古村治彦です。
ドナルド・トランプ次期大統領の司法長官人事は迷走した。最初に指名した、マット・ゲイツ前連邦下院議員(フロリダ州選出、共和党)は、自身の抱えるスキャンダルのために、連邦上院での人事承認が受けられないということで、指名を辞退した。トランプは、自身の顧問弁護士を務めた経験を持つ、元フロリダ州司法長官パム・ボンディを指名した。ボンディはゲイツに比べ、連邦上院での人事承認を受けられやすいということのようだ。ゲイツの指名辞退の発表があって数時間後に、ボンディの指名が発表されたということで、ゲイツの指名辞退の可能性はあらかじめ考慮され、二番手の候補だったボンディには根回しができていたということになる。ゲイツもボンディも共に、トランプの熱心な支持者で、フロリダ州を地盤としているのは重要だ。フロリダ州には、トランプの邸宅マー・ア・ラーゴがあり、トランプは登録上、フロリダ州民だ。トランプを様々な攻撃(訴訟を含む)から「守る」ということで、このような人事になったと言えるだろう。フロリダ人脈には更に、国務長官に指名されたマルコ・ルビオ連邦上院議員がいる。
パム・ボンディとドナルド・トランプ
アメリカの閣僚は、国務長官や農務長官、商務長官と訳されているが、英語で書けば、Secretary
of State、Secretary of Agriculture、Secretary of Commerceとなる。日本の財務大臣や農林水産大臣は、Minister
of Financeなどとなる。アメリカの財務省はDepartment of Financeとなるが、日本の財務省はMinistry of Financeだ。日本の場合には、立憲君主制のイギリスの影響が強いために、アメリカと違うということが考えられる。アメリカの司法長官は英語ではAttorney Generalで、Secretaryは使わない。日本に訳すと、司法長官になるが、アメリカの内閣の中でこれだけ名称が異なる。Attorney Generalは、日本語で訳すと、検事総長となる。司法長官は連邦法違反の捜査や訴追の最高責任者となる。
熱心なトランプ支持者で、トランプの担当弁護士を務めたこともあるボンディが司法長官になることで、トランプ関連の訴追は取り止めということになる。トランプに対して起こされた訴訟の内の多くは、ちょっと言いがかりではないか、わざわざ訴訟にすることはないのではないかと思われるものもあった。それを逆手に取って、トランプ側は「民主党やディープステイト側が司法を武器化(weaponization)している」という主張を展開した。それが一応収まるということになる。更に言えば、民主党に近いとされる人物たち、幹部職員クラスの更迭も行われるだろう。そして、重要なのは、司法省には反トラストを担当する部署がある。反トラストとは、現在で言えば、ビッグテックの解体ということになる。ここがどうなるかが注目される。
(貼り付けはじめ)
司法長官の検討過程からマット・ゲイツが退く(Gaetz withdraws from
attorney general consideration)
イアン・スワンソン筆
2024年11月21日
『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/homenews/administration/5002448-matt-gaetz-withdraws-attorney-general/
マット・ゲイツ前連邦下院議員(フロリダ州選出、共和党)は木曜日、ドナルド・トランプ次期大統領の司法長官候補としての検討から退くと発表した。
ゲイツはソーシャル・プラットフォーム「X」上のメッセージで、水曜日に連邦上院議員たちと「素晴らしい会合(excellent meetings)」を持ったものの、「自身の人事承認が不当にトランプ・ヴァンス政権移行期の重要な仕事の妨げになっていることは明らかだ」と述べ、撤退の決定を発表した。
ゲイツは、「不必要に長引くワシントンの乱闘に時間を費やす時間などない。そのため、私は司法長官就任の検討から撤退する」と書いた。
ゲイツは続けて「トランプ大統領の司法省は初日から準備万端でなければならない。私は、ドナルド・J・トランプが史上最も成功した大統領となるよう、引き続き全力を尽くす。トランプ大統領が私を司法省のリーダーに指名してくれたことを永遠に光栄に思うし、彼がアメリカを救うと確信している」と書いている。
つい1週間前、トランプ大統領がゲイツを司法長官に指名すると発言したが、即座に次期大統領にとって最も物議を醸す閣僚指名となった。
