古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 ロバート・D・カプランと言えば、地政学の専門家として日本でも著書が翻訳されている著名な文化人である。カプランはトランプについて、アメリカ史上初の本を読まない大統領と呼んでいる。そして、本を読まないので歴史の知識もない、だからNATOの解体などを簡単に述べるのだと批判している。NATOは確かに、ナチス・ドイツがもたらした惨禍と第二次世界体制後の冷戦期のソ連の脅威の時代には現実感をもって受け入れられた。しかし、現在ではその存在意義は薄れている。ウクライナ戦争があったではないかという反論もあるだろうが、アメリカや西側諸国が火遊びをしなければ、ロシアを挑発しなければ戦争は起きなかった。カプランはトランプがNATOの歴史的な意義を全く理解していないと述べているが、NATOの意義はどこにあるのか逆に聞きたいほどだ。

ロバート・D・カプラントランプ政権のアプローチは、北米大陸の自給自足的な視点に偏っており、近隣諸国に求める期待などなく、国家間の連携が求められている現代のリーダーシップとは乖離していると指摘している。更に、ヨーロッパは、ロシアの脅威や中東情勢も絡む複雑な背景の中、トランプの施策により軽視されていると感じる面もある。彼が指導者としての歴史的な視点を欠いていることで、ヨーロッパからの期待とアメリカの対応には乖離が生まれている。トランプが主導する政治の中で、NATOの重要性が失われていく可能性があり、その結果としてヨーロッパの安定に悪影響を及ぼす状況が懸念されるとカプランは述べている。

 カプランは「北米大陸の自給自足的な視点に偏っており」と述べているのが重要だ。私はこの点を、最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)で、「トランプのモンロー主義」と形容した。トランプと彼を支持するアメリカ人たちはヨーロッパから、そして世界から撤退したいのだ。そして、南北アメリカ大陸を勢力圏にして生きていくということにしたい。世界帝国になるなんてまっぴらごめんということだ。存在意義のないNATOにいつまでも入っていても意味はない。お金の無駄だということになる。それを歴史的な意義を理解できない、本を読まない大統領などと批判するのは愚の骨頂だ。

(貼り付けはじめ)

トランプの新しい地図(Trump’s New Map

-アメリカ初の本を読まない(post-literate)大統領は地理にだけ頼ることになるだろう。

ロバート・D・カプラン筆

2025年2月25日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/02/25/trump-america-panama-greenland-canada-nato-europe-geography/

2011年6月、当時のロバート・M・ゲイツ米国防長官はブリュッセルで予言的な演説を行った。その中で、ゲイツは、アメリカのヨーロッパの同盟諸国に対し、自国の安全保障のために大幅な負担増を始めなければ、NATOはいつの日か過去のものとなるかもしれないと警告を発した。ゲイツ国防長官は、「NATOが合意した国防支出の基準を満たすよう、同盟諸国に対して、非公式にも公式にも、しばしば苛立ちを露わにして促してきた、歴代の米国防長官の中で、自分は最新の人物に過ぎない」と発言した。

当時、NATO加盟28カ国のうち、2006年に誓約したように年間防衛費をGDPの2%以上支出していたのは、アルバニア、イギリス、フランス、ギリシャ、アメリカの5カ国だけだった。この状況が劇的に変化しない限り、「アメリカの政治体制全体(American body politic writ large)」の間でヨーロッパを防衛しようという「意欲は減退していくだろう(dwindling appetite)」とゲイツは語った。

ヨーロッパに変化は訪れたが、おそらくそのスピードは十分ではないだろう。現在、NATO加盟国の3分の2は2%という基準を満たしている。しかし、ロシアのウクライナ戦争やドナルド・トランプ米大統領による同盟諸国への5%への増額要求などを考慮すると、ヨーロッパにはまだ長い道のりが待っている。トランプ大統領は以前からNATOを軽蔑してきた。昨年は、防衛費を増やさないNATO諸国に対しては、ロシアに「やりたい放題(do whatever the hell they want)」を奨励すると発言した。一方、JD・ヴァンス副大統領は、ヨーロッパ連合(EU)がイーロン・マスクのビジネスプラットフォームを規制しようとすれば、アメリカはNATOへの支援を取りやめる可能性があると述べた。

予算配分をめぐる意見の相違は、より深遠な問題を指し示している: トランプやヴァンスのポピュリスト的なレトリックに見られるように、あまりにも多くのアメリカ人が、ヨーロッパを守ることに深い関心を持たなくなっている。

アメリカのヨーロッパに対する態度の変化は驚くべきことではない。NATOは80年近く存続している。情報、経済、空の旅、移民パターン、そしてアイデンティティ自体に影響を与えた急速な技術革新の時代にあってはなおさらだ。

