古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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『トランプの電撃作戦』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに行きます。

 ヘンリー・キッシンジャーが最後に発表した(と考えられる)論稿を以下にご紹介する。この論稿については、『トランプの電撃作戦』でも取り上げた。論稿の共著者はハーヴァード大学教授グレアム・アリソンだ。これは推測になるが、この論稿の草稿はアリソンが書き、キッシンジャーが目を通し、加筆修正したのだろう。キッシンジャーが共著者として名前を出しているというのは、アリソンがそれだけの実力を持つ学者であるからだ。最新刊『トランプの電撃作戦』でも書いたが、アリソンはキッシンジャーのハーヴァード大学の教え子である。

 冷戦期、アメリカとソ連は、核兵器開発競争から協力しての核兵器管理に移行した。これは、突発的な核兵器を使っての戦争の発生を抑制して、世界を破滅させ異様にするとともに、核兵器開発や保有による負担を軽減するためのものであった。また、核兵器が多くの国に拡散しないようにするということもあった。核兵器の世界規模での管理体制構築が進められた。それによって、冷戦期は「長い平和(long peace)」と呼ばれるような状態を保つことができた(実際に戦争が起きた地域もあるが)。

 20世紀の核兵器開発技術に相当するのが、21世紀ではAIartificial intelligence、人工知能)である。AIの軍事転用は既に進んでいる。そのことも『トランプの電撃作戦』で取り上げている。20世紀に米ソ間で核兵器開発について管理(control)がなされたように、AIに関しても、管理なされるべきだというのが、キッシンジャーとアリソンの主張である。21世紀の管理は米中両国で行われることになる。そのためには米中間での対話が必要である。ドナルド・トランプ米大統領と習近平中国国家主席の間での対話が何よりも重要ということになる。

 『トランプの電撃作戦』で詳しく分析したが、米中露による新たな枠組みができつつある。アメリカ一極支配が終わる中で、アメリカと中露による世界管理ということになっていくだろう。詳しくは是非新刊をお読みいただきたい。

(貼り付けはじめ)

AI 軍備管理への道(The Path to AI Arms Control

-アメリカと中国は大惨事(Catastrophe)を回避するために協力する必要がある

ヘンリー・A・キッシンジャー、グレアム・アリソン筆

2023年10月13日

『フォーリン・アフェアーズ』誌

https://www.foreignaffairs.com/united-states/henry-kissinger-path-artificial-intelligence-arms-control

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上海で展示されるテスラのロボット(2023年7月)

※ヘンリー・A・キッシンジャー(HENRY A. KISSINGER):キッシンジャー・アソシエイツ会長。国家安全保障問題担当大統領補佐官(1969-1975年)、米国務長官(1973-1977年)を歴任。

※グレアム・アリソン(GRAHAM ALLISON):ハーヴァード大学ダグラス・ディロン記念政治学教授。著書に『戦争に進む運命:アメリカと中国はトゥキュディデスの罠を避けられるか?(Destined for War: Can America and China Escape Thucydides’s Trap?)』がある。

今年は、史上最も悲惨な戦争(the deadliest war in history)が終結し、近代において大国間戦争(great-power war)がなかった最長期間が始まってから78周年を迎える。なぜなら、第一次世界大戦のわずか20年後に第二次世界大戦が勃発したからであり、第三次世界大戦の亡霊(the specter of World War III)は、理論上全人類を脅かすほど破壊的となった兵器を使って戦い、その後の冷戦の数十年にわたって張り付いていたからである。アメリカによる広島と長崎の原爆を使用しての破壊により、日本は即時無条件降伏(Japan’s immediate unconditional surrender,)を余儀なくされたとき、世界が今後70年間にわたり核兵器の使用を事実上一時停止するとは誰も考えなかった。ほぼ80年後、核兵器保有国がわずか9カ国になるということは、さらにありそうもないことのように思えた。核戦争(nuclear war)を回避し、核拡散(nuclear proliferation)を遅らせ、数十年にわたる大国の平和をもたらした国際秩序の形成において、この数十年にわたってアメリカが示したリーダーシップは、アメリカの最も重要な成果の一つとして歴史に残るだろう。

今日、世界が別の前例のない、ある意味では更に恐ろしいテクノロジーである人工知能(artificial intelligence)によってもたらされる特有の課題に直面しているため、多くの人が歴史に教訓を求めているのは驚くべきことではない。超人的な能力を備えたマシンは、宇宙の支配者としての人類の地位を脅かすのだろうか? AIは集団暴力手段(means of mass violence)における国家の独占を弱体化させるだろうか? AIによって、個人や小集団が、これまで大国の権限であったような規模で人を殺すことができるウイルスを生成できるようになるのだろうか? AI は今日の世界秩序の柱である核抑止力(nuclear deterrents)を侵食する可能性があるだろうか?

