古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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『トランプの電撃作戦』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに行きます。
 

第2次ドナルド・トランプ政権の発足100日のハネムーン期間は大きな動きが続いて、アメリカ国内、そして、諸外国を驚かせ続けた。大きな出来事としては、イーロン・マスク率いる政府効率化省(DOGE)による、連邦政府諸機関への立ち入りや調査が進められて、米国国際開発庁(USAID)という日本では聞き慣れない(私はデビュー作『アメリカ政治の秘密』で取り上げている)政府機関の閉鎖などが決められた。アメリカ政府の抱える財政赤字(fiscal deficit)の削減のために、連邦政府の予算に切り込んでおり、連邦政府職員の解雇も進められる。

 今年4月初旬には、世界各国からの輸入に一律10%の関税、更におよそ60カ国には追加の「相互」関税が課されるという、高関税政策が発表された。中国には145%という関税がかけられるとされたが(日本の24%が低く見えてしまうほど)、その後、スマートフォンや半導体は例外とされたり、大幅に引き下げられるということが発表されたりし、混乱を招いた。これは、株式市場の下落と共に、米国債の金利上昇が理由として考えられる。一説には中国が保有する米国債を売却し、「抑止力」を行使したとも言われている。

トランプ政権は、貿易赤字の削減を目指している。トランプ政権は1980年代のロナルド・レーガン政権の進めた「双子の赤字(twin deficits)の削減」政策を踏襲していると言えるだろう。レーガン政権時代との違いは、貿易赤字の相手国が、アメリカの属国で言いなりの日本ではなく、強力な対抗措置を取る力を持つ中国であるという点だ。

 こうした大きな流れをけん引しているトランプ政権内の重要人物たちをご紹介する。今回のトランプ関税(トランプ高関税、解放記念日関税とも呼ばれる)をめぐる動きでは、スコット・ベセント財務長官が主導権を握り、トランプ大統領に妥協を迫ったということになっている。それを支持したのがイーロン・マスクだとも言われている。そして、対中強硬派が敗北したと言われている。対中強硬派は今回のトランプ関税を利用して、中国に大規模な貿易戦争を仕掛けようとしたが、中国の返り討ちに遭った形になっている。そして、アメリカの信頼性を損なうということまで引き起こした。トランプ政権は妥協、交代を迫られることになった。総体的に中国の信頼性が高まるということになった。アメリカの製造業が復活することはなく、これからも厳しい状態は続く。トランプ大統領は厳しい時間を過ごすことになる。それでも、支持してくれた白人労働者たちのために力を尽くすだろう。そして、失敗し、アメリカは衰退の道を進んでいく。

(貼り付けはじめ)

トランプ大統領の外交政策のドライヴァーたち(そしてその乗客たち)(The Drivers (and Passengers) of Trump’s Foreign Policy

-アメリカ大統領就任後100日間、第2次トランプ政権の中心人物は誰で、脇に追いやられた人物は誰なのか。

FPスタッフ筆

2025年4月25日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/04/25/trump-100-days-influential-officials-navarro-bessent-witkoff/

ドナルド・トランプの通常の基準から見ても、米大統領就任後100日間は混沌と混乱を極めており、対立が激化している。特に外交政策においては、ウクライナとガザ地区での戦争終結に向けた迅速な(そして未だ未完了の)合意を推し進め、200人以上の移民をエルサルヴァドルの刑務所に強制送還し、世界の大半の国々(主に中国)に対して貿易戦争(trade war)を開始した。

これまでのところ、政権幹部の交代は最初の任期に比べて比較的少なく、地政学的な優先事項を策定・実行する中心人物として、数人の重要人物が台頭している。1月初旬には影響力のある役割を担うと思われていたものの、事実上脇に追いやられた人物もいる。

このリストには、皆さんが予想するかもしれないが、今回は含めなかった人物が1人いる。イーロン・マスクだ。世界で最も裕福な男は、9桁の選挙キャンペーン献金を糧にトランプ政権内で影響力を持ち、あらゆる場面で存在感を示すようになった。外国首脳との電話会談に同席したり、国防総省や国家安全保障局での高官級会合を開いたり、さらにはインドのナレンドラ・モディ首相と直接会談したりもしている。

しかし、ワシントンの国際関係におけるマスクの影響力はここ数週間で弱まり、非公式の政府効率化省(Department of Government EfficiencyDOGE)や、自身のソーシャルメディア「X」におけるMAGA支持の投稿の絶え間ない流れといった、より国内的な優先事項に取って代わられている。さらに、マスクの「特別政府職員(special government employee)」としての役職は130日の期限が約1カ月後に切れる予定であり、トランプ大統領とトランプ・ワールドは、期限後は彼が留任しない可能性を示唆している。

マスク以外では、マイク・ウォルツ国家安全保障問題担当大統領補佐官にも言及すべきだっただろう。ウォルツのこれまでの影響力の低さは、特に前任者のジェイク・サリヴァンの著名さを考えると注目に値するが、彼をこのリストに含めなかったのは、彼をどちらの陣営にも明確に分類するには時期尚早だと考えたためである。シグナルゲート事件において、残念ながら彼は『アトランティック』誌編集長ジェフリー・ゴールドバーグをチャットに招き入れた閣僚として重要な役割を果たしたが、この論争の火種は今やピート・ヘグセス国防長官にも向けられている。

