古村治彦です。※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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2025年1月20日に実施された第47代米大統領ドナルド・トランプの就任式には、彼を嫌い、民主党を支持してきた、シリコンヴァレーのテック産業の大立者たちが神妙な面持ちで、かつ時には目は笑っていない笑顔を見せていた。アマゾンのジェフ・ベゾス、META(フェイスブック)のマーク・ザッカーバーグなど、トランプを自分たちの提供するサーヴィスから排除してきた人物たちが進んで、就任式の費用の一部の負担(寄付)を申し出て、式へ出席した。逆に、イーロン・マスクにとっては彼らを並べて悦に入れる時間だった。私は最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)で、テック産業の大物たちの「降伏式」と形容した。ピーター・ティールは式には出席しなかったが、祝賀パーティーを開いたということだ。ピーター・ティールがトランプから離れたという見立ては間違っている。彼の不在が注目されることこそが彼の存在の大きさを物語る。
左から:プリシラ・チャン(ザッカーバーグ夫人)、マーク・ザッカーバーグ、ローレン・サンチェス(ベゾス婚約者)、ジェフ・ベゾス、サンダー・ピチャイ(Google CEO)、イーロン・マスク
下記論稿では、「どうしてシリコンヴァレーのテック産業の億万長者たちがトランプに敬意を表するのか(よりあからさまな表現をするならば靴を舐めるのか)?」という視点から書かれている。彼らの行動には2つの介錯ができると論稿の著者マット・K・ルイスは述べている。それは、「トランプに屈服しているか、あるいはトランプを利用して自分たちの利益を追求する長期的な戦略を取っているか」である。
億万長者たちが求めているのは低税率や規制緩和、低賃金労働へのアクセスであるが、それだけではなく、彼らの興味はブロックチェインやAI、トランスヒューマニズムに向かっており、これらの目標は米国の根本的な理念を脅かす可能性がある。アネンバーグ技術革新ラボのジョナサン・タプリンは、著書で彼らのヴィジョンを詳細に描写し、ザッカーバーグのメタバースやマスクの火星植民地化、ティールの若返りの探求が、根本的な平等の理想を脅かすと警告しているということだ。
それは、富の格差がますます広がるトランスヒューマニズムの未来が想像されることだ。この状況は、自由民主政治体制や人間性、急速に進化する技術の将来に関して重要な疑問を投げかけている。タプリンは、これらの変化に対抗するためにはポピュリスト右派とも協力が必要であると述べ、スティーヴ・バノンが「テクノ封建主義(technofeudalism)」に対する懸念を表明していることを引き合いに出している。彼の警告には、権力が人々を恐れさせる要因であるとの指摘も含まれている。
今日ではテック業界の巨人たちが文化的、政治的議論において主導的な役割を果たしており、彼らの姿は昔のオタクとは異なっている。今や彼らは、豪華なライフスタイルを送り、権力を誇示する存在となっている。オタクたちが社会を動かす時代に突入しているが、その行く先には懸念が残る。彼らが持つ力によって、社会全体にどのような影響が及ぶのか、引き続き注視していく必要がある。
人間の生活や社会の構成を大きく変更させるだけの力を持つ技術をシリコンヴァレーのテック産業の大物たち(元はオタクと馬鹿にされていた)が持つようになった。彼らの野望が実現すれば、社会は平等ではなくなり、そうなれば民主政治体制の基盤も揺らぐという指摘である。既に、静養が培ってきた価値観や民主政治体制が大きく揺らいでいる。私は佐藤優先生との対談『世界覇権国
交代劇の真相』(秀和システム)の中で、ストロングマン(strong man)を人々が求めることで、民主政治体制が揺らぐと主張した。「テクノ封建制」と呼ばれる動きがその動きを加速させることになる。そして、シリコンヴァレーの億万長者たちが「テクノ封建制」を推進するために、大嫌いなトランプに協力するということは大いにあると私は考える。
(貼り付けはじめ)
どうしてテック業界の億万長者たちはトランプに敬意を表しているのか?(Why
exactly are tech billionaires kissing Trump’s ring?)
マット・K・ルイス筆
2025年1月22日
『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/opinion/technology/5098642-why-exactly-are-tech-billionaires-kissing-trumps-ring/
今週行われたトランプ大統領の2回目の就任式について、シリコンヴァレーの「寡頭支配者たち(oligarchs)」、イーロン・マスク、マーク・ザッカーバーグ、ジェフ・ベゾス、ピーター・ティール(就任式には出席しなかったが就任式パーティーを開いた)とその仲間たちが、トランプのご機嫌を取ろうとしてこびへつらい神妙に並んでいる(to curry favor)のに気づくことなしに、その様子を見ることはできなかった。
以前、超富裕層の究極の願望(the ultimate aspiration of
the ultra-wealthy)は、社会的制約を超えて活動できるだけの「薄汚い金(F-you money)」を蓄えることだった。現在、テック業界の巨人たちは、連邦政府の力に絡め取られ、金銭的にも大きな問題を抱えているため、トランプ大統領に敬意を表せざるを得ないようだ(they seem compelled to kiss the ring)。
この力学は2通りの解釈ができる。1つの見方は、これらのテック業界の大物は単にトランプに屈服し、不服従が大きな代償を伴う可能性がある政治環境での賭けをヘッジしているというものだ(トランプが以前ザッカーバーグを投獄すると脅したことを思い出して欲しい)。もう1つの見方は、彼らが長期戦を仕掛けており、トランプを道具として、つまり政治の世界(political realm)で自分たちの目的を達成するための便利な手段として利用しているということだ。
しかい、テック業界の大立者たちが実際に欲しているのは何なのか?