現段階では、誰もこれらの質問に自信を持って答えることはできない。しかし、この2年間、AI革命の最前線に立つテクノロジー・リーダーたちと一緒にこれらの問題を探求してきた結果、AIの無制限な進歩がアメリカと世界に破滅的な結果をもたらすという見通しは非常に説得力を持ち、各国政府の指導者たちは今すぐ行動を起こさなければならないという結論に達した(we have concluded that the prospects that the unconstrained advance of AI will create catastrophic consequences for the United States and the world are so compelling that leaders in governments must act now)。彼らも他の誰も未来がどうなるかを知ることはできないが、困難な選択と行動を今日から始めるには十分なことが分かっている。

指導者たちがこうした選択をする際には、核時代に学んだ教訓がその決定に影響を与える可能性がある。何億人もの人々を殺害する可能性がある前例のないテクノロジーの開発と導入を競う敵対者たちでさえ、共通の利益が存在する島を発見した。二者独占(duopolists)として、アメリカとソ連の両国は、この技術が自国を脅かす可能性のある他の国家に急速に拡散するのを防ぐことに関心を持っていた。ワシントンとロシアは両国とも、核テクノロジーが自国の国境内で不正行為者やテロリストたちの手に渡った場合、脅威に利用される可能性があることを認識しており、それぞれが自国の兵器庫のために堅固な安全システムを開発した。しかし、敵対する社会の不正行為者が核兵器を手に入れれば、それぞれが脅される可能性もあることから、両者とも、このリスクを互いに話し合い、これが起こらないようにするために開発した慣行や技術について説明することが自分たちの利益になると考えた。米ソ両国の核兵器の保有量が、どちらも自滅する反応を引き起こさずに相手を攻撃できないレベルに達すると、相互確証破壊(mutual assured destructionMAD)という逆説的な安定性を発見した。この醜い現実が内面化されるにつれ、各勢力は自らを制限することを学び、戦争につながる可能性のある対立を避けるために敵対者を説得して自国の取り組みを抑制する方法を見つけた。実際、アメリカとソ連の両政府の指導者たちは、自国が最初の犠牲者となる核戦争を回避することが重大な責任であると認識するようになった。

今日 AI によってもたらされる課題は、単なる核時代の第2章ではない。歴史は、スフレを作るためのレシピを載せた料理本ではない。AI と核兵器の違いは、少なくとも類似点と同じくらい重要だ。しかし、適切に理解され、適応されれば、80年近く大国間戦争がなかった国際秩序の形成において学んだ教訓は、今日AIに立ち向かう指導者たちに利用できる最良の指針となる。

現時点では、AI 超大国は2つだけだ。最も洗練された AI モデルをトレーニングするために必要な人材、研究機関、大量のコンピューティング能力を備えているのはアメリカと中国だけだ。これは、AI の最も危険な進歩と応用を防ぐためのガイドラインを作成するための狭い機会を彼らに提供する。アメリカのジョー・バイデン大統領と中国の習近平国家主席は、おそらく11月にサンフランシスコで開催されたアジア太平洋経済協力会議の直後に首脳会談を開催することでこの機会を捉えるべきであり、そこでは、今日直面している最も重大な問題の1つと見るべきものについて、延長的で直接、対面で議論することができるだろう。

■核兵器時代からの様々な教訓(LESSONS FROM THE NUCLEAR AGE

1945年、原子爆弾が日本の都市を壊滅させた後、パンドラの箱を開けた科学者たちは、自分たちが作り出したものを見て恐怖に慄いた。マンハッタン計画の主任科学者ロバート・オッペンハイマーは、バガヴァッド・ギーター(Bhagavad Gita)の一節を暗唱した。「今、我は死神、世界の破壊者になれり(Now I am become Death, the destroyer of worlds.)」。オッペンハイマーは、原爆を制御するための過激な手段を熱烈に支持するようになり、機密保持資格(security clearance)を剥奪された。「ラッセル・アインシュタイン宣言(Russell-Einstein Manifesto)」は1955年、バートランド・ラッセルやアルバート・アインシュタインだけでなく、ライナス・ポーリングやマックス・ボルンなど11人の一流の科学者が署名し、核兵器の恐るべき威力を警告し、世界の指導者たちに決して核兵器を使用しないよう懇請した。