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さて、トランプ大統領が優先事項を遂行する上で信頼を寄せている人物と、そうでない人物について見てみよう。
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■ドライヴァーたち(DRIVERS

(1)ピーター・ナヴァロ(Peter Navarro

トランプ大統領のホワイトハウス貿易製造業担当補佐官であるナヴァロは、トランプ政権の高コストで破滅的な貿易政策を、トランプに次ぐ存在として主導してきた。しかし、今月初め、トランプが世界各国との全面的な貿易戦争の瀬戸際(the precipice of his all-out trade war on the rest of the world)から撤退したことを受け、ナヴァロが明らかに脇に追いやられるまではそうだった。

ナヴァロ(と、彼が創作した別人格のロン・ヴァラ)は第1次トランプ政権にも在籍し、当時も同様のタカ派的な貿易政策についての考えを持っていたものの、スティーヴン・ムニューシン、ゲーリー・コーン、ウィルバー・ロスといった比較的保守的な経済思想家が政権のスタッフを務めていたため、ナヴァロの影響力はそれほど大きくなかった。しかし、2022年に連邦下院1月6日委員会への証言と証拠提出を求める連邦議会の召喚状を拒否し、最終的に4カ月の禁錮刑に服したことは、第2次トランプ政権でナヴァロの忠誠心を証明し、政権における高官の座を確保したと言えるだろう。

今回は、ナヴァロははるかに重要な役割を担っている。トランプ政権内の多くの補佐官たちからの妨害はほとんど受けていないものの、彼の考えは市場には完全に拒否された。ナヴァロは、貿易の仕組みに関する同様の根深い誤解(a similar profound misunderstanding)と、アメリカ企業への輸入関税を必ずしも是正する必要もない問題の万能薬(a cure-all)として好む姿勢を組み合わせることで、トランプにアピールしている。

しかし、ナヴァロが懸命に取り組んできた貿易戦争の影響が徐々に明らかになり、世界の株式市場、特に債券市場が激しく反応するにつれ、スコット・ベセント財務長官のようなより市場志向の政権高官が台頭してきた。少なくとも今のところは。トランプは、これまでで最も過激な貿易政策を控え、多くの国との二国間交渉(bilateral negotiations)の扉を開いた。ナヴァロの影響力の低下を示す兆候として、マスクでさえ彼を「間抜け(moron)」と考えていることが挙げられる。

(2)スコット・ベセント(Scott Bessent

財務長官就任前の大統領選挙運動中にトランプに助言したウォール街のヴェテランであるベセントは、ナヴァロとは大きく異なる。ベセントは、現在の世界経済の不均衡の原因と弊害について、綿密な論理に基づく分析を提示し、混乱した世界貿易システムの欠陥を是正しつつもその恩恵を維持するため、慎重に修正すべきだと提唱してきた。トランプ新政権に対するベセントの影響力は、4月2日の「解放記念日」関税(the April 2 “Liberation Day” tariffs)がほぼ全世界に無秩序に導入された後、特に顕著になった。この関税は、友好国と敵国を問わず、歴史的に高く、恣意的に選択されたものだった。トランプが1週間後に関税の大部分を部分的に撤回し、関税をそれ自体の目的ではなく交渉の手段として利用する方向に転換したことで、ベセントの影響力は明らかになった。

世界金融システムの頂点に君臨し、米ドルの管理者としての地位も確立したことで、世界市場が米ドルの神聖性(the sanctity of the greenback)、ひいては安全資産としての米国債の魅力にさえ疑問を呈しているように見えるこの時期に、ベセントはより大きな発言力を持つようになった。

ベセントはまた、トランプ政権が通商政策に意義を持たせるための最新の取り組みの立役者でもあるようだ。この取り組みは、アメリカの一方的な関税だけでは到底実現できないような形で、多くの国との二国間協議(bilateral talks)を通じて中国の経済的影響力を抑制しようとする試みである。

(3)スティーヴ・ウィトコフ(Steve Witkoff

不動産王(a real estate mogul)であり、トランプ大統領の長年の友人でもあるウィトコフは、政府や外交の経験がないにもかかわらず、トランプ新政権の数々の主要な外交政策危機において主導的な交渉役を務めてきた。トランプ大統領が当初中東担当特使に任命したウィトコフは、トランプ大統領就任前からイスラエルとハマス間の約2カ月にわたる停戦(cease-fire)の仲介役を務めていた。しかし、前回の停戦が決裂して以来、ガザ地区での停戦の再構築には成功していない。

ウィトコフはまた、ウクライナ戦争終結に向けた交渉においても政権の窓口役を務めてきた。これらの交渉への彼のアプローチは物議を醸している。ウィトコフは戦争に関してクレムリンの主張を繰り返すため、ウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領を激怒させ、アメリカの同盟諸国やワシントンの親ウクライナ派連邦議員の間で深刻な懸念を引き起こしている。ゼレンスキー大統領は最近、ヴィトコフが危険な「ロシアの言説を拡散している(disseminating Russian narratives)」と非難した。トランプ政権によるウクライナ戦争終結に向けた取り組みは今のところほとんど進展がなく、トランプ大統領は進展がない中で、アメリカが間もなく交渉(さらには戦争そのもの)から離脱する可能性があると示唆した。

