古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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2024年1月に発表された、グレアム・アリソンの論稿をご紹介する。アリソンについては最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)で紹介しているので是非お読みいただきたい。この論稿はトランプが当選する10カ月ほど前に発表されたものであるが、非常に的を射ている内容である。この時期、当時の現職大統領であったジョー・バイデン(民主党)の支持率が上がらず、トランプの勢いが伸びているという状況で、日本でも「もしトラ(もしもトランプが大統領になったら)」という言葉が出ていた。日米、そして世界中のマスコミが一部を除いて、トランプの大統領返り咲きを多くの人々が「心配している」という論調だった。以下の論稿の内容をまとめると以下のようになる。

ドナルド・トランプ前大統領の再登場が懸念されており、彼がホワイトハウスに戻ることで、国際的な関係や政策に大きな影響を与える可能性がある。「トランプ・プット」と呼ばれる概念が出てきており、トランプの再登板が自分の国の利益を守る手段として機能するのではないかとの見方が広がっている。一方で、一部の国々はその影響に備え、「トランプ・ヘッジ」を試みる動きも見られる。特にプーティン大統領にとって、トランプが再び有利な条件で交渉する可能性が高いため、ウクライナ戦争の情勢は注視されている。

また、トランプの影響はヨーロッパの同盟国にも及び、彼らはアメリカの輸出依存からの脱却を模索する動きがある。特にドイツなどでは、自国の防衛を自ら強化すべきだとの声が上がっており、トランプとメルケルの関係から生じた教訓を忘れないようにしている。

COP28では、気候変動に関する国際的な合意が語られるが、現実には各国が化石燃料の使用を増加させている。トランプが再選される場合、気候政策は後退し、化石燃料の利用が促進される危険性が高まる。昨今の国際会議では、トランプの復帰による変化への期待感が広がっており、それが政策に影響を与えつつある。

トランプの2期目は、さらに大胆な貿易政策を進めることが予想されていて、昨今のアメリカの貿易政策は中国との対立が中心となっており、自国の生産依存を無くす動きが強まっている。一方で、世界貿易秩序が崩壊する可能性についても懸念が高まっており、この状況は国際的な経済活動に直接的な影響を与える。

トランプ政権の政策は移民問題にも波及しており、国境を閉ざすことが再び強調される中、アメリカの政治の変化は他国にとって脅威となっている。トランプの選挙運動は国境管理を強化することで票を集める戦略であり、これは国際的にも大きな波紋を呼んでいる。

歴史的に外交における二党間の協力はあったが、近年はそれが難しくなっており、国際関係は不確実性を増している。各国のリーダーたちは、次期アメリカ大統領の影響が自国にとって何を意味するのかを注視し、アメリカの内政が国際的な安定にどう影響するのかを見極める必要がある。このように、2024年のアメリカ大統領選挙が神経を尖らせる要因となっている。

 実際に、2024年11月の大統領選挙でトランプが勝利し、132年ぶりの大統領返り咲きを果たした。アリソンがトランプ政権発足を予測し、それに伴う世界各国の動きを予測して書いているのだが、その内容の正確さには驚くばかりだ。トランプの出現を利用して、自国の利益につなげようという「トランプ・プット」という考え方は非常に重要だ。これくらいのしたたかさが必要である。日本も是非「トランプ・プット」を実行して欲しい。

(貼り付けはじめ)

トランプは既に地政学を作り直している(Trump Is Already Reshaping Geopolitics

-アメリカの同盟諸国と敵対諸国は彼の復帰の可能性にどう反応しているか。

グレアム・アリソン筆

2024年1月16日

『フォーリン・アフェアーズ』誌

https://www.foreignaffairs.com/united-states/trump-already-reshaping-geopolitics

2008年に発生した大規模金融危機前の10年間、連邦準備制度理事会(FRB)のアラン・グリーンスパン議長はワシントンで事実上の半神(a virtual demigod)となった。アリゾナ州選出のジョン・マケイン連邦上院議員は後に有名になった助言を行い、「彼が生きているか死んでいるかは問題ではない。死んでいるのなら、彼を支えて黒い眼鏡をかけさせればいい」と述べた。

