古村治彦です。
第二次トランプ政権の顔ぶれでサプライズ人事となったのはピート・ヘグセスの国防長官指名だ。ヘグセスは、軍歴はあるが、これまで政府で仕事をしたことがない。2003年に名門プリンストン大学を卒業後、軍隊に入り、イラクとアフガニスタンに派遣された経験を持つ。2014年からはフォックス・ニューズの司会者として活躍していた。国防長官にはこれまで、連邦議員やアメリカ軍の最高幹部の出身者が多く起用されてきたこともあり、ヘグセスの抜擢は驚きをもって迎えられた。
ピート・ヘグセス
ヘグセスはオバマ政権下で解禁となった、女性の戦闘行為への参加やエリート部隊(陸軍であればグリーンベレー、海軍であればネイヴィーシールズ)の参加を再び禁止することを主張している。また、軍の多様性などを進めているとして、アメリカ軍制服組の最高地位にあるC・Q・ブラウン統合参謀本部議長や、他の将軍たちの解任を主張している。佐藤優先生との対談『世界覇権国交代劇の真相』の中でも触れたが、共和党側の人々は、「多様性、公平性、包摂性(diversity, equity and inclusion、DEI)」(この言葉は覚えておいて損はない)「意識高い系(woke)」という言葉を使って、行き過ぎた平等や多様性の追求を批判している。ヘグセスはしがらみがない中で、アメリカ軍の「リベラル化」を阻止しようとするだろう。
クリスティ・ノーム
国土安全保障長官に指名されたのは、サウスダコタ州知事クリスティ・ノームだ。ノームは今回の大統領選挙で、トランプの副大統領候補として名前が挙がっていたが、自伝の中で、「しつけの出来ない」犬を殺処分したことを告白したことで、批判が集まり、副大統領候補への起用は見送られた。しかし、トランプ政権ができれば入閣するだろうと見られていた。今回、トランプ政権にとって重要政策である国境問題も担当する国土安全保障長官に起用された。ノーム自身が不法移民に対して厳しい姿勢を取ることで知られ、それから全国的な知名度を上げていった。第二次トランプ政権では、「国境専門官(border czar)」であるトム・ホーマン、政策担当大統領次席補佐官スティーヴン・ミラーと協力して、不法移民壮観に取り組むことになる。不法移民対策は治安対策や麻薬対策の一環として捉えられている。更には、対テロ対策という側面も強調されることだろう。ノームはサウスダコタ州の州議会議員や州知事を務めた経験しかなく、国政や中央政府での経験はない。
今回、ヘグセスが国防長官、ノームが国土安全保障長官に指名されたが、両者ともに中央政府との「しがらみ」がない「アマチュア(素人)」である。組織内の人事改革や風土改革を行うための人事ということになる。かなりの抵抗も予想されることから、こうした人々がどれだけ在任できるかが注目される。
更に言えば、ヘグセスとノームの起用は、「世界各地に展開・駐留しているアメリカ軍の一部をアメリカ国内に帰国させる。帰国したアメリカ軍部隊は国境警備と不法移民の大規模な強制送還業務に従事する」という目論見があるのではないかと考えている。トランプの「アメリカ・ファースト」「アイソレイショニズム」は国内問題解決を優先する。そして、トランプの発言で「NATO離脱」というものがある。「NATO離脱」とはヨーロッパに駐留させているアメリカ軍を転進もしくは撤退させるということだ。一部をアメリカ国内に戻し、国境警備に当たらせるというのは荒唐無稽な話ではない。ノーム知事として、サウスダコタ州兵を南部国境に送ったことがある。「アメリカ・ファースト」を敷衍すると、アメリカ軍の南部国境への展開ということは十分に考えられる。トランプ大統領はアメリカに立て籠もるという大戦力を採用しようとしている。
(貼り付けはじめ)
トランプが国防長官に指名したピート・ヘグセスについて知っておくべき5つのポイント(5
things to know about Pete Hegseth, Trump’s Pentagon nominee)
アシュレイ・フィールズ筆
2024年11月13日