一方、トランプ大統領はウィトコフを非常に有能な交渉担当者と評価し続けており、その仕事量と外交ポートフォリオを拡大し続けている。ウィトコフはここ数日、イランの核開発計画に関する協議を主導し始めた。政権は、イランの核兵器開発を阻止する合意の確保を目指している。ウィトコフは、アメリカがイランの核開発計画の縮小を求めるのか、それとも完全に放棄を求めるのかに関して、矛盾したメッセージを伝えている。協議はまだ初期段階にあるが、トランプ大統領は合意に至らなければ、アメリカとイスラエルは軍事行動に出る可能性があると述べている。

ウィトコフが新政権に持つ並外れた影響力は、トランプ大統領の型破りな外交政策アプローチと、経験は浅いものの忠実な部外者を要職に就ける傾向を示している。カリフォルニア州選出の民主党連邦上院議員アダム・シフ氏は最近、『フォーリン・ポリシー』誌に対し、ウィトコフを「真の国務長官(“real secretary of state)」と見なしていると語り、ウィトコフは「中東とロシアの両方で、マルコ・ルビオ国務長官よりもはるかに大きな役割を果たしていることは明らかだ」と述べた。

(4)JD・ヴァンス(J.D. Vance

JD・ヴァンス副大統領ほど、数々のミームを生み出したトランプ政権高官はほとんどいない。ヴァンス副大統領はトランプ大統領のナンバー2として、常に上司の政策について議論する際には、型通りの発言をすることが求められていた。しかし、ここ数カ月、ヴァンスは政権の熱心で攻撃的な外交政策を体現する存在となり、公の場でトランプ大統領の忠実な攻撃犬(Trump’s loyal attack dog)としての地位を確立しようとしている。

まず2月のミュンヘン安全保障会議で、ヴァンスは異例の演説を行い、第2次トランプ政権がいかに劇的に大西洋横断関係を覆しているかを明らかにし、ヨーロッパの議員たちを驚かせた。2月下旬、ゼレンスキー大統領のホワイトハウス訪問でも、ヴァンスは再び攻撃犬としての地位を確立した。トランプ大統領とゼレンスキー大統領が話している間、22分間のほとんどで静かに座っていたヴァンスは、攻撃的に発言に割り込んだ。これがきっかけとなり、両首脳はウクライナ大統領を激しく非難し、公の場で激しい対立が起きた。

より最近で言えば、ヴァンスはトランプの最も物議を醸した外交政策のいくつかの顔として登場してきた。例えば、グリーンランド側が明らかに望んでいなかった訪問を熱心に主導したことなどだ。(デンマークのメディアによると、訪問に先立ち、アメリカ政府関係者はセカンドレディのウーシャ・ヴァンスを歓迎するグリーンランド人を見つけるのに苦労したと報じられている。)ヴァンスは予想通り、この任務により力を入れた。

(5)スティーヴン・ミラー(Stephen Miller

先月ワシントンを動揺させた「シグナルゲート」スキャンダルは、第2次トランプ政権にとって驚くべきリークであっただけではない。それはまた、トランプ大統領のトップ補佐官たちが、上司が部屋にいないときにどのようにコミュニケーションをとっているのか、そして誰が最終決定権を持っているのかを明らかにするものでもあった。

公開されたグループチャットのメッセージは、スティーヴン・ミラーに権力があることを示唆している。ミラーはトランプ第1次政権時代、大きな物議を醸した移民政策の立案者として名を馳せ、アメリカの指導者のより強硬な衝動を後押ししたことで知られる。彼は現在、トランプ大統領の国土安全保障補佐官およびホワイトハウスの政策担当次席補佐官としてより大きな影響力を持ち、特に政権の大規模な強制送還やアメリカの一流大学に対する十字軍の舵取りを担っている。

ミラーはその権限を利用して、政権と裁判所との衝突においてトランプ大統領の権限の限界を公に試してきた。最近では、誤ってエルサルヴァドルの刑務所に強制送還されたメリーランド州の男性キルマール・アブレゴ・ガルシアの件が記憶に新しい。トランプ政権は、アブレゴ・ガルシアがMS-13ギャングのメンバーであると主張しているが、ガルシアはこの主張を否定しており、刑事責任を問われたこともない。しかし政府は以前から、アブレゴ・ガルシアの強制送還は「行政上の誤り(administrative error)」であることを認めており、裁判所の裁定はホワイトハウスに彼の帰還を「促進(facilitate)」するよう求めている。

ミラーは反抗的である。フォックス・ニューズのインタヴューで、彼は裁判所の調査結果に反論した。ミラーは「彼は間違ってエルサルヴァドルに送られたのではない。彼は正しい場所に送られた、正しい人間なのだ」となった。

