古村治彦です。
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居酒屋での砕けた政治談議で、「今の政府は頼りない」「今の政治家は駄目だ」「三世、四世ばかりで力がない」「官僚たちは国民のことなんか何も気にしていない」と口にしたことがある人は多いだろう。政治と宗教とプロ野球の話は喧嘩になったり、後腐れが残ったりするので、表ではしないようにということは教えられるが、気の置けない仲間たちやグループということになると、こういうことを話すことがある。
私もたまに友人たちとこういう話をすることもある。私が本を書いているということもあって、本を読んでもらって、私の本の中身について話すこともある。その中で、「西側諸国(ジ・ウエスト)対それ以外の国々(ザ・レスト)」の対立構造は共感を得ていることが多い。そして、「今の日本政治家は駄目だが、アメリカや先進諸国もよく分からない。けど、君が書いているように、確かに、非西側の国々の指導者たちは独裁的だけど、実力があるように見える」というようなことを言う人がいる。
私はこういった考えは既に広がっていて、政治に対する不信感が日本国内における政治への無関心につながっていると思うし、更に言えば、アメリカでドナルド・トランプを大統領に押し上げたのも不信感であると考えている。日本では戦後、短期間を除いて自民党が与党となり、アメリカでは二大政党である民主党と共和党が、大統領選挙、連邦議会選挙で、与党と野党となることを繰り返している。どちらにも言えることだが、選挙で与党を交代させても、自分たちの生活はちっともよくならないという実感から、政治に対する不信感が増大している。現在の日本の若者、アメリカの若者、Z世代と呼ばれているが、彼らには、「自分たちの親や祖父母の時代よりも生活が良くなるということはない」という諦念が存在する。こうした不信感や諦めが向かう先は、民主政治体制への不信感である。
私たちは、民主政治体制(デモクラシー)が最上ではないが、次善の政治体制であり、よりましなのだと考えている。政治体制について、「中国やロシアなんてかわいそうだ」という思いがある。しかし、非西洋の、非民主的な国家群の方が、政治がしっかりして、人々の生活が豊かになっているということを目撃しながら、目を逸らしている。「どうして、こんなにたくさんの中国人が日本に来られるんだ、中国は貧しいんじゃないのか」というのは頭を切り替えられない昭和脳の方々である。デモクラシーに対する信頼は低下する一方である。だからと言って、独裁は嫌だというのは先進国に住む私たちの考えることだが、日米両国民で、自国の政治を省みて、素晴らしい民主政治だと胸を張って言える人は多くないだろう。
下記論稿の著者スティーヴン・M・ウォルトは、トランプが中国の習近平国家主席やロシアのウラジーミル・プーティン大統領との良好な関係を結ぼうとしていることには反対しているようだ。非民主的な政治制度で生まれた独裁者たちと手を結ぶなどありえないという訳だ。しかし、待って欲しい。それなら、たとえば、王政であるサウジアラビアの国王とアメリカの大統領が良好な関係を結ぶことはどうなのか。サウジアラビアは同盟国だから良くて、ロシアと中国は敵対関係にあるから駄目だということになるのか。非民主的という点では同じだし、何よりもプーティンも習近平も叩き上げだ。
更に言えば、先進諸国の民主政治体制はきちんと機能しているのかということ、国民生活は豊かになっているのか、確かに政治家が失敗したら取り換えやすいということは民主政治体制の利点だが、先進諸国はどうして失敗ばかりの誠意が続いているのかという不信感がある。民主政治体制の正当性は揺らいでいると言わざるを得ない。私は民主政治体制を支持するが、妄信してはいない。多くの欠陥を抱えている以上、常に改善のための度量をしなければならないという非常に厳しい制度であると考えている。そして、人々はそれに疲れているということもあるだろうと考えている。
(貼り付けはじめ)
トランプの最重要人物たちの協調は機能しない(Trump’s Concert of
Kingpins Won’t Work)
-ストロングマンたち(strongmen)によって分割された地球は世界秩序などではない。
スティーヴン・M・ウォルト筆
2025年3月3日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2025/03/03/trumps-concert-of-kingpins-wont-work/
ドナルド・トランプ米大統領が国内外で醸成しているカオスにまだ驚いているとしたら、過去8年間に十分な注意を払っていなかったのではないかと心配になる。彼の長くねじ曲がった人生の現時点において、彼の考える完璧な世界とは、権力と富を持つ男たち(つまり彼のような男たち)が、規範や法律、あるいは公共の利益に対する広範な関与に制約されることなく、やりたい放題できる世界であることは明らかだ。このような態度は、2016年の選挙キャンペーンで、彼が好きなところで女性をつかまえたとテープで自慢したときに、最もはっきりと明らかになった。ルール?