グリーンスパンが議長を務めた1987年から2006年までの20年間、FRBはアメリカ経済が加速的に成長した時期において中心的な役割を果たした。グリーンスパンの名声の源泉の1つは、金融市場が「FRBプット(Fed put)」と呼ぶものだった。(プット」とは、一定の期日まで固定価格で資産を売却する権利を所有者に与える契約のことだ)。グリーンスパンの在任中、投資家たちは、金融工学技術者たち(financial engineers)が作り出す新商品がいかにリスキーであっても、何か問題が起きれば、グリーンスパンのFRBが救援に駆けつけ、株価がそれ以下に下落することを許さない床を提供してくれると信じるようになった。その賭けは報われた。ウォール街の住宅ローン担保証券(Wall Street’s mortgage-backed securities)とデリヴァティヴ(derivatives)がリーマン・ブラザーズの破綻を招き、2008年の金融危機が大不況の引き金となった際に、米財務省とFRBは経済が第二の大恐慌に陥るのを防ぐために介入した。

2024年のアメリカ大統領選挙が既に世界各国の意思決定に与えている影響を考えるとき、そのダイナミズムを思い起こす価値がある。指導者たちは今、1年後にドナルド・トランプ前米大統領が実際にホワイトハウスに戻ってくる可能性があるという事実に目覚め始めている。したがって、一部の外国政府は、「トランプ・プット(Trump put)」として知られるようになるかもしれないものをアメリカとの関係に織り込みつつある。トランプ大統領が事実上、自国にとって事態がどの程度悪化するかという下限を設定することになるため、1年後にはワシントンとより良い交渉ができるようになるだろうと期待して、選択を遅らせようとしている。これとは対照的に、「トランプ・ヘッジ(Trump hedge)」とでも呼ぶべきものを探し始めている人々もいる。トランプ大統領の復帰によって、より悪い選択肢が残される可能性が高いと分析し、それに応じて準備を進めているのだ。

●過去の大統領たちの亡霊(THE GHOST OF PRESIDENCIES PAST

ロシアのウラジーミル・プーティン大統領の対ウクライナ戦争における計算は、トランプ大統領の置き土産を鮮やかに示している。ここ数カ月、ウクライナ情勢が膠着状態に陥るにつれ、プーティンは戦争を終わらせる用意があるのではないかとの憶測が広がっている。しかし、トランプ・プットの結果、来年の今頃も戦争が続いている可能性の方がはるかに高い。ウクライナ人の中には、また厳しい冬がやってくる前に停戦を延長するか、あるいは休戦協定を結んで殺戮を終わらせたいと考えている人もいるが、プーティンはトランプが 「1日で (in one day)」戦争を終わらせると約束したことを知っている。トランプの言葉を借りれば 「私は(ウクライナのヴォロディミール・)ゼレンスキー大統領に言うだろう。もこれ以上(の支援)はない。あなたは取引をしなければならない」。1年後、トランプは、ジョー・バイデン米大統領が提示する条件やゼレンスキー大統領が今日合意する条件よりもはるかにロシアに有利な条件を提示する可能性が高いため、プーティンは待つだろう。

対照的に、ヨーロッパにあるウクライナの同盟諸国は、トランプのヘッジを考慮しなければならない。戦争が2年目の終わりに近づくにつれ、ロシアの空爆や砲撃による破壊と死者の写真が連日報道され、戦争は時代遅れになった(war has become obsolete)というヨーロッパ人の持つ幻想(European illusions)が覆されている。予想通り、これはNATO同盟とそのバックボーンである、攻撃された同盟国を防衛するというアメリカの関与に対する熱意の復活(a revival of enthusiasm)につながった。しかし、トランプがバイデンを上回るという世論調査の結果が報道されるにつれて恐怖が高まっている。特にドイツ人は、アンゲラ・メルケル前首相がトランプ大統領との苦い出会いから得た結論を覚えている。彼女が言ったように、「私たちは自分たちの未来のために自分たちで戦わなければならない(We must fight for our future on our own)」ということだ。

