古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 第2次ドナルド・トランプ政権がトランプ関税を発表して1カ月ほど経過している。大きな混乱の後、政権側が譲歩したことで、事態は安定している。しかし、高関税政策によって、短期間でアメリカの影響力は大きく損なわれた。株価、債券、ドルの価値が同時に下落し、アメリカの信頼性が損なわれることになった。そして、西側以外の国々をけん引する中国に対する信頼が高まることになった。

 このことでトランプを批判する声が高まっている。確かにその通りだ。しかし、重要なことは、トランプはアメリカ国民によって選ばれた大統領であり、トランプは自身の公約である、アメリカ国内問題解決(「アメリカ・ファースト))のために政策を実行している。これまで彼が進めてきた政策は、彼が大統領選挙期間中に繰り返し訴えてきたことだ。何も突然思いついてやっている訳ではない。政府効率化省による政府予算の削減や職員の削減、高関税はアメリカの抱える双子の赤字である財政赤字と貿易赤字を減らすための方策である。そして、これらを実行しようとして、経済面での不安が出てきた。株式や債券、ドルが下落するということが起きた。何かを抑えようとして、別の弱い場所に影響が出る。これは、アメリカが抱える問題の複雑さと根深さを示している。単純な処方箋で解決することはできない。そして、これらの方策で、アメリカの衰退を押しとどめることはできないということを示している。

 アメリカの衰退は既に軌道に乗ってしまっている。トランプが少々何かをやったところで止まらない。そして、これは誰が何をやっても同じである。トランプではない他の人物が大統領になっていても(昨年の大統領選挙で言えばカマラ・ハリス)、何かをうまくやれたとは考えにくい。トランプが混乱を引き起こしたという見方は表層的である。誰がやっても混乱は起きていた。そこまでの状況になっていることを理解すべきだ。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプ大統領就任100日で「ストロングマンの統治」のこれまでにない弱点が露呈されている(Trump’s First 100 Days Reveal a ‘Strongman’s’ Unprecedented Weakness

-これほど急速に世界的な力を放棄した米大統領はかつてない。

マイケル・ハーシュ筆

2025年4月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/04/28/trump-first-100-days-strongman-weakness-russia-china-trade/

ドナルド・トランプ米大統領は、アメリカ政府を動揺させ、国内の政敵を威嚇するという自身の強力な政策について、「誰もこのようなことは見たことがない(Nobody has ever seen anything like it)」と頻繁に述べている。

彼の言うことは正しいかもしれない。しかし、世界の舞台において、強権を標榜する人物がこれほど前例のない弱さを見せたのは誰も見たことがないのも事実だ。しかも、わずか100日間で露呈した。

国家安全保障であれ経済であれ、トランプは短期間のうちに、特にヨーロッパとインド太平洋地域におけるアメリカの圧倒的な力と影響力を一方的に放棄する方向に大きく前進した。おそらく、このことを最もよく示すのは、株価、債券、ドルの価値が同時に下落していることだろう。これは滅多に起こらない現象であり、投資がアメリカから幅広い分野で撤退していることを示唆している。

これはまさに、トランプが就任演説で約束した「アメリカの新たな黄金時代(golden age of America)」、つまり投資が流入し「我が国は再び繁栄し、世界中で尊敬されるようになる(our country will flourish and be respected again all over the world)」という公約とは正反対だ。

ところが、トランプの一連の政策のせいで、投資家の目に映るアメリカは、究極の安全な避難所(the ultimate safe haven)から、法の支配が疑わしい予測不可能な荒野(an unpredictable wilderness where the rule of law is in doubt)へと、徐々に格下げされつつある。

JPモルガンのアナリストは、「これは米ドルの没落なのか?(Is this the downfall of the U.S. dollar?)」と題した最近の分析で、「アメリカの政策に関する不確実性の急激な高まり(A sharp rise in U.S. policy uncertainty)は、アメリカ資産に対する投資家の信頼を揺るがし、世界の主要な準備通貨としての米ドルの役割をめぐる議論さえも巻き起こしている」と述べている。

シタデル・ヘッジファンドの最高経営責任者ケン・グリフィンなどトランプ大統領のビジネス界の支持者の中にも、トランプ大統領の「無意味な(nonsensical)」貿易戦争によってアメリカの「ブランド」に永久的なダメージが与えられると警告する人たちもいる。グリフィンは「与えられたダメージを修復するには一生涯かかるかもしれない」と述べている。

