古村治彦です。
アメリカとイスラエルの関係については、非常に複雑になっている。アメリカはこれまでキスラエルを強力に支援してきた。しかし、現在のイスラエルのガザ地区攻撃、戦争拡大路線に対して、アメリカのジョー・バイデン政権は抑制的な態度を取っている。これは、アメリカとイスラエルとの関係の変異店になるのではないかという主張がある。バイデン政権はまた、特に司法改革や人種差別的な政治に対しては懸念を抱いてきた。
下記論稿によれば、今後の関係には深刻な疑問が残り、両国関係は共通の価値観、利益、国内の支持基盤の3つの柱に依存しているが、これらの柱は今まで以上にストレスに晒されている。アメリカの政治情勢も変化しており、共和党と民主党の間で、イスラエル支援に対する意見の対立が激化している。大きく分ければ、共和党はイスラエル支援に前向きで、民主党はイスラエル支援に抑制的となっている。
バイデン政権は、ベンヤミン・ネタニヤフ政権に対して、ガザ地区における人道危機に対処するように求めており、これに対して、ネタニヤフ首相は反対姿勢を取っている。更に、レバノンのヒズボラとの対立を激化させ、ハマスとヒズボラを支援するイランとの全面戦争にまで進みかねないところにまで、状況を悪化させている。対イスラエル問題は、アメリカ大統領選挙においても重要な争点となる。
アメリカからの支援がなければ、イスラエルという国家は成り立っていかない。現在の状況は、イスラエルの国益にとってマイナスになっている。アメリカにとっても、イスラエルへの支援継続は、世界政治において、アメリカの国益にマイナスになる状況になっている。アメリカとイスラエル両国が自国の利益について、再検討し、利益の最大化を図ることが、停戦に向けた第一歩ということになるだろう。
(貼り付けはじめ)
亀裂か分断か?(Rift or Rupture?)
-ガザ地区での戦争がアメリカとイスラエルの関係に与えているもの。
アーロン・デイヴィッド・ミラー、ダニエル・C・カーツナー筆
2024年5月17日
『フォーリン・ポリシー』誌
写真
ガザ地区でのイスラエルの停戦を求める、ワシントンのナショナル・モールでパレスティナ旗を振る親パレスティナデモ参加者(2023年10月21日)。
最近、アメリカとイスラエルの関係における現在の緊張をどう説明すればよいかと人々に質問されることが多くなかった。私たちは簡単な答えを見つけるのに苦労している。私たちは以前にこのようなことを経験したことがあるだろうか?
アメリカの軍事援助を一時停止または停止した前例はあるだろうか? そして私たちは、根本的な変化を予感させる関係における何らかの変曲点(inflection point)の頂点に立っているのだろうか?
私たちは長年にわたり、アメリカとイスラエルの関係において、浮き沈みを何度も見てきた。過去に深刻な緊張があった後でも、常に変化よりも継続が優先されているように思われる。時間が経つにつれて、緊張は和らぎ、物事は多かれ少なかれ、伝統的なアメリカとイスラエルの「オペレーティングシステム(operating system)」と呼ばれる通常の過程に戻った。アメリカでは、これは大統領のペルソナ(persona、穏健な親イスラエルから強力な親イスラエルまで)、国内政治(そうしたシンパシーを強く反映し、強化する)、政権の政策(地域の課題を管理するために、イスラエルと対立するよりもむしろ協力することを求めることが多い)によって、緊張の緩和が推進された。
しかし最近、私たちは何か変化を感じている。そして、それが困難な道にあるのか、それとも変革、変曲点なのかは分からない。私たちは現在の状況から重大な結論を出すことには慎重だ。実際、一般に、変曲点という概念は誇張される可能性がある。新型コロナウイルス感染症は私たちの世界を一変させるだろう。ロシアのウクライナ侵攻は国際政治を根本的かつ取り返しのつかないほど変えたと言われている。そして、10月7日は、何らかの形で中東の政治を変えるものだと見る人もいる。しかし、ヘッドラインが必ずしもトレンドラインにつながるとは限らない。そして、変革をもたらすと思われる出来事が、必ずしも変革をもたらすとは限らない。
