古村治彦です。
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 アメリカは20世紀後半から現在まで、世界の超大国であり、世界を支配する覇権国家だ。それに対して、中国が台頭し、経済力で肉薄し、遠くない将来には逆転するという見通しになっている。米中間で覇権国の地位の交代が起きる。私たちは覇権国交代、西洋支配の終焉という世界の大きな構造転換に備えなければならない。

 アメリカとしてはもちろんのことだが、中国の強大化を阻止したい。覇権国であり続けたい。しかし、状況はかなり厳しい。アメリカが選択できる手段は限られている。「中国への投資と中国からの投資を制限し、中国からの輸入を制限する」ことで中国の経済成長を抑えようというのは、アメリカの経済成長にも影響を与える。アメリカ国内への投資を増やすということにつながるかと言えばそうではない。アメリカは既に工業生産力は減退し、世界の5%に過ぎない。アメリカはもうものつくりの国ではない。そうした中で、中国との経済的な関係を遮断する(デカップリング)は自殺行為である。

 ドナルド・トランプ政権の通商担当者たちは中国との貿易戦争を開始したが、彼らの短慮だったと言わざるを得ない。中国からの投資をアメリカに引き寄せねばならないところで、そのようなことをしてしまったのだから。そして、ジョー・バイデン政権もトランプ政権と同様の、中国製品に対する高関税政策を取っている。アメリカの対中国政策は選択肢の幅が狭まっている。

 アメリカ大統領選挙が近づいている。現在のところ、ドナルド・トランプ前大統領(共和党)とカマラ・ハリス副大統領(民主党)との間で大接戦が演じられていると報じられている。大統領選挙の帰趨を決する激戦州ではトランプが支持率を挙げている状況だ。トランプが大統領に当選すれば、保護政策を実施し、鉱工業分野を復活させ、雇用を増大させようとするだろう。ドル安を誘導し、アメリカの輸出力を増大させようとするだろう。しかし、アメリカがこれから生産力の面で復活することは難しい。アメリカが対中政策において劇的に立場を良くする施策はない。これは誰が大統領になっても同じだ。大きな流れ、トレンドに逆らうことはできない。

(貼り付けはじめ)

大統領は中国に対する冷戦を主導する必要がある(The President Needs to Lead the Cold War on China

-北京の機先を制することが可能となる包括的な経済戦略。

ランディ・シュライヴァー、ダン・ブルーメンソール、ジョシュ・ヤング筆

2024年6月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/17/united-states-china-competition-biden-trade-tariffs/

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オーストラリア・キャンベラにて、李強中国首相がオーストラリア国会議事堂の外で儀仗兵を視察する際の銃礼(2024年6月17日)。

アメリカは、中華人民共和国と冷戦中であり、勝利するためには大統領自身が主導し指揮する戦略が緊急に必要である。そのようなリーダーシップがなければ、中国に対するアメリカのアプローチは断片的で矛盾し、焦点の合っていないままになるだろう。リーダーシップの欠如は、中国共産党の習近平総書記と、習近平が2022年の第20回党大会で打ち出した、中国権力のあらゆる手段に「長期にわたる闘争(protracted struggle)」を遂行するよう指示するアプローチとは全く対照的である。言い換えれば、アメリカに対する冷戦だ。

アメリカは、中国の経済攻撃への対応において特に臆病だ。中国は数十年にわたり、「軍民融合(military-civil fusion)」戦略と「双循環(dual circulation)」戦略、つまり、国内経済成長と軍事近代化の両方に向けて国の技術力と産業力を構築する中国共産党の取り組みを通じて、地経学的影響力を構築してきた。世界のサプライチェインにおける中国政府の支配的な地位は、重要な鉱物、半導体、そして今や次世代エネルギー技術などの重要な経済要素の生産の中心に中国を置くことで、各国を人質に取ろうとする政策の意図的な結果でもある。

中国共産党は、一帯一路構想(Belt and Road Initiative)を通じて、地政学的な影響力を獲得し、東南アジア、アフリカ、中南米、中東、さらにはヨーロッパの一部に至るまで、北京の意向に沿った新たな経済ネットワークの基礎を築いた。

逆に、アメリカは制裁を除けば、外交政策や国家安全保障上の利益を促進するために経済力を活用することにあまり積極的ではなかった。対外経済政策における数十年にわたる怠慢に対処しようとするワシントンの今日の取り組みは、依然として不定期で一貫性がない。財務省の中国軍産複合体企業(Chinese Military-Industrial Complex CompanyCMIC)リストや司法省の現在の破壊的技術攻撃部隊など、米政府機関による中国の経済犯罪の取り締まりや先端技術の輸出の厳格化などの試みはこれまでにもいくつかあったが、大統領自らが主導権を握り、中国の悪性の経済的影響力を弱体化させる戦略を指示しない限り、こうした取り組みは不十分なままだろう。

