古村治彦です。
アメリカ大統領選挙でドナルド・トランプが当選した。トランプ政権下、アメリカのトランプ、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領、中国の習近平国家主席との間で「ヤルタ2.0」体制が構築されて、三国協商(Triple Entente)が構築された。今回、トランプ大統領が大統領に復帰するということになり、「ヤルタ3.0」体制となる可能性が高まっている。
習近平は「最高指導者(国家主席・中国共産党中央委員会総書記、中央軍事委員会主席)は2期10年(1期の任期は5年)で退く(新たな体制を作る)」という不文律を撤廃して、3期目を務めている(2022年から)。こうなると、習近平はこの3期目の5年間で退くのか、4期目を目指すのかということを考えると、やはり、後継者が誰になるか、後継者がしっかり決まらねば退くことは難しいだろう。今のところ、習近平の後継者というのは明確に決まっていないようだ。
元オーストラリアの首相で政治学者でもあるケヴィン・ラッドの論稿によると、習近平国家主席が退陣した後、中国の長期的なイデオロギーの方向性については、習近平の後継者が彼のイデオロギーを引き継ぐか、あるいはその理念が衰退するかが鍵となる。習近平の「マルクス主義的ナショナリズム」は政治的には左傾化し、外交的には右傾化するが、忠誠を誓う若い世代がより過激化する可能性もある。一方で、習近平思想は過去の毛沢東主義のように衰退する可能性もあるということだ。つまり、誰になるかは分からないが、習近平に忠誠心を持っている人物になるということだ。
現在の中国共産党中央委員会中央政治局常務委員の7名(チャイナセヴン)の中に「後継者」になりそうな人物はいない。生年で言えば1960年代がその対象になりそうだが、序列第6位で、国務院筆頭副総理である丁薛祥(ていせつしょう、Ding Xuexiang、1962年-)で、彼は習近平の秘書出身で、実力者であるが、国家主席となれないだろう。また、今回の中央政治局政治委員(24名)のうち、国防・航空宇宙産業(中国語では军工航天系、jungonghangtianxi)出身者、テクノクラートたちが多くなっている。また、今回の中央政治局政治局員からは共青団が排除され、「習近平派」が多く登用されることになった。
※2022年10月30日 中国共産党第20回党大会人事について
https://suinikki.blog.jp/archives/86741740.html
※2022年09月15日 第20回中国共産党大会のキーワードは「宇宙クラブ」
https://suinikki.blog.jp/archives/86587517.html
今回の第二次トランプ政権の人事を見てもそうだが、「忠誠心」が重要なキーワードになっている。そして、習近平にしても、トランプにしても、自身の唱えた「マルクス主義的ナショナリズム」「中国式社会主義」(習近平)、「アメリカ・ファースト」「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again、MAGA)」(トランプ)の後継者を作り出す、キャリアの終盤ということになるだろう。トランプの後継者としては、J・D・ヴァンス次期副大統領ということになるだろう。習近平についてはこれからということになるが、1960年代を飛ばして、一気に1970年代生まれが後継者ということになる可能性がある。
(貼り付けはじめ)
ポスト習近平の中国はどのようになるか?(What Will a Post-Xi
China Look Like?)
-習近平の長期的イデオロギー・プロジェクトの脆弱性についてケヴィン・ラッドが語る。
ケヴィン・ラッド筆
2024年10月25日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2024/10/25/china-xi-jinping-politics-domestic-foreign-policy-ideology-ccp-marxism-future/
2017年9月5日、福建省アモイで開催されたBRICS首脳会議の記者会見を終えて退席する中国の習近平国家主席
習近平国家主席が退陣した後、中国の長期的なイデオロギーの方向性はどうなるのだろうか? 習近平主席退任の可能性はすぐにはないだろう。しかし、その可能性は、私たちが真剣に考え始めなければならないほど現実的である。実際、習近平がもたらした深い構造的・文化的変化が、次世代の中国指導者の下でも持続するかどうかという核心的な問題に関わる。習近平の「マルクス主義的ナショナリズム(Marxist nationalism)」は、政治や経済では左傾化し、外交では右傾化するのが特徴だが、習近平に忠誠を誓う若い世代が習近平の旗印を引き継ぐにつれて、より過激になる可能性はあるのだろうか?
もしくは、「習近平思想(Xi Jinping Thought)」は、1976年から1978年にかけての毛沢東主義(Maoism)が、鄧小平とその後継者たちによって最終的に否定されるまでそうであったように、徐々に衰退していくのだろうか?
