古村治彦です。
アメリカでは11月末の感謝祭(Thanksgiving Day)のあたりから、ホリデーシーズンに入るという感じで、一年を振り返るということも行われる。世界での大きな出来事から個人的な出来事まで、色々なことがあった。私で言えば、昨年末ギリギリに『』を刊行し、それがご縁になって、佐藤優先生との共著『』を出すことができた。来年も著書が出せるように、それが皆様のお役に立つ者であるように精進したい。より個人的なことは差し控えるが、大病もせず(慢性的な病気はあるがその状態が悪化せず)、大きな怪我もせずというのはありがたいことだったと思う。
2024年は世界各国で国政レヴェルの選挙が実施された。思い出せるだけでも、台湾、インドネシア、インド、フランス、イギリス、日本、アメリカといった国々で選挙が実施され、指導者が交代することになった国もある。なんと言っても、アメリカ大統領選挙でドナルド・トランプが当選し、『』の内容から「トランプ当選を当てましたね」と言われたのは大きかった。また、共和党がホワイトハウス、連邦上下両院、連邦最高裁、アメリカの行政、立法、司法の三権を握ることになった(クアドルプル・レッド状態)。2025年からの第二次ドナルド・トランプ政権がどのようになるか、注目される。
世界での戦争は2024年中に終わる可能性はない。ウクライナ戦争と中東での戦争は、小休止という状態であるが、正式な停戦には至っていない。この状態で2025年を迎えることになりそうだ。
私は以下のスティーヴン・M・ウォルトの論稿で、世界で核兵器が使用されなかったことは最低限のことであるが、良かったということに同意する。それは多くの人もそうだと思う。ロシアにしても、イスラエルにしても、核兵器を使うということは、ハードルがとても高いことであるが、可能である。それでも、状況が深刻化しても、核兵器使用はなかった。核兵器を使用すればよいという主張がなかった訳ではない。地域紛争においては核兵器を使用しないという前例の積み重ねも重要だ。それがモラル面でのハードルになり、抑止力になる。もっとも、非常に脆弱なものではあるが。
このブログは2025年も続くか、なんとなく日本のホリデーシーズンに入った感もあるので、このような文章を書いた。
(貼り付けはじめ)
2024年で感謝すべき10の理由(10 Reasons to Be Thankful
in 2024)
-何はともあれ、今年、世の中には感謝すべきことがいくつかある。
スティーヴン・M・ウォルト筆
2024年11月28日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2024/11/28/thanksgiving-10-reasons-thankful-geopolitics-governance-human-rights/
ワシントンのホワイトハウスで感謝祭の七面鳥「ピーチ」に恩赦を与えるジョー・バイデン米大統領(11月25日)
今日はアメリカでは感謝祭(Thanksgiving)であり、この時期には感謝の気持ちをリストアップするのが私の習慣となっている。残念なことに、今回はその作業にもう少し努力が必要だ。
中東での紛争は、何千人もの罪のない人々の命を犠牲にし、アメリカの評判を落とし、将来のトラブルの種をまき続けている。ウクライナにおけるロシアの戦争は期待外れの結末に向かいそうだ。多くの国でポピュリストが台頭し、現代社会が直面する困難な課題に対する解決策をほとんど示さないまま、分裂と疑念(division and suspicion)をまき散らしている。地球は熱くなり続け、気候危機への対策は停滞している。
アメリカの有権者は、犯罪者を次期大統領に選んだばかりだ。彼は今、国民から金をむしり取り、自分たちを富ませようとする忠誠者、蓄財家、変わり者で構成される政府をせっせと任命している。いい時代ではないか?