科学と教育への投資を削減し、移民を無差別に国外追放し、主要大学に自身の右翼的なポリティカル・コレクトネスを浸透させるよう脅迫することで、トランプはかつて想像もできなかったような頭脳流出(brain drain)を加速させている。トランプが復興を訴えている製造業の能力そのものを衰退させる恐れがあるのは言うまでもない。

アメリカは、優秀な人材を自国に引き寄せることで、特にソ連やナチス・ドイツといった敵国を幾度となく打ち負かしてきた国である。しかも、トランプが国内の法の支配に与えた影響は別として、誰もが適正手続きなしに逮捕・追放され、国内テロリストが大量に恩赦を受け、有罪判決を受けた犯罪者が政府の高官職(通商担当補佐官ピーター・ナヴァロや駐フランス大使に指名されたチャールズ・クシュナーなど)に就くような土地に、頭脳明晰で才能豊かな外国人が来る可能性は低くなる。

これら全ては、トランプが脅迫して沈黙させた政党、共和党の沈黙した支持と、自分たちの立場が理解できない野党・民主党の支離滅裂な抵抗によって起こっている。裁判所はトランプの政策の多くに反対の声を上げており、その声はしばしば説得力に富んでいるが、トランプはほとんど耳を傾けていない。

大統領にとって唯一重要なのは各市場であり、今やそれが彼の進む方向を変える唯一の希望かもしれない。

米国の二大ライヴァルであるロシアと中国は、超大国としての自滅を目指すワシントンの試みを大いに喜んでいる。

かつてトランプが「1日で解決する」と豪語したロシアによるウクライナ侵攻問題において、トランプはロシアのウラジーミル・プーティン大統領への徹底的な宥和政策を追求してきた。奇妙なことに、トランプは、アメリカの13分の1の経済規模を持つプーティン大統領への媚びへつらう態度と、これまでワシントンによるロシア抑制を支援してきたヨーロッパの同盟諸国への拒絶を結びつけている。

こうして、トランプ米大統領は、ウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領についてよく言うように、交渉のテーブルで「使えるカードがない(has no cards to play)」のはトランプ自身である可能性を高めている。

トランプ支持者たちは、プーティン大統領への熱心な働きかけとロシアとの正常化に向けた努力は、ヘンリー・キッシンジャーのように、モスクワを中国との同盟から引き離す巧妙なリアリズムに等しいと述べている。トランプ政権のスタッフは、いわゆるリアリストや「抑制派(restrainers)」で占められており、彼らは大国主義的な現実政治(great-power realpolitik)への回帰を訴え、トランプの前任のジョー・バイデン米大統領がアメリカの対ロシア戦略政策を事実上ゼレンスキー大統領に委任することでモスクワとの交渉から自らを閉ざしたことを批判している。

この批判には一理ある。しかし、ロシアからいかなる譲歩も引き出さずに、プーティン大統領のクリミア半島をはじめとするウクライナ領土に対する主張を先制的に承認したことで、トランプは紛れもなく弱腰に見える。また、将来の軍事的領土奪取を事実上正当化し、国際法に基づく戦後領土規範の残滓を破壊しようとしている。こうした将来の侵略には、中国による台湾の併合、トランプ自身のグリーンランドへの野望の実現も含まれる可能性がある。

ここ数日、トランプ大統領は、ロシアの指導者プーティンが自分を騙そうとしている可能性があると認め、プーティン大統領に対し、ウクライナの都市への残虐な攻撃をやめるよう懇願するに至った。

トランプ大統領は4月26日のトゥルース・ソーシャルへの投稿で次のように述べた。「プーティン大統領がここ数日、民間地域や都市、町にミサイルを撃ち込んだ理由は何もなかった。もしかしたら、彼は戦争を止めたいのではなく、ただ私を誘導しているだけなのかもしれない。『銀行制裁(Banking Sanctions)』や『二次的な制裁(Secondary Sanctions)』といった別の方法で対処する必要があるのではないか?」

それでは、中国はどうだろうか? 北京は、トランプの政策を公然と嘲笑している。トランプの政策は、大言壮語の後、混乱と撤退に終わったに過ぎない。トランプ大統領が中国に対して課した最低145%の関税(棚が空っぽになり価格が急騰すると警告したアメリカの大手小売業者との会談も含む)に市場が衝撃と恐怖を示したことを受け、トランプ大統領は方針を転換し、現在中国と関税を「実質的に(substantially)」削減する(pare back)交渉を行っていると発表した。