ロシアよりも3倍の人口と9倍以上のGDPを持つヨーロッパの共同体が、なぜ自国の防衛をワシントンに依存し続けなければならないのかという疑問を呈したアメリカの指導者はトランプだけではない。2016年に『アトランティック』誌の編集長ジェフリー・ゴールドバーグが行った、よく引用されるインタヴューにおいて、バラク・オバマ元米大統領は、ヨーロッパ諸国(およびその他の国々)を「ただ乗りの奴ら(free riders)」と痛烈に批判した。しかし、トランプはそれ以上のことをした。当時、トランプ大統領の国家安全保障問題担当大統領補佐官だったジョン・ボルトンによると、トランプは2019年の会議でNATOからの完全撤退(withdrawing from the alliance altogether)について真剣に話し合った際、「NATOのことなどどうでもいい(I don’t give a shit about NATO)」と述べたということだ。部分的には、トランプの脅しは、ヨーロッパ諸国に自国の防衛について、GDPの2%を費やすという約束を果たさせるための交渉の策略だったが、それはあくまで一部に過ぎなかった。ジェイムズ・マティス国防長官は、アメリカの同盟諸国の重要性についてトランプ大統領を説得しようとして、2年間も継続的に試みたが、その後、大統領との意見の相違があまりにも深く、もはや長官を務めることはできないとの結論に至り、2018年に提出した辞表の中で、その立場を率直に説明した。現在、トランプ大統領の選挙運動ウェブサイトは「NATOの目的とNATOの使命を根本的に再評価する(fundamentally reevaluating NATO’s purpose and NATO’s mission)」ことを求めている。ウクライナにどれだけの戦車や砲弾を送るかを検討しているヨーロッパの一部の国々は、11月にトランプ大統領が当選した場合、自国の防衛にそれらの兵器が必要になる可能性があるかどうかについて再検討を始めている。

先ごろドバイで閉幕したCOP28気候変動サミットでも、トランプ大統領への期待が働いた。歴史的に、気候変動問題に対処するために各国政府が何をするかについてのCOP合意は、願望が長く、実績が不足していた。しかし、COP28は、「化石燃料からの脱却(transition away from fossil fuels)」という歴史的な合意を宣言し、より非現実的な空想を拡大した。

現実的には、署名した国々は全く逆のことをしている。石油、ガス、石炭の主要な生産者と消費者は現在、化石燃料の使用を減らすのではなく、増やしている。しかも、見渡す限り先までそうし続けるための投資を行っている。世界最大の石油生産国であるアメリカは、過去10年間毎年生産量を拡大しており、2023年には生産量の新記録を樹立している。温室効果ガス排出量世界第3位のインドは、石炭を中心とした国家エネルギー計画によって、優れた経済成長を遂げている。この化石燃料はインドの一次エネルギー生産の4分の3を占めている。中国は、「グリーン」な再生可能エネルギーと 「ブラック」な汚染石炭の両方を生産するナンバーワンの国である。2023年に中国が設置したソーラーパネルの数は、過去50年間にアメリカが設置した数よりも多いが、その一方で、現在、世界の他の国々と合計した数の6倍もの石炭発電所を新たに建設している。

従って、COP28では2030年以降の目標について多くの誓約がなされたものの、今日、各国政府に費用のかかる不可逆的な行動を取らせようとする試みには抵抗があった。トランプ大統領が復帰し、「掘って掘って掘りまくれ(drill, baby, drill)」という選挙公約を追求すれば、そのような行動は不要になることを指導者たちは知っている。COP28のバーで飛び交った悪いジョークは次のようなものだった。「化石燃料からの脱却を目指すCOP28の明言されていない計画とは? それは、COP28woできるだけ早く燃やし尽くすことだ」。

●混乱した世界(A DISORDERED WORLD

トランプ政権の2期目は、新たな世界貿易秩序(a new world trading order)、あるいは混乱(disorder)を約束する。2017年の大統領就任初日、トランプは環太平洋パートナーシップ貿易協定(Trans-Pacific Partnership trade agreement)から離脱した。その後数週間で、ヨーロッパの同等の協定やその他の自由貿易協定の創設に向けた協議は終了した。1974年通商法第301条が行政府に与えた一方的権限を利用して、トランプは3000億ドル相当の中国輸入品に25%の関税を課した。バイデンはトランプが課した関税をほぼ維持している。トランプ政権の貿易交渉担当者ロバート・ライトハイザー(トランプ陣営がこれらの問題に関する主任顧問としている)が最近出版した著書『自由な貿易などない(No Trade Is Free)』で説明したように、トランプ政権の2期目は1期目に比べてはるかに大胆なものになるだろう。