ハリー・トルーマン米大統領は、この決断について考え直すとは決して言わなかったが、彼も彼の国家安全保障ティームのメンバーたちも、この驚異的な技術を戦後の国際秩序にどのように組み入れることができるのか、実行可能な見解を持っていなかった。アメリカは、唯一の原子大国としての独占的地位を維持すべきなのか? それは可能なのか? その目的を達成するために、アメリカはソ連と技術を共有できるのか? この兵器のある世界で生き残るためには、指導者たちは各国政府よりも優れた権威を発明する必要があったのだろうか? トルーマンの陸軍長官であったヘンリー・スティムソン(ドイツと日本の勝利に貢献した人物)は、核兵器の拡散を防ぐ大国の「コンドミニアム(condominium)」を作るために、アメリカが独占している原爆をソ連の指導者ヨシフ・スターリンとイギリスの首相ウィンストン・チャーチルと共有することを提案した。トルーマンは、国務次官ディーン・アティソンを委員長とする委員会を設置し、スティムソンの提案を追求する戦略を練らせた。

アティソンは根本的にスティムソンに同意した。破滅的な戦争(catastrophic war)に終わる核軍拡競争を防ぐ唯一の方法は、原子兵器を単独で所有する国際機関を創設することである。そのためには、アメリカが核兵器の秘密をソ連や他の国連安全保障理事会のメンバーたちと共有し、核兵器を新しい国連の「原子力開発機関(atomic development authority)」に移譲し、全ての国が兵器を開発したり、兵器級の核物質を製造する能力を独自に構築したりすることを禁じなければならない。1946年に、トルーマンは、アティソンの計画を実現するための協定を交渉するため、金融家であり大統領顧問であったバーナード・バルークを国連に派遣した。しかし、この提案はソ連の国連代表アンドレイ・グロムイコによって断固拒否された。

3年後、ソ連が独自の(核)爆弾製造に成功すると、アメリカとソ連は人々が冷戦(Cold War)と呼び始めた時代、つまり爆弾と弾丸以外の競争に突入した。この競争の中心的な特徴は、核の優位性(nuclear superiority)を追求することでした。この2つの超大国の核兵器は、最盛期には6万発以上の兵器を備えており、その中には有史以来の全ての戦争で使用された、全ての兵器よりも爆発力の高い弾頭も含まれていた。専門家たちは、全面核戦争(all-out nuclear)が地球上の全ての生きている魂の終焉を意味するかどうかを議論した。

数十年にわたり、米政府とロシア政府は核兵器の開発に数兆ドルを費やしてきた。アメリカの原子力事業の現在の年間予算は500億ドルを超えている。この競争の初期の数十年間、米ソ両国は、決定的な優位性を獲得することを期待して、以前は想像もできなかった躍進を遂げた。兵器の爆発力の増加には、新しい指標の作成が必要だった。元の核分裂兵器のキロトン(1000トンの TNT が放出するエネルギーに相当)から、水素核融合爆弾のメガトン(100万トンが放出するエネルギーに相当)までだ。米ソ両国は、弾頭を30分以内に地球の反対側の標的に届けることができる大陸間ミサイル、数百マイルの高さで地球を周回する衛星を発明し、数インチ以内で標的の座標を特定できるカメラを搭載し、本質的に弾丸を弾丸で攻撃することができる防衛装置を発明した。ロナルド・レーガン大統領の言葉を借りれば、核兵器を「無力で時代遅れ(impotent and obsolete)」にする防衛を真剣に想像する専門家たちもいた。