ジョー・バイデン大統領か、新たに就任するドナルド・トランプ大統領(来年1月に政権に返り咲く可能性がある共和党の候補者)のいずれかが、中国政策を掌握する上でロナルド・レーガン元大統領の例を参考にすべきだ。レーガン政権の1期目において、ソ連の脅威が彼の最優先課題の1つであったことは、一連の国家安全保障決定指令(National Security Decision DirectivesNSDD)で示された明確かつ実行可能な指針からも明らかである。

ソヴィエト連邦に対する冷戦に勝利するという意図は、「アメリカの国家安全保障(U.S. National Security Strategy)」と題された NSDD32号文書を含むレーガン時代の文書に反映されている。「アメリカの国家安全保障戦略」は、全ての外交政策と国家安全保障活動を米ソ対立の文脈の中で適切に位置づけたものだ。更に言えば、レーガン政権は「アメリカの対ソヴィエト連邦関係(U.S. Relations with the USSR)」と題したNSDD75号文書も発表した。「アメリカの対ソヴィエト連邦関係」では、アメリカが政治、軍事、経済の各領域でソ連と競争し、世界的にソ連の影響力に対抗するための包括的な国家戦略にどのように取り組むかについて明確な戦略を定めた。

トランプ政権もバイデン政権も、今や戦略的競争者(strategic competitor)となった中国に対する根本的な政策転換を監督したこと、そして、中国共産党との長年にわたる無為無策な関わりからアメリカ経済を解き放つために、関税の賦課や輸出規制を始めようとしたことは、一定の評価に値する。しかし、ワシントンが中国との競争をようやく認識してから8年近くが経過し、何億ドルもの関税と一連の禁止的な輸出規制・投資規制を実施した後でも、アメリカは中国との競争に勝利するために必要な強度のレヴェルに達するのにまだ苦労している。

例えば、バイデン政権の「小さな庭、高いフェンス」という輸出規制の対象分野を限定するリスク回避のアプローチは、中国の経済的脅威の深さと広さに対処できていない。

大統領は、このような狭いアプローチを追求する代わりに、レーガンがソヴィエトに対して行ったように、この新たな冷戦を戦うために、アメリカの全ての関連政府機関に指示を出さなければならない。「アメリカ対中経済競争戦略(U.S. Economic Competition with China Strategy)」を策定するには、大統領のリーダーシップが必要である。レーガンのNSDD75号文書が軍事、経済、外交の各分野にわたる包括的な戦略的アプローチを提供したのに対し、中国の世界経済に与えている歪みは、アメリカがこの挑戦の複雑さに対処するための専用の経済戦略を持たなければならないことを要求している。「アメリカ対中経済競争戦略」は、ワシントンがどのようにアメリカ経済を守り、中国の競争力を低下させ、新たな世界経済パワーセンターを構築するかについて、明確な政策指針を示すものでなければならない。

アメリカ経済の安全確保は新しい戦略の中核でなければならない。不公正な貿易慣行、不公平な競争条件を作り出すための中国企業への大規模な補助金による非工業化、知的財産の窃盗などを通じて、北京がその経済を弱体化させることに成功していることは、トランプ、バイデン両政権と連邦議会によって既に十分に文書化されている。NSDDを通じて、大統領はその経済的侵略に対処する枠組みを提供しなければならない。新たな政策指針は、中国の対米投資およびアメリカの対中投資を制限する上で、より積極的なものでなければならない。さらに、アメリカ政府の官僚たちは、輸出管理政策、二国間貿易の範囲、中国の永続的な正常貿易関係の地位の将来について明確な指針を必要としている。

大統領は、中国とのデカップリング(decoupling)を目標とするワシントンのアプローチについて明確な指針を示さなければならない。バイデン政権の輸出管理政策は、現在、半導体と人工知能を可能にするチップに焦点を絞っており、良いスタートを切っている。しかし、もっと多くのことが必要だ。新しい経済競争戦略は将来を見据えたものであるべきで、アメリカの全体的な健康、繁栄、安全保障の基礎となる、より多くのセクターを特定すべきである。考慮すべきセクターには、製薬、バイオテクノロジー、情報・データ技術、重要素材などがある。

これらの選ばれたセクターについてのアプローチは、中国経済から完全に切り離されるべきだ。アメリカは、これらの分野の重要なコンポーネントや投入物を中国に依存してはいけない。バイデンはこの問題で主導権を握り、政府が計画を確実に実行するようにしなければならない。さもなければ政治的、官僚的な抵抗の餌食になる危険がある。このような力強い大統領のリーダーシップは実現していない。

例えば、バイデンの対外投資に関する大統領令では、どの「国家安全保障技術(national security technologies)」が新たな投資規制の対象となるべきかを特定する責任を財務省に負わせた。このアプローチのリスクは、経済的・政治的影響を考えると、財務省が政権の狭義の「小さな庭、高いフェンス」のアプローチを超えることをためらうことである。その代わりに大統領は、既に存在する「重要・新興技術リスト(Critical and Emerging Technologies List)」を活用し、より明確な規定を設ける必要がある。このリストには、アメリカ資本を使って中国が開発することをアメリカが支援すべきではない、より強固な技術が列挙されている。