確かに、イスラエルとバイデン政権の間の現在の緊張は前例のない状況で起こっている。しかし、それらは一時的なものである可能性もある。一方で、アメリカとイスラエルの関係を持続的な違反や亀裂から守る伝統的な運営システムは、10月7日以来機能し続けている。ジョー・バイデン米大統領は例外なく、米国史上どの大統領よりもイスラエルとイスラエルの戦争目的を支持してきた。イランが350発以上の無人機、巡航ミサイル、弾道ミサイルでイスラエルを攻撃した際に、地域的な防空ネットワークを構築し、それを証明した。バイデンとイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は定期的に会談し、公の場での衝突の可能性を最小限に抑え、関係を軌道に乗せようとしている。バイデンは、このようなイスラエル支持を維持するために、民主党内を含む国内からの政治的反発を受け続けてきたが、11月の大統領選挙で票を失う可能性がある犠牲を払ってでも、怯むことはなかった。
一方で、今後のアメリカとイスラエルの関係に深刻な疑問を投げかける勢力も存在する。その関係は、共通の価値観(shared values)、共通の利益(common interests)、そして国内の強力な支持基盤(strong base of domestic support)という、密接に結びついた3つの重要な柱の上に成り立っている。今日、これらの柱のそれぞれは、おそらく関係の歴史の他の時期よりも大きなストレスに直面している。
第一に、バイデン政権とほとんどのアメリカ人は、イスラエル史上最も極端な右翼政府と価値観を共有していない。10月7日以前でさえ、ネタニヤフ政権はアメリカの価値観や利益に反する政策、特にイスラエルの司法、特に最高裁判所の権威を厳しく制限する取り組みと見られる司法改革提案(judicial overhaul proposal)を推進していた。バイデン政権とイスラエルの連合の野心は、イスラエルの民主政治体制への取り組みを損なうように見えた。
同時に、ネタニヤフ首相は、人種差別主義者でユダヤ人至上主義者を自称する2人の過激派閣僚に広範な権限を与えた。彼らは、ヨルダン川西岸で併合政策(annexationist policies)を推進し、パレスティナ人に二流市民としての政治生活、亡命、紛争への黙認の選択を強制する意図を公然と宣言した。この取り組みは、権力を維持するために過激派に対応する必要があり、収賄、詐欺、背任(bribery, fraud, and breach of trust)の罪で裁判を抱えるネタニヤフ首相によって歓迎された。
第二に、過去数十年にわたり、アメリカの政治情勢も同様に変化している。イスラエルに対する超党派の支持は依然強いが、どのようなイスラエルを支援すべきかについて共和党と民主党の意見はこれまで以上に分かれている。共和党は概して、「イスラエルは間違いなど犯さない」と主張する政党(Israel-can-do-no-wrong party)になった。ドナルド・トランプとその影響下にある共和党は、ネタニヤフ首相とその右派政府との絆を強めている。民主党は分裂を深めており、パレスティナ人の扱いについて、ネタニヤフ政権に制約とコストを課したいと考えている進歩主義派が少数だがその数を増やしている。10年前には、クリス・マーフィー連邦上院議員、クリス・クーンズ連邦上院議員、クリス・ヴァン・ホーレン連邦上院議員がその方針を公に主張することは想像もできなかっただろう。しかし、今日はそうではない。そして、連邦議会におけるイスラエルの最大の支持者であるチャック・シューマー連邦上院多数党(民主党)院内総務は、3月の臨時演説で、新たな選挙と新政府の樹立をイスラエルに対して要求した。アメリカ政治の他の多くの問題と同様に、イスラエルは意見を二分する問題となっており、バイデン政権は、イスラエルへの無条件支援を望む共和党と、支援に条件付きを求める多くの民主党との間で、狭い線の上を歩むことになっている。
