古村治彦です。

 ウクライナ戦争が起きて以降、ヨーロッパ各国で徴兵復活の動き、女性にも徴兵を拡大する動きが出てきている。アメリカでも徴兵用の名簿に女性を載せるかどうかで共和党、民主党の間で議論が起きていることはこのブログでもご紹介した。先日、イスラエルでは、超正統派の神学校の生徒の徴兵免除が最高裁によって取り消された。徴兵の枠が拡大することになる(そこまで多い数ではないだろうが)。アジア各国では徴兵を行っている国も多い。韓国や台湾では若者たちが徴兵され、軍務に就いている。韓流スターでも徴兵で軍務に就いている様子やファンたちが集まって見送っている様子が日本でも報道されることがある。韓国や台湾の友人がいる人は、その時の話を聞いたり、「日本は徴兵がないからいいね」と言われたりしたことがある人も多いと思う。

 先進国では、いやいや徴兵された兵士よりも、志願してきた兵士の方が、意欲が高く、プロとして、長期間の訓練を行うことができ、結果として、質の良い兵士に仕立て上げることができて、結果としてその方が良いということになっていた。しかし、先進国を中心に真贋兵だけでは必要な数を充足することは出来ないので、徴兵という話になっているようだ。ドローンやロボットを使えば兵士の代替になるのではないかという話もあるが、実際には、ウクライナ戦争でも、イスラエル・ハマス紛争でも、生身の兵士が最前線で戦って、血を流している。「AIやロボットの発達で、これからなくなる職業」などという特集を雑誌やインターネットニューズサイトで見かけることがあるが、兵士という職業はまだまだなくならない。

下記論稿でユニークな視点は、「世界中で増大する政治的分極化(political polarization)を含む社会の分断(societal divisions)に対抗する手段」として徴兵を捉えていることだ。徴兵という共通の、そして厳しい体験をすることで、人々の間の分断を小さくしようという試みもあるようだ。これは、国民の均一化(homogenization)を図るということにつながる。社会統合のための徴兵という共通体験というのは、国外の脅威に備えるというよりも、国内の脅威、すなわち、国家分裂や内戦を回避するということである。そう考えると、グローバリズムによって、「同じ国家に住む国民」というナショナリズムに基づいたアイデンティティが薄まってきたが、それに対する揺り戻しとして、ナショナリズムに基づいたアイデンティティの復活のための動きとしての徴兵復活の議論が起きているという捉え方もできる。先進諸国は「内憂(国家分裂や内戦)外患(国家間戦争の可能性)」の二正面に備えなければならないという状態になっているようだ。

(貼り付けはじめ)

軍隊の徴兵への回帰(The Return of the Military Draft

-ウクライナとガザ地区での戦争は、テクノロジーは兵士の代わりになれないということを示している。その反対はない。

ラファエル・S・コーエン筆

2024年7月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/07/10/military-draft-conscription-soldiers-technology-nato-europe-russia-ukraine/?tpcc=recirc_trending062921

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カリフォルニア州サンディエゴ近郊のキャンプ・ペンドルトンで16マイルの行軍訓練を完了するアメリカ海兵隊リマ中隊の新兵たち(2021年4月22日)
ここ数十年もの間、ますます稀になっていたのだが、軍隊への徴兵は再び議論の対象となっている。

長年にわたり義務(mandatory conscription)徴兵を実施してきたイスラエルは現在、ハマスやヒズボラとの戦争が続いていることを受け、予備役兵役(reservists)の期間を延長するか否かを議論しており、間もなく徴兵の対象を現在免除されている超正統派の人々(ultra-Orthodox population)にも拡大する可能性がある。イスラエル最高裁判所は先月、超正統派の徴兵免除を無効とする判決を下した。ウクライナは5月、ロシアの侵略との戦いを続ける中で兵力を補充するために徴兵枠を拡大した。ロシアも同様に、ウクライナでの死傷者の増加に対応して兵役義務を拡大している。バルト三国では、ロシアのウクライナ攻撃を受けて、ラトビアが2023年に徴兵を再導入した。リトアニアは、2014年のロシアによるウクライナ侵攻に対抗して、2015年にそれを再導入した。エストニアは決してそれを廃止しなかった。そして世界の裏側、台湾は最近、ますます脅威となる中国の脅威に対応して徴兵期間を延長した。