■乗客側(PASSENGERS

(6)マルコ・ルビオ(Marco Rubio

トランプ大統領の外交政策分野の最高ランク補佐官として、ワシントンの外交政策の優先事項を遂行するのが職務内容である人物にとって、ルビオはウクライナ、ガザ地区、イランに関する米国の唯一の責任者とはほど遠く、特にウィトコフにスペースを譲ることが多く、意思決定よりもダメージコントロールの任務が多い。

ルビオ国務長官がこれまでトランプ大統領の優先事項を最も顕著に実行したのは、何百人もの大学生のヴィザを取り消し、新規申請者のソーシャルメディアアカウントを監視させたことだ。

ルビオはまた、彼が監督する部局の大部分を解体する(半分程度と言われている)ことを命じられているようだ。これには、外国の偽情報を追跡するオフィスの最近の閉鎖、米国国際開発庁(USAID)の廃止、国務省の人権に関する活動の縮小などが含まれる。ルビオは最近、米国国際開発庁が国務省に吸収された後、米国国際開発庁の廃止を担当していたMAGAの忠実な支持者のピーター・マロッコを解雇したことで、トランプの熱烈な支持者の一部から国務長官に対する批判の嵐が巻き起こり、閣僚としての任期が残り少ないのではないかという憶測が再燃した。

おそらく、少なくともポップカルチャーに関して言えば、ルビオにとってこれまでで最も大きな出来事は、大統領執務室でトランプとヴァンスがゼレンスキー氏を激しく叱責する場面を、非常に不快そうな表情で目撃したことだろう。その場面はあまりにも気まずく、「サタデー・ナイト・ライヴ」で実際にパロディ化されたほどだ。

(7)ジェイミソン・グリア(Jamieson Greer

影響力を失い、何が起こっているのかを把握しているという印象さえ失った人物の中には、政権最大の政策において中心人物であるべきだった2人、すなわち米通商代表部(U.S. Trade RepresentativeUSTR)のジェイミソン・グリア代表とハワード・ラトニック商務長官がいる。トランプ大統領は当初、この2人を政権の貿易政策の責任者に指名していた。

この2人のうち、米通商代表グリアは最も不利な立場に立たされており、最も有名なのは、アメリカが貿易黒字を計上している同盟諸国に対しても巨額の関税が絶対に必要である理由について、連邦議会で証言している最中に、トランプ大統領がソーシャルメディアで方針を一変させ、グリアを困惑させたことで、グリアは窮地に陥ったことだ。米通商代表部は他国の差別的貿易慣行について綿密に記録された苦情申立書を作成したが、当初の「解放記念日」関税(“Liberation Day” tariffs)に使用された恣意的な計算式には、その作業は一切盛り込まれなかった。

トランプ大統領の1期目の任期中、国際パートナーは当時の米国通商代表ロバート・ライトハイザーが大統領の耳に心地よく響く、機転が利く貿易通の交渉相手であることを知っていたが、グリアがアメリカの貿易政策の策定において実際にどのような役割を果たしているのかは、今でも明らかではない。

(8)ハワード・ラトニック(Howard Lutnick

トランプは当初、商務長官であるラトニックを通商政策の最高責任者として想定していた。たとえ、トランプ自身がその舵取りをしっかりと握り、グリアが連邦議会で定められた権限を持ち、ベセントが財務省の役割拡大を主張し、ナヴァロが大統領の耳を持っていたとしても、である。

しかし、トランプ大統領の貿易戦争がエスカレートして以来、ラトニックは政権の政策に対する影響力の欠如を公の場で強調するばかりだ。市場では既に、ラトニックの攻撃的な口調や経済理解の欠如に懐疑的な見方をしていた。しかし、ラトニックもまたグリアと同様、トランプ大統領の鞭打つような通商政策とは一線を画している。ラトニックは、関税は交渉のためではなく、不公正な慣行を罰するためのものだと大声で何度も繰り返した。ラトニックは、アメリカ人が「小さなネジをねじ込んで(screwing in little screws)」iPhoneを製造する未来を約束したが、大統領が電子機器を懲罰的な中国制裁の対象から除外し、中国関税の根拠となる、既に疑問視されていたものを根底から覆すまでは。報道によれば、ホワイトハウスはラトニックをテレビから遠ざけようとしているようだ。

(9)キース・ケロッグ(Keith Kellogg

トランプ大統領のウクライナ・ロシア担当特使であるキース・ケロッグ退役中将は、トランプ新政権で自己主張するのに苦労している。ウクライナ戦争終結に向けたアメリカの努力の中で、彼はしばしばウィトコフの後塵を拝してきた。例えば、ケロッグは最近リヤドで行われた停戦交渉に出席しておらず、傍観されているのではないかという疑問が投げかけられている。

対露タカ派として知られ、他の政権高官よりもキエフに友好的と見られているケロッグは、最近パリで行われた戦争に関する協議には出席した。しかし、トランプ大統領がウィトコフにこの問題の処理にはるかに大きな信頼を置いていることは、不動産王ウィトコフの度重なるロシア訪問からも明らかだ。そしてトランプ大統領は、アメリカが戦争を終わらせる努力をすぐに放棄する可能性を示唆しており、ケロッグは更に影が薄くなる可能性がある。

