古村治彦です。

 今回は、「ドナルド・トランプを生み出したポピュリズムを促進したのはロナルド・レーガンだ」という内容の論稿をご紹介する。3月25日発売の最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)でも触れているが、トランプが目指しているのはレーガン政権である。以下の論稿の内容を簡単にまとめると以下のようになる。
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ロナルド・レーガンとドナルド・トランプ

ドナルド・トランプの返り咲きでの大統領就任、第二次政権の発足には、ロナルド・レーガン大統領が提唱した政策が基礎にあるという主張がある。まず、トランプの勝利の背景には、民主党政権の失策が挙げられ、バイデン大統領は労働者階級への対応が不十分だったとの主張がある。

実際、民主政体と資本主義の中で、過去45年間の成長の停滞や不平等の拡大、社会の分極化が影響を及ぼしていると指摘されている。レーガン政権下での新自由主義は、ポピュリズムを育む条件を生み出した。当時、経済成長は過去のピークを迎え不平等は縮小していたが、レーガン以降は、巧みに福祉モデルが変更され、市場の自由が重視されるようになった。

これにより富裕層が重要な利益を享受し始め、所得と資産の格差は急激に拡大していった。また、経済成長の鈍化に伴い、低賃金労働者の生活は困窮し、特に住宅市場でも厳しい状況が続いている。トランプが選挙で勝利するまでの間、大卒でないアメリカ人の実質賃金は減少し続け、低成長がこれに拍車をかけている。

このような経済的な背景が、政治における矛盾を浮き彫りにし、なぜ貧困や不平等が拡大しながらも、人々がそれを支持するリーダーに投票するのかという疑問が出てくる。この疑問に対する答えは、政治的分極化が影響を及ぼしていることにある。政治家たちは、支持を得るために対立を煽り、しばしば恐れを煽る話題に焦点を絞る。この結果、右派と左派の間での激しい分極化が進行し、急進的なポピュリズムが政治に浸透する余地を生んでいる。

トランプはこうした政治システムの脆弱性を利用し、初めてのポピュリスト的な権力掌握を実現した。実のところ、トランプのような人物が過去に現れなかったこと自体が驚きであり、2008年のオバマ対マケインの大統領選挙戦中に適切な候補者が現れるチャンスは十分にあった。彼らが成長の鈍化、不平等、そして分極化といった課題を武器として用いることで、情勢は大きく変わった可能性がある。このような分析が、トランプ大統領の台頭の背景とアメリカの民主的文化に挑戦する要因を示している。

 アメリカは政治的分裂、格差拡大が続いている。トランプを押し上げたのはこうした現状に対する異議申し立てとしてのポピュリズムだ。自分たちの生活を何とかして欲しいという切実な声だ。しかし、人々の生活が劇的に良くなることはないし、それは元々不可能なことだ。トランプはその点では幻影を見せているということもできる。しかし同時に、トランプは人々の声を結集して、ワシントンの政治の大掃除を行おうとしている。トランプの存在こそが大いなる矛盾であるが、彼にしかできないことを今やろうとしている。

(貼り付けはじめ)

ロナルド・レーガンがトランプ2.0のための道筋を整えた(Ronald Reagan paved the way for Trump 2.0

ジラッド・テネイ筆

2025年1月19日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/campaign/5092139-trump-reagan-populism-crisis/

2021年1月6日に連邦議会議事堂でドナルド・トランプ支持者たちによる暴動が起きた直後、トランプが2期目の大統領に就任する可能性があるという考えは事実上消え去ってしまった。しかし、彼の政権復帰を可能にする条件は、ロナルド・レーガン大統領が最初に導入した政策から始まり、数十年かけて整えられた。

催涙ガス(tear gas)が消え、2021年1月に連邦議事堂の事件が片付いた後、FBIは責任者を逮捕するためにアメリカ史上最大の連邦捜査を開始した。デモ参加者たちに「地獄のように戦え(fight like hell)」と促していたトランプは、後にこの混乱に関与した罪で連邦起訴されることになる。確かに、これではどんな新しい大統領選挙キャンペーンも笑い話にしかならないだろう。 

では、トランプはいったいどうやって勝利したのだろうか?

コメンテーターたちはすぐに民主党の政権時代の責任にした。ジョー・バイデン大統領は労働者階級に背を向けたのか? たしかにそうだが、だからと言って、ほとんど全ての投票グループがトランプにシフトした理由を説明することはできない。トランプは1期目にして、大恐慌以来初めて、就任時よりも雇用を減らして退任した大統領となったのだ。

バイデンが選挙戦から脱落するのが遅すぎたという意見もある。しかし、彼は悲惨な討論会に参加する前から世論調査でリードしていた。また、カマラ・ハリスの選挙運動が「ウォーク(woke)」しすぎていた、もしくは、バイデンとは違うことをしたはずだと特定できなかったことが致命的なダメージを与えたと言う人もいる。また、記録的なインフレやその他の経済的圧力を指摘する人もいる。

これらの理論は積み重なるが、どれもここでの本当の疑問には答えていない。その疑問とは、 「民主的価値観が国民精神に深く根付いているこの国が、公然とそれに背く大統領を選ぶことができるだろうか?」というものだ。

