古村治彦です。
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第2次ドナルド・トランプ政権は様々な施策を行っているが、トランプ関税を発表した後に、それから後退する姿勢を見せるなどしたために、行き当たりばったりのように見えている。しかし、下記論稿の著者トーマス・キャロサーズによると、実際には相互に関連する4つの主要なプロジェクトを通じて、比較的まとまりのあるヴィジョンを追求しているということだ。
第一のプロジェクトは、アメリカ社会の社会文化的変革だ。トランプ政権は「保守」を法と秩序や伝統的な社会価値観を重視する一方で、反エリート主義を強調している。さらに、移民政策や多様性を排除する試みを通じて、長年の進歩主義的な施策を覆そうとしている。具体的には、銃規制や中絶の制限、教育省の縮小などを通じて、これまで社会政策の変更を進めている。
第二のプロジェクトとして、アメリカ経済の再構築だ。トランプ政権は、減税や規制緩和、化石燃料の生産促進を重視し、過去の共和党政権の政策を推進している。トランプ政権は他国との貿易交渉や高関税を用いてアメリカの製造業の拡大を目指している。
第三のプロジェクトは、新しい政治システムの確立だ。トランプ政権は、行政権の統制を強化し、批判を抑制する方向に進んでいる。彼は専門的知識を持たない人物を任命し、裁判所や連邦議会の権力を弱める政策を進めている。また、反対派に対する抑圧的な手法を用いて、その影響力を排除しようとしている。
第四のプロジェクトは、アメリカの外交政策の転換だ。「アメリカ・ファースト」を掲げ、アメリカの国益を優先する取引主義的な外交路線を進めている。国際組織への参加を縮小しつつ、他国との関係をアメリカ製品の購入増加につなげるような圧力をかけている。また、右翼ポピュリストとの関係を強化し、国際的な民主政体支援をほぼ廃止しようとしている。
これらのプロジェクト間には緊張関係が存在するが、トランプ政権は全体的なヴィジョンを持ち、それを推進し続けている。彼の目指すところは、アメリカとその国際的アイデンティティを再構築することで、プロジェクトは過去からの根本的な脱却を進めようとしている。
私は、拙著『トランプの電撃作戦』(秀和システム)で、トランプが目指すのは「維新(restoration)」だと主張した。そして、最近になって考えるのは、アメリカ国民の考えを大きく変えようとしているということだ。アメリカ人の消費志向、楽をして金を儲けるという考えを叩き直そうということではないかと考えている。トランプは、アメリカの双子の赤字である、財政赤字と貿易赤字は、アメリカ人の贅沢とわがままの結果だと考えているのだろうと想像する。これらを減らすために、アメリカ国民にも痛みを覚えさせるということではないかと考えている。それが成功するかどうかは分からない。私は悲観的で、甘え切ったアメリカは衰退の道を進むしかない、後は、衰退のスピードとレヴェルをどれだけ緩やかにするかということだけだと考えている。
(貼り付けはじめ)
実際には、ドナルド・トランプには一貫したヴィジョンがある(Actually,
Trump Has a Coherent Vision)
-混沌としているように見えるものが、実はアメリカを再構築するための統一された計画なのだ。
トーマス・キャロサーズ筆
2025年5月29日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2025/05/29/trump-us-maga-republican-politics-economy-foreign-policy-culture-society/?tpcc=recirc_trending062921
ドナルド・トランプ米大統領と政権は、大統領就任以来、あまりにも急速に動き回っており、観察者たちにとっては木を見て森を見失いがちだ(to lose sight of the forest for the trees)。トランプ政権の行動範囲の広さ(wide-ranging scope of the administration’s actions)、頻繁な矛盾(frequent inconsistencies)、規範を破る手法(norm-breaking
methods)、そして明らかに性急な動き(apparent rush)は、包括的な計画(overarching plan)が存在しないという印象を与えかねない。
しかし、トランプ政権の行動を、衝動的で気まぐれな大統領の個人的な気まぐれを反映した、支離滅裂な行動の寄せ集め(an incoherent jumble of actions reflecting the personalistic whims
of an impulsive, mercurial president)としか見ない人たちは、全体像を見失っている。