(10)ピート・ヘグセス(Pete Hegseth

ヘグセスの国防総省長官としての在任期間は、混乱と論争に象徴されている。連邦上院で辛うじて承認されたわずか数週間後の2月、ヘグセスはベルギーで開催されたNATOの会議で、同盟諸国との「不均衡な関係を容認しない(tolerate an imbalanced relationship)」と述べ、ウクライナの同盟参加を否定した。ヘグセスはまた、ウクライナの2014年以前の国境線に戻ることは「非現実的(unrealistic)」だとも述べた。

フォックス・ニューズの司会者であったヘグセスは、歴史的に国防長官として不適格であると民主党は見ているが、その後、モスクワとの和平交渉においてキエフの最も重要な影響力を事実上放棄したと批評家から非難された。連邦上院軍事委員会の委員長である共和党のロジャー・ウィッカー連邦上院議員(ミシシッピ州選出)は、ヘグセスの演説は「新人のミス(rookie mistake)」だったと述べた。

ヘグセスは、トランプ政権がこれまでに直面してきた最大の論争の1つであるシグナルゲート事件の中心人物でもある。彼はシグナルのグループチャットで、イエメンのフーシ派に対する今後のアメリカ軍攻撃に関する機密情報を他の政権高官と共有したのだが、そのグループチャットには偶然、『アトランティック』誌編集長も含まれていた。

4月初旬、国防総省の監察総監代理(the Pentagon’s acting inspector general)は、シグナルのグループチャットにおけるヘグゼスの役割について調査を開始した。トランプ政権は、このチャットで機密情報は共有されなかったと主張しているが、報道はそれを否定しており、国家安全保障の専門家たちは、こうした主張は事実無根であると断言するとともに、このスキャンダルが主要同盟諸国との情報共有に深刻な影響を与え、国家を脅威から守ることがより困難になる可能性があると懸念を表明している。

そして今週、『ニューヨーク・タイムズ』紙は、ヘグゼスがシグナルでイエメン作戦に関する機密軍事情報を共有したという新たな疑惑を報じた。今回は、妻、兄弟、そして個人弁護士を含むグループチャットで共有されたとのことだ。

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トランプ大統領の経済政策を作っている5人の人物たち(The 5 people shaping Trump’s economic agenda

ブレット・サミュエルズ

2025年4月19日

『ザ・ヒル』誌

by Brett Samuels - 04/19/25 5:00 PM ET

https://thehill.com/homenews/administration/5256332-trump-economic-advisers/

ドナルド・トランプ大統領は、金融市場を揺るがし、時に矛盾したメッセージを伝える大規模な関税政策を実行するにあたり、異なる視点と経歴を持つ複数の経済アドヴァイザーに依存している。

スコット・ベセント財務長官は貿易協定交渉を主導し、共和党所属の連邦議員やウォール街の金融機関の幹部たちからは頼りになる人物と見られている。

ピーター・ナヴァロ上級貿易顧問は気難しい性格だが、関税に関してはトランプ大統領の揺るぎない見解を共有し、心底からの忠誠心を持っている。ハワード・ラトニック商務長官はトランプ大統領の長年の友人だが、メディア出演で何度か失言をしている。

加えて、ケヴィン・ハセット国家経済会議(National Economic CouncilNEC)委員長とジェイミソン・グリア米国通商代表部(U.S. trade representativeUSTR)代表は、トランプ大統領の経済計画の策定、実行、そしてそのメッセージ発信を影で支える高官たち(behind-the-scenes senior officials)だ。

ホワイトハウスに近い複数の取材源によると、異なる見解を持つ政府関係者がいることは大統領にとって目新しいことではなく、関税、貿易、経済政策に関して最終的な決定権を持つのは最終的にはトランプ大統領だということだ。しかし、経済学者たちがトランプ大統領の政策の潜在的な影響を警告する中、こうしたトップ経済担当アドヴァイザーたちは注目を集めている。

ある第1次トランプ政権のホワイトハウス関係者は次のように述べている。「彼らはA地点からB地点へ到達する方法に関して異なる見解を持っている。率直に言って、それがトランプ大統領の狙いだ。『私の前で戦い、誰が勝つかは私が決める(fight in front of me, and I’ll decide who wins)』という姿勢を望んでいる」。

(1)スコット・ベセント(Scott Bessent
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ベセントはここ数日、トランプ大統領のホワイトハウス内での評価が高まっており、彼の主張が大統領に受け入れられている兆候が見られる。

ベセントは、他の経済アドヴァイザーが交渉の余地はないと示唆した後、ホワイトハウスが先週記者団に対し、より厳しい「相互」関税(“reciprocal” tariffs)の90日間の一時停止について説明を行うために派遣したトランプ政権の高官だった。

ベセントは、日本をはじめとする各国との貿易協定締結交渉を主導してきた。木曜日、トランプ大統領とイタリア首相との会談中、ベセントは大統領執務室のソファに座っていた。トランプ大統領は、協定締結に向けた進行中の取り組みについて、ベセントに発言を委ねた。

ベセントは、市場への影響を懸念し、ジェローム・パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長の解任について、トランプ大統領に警告したと報じられている。また、政権内外の多くの人々から、ベセントは大統領の政策を一般大衆とウォール街の両方に訴える形で明確に説明できる人物だと見られている。