実際のところ、民主政体資本主義は過去45年間、予見可能な危機(foreseeable crisis)に向けて着実に構築されており、レーガン政権時代に始まった成長の停滞、不平等の拡大、分極化の進行という3つの相互に強化し合う傾向から構成されているということである。

確かに、トランプとレーガンの比較は行き過ぎだ。しかし、見落とされているのは、レーガンの政策がどのようにしてポピュリズムによる権力掌握の条件を作り出したかということだ。レーガンは産業革命以来最高の成長率を誇った時期に政権を握った。不平等は縮小傾向にあり、ほぼ全員が進歩の成果を共有するようになっていた。

しかしレーガン政権は、前任者たちが確立した福祉モデルに背を向け、新自由主義の政治経済理論とイデオロギー(political-economic theory and ideology of neo-liberalism)を支持した。新自由主義者たちは税金で賄われる政府プログラムが生活を向上させる最善の方法であるという考えを否定した。彼らは、むしろ、市場が繁栄すれば誰もが繁栄するという確信を持った(Rather, they believed that when the market prospers, everyone prospers)。そして市場が繁栄するのは、政府がその邪魔をしなくなったときだ。富裕層に対する税率が大幅に引き下げられ、所得格差が急速に拡大した。

1980年代にいわゆるレーガノミクスが導入されて以来、所得と富における上位1%と上位10%の割合は、他の全ての人々の犠牲の上に劇的に増加している。これは世界的な傾向であるが、アメリカで最も顕著である。

これは情報革命(information revolution)によってさらに深刻化し、巨大なスキル・プレミアム(熟練労働者と非熟練労働者の賃金差)を生み出した。サーヴィス経済へのシフトと脱工業化(shift to a service-based economy with increasing de-industrialization)の進行が相まって、すでに広がっていた貧富の格差が更に拡大した。ラストベルト一帯の製造拠点は閉鎖され、あるいは閉鎖されつつあり、ブルーカラー労働者の雇用喪失を加速させた。その結果、格差は20年代最後の水準に近づいている。

1980年代はまた、高度成長時代(era of rapid growth)の終わりを意味した。1960年代、アメリカ経済は年平均4%以上の成長を遂げていた。過去10年間では、この数字はおよそ2%である。急速な格差拡大と経済成長の鈍化が意味するのは、貧困ライン以下(below the breadline)の人々を深く傷つけることである。

低成長は、経済が格差拡大(rising inequality)の影響を緩和するのを妨げる。パイが均等に分配されないまま成長が鈍化することで、親よりも貧しい世代が生まれることになる。

トランプが選挙で初勝利するまでの40年間で、人口の64%を占める大卒の学位を持たないアメリカ人の実質時給は実際に減少した。高卒の労働者の賃金は19.25ドルから 18.57ドルに下がり、高校を卒業していない労働者の賃金は15.50ドルから13.66ドルに下がった。

この影響は住宅市場にもはっきりと表れている。2016年には、平均的な労働者が中央値の家を買うために必要な労働時間は1976年よりも40%長くなった。

これは資本主義民主政治体制の根幹にある深い矛盾(deep contradiction)を白日の下に曝している。不平等が拡大し、大多数の人々の生活が更に悪化しているとしたら、どうやって多数派が自分たちに利益をもたらさない制度を永続させる政党や大統領に投票し続けることができるだろうか?

答えは三番目の原動力である政治的分極化(political polarization)にある。政治家たちは有権者たちに対して反対票を投じさせるため、分裂を煽る選挙戦術に訴える。これらはしばしば、アメリカにとって増大し続ける脅威であるかのように仕立て上げられる。

政治家の取り上げる話題は変化する。テロとの戦争、移民、批判的な人種理論、ジェンダーがそうだ。しかし、戦略は同じだ。怒りの焦点を他の問題に集中させることで、システムの主要な矛盾、つまり主にエリートに奉仕する民主政治体制から目を逸らすことになる。

その結果、右派と左派の両方で分極化と急進化(polarization and radicalization)がますます進む政治文化が生まれた。この二極化により、極端なポピュリスト的立場の政治領域への参入が可能になる。また、権威主義的な権力掌握のために体制への信頼を失った多くの有権者が存在する分断された政治システム(divided political system)を悪用する機会も生み出す。その機会を最初に掴んだのはトランプだった。

実を言うと、別の「ドナルド・トランプ」がもっと早く起こらなかったのは驚くべきことだ。必要だったのは、2008年のオバマ対マケインの大統領選挙戦中に適切な大統領候補者が登場することだけだった。彼らは、成長の鈍化、不平等の拡大、二極化の進行など、1980年代に始まった状況を武器化すればよいだけのことだ。これがドナルド・トランプ大統領のポピュリズム的な権力掌握のレシピであり、アメリカの民主的な文化の根幹を揺るがしている。

※ジラッド・テネイ:ERI研究所の創設者兼会長。ERI研究所は社会に与えるインパクトと慈善活動に特化したリサーチ会社である。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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