古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 イスラエル・ハマス紛争は長期化している。イスラエルはハマスのせん滅と、2023年10月7日に連れ去られた人質の解放を目指している。ハマスはガザ地区での抵抗を続けて、民間人の犠牲者が増えている。ハマスはイスラエルの存在を認めておらず、パレスティナとの二国共存はそもそも彼らの中にはない。イスラエルの右派・強硬派にとっても、二国共存という選択肢は存在しない。二国共存の否定という点では、ベンヤミン・ネタニヤフ首相もハマスも奇妙な一致をしている。パレスティナ穏健派、イスラエル穏健派は二国共存で妥協しているので、いわば、両方の強硬派が暴れているということになる。

 アメリカのジョー・バイデン政権はイスラエルに対して厳しい姿勢を取りつつある。イスラエルに対して、と言うよりも、ベンヤミン・ネタニヤフ首相に対してという方がより正確だ。アメリカとしては、ガザ地区での報復攻撃を停止し、停戦させたい。しかし、イスラエルは攻撃を停止しようとしない。アメリカ国内では民主党支持が多い若者・学生たちが抗議活動を活発化させており、大統領選挙を控えるバイデン政権としては、イスラエルを抑えたいということになる。国外的にも、イスラエルに対する批判は高まっており、イスラエルを支援しているアメリカに対しても批判がなされている。

今回、紹介する、スティーヴン・M・ウォルトの論稿では、国際関係論のリアリストたちがイスラエルのガザ地区での攻撃に反対しており、その理由について述べている。リアリストたちは戦争の限界や国家の重要性を認識し、イスラエルの戦略は失敗すると結論づけている。イスラエルの行動とアメリカの関与はアメリカの世界的立場を弱め、ロシアや中国の利益を高めている。一方、アメリカは数十億ドルを支援し、他の重要な問題に時間やエネルギーを費やすべきだと指摘されている。

結果として、アメリカのリーダーシップは揺らぎ、中国やロシアの影響力が増している。リアリストは、現在の政策がアメリカの安全や価値観に反するものであり、安全をもたらすには紛争を政治的に解決する必要があると主張している。彼らは、戦略的利益と道徳的志向を同時に追求できる政策を求めており、アメリカとイスラエルが行っていることに疑問を投げかけている。

 アメリカは国益という観点から、戦後の冷戦期から長きにわたり、イスラエル支援を続けてきた。しかし、世界の構造は大転換を迎えつつある。世界の構造が変われば、アメリカの国益も変化する。イスラエル支援が、アメリカの国益に適うかどうか、ということがこれから重要になっていく。

(貼り付けはじめ)

リアリストたちはガザ地区での戦争に反対する理由(Why Realists Oppose the War in Gaza

-もし、あなたがリアリズムの姿勢に驚いているのなら、それはリアリズムを本当に理解していないからだ

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年5月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/05/21/why-realists-oppose-the-war-in-gaza/?tpcc=recirc062921

写真

イスラエル南部のガザ国境付近に陣取る部隊のあるイスラエル兵が、自走砲榴弾砲の砲身に頭を預ける(2023年10月9日)。

一見したところ、外交政策分野のリアリストたちは、イスラエルがガザ地区で行っていることなど、どうでもよいと思っているように見える。確かに人道的災害であり、大量虐殺の可能性もあるが、国際政治を行う上で残忍な行動がそれほど珍しいことだろうか? 中央的な権威のないこの世界では、政府は自分たちが得をし、誰もそれを止めないと考えれば、本気になって攻撃を行うということを、リアリストたちは真っ先に指摘するのではないだろうか? 真珠湾攻撃や911後のアメリカの対応、ウクライナでのロシアの動き、スーダンでの対立勢力の動きを考えてみれば、私の言っていることが理解できるだろう。

しかし、チャス・フリーマン、ジョン・ミアシャイマー、そして、僭越ながら私を含む著名な外交政策リアリストたちは、イスラエルのガザ地区での行動とイスラエルの行動を支持するバイデン政権の姿勢を強く批判している。世界政治に対する、硬派で感傷的でないアプローチの信奉者たちが、突然道徳(morality)について語るのは奇妙ではないか?