第二次世界大戦直後にNATOが設立された当時、アメリカは世界の製造能力全体(all global manufacturing capacity)の半分以上を占め、世界を支配していた。この数字は、現在では16%にまで減少している。結局のところ、当時のヨーロッパの各都市は空爆で煙を上げており、ヨシフ・スターリンのソ連は西ヨーロッパにとって致命的な脅威として迫っていた。数十年の間に、この力学は進化した。ヨーロッパは、その安全保障の大部分をアメリカが賄い、羨望を集める社会福祉国家を建設し、市民は豊かな生活を享受した。スターリンが死に、西側諸国はソビエトとのデタント(detente)を達成した。ソビエト連邦は後に崩壊した。

NATOが冷戦とロシア帝国主義の再興後の数十年間を生き延びたのは、西側諸国におけるポピュリズム(populism)とアイデンティティ政治(identity politics)の台頭を含むが、NATOが第二次世界大戦と冷戦初期を強く記憶しているか、あるいは記憶している人々とともに育ち、尊敬している人々によって率いられていたからである。しかし、その生きた歴史的記憶(living historical memory)は蒸発しつつある。その過程でアメリカ人は、ヨーロッパ人があまりにも長い間軽視してきた、自国のアイデンティティのもっと古く、古風な側面を再発見した。ヨーロッパは、アメリカが大西洋だけでなく太平洋にも面する大陸であることを常に知っていたが、自らの行動に影響を与えるほどその知識を十分に内面化したことはなかった。

少なくとも20世紀初頭以来、アメリカのアイデンティティは、地理的なものとウィルソン的なものの2つの現象によって形成されてきた。1つは地理的なもので、もう1つはウィルソン的なものである。地理的なものは自明のことのように思えるが、多くの人々(特にヨーロッパのエリート)にとってはそうではない。

アメリカ合衆国の大部分を占める北アメリカの温帯地域は、東海岸沿いの深水港(deep-water ports)や、アパラチア山脈を抜けて広大な大草原の肥沃な土壌に至る航路など、国家として完璧な配分となっている。現在グレートプレーンズ(the Great Plains)として知られる、水不足のグレートアメリカンデザート(the water-starved Great American Desert)は、まさに自然の障壁として出現したが、大陸横断鉄道(a transcontinental railroad)が建設され、ロッキー山脈を抜けて太平洋まで人口を運ぶことができた。地理が、2つの海で外界から隔てられた団結している国家(a cohesive nation)を作り上げ、その内部では多くの問題や可能性が渦巻いており、世界の他の部分は不明瞭なままであった。

しかし、ひとたび太平洋に到達すれば、フロリダとテキサス間のメキシコ湾岸は言うに及ばず、海岸線は1本ではなく2本になる。これによってヨーロッパとアジアの両方に大きな海上連絡路が開かれ、外界との活発な貿易が可能になった。

ここで、アメリカのアイデンティティのもう1つの側面であるウィルソン主義(Wilsonianism)が登場する。これは、アメリカの領土をはるかに超えた場所での自由の達成の実現がアメリカ自体の安全保障にとって不可欠である(seeing the achievement of freedom far beyond U.S. shores as essential to the country’s own security)と考えるイデオロギーの略称である。第28代米大統領ウッドロー・ウィルソンは、第一次世界大戦後にアメリカを国際秩序(an international order)に組み込むことはできなかったが、蒸気船や航空機の登場でアメリカがヨーロッパにかなり近づき始めたちょうどその頃、アメリカが目指すべき目標を作った。ヨーロッパ大陸の大部分に自由と民主政治隊の砦を築くこと(establishing a bastion of freedom and democracy)というウィルソンの理想が実現したのは、第二次世界大戦とその後の混乱を経て、ワシントンが世界有数の大国となったときだった。

戦後、これら全てが明確で望ましいと考えられたが、地理的にはまったく自然ではなかった。アメリカがより良い世界のために払った犠牲についての知識と、ワシントンのヨーロッパのルーツに基づく歴史的親族関係[historical kinship](血や土地よりも哲学的なルーツ)が必要だった。これら全ては必読だったが、エリートたちはそれを当然のこととして受け止めているが、そうすべきではない。80年が経過した今、この伝統は書籍と教育を通じてのみ評価できる。大西洋同盟(the Atlantic alliance)の設立の生きた記憶(lived memory)は消え、冷戦(the Cold War)も人々の意識から消えつつあるからだ。

トランプはこの伝統の継承者(an heir to this tradition)ではない。彼は実際に本を読まない(He doesn’t really read)。彼は読まない(post-literate)のだ。つまり、ソーシャルメディアとスマートフォンの世界に生きているが、表面的にも、物語の歴史の研究(the study of narrative history)に没頭していないのだ。