トランプとそのティームは、比較的まとまりのあるヴィジョンを追求している。それは、社会文化的プロジェクト、経済プロジェクト、政治プロジェクト、そして外交政策プロジェクトという、相互に関連する4つの主要な取り組みの組み合わせとして理解するのが最も適切である。トランプがアメリカをどこに導こうとしているのかを理解するには、これらのプロジェクトをそれぞれ個別に理解する必要がある。これらを総合すると、アメリカの国民的アイデンティティの中核となる価値観、規範、そして目標を書き換え、国を根本的に保守的で内向きで、より民主的ではない軌道へと方向転換させることを目指している。
(1)保守的な社会(1. A conservative society)
トランプの最初のプロジェクトは、アメリカ社会の社会文化的変革であり、多くの側面において根本的に保守的になることを目指している。
トランプ政権は「保守(conservative)」を、馴染みのある方法と新しい方法の両方で定義している。法と秩序、いわゆる伝統的な社会価値観、そして公共生活における宗教のより大きな地位など、長年にわたる文化戦争(culture-war)の優先事項を包含している。しかし、これに、エリート大学への攻撃に最も鋭く表れている、鋭い反エリート主義(a pointed anti-elitism)が加わり、伝統的にアメリカの保守主義と結び付けられてきた経済的、文化的エリート主義(the economic and cultural elitism traditionally associated with
American conservatism)とは対照的となっている。
これらの価値観は、トランプ政権の社会文化的課題の最前線に立つ問題を形作ってきた。焦土作戦的な移民政策(scorched-earth immigration policies)は、法と秩序(law
and order)を促進し、白人の地位に対する不安を軽減し、労働者階級のアメリカ人の雇用競争を緩和することを目的としている。一方、公的機関と私的機関の両方における多様性、公平性、包摂性(diversity, equity, and inclusion、DEI)の取り組みを排除しようとする激しい試みは、政権が数十年にわたる社会の進歩主義的な再構築(progressive reengineering of society.)と見なしているものを覆そうとする意欲を反映している。
これらの2つの主要な推進力に加えて、政権は、伝統的な文化戦争の視点(traditional
culture-war views)、あるいは新たなMAGAポピュリズム(the new MAGA populism)のいずれかに基づいて、一連の社会政策の変更を推進している。これには、銃規制の緩和(loosening gun control regulations)、中絶と避妊へのアクセスの制限(restricting access to abortion and birth control)、公共生活におけるキリスト教的価値観の優先(prioritizing Christian values in public life)、学校選択の拡大(increasing school choice)、教育省の大幅な縮小(decimating
the Department of Education)、トランスジェンダーの人々に関する政策の再構築(reshaping
policies related to transgender people)、小児ワクチンに関する医学的コンセンサスへの攻撃(attacking the medical consensus on childhood vaccines)などが含まれる。
(2)再構築された経済(2. A remade economy)
トランプ氏とそのティームは、社会を再構築すると同時に、アメリカ経済の再構築も目指している。彼らは、ここ数十年にわたる正統派保守派の経済政策の主要要素(major elements of the orthodox conservative economic agenda)、すなわち減税(lower taxes)、規制緩和(reduced regulations)、そして特に化石燃料を利用したエネルギー生産の増加(higher energy production, especially using fossil fuels)を重視している。これらは過去の共和党政権の政策を彷彿とさせるが、トランプ陣営はそれをはるかに推し進めている。例えば、規制の削減にとどまらず、規制国家の根幹を揺るがすような政策を試み、気候変動危機を単に無視するだけでなく、その対策を積極的に撤回しようとしている。
こうした保守派の経済政策の優先事項に加え、トランプ政権はよりトランプ的な目標、すなわち、アメリカ経済を国内製造業の拡大に向けて再構築するという目標を加えている。火炎放射器のような関税(flamethrower-like imposition of tariffs)は、この目標達成に貢献するものであると同時に、同時に、トランプ大統領がアメリカに対して敵対的な貿易政策を採用していると考える他国を懲らしめ、他国への影響力を与える手段として関税を好んでいることも反映している。