現在の選挙活動において、トランプは自らを「関税男(Tariff Man)」と呼んでいる。トランプ大統領は、全ての国からの輸入品に一律10%の関税を課し、アメリカ製品に高い関税を課している国と同額の関税を課すと約束し、「目には目を、関税には関税を(an eye for an eye, a tariff for a tariff)」と約束している。バイデン政権が交渉したアジア太平洋諸国との協力協定であるインド太平洋繁栄経済枠組(the Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity)は、トランプ大統領によれば「初日から機能不全に陥る(dead on day one)」という。ライトハイザーにとって、中国はアメリカの保護貿易措置の中心的な標的となる「致命的な敵(lethal adversary)」である。中国が世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)加盟に先立ち、2000年に認められた「恒久的正常貿易関係(permanent normal trading relations)」の地位の取り消しから始まり、電子機器、鉄鋼、医薬品など「全ての重要分野で中国への依存をなくす(eliminate dependence on China in all critical areas)」ことがトランプ大統領の目標となる。

貿易は世界経済成長の主要な原動力であるため、指導者の多くは、アメリカの取り組みがルールに基づく貿易秩序を本質的に崩壊させる可能性はほとんど考えられないと考えている。しかし、彼らの顧問の中には、アメリカが他国に中国との分離を強いるよりも、世界貿易秩序から自ら分離する方が成功する可能性がある未来を模索している者もいる。

貿易の自由化(trade liberalization)は、世界中の人々の自由な移動(freer movement of people)ももたらした、より大きなグローバライゼイション(globalization)のプロセスの柱となっている。トランプは、新政権の初日に、最初の行動として「国境を閉鎖する(close the border)」と発表した。現在、毎日1万人を超える外国人がメキシコからアメリカに入国している。バイデン政権の最大限の努力にもかかわらず、連邦議会は、中米などからのこの大量移民を大幅に減速させる大きな変更を行わない限り、イスラエルとウクライナへの更なる経済支援を承認することを拒否している。選挙活動中、トランプはバイデンがアメリカの国境を安全に守れなかったことを大きな問題にしている。トランプ大統領は、数百万人の「不法外国人(illegal aliens)」を一斉に取り締まる計画を発表しており、これは「アメリカ史上最大の国内強制送還作戦(the largest domestic deportation operation in American history)」と呼んでいる。メキシコ大統領選の期間中であるメキシコ国民は、北と南の国境を越えて何百万人もの人々が押し寄せ、自国が圧倒されるかもしれないというこの悪夢を表現する言葉をまだ探している。

●更なる4年(FOUR MORE YEARS

歴史的に見れば、主要な外交問題における民主・共和両党の相違は、「政治は水際で止まる(politics stops at the water’s edge)」と言えるほどささやかなものだった。しかし、この10年はそのような時代ではない。外交政策担当者やその海外関係者にとっては有益ではないかもしれないが、アメリカ合衆国憲法は、ビジネスの世界では敵対的買収の試み(an attempted hostile takeover)に相当するものを4年毎に予定している。

その結果として、気候や貿易、NATOのウクライナ支援に関する交渉から、プーティンや中国の習近平国家主席、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子を説得する試みまで、あらゆる問題でバイデンと彼の外交政策ティームは、相手国が1年後に全く異なる政府を相手にしている可能性とワシントンの約束や脅しを天秤にかけるため、ますますハンディキャップを背負うことになる。今年は、世界各国が不信と恍惚と恐怖と希望(disbelief, fascination, horror, and hope)を織り交ぜてアメリカの政治を見守る危険な年になることが予想される。彼らは、この政治劇場が次期米大統領というだけでなく、世界で最も影響力のあるリーダーを選ぶことを知っている。

※グレアム・アリソン:ハーヴァード大学ケネディ記念行政大学院ダグラス・ディロン記念政治学教授。著書に『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ(Destined for War: Can America and China Escape Thucydides’s Trap?)』がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める