しかし、北京はそのような協議は行われていないと屈辱的に否定した。中国はさらに、アメリカへの多くのレアアース金属の輸出を禁止するという強硬手段に出たこともあって、ドローンやバッテリー駆動車の製造にこれらの鉱物を依存する防衛関連企業を含む、それらなしでは生産ラインを稼働できない主要産業にパニックをもたらした。

ダートマス大学の国際関係論の専門家、ウィリアム・ウォールフォースは、これら全てはトランプとそのチームが「内臓を抜き取り奪取する(gut and grab)」戦略を追求しようとする、不器用な試みだと指摘した。つまり、第二次世界大戦以降支配されてきたアメリカ主導の世界秩序を骨抜きにし、トランプにとっての英雄であるウィリアム・マッキンリーのような19世紀の大統領たちのやり方に倣い、領土のパイのより大きな部分を自ら奪い取ろうとする戦略だ。

ウォールフォースによると、問題はトランプ支持者たちが何をしているのか分かっていないように見えることだ。

ウォールフォースは電子メールで「ロシアへの先制的な譲歩(preemptive concessions)、つまりロシアにはアメを与え、ウクライナとヨーロッパにはムチを与えるというアプローチは、交渉戦略として間違っている。トランプ大統領は中国との関税をめぐるチキンレースで、まさにその隙を突いたようだ」と述べている。

そして今、これまで同盟国がほとんどなかった中国は、自らを世界システムの安定した新たな中心として見せかけることで、この好機を捉えようとしている。習近平国家主席が3月下旬、アメリカ、日本、韓国のビジネスリーダーたちに語ったように、中国は「理想的で安全かつ有望な投資先()an ideal, safe and promising investment」の選択肢だ。これは、歴代米大統領(最初の任期のトランプ大統領を含む)が数十年にわたり、中国に対し、開放と不公正な貿易慣行の撤廃を迫ってきた後のことだ。

トランプが大統領に就任するまで、中国とロシアは事実上、同盟諸国を切望する2国でした。モスクワは、取るに足らないベラルーシからのみ、揺るぎない忠誠を得ていた。そして近年では、孤立し、厳しい制裁を受けているイランと北朝鮮という2つの国と同盟を結んでいる。中国もまた、一帯一路構想(Belt and Road Initiative)やその他の債務負担(debt encumbrances)によって小国を従わせようと努めながらも、主に北朝鮮との結びつきを誇っていた。

その後、モスクワと北京は互いに協力関係を築き、西側諸国へのカウンターウェイト(釣り合い)として、主要新興国5カ国(当初はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)からなるBRICSフォーラムの拡大に向けて、散発的な努力を重ねてきた。しかし、参加に意欲的な国はほとんどいない。新たにBRICSに加盟・招待された国の中には、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、エジプトなどがあり、依然としてアメリカの緊密な安全保障パートナー諸国がいる。同様のアルゼンチンは後に不参加を決定した。

一方、トランプが登場するまで、アメリカは世界中に50カ国以上の同盟国と戦略的パートナーを有しており、その中には世界で最も裕福な国のほとんどが含まれている。しかし今、ドイツから韓国に至るまでの主要同盟諸国は、トランプが絶えず撤退をちらつかせ、帝国への貢物要求(demands for imperial tribute)を突きつける中、ワシントンとは別に独自の防衛力整備を進めようとしている。これはアメリカの防衛産業に大きな打撃を与え、核拡散(nuclear proliferation)の新たな危険な時代を脅かすことになる。

トランプの常套句は、同盟諸国は「私たちを騙す(rip off us)」ことしかしていないというものだ。そして、トランプの功績として、NATO同盟諸国と台湾に対し、自国の防衛費増額案を提出するよう圧力をかけている。しかし、2013年のランド研究所の報告書によれば、日本(75%)、クウェート(58%)、カタール(61%)、サウジアラビア(65%)などの受入国が負担するアメリカ軍基地の費用の割合を考慮すると、ワシントンはインド太平洋地域と中東で大部分においてかなり良い取引をしている。

より大きな問題は、こうした政策がアメリカの世界的なリーダーシップと経済的優位性を維持していることだ。

戦後世界秩序(postwar global order)の専門家であるプリンストン大学のジョン・アイケンベリーは、トランプ政権の最初の任期中、大統領がアメリカ主導の国際システムへの最初の断続的な攻撃を開始した際に私に次のように語った。「トランプは、この秩序を不動産のように捉えているのかもしれない。アメリカの秩序は、70年にわたる投資を体現し、莫大な利益を生み出してきた。この秩序を破壊すること、つまり貿易体制、同盟、制度、そして信頼を弱体化させることは、最も収益性の高いホテルの資産を取り壊すようなものだ」。

