセイン・アミール=アブドラヒアン外相と他の高官たちもイランの東アゼルバイジャン州を移動中に墜落し死亡した。墜落現場が発見されるまでの数時間、濃霧が捜索・救助活動を妨げた。霧は非常に濃く、イラン側はヘリコプターの位置を特定するためにヨーロッパ連合(EU)の衛星の支援を要請せざるを得なかった。
ライシ大統領の死は、イランが強硬な方向(hard-line direction)に進み、中東を地域戦争(regional war)の危機に晒される恐れがあったイラン政治の短い変革の時代(transformative
era)に終止符を打った。ライシは政権の座に就いて約3年間、イランの国内政治と社会政策をより保守的な方向に動かし、2017年の大統領選挙でライシを破った前任者のハッサン・ロウハニの後、イランをこの地域における明らかなアメリカの敵対者の立場へと更に推し進めた。ロウハニは、代理攻撃(proxy attacks)を強化する前に、まずイランの核開発をめぐる西側諸国との緊張緩和を模索した。
イスラム法学者で、アリ・ハメネイ師(Ayatollah Ali Khamenei)との緊密な関係で知られ、多くの当局者や専門家たちが高齢化する最高指導者の後継者候補とみなされてきた、ライシの大統領在任期間中、イランはウラン濃縮(uranium enrichment)を加速させ、包括的共同行動計画(Joint
Comprehensive Plan of Action)の交渉を遅らせた。アメリカはライシが大統領に就任する3年前の2018年に協定を離脱した。
ライシ政権下のイランはまた、シャヘド自爆ドローンや大砲の大規模な輸出でウクライナに対するロシアの戦争を支援し、ハマスによる2023年10月のイスラエルへの越境攻撃の後、アメリカとイスラエルに対する地域の代理民兵組織(regional proxy militias)による攻撃を増加させ、ライシの死のわずか1カ月前には、イスラエルに対して大規模なドローンとミサイル攻撃を開始した。
複数の専門家によれば、ライシの後任が誰になろうとも、彼が追求した戦略はイランの政治的・聖職的指導部の上層部の間で堅持されており、変わることはないだろうという。
民主政治体制防衛財団(Foundation for Defense of
Democracies、FDD)のイラン上級研究員ベーナム・ベン・タレブルーは次のように述べている。「ライシがいてもいなくても、政権は10月7日以降の中東の成り行きに満足している。イランは、アメリカとイスラエルに対して、代理人を使って直接攻撃したが、4月に見られたような、一触即発(tit-for-tat)の状況にも何度か直面しながら、状況を有利になるように進めている」。
イラン憲法では、選挙が実施されるまでの50日間は、ムハンマド・モクバー筆頭副大統領が政権のトップを務めることになっている。アナリストによれば、最近の議会選挙は記録的な低投票率だったという。更に、2021年の前回の大統領選挙では、ライヴァルたちを追い落とし、ライシ候補の勝利を確実にするために、ハメネイと協力者たちは多大な努力を行った。
ライシは大統領に就任する前、1988年に推定5000人の反体制派の処刑を担当した、イラン検察委員会の委員を務めていた。ライシは国連から人道に対する罪で告発され、米財務省から制裁を受けていた。そして、その強圧的なアプローチは、2022年9月にイラン道徳警察が、22歳のマフサ・アミニが公共の場で適切にヒジャブを着用しなかったとして交流した後に死亡した事件がそれに続き、これが全国的な抗議活動を引き起こした。
臨時選挙や来年に予定されている正式な大統領選挙という地平線の先には、イランの支配層のトップに激震が走る可能性がある。国家元首(head of state)の息子であるモジタバ・ハメネイ以外に、85歳のハメネイの後継者となりうる人物は限られているため、ライシの死はイランの政治的未来を更なる混乱に陥れる可能性がある。
イラン経済の主要部分を支配するイラン国軍最大の部隊である、イスラム革命防衛隊(Islamic
Revolutionary Guard Corps、IRGC)も、この混乱を利用して自らの力を増大する可能性がある。
米国防大学近東アジア戦略研究センター教授で退役米陸軍大佐のデービッド・デ・ロシュは、「ライシがいなくなってしまう場合、後継者は明白になっていない。本当に興味深いのは、イスラム革命防衛隊が基本的に、スローモーションクーデター(slow-motion coup)を完了するかどうかを見ることだ」と述べている。
救助隊が墜落したライシのヘリコプターを捜索中に、国営メディアはイラン国民にライシのために祈るよう求めた。その代わりに、墜落の報道を受けて、イラン国民の一部は祝賀の花火を上げ、強硬派の指導者の死について歓喜したようだ。
米海軍大学院准教授で、ヴェテランのイラン専門家であるアフション・オストヴァールは、ライシ大統領の死去が確認される前に、「今日の墜落とライシ大統領と外相の死亡の可能性はイラン政治を揺るがすだろう」とXへの投稿で書いた。オストヴァールは続けて、「原因が何であれ、不正行為(foul
play)の認識は政権内に蔓延するだろう。野心的な分子が利益を求めて圧力をかけ、政権の他の部分からの反発を強いられる可能性がある。このような事態が起きることに備えておくべきだ」。
専門家たちは、臨時選挙でも2025年のイラン大統領選挙でも、自由化を進める人物が現れる可能性は低いとしながらも、ライシの死は、水面下で続いてきた抗議運動の復活にわずかな隙を残す可能性があると述べている。
「民主政治体制防衛財団の専門家ベン・タレブルーは、「講義運動は死んでいない。これらの運動は、ストライキや労働組合など、低レヴェルの周辺地域で活動している。全国的な引き金になるかもしれないし、何も起こらないかもしれない。しかし、イランの抗議運動の物語はいつ起こるか、起きるかどうかの問題でもある」と述べた。
※ジャック・ディッチ:『フォーリン・ポリシー』誌国防総省・国家安全保障担当記者。ツイッターアカウント:@JackDetsch
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