それでも私は、ほろ苦いものもあるが、今年感謝すべき10の理由を見つけた。
(1)アメリカの選挙は異議を唱えられなかった(1. The U.S. Election
Was Not Challenged)
11月5日に行われた米大統領選挙の結果は、私が望んだものではなかったが、結果をめぐる長期にわたる揉め事や、選挙を盗もうとする別の努力に終始しなかったことに感謝している。もしドナルド・トランプ次期大統領が敗北していたら、彼と共和党は結果を覆そうとあらゆる手を尽くしたに違いない。しかし、民主党は、悲しい心で、しかし見事な潔さで結果を受け入れることで、その気品と合衆国憲法への関与を示した。トランプ2期目は国にとって良いことではないかもしれないが、秩序ある平和的な権力移譲(orderly and peaceful transfer of power)は行われた。
(2)(非常な) 老兵の退場(2. Out With the (Very) Old Guard)
民主党について言えば、何十年もの間、民主党を支配してきた老人支配政治(gerontocracy)がついにその舞台を譲ることになり、私は感謝している。ジョー・バイデン大統領、ナンシー・ペロシ連邦下院議員、チャック・シューマー連邦上院議員、ステニー・ホイヤー連邦下院議員、クリントン夫妻、その他何人かが、理想よりも数年遅れて日没へと向かうのを見るのは残念でならない。これらの人々は、政治家としてのキャリアの中で良いこともしたし、それは私たちも感謝すべきことだが、アメリカ国民との関係が希薄になる中で権力にしがみついたことも事実だ。新しい血と新しいアイデアが必要な時だ。
新鮮な思考がアメリカの外交政策にも及ぶことを願っている。アントニー・ブリンケン国務長官やジェイク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官を含むバイデンチームは、リベラルな覇権(libera hegemony)という失敗した戦略を少し手直しして復活させようとした。時代遅れの信念や政策にしがみついた結果、ウクライナやガザ地区で悲惨な結果を招いた。こうした考え方が今後のアメリカの外交政策に与える影響は少ない方がいい。
(3)有権者が見逃したソフトランディング(3. The Soft Landing
That U.S. Voters Missed)
バイデン政権の外交政策ティームの全員がひどいパフォーマンスだったわけではない。ジャネット・イエレン財務長官、ジャレド・バーンスタイン経済諮問委員会委員長、ジェローム・パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が新型コロナウイルス不況後のアメリカ経済を管理していたことに感謝している。彼らは多くの識者があり得ないと想定していた「ソフトランディング(soft landing)」を成し遂げた。もちろん彼らの実績は完璧ではなかったが、もっと悪くなる可能性もあった。
有権者がバイデンの功績を高く評価しなかったのは残念だが、その理由の1つは、バイデンが高齢のため、一般市民に説明することができなかったことだ。不平等と住宅費の上昇に対処するためのより大きな努力は助けになっただろうが、これらの問題を解決するための真剣な対策が連邦議会を通過したり、地方の障壁を乗り越えたりすることはなかった。アメリカの有権者は11月5日に感謝の念を抱かなかったのは明らかだが、私は感謝している。
(4)生殖の自由の反撃(4. Reproductive Freedom Battles
Back)
トランプ陣営の明らかな女性差別、安全な妊娠中絶を事実上不可能にするプロジェクト2025の計画、女性の身体以外のあらゆるものを規制緩和しようと急ぐ連邦最高裁の判例を無視する姿勢を考えれば、今年の選挙がリプロダクティブ・フリーダム、女性の健康、そして、ジェンダーの権利にとってより広範に何を意味するのか、多くの人々が落胆したのは当然である。
しかし、選挙戦の様相はまったく暗澹たるものではなかった。女性の健康と権利を守るための投票イニシアティヴは、それが検討されていた10州のうち7州で可決され、中絶の権利を支持する候補者が、トランプ大統領を支持した州を含む重要なレースで勝利した。ささやかな慰めかもしれないが、今年はもらえるものは何でももらうつもりだ。
(5)大量破壊兵器のタブーは守られてきた(5. The WMD Taboo Held
Up)
核兵器を保有する国々が関与する暴力的な紛争が継続・拡大しているにもかかわらず、大量破壊兵器(weapons of mass destruction、WMD)が使用されることなく今年も1年が過ぎたことに、私たちは感謝しなければならない。しかし、私たちの感謝は、核兵器、そしておそらく他の大量破壊兵器の敷居が低くなっているという知識によって和らげられるべきである。アメリカを含むいくつかの国の強硬なタカ派は、核兵器の使用について公然と語り始めている。来年の感謝祭のリストにこの項目を入れられればいいのだが、年々その可能性が低くなっているのが心配だ。
(6)国際刑事裁判所の逮捕令状(6. The ICC Arrest Warrants)
国際刑事裁判所(International Criminal Court、ICC)が政治的圧力に屈することなく、ハマス軍最高責任者のモハメド・デイフ(彼はもう生きていないかもしれない)、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、ヨアヴ・ギャラント元イスラエル国防相に逮捕状を発行したことに感謝したい。この逮捕令状は、戦争犯罪や人道に対する犯罪を命じたり犯したりした人間が、国際社会から特別扱いされ、制裁を受ける可能性があることを示す希望的な兆候である。
