先日、久しぶりに映画館に行き、公開中の映画「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方(The Apprentice)」(アリ・アッバシ監督)を鑑賞してきた。約2時間の映画だ。この映画は、ドナルド・トランプ(Donnald Trump、1946年-、78歳)が父親の創業したトランプ・オーガナイゼイションで副社長(と言いながら、実際は所有する低所得者向けアパートの住人から家賃を取り立てる仕事)をしていた若い時から、コモドアホテルの跡地をハイアットグランドセントラルに再生する一大プロジェクト、トランプタワーの建設、アトランティック・シティのカジノ経営へと突き進む中年期前期の時期の、トランプの上昇を描いている。トランプの若い時のことが詳しく描かれている。

 トランプにとって大きな転機となったのは、連邦政府から人種差別(所有するアパートにアフリカ系アメリカ人を入居させなかったという疑い)で裁判を仕掛けられ、厳しい状況に追い込まれた中で、有名な敏腕(悪徳)弁護士ロイ・コーン(Roy Cohn、1927-1986年、59歳で没)と知り合ったことだ。ニューヨークでも有名人や富豪が集まるクラブに顔を出した若き日のトランプがロイ・コーンと初めて会うシーンは圧巻だ。ロイ・コーンの秘書兼愛人(同性愛)のラッセル・エルドリッジが、やや不機嫌な顔で、コーンが呼んでいるとトランプを呼びに来て、厨房を通って秘密の部屋に行くと、ジョン・ゴティを始めとするマフィアの親分衆(堅気の商売をしている)が集まるテーブルに案内させる。そこにロイ・コーンがいた。ロイ・コーンは親分衆に自分が税務当局に狙われているということを述べ、「あいつらは復讐しようとしている」と述べた。ここで復讐という意味で、イタリア語の「ヴェンデッタ(Vendetta)」という単語を使っていた。これは、もう命のやり取りをするという深刻な言葉だ。ロイ・コーンはニューヨークのイタリア・マフィアの世界にどっぷりとつかっているということになる。このマフィアたちがニューヨークの立法、司法、行政を牛耳っており、彼らとつながらないと何もできない、そして、トランプはそこに入れてもらったということを示しているシーンということになる。

 ロイ・コーンは、強烈な反共主義者であり、検事時代には、ローゼンバーグ事件(1951年)に関わった。これは、ジュリアス・ローゼンバーグ(Julius Rosenberg、1918-1953年、35歳で没)とエセル・ローゼンバーグ(1915―1953年、37歳で没)夫妻がソ連に核兵器情報を流したというスパイ事件だった。夫ジュリアスの死刑は容易に決定されたが、妻エセルに関しては子供たち(息子2人は後に経済学者と弁護士になった)が小さいということもあり、死刑にはならないという雰囲気であったが、コーンは強引に死刑判決が出るように導いた。このことは映画の中でもコーンの台詞として出ている。

 ロイ・コーンはその後、1950年代の「マッカーシズム(McCarthyism)」「赤狩り(Red Purge)」でも活躍する。赤狩りの主人公となった連邦上院議員ジョセフ・“ジョー”・マッカーシー(Joseph Raymond "Joe" McCarthy、1908―1957年、48歳で没)は、を上院政府活動委員会常設調査小委員会(United States Senate Homeland Security Permanent Subcommittee on Investigations)や下院非米活動委員会(House Committee on Un-American Activities)を舞台にして、リベラル派や共産主義に寛容な政治家や知識人(共産主義のシンパたち)を攻撃した。ロイ・コーンはマッカーシーに次ぐ実力者となり、赤狩りを断行した。マッカーシズムが沈静化してからは失脚したが、実力のある弁護士としてニューヨークを拠点にして活躍した。ロイ・コーンは民主党員でありながら、共和党の政治家たちを支持していた。