『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/policy/defense/4988962-fox-news-host-nominated-defense-secretary/
ドナルド・トランプ次期大統領は、フォックス・ニューズの司会者ピート・ヘグセスを国防長官に指名する意向を表明し、常識外れの選択をした。
これは驚くべき選択で、早くも波紋を呼んでいる。それは、国防総省を率いるなら、もっと経験豊富な候補者が選ばれると多くの人が予想していたからだ。
ヘグセスは、軍における 「意識の高さ(wokeness)」に激しく反対しており、戦闘任務に女性がつくことの禁止や、統合参謀本部議長C・Q・ブラウン将軍を解任することを提案している。
連邦上院で人事承認されれば、ヘグセスは1月にバイデン大統領とともに退任するロイド・オースティン国防長官の後任となる。
彼の指名について知っておくべきポイントは以下の通りだ。
(1)軍務と退役軍人擁護の記録(Record of military service
and veterans’ advocacy)
ヘグセスは2002年から2021年まで陸軍州兵の歩兵将校だった。陸軍州兵の記録によると、2003年にプリンストン大学を卒業後、2004年から2005年までグアンタナモ湾、2005年から2006年までイラク、2011年から2012年までアフガニスタンに派遣された。
彼の軍務に対して与えられた褒章は、ブロンズスター勲章2個、陸軍栄誉勲章2個、銅功星付き国土防衛従軍勲章、熟練歩兵および戦闘歩兵のバッジがある。
ヘグセスはまた、非営利団体「ヴェッツ・フォ・フリーダム(Vets for
Freedom)」の上級部長や、退役軍人ケアの民営化を提唱する、コーク兄弟が支援する保守派退役軍人擁護団体「コンサーンド・ヴェテランズ・フォ・アメリカ(Concerned Veterans for America)」のCEOも務めた。
ヘグセスは一度も政府で仕事をしたことがない。彼は2012年にミネソタ州選出の連邦上院議員選挙に立候補したが落選し、トランプ第一次政権の退役軍人長官のポスト就任を検討された。
(2)長きにわたってフォックス・ニューズの司会者を務めてきた(Longtime Fox
News personality)
ヘグセスは、2014年にフォックス・ニューズの常連出演者として加わり、過去10年間の大部分で「フォックス&フレンズ」週末版の共同司会者を務めてきた。
ヘグセスはフォックス・ニューズで定期的にトランプ大統領と対談し、軍における「意識の高さ(wokeness)」や多様性(diversity)への取り組みに対して激しい怒りを表してきた。
ヘグセスはまた、フォックス・ニューズの大晦日生中継番組「パトリオット・アワード」の司会も務め、フォックスの出版社から複数の本を出している。
ヘグセスはフォックス・ニューズに入社して間もなく、放送中に斧を投げつけ、陸軍士官学校(ウェストポイント)のヘルキャッツ・フィールドバンド(マーチングバンド)のドラマーであるジェフ・プロスペリーにそれが当たって負傷させた。
プロスペリーは2015年の事件について、「お粗末な判断、明らかな過失、起こるべきでなかった、避けられたはずだ。射撃や投擲をするときは、常に的の後ろに何があるのかを知ることだ。それが基本的な安全ルールだ」と述べた。
米陸軍曹長であるプロスペリーはヘグセスを訴えたと報じられているが、彼の弁護士は今週AP通信に対し、この問題は法廷外で決着がついたと語った。
(3)戦闘任務に女性がつくことの禁止を支持(Backs banning women
from combat roles)
ヘグセスは、今月ポッドキャスト「ショーン・ライアン・ショー」に出演した際、女性が戦闘任務に就くことを禁止されるべきだと述べた。
ヘグセスは「私はただ率直に、女性を戦闘任務に就けるべきではないと言っている。女性を戦闘に参加させることで、より効果的になる訳でも、より強力になる訳でも、戦闘がより複雑になる訳でもない」と述べた。
