古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 2024年も世界各地で戦争が続いた。ウクライナ戦争は2年以上も経過し、3年目に入ろうとしている。2023年に始まったイスラエルとガザ地区を実効支配するハマスとの戦闘は続いており、加えて、レバノンのヒズボラやイランとの紛争も継続中だ。シリアにおいては10年以上継続した内戦が新たな段階を迎え、50年以上続いたアサド家による独裁体制は終焉したが、シリアの状況は予断を許さない。これらが示しているのは、アメリカの国力が低下し、アメリカが世界の警察官であることを止めたことで、アメリカの力による問題解決ができなくなり、各国は「自力救済」を志向する傾向が出てきたということだ。シリアに関して言えば、イスラエルが一番の受益者ということになる。イスラエルは恐らく、反体制派へ武器と情報の支援を実施し、電光石火のアサド政権崩壊を導いたのだろう。

スティーヴン・M・ウォルトによると、世界政治においては、2つの相反する傾向が存在する。これらの傾向が互いに影響し合うことで、多くの国々が判断を失敗する原因となっている。第一の傾向は、現代兵器の射程、精度、致死性の増大である。過去には、敵に損害を与えるために軍隊を破る必要があったが、今日では強力な国家が数百マイル離れた目標を爆破する能力を持っている。核兵器やミサイルがその代表であり、無人機の使用による遠隔攻撃も増えている。アメリカやロシア、イスラエルはこうした高い能力を保有している。

第二の傾向は、地域のアイデンティティや国家意識の強化である。過去500年の歴史の中で、共通の文化や言語に基づく集団が自らの統治を求めてきた。国家意識が高まると、人々はそのために大きな犠牲を払うことを厭わなくなる。第一の傾向の武器の強靭化をもってしても、人々の意志を挫くことは困難だ。

これら2つの傾向は相反するもので、強力な国家が遠方で破壊的な手段を持つ一方で、地域のアイデンティティが強化されることで、敵対する国民の結束が高まる可能性がある。空爆は民間人の士気を打ち砕くどころか、逆に団結感を育むことが歴史的に示されている。高い攻撃能力を持っていても、それが政治的影響力や戦略的勝利をもたらすことは少ないとウォルトは分析している。私たちが既に見ているように、ウクライナやパレスティナの人々は屈服していない。

単に爆弾を投下することは、根本的な政治的問題の解決にはならないことは明らかだ。特に、イスラエルによるガザ地区への攻撃は、その破壊力が何らかの解決に結びつくとは考えられない。問題を解決するためには、根本的な政治的原因への対処と国民の統治意識を認めることが必要であり、単なる破壊的な力だけでは目的を達成できないことを理解する必要がある。

 アメリカは世界最強の軍事力を誇り、それを背景として、価値観外交を展開し、敵対する国々の体制転換(regime change)を行ってきたが、失敗の連続という結果に終わった。軍隊では問題の根本解決はできないということを考え、アメリカは、軍隊の役割を限定するということが必要になってくる。その根本的な原理となるのが「アイソレイショニズム」であり、「アメリカ・ファースト」だ。

(貼り付けはじめ)

世界の二大潮流は対立している(The Two Biggest Global Trends Are at War

-世界の指導者たちは新たな世界秩序の矛盾を乗り越える術を学ばなければならない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年8月6日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/08/06/trends-war-drones-identity-gaza-ukraine-houthis/

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ウクライナのキエフ地方でテスト飛行中のポーランドの偵察用ドローン「フライアイWBエレクトロニクスSA」を打ち上げる軍関係者(2022年8月2日)

ドナルド・トランプやカマラ・ハリスなど、世界のリーダーを目指す人たちが外交政策について私に助言を求めてきたら、喜んで話をしたいことはたくさんある。気候変動、中国との付き合い方、保護主義が愚かな理由、ガザ地区をどうするか、規範の役割、脅威の均衡理論(balance of threat theory)が本当に意味するもの、その他多くのトピックがある。しかし、私はまず、世界政治における2つの相反する傾向に注意を喚起することから始めるだろう。この2つの潮流は、重要な点で互いに対立しており、この2つの潮流がどのように影響し合っているかを理解しなかったために、多くの国々が道を踏み外すことになった。

