古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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第2次ドナルド・トランプ政権の電撃的な100日間の施策によって、同盟諸国には不信感が生まれている。トランプはこれまでアメリカと政治的、経済的に良好な関係を保ってきた同盟諸国を敵視し、切り捨てようとしているのではないかとなっている。「アメリカはヨーロッパにとっての敵対国(enemy)になる」という極端な主張も出ている。こうした極端な主張が出てくるのも理解ができる。トランプは、同盟国だろうと何だろうと、これまでとは全く扱いをすると決めてそのように発言し、実行しているのだ。拙著『トランプの電撃作戦』の帯に、私は「アメリカと日本は友達(TOMODACHI)ではない」と書いた。国際関係において、「友達」のような言葉は通用しない(個人間の関係ではもちろん成立する)。それはかえって気持ち悪いことだ。ヨーロッパはアメリカの同盟国、友好国として、アメリカに依存してきた、アメリカに守ってもらい(アメリカ軍の駐留)、養ってもらってきた(対米貿易黒字)ということがあるが、そのようなことはもう許されないということだ。

 トランプ政権はヨーロッパ諸国の右派勢力との親和性が高い。彼らに共通しているのは、ウクライナ戦争に関して、即時停戦を主張していることだ。現在のヨーロッパ諸国、そして、NATOはウクライナ支援を行い、対ロシア制裁を行っているが、それとは大きく異なっている。これについて、トランプが非民主的だという批判もあるが、ヨーロッパ諸国では既に、ウクライナ疲れ、ゼレンスキー疲れという言葉もあり、ウクライナ支援も限界が来ている。そして、何よりも戦争を早期に停止することは重要なことだ、そのためならば、ヨーロッパにとっての「敵」となることもいとわないだろう。

 ヨーロッパからすれば、そして、日本にとってもそうなのだが、トランプ出現は、世界の大きな構造の変化に対応するための良い機会なのであり、この機会を利用して、これまでの主流の考えを大きく転換することができる。アメリカは絶対に倒れない黄金の樹だということはないということ、アメリカの一極的な支配は終わること、世界の構造は大きく変化すること、その中で、アメリカの衰退に殉じて、心中する必要などないことをヨーロッパの人々、そして私たち日本人は認識すべきだ。

(貼り付けはじめ)

そうなのだ、アメリカは今やヨーロッパの敵である(Yes, America Is Europe’s Enemy Now

-トランプ政権は、大西洋同盟の見直しをはるかに超えている。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年2月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/02/21/us-europe-trump-vance-speech-nato-russia/

数週間前、私は第2次ドナルド・トランプ政権が、ワシントンが長らく世界の主要民主政治体制諸国から受けてきた寛容と善意(tolerance and good will)を無駄にしているのではないかと警告した。これらの国々は、アメリカを世界情勢において概ね肯定的な勢力(a mostly positive force in world affairs)と見なす代わりに、「アメリカが積極的に悪意を持っているのではないかと懸念せざるを得なくなるかもしれない(have to worry that the United States is actively malevolent)」と警告した。このコラムは、JD・ヴァンス副大統領がミュンヘン安全保障会議で対決的な演説を行う前、ドナルド・トランプ大統領がロシアとの戦争を始めたのはウクライナのせいだと非難する前、そしてウクライナ問題に関する交渉が始まる前に、アメリカ政府当局がロシアのほぼ全ての要求を先制的に提示したように見える前に執筆された。ヨーロッパの主流の専門家たちの反応は、『フィナンシャル・タイムズ』紙のギデオン・ラックマンによって、次のように簡潔にまとめられている。「トランプ政権のヨーロッパに対する政治的野心は、今のところ、アメリカも敵対国であることを意味している([T]he Trump administration’s political ambitions for Europe mean that, for now, America is also an adversary)」。

この見解は正しいだろうか? 懐疑論者は、1956年のスエズ問題、1960年代の核戦略とヴェトナム問題、1980年代のユーロミサイル問題、そして1999年のコソヴォ戦争など、これまで何度も大西洋横断パートナーシップ(the transatlantic partnership)に深刻な亀裂が生じてきたことを思い出すかもしれない。2003年のイラク戦争は、ワシントンとヨーロッパの多くの国々との間のもう一つの最低水準点(another low-water mark)だった。アメリカは、同盟諸国の利益が悪影響を受けた場合でも、何度も躊躇せずに一方的な行動を取ってきた。例えば、リチャード・ニクソンが1971年に金本位制(the gold standard)から離脱したときや、ジョー・バイデンが保護主義的なインフレ削減法(the protectionist Inflation Reduction Act)に署名し、アメリカがヨーロッパ企業に中国へのハイテク輸出の一部停止を強制したときなどだ。しかし、アメリカが故意に彼らに危害を加えようとしていると信じているヨーロッパ人やカナダ人はほとんどいなかった。彼らは、ワシントンが彼らの安全保障に真摯に尽力しており、自国の安全保障と繁栄が彼らの安全保障と繁栄に結びついていることを理解していると信じていた。彼らの考えは正しかった。そして、アメリカは必要な時に彼らの支持を得ることがはるかに容易だった。

