古村治彦です。
2024年12月3日から4日にかけて起きた、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による戒厳令布告と失敗について、「誰が戒厳令布告を勧めたのだろうか」と思っていたら、どうやら金龍顕(キム・ヨンヒョン)国防相だったようだ。金国防相は辞表を提出し、尹大統領はそれを受理したということだが、実質的には解任・罷免で、金国防相が責任を取る形になった。
金前国防相は尹大統領の高校の同窓生(一学年下らしい)で、個人的に親しい関係があったということだ。金龍顕は韓国軍制服組の最高幹部にまでなった人物であり、尹大統領が就任してからは警備部長をしていた。尹大統領の信頼が厚い人物であったようだ。また、韓国軍政府組の最高幹部であり、短慮の人物であるとは思えない。金前国防相がどういう計算で、勝算があって、戒厳令布告を進言したのか、もしくは破れかぶれで、もうこれしか手段が残っていないということで、戒厳令布告を進言したのか、そこのところを知りたいところだ。
興味深いのは、今年9月に金龍顕が新しい国防相に指名された際に、「戒厳令」へ向けた動きであるという批判が起きて、与党人民の力党はそれを否定していることだ。金龍顕が国防相に就任するということは、尹大統領が非常手段を行使する可能性があるということを今年の9月の段階で既に批判者たちが主張していたということになる。金前国防相が強硬な手段を選ぶことに躊躇しないということを韓国政界では分かっていたようだ。
金前国防相は、日韓安全保障関係、日米韓三カ国の協力関係を強化することを主張しつつ、それだけでは不十分ということで、韓国の核武装についても主張していた。韓国の核武装は、アメリカや日本にとって微妙な、難しい問題である。韓国の核武装は、朴正煕大統領も検討し、そのために、アメリカによって暗殺されたという説もある。韓国が持つ核兵器が北朝鮮に備えるものではなく、日米に向かうものになりかねないという懸念がある。今回の戒厳令布告は、国会での予算審議に行き詰まりが原因ということになっているが、韓国政治の基底にある韓国の地政学的な位置やナショナリズムが大きな原因ということも考えられるのではないかと思う。
(貼り付けはじめ)
●「韓国大統領、戒厳令進言の国防相の辞表を受理 後任は駐サウジ大使」
12/5(木) 11:21配信 毎日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/501f986fde9c28c69394d085f3eab0f6f36237b9
韓国大統領府は5日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が金龍顕(キム・ヨンヒョン)国防相の辞表を受理したと明らかにした。金氏は、尹氏に戒厳令の宣布を進言。戒厳令の解除後、「関連した全ての事態の責任がある」として辞意を表明していた。
大統領府は、後任に崔秉赫(チェ・ヒョンヒョク)駐サウジアラビア大使を充てる方針を発表した。崔氏は軍人出身で、米韓連合軍司令部の副司令官などを歴任した。【ソウル福岡静哉】
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●「韓国新国防相に金龍顕氏就任 北朝鮮に「政権終末」警告 無人戦闘体系構築急ぐ」
2024/9/6 19:10 産経新聞
https://www.sankei.com/article/20240906-5CSRX2YA45L37KWQS3PYX7VAVQ/
韓国の尹錫悦大統領は6日、新たな国防相に軍出身で、大統領警護庁トップを務めた金龍顕氏を任命した。金氏は国防省での就任式で、北朝鮮に対し「挑発すれば『政権の終末』に直面する」と警告、無人機などを活用した「無人戦闘体系」の構築を急ぐとも強調した。
申源湜前国防相は、北朝鮮が挑発に出れば「即刻、強力に最後まで」懲らしめると重ねて発言してきた。金氏もこのスローガンを踏襲する意向を表明。米国の「核の傘」提供を軸とした拡大抑止を強化していく考えも示した。
金氏を巡っては、軍の学閥人事や不正に関与した疑惑があるとして野党が任命に反対。手続きの一つである国会での人事聴聞経過報告書の採択には至らなかったが、尹氏は任命を強行した。(共同)
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プロファイル:韓国の新しい国防相の金龍顕(Kim Yong-hyun、キム・ヨンヒョン)(Profile: New ROK Defense Minister Kim Yong-hyun)
-韓国の新しい国防相に任命されたことを受けて、このプロファイルは金龍顕(Kim
Yong-hyun、キム・ヨンヒョン)の経歴と主要な役職の概要を提供する。
ケイトリン・カン筆
2024年9月10日
スティムソン・センター
https://www.stimson.org/2024/profile-new-rok-defense-minister-kim-yong-hyun/
9月2日、韓国の尹錫悦(Yoon Suk Yeol、ユン・ソンニョル)大統領大統領は、金龍顕(Kim Yong-hyun、キム・ヨンヒョン)を国防相に任命した。8月12日に、国防相の辛源植(Shin Won-sikシン・ウォンシク)が国家安全保障問題担当大統領補佐官に、国家安全保障問題担当大統領補佐官の張浩鎮(Chang Ho-jin、チャン・ホジン)が新たに創設された大統領外交・国家安全保障特別補佐官に任命されるなどの予想外の人事異動が行われた中で、金は新しい地位に任命された。これらの人事異動は、安全保障と地政学的な懸念の高まりが動機となっているとの憶測が広まっている。
韓国は核の選択肢を求める可能性を排除すべきではないという金の発言は、特に尹政権の公式見解が、アメリカの同盟関係や拡大抑止の約束を通じて安全保障問題に対処するというものであることを考えると、注目を集めた。更に、金は、エスカレートする北朝鮮の脅威に対処するため、米韓二国間および米韓日三国間の安全保障協力を重視する尹政権の政策を推し進める可能性が高い。
●金とはどんな人物か?(Who Is Kim?)