実際、トランプの行動に歴史的前例を見出すのは難しいとアイケンベリーは述べている。アイケンベリーは近日発表予定の論文で次のように述べている。「なぜアメリカは自らの覇権秩序(hegemonic order)を破壊しようとするのか? なぜ世界システムにおいて最強の国家が、自らを弱体化させ、貧しく、不安定にしようと積極的に行動するのか?。大国が興亡を繰り返すことは周知の事実であり、世界の時代は終わり、新たな時代が始まる。しかし、国際秩序がこのように自らの創造主によって破壊されるのを見たことがあるだろうか? 歴史を振り返ると、大国は自殺ではなく、殺人によって終焉、あるいは消滅する傾向にあった」。

これまで止めようのない勢いを見せていたアメリカ経済に関して言えば、トランプはあまりにも自己破壊的な一連の政策を採用しており、これもまたトランプのお決まりの表現を使うならば、誰もかつて経験したことのない事態となっている。これらの政策が相まって、驚くほど短期間のうちにアメリカ経済の力を弱体化させたのだ。

実のところ、わずか100日だ。4月初旬に発表されたCNBCの調査によると、CEOの過半数(69%)が景気後退(recession)を予想している。

景気後退のスパイラルは、トランプ大統領によるアメリカ支援プログラムの放棄と同盟諸国への非難から始まった。しかし、4月初旬、トランプ大統領が関税と貿易戦争という誤った概念を明らかにしたことで、この傾向は急速に勢いを増した。

一部の国に対する厳しい貿易圧力によって、バイデン前政権が中国、東南アジア、その他の地域に逃がしてしまったアメリカの製造業の一部が回復する可能性があると信じる理由が再び現れた。

しかし、トランプ大統領は、税収を徴収する以外に明確な計画もなく、約90カ国に関税を課した。そしてすぐに、トランプ大統領は、他国がアメリカに課したとしている「各種関税(tariffs)」は、各国政府の実際の政策ではないことが明らかになった。それは、当該国のアメリカへの物品輸出量をアメリカの対外貿易赤字で割ったという粗雑な計算に基づいていた。これは、貿易はゼロサムゲームであり、国の貿易赤字は企業の損失に等しいという、トランプ大統領の誤った重商主義的考え(Trump’s false, mercantilist idea)に基づいているように思われる。

地球上で最も権力のある人物が経済学の基礎さえ理解していないことに、世界中が一挙に気づいたかのようで、市場は急落した。確かに、市場はそれを認識していた。

トランプ大統領は更に、新たな貿易協定を交渉する間、ほとんどの関税を90日間停止すると発表したことで、事態を更に悪化させた。しかし、新たな貿易協定は成立しそうになく、貿易専門家たちは、この短期間でそのような協定を交渉するのは事実上不可能だと指摘している。

一方、アメリカからの資金流出は続いている。1月20日のトランプ大統領就任式以来、米ドルは9%近く下落し、1970年代初頭のいわゆるニクソン・ショック以来50年以上ぶりの大打撃を受ける恐れがある。これは決して軽視できない問題だ。トランプ大統領の関税措置と同様に、これはインフレを加速させる可能性がある。

今日と同様に、当時のニクソン大統領は、戦後の金融システムの柱であった他国のドル準備金を金に交換することを停止することで、アメリカの国際的な評判を危険に晒した時期だった。

究極の皮肉は、トランプが大統領の権力と世界中の尊敬を取り戻すというストロングマン政治を目指しているように見えることかもしれない。しかし、彼は他国を威圧して屈服させるという自身の能力を過度に過大評価して大統領に就任したようだ。アトランティック誌との100日間のインタビューで彼は「私は国と世界を動かしている(I run the country and the world)」と述べた。

しかし、アメリカの力は軍事力と経済力だけでなく、ソフトパワーによる影響力にも大きく依存している。トランプはこの最後の部分を理解していなかったようだ。グリーンランドを占領し、カナダを併合すると宣言すれば、両国の国民を結束させて彼に対抗するだけだということを理解していなかったようだ。

就任前、トランプはバイデンをはじめとする歴代米大統領の政策について語る際、「世界は私たちを嘲笑している(The world is laughing at us)」とよく言っていた。

当時はそうではなかった。少なくとも、それほど頻繁にはそうではなかった。今は違う。あるいは、世界の多くの人々が笑うどころか泣いているのかもしれない。考えてみて欲しい。米国国際開発庁(U.S. Agency for International DevelopmentUSIDA)とその多くのプログラムを廃止することで、トランプ政権は最終的に、ウラジーミル・プーティン大統領がウクライナでもたらしたのと同じくらい多くの罪のない人々の死をアフリカや発展途上国で引き起こす可能性がある。そして、再びアメリカの影響力と威信を犠牲にすることになる。