■概念的な武器庫(THE CONCEPTUAL ARSENAL

こうした発展を形成しようとする中で、戦略家たちは第一撃と第二撃を区別する概念的な兵器を開発した。彼らは、確実な報復対応(retaliatory response)に不可欠な要件を明確にした。そして、敵が1つの脆弱性(vulnerability)を発見した場合でも、兵器の他の構成要素が壊滅的な対応に利用できるようにするために、潜水艦、爆撃機、地上発射ミサイルという核兵器の三本柱を開発した。兵器の偶発的または許可されていない発射のリスクが認識されたことで、許容アクションリンク (核兵器に埋め込まれた電子ロックで、適切な核発射コードがなければ作動しないようにする) の発明が促進された。冗長性(redundancies)は、指揮統制システム(command-and-control systems)を危険に晒す可能性のある技術革新(invention)から保護するために設計され、これがインターネットへと進化したコンピュータネットワークの発明の動機となった。戦略家ハーマン・カーンが有名な言葉で述べたように、彼らは「考えられないことを考えていた(thinking about the unthinkable)」ということになる。

核戦略(nuclear strategy)の中核にあるのは抑止(deterrence)の概念であり、考えうる利益に比例しないコストを脅し取ることで、敵の攻撃を防ぐことである。抑止を成功させるには、能力だけでなく信頼性も必要だと理解されるようになった。潜在的な犠牲者たちには、断固とした対応をとる手段(means)だけでなく、意志(will)も必要だった。戦略家たちは、この基本的な考え方をさらに洗練させ、拡大抑止(extended deterrence)などの概念を導入した。拡大抑止は、政治的メカニズム、すなわち同盟による保護の誓約(pledge of protection via alliance)を用いることで、主要諸国に自国の軍備を増強しないよう説得しようとするものであった。  

1962年、ジョン・F・ケネディ米大統領がソ連のニキータ・フルシチョフ書記長と、ソ連がキューバに配備した核弾頭ミサイルをめぐって対立したとき、米情報諜報機関は、ケネディが先制攻撃に成功したとしても、ソ連が既存の能力で報復し、6200万人のアメリカ人が死亡する可能性があると見積もっていた。1969年、リチャード・ニクソンが大統領に就任したとき、アメリカはアプローチを再考する必要があった。私たちの1人、キッシンジャーは後にこの課題について次のように述べている。「私たちが優勢だった時代に形成された防衛戦略は、新たな現実の厳しい光の下で再検討されなければならなかった。・・・いかなる好戦的なレトリックも、既存の核兵器備蓄が人類を破滅させるのに十分であるという事実を覆い隠すことはできない。・・・核戦争の惨事を防ぐこと以上に崇高な義務はない」。

この状態を明確にするため、戦略家たちは皮肉な頭文字をとってMADという言葉を作った。これは次のような意味である。「核戦争に勝つことはできない。だから決して戦ってはならない」。運用上、MADは相互確証脆弱性(mutual assured vulnerability)を意味した。米ソ両国はこの状態から逃れようと努めたが、最終的にはそれが不可能であることを認識し、米ソ両国の関係を根本的に再認識する必要があった。1955年、チャーチルは「安全が恐怖の丈夫な子供になり、生存が消滅の双子の兄弟になる(safety will be the sturdy child of terror, and survival the twin brother of annihilation)」という最高の皮肉を指摘した。価値観の違いを否定したり、重要な国益を損なったりすることなく、死闘を繰り広げるライヴァルは、全面戦争(all-out war)以外のあらゆる手段で敵を打ち負かす戦略を立てなければならなかった。

こうした戦略の柱の 1 つは、現在では軍備管理(arms control)として知られる、一連の暗黙的および明示的な制約だ。MAD 以前、各超大国が優位に立つためにあらゆる手を尽くしていたときでさえ、米ソ両国は共通の利益のある分野を発見していた。誤りを犯すリスクを減らすため、アメリカとソ連は非公式の協議で、相手国による領土監視(surveillance of their territory)に干渉しないことで合意した。放射性降下物から国民を守るため、大気圏内核実験(atmospheric testing)を禁止した。一方が、相手側が先制攻撃を仕掛けるだろうと確信して攻撃する必要性を感じる「危機不安定性(crisis instability)」を回避するため、米ソ両国は1972年の弾道弾迎撃ミサイル制限条約(Anti-Ballistic Missile Treaty)でミサイル防衛を制限することで合意した。1987年に調印された中距離核戦力全廃条約(Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty)では、ロナルド・レーガン大統領とソ連の指導者ミハイル・ゴルバチョフが中距離核戦力を廃止することで合意した。1972年と1979年に締結された条約の締結につながった戦略兵器制限交渉(Strategic Arms Limitation Talks)により、ミサイル発射台の増加は制限され、その後、1991年に締結された戦略兵器削減条約(Strategic Arms Reduction TreatySTART)と2010年に締結された新STARTにより、ミサイル発射台数は削減された。おそらく最も重大なことは、アメリカとソ連が、核兵器の他国への拡散は両国にとって脅威であり、最終的には核の無政府状態(anarchy)を招くリスクがあると結論付けたことだろう。米ソ両国は、現在核拡散防止体制(nonproliferation regime)として知られる体制を樹立した。その中心となるのが1968年の核拡散防止条約(Nuclear Nonproliferation Treaty)であり、現在186カ国がこの条約を通じて独自の核兵器の開発を控えることを誓約している。