ゲイツは以前、未成年の女性が関与した疑惑を含む、より広範な性売買の調査の一環として司法省の調査を受けたことがある。司法省は最終的に告発を行わないことを決定し、ゲイツはいかなる不正行為も強く否定している。
ゲイツの素早い辞退は、連邦上院での人事承認に必要な票を獲得する見込みがないことを悟っていたことを示唆している。ゲイツは、連邦上院の民主党所属議員全員が彼の指名に反対し、何人かの共和党議員が指名に不快感を示していたと仮定すれば、3人の共和党議員の反対しか許されなかっただろう。
上院議員の単純過半数からの人事承認を得ることができないことがますます明らかになり、最後にゲイツは撤退を発表した。
複数の共和党所属の上院議員は、木曜日にゲイツが撤退したというニューズに安堵の表情を浮かべ、人事承認までの道のりがいかに厳しいものであったかを考えると、正しい決断であったと賞賛した。
ロジャー・ウィッカー連邦上院議員(ミシシッピ州選出、共和党)は「前向きな進展だと思う」と述べた。
シンシア・ルミス連邦上院議員(ワイオミング州選出、共和党)は、ゲイツが連邦議会で直面した深刻な「逆風(headwinds)」を考えれば、正しい決断だったと述べた。
スミス議員は、「彼は昨日、連邦上院議員たちとの会話の中で、自身の指名が不安定な状況を生み出すことになるというシグナルを受け取ったに違いない。そのことを認識し、自覚したことは素晴らしいことだ」と述べた。
彼女は、ゲイツの決断は「トランプ大統領に、司法省とその方向性を変える必要があることに、同じように粘り強く取り組む人物を選ぶ機会を与える」と述べた。
トランプ大統領は声明の中で、ゲイツの努力を高く評価すると述べた。
トランプ大統領はトゥルース・ソーシャルに「彼はとてもうまくやっていたが、同時に政権の邪魔になりたくなかったので、彼は政権をとても尊敬していた。マットには素晴らしい未来があり、私は彼が素晴らしいことをするのを見るのを楽しみにしている」と書いた。
トランプ政権移行ティームのスポークスマンのカロリン・リーヴィットは、トランプ大統領は決定次第、新たな指名を発表すると述べた。
ゲイツのアメリカの最高法執行官に抜擢されたのは意外なことであり、政権移行ティームが数多くの選択肢を検討した可能性があることを示唆している。
ゲイツは連邦下院で最も声高にトランプを支持する人物の一人で、司法省を「武器化(weaponized)」したディープステイトに関する次期大統領の主張を反映し、ジャック・スミス特別検察官によるトランプの訴追を例に挙げていた。
ゲイツの動きは、連邦下院倫理委員会がゲイツに関する数年にわたる報告書の調査結果の公表を断念した翌日のことだった。しかし、この報告書が将来的にゲイツの指名阻止をする可能性を完全に閉ざした訳ではない。倫理委員会の審議に詳しい、ある情報提供者によると、倫理委員会は党派の違いで報告書をそのまま公表することには反対票を投じたが、報告書を正式に「完成(complete)」させることには賛成票を投じたという。
倫理委員会は次回12月5日に開かれる予定である。この情報提供者によると、委員たちはその会合までに報告書が「準備完了(ready)」していることを理解しており、その時点で報告書の公開に関する再投票が行われる可能性を示唆しているという。
連邦下院全体としても、民主党所属議員2名が投票を開始しようとする動きを見せたことを受け、倫理委員会に調査結果の公表を強制するかどうかについて、感謝祭の休暇後に投票を行う予定になっている。
委員会は過去3年半にわたってゲイツを断続的に調査し、性的違法行為と違法薬物使用の疑惑を調査してきた。ゲイツはまた、不適切な贈り物を受け取り、個人的な関係にある個人に特別な特権や便宜を与え、彼の行為に対する政府の捜査を妨害しようとした疑いでも告発された。
共和党の連邦上院議員数名は、水曜と木曜の朝、ゲイツの人事指名承認公聴会での個人的苦痛を避けるため、指名を取り下げるよう内々に提案し、最終的に指名は失敗に終わるだろうと警告していた。
連邦上院司法委員会の上級委員であるジョン・コーニン連邦上院議員(テキサス州選出、共和党)は、ゲイツに対する性的不正行為と違法薬物使用の疑惑に関するFBIの調査の詳細が、人事承認過程中に公になると警告した。
コーニンは水曜日、「いずれにせよ、私たちのところにやってくる。ここに秘密はない」と記者団に語った。
そして、コーニン議員は、ゲイツの人事承認公聴会は、最高裁判事の承認手続き中に性的暴行で告発された保守派のブレット・カヴァノー判事をめぐる残酷な争いよりも、さらに厄介なものになるだろうと警告した。
ゲイツは、人事承認公聴会が非常に厄介なものになることを承知しているかと問われ、コーニン氏は「ステロイドを使ったカヴァノーのようなものだ」と述べた。
