古村治彦です。
中東情勢は悪化の一途を辿っている。2023年10月にハマスの攻撃に対する報復として、イスラエル軍はガザ地区での軍事作戦を開始し、民間人に多くの死傷者が出ている。ハマスの人質となった人々の救出は思うように進んでいない。更には、イスラエルは、イランの首都テヘランでハマスの最高指導者を殺害し、イランから報復攻撃を受けている。加えて、レバノンの武装組織ヒズボラに対しても軍事作戦を開始している。ヒズボラのメンバーたちが使用していたポケベルに爆発物を仕込み、一斉に爆発して大きな被害を出したニューズは日本でも多く報道された。このポケベルはイスラエルから輸出されたものということが後に分かった。私は「イスラエルからの輸出された製品というのは怖いな。何が仕込まれているか分からないではないか」という感想を持った。イスラエルは危険な国という印象を多くの人々に与えたと思う。
このポケベルでの攻撃は衝撃的であったが、それ以外にも、イスラエルはレバノン、ヒズボラへの攻勢を強めている。ガザ地区に続いて、2つ目の戦線を開いたと言える。イスラエルの軍事的な優位性もあり、二正面作戦はまだ耐えられるだろうが、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は戦争の段階を引き上げようとしている。イエメンのフーシ派の空額も実施している。ハマス、ヒズボラ、フーシ派は全部がイランからの支援を受けている。ネタニヤフ率いるイスラエルはイランとの全面戦争(all-out war)へと進む危険性を持っている。
そうなると、中東全体が戦争地域ということになり、石油の供給に大きな影響が出る。そうなれば、世界経済は大きなダメージを受ける。もっと怖いのは、核戦争勃発の可能性だ。核戦争に対する禁忌が破られるとなると、核兵器使用のハードルが大きく下がることになる。それはまた世界を危機に晒すことになる。戦争の段階を引き上げるべきではない。
アメリカは現在、大統領選挙期間中で、しかも現職のジョー・バイデン大統領が再選を目指さないということになり、レイムダック化(無力化)している。そうした中で、イスラエルのネタニヤフ首相は暴走している。アメリカはコントロールする力を失っている。イスラエルへの資金援助や武器援助をアメリカが止めない限り、イスラエルはこうした状況を変えることはしないだろう。
イスラエルのネタニヤフ首相は家族ぐるみでお金に関するスキャンダルを抱えており、平和に復帰すれば、家族ごと有罪判決を受け、牢獄行きとなる。そのために、戦争状態を続けたいということはあるだろう。しかし、それは世界に追って大きな不幸である。
(貼り付けはじめ)
ヒズボラのポケベル爆発は皆が考える以上に危険だ(The Hezbollah Pager
Explosions Are More Dangerous Than You Think)
-人権問題を超えて、今回の攻撃は中東におけるアメリカとイスラエルの政策にも疑問を投げかけるものとなった。
ハワード・フレンチ
2024年9月24日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2024/09/24/hezbollah-pager-explosions-lebanon-israel-middle-east-iran-us-policy/
9月18日、ベイルート南部の地区で、前日にレバノン全土で発生したポケベルの爆発で死亡した人々の葬儀でヒズボラの旗を手にする男性。
先週、イスラエルがレバノンとシリアでヒズボラを攻撃した際、地政学的にどのような立場にあったにせよ、専門家の多くが最初に抱いたのは畏怖の感情(awe)だった。
敵対国も友好国も関係なく、作戦をやり遂げるために必要な、イスラエル情報・諜報機関の洗練の度合いに驚嘆した。イスラエルのために働く諜報員たちは、ポケベルやトランシーバーの中に微量の爆発物を仕込む仕事に重視し、これを宿敵の手にうまく渡さなければならなかった。この偉業は、1967年の六日間戦争でのアラブ連合軍に対する勝利、1976年の民間旅客機ハイジャック事件で捕らえられた人質を解放するためのウガンダのエンテベ空港攻撃、1990年代後半にさかのぼる過激派グループを攻撃するためのブービートラップ付き携帯電話の使用など、イスラエルの技術的・作戦的洗練の長い歴史を思い起こさせるものとなった。
今回の攻撃は、技術的なレヴェルでは素晴らしいものだったが、多くの批判も当然出ている。1つには、民間人に壊滅的な打撃を与えたことだ。ポケベルはヒズボラ・メンバーのものだったが、爆発によって少なくとも40人が死亡、3000人以上が負傷し、多くの非戦闘員が危険に晒される結果となった。もし運転手や親族がポケベルを携帯していたら、車の乗客や食卓にいた子どもたちはどうなっていただろうか?
ヴィデオ映像によれば、市場や街角で爆発したものもあった。
政治理論家のマイケル・ウォルツァーは、『ニューヨーク・タイムズ』紙の論説ページで、攻撃の瞬間には積極的に戦争に従事していなかったヒズボラの工作員を標的にした爆発は、「戦争犯罪の可能性が非常に高い(very likely war crimes)」と書いている。レオン・パネッタ元国防長官・元CIA長官でさえも、今回の攻撃がテロの一形態であることに「疑問の余地はないと考える(think
there’s any question)」と述べている。
イスラエルへのロケット弾発射に使われる南部のヒズボラ陣地に対するエスカレートする空からの攻撃など、レバノンにおけるイスラエルの最近の戦術に対する私の懸念は、更にその先にある。ポケベルを爆発させての攻撃という衝撃が落ち着いた後、アナリストたちはイスラエルがこの攻撃で戦略的利益を得たかどうかを問い始めた。その答えは依然として不明だ。イスラエルがガザ地区でハマスに対して1年近く攻撃を続けている間、同じことが言える。そこでは、基本的な疑問が未解決のままである。その疑問とは、イスラエルは軍事作戦が終了した後に、一体何をするのか?