私は、リアリストとして、このような措置が一部の指導者の悪行を止めるものではないことを認識している。しかし、執行メカニズムが弱いか存在しない、食うか食われるか(dog-eat-dog)の国際政治においても、国家は政府が罪のない市民に故意に過度の残虐行為を加えることを阻止しようとすることはできる。今回の逮捕状によって、ハマスやイスラエルの指導者たちが選んだと思われる暗い道に向かわないよう、将来の指導者たちが何人かでも説得されるのであれば、私たちはそれにも感謝しなければならない。
(7)公務員(7. Civil Servants)
政治家や専門家たちは、お役所仕事で社会を窒息させ、私たちに自分たちの好みを押し付けていると思われる政府関係者を批判するのが大好きだ。彼らは格好の標的だが、多くの場合、不十分なリソースを使いながら、私たち全員の状況をより良くするために毎日働いている、ほとんど献身的でほとんど政治に無関心で組織的に低賃金の何千人もの公務員なしでは社会は機能しない。
アメリカは、このような人々が、イデオローグや日和見主義者から指示を受ける忠誠者やハッカーに取って代わられるとどうなるかを発見しようとしているのかもしれない。この戦略は他の国ではあまりうまくいっておらず、今後数年で公共サーヴィスが劇的に低下すれば、アメリカ人は満足しないだろう。私が間違っていればいいと思う。今のところは、トップに任命された人たちの気まぐれや愚行にもかかわらず、公的機関の運営を維持してきた専門知識と献身に感謝することにしよう。
また、ジョシュ・ポール、アネル・シェリーン、ハリソン・マンといった政府関係者にも特別な感謝の意を表する。彼らは出世主義(careerism)よりも道徳と原則を優先し、バイデン政権によるイスラエルの虐殺に対する非良心的かつおそらく違法な支援に抗議して辞任した。もし彼らの上司の何人かが彼らの例に倣っていれば、アメリカの政策はより建設的な方向に舵を切ったかもしれない。
(8)著述家たち(8. Authors)
幸運なことに、私は仕事上、たくさんの本を読む必要があり、私を教育し、挑戦し、インスピレーションを与え、楽しませてくれた多くの著述家に毎年感謝している。全員に言及することはできないが、ステイシー・E・ゴダード、エリン・ジェン、シーピン・タン、スティーヴ・コル、カルダー・ウォルトン、アダム・シャッツ、ジェイムズ・ゴールドガイアー、ダニエル・チャーデル、ヴィクトリア・ティンボア・フイ、ノーム・チョムスキー、ネイサン・ロビンソンに簡単に感謝の意を表したい。私は彼らが書いた全てに同意する訳ではないが、その全てに多くの価値があると感じた。
そして、ナターシャ・ウィートリーに特別な応援を送りたい。著書『国家の生と死(The
Life and Death of States)』は、オーストリア=ハンガリー帝国の終焉と近代国家制度の創設のめくるめく歴史であり、法制史、哲学、法学などの多くの学問分野の並外れた組み合わせとなっている。決して軽い読み物ではないが、非常に読み応えがあり、深く考えさせられる内容だった。
軽めの作品としては、故ポール・オースター、ジュリアーノ・ダ・エンポリ、バリー・アイスラー、ボニー・ガーマス、そして特にジョージ・スマイリーを完全に満足のいく形で甦らせるという不可能に近い偉業を成し遂げたニック・ハーカウェイの作品に喜びを見出したことに感謝している。私の読書人生を豊かにしてくれた上記の全ての人々に感謝する。
(9)希望の光か?(9. A Silver Lining?)
これは時期尚早かもしれないが、第二次トランプ政権が、敵対者たちが警告していた無能で執念深い、そして過度の傲慢さを示しているという初期の兆候に対して、暫定的に感謝の意を表したいと思う。はっきり言っておくが、私はアメリカに悪いことが起こることを望んでいる訳ではない。私の心配は、いずれにせよそれらが起こるのではないかということだ。
これが引き起こすであろう問題や、多くのアメリカ人が耐えることになる苦しみを私は喜ばないが、トランプ、イーロン・マスク、ロバート・F・ケネディ・ジュニア、そしてその他の人々が最終的に多大な損害を与えるのであれば、むしろそうするほうが良いと思う。それは迅速かつ誰の目にも明白だ。そうなれば、他の非自由主義的な独裁者たちがやったように、トランプとその手下たちが権力を維持するために選挙制度を再配線する前に反発が始まるかもしれない。興味がある方のために付け加えておくが、私は間違いであると証明されることを嬉しく思うし、物事がそのように進むのであれば喜んでそれを認めるつもりだ。
(10)個人的な幸せ(10. Personal Blessings)
私は幸運にも今学期をウィーンの人間科学研究所 (IWM) のゲストとして過ごすことができた。考えたり書いたりするのにこれ以上良い環境はない。とても良いホストをしてくれたミーシャ・グレニー、イワン・クラステフ、そしてIWMのスタッフに感謝する。最後に、たとえあなたがコメントで私に課題を与えてくれた読者の一人であっても、このコラムを読むことを選択した全ての人に、私は深く感謝し続ける。
そして、以前はトゥイッターとして知られていた地獄のサイトに代わるサイトがあることに特に感謝している。今後は、@stephenwalt.bsky.social で私をフォローして欲しい。素晴らしい感謝祭になりますように!
※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。「Bluesky」アカウント:@stephenwalt.bsky、「X」アカウント:@stephenwalt
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