古村治彦です。
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ドナルド・トランプ大統領による高関税の発表から1カ月が経過した。いくつかの妥協がなされているが、日本に関しては、24%の関税賦課が行われる予定で、それを回避するために、赤澤亮正経済再生担当大臣が2度の訪米で交渉を行っている。アメリカとしては、貿易拡大、特にアメリカ製品の輸出拡大を目指しているが、厳しい状況だ。
アメリカ側は、日本車とアメリカ車の不均衡を批判しているが、日本で売れるアメリカ車を作る努力もしないで、ただただ買えと言っているのは押し売りと同じだ。もしくはカツアゲだ。アメリカ産の農産物を買うと言っても、少子高齢化で人口減少、高齢社会によって食料品の消費量はどうしても減っていく。アメリカ産のトウモロコシをどうやって消費するかは難しい。結局、政府がアメリカらから製品を買って、海外援助の現物として支給する形にするしかないが、そのような税金の使い方が良いのかという問題は起きる。
トランプ高関税(解放記念日関税)によって、株式市場は乱高下し、更には米国債の金利上昇という事態に陥り、妥協する形になった。高関税を支持したのは対中強硬派であり、そのグループが交代を余儀なくされたということになる。この高関税政策の主眼は、アメリカの貿易赤字削減であるはずなのに、高関税を武器にして、中国と争うことを主眼としたグループがおり、そのグループが過剰な中国をターゲットにした、関税戦争、貿易戦争を仕掛けようとしたが、中国が頑として妥協しないという姿勢を示したために腰砕けとなった。これは、ウクライナ戦争勃発後、西和賀諸国がロシアをSWIFTという国際決済システムから除外し、制裁を科して、ロシアを早々に屈服させようとして失敗したのと似ている。中露両国はアメリカからの制裁に慣れており、その準備を十年単位に進めている。対米自立(対ドル自立)ができている(食糧安保も含めて)。
高関税を何とか宥めたいグループの代表がスコット・ベセント財務長官だ。ベセントは昨年の大統領選挙ではトランプを支持し、関税政策も支持していた。しかし、対中強硬派の暴走を抑えることに成功した。それはもちろん、米国債金利上昇(米国債が中国によって売られた可能性が高い)という緊急性の高い事態を招いたこともあるが。スコット・ベセント財務長官、ハワード・ラトニック商務長官、ジェイミソン・グリア米通商代表がこれから、二国間協議で各国からの妥協を引き出すということになるだろう。これは簡単に言えば、みかじめ料ということになるが、あまりにも阿漕なみかじめ料を取るようならば、アメリカの威信は地に堕ち、信頼を失うことになる。
ナヴァロをはじめとする対中強硬派は高関税を使ってやり過ぎてしまった。対中強硬派はこれからトランプ政権で力を失っていくだろう。ナヴァロはトランプに殉じて刑務所に入ったくらいの忠誠心の高い人物であるから、象徴的な意味でも政権内に留まるだろうが、実権はなくなるだろう。トランプ政権の荒療治はなかなか厳しい状況に陥っている。
(貼り付けはじめ)
トランプ関税ドラマの勝者と敗者(Winners and losers from the
Trump tariffs drama)
ナイオール・スタンジ筆
2025年4月11日
『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/homenews/administration/5243790-trump-tariff-china-trade-war/
ドナルド・トランプ大統領は水曜日、世界各国への関税賦課をほぼ一時停止し、方針を転換した。
唯一の大きな例外は、激化する貿易戦争(an escalating trade war)の焦点となっている中国だ。アメリカの対中関税は現在145%に達しており、中国は報復措置としてアメリカからの輸入品への関税を金曜日早朝に125%に引き上げた。
トランプ大統領が国際的な関税賦課を撤回したのは、アメリカ株が数兆ドルの下落を見せ、債券市場が警戒感を示し始め、経済界が景気後退の可能性を懸念する声が高まった後のことだ。
譲歩を決して認めようとしないトランプ大統領でさえ、投資家たちが動揺し始めていることを指摘し、「投資家たちは騒ぎ立てている(they were getting yippy)」と述べ、自身も債券市場の動向を注視していると述べた。
利上げ停止発表直後、水曜日の午後、市場は大きく上昇した。しかし、中国情勢への懸念が更に強まったため、木曜日には再び急落した。
ダウ工業株30種平均は1000ポイント以上、つまり、2.5%下落した。より広範なS&P500は約3.5%下落し、ハイテク株中心のナスダックはさらに下落し、4.3%下落した。
状況は流動的で、今後も多くのドラマが展開される可能性が高い。
トランプ大統領自身以外では、関税騒動の勝者と敗者は誰なのだろうか?