ほとんどのヨーロッパの指導者たちにとって、そして先週ミュンヘンに出席した指導者たちにとって、今日の状況はまったく異なっている。年1949以来初めて、彼らはアメリカ大統領がNATOに無関心でヨーロッパの指導者を見下しているだけでなく、ほとんどのヨーロッパ諸国を積極的に敵視していると考える正当な理由ができたのだ。トランプ大統領は、ヨーロッパ諸国をアメリカの最も重要なパートナーと考える代わりに、ウラジーミル・プーティン大統領のロシアをより長期的な、有望な存在と考えているように見える。トランプとプーティンの親密さについては何年も前から憶測が飛び交っていたが、今やその親密さがアメリカの政策を導いているように見える。

あなたが何を考えているかは分かっている。トランプは、あなたのようなリアリストたちが提案してきたことをやっているだけではないのか? あなたは、ウクライナには失った領土を取り戻すもっともらしい道筋はなく、戦争を長引かせることは無意味な苦しみを長引かせるだけだと言ってきたのではないか? また、NATOの無制限な拡張を前提としたヨーロッパの安全保障秩序は危険な夢物語だと主張していたのではなかったか? ロシアと中国を接近させるのではなく、両者の間にくさび(a wedge)を打ち込み、モスクワが問題を引き起こす誘因を減らすようなヨーロッパの秩序を構築することが、戦略的に理にかなっているのではないだろうか? 実際、ロシアとの関係が改善されれば、長期的にはヨーロッパはより安全になるのではないだろうか? そして、快適な大西洋のコンセンサスを崩壊させることで、ヨーロッパ諸国が行動を共にし、真の防衛力を再構築するようになれば、アメリカはヨーロッパ諸国を守り続ける必要がなくなり、中国により多くの力を注ぐことができるようになる。このように考えると、トランプはヨーロッパの敵ではない。彼は、独りよがりの大陸に厳しい愛情を注ぎ、優れたリアリストたちの論理に従っているだけなのだ。

それが本当ならいいのだが。実際、トランプ、ヴァンス、ピート・ヘグゼス国防長官をはじめとする政権高官たちは、長年の懸案である負担分担の争い、同盟内でのより賢明な役割分担の必要性、そしてウクライナ戦争への対応やロシアとの関係に関する長年の懸案の再検討といった問題をはるかに超えている。彼らの狙いは、長年の同盟諸国との関係を根本的に変革し、世界のルールブックを書き換え、そして可能であれば、ヨーロッパをMAGAに沿って再構築することだ。このアジェンダは、既存のヨーロッパ秩序に明らかに敵対するものだ。

第一に、トランプ大統領が、他の問題で譲歩を迫るため、あるいは単にアメリカとの貿易で黒字を計上しているという理由だけで、緊密な同盟諸国に対し高額な関税を課すと繰り返し脅迫していることは、友情の行為とはとても言えない。もちろん、深刻な貿易紛争は過去にも発生しており、歴代の米大統領もこれらの問題で同盟諸国に対し強硬な姿勢を見せてきた。しかし、彼らは気まぐれにそうしたのではなく、また、明らかに疑わしい「国家安全保障」の論理(transparently dubious “national security” rationales)を正当化するために用いたのでもない。また、同盟諸国に意図的に経済的損害を与えることは、共同防衛への貢献を容易にするのではなく、むしろ困難にすることを彼らは認識している。歴代政権は交渉で合意した協定に固執してきたが、これはトランプ大統領にとって全く異質な概念である。

第二に、トランプ大統領は、大国は欲しいものを手に入れることができるし、そうすべきだと考えていることを明確にしているだけでなく、同盟諸国の一部の所有物を欲しがっているという事実も隠していない。トランプは、ロシアがウクライナの20%を掌握しても困らないのも不思議ではない。なぜなら、彼はグリーンランド全土を欲しがり、パナマ運河地帯を再占領する可能性があり、カナダは独立を放棄して51番目の州になるべきだと考えており、ガザ地区を占領して住民を追放し、ホテルを建設すると主張しているからだ。こうした考えの中には、全く空想的なものに思えるかもしれないが、そこから浮かび上がる世界観は、いかなる外国の指導者にとっても無視できないものだ。

第三に、そして最も重要なのは、トランプ、イーロン・マスク、ヴァンス、そしてMAGAティームの残りのメンバーが、ヨーロッパの非自由主義勢力を公然と支持していることだ。彼らは事実上、軍事力を用いないとはいえ、ヨーロッパ全土に広範な体制転換をもたらそうとしている。その兆候は明白だ。ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相はマール・ア・ラーゴで歓迎されている。ヴァンスはミュンヘン滞在中、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の共同議長アリス・ヴァイデルと会談を持ちながら、ドイツのオラフ・ショルツ首相とは会談しなかった。そして、ヨーロッパにとっての最大の課題は「内部からの脅威(the threat from within)」であると宣言したことは、大陸の政治秩序に対する露骨な攻撃だった。(ヴァンスが、トランプが2020年の選挙で敗北したことを認めようとせず、1月6日の暴動分子を非難しようともしなかったことを考えると、ヨーロッパ人の反民主的な行動を批判するのは皮肉を通り越していた。だが、話が逸れた。)負けじと、マスクもヨーロッパの様々な指導者に対して虚偽の憎悪に満ちた非難を浴びせ、トミー・ロビンソンのような極右犯罪者たちを擁護し、ワイデルにインタヴューして、彼女の政党への支持を表明した。