ポスト習近平の中国は多くの要因によって形成されるだろうが、その中でも最も重要なのはタイミングである。習近平は、自分の後を継いで党の最高指導部に就任する世代が、習近平のイデオロギー的方向性と熱意を共有できると確信できるまで、政権にとどまりたいと考えるだろう。これには問題がある。習近平は常に、腐敗(corruption)、出世主義(careerism)、イデオロギーの混乱(ideological confusion)を許してきた自分の世代とそのすぐ下の世代を非難している。だからこそ、習近平の党内改革キャンペーンは、個人的・政治的な恐怖と厳しさを植え付けるように設計されている。
習近平はおそらく、前任者の下で政治的権威のある重要な地位に就いた人物を自分の後任として信頼することには慎重であり続けるだろう。習近平はまた、その人物が習近平のイデオロギーと政治プログラムを将来にわたって継続するのに十分な個人的関与を持っているかどうかも疑ってかかるだろう。習近平の本能は、習近平の下で大学教育を受けた若手党幹部が政治的地位を得るまで政権を維持することだろう。習近平の「闘争への挑戦(dare to struggle、敢于斗争、ganyu douzheng)」への絶え間ない呼びかけは、国内の党学校ネットワーク(party school networks)を通じて行われ、特に若い幹部に焦点が当てられてきた。そうすることで、習近平は、過去に横行した物質主義とブルジョワの影響にまだ堕落していない彼らの若々しい理想主義(idealism)に訴えかけている。
しかしながら、将来の党指導部の地位を浄化するこの取り組みは、主に習近平が権力の座に就いた当時は子供だった1995年以降に生まれた幹部に依存することを意味する。しかし、2032年の第22回党大会までに「習世代(Xi’s generation)」はせいぜい37歳で、通常の状況ではかろうじて中央委員の補欠に任命される年齢に達するだろう。その後の2037年と2042年の2回の党大会では、習主席は85歳と90歳になるが、彼らは40代半ばになるだろう。この年齢は、この新興世代の若い中国国家主義者を、政治局のような実際の権威の地位に就かせるのに最適な年齢だ。つまり、このポスト「改革・開放(reform and opening)」世代を党の最高ポストに多数任命するには長い時間がかかるだろう。
習近平が信頼するイデオロギー保守派や個人的な忠誠心を持つ人々は党の上層部にいるだろうが、この若い世代は習近平が現場を離れた後の最大の希望であり、イデオロギー修正主義に対する政治的な防波堤となる。彼らは、習近平の後継者が政権から追放されないようにするために必要な、党中央指導部全体の政治的支持のバラスト(ballast of political support)を提供するだろう。したがって、習近平の任期が長ければ長いほど、習近平の後継者計画(succession plan)は長期的なイデオロギー的継続性を実現できる可能性が高くなる。
習近平以降の中国政治は、今後10年間に展開する地政学(geopolitics)と地経学(geoeconomics)の影響も受けるだろう。対外戦略上、最も重要なのは台湾の行方である。アメリカ、台湾、同盟諸国の軍事力不足、あるいはアメリカの政治的意思の失敗によって、アメリカの抑止力が失敗し、習近平が迅速かつ(比較的)無血で台湾を武力奪取すれば、中国国内政治における習近平の地位は揺るぎないものとなる。習近平は、毛沢東が達成できなかった祖国統一(reuniting the motherland)を成し遂げたことになる。そして習近平は、アジア全域、やがては世界全域でアメリカの地政学的衰退が始まる中、「中国による平和(パックス・シニカ、Pax Sinica)」の新時代という枠組みを打ち立てるだろう。台湾は、中国とより広い地域で、地政学的に重大な転換点と見なされるだろう。
国内的には、習近平が望む政治的継承とイデオロギー的遺産の継続の両方を確保するために、最大限の有利な状況が整うことになる。これとは対照的に、習近平が台湾を武力で解決しようとして軍事的に敗北した場合、習近平が退陣に追い込まれるのは間違いない。このような敗北は、習近平だけが中国を強大にしたという10年以上にわたる公式宣伝(official propaganda)の後にもたらされるものであり、最高レヴェルの国家的屈辱(national humiliation of the highest order)となる。それゆえ、最高の政治的代償を支払う必要がある。実際、政権そのものの正当性が真っ向から問われることになるだろう。
しかし、第3のシナリオは、現段階では、2020年代まで抑止力が維持され、戦争が回避されるというものである。この場合、習近平の長期的な内部後継者計画にとって、台湾はほとんど意味をなさないだろう。
同様に重要なことは、自己主張が強く現状に挑戦することで有名な習近平が最終的に台湾を武力で占領するにはリスクがまだ大きすぎると判断したとしても、その後の後継者がそうする用意があるとは考えにくいということだ。こうした状況下では、長期的な国家統一に向けた代替的な外交枠組みが、北京と台北の間の新世代の交渉で可能になるかもしれない。こうした理由から、国家統一における毛沢東の業績を超え、2049年の中華人民共和国建国100周年までにそれを達成したいという習近平の願望を考えると、習近平の在任期間は台湾をめぐる戦争の可能性に関して危険がピークに達している時期を表している可能性が高い。習政権時代に効果的な抑止力によって台湾問題を解決することは、依然として現状維持支持者にとって最も重要な戦略的課題であり、これが私の前著『避けられる戦争』の焦点だ。