いや、そうではない。

こうした混乱の一部は、リアリズムについてのよくある誤解(common misconception)から生じている。つまり、リアリズムの支持者たちは、外交政策の遂行において倫理的考慮(ethical considerations)はほとんど、あるいは全く役割を果たすべきではないと考えている、という誤解である。これは馬鹿げた批判(silly charge)であり、リアリストたちの著書をざっと読むだけでも分かる。ハンス・J・モーゲンソーは、政治的効力(political efficacy)と道徳的原則(moral principles)の間の緊張関係を探求した本を1冊書き、「[政治の]道徳的問題は声を上げて答えを求めている(the moral issues [of politics] raise their voice and demand an answer)」と強調した。EH・カーは真のリアリストではなかったが、リアリストの古典的著作を一冊書き、政治生活から道徳的配慮を排除することはできないと明言した。ケネス・ウォルツの国際政治に関する著作のほとんど全ては、平和の問題と、それを強化または損なう条件や政策に焦点を当てており、彼は強力な国々が理想主義的な目的を追求するために悪行を犯す傾向(the tendency of powerful states to commit evil acts in the pursuit of idealistic objectives)を繰り返し批判した。そして、ジョージ・ケナン、ウォルター・リップマン、モーゲンソー、ウォルツなどの著名なリアリストたちや、彼らの知識人の後継者たちは、戦略的および道徳的見地から、アメリカが最近選択した戦争の多くに反対した。

全ての人間と同様、リアリズムが世界政治を考える上で役立つと考える私たちも道徳的信念を持っており、そうした原則がより一貫して守られる世界(a world where those principles were observed more consistently)に住みたいと願っている。実際、リアリストたちが国際政治の道徳的側面に関心を持つのは、国家やその他の政治グループがいかに簡単に不道徳な行為を犯すかを認識しているからだ。リアリストたちはガザ地区で起きていることに驚いていない。前述のように、他の多くの国も自国の重大な利益が危険に晒されていると感じたときに恐ろしい行為を行ってきた。しかし、だからといってリアリストたちがイスラエルとアメリカの行為を承認している訳ではない。

ガザ地区での戦争に対するリアリストたちの批判は、軍事力の限界とナショナリズムの重要性(the limits of military power and the importance of nationalism)を認識していることから生じている。彼らは、外国の侵略者たちが武力で他民族を支配・破壊しようとするときに、通常直面する困難を痛感している。だからこそ、イスラエルがガザ地区を爆撃・侵攻して、ハマス壊滅を図ろうとする試みは失敗する運命にあると結論づけたのだ。ハマスがイスラエルの猛攻撃を生き延びようとしていることは益々明らかであり、たとえ生き延びられなかったとしても、パレスティナ人たちが占領され、基本的な政治的権利が否定され、徐々に土地を奪われていく限り、新たな抵抗組織が出現するに違いない。

同様に重要なのは、リアリストたちがイスラエルの行動(およびそれに対するアメリカの共謀[U.S. complicity])に反対するのは、その組み合わせがアメリカの世界的立場を弱めているからだ。ガザ地区での戦争は、アメリカの「ルールに基づく秩序(rules-based order)」への関与が無意味であることを明らかにした。率直に言って、アメリカ政府高官たちがいまだに真顔でその言葉を口にできるとは信じがたい。最近の国連総会(U.N. General Assembly)でのパレスティナへの新たな「権利と特権(rights and privileges)」付与の投票は、賛成143、反対9、棄権25で可決されたが、これはアメリカの孤立(isolation)が深まっていることを如実に示している。停戦(cease-fire)を求める国連安全保障理事会(U.N. Security Council)の決議(resolution)に対するアメリカの度重なる拒否権(veto)も同様だ。国際刑事裁判所(International Criminal CourtICC)の最高検察官(top prosecutor)は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とヨアブ・ギャラント国防相に対し、戦争犯罪と人道に対する罪(war crimes and crimes against humanity)で逮捕状(arrest warrants)を請求した(ハマスの指導者ヤヒヤ・シンワル、イスマイル・ハニヤ、モハメド・ディアブ・イブラヒム・アル・マスリも対象となっている)。ワシントンは間違いなくこの措置を拒否するだろうが、これはワシントンが世界の多くの国々といかに足並みを揃えていないかを更に強調することになる。

各種世論調査では、アメリカの人気は中東で大幅に低下し、ヨーロッパでもわずかに低下している一方、中国、ロシア、イランへの支持が高まっていることも示されている。戦争開始か1カ月も経たないうちに、親イスラエルのワシントン近東政策研究所(Washington Institute for Near East Policy)の報告書では次のように書かれている。「ガザ地区での戦争により、アメリカは敵国に負けつつある。この戦争でアメリカがプラスの役割を果たしていると考えるアラブ人の割合はわずか7%で、ヨルダンなどの国では2%にまで低下している。対照的に、中国が紛争でプラスの役割を果たしていると考えるアラブ人の割合は、エジプトで46%、イラクで34%、ヨルダンで27%であった。加えて、この戦争でイランが大きな恩恵を受けているようだ。平均すると、イランが戦争にプラスの影響を与えたと答えた人の割合は40%であるのに対し、マイナスの影響を与えたと答えた人は21%である。エジプトやシリアなどの国では、イランがガザに良い影響を与えていると答えた人の割合はさらに高く、それぞれ50%と52%に達している。」