ヘグセスは続けて「私たちは皆、女性と一緒に任務に就いてきたし、彼女たちは素晴らしい。ただ、人類の歴史を見て、そのようなポジションにある男性の方がより有能であるような場所で、私たちの制度がそのようなインセンティブを与える必要がないだけだ」と述べた。
ヘグセスは「男女が一緒に兵役につくということは、状況をより複雑にする。戦闘が複雑になるということは、死傷者が増えるということだ」とポッドキャストで付け加えて述べた。
オバマ政権は女性戦闘員の禁止を全面的に解除し、陸軍レンジャー部隊や海軍特殊部隊ネイヴィーシールズを含む軍隊のほぼあらゆる役割に女性が就くことを事実上認めた。
(4)統合参謀本部議長と「意識の高い」将軍たちの解任を求める(Wants to
fire Joint Chiefs Chair and ‘woke’ generals)
また、ショーン・ライアンとのインタヴューの中で、ヘグセスはC・Q・ブラウン統合参謀本部議長や他の「意識の高い(woke)」将軍たちを「解任(fire)」する提案について概説した。
「最初に、統合参謀本部議長を解任しなければならない」と彼は述べた。
ヘグセスは、「多様性、公平性、包摂性(diversity,
equity and inclusion、DEI)」の取り組みについて触れ、「将軍でも提督でも、DEIの意識の高さに関与していた者は誰であれ、辞めなければならない。DEIとの戦争に参加するか、しないか、それで終わりだ。それが、私たちが気にする唯一のリトマス試験紙となる」と述べた。
ブラウンは昨年、マーク・ミリー前統合参謀本部議長の後任としてバイデン大統領によって任命された。通常であれば4年の任期がある。
トランプ大統領はブラウンを解任すると明言していないが、トランプの当選により国防総省内でその可能性についての不安が高まっている。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙が火曜日に報じたところによると、トランプの政権移行ティームは、署名されれば軍幹部の解雇を早める大統領令に取り組んでいる。
(5)トランプに対して戦争犯罪人たちの恩赦を求めてロビー活動を行った(Lobbied
Trump for war crimes pardons)
AP通信によると、ヘグセスは2019年に戦争犯罪で告発された複数の軍人を恩赦するようトランプに働きかけた。
フォックス・ニューズの司会者であるヘグセスは、自身の番組で恩赦を働きかけ、投獄された元軍人の親族にインタヴューした。
恩赦を受けた者の中には、アフガニスタンの爆弾製造者と疑われる人物を殺害した罪で裁判を受けることになっている元アメリカ陸軍コマンドと、3人のアフガニスタン人に発砲するよう部下に命じ、2人を殺害した罪で殺人の有罪判決を受けた元陸軍中尉が含まれている。
アメリカ自由人権協会(American Civil Liberties Union、ACLU)はこの決定を声高に批判し、恩赦は「軍事司法制度を妨害するものだ」と警告した。
ACLUのスタッフ弁護士ヌール・ザファルは「トランプ大統領の介入は、被害者や生存者の生命、法の支配、軍事司法制度を無慈悲にも軽視している」と述べた。
=====
ドナルド・トランプは国土安全保障長官にクリスティ・ノームを指名(Trump to
nominate Kristi Noem to lead Homeland Security)
レベッカ・ベイッチ筆
2024年11月12日
『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/homenews/administration/4985664-donald-trump-kristi-noem-homeland-security/
ドナルド・トランプ次期大統領は水曜日、サウスダコタ州知事クリスティ・ノーム(共和党)を国土安全保障省(Department of Homeland Security、DHS)を率いる長官に選ぶと発表した。
この件に詳しいある関係者は火曜日の早い段階で、本誌に対してこのニューズの信ぴょう性を認めた。トランプはその日の遅くに声明の中で公式に認めた。