金龍顕は、2022年5月の尹政権発足以来、大統領警護部長を務めていた。2017年に三ツ星の陸軍大将として退任するまで、首都防衛軍司令官から陸軍司令官まで、軍の要職を務めた。統合参謀本部(JCS)の作戦部長を率いる。彼は生活の質の向上と徴兵制の支援を強く支持し、そのキャリアを通じてさまざまな軍体内の生活の質向上政策を推し進めたことでも知られている。
尹大統領とは高校時代の同窓生という長年のつながりがあり、金龍顕は以前尹大統領と仕事をしたことがあり、彼の政策志向を熟知している。尹大統領の大統領選挙では、軍事システムの技術統合を支援するなど、安全保障と外交政策についてユン大統領に緊密に助言した。また、大統領府を龍山(ヨンサン)にある国防省の敷地内に移転させ、安全性を高めるという尹大統領の選挙公約を実現させた。
このような経歴から、金龍顕は「最高司令官(大統領)の意向を格別に理解している」と評価されており、北朝鮮の脅威に対する安全保障を強化し、アメリカとの協力を深めるという尹大統領のヴィジョンに近い形で政策実行をサポートするのではないかと期待されている。
●主要なテーマでの立場(Key Positions)
・北朝鮮(North Korea)
金龍顕は、増大する北朝鮮の脅威に対する国家安全保障の強化と「最悪のシナリオに備える」必要性に焦点を当てた尹政権の方針を維持している。金は、北朝鮮に対する政府のタカ派的な姿勢を継続する意向であり、この姿勢は、「挑発(provocations)」が高まった場合の報復を警告する過去の発言によって強化されている。
北朝鮮に対する韓国の防衛アプローチについて、金龍顕はアメリカの拡大抑止が北朝鮮の脅威に対応する基礎となるべきだと述べたが、韓国の核武装も排除せず、「あらゆる選択肢が開かれている。アメリカの拡大抑止だけでは北朝鮮に対する核抑止力として十分ではない」とも述べた。これは、アメリカの拡大抑止力を通じて北朝鮮の脅威に対処するという尹政権の公式政策や、韓国の核能力が米韓同盟に及ぼす影響に対する直前の前任者辛源植の懸念とはいくらか矛盾している。金は過去に、北朝鮮が完全な非核化する可能性は低いことを認め、アメリカの戦術核兵器の再配備や国産核開発などの選択肢を含め、韓国が対応して自国を守ることを可能にする別のアプローチを主張してきた。
・米韓同盟と日本との安全保障協力(US-ROK Alliance and
Security Cooperation With Japan)
金龍顕は、核の選択肢を残しておくことに関心があるにもかかわらず、格上げされた米韓同盟と拡大抑止力への継続的な依存への支持を明確にしている。金は、特にロシアと北朝鮮の軍事協力の深化に直面して、米韓共同訓練の強化と、進化する北朝鮮の脅威に対する抑止力の拡大を強調してきた。
韓国の核の選択肢に関する金龍顕の立場や、日本が「核武装を追求する」可能性についての過去の懸念の声にもかかわらず、金は、対北朝鮮防衛を強化するための日米との共同作業に関する尹大統領の優先順位を強化する可能性が高い。金はまた、尹政権下で進展した日韓二国間関係を維持するため、日本との関係において肯定的なバランスを維持するだろう。
・中国(China)
金龍顕は、尹大統領の目的に沿って、終末高高度防衛ミサイル(THAAD)システム砲台の増設を支持し、増大する北朝鮮の能力に対して重層的なミサイル防衛システムが必要だと主張している。金は、中国の反発に対する懸念を払拭し、更なる報復は「明確な主権侵害(a clear infringement of sovereignty)」であると主張した。
金龍顕は、米中競争の激化と中国、北朝鮮、ロシアの連携強化を指摘し、朝鮮半島の安全保障に対するさまざまな脅威を緩和するため、韓国の軍事力を強化することを誓った。
●主要な利害関係者たちからの反応(Reaction From Key
Stakeholders)
・与党「人民の力」党:金龍顕の指名は保守的な与党によって支持されており、戒厳令(martial
law)への動きを示唆する指名であるとの非難を否定した。
・野党「共に民主」党:リベラルな民主党は、金龍顕の指名に反対しており、尹大統領との個人的なつながりが国防相としての役割に影響することを懸念している。共に民主党はまた、2023年の海兵隊員死亡事件の隠蔽疑惑など、現在進行中の事件への金の関与の可能性についても問題を提起している。
国家革新党:韓国第三党の趙国(チョ・グク)代表は、金が韓国の核オプションに前向きであることを批判し、そのような動きは北東アジアの不安定性を悪化させると述べた。
●今後の見通し(Looking Ahead)
金龍顕の国会承認公聴会は9月2日に開かれた。尹大統領は国会の承認なしに首相以外の閣僚を任命する権限を持っているため、この公聴会はほとんど形式的なものと見られている。公聴会中、与党人民の力党と野党共に民進党は金龍顕の資質について意見を交わし、金自身は攻撃を「誤報に基づく虚偽宣伝」として拒否し、北朝鮮の脅威と核武装への開放に対処する方法について政策スタンスを維持した。
尹大統領はこの人事を推し進め、金龍顕は9月6日に就任した。米韓同盟や米韓日三カ国の安全保障協力を通じて北朝鮮の脅威を抑止することを柱とする尹大統領の安全保障政策を継承する上で主導的な役割を果たすと期待されており、就任演説では前任者の姿勢を再確認し、「圧倒的な」防衛態勢を構築することを誓った。
(貼り付け終わり)
(終わり)

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