コーニンは「彼は賢い男だ。きっと彼はそれを理解していると思う」と語った。
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ドナルド・トランプ大統領が司法長官に指名したパム・ボンディについて知っておくべきこと(What to know
about Pam Bondi, Trump’s attorney general pick)
レベッカ・ベイッチ、ジャレッド・ガンス、ザック・ショーンフェルド筆
2024年11月22日
『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/regulation/court-battles/5005023-trump-appoints-bondi-doj/
ドナルド・トランプ次期大統領は、元フロリダ州司法長官のパム・ボンディを司法省(Department
of Justice、DOJ)のトップに再び自身の支持者を据えた。
木曜日にトランプがぼんでぃを指名したのは、マット・ゲイツ前連邦下院議員(フロリダ州選出、共和党)が、未成年者との性的関係疑惑に悩まされていた指名を取り下げたわずか数時間後のことだった。
ボンディの発表は多数の共和党所属の主要な連邦上院議員たちから即座に熱狂的な支持を集め、ボンディが人事承認への道が容易になる可能性があることを示した。
トランプは、トゥルース・ソーシャルへボンディの指名を発表し、その中で「あまりにも長い間、党派的な司法省が私や他の共和党員に対して武器として利用されてきた(weaponized)が、もうそのようななことはない」と書いた。
トランプ大統領が司法長官に指名した新任者について知っておくべきことを挙げていく。
(1)長年にわたるトランプとのつながり(Longtime Trump ties)
ボンディは、トランプ大統領の最初の弾劾弁護団の上級顧問であったが、その職務のためにロビイング会社バラード・パートナーズから休暇を取った。彼女はその後、フロリダのロビイストであるブライアン・バラード(2016年トランプ勝利資金調達委員会の元委員長)が設立したバラード・パートナーズに再入社した。
ボンディは現在もバラード・パートナーズのパートナーであり、そこはトランプの次期首席補佐官スージー・ワイルズが働いていた場所でもある。そこでボンディは、カタール政府のためにロビー活動を行っていた。
トランプ大統領の最初の弾劾訴追に携わっていた期間中、ボンディは、後に共和党がジョー・バイデン大統領を弾劾する際の中心となる根拠のない主張を展開し、バイデン大統領が息子のハンターと腐敗したビジネス慣行に関与していたことを証拠なしに主張した。
トランプとボンディの結びつきは、トランプが政界入りする前にまでさかのぼる。2013年、トランプはドナルド・J・トランプ財団からボンディを支援する政治委員会に2万5000ドルの寄付をした。彼女は当時、トランプ大学に対する訴訟への参加を検討していた。
ボンディは2016年以来、トランプを支持しており、彼女の出身州フロリダ州選出の連邦上院議員であるマルコ・ルビオ(フロリダ州選出、共和党)が大統領選挙に出馬していたときでさえトランプ支持を明らかにしていた。第一次トランプ政権時代、ボンディは薬物中毒とオピオイド危機に焦点を当てた大統領委員会の委員を務めた。
トランプは大統領退任直前、トランプはケネディ舞台芸術センターの理事にボンディを指名した。
ボンディはまた、アメリカ・ファースト政策研究所(America First
Policy Institute)でも働いている。この非営利団体は、多くの第一次政権時の高官で構成され、現在就任中の大統領に沿った政策を提唱している。
(2)トランプの虚偽選挙主張を支持(Backed Trump’s false
election claims)
ボンディは、トランプが2020年の選挙結果に異議を唱えていた時に、争いに加わった数多くの弁護士の一人だった。
合計62件の訴訟が起こされたが、全て失敗に終わり、いくつかの訴訟に関しては、虚偽の主張が含まれていたとして裁判官たちによる非難を招いた。
ボンディは、2020年の選挙で広範な不正投票があったというトランプの主張を支持した一人で、トランプがペンシルヴァニア州で勝利したと虚偽主張し、「不正行為の証拠(evidence of cheating)」があると主張した。
ある時、ボンディはペンシルヴァニア州で「偽の投票用紙(fake ballots)」が集計された可能性を指摘したが、その後、具体的な内容には触れなかった。