トランプは声明の中で次のように述べている。「クリスティは国境の安全保障について強い立場を取ってきた。彼女は“国境専門官(border czar)”であるトム・ホーマンと緊密に協力して職務を遂行し、アメリカの国土を私たちの敵たちから守り、安全にすることを確実に遂行するだろう」。
ノーム知事は以前、トランプ大統領の副大統領候補として名前が挙がっていたが、「しつけのできない(untrainable)」犬を殺してしまったという内容を自伝の中で発表したことで、その検討は頓挫した。
その代わり、ノーム知事は、テロの脅威からアメリカを守り、国境を守り、米移民法の施行を任務とする広大な政府機関を率いるよう抜擢された。トランプ大統領はまた、国土安全保障省に「アメリカ史上最大規模の国外追放作戦(largest deportation operation in American history)」を実行するよう命じた。
ノームの指名は、移民政策で強硬路線を取るというトランプ大統領の意向を示す最新の兆候であり、トランプ大統領はアメリカ史上最大の強制送還を行うとしている。
ノームが人事承認されれば、トランプが政策担当次席補佐官に抜擢したスティーヴン・ミラーと緊密に連携することになる。ミラーは、第一次トランプ政権でにおいて、最も厳しい移民政策の多くの形成に貢献した。
トランプ大統領はまた、トム・ホーマンを自身の「国境専門官」に選び、第一次トランプ政権下で早期に児童分離を提唱していた人物を再び歓迎し、トランプ政権の次期移民計画について議論する中で、最近「家族は一緒に国外追放できる(families can be deported together)」と発言した。
ノーム氏には国家安全保障分野での経験はほとんどないが、サウスダコタ州兵をアメリカ・メキシコ国境に派遣し、移民問題では声を上げてきた。
ノームはバイデン大統領が就任した直後の2021年、ソーシャル・プラットフォーム「X」に「サウスダコタ州は、バイデン政権が移転させたい不法移民を受け入れるつもりはない。不法移民へのメッセージ、それは、アメリカ人になったら電話をして欲しい、ということだ」と書いた。
彼女はまた、連邦議員在職中にトランプのイスラム教徒渡航禁止令を支持し、「テロ支配地域からの難民(refugees from terrorist-held areas)」の受け入れを一時停止することを支持した。
ノームは2017年、「難民、特にテロの温床地域からの難民を審査する能力について大統領の懸念を共有する。少なくとも政権がそれを認定するまでは、テロリスト支配地域からの難民の受け入れを一時停止することを支持する。もちろん、亡命希望者はアメリカにとって安全上の脅威ではない」と述べた。
ノームは第一次トランプ政権で、内務長官の候補者としても名前が挙がっていた。
ノームはこの時に「私はサウスダコタ州知事であることを愛しているし、トランプ大統領は、私ができる限り彼を助けることを知っている」と語った。
ノームはトランプの選挙運動に定期的に参加して登壇してきた。その中には、参加者に複数の医療緊急事態が発生したため、音楽鑑賞セッションとなったあるイヴェントも含まれている。
国土安全保障省は公共の安全にかかわる政府機関をいくつも抱えている。移民に関する任務以外にも、シークレットサーヴィス(Secret Service)、運輸保安庁(Transportation
Security Agency)、米連邦緊急事態管理庁(Federal Emergency
Management Agency)が国土安全保障省に属している。
国土安全保障省にはサイバーセキュリティ・社会基盤安全保障庁(Cybersecurity
and Infrastructure Security Agency)も属している。この政府機関は各企業がサイバー攻撃を受けること、物理的な社会資本に対する攻撃を防ぐように支援することを任務としている。
本誌はトランプ選対にコメントを求めた。
(貼り付け終わり)
(終わり)

ビッグテック5社を解体せよ
コメント