更に言えば、財務省と商務省は、中国との経済的な関わりを継続するインセンティヴを依然として持っている。これらの省庁の主な仕事は、アメリカのビジネスと世界金融の安定を促進することである。この視点は彼らのアプローチを歪め、既存の対立に勝つことよりも、健全な中国経済を可能にすることに重点を置いていることを意味する。これは近視眼的なアプローチである。新型コロナウイルス感染拡大後の環境、中国の経済成長が著しく減速する一方で、アメリカの経済成長の好調さは、アメリカが多くの人が考えているほど中国への依存度が高くないことの証拠となっている。ワシントンは、中国経済にどんな犠牲を払わせようとも、アメリカの経済を略奪から守る必要がある。

アメリカは、中国の侵略を抑止し、可能であればアメリカの利益を害する中国の能力を破壊するために、国防総省の軍事プランナーの努力と協調しながら、経済行動で攻勢をかける余裕を持っており、またそうすべきだ。

ワシントンは、アメリカの国家安全保障を損なう中国の能力を否定し、低下させるキャンペーンを行う必要である。例えば、官僚機構は、中国の軍事的近代化を助ける可能性のある全ての中国からの、および中国向けの投資、輸出、データの転送を特別に対象とする指導を拡大する必要がある。さらに、経済的措置は軍事的抑止力を高めることができる。中国が台湾、フィリピン、その他の地域で攻撃的であることを考えると、アメリカは経済的「フェイル・ポイント(fail points)」やその他の金融ターゲットを特定し、中国共産党にコストを課し、アメリカやその同盟国に対して軍事攻撃を仕掛ける自信を失わせるような経済的抑止計画が必要である。

中国共産党に代わって活動する中国の悪質な行為者たちをターゲットにするために法制度を動員することも、大統領が義務づけるべき行動方針である。フェンタニルの生産、知的財産の窃盗、制裁忌避、人権侵害、その他の犯罪行為における中国共産党の役割に対する責任を追及するために、アメリカの現行法制度を最大限に活用すべきである。

これは、ウイグル強制労働防止法、多国籍犯罪組織制裁規則、財務省のCMICリストの拡大と施行、ByteDanceが売却しない場合のTikTokの禁止に続き、既に導入されている政策ツールを活用することで実現できるだろう。トランプ大統領がファーウェイに対して行ったように、他の悪者に対する法律も同様だ。中国共産党に対するこれほど大規模なアメリカ大​​統領の法的戦略はまだ実行されておらず、間違いなく中国最大の国有企業や金融機関の一部に対する行動が必要となるが、その措置は中国政府の激しい反応を招くことになるだろう。

アメリカ大統領は、ワシントンの国際的な同盟諸国やパートナーとの協力が、新たな世界経済力の中心を作るために不可欠であることを明確にしなければならない。バイデンは、貿易協定、援助、開発手段といった対外経済工作を優先的に活用し、中国との対立においてワシントンを有利にするために必要な国々との経済的関与を最大化するよう、政権に指示する必要がある。

このアプローチの核となる原則には、中国共産党の経済的影響力の更なる拡大を防ぐこと、志を同じくする国々とのアメリカの関与を優先すること、アメリカが得意とする公正な経済的・法的枠組みを推進すること、中国の経済的影響力に対抗するために緊密な同盟国と提携することなどが含まれるべきである。

相互に繁栄を分かち合うことが、成功する世界経済戦略の基盤であり、志を同じくする国同士の強固な貿易関係ほど、それをもたらすものはない。その結果、アメリカ大統領はアメリカ通商代表部に権限を与え、アメリカがデカップリングの努力を達成し、かつ世界経済のパートナーとして選ばれる地位を強化するのに役立つ二国間貿易協定を追求する必要がある。政治資金がより包括的な貿易協定を追求できるようになるまで、重要鉱物、半導体、製薬など分野別の貿易協定から始めることもできる。

同様に、アメリカ大統領は開発と金融援助を担当し、アメリカ国際開発庁(United States Agency for International Development)と開発金融公社(Development Finance Corporation)に対し、米中対立の鍵となる被援助諸国に戦略的価値を提供するプロジェクトを支援するよう指示し、アメリカがその投資から利益を得られるようにする必要がある。

アメリカは最初の冷戦に勝利した。しかし、そのためには強力な軍事力とともに積極的な経済行動が必要だった。アメリカが中国共産党の世界的な経済的野心を否定し、今後数十年にわたってアメリカンドリームと世界経済の自由を再び確保しようとするならば、今こそ大統領のリーダーシップが必要である。

※ランディ・シュライヴァー:プロジェクト2049研究所理事長。2018年1月8日から2019年12月31日までインド太平洋安全保障問題担当国防次官補を務めた。

※ダン・ブルーメンソール:アメリカ・エンタープライズ研究所アジア研究部門上級研究員兼部長。著書に『中国の悪夢:衰退する国家の偉大な野心(The China Nightmare: The Grand Ambitions of a Decaying State)』がある。

※ジョシュ・ヤング:プロジェクト2049研究所上級部長。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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