したがって、トランプは西側諸国の戦後の物語を理解していない。NATOは彼にとって単なる頭字語の集まった単語でしかなく、ナチス・ファシズムとの戦いから生まれた人類史上最大の軍事同盟の意味合いを知らない。彼は、1941年8月にカナダのニューファンドランド沖でフランクリン・D・ルーズベルト米大統領とウィンストン・チャーチル英首相が署名した大西洋憲章(the Atlantic Charter)において、戦後世界に対する刺激的なヴィジョンを示したことや、アヴェレル・ハリマンやジョージ・ケナンなどの偉大なアメリカの外交官や政治家たちによる戦後秩序の構築について、おそらく何も知らない。

アメリカの外交政策エリートは、そのような刺激的な歴史で経験を積んできた。トランプと彼の支持者たちは、おそらくその多くを知らない。そして、テクノロジーの進化により、彼は彼のようなタイプの大統領の最後ではないかもしれない。

トランプは歴史に疎い(ahistorical)ので、彼にとって頼りになるのは地理だけだ(he has only geography to fall back upon)。彼はアメリカを独立した大陸として想像し、グリーンランドやパナマなどの比較的近い場所を、獲得すると誓った場所として認識している。トランプの考えでは、グリーンランドとパナマ運河は、特に北極圏での海軍活動が増えるであろう時代に、アメリカの地理の論理の有機的な延長である。

考慮すべきもう1つの要素は、テクノロジーが地理自体を縮小していることである。これは非常に緩やかであるため、見逃しやすい変化である。世界のある地域の危機は、これまでにないほど他の地域の危機に影響を与える可能性がある。博学で歴史に詳しい人は、この進展をアメリカが世界中で同盟を強化する理由と見なす。しかし、トランプ大統領のより原始的で決定論的な世界観では、永久に紛争が続く閉塞的な世界において、地域的な影響圏(regional spheres of influence)を強化する時なのだ。

トランプが頭の中に置いているであろうと考えられるのは、パナマ運河からグリーンランドまで、カナダがアメリカに従属する広大な北米大陸であるようだ。トランプの神話によれば、明白な運命(Manifest destiny)が今や完成し始めている。かつては北米の温帯地域を東から西まで征服することを意味していたものが、今では北から南まで征服することを意味している。トランプがメキシコ湾を「アメリカ湾」と改名しようとしていることが全てを物語っている。

ヨーロッパにとっては、東のロシアの脅威と、南の中東やアフリカからの移民に対する政治的混乱に脅かされ、弱体化し、分裂が進んでいる。2018年の著書『マルコ・ポーロの世界の復活(The Return of Marco Polo’s World)』の中で私が書いたように、「ヨーロッパが消えるにつれ、ユーラシアは一体化する([a]s Europe disappears, Eurasia coheres)」。ヨーロッパは最終的にユーラシアの勢力システムと融合すると私は説明した。ロシアを中国、イラン、北朝鮮との同盟関係を深めたウクライナ戦争は、この理論を裏付けている。今日の小さな世界では、ヨーロッパはアフロ・ユーラシアの激動から切り離すことができず、トランプの新しい地図の中では価値が下がっている。ウィルソン主義が死ぬと、このようなことが起こる。

長年にわたり、ヨーロッパの人々は、アメリカが中国やその他の東アジア諸国に過剰な関心を寄せていることを懸念してきた。問題はそれよりも深い。トランプ大統領は中国をアメリカと同じように独自の大陸、勢力ブロック(power bloc)と見なしているようだ。トランプ米大統領は中国と貿易戦争(a trade war)をするかもしれないし、しないかもしれない。北京との関係を改善しようとするかもしれない。NATOやヨーロッパ連合(EU)があるにもかかわらず、ヨーロッパが十分に結束していないのとは対照的だ。

トランプはエリートとそのプロジェクトも嫌っている。そして、NATOは究極のエリートプロジェクトだ。NATO加盟国が2011年にゲイツの叱責を真摯に受け止め、もっと早く防衛予算を増額していれば、トランプの今の気持ちは違っていたかもしれない。たとえそうしなかったとしても、少なくともNATO同盟諸国に対して使える比較的小規模なヨーロッパの防衛予算という武器は持たず、トランプの主張は著しく弱まるだろう。

一方、アメリカ初の本を読まない(post-literate)大統領は、1941年にワシントンがヨーロッパを救出して以来、ヨーロッパが直面したことのない課題を示唆している。冷戦と、かつての捕虜だった中欧・東欧諸国がNATOに加盟した冷戦の余波は、将来、平穏な時代として立ちはだかるかもしれない。

※ロバート・D・カプラン:『荒地:永続的な危機に瀕した世界(Waste Land: A World in Permanent Crisis)』の著者。外交政策研究所(Foreign Policy Research Institute)ロバート・シュトラウス・フーペ記念地政学部門長を務める。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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