AIをコントロールする(CONTROLLING AI

AIを封じ込める方法に関する現在の提案には、こうした過去の響きが数多く聞こえてくる。億万長者のイーロン・マスクによるAI開発の6カ月間の停止の要求、AI研究者のエリゼル・ユドコウスキーによるAI廃止の提案、心理学者ゲイリー・マーカスによるAIを世界政府機関が管理すべきという要求は、核時代に失敗した提案の繰り返しである。その理由は、いずれも主要国に自国の主権を従属させる(subordinate)必要があるからだ。競争相手が新技術を適用して自国の生存と安全を脅かすのではないかと恐れて、大国が自国でその技術の開発を放棄した例は歴史上ない。イギリスやフランスなどアメリカの緊密な同盟国でさえ、アメリカの核の傘に頼るだけでなく、独自の国家核能力の開発を選んだ。

核の歴史から得た教訓を現在の課題に応用するには、AI と核兵器の顕著な違いを認識することが不可欠だ。まず、核技術の開発は政府が主導したのに対し、AI の進歩を推進しているのは民間の起業家、技術者、企業だ。MicrosoftGoogleAmazonMetaOpenAI、そして少数の小規模なスタートアップ企業で働く科学者たちは、政府の類似の取り組みをはるかに上回っている。さらに、これらの企業は現在、間違いなく技術革新を推進しているが、コストがかかる、企業間の闘争に巻き込まれている。これらの民間主体がリスクと報酬の間でトレードオフを行うため、国家の利益が軽視されることは間違いないところだ。

第二に、AIはデジタルだ。核兵器は製造が難しく、ウラン濃縮から核兵器の設計まで全てを実行するには複雑なインフラストラクチャが必要だった。製品は物理的な物体であるため、数えることができる。敵の行動を検証できる場合は、制約が生じる。AIは、全く異なる課題を表している。その主な進化は人間の心の中で起こる。その適用性(applicability)は実験室で進化し、その展開を観察することは困難だ。核兵器は実体があるが、人工知能の本質は概念的だ(the essence of artificial intelligence is conceptual)。

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中国国旗とアメリカ国旗を示すスクリーン(北京、2023年7月)

第三に、AIが進歩し普及するスピードが速く、長期にわたる交渉は不可能であることだ。軍備管理は数十年かけて発展してきた。AI に対する制限は、AIが各社会の安全保障構造に組み込まれる前に、つまり機械が独自の目的を設定し始める前に行う必要がある。専門家の一部には、これは今後5年以内に起こる可能性が高いと指摘している。このタイミングには、まず国内、次に国際的な議論と分析、そして政府と民間部門の関係における新たなダイナミクスが必要だ。

幸いなことに、生成型AIを開発し、アメリカを主要なAI超大国にした各種大手企業は、株主だけでなく、国と人類全体に対しても責任があることを認識している。多くの企業がすでに、導入前にリスクを評価し、トレーニングデータの偏りを減らし、モデルの危険な使用を制限するための独自のガイドラインを作成している。トレーニングを制限し、クラウド コンピューティング プロバイダーに「顧客を知る(know your customer)」要件を課す方法を模索している企業もある。バイデン政権が7月に発表したイニシアティヴは、正しい方向への大きな一歩であり、7つの大手AI企業のリーダーをホワイト ハウスに招き、「安全、セキュリティ、信頼(safety, security, and trust)」を確保するためのガイドラインを確立するという共同誓約を行った。