トランプ大統領の従来の経済政策に加え、大統領とその家族、顧問、支持者による金銭的な私利私欲を伴う行動も見られる。これには、連邦政府機関の監察官の解任(firing inspectors general of federal agencies)といった説明責任の枠組みの撤廃(eliminating accountability guardrails)、2024年大統領選への寄付を行った有罪判決を受けた重罪犯の恩赦といった前例のない方法での寄付者への報奨、イーロン・マスクと彼の政府効率化局(Department of Government Efficiency、DOGE)ティームがマスクの事業活動に対する法的・規制上の監督責任を負う連邦政府機関を攻撃することを認めること、トランプ個人のミームコインを作成し、その投資家に大統領特別晩餐会で報いることなど、多岐にわたる。観察者の一部にとって、私利私欲(self-dealing)は「この政権を特徴づけるテーマ(a defining
theme of this administration)」であり、表明されている国家経済目標と同等、あるいはそれ以上の重要性を持つ経済目標として理解するのが最も適切である。
(3)新しい政治システム(3. A new political system)
トランプとそのティームは、アメリカの政治システムを再構築し、大統領が行政権を統制し、行政府の他の全ての機関を統制し、政府の他の全ての機関に対して完全な支配力を持ち、国内の批判や異議を抑制、あるいは少なくとも大幅に制限できるようにしようとしている。
トランプ大統領は、この超大統領主義的な行政府のヴィジョン(super-presidentialist
vision of the executive branch)を追求する中で、独立機関に対する権限拡大を主張し、公務員に対する政治的支配を強化する措置を講じ、DOGEに連邦官僚機構の弱体化と削減を主導する権限を与えた。トランプ大統領は、政軍関係に党派主義を一層強めている。連邦政府機関の長に対する統制をさらに強化し、その地位にふさわしい専門的権限を持たない資格不足の人物を任命し、機関長らの周囲に政治的な「お目付け役(minders)」を配置して、彼らの意のままに動いているかを確認している。
トランプ大統領は、連邦政府全体と共に、裁判所と連邦議会が自身の権力を制限する能力を制限することに最優先で取り組んできた。トランプ大統領とそのティームは、政権の政策に反する判決を下す裁判官、行政権を制限する裁判所の権限に疑問を呈する裁判官、そして、気に入らない司法判断を無視し、部分的にしか、そしてゆっくりとしか従わない裁判官を激しく非難している。トランプ政権は、歳出予算を差し押さえ、連邦議会の許可なく連邦政府機関やその他の機関を解体し、連邦議会の監督全般を削減または無視することで、連邦議会の予算の役割に挑戦している。
トランプ政権はまた、州政府および地方自治体の権限を制限しようとしており、移民政策の執行など、連邦政府の政策指示に従わせるため、特定の州および地方自治体への資金提供を停止すると脅している。
トランプ政権は、法的措置、金銭的脅迫、そして政治・市民活動家に対する修辞的な攻撃を通じて、反対勢力の抑制に取り組んでいる。これには、トランプ大統領に対する過去の訴訟に関与した弁護士への報復(retribution against lawyers associated with past legal actions
against Trump)、独立系メディアへの攻撃、トランプ政権に反対する政治団体に対する司法省の調査(Justice
Department investigations of political groups that oppose the administration)、そして、DEIやその他の問題に関してトランプ政権の意向に従わないと見なされる大学やその他の市民団体への攻撃などが含まれる。
(4)世界における変化した役割(4. A changed role in the
world)
最後に、トランプとそのティームは「アメリカ・ファースト(America First)」という大義名分の下、アメリカの外交政策を転換させようとしている。彼らは、アメリカが長らく自国の利益よりも他国の利益を優先し、他国からただ乗りと不当な扱い(freeloading and mistreatment)を受けてきたというトランプの確信に基づいて行動している。
この計画の中核を構成するのは、アメリカが国際ルールに基づく安全保障と経済秩序の保証人としての役割から撤退し、代わりにアメリカに直接利益をもたらす取引を追求することである。協力よりも強制を強調し(emphasizing coercion more than cooperation)、より広範な国際的価値よりも当面の国益を重視する。
安全保障面では、これはアメリカの安全保障上の保証と関与を削減し、防衛負担をパートナー国に転嫁することを意味する。ロシアとウクライナ間の和平交渉、そしてイランとの核合意の実現を目指す政権の姿勢は、この削減計画の主要な要素であり、同時に、世界の平和推進者となるというトランプの野望を実現する手段でもある。「アメリカ・ファースト」の考え方のもう1つの要素は、国際機関へのアメリカの参加を縮小し、アメリカの力を制約する可能性のある法的義務を撤廃または回避することだ。やや意外なことに、トランプはこの考え方に、カナダ、ガザ、グリーンランド、パナマ運河といった領土拡大主義(territorial expansionism)を加えている。