第一の傾向は、現代兵器の射程、精度、致死性の増大だ。1世紀ほど前、空軍力は初期段階にあり、ロケット弾や大砲は精度が低く、射程も限られていた。敵に多大な損害を与えるには、敵の軍隊を破り、包囲軍で都市を包囲する必要があった。しかし今日、強大な国家は、たとえ目標が数千マイルではなく、数百マイル離れたところにあるとしても、物事を爆破することに非常に熟練している。核兵器と大陸間ミサイルはこの傾向のモデルだが、ありがたいことに、これらの兵器は1945年以来抑止目的のみに使用されてきた。しかし、長距離航空機、弾道ミサイル、巡航ミサイル、無人機、および精密誘導技術の着実な進歩により、現在では、戦闘員が数百マイル離れた目標を破壊することが可能になっている。一部の非国家主体(イエメンのフーシ派など)さえもこの行為に参加している。

制空権(command of the air)によって、強力な国家は、敵対する軍隊や無力な市民に甚大な損害を与えることができるようになった。アメリカが第一次湾岸戦争の初期に行ったこと、ロシアがウクライナで行っていること、イスラエルが現在ガザ地区で行っていることは、破壊的パワーを投射する能力(ability to project destructive power)が時代とともに飛躍的に高まっていることを示している。このリストに、いわゆる識別特性爆撃(シグネチャーストライク、signature strikes)でテロリストと疑われる人物を殺害したり、イランの精鋭部隊コッズ部隊(Quds Force)のトップであるカセム・スレイマニのような外国高官を暗殺したりするための無人機の使用を加えることができるだろう。先週レバノンでヒズボラの高官フアド・シュクルを殺害したイスラエルの攻撃は、最新の例にすぎない。世界最強の国家にとって、遠隔地で殺傷力を行使する能力はかつてないほど高まっている。また、洗練されたサイバー兵器によって、たとえ標的が地球の反対側にあったとしても、マウスをクリックするだけで相手の重要インフラを攻撃できるようになるかもしれない。つまり、一部の国家にとっては、破壊する能力がグローバルな範囲に広がっている。

二つ目の傾向はまったく異なる。それは、地域のアイデンティティと忠誠心、特に国家としての意識の政治的顕著性(political salience)と粘り強さ(tenacity)の深化だ。以前にも述べたように、「人間は共通の言語、文化、民族性、自己認識に基づいて異なる部族を形成しており、そのような集団は自らを統治できるべきであるという考えが、過去500年の歴史を形作ってきた。多くの人がまだ十分に理解していない形で何年も経っている」。国家意識の広範な出現と、そのような集団が他者に支配されるべきではないという信念が、多国籍のハプスブルク帝国とオスマン帝国がそれぞれ1918年と1922年以降存続できなかった主な理由の1つだ。イギリス、フランス、ポルトガル、ベルギーの植民地がなぜ独立したのか。そして、なぜソ連とワルシャワ条約機構も最終的に解体してしまったのかなどの理由になる。

国家としてのアイデンティティに対する強力な意識が国民の中に根付くと、国家へのより大きな一体感と忠誠心を築くために政府がしばしば奨励するプロセスであるが、国民はますます「想像上の共同体(imagined community)」のために多大な犠牲を払うことを厭わないようになるだろう。北ベトナム人は独立を獲得し国家を統一するために、日本、フランス、アメリカと50年間戦った。アフガニスタンのムジャヒディーンは最終的にソ連に自国からの軍隊撤退を強制し、タリバンの後継者たちはアメリカに同じことをするよう説得した。今日、数と武器で劣るウクライナ人がロシアの侵略に抵抗し続けている一方、パレスティナ人の抵抗とアイデンティティを破壊しようとするイスラエルの努力は、彼らを更に強くするだけのように思われる。

その結果、ある種の矛盾が生じる。強力で技術的に進んでいる先進諸国は、遠距離から他国に損害を与える効果的な手段をますます手に入れているが、この破壊的な能力は永続的な政治的影響力をもたらしたり、意味のある戦略的勝利をもたらしたりすることはない。アメリカは1992年から2010年までイラク上空を制圧し、望むときはいつでも航空機、ミサイル、無人機をイラクの敵国に向けて投入することができた。しかし、その技術的に優れた能力は、アメリカ軍が反政府勢力を排除したり、親イラン民兵組織の影響力を弱めたり、国家の政治的発展を決定したりすることを可能にするものではなかった。