良識? 自制心? 公共心? それらは敗者とカモ(losers and dupes)のためのものだ。
この核心的な信念を考えれば、トランプが尊敬し、一緒にいて最も心地よいと感じる指導者たちが、抑制のきかない権力を持つ独裁者であることは驚くにはあたらない。彼はロシアのウラジーミル・プーティン大統領を「強い指導者(strong leader)」と称賛し、中国の習近平国家主席や北朝鮮の独裁者である金正恩、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子といった男たち(そう、彼らはみな男だ)といかにうまくやっているかを熱く語る。ハンガリーのヴィクトル・オルバン、インドのナレンドラ・モディ、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフなど、民主的に選ばれた指導者たちでさえ、非自由主義的あるいは独裁的な傾向が強い。また、これらの指導者の多くが、自分自身や支持者を富ませるために国家を支配してきたことにも注目して欲しい。腐敗(corruption)は独裁的な体制ではほぼ普遍的な症状である。このような態度は、トランプとイーロン・マスクや他のテック産業の大立者たちの関係を説明するのに役立つ。トランプと同様、彼らは自分たちが他の人々からできるだけ多くの富を引き出すのを妨げるかもしれないあらゆるルールを排除したいと考えている。そしてそれは、悪名高いテイト兄弟(訳者註:極右インフルエンサーで人身売買などの性犯罪の容疑がかかっている)のような誇り高き女性差別主義者との親和性とも一致している。
対照的に、トランプが嫌悪するのは、権限の制限と民主政治体制に深く真摯に関与する指導者たちだ。例えば、ドイツのアンゲラ・メルケル元首相、カナダのジャスティン・トルドー前首相、ボリス・ジョンソンを除く英国の最近の首相全員、そして現メキシコ大統領のクラウディア・シャインバウムなどだ。トランプの二期目の大統領就任が、アメリカにおける行政権の既存の制限に対する本格的な攻撃で始まったのも無理はない。彼は自らを王様(a king)だと考えていることを露骨に示唆している。
トランプが描く理想の世界秩序とは、独裁者(autocrats)やその他のストロングマンたちが結集し、世界を自分たちの都合で分割するというものだ。『フィナンシャル・タイムズ』紙のギデオン・ラックマンは最近、このアプローチを「独裁にとって安全な世界(safe for autocracy)」にするものだと述べた。また、バラク・オバマ政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたスーザン・ライスは、トランプの新たな友人たちを「独裁者の枢軸(axis of autocrats)」と呼んだ。私には、これはナポレオン戦争後の「ヨーロッパの協調(the Concert of Europe)」の現代版のように聞こえる。ヨーロッパの協調とは、大国が行動を調整し、相互間の紛争を抑制して、君主制への新たな攻撃を防ごうとした、ナポレオンが退場した後に成立した協定(the post-Napoleonic arrangement whereby the major powers tried to
ward off a renewed assault on monarchical rule by coordinating their actions
and keeping conflicts between them within bounds)である。いわば、新たに出現しつつある「最重要人物たちの協調の協調(Concert of Kingpins)」と言えるだろう。
それはうまくいくだろうか? 一見すると、アメリカは国連やG20、G7、ヨーロッパ連合などの複雑な国際機構を省き、強大な権力を持つ国々と定期的に会合を持つだけでいいように思えるかもしれない。民主政治体制国家を相手にするのは面倒なことだ。国民が何を望んでいるのか、国民が選んだ代表がどんな取引をしても支持するのかどうかを考慮しなければならないからだ。仲間の独裁者たちと協定を結んで終わりにする方が単純ではないだろうか?
経済規模やユーラシア大陸からの地理的な隔たりを考えれば、アメリカは様々な大国の中でかなり有利な立場にあるとさえ言えるかもしれない。他の独裁者たちはまだお互いを警戒しており、ワシントンの機嫌を取ろうと躍起になっている。さらに、アメリカが公言する民主政治体制、自由、人権、その他すべての厄介なリベラルな価値観を公然と放棄すれば、偽善(hypocrisy)と非難されることも、公言する理想と理想とは異なる行動との間の気まずいトレードオフに直面することもなくなる。トランプは正しいのかもしれない。つまり、
リベラル・デモクラシーは前世紀的であり、世界のアルファ・オス(alpha males)にショーを任せた方がいい。
それに賭けてはいけない。
第一に、最重要人物たちの協調は、抑制のきかない独裁者たちが互いを信頼し、国民を搾取または抑圧するという共通の利害が他の相違に優先することを前提としている。しかし、仲間の指導者たちが、以前に合意したことが何であろうと、自分たちが望むように行動するほぼ完全な自由裁量権(near-total latitude to act)を持っていることを知っていれば、信頼を維持するのは難しい。金委員長に媚びを売り、おだて、米大統領との個人的な首脳会談という威光を与えても、平壌との合意に達することができなかったことを考えれば、トランプ大統領はもうこのことを理解していると思うだろう。トランプが交渉した「美しい」貿易取引の一環として、中国がアメリカの輸出品2000億ドル分を購入すると約束した習近平にも裏切られた。トランプは、欺瞞と二枚舌(deceit and duplicity)ができる世界の指導者は自分だけだと思っているのだろうか? 記録はそうではないことを示唆している。