この2つのキャンペーンを結びつけているのは、イスラエルは軍事的優位の政策と無制限の攻撃作戦によって長期的な安全保障を達成できるという、ベンヤミン・ネタニヤフ首相の明白な見解である。アメリカは、イスラエルに対する弱腰の批判とほぼ無制限の武器供給を通じて、この立場を黙認している。ガザ地区が示し始めたように、またレバノンとの戦争が起これば、それが再確認される可能性が高いように、このアプローチは、イスラエルが平和を達成するために、巻き添え被害の有無にかかわらず「悪者たち(bad guys)」を十分に殺せるという妄信的な希望をもって、近隣の土地を焦土と化すことに等しい。
このアプローチの1つ目の、明確な欠陥は、各軍事作戦が新たな敵を生み出し、イスラエルと近隣諸国との間の敵意を永続させる危険性があることだ。例えば、ガザ地区におけるイスラエルの完全な軍事支配は、パレスチナ人の政治的および領土的権利の差し迫った必要性に対処するものではない。実際、この地域の絶望と支配は、将来、イスラエルに対する新たな形態の抵抗を確実にするだろう。同様に、イスラエルのレバノン南部への侵攻は、両国間に敵対の新たな境地を生み出すだけであり、この作戦による死と破壊により、より多くのレバノン人がイスラエルに対する暴力的報復の方向に駆り立てられるのと同じくらい確実である。
しかし、私が最も懸念しているのは、それだけにとどまらず、イスラエルと同様に、アメリカの戦略にも関わることだ。ここ数十年、同盟関係にある両国は、イランを中東における暴力と不安定化の究極の原因とみなしてきた。しかし、イランに核兵器開発を断念させるための国際的な努力を除いては、イスラエルはともかく、アメリカはイランに政治的に関与する創造性をほとんど示してこなかった。イランと政治的な関わりを持つための非現実的な前提条件、たとえばテヘランがまず自国の政治体制を変えることや、イスラエルの生存権を認めることなどは、その数には入らない。
中東地域の問題を特に扱いにくくしているのは、イスラエルとイランの両方が古い文明的および宗教的アイデンティティの化身であるということだ。西側諸国の多くは、イスラエルが聖書の国であり、多くのユダヤ人がシオニズムへの正当な支持を、部分的には古代イスラエルの存在に基づいており、その物語が旧約聖書の本質を構成していることを知っている。専門家の領域以外ではあまり理解されていないが、イランははるか古代に遡る言語、文化、アイデンティティ、帝国、国家の伝統の継承者でもある。
ガザ地区での終わりの見えない暴力に対し、多くの人々が怒りの声を上げている。ユダヤ人もパレスチナ人も、現在紛争で分断されている土地から消えることはないということを認識することに代わるものはない。つまり、永続的な和平には、この深い溝を隔てた両側の人々、ひいては国家が、互いのニーズと利益を認識することが必要である。
これはイランにも同じことが言える。人口9000万人の国を悪者扱いする政策では、イランを消し去ることはできない。実際、西側諸国がイランの孤立化を図ろうとしても、イランはヒズボラやイエメンのフーシ派といった非国家的な代理勢力を増強し、ロシアや中国との関係を深めようとする決意を強めるだけである。
イスラエルと同様、西側諸国でも中心的な関心事となっているのは、イランの核開発計画であり、テヘランが長引く研究・精製段階を脱し、すぐにでも使用可能な核兵器を開発するのではないかという見通しである。残念ながら、核保有国の核軍縮に関する世界的な実績は極めて芳しくない。ウクライナは、ソ連時代から受け継いだ核兵器を廃棄した唯一の例であり、このことが悲しいことに、ウラジーミル・プーティンのロシアに対して脆弱な国になってしまった。例えば、北朝鮮をめぐる欧米諸国とアジアの長年にわたる外交は、平壌に核プログラムを放棄するよう説得することができなかった。好むと好まざるとにかかわらず(私は好まないが)、それは北朝鮮の体制がその将来について根本的な不安を感じているからだ。更に言えば、イスラエルは公式には認めていないが、何十年もの間、核兵器を保有していることは広く知られている。
イランの核開発プログラムに対する懸念は、テヘランともっと話をし、この地域の敵対関係を和らげる方法を模索する妨げになるはずはない。イスラエルを含む中東地域の広範な安全保障を確保する唯一の方法は、何らかの形でイランを西側諸国とより深く接触させ、最終的にはイスラエルやサウジアラビアなどの他国、パレスチナ人とともに、イランの安全保障上の懸念に対処することである。欧米諸国がそうするのは早ければ早いほどよい。
※ハワード・W・フレンチ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授。長年にわたり海外特派員を務めた。最新作に黒人として生まれて:アフリカ、アフリカの人々、そして近代世界の形成、1471年から第二次世界大戦まで(Born in Blackness: Africa, Africans and the Making of the Modern
World, 1471 to the Second World War.)』がある。ツイッターアカウント:@hofrench
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