古村治彦です。

 アメリカ外交政策に関しては大きな潮流として、リアリズム(Realism)と介入主義(Interventionism)があるということを私は拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所)で書いた。冷戦期、アメリカは自由主義陣営を率い、ソヴィエト連邦率いる共産主義陣営と対峙した。アメリカは、「近代化(modernization)」=「民主化(democratization)」を掲げて、世界各国に介入した。しかし、一方で、アメリカに役立つ国であれば、非民主的な王制や独裁制をも容認するという二枚舌外交を行った。アメリカの介入主義政策は、共和党であればネオコン派、民主党であれば人道的介入主義派が担ってきた。このことも何度も書いてきた。こうした2つの勢力が外交を担った際には、外国への侵攻を行い、結果としてそれが泥沼化して、アメリカの利益が損なわれることになった。そうした外交政策の反発が、「アメリカ・ファースト(America First、アメリカ国内問題解決優先主義)」として噴き出したのだ。

 アメリカのリアリズム外交を代表するのがヘンリー・キッシンジャーとジェイムズ・ベイカーの両元国務長官だ。ベイカーはジョージ・HW・ブッシュ政権下で、第一次湾岸戦争に対処したが、政権内のネオコン派の突き上げ(イラクのクウェートからの撤退だけでなく、イラク国内に侵攻しサダム・フセイン政権を打倒せよ)にも屈せず、イラク国内への侵攻を許可しなかった。アメリカの国益と中東地域の不安定化を考慮しての行動だった。キッシンジャーについてはこれまでもこのブログで何回もご紹介しているが、世界大戦を引き起こさないという考えの下で、アメリカと中国、ロシアを繋ぐ役割を死去するまで続けた。

 今回ご紹介する論稿は、スティーヴン・M・ウォルトの論稿である。ウォルトは、外交の範囲を限定することが重要だと述べている。

スティーヴン・M・ウォルトは、ガザ地区への救援物資輸送のために、アメリカが設置した仮設桟橋の崩壊を例に挙げて、アメリカ政府の人道的な対応の不足を批判している。桟橋の建設はイスラエルの国境を開かせるための象徴的なPR活動に過ぎず、実際には援助物資はわずかトラック60台分しか運ばれなかった。

このことはアメリカの外交政策の信頼性について諸外国に疑問を持たせることになるとウォルトは指摘している。アメリカの外交専門家は信頼性の維持にこだわり、戦略的には重要でない紛争に資源を投入することを正当化している。しかし、過去の失敗から学ばず、アメリカが些細な利害のために無駄な戦争に巻き込まれることが続いている。信頼性を重視するあまり、必要な能力(機能)を無視する傾向があり、その結果、国際的な影響力を失っている。

例えば、ベルリン空輸のように成功することもあるが、アメリカの外交機関が高尚な役割を果たせるか疑問が持たれている。中東和平プロセスや911テロ事件の背景にある政策の誤り、イラク侵攻、金融危機など、アメリカの外交政策の失敗の歴史は長い。

アメリカの外交政策の誤りを修正するには時間がかかり、構造的な問題が存在する。これに対処するためには、アメリカがより抑制的な外交政策を採用し、解決すべき問題の数を減らす必要がある。そうすれば、外交機関が任務を果たしやすくなり、故障率も低下するだろう。アメリカの外交政策がより有能であれば、国際社会からの信頼を得ることができる。これはウィン・ウィンの関係を築くことにつながるとウォルトは結論づけている。

 ウォルトがこのような論稿を書くということは、現在のジョー・バイデン民主党政権の外交は守備範囲を広げ過ぎているということだ。アメリカの実力を超えているということだ。アメリカ国民は、ウクライナ戦争やイスラエル・ハマス紛争への援助に疲れている。「いつまで続けねばならないのか」「もう十分にしてやったではないか」という考えを持つ国民が多い。民主党の大統領選挙候補者に強引に内定してもらったカマラ・ハリス副大統領は、バイデン政権の政策の継続を訴えるだろう。それはつまり、いつまでも戦争を続けるということだ。アメリカがそれで国力を落として衰退していくのは勝手だが、それで世界の不安定さが続くというのは許せないことだ。

(貼り付けはじめ)

バイデン大統領の外交政策の問題点は機能不全であることだ(Biden’s Foreign-Policy Problem Is Incompetence

-アメリカ軍のガザ地区における桟橋の崩壊は、より大きな問題の象徴である。The U.S. military’s collapsed pier in Gaza is symbolic of a much bigger issue.