これら2つの傾向、つまり遠く離れた場所で物事を爆発させる能力がますます増大していることと、地元のアイデンティティの頑固な力が相反する理由の1つは、遠隔地攻撃能力を使用すると地元のアイデンティティが強化される傾向があるからだ。初期の空軍力理論家たちは、空爆は民間人の士気を打ち砕き、敵対者を迅速に降伏させるだろうと予測していたが、経験上、民間人に爆弾を投下する方が強力な団結感(sense of unity)と抵抗の精神(spirit of resistance)を育む可能性が高いことを示している。無防備な人々に死と破壊を与えることは、実際、犠牲者の間に共通のアイデンティティの感覚を築くための理想的なるつぼだ。爆弾やミサイルでウクライナのインフラを破壊することには、ある程度の軍事的価値があるかもしれないが、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は、ウクライナ国民にロシアとの「歴史的団結(historical unity)」を説得するために、これ以上悪い方法を選択することはできなかったはずだ。戦争が最終的にどのように終結しても、彼はウクライナとロシアの間に数十年続く可能性が高い亀裂を生み出した。

なぜ私は、志ある国家指導者たちにこれら2つの傾向について伝えたいのだろうか? なぜなら、強国の指導者たちは、物事を爆破する「衝撃と畏怖(shock and awe)」の能力があれば、弱い国民を従わせることができると考える傾向があるからだ。弱い敵に爆弾を投下したり、ミサイルやドローンを発射したりすることで、自国民へのリスクを最小限に抑えることができるため、これは魅惑的な考えだ。歴史家のサミュエル・モインが主張しているように、指導者は、精度と正確さによって悪者を排除し、民間人を救うことができると自分自身に納得させることさえでき、それによって致死的な武力の使用が良性で承認されやすくなる可能性さえある。もしあなたが何らかの厄介な外交政策問題を抱えている強国であり、自国民に大きなリスクを与えることなくその問題に空軍力を投じることができるのであれば、「何かをする」ことはより魅力的なものとなる。

残念ながら、物事を爆破したり(場合によっては多くの無実の人々を殺害したりすることも)、そもそも紛争を引き起こした根本的な政治的問題には対処できない。過去10カ月にわたってイスラエルがガザ地区に加えた大規模な虐殺を見て欲しい。イスラエルが示した破壊力に疑問を呈する人は誰もいない。今日のガザ地区のヴィデオ映像を見るだけで分かる。しかし、これによってガザ地区やヨルダン川西岸、その他の場所にいる何百万ものパレスティナ人が自身の統治への欲求を放棄することになると本気で信じている人がいるだろうか? もちろん、同じことは逆にも当てはまる。ヒズボラは20年前よりもイスラエルを攻撃する能力が高まっているが、その破壊能力によって条件を決定したり、イスラエルとの紛争を引き起こしている、より深い政治問題を解決したりすることはできない。そして、イスラエルとより広範な地域戦争の危険に晒されている。

私は、現代の航空戦力に価値がないとか、国家が絨毯爆撃(carpet-bombing)やより粗雑な長距離攻撃(cruder forms of long-range attack)に頼らざるを得なくなった方が世界が良くなるなどと言っているのではない。有能な地上軍と組み合わされれば、航空戦力は十分に選択された政治目的を推進する上で極めて効果的である。例えば、アメリカの航空戦力は、イスラム国を、短期間続いたカリフ国から追い出すのに重要な役割を果たしたが、それはイラクとイランの地上軍がその地域を奪還し、平和にするために存在していたからである。

軍事理論家カール・フォン・クラウゼヴィッツは正しかった。戦争は政治の継続であり、破壊力だけで政治的目的を達成できることはほとんどない。成功するかどうかは、何よりもまず現実的な目的を選択するかどうかにかかっているが、それと同時に、根本的な政治的原因に対処し、各国が自国を統治しようとする意欲を認めるかどうかにもかかっている。勝利への道を空爆で切り開こうと考えるような人間に国家を運営する資格はない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。「X」アカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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