私たち著者の1人であるキッシンジャーが『AIの時代(The Age of AI)』の中で指摘しているように、進化し、しばしば目を見張るような発明や応用がもたらす長期的な影響について体系的な研究を行うことが急務となっている。アメリカが南北戦争以来の分断状態(divided)にあるとはいえ、AIの無制限な進歩がもたらすリスクの大きさは、政府と企業の両リーダーに今すぐ行動を起こすことを求めている。新たなAIモデルを訓練するマスコンピューティング能力を持つ各企業と、新たなモデルを開発する各企業や研究グループは、その商業的AI事業がもたらす人間的・地政学的影響を分析するグループを作るべきだ。

この課題は超党派的なものであり、統一した対応が必要だ。大統領と連邦議会は、その精神に則り、民間部門、連邦議会、アメリカ軍、情報諜報機関の著名な超党派の元リーダーで構成される国家委員会(national commission)を設立すべきだ。国家委員会は、より具体的な義務的セーフガードを提案すべきだ。これには、GPT-4などのAIモデルのトレーニングに必要な大量コンピューティング機能を継続的に評価することや、企業が新しいモデルをリリースする前に極度のリスクに対してストレステストを行うことなどが含まれるべきだ。ルール策定の作業は困難だが、国家委員会は人工知能に関する国家安全保障委員会(National Security Commission on Artificial Intelligence)にモデルを置くことになるだろう。2021年に発表された委員会の勧告は、アメリカ軍と米情報諜報機関が中国とのAI競争で行っている取り組みに弾みと方向性を与えた。

■二大AI超大国(THE TWO AI SUPERPOWERS

アメリカが国内でAIを統制するための独自の枠組みを構築しているこの初期段階であっても、世界で唯一のもう1つのAI超大国と真剣な対話を始めるのに早すぎることはない。中国のテクノロジー分野の国家的リーダーである百度(Baidu、同国最大の検索エンジン)、バイトダンス(ByteDanceTikTokの制作者)、テンセント(TencentWeChatのメーカー)、アリババ(Alibaba、電子商取引のリーダー)は、中国の政治システムがAIにとって特に困難をもたらしているにもかかわらず、ChatGPTの独自の中国語版を構築している。中国は高度な半導体を製造する技術ではまだ遅れをとっているが、近い将来に先行するための基本技術を備えている。

バイデンと習近平は近い将来、AI軍備管理について私的な会話をするために会うべきだ。11月にサンフランシスコで開催されるアジア太平洋経済協力会議がその機会を提供してくれる。各首脳は、AIがもたらすリスクを個人的にどのように評価しているのか、壊滅的なリスクをもたらすアプリケーションを防ぐために自国は何をしているのか、国内企業がリスクを輸出しないよう自国はどのように保証しているのかについて話し合うべきだ。次回の協議に反映させるため、米中のAI科学者たちや、こうした進展の意味を考察してきたその他の人々で構成される諮問グループを設けるべきである。このアプローチは、他分野における既存のトラックII外交に倣ったものであり、政府の正式な承認はないものの、その判断力と公平性から選ばれた人物でグループを構成するものである。日米両政府の主要な科学者たちとの議論から、私たちはこれが非常に生産的な議論になると確信している。

この議題に関するアメリカと中国の議論と行動は、11月にイギリスが主催するAI安全サミットや国連で進行中の対話など、AIに関する新たな世界的対話の一部に過ぎない。各国が自国の社会の安全を確保しながら国民の生活を向上させるためにAIを採用しようとするため、長期的には世、界的なAI秩序(global AI order)が必要となる。その取り組みは、AIの最も危険で潜在的に破滅的な結果を防ぐための国家的取り組みから始めるべきである。これらの取り組みは、大規模なAIモデルの開発に携わる様々な国の科学者たちと、ここで提案されているような国家委員会のメンバーたちとの間の対話によって補完されるべきである。最初は先進的なAIプログラムを持つ国々の間での正式な政府交渉では、国際原子力機関に匹敵する国際機関とともに、国際的な枠組みを確立することを目指すべきである。

バイデンや習近平をはじめとする世界の指導者たちが、数十年前に核の脅威に対処した先人たちと同じように、AIがもたらす課題に真正面から向き合おうと今行動すれば、果たして成功するだろうか? 歴史という大きなキャンバスと今日の分極化の進展を見れば、楽観視することは難しい。それにもかかわらず、核保有国間の平和が78年続いたという白熱した事実は、AIの未来がもたらす革命的で避けられない課題を克服しようとする全ての人々を鼓舞するのに役立つはずだ。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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