古村治彦です。
2024年12月3日に、韓国の尹錫烈(ユン・ソンニョル)大統領が非常戒厳令を布告し、戒厳司令官となった韓国陸軍参謀総長の朴安洙は、「国会、地方議会、政党の活動と政治的結社、集会、デモなど一切の政治活動を禁じる」という布告を出した。尹大統領は国会議事堂を韓国陸軍で封鎖し、政治家たちを拘束しようと試みたが、それが失敗し、4日未明に、国会に登院した190名の議員たちの全会一致の投票で、戒厳令解除の要求が可決され、尹大統領は戒厳令布告を撤回した。最大野党の共に民主党を始め、野党側は大統領の弾劾、もしくは自発的な辞任を求めている。
数々のスキャンダルで、低支持率に苦しむ尹錫烈と与党「国民の力」党は、2024年の総選挙でも敗北し、国会(300議席)で、108議席しか持っておらず、野党の共に民主党が170議席を握っており、少数与党という状態に置かれている。このため、政策実現が難しい中で、自身の権力を強化しようという自作自演クーデター(英語では、self-coup[背フル・クー]、中国語では自我政変、スペイン語ではautogolpe[アウトゴルペ])に賭けて失敗した。アウトゴルペは、1992年のペルーのアルベルト・フジモリ大統領の戒厳令布告に伴うクーデターの時に使われた言葉だ。この時はフジモリ大統領側が勝利し、憲法改正が行われた。この時のクーデターは、フヒモラソ(Fujimorazo)とも呼ばれているそうだ。
アメリカ政府には事前の連絡がなかったということで、クーデター失敗を受けて、ホワイトハウスは「安堵した」という声明を出している。アメリカ軍が自国内に駐留している国家において、アメリカ軍が承認していない、この種の非情な手段が成功することはない。日韓関係、日米韓三カ国関係を緊密化しようとしていた尹錫烈大統領の無謀な行動と失敗、失脚は、アメリカの対中戦略において、マイナスの影響を及ぼすだろう。尹大統領は、自身に反対する勢力を「親北朝鮮の反国家的な存在」と呼んでいたが、今回の尹大統領の失敗を喜んでいるのは、北朝鮮と中国、ロシアである。
私は、尹錫烈大統領の今回の行動は、彼単独ではなく、教唆をした人物がいるのではないかと思っている。彼の強い反北朝鮮感情を利用して、かえって北朝鮮や中国を利するような結果を招く行動を起こすように仕向けた人物や勢力がいるのだろうと思う。更に言えば、アジアの状況を不安定化させるために、突発的な事件が起きること(事件を起こすこと)を望んだ人物や勢力の存在も考えられる。ただ単に、「自分の思い通りにならないから」ということで、ここまでの無謀な行動をするのは考えにくい。朴槿恵元大統領の最後を知っているならば猶更だ。
韓国の位置は現在の地政学において非常に複雑なバランスの上に立っている。そのために、国内、国外の様々な思惑が複雑に絡み合っている。今回の出来事を解明するのは一筋縄ではいかないだろう。
(貼り付けはじめ)
韓国人はいかにして戒厳令を拒否したか(How South Koreans
Rejected Martial Law)
-尹錫烈(Yoon Suk -Yeol、ユン・ソンニョル)大統領による自作自演クーデターの試みは劇的に失敗した。
韓国の尹錫悦大統領が戒厳令を布告した後に韓国国会の建物に入ろうと試みる兵士たち(12月4日)
ジェイムズ・パーマー筆
2024年12月3日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2024/12/03/south-korea-yoon-martial-law-declaration-army-parliament-vote/?tpcc=recirc_trending062921
2024年12月3日更新:この記事は戒厳令が引き上げられる前に出された。進行中の出来事を反映するために更新されている。
窮地に陥った韓国の尹錫烈(ユン・ソンニョル)大統領は火曜日、権力を強化するための異例の試みとして戒厳令(martial law)を布告した。しかし、韓国国会が全会一致でこの動きを否決した後、尹大統領の自作自演クーデターは屈辱的な失敗に終わった。
尹大統領は韓国軍を使って国会の採決を阻止しようとしたが、全政党の政治家たちがこの動きに反対し、抗議者たちは兵士たちに対して人間のバリケードを形成した。もし軍隊が尹大統領に従っていたら、軍隊と国民との対立など危機的状況は更に悪化していたかもしれない。代わりに軍は国会から撤退し、尹大統領は午前中に戒厳令を正式に解除すると発表した。危機は尹大統領の弾劾(impeachment)で終わる可能性が高い。
尹大統領は先週、国会との予算対決をエスカレートさせた。ユン首相が率いる「国民の力」党(People
Power Party)は今年の選挙で大敗を喫し、現在は共に民主党(Democratic Party)が過半数を占めている。尹大統領は火曜日の発表で、この対立に言及し、「反乱を煽ることを目的とした明らかな反国家的行動(clear anti-state behavior aimed at inciting rebellion)」であり、共に民主党は「恥知らずな親北反国家勢力(shameless pro-North anti-state forces)」であると非難した。
尹大統領の戒厳令布告は全く予想外の動きだった。