国際関係分野の学者たちは、民主政体国家はより信頼性(more trustworthy)が高く、この特徴が彼らをより価値あるパートナーにしているということを長年認識してきた。例えば、民主政体国家は好ましい貿易相手国となる傾向がある。これは、国民全体の幅広い合意を反映し、民主的なプロセスによって批准された約束は、予告なしに放棄される可能性が低いためだ。歴史的に見ても、民主政体国家間の同盟はより永続的だ。なぜなら、より永続的な利益を反映し、指導者の個人的な気まぐれに左右されにくい傾向があるからだ。
第二に、世界を純粋に取引ベースで、主に他の強力な指導者たちとの取引交渉によって運営しようとすることは、本質的に非効率的であり、参加者が合意を守ることができるかどうか確信が持てない場合はなおさらだ。中央的な権威が存在しない世界であっても、国家は日々発生する複雑な相互作用を全て管理するための規則と制度を必要としている。もし交通法規がなく、毎日ドライバー全員が、車のハンドルを握る他の全ての人々と従うべき一連の規則を理解しなければならないとしたら、生活はどれほど混沌としたものになるか想像してみて欲しい。その結果、交通渋滞、多数の事故、そして非常に怒ったドライバーが発生するだろう。
規範や制度は、他国の意図を見極める手段にもなる。確立されたルールを遵守する政府は、それを繰り返し無視する政府よりも、一般的に脅威は少ないものだ。しかし、全てのルールを廃止してしまうと、法を破る政府と法を遵守する政府の区別がつかなくなってしまう。トランプは、確かに不完全な今日のルールに基づく秩序を破壊し、自分のやりたいことを何でもできると考えているかもしれないが、ルールが全く存在しない世界は、より貧しく、より紛争が多く、はるかに予測不可能で、より管理が困難になることをすぐに理解するだろう。
第三に、独裁政権は、支配者を絶対的な天才として描くプロパガンダを山ほど生み出すが、歴史は、抑制されない権力を持つ指導者は重大な過ちを犯しやすいことを警告している。ヨシフ・スターリンと毛沢東は、何百万人もの不必要な死をもたらす重大な決断を下し、ベニート・ムッソリーニはイタリアを悲惨な戦争へと導き、アドルフ・ヒトラーの戦略的失策と誇大妄想(megalomania)は、第二次世界大戦におけるドイツの敗北を招いた。もちろん、民主政治体制の指導者も間違いを犯す。しかし、情報の自由な流れと、失敗した指導者を交代させる能力があれば、誤りを迅速に修正することが容易になる。この事実は、経済成長、寿命、教育水準、基本的人権など、幅広い指標において民主政治体制国家が歴史的に独裁国家を上回ってきた理由を説明する一助となる。独裁政権下で世界(あるいはアメリカ合衆国自身)がより良い状態になると信じることは、過去2世紀にわたる重要な教訓の一つを無視することである。
第四に、問題はトランプがロシアに手を差し伸べ、ウクライナでの戦争を終わらせようとしていることではない。カマラ・ハリス前副大統領も、やり方は全く違うとはいえ、おそらくそうしようとしていただろう。問題なのは、トランプがアメリカを世界有数の独裁国家である数カ国と再編成し、何十年もの間、アメリカの主要な同盟諸国であった民主政体国家を弱体化させ、蔑視し、信用を失墜させるためにできる限りのことをしていることだ。リチャード・ニクソン元米大統領とヘンリー・キッシンジャー国家安全保障問題担当大統領補佐官(当時)は、1970年代初頭に中国と手を結んだとき、賢明なリアリストとして行動していた。
これはあまりにも近視眼的(shortsighted)だ。南と北に友好的な隣国を持つことはアメリカにとって並外れた恩恵であり、トランプ大統領のいじめはその驚くべき幸運を危うくしようとしている。過去70年間、ヨーロッパとアジアに安定した、志を同じくするパートナーを持つことは、同様に正味の利益であった。アメリカがヨーロッパの同盟諸国と新たな役割分担を模索するのにはそれなりの理由があったが、ロシアと再編成し、ヨーロッパを敵対国として扱うことは、人口1億4000万人強、経済規模わずか2兆ドルの衰退した大国の指導者との不確かなつながりのために、約4億5000万人(GDP合計20兆ドル)の友好関係を交換することを意味する。トランプにとっての重要な目的が、世界中の民主政治体制を弱体化させ、国内で自身の権力を強化することにあるならば、このアプローチは理にかなっているかもしれないが、アメリカをより安全で、より人気があり、より豊かにすることはないだろう。
※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント: @stephenwalt.bsky.social、Xアカウント:@stephenwalt
(貼り付け終わり)
(終わり)

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』
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