そして戦争は安くつくことはない。アメリカ連邦議会は、イスラエルがガザ地区を壊滅させるための数十億ドルの追加援助を承認した。また、私たちが支援している「同盟国(ally)」が人道支援(humanitarian aid)を届けるために救援団体にトラックを送らせてくれないため、アメリカが建設しなければならなかった浮桟橋のための3億2000万ドルもある。アメリカ軍はイエメンのフーシ派に対し、高価なミサイルや爆弾を使い果たしている。フーシ派はイスラエルがやっていることに抗議して、紅海やその周辺の船舶を恐怖に陥れ始めたのだ。私には分かっている。しかし、ガザ地区でパレスティナ人を殺すのを助ける代わりに、アメリカ人を助けるためにこのお金を使うのはいいことだ。今度、アメリカ連邦議会の予算タカ派が国内プログラムを削減しなければならないと言い出したら、彼らがイスラエルの戦争にどれだけ熱心にお金を出していたかを思い出して欲しい。

この戦争はまた、バイデン政権高官たちの膨大な時間、エネルギー、そして関心を浪費している。アントニー・ブリンケン国務長官とウィリアム・バーンズCIA長官は何度も現地に赴き、数え切れないほどの時間をこれらの問題に費やしてきた。ジョー・バイデン米大統領を含む他の高官たちも同様だ。アメリカの指導者たちがイスラエルとパレスティナのおよそ1500万の人々の間の紛争に費やしてきた時間は、他の重要な同盟国を訪問したり、ウクライナでより良い政策を考案したり、アジアで効果的な経済戦略を開発したり、気候変動に対処するために世界的な支援を集めたり、あるいははるかに重要な問題の数々に費やすことができなかった時間である。

勝者は誰だ? もちろんロシアと中国だ。世界中の多くの人々、特にグローバルサウスの多くの人々にとって、ガザ地区での大虐殺は、ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席が繰り返し主張している、アメリカの世界的な「リーダーシップ(leadership)」は紛争と苦しみの種をまいており、力がより平等に分配される、多極秩序(multipolar order)の方が世界はより良くなるという主張を正当化するものだ。あなたはその主張に同意しないかもしれないが、何百万人もの人々が既に同意しており、私たちの現在の政策により、その主張ははるかに信憑性があるように見えてしまっている。一方、中国の指導者たちは、ネタニヤフから屈辱を受ける特権を得るためにイスラエルに飛んで時間を無駄にしてはいない。彼らは関係を修復し、経済関係を育み、ロシアとの「無制限の(no limits)」パートナーシップを強化することに忙殺されている。彼らは、ガザ地区での戦争が、アメリカにとって高くつく混乱になったことに、毎日感謝しているに違いない。

最後に、リアリストたちはイスラエルの行動に反対している。なぜなら、それがアメリカにまったく戦略的利益(strategic benefits)をもたらさないからだ。その価値は誇張されることもあったが、冷戦中はイスラエルが中東におけるソ連の影響に対する有効なチェック機能を果たしたともっともらしく主張できた。しかし、冷戦は30年以上前に終結しており、今日、イスラエルへの無条件の支援は、アメリカ人の安全を高めていない。イスラエル擁護者の中には、イスラエルがイランに対する強力な防壁であり、テロに対する貴重なパートナーであると主張する者もいる。彼らが言及していないのは、アメリカとイスラエルの関係が、アメリカがイランとの関係を悪化させている理由の1つであり、アルカイダのようなテロリスト勢力がアメリカを攻撃することを決めた理由の1つであるということだ。

明白な事実は、ガザ地区を爆撃して石器時代(Stone Age)に戻しても、アメリカ人はより安全になったり、より豊かになったりはしないということであり、それはアメリカ人が主張したい価値観とはまったく相容れない。むしろ、故オサマ・ビン・ラディンのような反米テロリストの新世代を刺激すれば、アメリカの安全はわずかに低下するかもしれない。また、この政策でイスラエルが安全になるものでもない。紛争を政治的に解決することだけが、安全をもたらすのである。

だからこそ、私のようなリアリストたちは、アメリカとイスラエルが現在行っていることに首をかしげるのだ。稀で素晴らしい状況では、国家は戦略的利益(strategic interests)と道徳的志向(moral preferences)を同時に促進する政策を追求できる。また別の場合には、両者のトレードオフに直面し、難しい選択を迫られる(通常は前者を優先する)。しかし今回の場合、アメリカは戦略的利益を積極的に損ない、罪のない人々の大量殺戮を支援している。その主な理由は、アメリカの指導者たちが紛争に関する時代遅れの見解にとらわれ、強力な利益団体に過度に従順であるためだ。良きリアリストにとっては、善良な目的なしに悪事を働くことは、最悪の罪業(sin)である。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)
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