「重要なのは、誰がグループにとって最良のメッセンジャーであるかだ。ベセントは最良のメッセンジャーだ」とトランプの支持者の1人は述べた。

第一次政権下では、トランプ・ワールドの中心人物ではなかった高官の台頭は、注目すべきものだ。ベセントは2015年にヘッジファンドを設立した。それ以前は、リベラル派の巨額献金者であり、共和党から頻繁に攻撃や陰謀論の標的となっているソロス家の資産を運用する投資会社に勤務していた。

(2)ハワード・ラトニック(Howard Lutnick
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トランプ大統領は、キャンター・フィッツジェラルド社の取締役であるラトニックを商務長官候補に指名した際、ラトニックが「関税と貿易政策を主導する(lead our tariff and trade agenda)」と述べた。これは、トランプが追求しようとする積極的な政策において、ラトニックがいかに重要な役割を担うかを早期に示唆するものだった。

確かに、ラトニックは政権による様々な関税導入において重要な役割を果たし、トランプ大統領の近くに頻繁にいる。しかし、特にメディア出演はホワイトハウス内の一部の人々を苛立たせ、その影響力の大きさを疑問視する声も上がっている。

ラトニックは3月のFOXニューズのインタヴューで、アメリカ国民にテスラ株への投資を促した。大統領が関税を撤回する数日前まで、ラトニックは決して撤回しないと断言していた。更に、トランプの貿易政策によって、何百万人ものアメリカ人が「iPhoneを作るために小さなネジを締める」ことになると示唆し、人々に不快感を起こさせた。

トランプ大統領の側近やウォール街の関係者の中には、ホワイトハウスの関税政策が失敗し(go awry)、経済が急落した(the economy into a tailspin)場合、ラトニックが責任を取るべきだと主張する人たちもいる。

共和党のあるストラテジストは、「ラトニックは明らかに一部の人々を怒らせている」と述べている。

しかし、ラトニックがすぐに解任される可能性は低く、依然として大統領の耳目を集めていると取材源は本誌に語っている。

ラトニックはトランプ大統領の長年の友人であり、大統領選挙に数百万ドルを寄付してきた。大統領専用機エアフォースワンに同乗する姿が頻繁に目撃されており、木曜日には大統領執務室で、アメリカの水産物輸出拡大に向けた取り組みを訴える大統領令の署名式に出席した。

(3)ピーター・ナヴァロ(Peter Navarro
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ピーター・ナヴァロ(右)とスティーヴン・ミラー

ナヴァロの正式な肩書きは、貿易・製造業担当上級顧問(senior counselor for trade and manufacturing)だ。彼とトランプ大統領は、製造業をアメリカに呼び戻す手段(a tool to return manufacturing to the United States)として関税を活用するという点で一致している。

ナヴァロはトランプ大統領の関税政策を主導し、輸入品に対する新たな関税の導入を提唱してきた。また、鉄鋼・アルミニウム、そして自動車に既に課されている関税の重要性を主張してきた。

彼は、輸入品に10%の基本関税を課し、さらに数十カ国にさらに厳しい制裁関税を課す「相互」関税(“reciprocal” tariffs)を強く支持し、これを国内製造業の復活のための「国家非常事態(national emergency)」と位置付けていた。ナヴァロはかつて、ヴェトナムが全ての関税を撤廃するだけでは不十分だと示唆したこともあります。

しかし、トランプ大統領が中国を含むホワイトハウスとの協議への扉を開くと、彼の揺るぎない姿勢はホワイトハウス内の他のメンバーと足並みを揃えなくなっていった。ナヴァロの序列は、大統領顧問の億万長者であるイーロン・マスクがソーシャルメディアで公然と彼を攻撃したことで、さらに厳しく問われることになった。また、彼は連邦議会でも多くの友人を得ていない。

ホワイトハウスは内部の意見の相違を軽視している。ホワイト報道官のキャロライン・リーヴィットはマスクとナヴァロの口論について記者団に対して、「男はいつになっても少年(Boys will be boys)」と述べた。

更に言えば、トランプ大統領はナヴァロの忠誠心も高く評価している。ナヴァロは第1次政権でも内部抗争の中心にいたが、政権内にとどめられた。その後、ナヴァロは2021年1月6日の連邦議事堂襲撃事件に関連する議会の召喚状に応じなかったため、収監された。

(4)ケヴィン・ハセット(Kevin Hassett
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国家経済会議(National Economic CouncilNEC)の議長であるハセットは、事実上トランプ大統領のトップ経済アドヴァイザーである。

選挙運動中は大統領の経済政策を擁護する立場にあり、政権発足後も同様の役割を果たし、テレビや記者会見に出席して関税への批判に反論してきた。

ホワイトハウスに近い取材源は本誌に対し、ハセットは舞台裏では大統領の発言に常に同意している訳ではないと述べた。しかし、公の場では、ハセットはトランプ大統領のメッセージに忠実であり、大統領の行動やその先手を打つような発言はしない、一貫した人物と見られている。