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年6月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/04/biden-foreign-policy-gaza-ukraine-foreign-policy-incompetence/

ニューヨーク・メッツが球団創設最初のシーズンで、40勝120敗という滑稽なほど無能な成績を残したとき、ケーシー・ステンゲル監督がこう嘆いたのは有名な話だ。「ここにいる誰もこのゲームをプレーできないのか?」 ガザ地区に救援物資を運ぶためにアメリカが建設した仮設桟橋(temporary pier)が崩壊したことを知ったとき、私はステンゲルの言葉を思い出した。ソーシャルメディア上の批評家たちがすぐに指摘したように、この言葉はガザ紛争全体に対するジョー・バイデン政権の対応を象徴する適切な比喩となった。この桟橋の建設は、本質的には、イスラエルに国境を開かせ、人為的な人道的大惨事(man-made humanitarian catastrophe)に直面している市民への十分な救援物資を許可することを、アメリカ政府当局者が望まなかったために行われた、高価な人目を引くための高価なPR活動(PR stunt)であった。この主に象徴的な努力は、荒波が構造物を損傷し、援助物資の輸送が中断される前に、トラック60台分の援助物資を届けることに成功した。修理は現在進行中で、少なくとも1週間はかかると伝えられている。

この残念なエピソードを、より大きな悲劇のほんの一部に過ぎないと考える人もいるかもしれないが、私はこのエピソードが、アメリカの野心と見栄(American ambitions and pretentions)について、より大きな疑問を投げかけていると思う。アメリカの外交専門家たちは「信頼性(credibility)」の維持に執着しているが、それは戦略的に重要でない紛争や公約に莫大な資源を費やすことを正当化するためである。1960年代から1970年代にかけて、アメリカの指導者たちは、南ヴェトナムが本質的な戦略的価値の低いマイナーな国であることを理解していた。しかし、勝利に至らずに撤退すれば、アメリカの持続力に疑念が生じ、信頼性が損なわれ、世界中の同盟国が共産ブロック(communist bloc)に再編成されることになると主張した。もちろん、こうした悲観的な予測は何一つ実現しなかったが、アメリカが些細な利害のために勝ち目のない戦争に巻き込まれるたびに、同じような単純化された議論が繰り返される。

信頼性をやみくもに崇拝する(fetishize)人は、通常、必要なのは十分な決意だけであると考えている。彼らは、アメリカが十分に努力すれば、設定した目標は全て達成できると信じている。彼らは、「勝利はそのコースを維持することだけの問題に過ぎない」と考えるだけだ。しかし、信頼性と影響力を単に意志の問題として考えると、おそらくより重要な別の重要な要素が見落すことになる。その重要な要素とは機能(competence)だ。

アメリカの外交関係を運営する責任を負う主要機関なら、国家安全保障会議、国務省、国防総省、財務省、商務省。各情報・諜報機関、連邦議会の各種委員会はあまり有能ではないとなったら、世界中の人々が私たちからの助言を受け入れ、私たちの指導に従うよう説得することなどできない。例えば、1948年のベルリン空輸(Berlin airlift)は、西側の決意の明らかなシグナルだったが、もしアメリカとそのパートナーが複雑な兵站努力(complicated logistical effort)を成功裏に遂行できなかったら、それは裏目に出ていただろう。地中海に余分な桟橋を建設し、約9日後にそれを崩壊させることは、この時とは、かなり異なるメッセージを送ることになる。