ほとんどの大企業を経営するエリートたちと同様、彼らもまた低い税率、規制緩和、低賃金労働へのアクセスを好んでいる。それは、H-1Bヴィザをめぐるポピュリスト右派との最近の衝突が証拠となって示している。
それでも、テック業界の一部の人々にとって、右傾化(the rightward
shift)は個人的な問題であった。著名なテクノロジー投資家のマーク・アンドリーセンを例に取ると、オバマ時代の社会契約(social contract)が破綻していると見なし、最近、幻滅を表明した。アンドリーセンは、次のように述べた。「成功したビジネスマンになって、技術革新と富で称賛されても、最後にはそれを全て手放して再び称賛されるという取り決めだ。それによって自分の罪が洗い流される」。
アンドリーセンは裏切られたと感じている(Andreessen feels
double-crossed)。慈善活動や政治献金を行うことで、進歩主義者たちから攻撃の免除と称賛を獲得できると期待していたのにそうではなかったのと同じように感じている。
これらの動機、貪欲(greed)、恐怖(fear)、エゴ(ego)、復讐(revenge)は理解しやすい。しかし、テック業界の億万長者たちが抱くユニークな野望を考えると、その意味するところはより不穏なものになる。ブロックチェイン、人工知能、トランスヒューマニズムに根ざした彼らの目標は、トランプを超越し、私たちが知るアメリカの実験を長引かせる可能性がある。
アネンバーグ技術革新ラボの名誉所長であるジョナサン・タプリンは、2023年の著書『The
End of Reality: How Four Billionaires Are Selling a Fantasy Future of the
Metaverse, Mars, and Crypto』の中で、このヴィジョンについて描いている。タプリンは彼らの夢を次のようにまとめている。ザッカーバーグのメタバースとは、人々が仮想現実(virtual reality)のヘッドセットをつけて1日7時間を過ごすという考え方であり、マスクの火星植民地化、追跡不可能な暗号資産とは、国家の支配を越えて存在するものであり、ティールの探求とは、老化を逆転させる(reverse aging)こと(少なくとも160歳まで生きること)だ。
これらの野望の結果は重大なものとなる可能性がある。そして、その潜在的な影響の全てをここで説明するにはスペースが足りないが、タプリンは、これらの野望は、トーマス・ジェファーソンの「全ての人間は平等に創られている(all men are created equal)」という理想など、民主政治体制の根本原則を損なうものだと主張している。
富が寿命や遺伝的優位性を決定するトランスヒューマニズムの世界では、平等は無意味になる可能性がある。
私たちは、自由民主政治体制の未来、人間の本質、AIのような急速な技術進歩の変革的影響について、重大な疑問に取り組んでいる極めて重要な瞬間に立っている。しかし、私たちは、これらの結果に最も大きな既得権益を持つ個人に、この未来を形作る調停者や専門家のルール策定者として行動するよう委ねているのだ。
簡単なことではないが、このディストピア的未来に対抗するには、ポピュリスト右派の奇妙な仲間たちと手を組む必要があるかもしれない。『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムニストとの最近のインタビューで、スティーヴ・バノンは「テクノ封建主義(technofeudalism)」と「トランスヒューマニズム(transhumanism)」に対して激怒した。バノンは「誰もが自分の持つ力のせいで怯えている(Everybody’s scared because of their power)」と警告した。バノンは多くの点で間違っているかもしれないが、これは間違っていない。
音楽と映画でも成功を収めたタプリンは、高潔な社会では「作家、ミュージシャン、映画製作者、芸術家といったヒューマニストたちが、私たちが向かうべき方向のヴィジョンを提示しなければならない」と示唆している。
しかしながら、2024年の選挙では文化的な変化が明らかになった。芸術界のインフルエンサー(カマラ・ハリスを支持したテイラー・スウィフトなど)は、少なくとも人々の投票方法に関して、世論を形成する能力をかなり失ってしまったようだ。
彼らに代わって、この国の文化的、政治的な議論をますます支配しているのは、テック業界の巨人たち(その多くはアメリカ生まれでもない)だ。
彼らはもはや、昔の典型的なオタク(stereotypical nerds of
yesteryear.)ではない。今日のテック業界の男たちは、金のチェーン、美しい妻やガールフレンド、ジムで鍛えた肉体を誇示している。これは「オタクの復讐(Revenge of the Nerds)」だが、ステロイドを摂取して達成している。
オタクたち(the geeks)が地球を継承しており、彼らが地球を焼き尽くさないことを願うしかない。
※マット・K・ルイス:コラムニスト、ポッドキャスト番組放映者、『潰すには駄目すぎる(Too Dumb to Fail)』『汚らわしい富裕な政治家たち(Filthy Rich
Politicians)』といった複数の著作を持つ著者でもある。
(貼り付け終わり)
(終わり)

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』
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