それでも、少し立ち止まって、新大統領の任期100日という指標が常に疑わしいものであったことを指摘しておこう。最悪の事態を招いたトランプは、自分が引き起こした損害の一部を認識し、調整するかもしれない。最新の世論調査によると、彼の支持率は、このような調査が初めて実施されて以来、どの新任大統領よりも最低水準に急落している。

多くの歴史家は、就任後100日間を、主にメディアが見出しを作るために仕掛けた策略と見なしている。大統領史家リチャード・ノイシュタットは、この指標を「現代の大統領が就任後3カ月で何を計画し、何を成し遂げたいかを示す指標としては不十分だ」と述べ、フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領とニューディール政策に特有の基準であると主張した。彼が直面した危機の深刻さ、すなわち大恐慌の深刻さがその理由だったのだ。(「100日間」はもともと、フランスの指導者ナポレオン・ボナパルトがエルバ島から脱出してから没落するまでの期間を指す言葉として始まったが、1933年7月にルーズヴェルト大統領はこの概念を復活させ、「ニューディール政策の始動に捧げられた100日間の出来事の山場(the crowding events of the hundred days which had been devoted to the starting of the wheels of the New Deal)」と表現した。)

ジョージワシントン大学の政治学者ララ・ブラウンは2021年、ジョー・バイデン大統領の最初の100日間を評価する際に筆者に次のように語った。「ある意味では、100日という数字は、大統領の初期のリーダーシップスタイルを見るという意味で重要な指標だ。しかし、実際のパフォーマンス、つまりこの人物が成功するかどうかという点では、非常に近視眼的だと思う。現代のほとんどの大統領にとって、最初の100日間は彼らの物語の終わりではなく、始まりに過ぎないと言えるだろう」。

更に悪いことに、100日という基準は、新大統領が次々と大きな成果を上げようとする中で、機能不全(dysfunction)と不安定さ(unsteadiness)というメッセージを世界に発信するだけだ。これは特に、冷戦コンセンサスが崩壊し、各大統領が前任者の政策を覆そうとした過去数十年間において顕著であり、トランプとバイデンほどその傾向が顕著な人物はいない。

バイデンは就任初日に少なくとも50件の大統領令に署名したが、その約半数はパリ協定離脱、移民政策、国境の壁建設、イスラム教徒が多数を占める国への渡航禁止措置など、トランプ政権の政策を覆すものだった。

当時、バイデンは「私は新しい法律を作っているのではない。悪い政策を排除しているのだ」と述べた。

トランプはバイデンを凌駕し、1月以降に100件以上の大統領令に署名している。その多くはバイデン政権の政策を覆すものであり、バイデンを「アメリカ史上最悪の大統領(the worst president in U.S. history)」と繰り返し呼んでいる。

トランプ自身も100日という指標(the 100-day metric)を喜んで受け入れている。彼はこの指標を、2期目の目覚ましい躍動感を表現する際にしばしば引用している。4月8日には「我が国史上最も成功した100日間(the most successful 100 days in the history of our country)」と称した。

これは幻想だ。トランプは決して認めないだろうが、ここ数日、後退の兆し(signs of retreat)を見せている。スコット・ベセント財務長官は、かつて「恒久的(permanent)」とされていた関税は今や交渉の余地が十分にあると世界に安心感を与えた。数週間にわたり、自らの「行政の単一性理論(unitary theory of the executive)」を究極の試練にかけ、連邦準備制度理事会(FRB)の独立性を破壊する可能性を示唆し、それが再び市場の暴落につながった後、トランプは今やFRB議長ジェローム・パウエルの解任計画を否定している。

これは、ウォルマート、ターゲット、ホーム・デポのCEOたちが4月21日に大統領執務室でトランプに経済破綻の危機を警告したメッセージに続くものだ。

彼が方向転換するにはまだ遅くはない。

※マイケル・ハーシュ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。『資本攻勢:ワシントンの賢人たちはどのようにしてアメリカの未来をウォール街に渡し、我々自身と戦争を行ったのか(How Washington’s Wise Men Turned America’s Future Over to Wall Street and At War With Ourselves)』と『何故アメリカはより良い世界を築くチャンスを無駄にしているのか(Why America Is Squandering Its Chance to Build a Better World)』の2冊の本の著者でもある。Xアカウント:@michaelphirsh

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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