尹大統領がそのような試みをするのではないかという噂は数カ月前から流れていたが、主流派の政治アナリストたちは、それを少数派の陰謀論だと決めつけていた。韓国の民主政治体制のもとでの戒厳令は、戦争や北朝鮮との大規模な対立への対応としてのみ想定されていた。しかし、平壌はここ数カ月、ロシアのウクライナ戦争を支援するために兵士を派遣するなど、憂慮すべき措置をとっているが、軍事的危機はない。
韓国憲法第77条は、大統領に戒厳令を布告し、国家非常事態の際に言論や集会、その他の自由に対する「特別措置(special measures)」を一時的に執行する権限を与えている。しかし、国会はまた、尹大統領の宣言のわずか数時間後に行ったように、単純な賛成・反対投票で大統領に戒厳令の解除を要求する権利も持っている。
憲法上、尹大統領は立法府に従う義務があるが、立法府の行動を阻止しようとする措置を講じた。尹大統領の盟友で戒厳司令官に任命された朴安秀(Park An-soo、パク・アンス)韓国陸軍参謀総長は、国会を含む政治活動を阻止し、メディアを統制するという布告を出した。韓国メディアは応じなかったが、共に民主党の李在明(Lee Jae-myung、イ・ジェミョン)代表は政治家と国民に対し、ソウルの国会議事堂に集まるように求めた。
韓国の戒厳令下において、国会に対する軍隊の使用は違法となる可能性が高い。憲法第77条で大統領に認められるのは行政府と司法に影響する措置のみであり、立法府には影響しないからだ。尹大統領は現職の指導者が独裁権力を掌握するアウトゴルペ(autogolpe)、自作自演クーデターを企てた。
戒厳令の布告は、4月の韓国国会選挙以来危機と闘ってきた不人気政治家による苦肉の策(desperate move)だった。 2022年5月に就任した尹大統領は、影響力が大きい、重大なスキャンダルに直面しており、それが支持率低迷の一因となっている。最近の尹大統領の支持率は連続して20%を下回っている。
それでも尹大統領は、北朝鮮に対する厳しい姿勢により、ワシントンでは支持を維持している。シカゴ国際問題評議会のアジア政策フェローであるカール・フリードホフは、「ユン大統領はまさに常に不人気だった。しかし、ワシントンの人々にとって、彼は正しいことを言ったりやったりしていた。彼は冷戦時代のレトリックに戻り、例えば進歩主義派を北朝鮮シンパ(North Korea sympathizers)と呼んだ。それは、前韓国大統領の文在寅(Moon Jae-in、ムン・ジェイン)に対する大韓民国の多くの人々の見方と一致するものだ」と述べている。
尹大統領の所属する「国民の力」党の多くは韓東勲(Han Dong-hoon、ハン・ドンフン)代表を含め、韓国の戒厳令に反対すると表明し、最終的に宣言解除の投票は国会に投票に来た議員190人全員の満場一致で行われた。韓東勲は尹大統領の側近(検察時代の後輩でもある)だったが、ここ1年で政敵として浮上した。
韓東勲をはじめとする「国民の力」党の議員たちは、大統領弾劾に賛成する野党に加わる可能性が高い。スティムソン・センターのロバート・マニング研究員は、「この動きは、2027年にブルーハウス(大統領府)を獲得するのに十分な位置にいる野党に、更に勢いを与えることになるだろう」と述べている。
韓国の国民は尹大統領の行動に抗議するために大挙して集まり、尹大統領が大統領職から去るまで街頭に留まる可能性が高い。戒厳令という考えは韓国では極めて不人気で、高齢者の多くは1980年、元独裁者の朴正煕(Park Chung-hee、パク・チョンヒ)暗殺後に権力を掌握した全斗煥(Chun
Doo-hwan、チョン・ドゥファン)将軍の軍事独裁政権下で戒厳令が発動されたことを思い出している。1980年5月、韓国軍は光州で多数のデモ参加者を殺害したが、この事件は現在韓国で記念碑的出来事として記憶されている。
また、韓国には、独裁政権下での生活、国内のアメリカ軍駐留に対する数十年にわたる抗議活動、そして2017年に保守派の朴槿恵(Park Geun-hye、パク・クネ)大統領を打倒した大衆運動の経験に基づいて構築された、効率的で洗練された抗議活動のインフラがある。
この時には、1600万人以上が街頭に繰り出した。
徴兵制の軍隊(conscript forces)は、デモ参加者に対して武力を行使することに他の兵士よりも不本意かもしれないが、韓国軍では徴兵の兵士が僅差ではあるが過半数を占めている。朴大統領は当時の国防保安司令部(Defense Security Command)、防諜部隊を使って政敵を弾圧しようとし、2016年には抗議デモの中で自ら戒厳令を敷こうとした。
尹大統領の戒厳令発令の決定にアメリカ政治が大きな役割を果たした可能性は低い。韓国政府はドナルド・トランプ次期米大統領との関係構築に努めているが、ジョー・バイデン大統領の任期はまだ1カ月以上残っている。ソウルでの出来事はすぐに終了する可能性が高い。バイデン政権は尹大統領を支持するかのか、全面的に非難するのか、はっきりしない中途半端な内容の声明を出した。
クーデター未遂の結果の1つは、尹大統領が重要な役割を果たした日韓和解におけるアメリカの努力を損なうことになるだろうが、それは国内での政治的損失にもなった。前述のフリードホフは「ワシントンDCでは、国内政策の失敗が外交政策にどのような波及効果をもたらすかについて十分に考えられていなかった」と述べている。
※ジェイムズ・パーマー:『フォーリン・ポリシー』副編集長。「X」アカウント:@BeijingPalmer
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