第三に、これまでのアラブ・イスラエル戦争とは異なり、そして私たちの持つ直観に反するが、イスラエル・ハマス戦争の独特の性格がアメリカ国内の分断を深めている。抗議活動参加者たちは、ハマスのイスラエルに対する残忍な攻撃、性的暴行、人質(そのほとんどが民間人)のことを忘れているように見える。抗議活動参加者たちは、イスラエルの対応だけに焦点を当てている。バイデン政権にとって、これは問題となっている。なぜなら、バイデン政権は、ハマスについて10月7日のような攻撃を繰り返すことができないようにして、ガザ地区の統治を再開できないところまで弱体化させるという考えを支持しているが、数千人の死者を出したイスラエルの戦略と戦術には強く反対しているからである。イスラエルの戦略と戦術によって、パレスティナ民間人の犠牲者が増え、ガザ地区のインフラの大部分の破壊が行われた。その結果、人道上の悪夢が生じた。イスラエルはこれを予期して対処すべきだったが、イスラエルは、後手、後手に回り、効果のない対応を繰り返してしまった。あれから7カ月が経ち、人道危機は深まるばかりだ。ガザ地区の230万人の大多数が避難を余儀なくされたため、彼らは適切な避難所、水、食料、医療にアクセスできなくなった。
イスラエルの政策と行動の結果、3つの問題がイスラエルとバイデン政権を分断した。それは、民間人の犠牲を最小限に抑える軍事作戦をどのように実施するか、人道的災害を防ぐために十分な支援を確実に提供するにはどのようにしたらよいか、そして戦闘が終わった翌日に何が起こるのか、ということだ。イスラエルは、バイデン政権の計画提示要請に対して不十分な回答を示した。実際、ネタニヤフ首相はラファ、あるいはガザ地区全体に対するいかなる現実的な計画にも反対の姿勢を強めており、ネタニヤフ首相自身の国防大臣やイスラエル軍内の一部が、政府の政策の方向転換に反対する声を上げるよう促している。
おそらく、アメリカとイスラエルのオペレーティングシステムは、特に選挙の年には、関係に継続的な断絶や亀裂を生じさせることなく、これらの問題を管理または解決する方法を見つけるだろう。しかし、そのトレンドラインはどんなものになるだろうか? イスラエルがハマスとの戦争を遂行した結果、アメリカ国内でも国際的にも、イスラエルのイメージとブランドはどの程度根本的に損なわれたのだろうか?
両国を結びつける真の接着剤である価値観の親和性は持続するだろうか? 今や打ち砕かれた共通の価値観に対する認識は、イスラエル政治の右傾化、ヨルダン川西岸と東エルサレムの、イスラエルによる57年間の占領、そして民主政治体制の中で暮らすイスラエルの200万人のパレスティナ国民の多くの不満を乗り越えて生き残ることができるだろうか?
彼らにユダヤ国民と同じ扱いを与えることになるだろうか? アメリカの政治環境は、イスラエルがアメリカの国益にとって利益ではなく、むしろ負担となるのではないかと疑問を抱く若いアメリカ人が増えるまでに進化するだろうか?
良い答えなど出てこない様々な疑問ばかりだ。そして、アメリカ・イスラエル関係の軌跡を確実かつ正確に予測する方法はない。どの要素も決定的なものにはなりえないが、ひとつだけはっきりしていることがある。それは、イスラエル人は、占領の意味を直視しない中で、自分たちにふさわしい平和と安全を手に入れられると信じるというやり方を止める必要があり、パレスティナ人は、イスラエルに苦痛を与えることで、自分たちにふさわしい自決と独立が達成されると信じるのを止める必要がある。10月7日のトラウマと痛み、そして果てしなく続くと思われるイスラエルとハマスの戦争が、彼らにこのような認識をもたらすかどうかはまだ分からない。
※アーロン・デイヴィッド・ミラー:カーネギー国際平和財団上級研究員。歴代の民主党、共和党の各政権で米国務省中東担当分析官、交渉官を務めた。著書に『偉大さの周縁:アメリカはどうしてもう一人の偉大な大統領を持てない(持つことを望まない)のか』がある。ツイッターアカウント:@aarondmiller2
※ダニエル・C・カーツナー:元駐エジプト米大使、元駐イスラエル大使。プリンストン大学公共国際問題研究大学院で外交と紛争解決について教鞭を執る。
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