直接の最前線にいない国でも、徴兵の再制定や既存の徴兵の拡大について話し合っている。 今年1月、イギリス参謀総長パトリック・サンダースは、イギリスが大規模な戦争に陥った場合には、「市民軍(citizen army)」が必要になると発言し、政治的な波紋を呼んだ。この発言は徴兵の再導入を求めるものだと多くの非地人に解釈されている。デンマークは3月、女性を含む徴兵を拡大し、服務期間を延長する計画を発表した。そして5月、ドイツのボリス・ピストリウス国防相は「ドイツには何らかの徴兵が必要であると確信している」と述べた。この問題は、若い女性に選抜兵役(selective service)への登録を義務付けるかどうかをめぐる最近の議会の議論で浮き彫りになっているように、米国でもある程度の注目を集めている。

アメリカなどで徴兵が国民的議論に再び浮上していることは、数十年来の傾向の逆転を示している。アメリカ軍は昨年、志願兵だけで構成される軍(all-volunteer force)の発足から半世紀を祝った。イギリスでは、最後の徴兵は更に遡って、1963年までで、それ以降は動員解除(demobilized)となった。世界中の多くの国では、形式上は何らかの形で徴兵が定められてきたが、それを強制しないことを選択した。遠征戦争(expeditionary wars)が多かった限定的な戦争の時代、ほとんどの西側民主政治体制国家のコンセンサスは、戦闘は少数のプロに任せるのが最善であるということであったようだ。

徴兵の復活は、主に機械の台頭が中心となってきた戦争の未来についての支配的な概念とは全く対照的である。このヴィジョンでは、人工知能の進歩と陸、海、空での無人システム(unmanned systems)の普及により、軍隊はより少ない技術的知識を持つ軍人の数でやっていけるようになるだろう。この予測は現実になったが、それはテクノロジーに適用される場合に限られ、人員配置のニーズには適用されない。ウクライナとガザ地区での戦争が証明しているように、あらゆるタイプの無人機は現代の戦場の必需品であり、フーシ派のような第二級のテロ組織でさえ、これらの兵器の独自ヴァージョンを展開している。しかし、戦争はより無人システムに移行したかもしれないが、この傾向は兵士の需要を減少させていない。

この一見逆説的な事実には、少なくとも2つの説明が存在する。まず、あらゆる技術的変化にもかかわらず、現代の戦争は依然として人的資源を大量に必要としていることが明らかになった。新しいテクノロジーは兵士の必要性を排除するのではなく、サイバー、宇宙、その他の専門知識に対する、以前は存在しなかった新たな需要を生み出した。そして、ウクライナとガザ地区での戦闘でより明らかになったように、歩兵や戦闘機パイロットなど、より伝統的な軍事専門職は、現在は無人機や自律システムによって強化されているとしても、依然として多くの需要がある。最後に、ロシア・ウクライナ戦争でこれまでに数十万人が死傷したことが示すように、戦争は時が経つにつれて血塗られたものになり、その隊列を埋めるための新兵に対する厳しい需要が生じている。

志願者だけを基本にして大規模な人員を動員することは困難だ。冷戦後のヨーロッパ社会では兵役がますます異質な概念となりつつあり、ヨーロッパ各国の軍隊は長年にわたり人材不足に悩まされてきた。アメリカは歴史的に良好な状態にあるが、陸軍、空軍、海軍は2023会計年度の新兵員数が約4万1000人も不足している。一方、新たな奨励金とより控えめな目標の組み合わせにより、一部の軍部門は2024年度の必要な新兵募集を達成できるだろう。アメリカ軍は、パイロットやサイバーオペレーターなど、市場性の高いスキルを備えた職業を採用し、維持することが難しいことは認識している。これらは全て、重大な死傷者を出した大規模な戦争がなかった時代の文脈での話だ。紛争が継続すれば、軍役の魅力はさらに薄れる可能性が高い。