例えば、ハセットは2021年に発表した回顧録の中で、自身と他のトランプ陣営の顧問たちが大統領に対し、FRB議長の解任は実際には不可能かもしれないし、合法かどうかに関係なく、金融市場を暴落させる可能性が高いと警告したと述べている。

金曜日、ハセットは慎重な姿勢を示し、記者団に対し、トランプ大統領とそのティームは、大統領がジェローム・パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長を解任できるかどうかについて「引き続き検討する(will continue to study)」と述べ、FRBの政策を批判した。

ハセットは、トランプ大統領の最初の任期中、大統領経済諮問委員会(Council of Economic AdvisersCEA)の委員長を務めた。また、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの間、ホワイトハウスに経済政策に関する助言を行い、CEAが米国の新型コロナウイルスによる死者数が2020年5月までに減少すると予測するグラフを発表した際には、厳しい批判に晒された。

(5)ジェミソン・グリア(Jamieson Greer
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あまり知られていないが、貿易交渉において同様に重要な人物が、米国通商代表を務めるグリアだ。

グリアはトランプ第1次政権時代、ロバート・ライトハイザー通商代表(当時)の首席補佐官を務め、関税や最終的な貿易協定に関する中国との交渉で最前列に立ち、重要な役割を果たした。彼はまた、NAFTAを再交渉し、2020年に調印されたUSMCAU.S.-Mexico-Canada Agreement、米・メキシコ・カナダ協定)にするための協議にも加わっていた。

グリアは、貿易に関して大統領の側近に誰がいるかということになると、見落とされる傾向がある。トランプ大統領は、ラトニックが商務省を運営するポートフォリオの一部として貿易を監督すると述べており、大統領自身もこの問題について強い見解を持っている。

グリアは、法令上はホワイトハウスの貿易交渉官だが、トランプ大統領はこれまで主要な経済協議の主導を財務長官に頼ってきた。

しかし、グリアは大統領のアジェンダを実行した経験を持つ人物としてトランプ・ワールド内で尊敬されており、連邦上院の承認公聴会では貿易赤字の削減と国内製造業の強化が優先事項であることを示唆した。

グリアは2月、複数の連邦上院議員に対し、「国際貿易システムを再構築し、アメリカの利益をより良くするための時間は比較的短いと確信している」と語った。

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●「対中強硬派、米政権で影響力低下 The Economist

日本経済新聞2025422

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO88177570R20C25A4TCR000/

トランプ米大統領が関税政策で世界を大混乱に陥れる前から、彼の対中戦略を見極めるのは難しかった。トランプ氏の決定は多くが気まぐれによるうえ、外交政策の顧問らも派閥に分かれ互いに対立しているようだ。

ワシントン用語で言う「優越主義者」はあらゆる脅威に立ち向かい、世界における米国の覇権を取り戻すとし、「優先主義者」は米国が対処できるのは中国だけでウクライナは見捨てるべきだと主張する。「抑制主義者」は米国は今後の戦争は避け、自国に専念すべきだと考える。

トランプ氏の考えがどうあれ、今、明らかになりつつあるのは優越主義者であれ、優先主義者であれ対中強硬派は影響力を失いつつある点だ。

関税騒動に隠れて目立たないが、それをよく表す出来事の一つが43日に公になった国家安全保障会議(NSC)の高官6人の解雇・異動だ。その前日、右翼の陰謀論者ローラ・ルーマー氏がトランプ氏と会い、彼らがトランプ氏に「忠実でない」と主張したのが影響したのは明らかだ。

6人を中国との戦争も辞さない「ネオコン(新保守主義者)」とみなし、排除したいという思いはトランプ・ジュニア氏ら抑制主義者とルーマー氏でほぼ一致している。

更迭された一人がNSCの重要技術担当のデビッド・フェイス上級ディレクターで、これは象徴的だ。父ダグラス氏も初期のネオコンの一人で、米国防総省高官として2003年の対イラク軍事作戦の立案に携わった。デビッド氏は現政権の最も経験豊富な中国専門家の一人で、第1次トランプ政権では国務省に勤務し、同盟国との関係強化を図るインド太平洋戦略の策定を支援した。その後、シンクタンクに移り、強硬な対中政策の必要性を訴えてきた。

NSCでは米国の対中技術輸出などの問題を担当し、中国発の動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国事業の非中国企業への売却を提案した。多くのバイデン前政権の取り組みを進める一方で、2月に発表した「アメリカファースト投資政策」など新しい政策にも取り組んだ。同政策はロシアと中国を「敵対国」とし、対中投資規制の枠を広げるものだ。

こうした政策への彼の見解が解雇を招いたのかは不明だが、元同僚らはこの解雇を孤立主義者らの勝利で、中国専門家らの敗北だとみている。

NSCの対中強硬派でアジア担当上級部長のイバン・カナパシー氏と、大統領副補佐官(国家安全保障担当)のアレックス・ウォン氏の先行きも今や不透明だ。ルーマー氏は、カナパシー氏が以前トランプ氏に批判的な人物と仕事をしていたことや、ウォン氏とその妻が中国系であること、妻の弁護士としての経歴を批判した。両氏はまだ解任されていないが、2人の上司であるウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当で対中強硬派)がすでに権威を失っているため弱い立場にある。