■勝者たち(WINNERS)
●スコット・ベセント財務長官(Treasury Secretary Scott
Bessent)
ベセントはここ1週間、トランプ政権内でより強い立場を築いてきた。
トランプ大統領と公に決別しようとしたことは一度もないが、包括的かつ過酷な関税水準に懐疑的な派閥のリーダーであることは明らかだ。
『ニューヨーク・タイムズ』紙の木曜日の報道によると、ベセント財務長官は週末、トランプ大統領の専用機エアフォースワンに同乗し、金融市場の透明性の必要性を強調し、大統領に「他国との交渉に集中する(focus on negotiating with other countries)」よう助言したことで、内部での影響力を強めたようだ。
かつてヘッジファンドマネジャーを務め、過去には民主党の資金調達担当者でもあったベセントは、トランプ周辺の一部が主張する過剰な保護主義(hyperprotectionism)に対して、常に懐疑的だった。
より穏健なアプローチが勝利した後も、ベセントはトランプに対して忠誠心を持ち、トランプについて「これが彼の戦略だった(This was his strategy all along)」と報道陣に語った。
●イーロン・マスク(Elon Musk)
関税騒動の裏話はマスクに絡んでいる。
マスクは、トランプの側近で経済学者であり、最も保護主義的な立場を明確に示すピーター・ナヴァロと激しく対立していた。ナヴァロが、マスクがテスラ(ナヴァロはテスラを真のメーカーではなく「自動車組立業者(car assembler)」と揶揄していた)のせいで自由貿易に既得権益があると主張すると、マスク氏は彼を「間抜け(moron)」呼ばわりした。
更に言えば、マスクは壮大な関税制度に明らかに不安を抱いているもう1人の重要人物だった。例えば、トランプ大統領とヨーロッパ連合(EU)の間の緊張が高まる中、マスクは大西洋横断自由貿易圏(a transatlantic
free trade zone)の設立を公に表明した。
ベセントと同様に、マスクも内部論争で勝利を収めた。
●民主党(Democrats)
ここでは野党が勝利を収めることになる。
民主党は、昨年11月のトランプの勝利、党内の今後の方向性をめぐる議論、そして党に対する認識の急落を示す世論調査によって、大きく揺さぶられてきた。
しかし現在、トランプは中道層の有権者に深刻な打撃を与えかねない、最初の大きな失策を犯したと見られている。
世論調査では関税が広く不人気であることが示され、トランプの支持率も急速に低下しているように見える。
1月にトランプが大統領に就任して以降、初めて、民主党に追い風が吹いている。
■中間(MIXED)
●ウォール街(Wall Street)
投資家と金融機関にとって、これはジェットコースターのような激しい動きだった。
数日続いた急落は、水曜日にウォール街史上最大級の1日の上昇で打ち破られた。
そして木曜日、市場は再び急落した。
主要株価指数は、トランプ大統領の「解放記念日」関税(“Liberation Day”
tariff)発表前の水準と、その後数日間に記録した安値とのほぼ中間水準にある。
ウォール街は、トランプ大統領の方針転換に影響力のある発言者が何らかの役割を果たしたという事実に、ある程度の安堵を抱くことができるだろう。
しかし、中国との緊張が解消されない限り、今後の道のりは依然として不安定だ。
●連邦議会共和党(Republicans in Congress)
共和党の一部には、当初からトランプ大統領の関税措置に対する明確な不安が存在していた。
共和党所属の連邦議員の中には、関税が早期に緩和されることを期待する者もいた一方、連邦上院議員の中には、この問題に関する権限をホワイトハウスから奪還しようとする動きに加わった者もいた。
市場が今後改善すれば、共和党へのダメージは小さくなるかもしれない。
しかし、市場のヴォラティリティはまだ明らかに解消されておらず、それが共和党の政局にも不確実性をもたらしている。
■敗者(LOSERS)
●ピーター・ナヴァロ(Peter Navarro)
ナヴァロの保護主義、アメリカが外国の競争相手につけこまれていると強く主張する姿勢は、大統領に支持を得ているように見えた。
ハーヴァード大学で博士号を取得しているにもかかわらず、著名な経済学者の中では異端児であるナヴァロにとって、かつてはそれが好意的な承認のように思えたに違いない。
しかし、トランプ大統領が関税賦課を停止したことで、その見方は大きく崩れ去った。
確かに、トランプ大統領は10%の関税を維持し、他国向けに「特注(bespoke)」の解決策を検討しているとされている。
しかし、ナヴァロを最も象徴する主張、すなわち十分な規模と期間の長期にわたる懲罰的関税がアメリカの製造業の再生を促すという主張は、再び遠ざかりつつあるようだ。
●中国(China)
中国政府はトランプ大統領との対決において決して譲歩しないと強調し続けている。
中国商務省は「最後まで戦う(fight to the end)」用意があると約束しており、政府報道官はソーシャルメディアで毛沢東国家主席の好戦的な映像を共有し、その点を強調した。
貿易戦争が長期化すれば、中国だけでなくアメリカにも打撃を与えることは疑いようがない。
最新の統計によると、アメリカは毎年約640億ドルの携帯電話、300億ドルの玩具、200億ドルの繊維・衣料を輸入している。関税は、これらの品目のアメリカ国内の価格を上昇させるか、単に入手しにくくするだけだ。
しかしながら、中国への打撃は更に大きくなる可能性が高い。
中国の対米輸出は輸入の約3倍に上る。中国は近年、市場の多様化に努めているものの、アメリカとの貿易に大きな障害が生じれば、深刻な痛みをもたらすだろう。
(貼り付け終わり)
(終わり)

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』
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