残念ながら、アメリカの外交政策担当の各機関が、アメリカの指導者たちが担ってきた高尚なグローバルな役割を果たせるかどうか、疑問を持たれる理由は十分にある。悲惨なパフォーマンスのリストは、さらに長くなっている。二国家による解決をもたらすと言われた中東の「和平プロセス(peace process)」が、今日の「一国家の現実(one-state reality)」を生み出したこと、1999年のコソヴォをめぐる回避可能であったが複雑に進んでしまった戦争(ベオグラードの中国大使館への誤爆を含む)、911同時多発テロを可能にした政策の誤りと情報諜報の失敗、2003年のイラク侵攻の悲惨な決定、2008年の金融危機、米海軍の一連のスキャンダルと海上衝突事故、審査に合格できず、ほとんど即戦力にならない航空機を購入するなど肥大化した国防調達プロセス(bloated defense procurement process)、制限のないNATO拡大が最終的にどこにつながるかを予想できなかったこと、経済制裁がロシア経済をすぐに崩壊させるというむなしい期待をしたこと、あるいは、2023年夏のウクライナの反攻が失敗する運命にあるという豊富な兆候を見過ごした希望的な観測に基づいた応援などが挙げられる。アフガニスタンやリビアへの介入に失敗したことも加えれば、「屋上屋を重ねているだけだ」と非難されるだろうし、アメリカ連邦下院が道化と化したことについて、私は何も言うつもりはない。

私は、この厄介な羅列を暗唱することに喜びを感じている訳ではないし、ワシントンが時折、重要なことを正しく行ってきたことも承知している。クリントン政権は1999年のカルギル危機(カシミール地方をめぐるインドとパキスタンの紛争)の際、南アジアでの大規模な戦争を回避する手助けをした。ブッシュ政権が始めたアメリカ大統領エイズ救済緊急計画(PEPFARプログラム)は、誰が見ても人道的に大きな成功を収めた。オバマ政権は、イスラム国の短期間の「カリフ体制(caliphate)」を倒した地元勢力を支援した。バイデン政権は、ロシアのウクライナ侵攻への初期対応を効果的に調整した。アメリカの情報諜報機関は、2014年にロシアがクリミアを掌握することを予測できなかったが、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領が2022年に何を準備しているかを正しく予見していた。

従って、私は、アメリカ政府が全てにおいて失敗していると言っているのではない。

しかし、全体的な記録は残念なもので、私はその理由を解明するため、何年も費やしてきた(そして1冊の本にまとめた)。問題の一部は、アメリカの力と思考能力の低さの、通常では考えられない組み合わせ(unusual combination of power and impunity)にあるのではないかと私は疑っている。アメリカは非常に強力であると同時に、他の地域では考えられないほどに安全であるため、その指導者たちはありとあらゆる愚かなことを行い、その結果のほとんどで、他国に苦しませることができる。また、アメリカが世界中の数十の問題に積極的に対処しようとしない場合、世界全体が崩壊すると考える、愚かな傾向もあり、それが常に米政府に対処しきれないほどの責任を引き受けさせることになる。議題が詰め込まれすぎると、優先順位を設定することが難しくなり、全ての問題に適切な注意を払うことができなくなる。避けられない結果として、多くのことがうまくいかなかったり、まったくうまくいかなかったりすることが起きる。

更に悪いことに、歴代の米大統領は能力よりも忠誠を重視しており、外交政策の専門家たち(エスタブリッシュメント)は、誤りを犯しやすい自分たちの仲間の責任を追及することを嫌がる。その結果、専門家たちは失敗し、破産したアイデアの提供者たちが、自分たちの信用されていない意見を再利用してくれる、シンクタンクやメディアをいつでも見つけることができる。政府高官が辞任することは原則的にめったにない(ただし、中堅官僚が辞任する場合もある)。辞任すると、将来の政権で、高位の職の提供を受ける可能性が低くなるからである。結局のところ、上級補佐官が自分の正しいと思うことを擁護することだけしか行わず、結果として、指導者を当惑させることになる。そんな補佐官を指導者は望むだろうか? また、ホワイトハウスが交代するたびに大規模な人事異動が発生し、新しく任命された担当者が多くやって来るが、彼らはまず連邦上院の人事承認を待ってから何をすべきかを考えなければならない。この状況は、アップル社やGM社が4年ごとに経営陣を無作為に交代させ、会社が順調に機能することを期待するようなものだ。アメリカが適度な外交政策目標を掲げていれば、こうしたことは問題にならないかもしれない。しかし、実際には、ワシントンは、不適格な多数のアマチュアは言うに及ばず、短期労働者を集めて、刻々と変化する組織で、全世界を管理しようとしている。