経済面では、トランプ政権は関税をはじめとする経済的・外交的圧力を用いて、他国に対しアメリカ製品への関税引き下げと、特に天然ガスと石油をはじめとするアメリカ製品の購入拡大を迫っている。「アメリカ・ファースト」の経済政策には、世界の戦略鉱物資源へのアメリカのアクセスを最大化し、他国への経済開発援助をほぼ停止することも含まれる。
アメリカの外交政策転換におけるもう1つの側面は、こうした取引主義的な考え方(transactionalist
outlook)とは相容れない、よりイデオロギー的な色合いを帯びている。トランプは右派ポピュリストの友人ネットワークを構築し、彼らの政治的影響力を高めようとしている。これには、ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相、エルサルバドルのナジブ・ブケレ首相、アルゼンチンのハビエル・ミレイ首相といった指導者たち、そして「ドイツのための選択肢(the Alternative for Germany、AfD)」やブラジルのジャイル・ボルソナロ前大統領といった、現政権に反対する極右政党や政治家が含まれる。この取り組みに関連して、アメリカの国際的な民主政治体制支援の大半が廃止された。トランプ政権は、これらの支援がしばしばこれらのポピュリスト指導者や政党に対して使われてきたと主張している。
●統一されたヴィジョン(A unified vision)
これら4つのプロジェクトの間には、多くの緊張関係が見受けられる。例えば、連邦政府の役割縮小を求める訴えと、特定の分野における政権による連邦政府の権力の押し付けがましい主張を両立させることは困難だ。
しかし、全体として、トランプ政権はこれらのプロジェクトを相互に補完し合うものと捉えている。アメリカ経済の変革は、アメリカの国際経済における姿勢の再構築と密接に関連している。全能で制約のない行政府の樹立は、トランプにとって個人的な目標であるだけでなく、強引な社会文化的変革を推し進め、彼が「国と世界を統治できる(run the country and the world.)」と信じる極めて個人的な外交政策を追求するためにも不可欠だ。
各プロジェクトには、確かに矛盾や緊張が見られる。例えば経済面では、ビジネスにフレンドリーな経済の構築という目標と、関税の積極的な活用との間に、鋭い対立が見られる。外交政策の分野では、アメリカの安全保障上の関与削減の願望と、トランプの領土拡大への願望は相容れない。
こうした矛盾は、トランプのティームが極めて異なる政治勢力と人物で構成されていることに起因している。しかし、このグループ内では、これら4つのプロジェクトに示された全体的なヴィジョンについて、矛盾点も含めて前進を続けるのに十分な基本的合意が存在している。
それぞれのプロジェクトは、過去からの根本的な脱却を象徴している。社会文化プロジェクトは、ここ数十年にわたりアメリカの生活を形作ってきた進歩主義政策の中核要素からの急激な転換を予見している。経済プロジェクトは、国内製造業の拡大、主要貿易相手国との関係見直し、そして政府の規制役割の大幅な縮小に向けた大規模な構造改革を想定している。政治プロジェクトは、行政における超大統領主義的優位性(super-presidentialist predominance within the executive)、司法と連邦議会に対する行政の優位性(primacy of the executive over the judiciary and Congress)、そして、制約され、従順な市民社会(a constrained and compliant civil society)を特徴とする、ソフトな権威主義(soft authoritarianism)を目指している。外交政策プロジェクトは、ルールに基づく国際秩序の要としてのアメリカの役割を放棄し、狭義の経済・安全保障上の利益を追求する、あからさまに利己的な大国へと変貌させようとしている。
これらを総合すると、私たちの記憶に残る中で、アメリカとその国際的アイデンティティを再構築しようとする最も深遠な試みと言えるだろう。トランプ政権に反対する人々は、主にその手法に注目している。その手法の多くが前例のない、無法で、無謀であることを考えると、それも無理はない。しかし、より広範な支持を得るためには、トランプが追求しているより大きな方向性をアメリカ国民に伝え、同等の規模と野心を持つ対抗ヴィジョンを明確に示す必要がある。
※トーマス・キャロサーズ:カーネギー国際平和基金民主政治体制・紛争・統治プログラム部長。Xアカウント:@CarnegieDCG
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(終わり)

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』
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