もちろん、徴兵に頼ることには重大な運用上の欠点が存在する。多くの場合、本人の意志に反して人々に奉仕を強制しているため、徴兵では士気(morale)の問題が発生する可能性がある。その結果、命が危険に晒されるような場合に、規律(discipline)の問題が発生する可能性がある。そして、たとえそれがこうした問題につながらないとしても、多数の市民兵士に依存するということは、徴兵された軍隊が職業軍(professional forces)とは異なる戦い方をすることを意味する。徴兵期間の長さに応じて、徴兵される者は、専門の者よりも制服を着ている期間が短いため、訓練の内容が少ない、もしくは異なる場合がある。徴兵された軍隊は専門の軍隊よりも規模が大きいことが多いため、兵士1人あたりに同じ量のリソースを投資できない場合がある。それはひいては、徴兵された軍隊の訓練、装備、配備の能力に影響を与える。そして、社会の一部の人たちに自分たちの意志に反して戦うことを強制することの政治的コストはより高くなるため、それらを使用するかどうか、そしてどこで使用するかについての決定も異なるものになる可能性がある。

純粋な作戦上のニーズを超えて、徴兵は別の理由で復活しつつある。それは、世界中で増大する政治的分極化(political polarization)を含む社会の分断(societal divisions)に対抗する手段であるということである。この傾向には、ポピュリズム運動の台頭からソーシャルメディアの成長、そして人間の本質そのものに至るまで、理由はたくさんある。原因が何であれ、複数の専門家は、極端な分極化が放置されると、内戦(civil war)を含む社会の亀裂(societal rifts)につながる可能性があると懸念している。

少数だが増加している観察者たちにとって、徴兵を含む国家奉仕が解決策を提供しているように見える。彼らの見解では、このようなサーヴィスは障壁を取り除き、共通の経験を提供し、最終的にはより一貫した社会を構築する。具体的な特典は国によって異なる。例えば、イスラエルは、超正統派の徴兵免除を解除することで、この閉鎖的だが成長を続ける社会層(insular but growing segment of society)をより広範な国民に統合するのに役立つことを期待している。対照的に、デンマークの女性を含む徴兵の拡大は、デンマークの首相によって「男女間の完全な平等(full equality between the sexes)」に向けた動きとして組み立てられた。しかし、その核心では、これらの議論は同じテーマのヴァリエーションであり、兵役によって競争の場が平準化(playing field)され、社会が更に統合されるというものだ。

徴兵が団結を促進するというこの主張が実際に真実であるかどうかについては、未解決の疑問が残っている。アメリカでは、ヴェトナム戦争中の徴兵が大規模な抗議活動を煽り、徴兵の不均一な実施方法が社会の亀裂を緩和するどころか悪化させた。ヴェトナムはアメリカの歴史の中で一度限りの例(one-off example)ではない。南北戦争中の1863年にニューヨークで起きた徴兵暴動(the 1863 New York draft riots)は、今でもアメリカ史上で最も死者数が多く、最も破壊的なものの1つとなっている。また、徴兵で部門分けが行われる傾向はアメリカに限定されない。2023年10月7日のずっと前から、表向きは統合的な徴兵にもかかわらず、イスラエルは政治的、宗教的分裂に伴う抗議活動に混乱していた。ウクライナでも、戦争が長引くにつれて徴兵忌避(draft dodging)の重大な事件が報告されている。

徴兵の復活が社会にとって前向きな展開であるかどうかに関係なく、徴兵が復活しつつあるという事実は、戦争の将来についての考え方について重要な教訓を私たちに教えてくれるはずだ。戦争を研究する私たちは、戦争を行う人々よりも戦争の技術に、不変のものよりも新しいものに焦点を当てることがあまりにも多い。そして実際、クロスボウ、マスケット銃、ドローンなど、戦争の戦い方を根底から覆すテクノロジーは存在してきた。

しかし、徴兵など一部の議論は古くから続けられてきた。軍隊は常に、小規模な専門化された軍隊とより大きな大衆的な軍隊の間で揺れ動いてきた。そして、私たちは主に機械によって行われる無血戦争(bloodless wars)にますます進むという考えに夢中になっているかもしれないが、戦場の現実はその逆であることが証明されている。おそらく、専門化(professionalization)の一時期を経て、最近の徴兵の上昇を捉える最良の方法は、戦争においては、物事が変われば変わるほど、変わらないということだろう。

※ラファエル・S・コーエン:ランド研究所クン軍プロジェクト戦略・ドクトリンプログラム部長。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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