習近平が最終的に退場した後の中国共産党(Chinese Communist Party、CCP)内の支配的な内部政治力学は、おそらく党自体の中にある長年にわたる自然な自己修正プロセスの一部となるだろう。中国共産党はその歴史を通じて、左派と右派、保守派と改革派、孤立主義者と国際主義者の間で揺れ動いてきた。これは「制御と解放(control and release、fangzhou)」の現象である。たとえば、1949年以降の時期には、毛沢東の左派が階級闘争(class struggle)、反地主運動(anti-landlord movement)、集団化された農業(collectivized agriculture)、国有化された産業(nationalized
industry)に重点を置いて支配的だった。これは1956年の第8回党大会まで続き、そのとき現実主義者たちは安定した経済発展、貿易、商業を促進するために党の経済的重心を再調整しようとした。毛沢東は1958年に大躍進運動(Great Leap Forward)で報復し、通常の農業生産を犠牲にして工業化を加速しようとしたため、飢餓(famine)が蔓延した。1960年代初頭には鄧小平率いる経済現実主義者が攻勢をかけ、毛沢東は文化大革命(Cultural Revolution)で反撃し、「右派」政敵(“rightist”
political opponents)を粛清し、農業と産業の集団化を強化した。これは1976年の毛沢東の死、毛沢東の左翼的誤りの正式な否定、そして鄧小平の35年に及ぶ改革開放時代の開始によって終わり、数十年ぶりに民間部門を再び受け入れた。
習近平は、中国共産党内部におけるこの長い一連の歴史的論争を、「正しい(correct)」党路線(party line)を確立するための内部弁証法的対立(internal
dialectical confrontation)、矛盾(contradiction)、闘争の必然的な産物として見ていた可能性が高い。それゆえ、彼は2012年以降、特に2017年以降、鄧小平政権時代に残された経済的・社会的不均衡を是正しようと努力している。習近平の左派イデオロギー・プロジェクトに対する政治的・経済的な機運はすでに手ごわい。しかし、毛沢東の時と同様、習近平指導者が正式に退場するまで、根本的な政治的是正(fundamental political correction)を強いるほどの勢いはないだろう。習近平は間違いなく、自分の後任がどのような暫定指導部であれ、自己修正力が働く危険性を認識しており、より若く、より理想主義的で、より民族主義的な幹部をできるだけ早い時期に党指導部に登用することに拍車をかけている。
しかし、習近平の問題は時間がないことだ。習近平の政治戦略を根付かせるには、90代まで権力を維持し、イデオロギー的に信頼できる若手幹部を十分に登用しなければならないだろう。この戦略に立ちはだかるのは、政治的惰性(political inertia)、官僚的エントロピー(bureaucratic
entropy)、そして歴史的に政治的平均に回帰する傾向にある党、これらの根源的な力である。習近平のような屈強な政治家であっても、政治的、経済的、社会的な敵対勢力との長期的な闘いに打ち勝つことは厳しい任務になる。
したがって皮肉なことに、弁証法の達人(the master dialectician)である習近平は、自らが作り出した弁証法的な力によって敗北する可能性がある。習近平が後20年以上持ちこたえられない限り、習近平が去った後、中国がイデオロギー的に極端になる可能性は低い。習近平のイデオロギー的プロジェクトが、現代中国における多くの個人の願望(individual aspirations)、社会規範(societal norms)、そして深い経済的利害(deep economic interests)に反していること、また、少なくともエリートたちの間で、中国が世界の多くからいかに孤立しているかという懸念が生じていることを考えれば、習近平以降の国も、中国現代史の過去の時代と同様、おそらく中央への修正(correction toward the center)を歓迎するだろう。
こうした理由から、より広い世界にとっての課題は、危機(crisis)、紛争(conflict,)、戦争(war)に頼ることなく、抑止力(deterrence)と外交(diplomacy)を組み合わせて習近平時代を効果的に乗り切ることだ。戦争は、その結果がどうでも、想像を絶する規模の死と破壊を生み出すだろう。また、中国、アメリカ、そして世界の政治と地政学を、予測不可能な方法で再定義することになるだろう。そして、世界は二度と同じようにはならないだろう。
※ケヴィン・ラッド:オーストラリア元首相・元外相。アジア・ソサエティ元会長、現在は駐米豪大使。オックスフォード大学で政治学博士号を取得。複数の著書を持ち、代表作に『避けられる戦争(The Avoidable War)』がある。ツイッターアカウント:@MrKRudd
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