 トランプはあの時代はまだ民主党で、そうでなければニューヨークの地場の政治(タマニーホール以来の)に食い込めなかっただろう。民主党や労組が如何に腐敗していたか、ボス政治(bossism)をしていたかということも面白かった。また、保守派だと自認しているロイ・コーンは資本主義とデモクラシーを守ると言いながら、やっていることは酷くて、酒、麻薬、乱交で、若き日のトランプ(まだ普通の人らしさが残っている頃)は混乱していた。

 映画の後半で、新しい恋人なのか、ロジャー・ストーン(Roger Stone、1952年-、72歳)が登場してくる。ロイ・コーンはトランプに対しストーンを紹介するときに、「ニクソンの熱心な支持者であり、政治に詳しい人物」として紹介している。ロジャー・ストーンは選挙参謀として、リチャード・ニクソンやロナルド・レーガンに仕えている。トランプにも近づき、映画の最後では、レーガンの選挙スローガンとして「Let’s Make America Great Again」を紹介しているシーンがある。後にはトランプの選挙参謀も務めている。 

この映画では、1970年代のアメリカの閉塞感が良く出ていた。途中で、日本の存在感が大きくなっていく様子が出ていた。「日本は金を持っている」という趣旨の発言をトランプがしている。そして、トランプは台湾の銀行からお金を借りていたということも分かった。WASPではない、イタリア系、ユダヤ系、アイルランド系がごちゃごちゃと脅迫する、もしくは協力しながらいろいろやっていたのだと改めて勉強になった。

 ハイアットグランドセントラルの落成パーティーのシーンだったか、トランプが親しげに「アキオさん」とアジア系の男性に話しかけるシーンがある。映画館で売っているパンフレットには、アメリカ政治研究の大物学者である村田晃嗣(むらたこうじ)先生(同志社大学法学部教授、同志社大学元学長)が映画評の文章を掲載されている。この中で、村田先生は、トランプが「モリタさん」と呼びかけたと書いているが、私の記憶では「アキオさん」だ。そして、私もこの人物がソニーの盛田昭夫だと思ったが、別の場面(アトランティック・シティのカジノ建設)で、トランプとお金のことで揉めていたことを考えると、「ソニーの盛田がアトランティック・シティのカジノ建設にお金を出していたのだろうか、これはおかしいな、このアキオさんはモリタさんではない」と考えた。

 トランプ関連の日本人で「アキオさん」と言えば、柏木昭男(1937-1992年、54-55歳で没)ということになる。不動産投資で莫大な資産を築いたバブル紳士だ。ギャンブラーとしても有名で、1990年にはアトランティック・シティのカジノでトランプと勝負して、勝利したという逸話が残っている。しかし、最終的には1000万ドルの負けを喫し、その後は各地のカジノで負け続けたということだ。1992年には何者かに殺害され、犯人は検挙されず、事件は時効を迎えている。この柏木昭男とトランプはカジノでのギャンブルでの負けの負債だけではなく、不動産開発をめぐって、色々なことがあったのだろうと推測されるが、何も分からない。

映画にはヤンキースの名物オーナーだったジョージ・スタインブレイナ-や、メディア王ルパード・マードックも出てきた。彼が『ニューヨーク・ポスト』紙を買収してから、トランプを取り上げるようになって、人気が出たということも興味深かった。ロイ・コーンが婚約しながら結婚しなかったバーバラ・ウォルターズの有名なトランプへのインタヴューシーンもあったが、女優ライトみたいなのをあてられているウォルターズというのは監督の嫌味というか面白がりなんだろう。

この映画はアメリカ政治の知識が多少あればまぁ楽しめると思うが、普通の日本人にはちょっと難しいかもしれない。あと、字幕で、killer instinctを「闘争本能」と訳している部分と「勝負勘」と訳している部分があったが、まぁcontextということになるんだろう。英語が分かる人は字幕に頼らずに見た方が映画により面白く迫るだろうと思う。
(終わり)

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