私は分かっている。毎日出勤して国のために最善を尽くしている何千人もの献身的な政府職員、つまり、上司がレールを逸脱すると公式の「反対意見チャンネル(dissent channels)」を苦情で埋める彼らに対して、私は公平ではない。官僚利権の固定化はそれ自体で問題を引き起こす可能性があるが、外交政策に関する場合は、「魚は頭から腐る(the fish is rotting mostly from the head)」ということになる。これら全てのことにより、アメリカの外交政策を担当する諸機関は、現実的な目標を設定することよりも、崇高な理想を宣言することのほうが得意となり、結果として、その目標を達成することはできないことになる。

しかし、「ドナルド・トランプを再選すればこの問題は解決する」と思うなら、もう一度考えてみて欲しい。トランプ大統領の最初の任期は、外交政策における失敗が延々と続き、アメリカの安全や繁栄を更に高めることはできなかったが、前任者であるバラク・オバマ大統領が世界の多くの地域で享受してきた尊敬と善意を台無しにすることには成功した。トランプが貿易戦争を始めるという不手際をしてしまったために、アメリカ国内で何十万もの雇用が奪われ、定められた目的(アメリカの貿易赤字の削減)を達成することができなかった。トランプ大統領は、自身が全く理解できなかった合意を破棄し、国家安全保障問題担当大統領補佐官4人、国防長官2人、国務長官2人、そして前例のない数のホワイトハウス職員を1期のうちで使い尽くした。明らかに、トランプの元上級補佐官の何人かは、現在彼を最も著名に批判している人物の中に含まれている。

そして忘れてはいけないのは、この大統領のビジネスキャリアは、詐欺、終わりのない訴訟、そして度重なる破産に満ちていたということだ。日光と漂白剤が新型コロナウイルスを治すかもしれないと考えた人でもある。北朝鮮の金正恩に一対一の首脳会談の機会を与え、その対価として、何もないもの(bupkis)を手に入れた人物、そして、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と当時の中米ロシア大使セルゲイ・キスリャクがホワイトハウス訪問中に、誤って機密情報を漏洩した人物である。外交政策に関するトランプの見解は、ワシントン政治内部(inside-the-Beltway)の正統性からの新たな脱却だったかもしれないが、パリ気候協定からの離脱、イラン核合意の破棄、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱といった彼の最も重大な行動は即座に、アメリカの重要な利益に対する永続的な損害をもたらした。そして、そう、トランプはまた、2020年の選挙を覆そうとして、もし大統領執務室で二度目のチャンスを得られたら、憲法の一部を廃止することについても語っている。トランプの2期目がアメリカ外交政策の更なる成功をもたらすと考えている人は、トランプがどれほど無能な指導者だったかに注目していないか、単に忘れているかのどちらかだ。

アメリカの外交政策の仕組みは誤りを犯しやすい構造になっている。これを修正するには長い時間がかかるだろうし、そもそもそれが可能なのかと時々疑問に思う。これが、私がより抑制的な外交政策を支持する理由の1つであり、アメリカの世界への関与を維持しながら、アメリカ政府が解決する義務があると感じている問題、課題、責任の数を減らす政策となる。もしアメリカがやるべきことを減らそうとするならば、我が国の外交政策担当の諸機関がその任務を遂行できるかもしれない。故障率は現在よりも低くなり、国内ではより多くのリソースを問題解決に充てることができるようになるだろう。アメリカがそれほど野心的ではないが、より有能な外交政策を採用すれば、世界中の一部の主要国は喜ぶだろうし、それによってアメリカの残りの約束がより信頼できるものになるだろう。私にとっては、それがウィン・ウィン(win-win)の関係になるように思えてならない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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(終わり)

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