彼女はそれ以来、ジャック・スミス特別検察官を批判している。ジャック・スミスは、トランプが敗北した後に権力移譲を妨害しようとしたことや、ホワイトハウスを去った後に機密文書を誤って扱ったことに関連して、トランプを告発した。
最近のラジオ出演では、スミスや、その他のトランプを起訴した検察官たちを、「ドナルド・トランプを追いかけ、法制度を武器にする(going after Donald Trump and weaponizing our legal system)」ことで名を上げようとしている
「恐ろしい(horrible)」人たちと呼んだ。
そして、2023年のフォックス・ニューズへの出演では、「ディープステイト(deep
state)」についてのトランプの主張に共鳴し、同様に検察の調査を求めた。
ボンディは、「司法省、検察官たち、悪い検察官たちは起訴されるだろう。トランプ大統領の一期目の任期において、ディープステイトは影に隠れていたが、今回の任期では、捜査当局は捜査されることになる。今では彼らにスポットライトが当てられており、全員が調査される可能性がある」と語った。
(3)永井検察官としての経験(Long prosecutorial
experience)
ボンディは検察官として約30年間を過ごした。彼女の初任地は、生まれ育ったタンパを含むフロリダ州ヒルズボロ郡だった。
おそらく最も目立つのは、2006年にコカイン使用による保護観察違反で1年1日の実刑判決を受けたメッツのスター選手ドワイト・グッデンを起訴したことだろう。
ボンダイは最終的に、2010年にフロリダ州司法長官に立候補するために検察官の職を退職した。テレビ出演に後押しされた共和党予備選で競り勝ったボンディは、本選挙で勝利を収め、フロリダ州初の女性司法長官となった。
2011年から2019年までフロリダ州の最高法務責任者として、最高裁を含む「医療費負担適正化法(Affordable Care Act)」を覆そうとする闘いに参加し、オピオイド危機(opioid
crisis)と闘う取り組みを指揮した。
ボンディはまた、フロリダ州が州憲法で同性婚を禁じていることを擁護し、他州での同性婚を認めることは「重大な社会的な害(significant public harm)」をもたらすと法廷で主張した。彼女は、2016年にオーランドのゲイ・ナイトクラブのパルスで起きた銃乱射事件の後、その論調を変え、CNNのアンダーソン・クーパーとの有名な激しいインタヴューに至った。
ボンディは2016年のインタヴューで、「同性婚禁止はフロリダの有権者によって、私たちの州憲法に投票されたものだ。私はそれを守った。私は同性愛者が嫌いだと言ったことは一度もない」と語った。
(4)過去の各種の論争(Past controversies)
ボンディは連邦上院でより好意的な評価を得ることが期待されているが、承認手続き期間中に過去の論争が再燃する可能性もある。
ボンディは、トランプ大学に対する複数の不正告発が検討されていた2013年、トランプから2万5000ドルの寄付を不正に受け取ったとして告発された。関連する疑惑は、最終的にニューヨーク州司法長官によるトランプ大学に対する訴訟に発展した。
トランプとボンディは寄付と事務所の決定との関係を否定したが、寄付そのものは非課税の慈善団体からのものであったため違法であった。トランプは2500ドルの罰金を支払った。
2017年、フロリダ州倫理委員会はこの問題を調査した結果、ボンディの不正行為を認めなかったが、トランプのティームは調査に応じなかった。
トランプは、ボンディの団体と、カンザス州にある似た名前の別の団体を混同して、偶然ボンディに寄付を送ったと主張したが、2021年に『デイリー・ビースト』紙が明らかにした電子メールには、ボンディのティームが寄付についてトランプと調整していたことが記されている。
トランプが支払った罰金は、2018年にニューヨーク州の裁判所がトランプ財団を閉鎖するように決定した判決の中で引用された数多くの不適切な行為の一つだった。
2013年、ボンディは、殺人罪で有罪判決を受けた男の死刑執行を、選挙資金集めと重なるという理由で延期するよう求めたことを公に謝罪した。当時のリック・スコット州知事(共和党)に死刑執行を3週間延期するよう要請したことは間違いであり、謝罪すると彼女は述べた。
ボンディはまた、ハリケーン・カトリーナの後、犬を養子に迎えたが、その犬をもともと飼っていた家族との争いの火種となった。ボンディは当初、その犬を家族に返すことに抵抗し、訴訟に発展した。その後、彼女はその家族と和解し、ペットを返した。
(貼り付け終わり)
(終わり)

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