カナパシー氏は現政権で最も強力な台湾支持者の一人とされているため、中国と台湾当局は彼の動向を注視するだろう。1417年に米国の対台湾窓口機関、米国在台協会に駐在武官として赴任した。24年には第1次トランプ政権でNSCアジア上級部長だったマット・ポッティンジャー氏が編集した台湾防衛に関する本に寄稿し、同氏と共に昨年6月、頼清徳(ライ・チンドォー)台湾総統と会っている。

ポッティンジャー氏は211月の米議会襲撃事件へのトランプ氏の対応に不満を募らせ辞任したが、以来、中国に政治的変化を促すべく厳しい対中政策を提唱してきた。

こうした動きが米政府の中国への対応にどう影響するかは不透明だ。トランプ氏は貿易最重視で、対中政策を巡る高官らの対立を知らないかもしれない。だがもはや対中強硬派は1期目のように同氏に気付かれずに物事を進めるのは困難になる可能性がある。

米国が最近、中国の台湾支配に反対する断固とした共同声明を同盟国と共に複数出したことや、国務省のサイトから「台湾独立を支持しない」とする文言が削られたことについては、対中強硬派の関与を指摘する声がある。

国防総省でも勢力図は変わりつつあるかもしれない。要職経験のないヘグセス国防長官は3月にアジアの同盟各国を初めて歴訪した際、バイデン前政権の約束の多くを繰り返し、相手国を安心させた。それはトランプ政権がまだアジアでの軍事的優先事項を決めていなかったからだろう。

米上院は8日、国防総省ナンバー3の国防次官(政策担当)にコルビー氏を承認した。彼はヘグセス氏を支援する重要な役割を担うわけで、優先事項は今後明らかになる。

コルビー氏は中国を優先課題にすべき(台湾防衛を含む)だと声高に主張してきただけに元同僚らは適任だと言う。筋金入りの中国専門家ではないが、第1次トランプ政権では国防総省で中国とロシアを主たる敵対国とみなす国防戦略を策定した。退任後は中国のアジアでの覇権に対抗すべきだと主張するシンクタンクを設立し、本も出版した。

だがコルビー氏は最近はむしろ抑制主義者のようだ。台湾は米国の「存在にかかわる」問題ではないとし、台湾は防衛費を今の国内総生産(GDP)比3%から10%に上げるべきだと非現実的な主張を展開、韓国にも自力での国防に注力するよう求めている。

バンス副大統領やトランプ・ジュニア氏はこうした発言を支持している。彼らはトランプ氏は「眠れる竜の目を不必要に突く」のを避け、「中国と均衡を図って戦争を回避すべく」中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と交渉したい考えで、コルビー氏もこれを支持しているという。

コルビー氏の変節は政治的には賢明かもしれない。だが米国や同盟国の一部の防衛関係者の間で懸念を招いている。トランプ氏の欧州への見解と似たものを感じたためだ。トランプ氏の台湾への関心は低い。それだけに台湾防衛を犠牲にして、習氏から中国の貿易面で譲歩を引き出す一方、米国がアジアで既に持つ権益には手を出さないと約束させる取引をするのではないかと危惧しているのだ。

トランプ氏がアジアの同盟各国にも関税を課し、空母とミサイル防衛システムを最近アジアから中東に移したことなどから、彼が一貫した対中戦略を維持できるのかを疑問視する声もある。

国務省もルビオ国務長官が対中強硬派であるにもかかわらず、中国については限られた発言権しかないようだ。ルビオ氏の政策立案を担うマイケル・アントン政策企画局長は米国は台湾を防衛すべきでないと主張している。主な中国専門家数人が最近早期退職した一方で、東アジア・太平洋地域担当の次期トップに指名された弁護士のマイケル・デソンブル氏は駐タイ米国大使を1年務めた以外、外交経験がない。

中国がこうした人事を見逃すはずがない。中国政府に助言する中国の米研究者らは、第1次トランプ政権はNSCや国防総省、国務省の対中強硬派が強い影響力を持っていたとみている。復旦大学の孟維瞻研究員は最近、ある論評でトランプ現政権の対中強硬派の影響力は第1次政権に比べ弱まったと指摘した。米国はテックや貿易では強硬姿勢を強めていくが、国内問題重視からイデオロギーや軍事面ではそれほど圧力をかけてこないと孟氏はみている。

だがどれもトランプ氏の対中戦略を決定づけるものではない。この数週間をみても、彼の戦略は気まぐれですぐ変わる。それでも国際関係や政策を誰が日々管理するかは大事だ。トランプ氏が中国と取引しようとするか、あるいは貿易戦争が安全保障問題に波及した場合、同氏がとり得る選択肢や中国の反応を読む能力は重要だ。

米国が台湾を巡り弱腰な姿勢を見せれば中国の軍事行動を誘発するかもしれないし、挑発しすぎて軍事行動を招くかもしれない。一貫した戦略もなく中国との貿易戦争に突入するのは、それだけで多くのリスクを伴う。防衛面で一貫性を欠けば大惨事を招きかねない。

419日号)

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(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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