特定の問題に関する若干の相違は存在するが、MAGA運動とヨーロッパの極右政党の大半は、概してほぼあらゆる形態の移民に反対し、EUに対して懐疑的、あるいは敵対的であり、エリート層、メディア、高等教育を敵視し、伝統的な宗教的価値観やジェンダー規範の復活を望み、市民権は共通の市民的価値観や出身地ではなく、共通の民族性や祖先によって定義されるべきだと考えている。ファシストの前任者たちと同様に、彼らは民主政治体制の規範や制度を利用して民主的な統治を覆し、行政権を強化することに抵抗がなく、そのことに長けている。どこかで聞いたことがあるようだがどうだろうか?

したがって、アメリカが今やヨーロッパの敵対国であるというラックマンの評価は、部分的にしか正しくない。なぜなら、トランプと側近たちは、彼らと基本的な世界観を共有するヨーロッパの極右民族主義運動を支持しているからだ。彼らは、民主的な統治、社会福祉、開放性、法の支配、政治的・社会的・宗教的寛容、そして国境を越えた協力のモデルとしてのヨーロッパというヴィジョンに敵対している。彼らはアメリカとヨーロッパが同様の価値観を持つことを望んでいるとさえ言えるかもしれない。問題は、彼らが念頭に置いている価値観が真の民主政治体制と相容れないということだ。

トランプと側近たちは、ヨーロッパを敵視してもリスクは少ないと考えている。なぜなら、彼らは、ヨーロッパは衰退しつつあり、まとまる能力がないと考えているからだ。極右を支援することで、ヨーロッパの結束を強化する努力を阻害することは、ワシントンにとって分断統治(divide-and-rule)を容易にすることにもなる。一方、他国を公然と脅迫することは、国家の団結と抵抗への強い意欲を促す傾向があり(現在カナダで見られるように)、トランプとマスクがアメリカで引き起こしている混乱は、ヨーロッパ諸国が自国で同様の実験を行うことを警戒させるかもしれない。

ヨーロッパ経済統合への最初の動きが1950年代に始まったことも忘れてはならない。当時、ヨーロッパの指導者たちは、アメリカがそう遠くない将来にヨーロッパ大陸から軍隊を撤退させ、ヨーロッパの安全保障の責任をこれらの国々に再び委ねるだろうと考えていた。したがって、石炭や鉄鋼といった主要産業の統合は、これらの国々がアメリカの直接的な支援なしにソ連に対抗できるほどの経済的・政治的統合を築くための第一歩だった。アメリカは最終的にヨーロッパ大陸に軍隊を駐留させることを決定し、ヨーロッパ経済共同体(後にEU)はより公然と経済的・政治的目標を掲げるようになった。しかし、初期の歴史は、単独で行動しなければならないという見通しが、かつてヨーロッパの協力拡大の強力な原動力であったことを思い出させてくれる。

最後に、もしアメリカが今や敵対国であるならば、ヨーロッパの指導者たちは、アメリカを喜ばせるために何をすべきか自問するのをやめ、自らを守るために何をすべきかを自問すべきである。もし私が彼らの立場だったら、まず中国からより多くの貿易代表団を招待し、国際金融決済システムであるSWIFTに代わるシステムの開発に着手するだろう。ヨーロッパの大学は中国の研究機関との共同研究を強化すべきだ。トランプとマスクがアメリカの学術機関に打撃を与え続けるなら、この取り組みはさらに魅力的になるだろう。ヨーロッパ自身の防衛産業基盤を再構築することで、ヨーロッパのアメリカ製兵器への依存を終わらせるだろう。EU外務・安全保障政策上級代表のカヤ・カラスを次回のBRICSサミットに派遣し、加盟申請を検討するだろう。その他、様々な取り組みを進めていく。

これらの措置は全て、ヨーロッパにとってコストがかかり、アメリカにとっても有害となるため、私はどれも実際に実現して欲しくない。しかし、ヨーロッパに選択肢はほとんど残されていないかもしれない。私は長年、大西洋横断関係は最盛期を過ぎており、新たな役割分担が必要だと考えてきたが、目標は露骨な敵意(open hostility)を助長するのではなく、大西洋横断の高いレベルの友好関係(a high level of transatlantic amity)を維持することを目指すべきだ。もしトランプ大統領の外交革命によって、4億5000万人のヨーロッパ人が、アメリカの最も忠実な同盟諸国から、ますますアメリカを妨害する方法を探す、激しく憤慨した敵対者へと変貌するならば、私たちは自分たち自身、より正確には現大統領に責任を負わされることになる。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Bluesky @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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