古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 私は拙著『トランプの電撃作戦』(秀和システム)の帯で、「アメリカと日本は友達(TOMODACHI)ではない」と書いた。これは、2011年の東日本大震災発生後に、在日アメリカ軍を中心となって、「トモダチ作戦(Operation TOMODACHI)」なる支援活動を行ったことから由来している。世界各国からの支援について私たちは感謝すべきであるが、アメリカが「トモダチ」という言葉を使ったのが私には何とも違和感があったので、このことをずっと覚えていた。「同盟」と「友達(トモダチ)」は全く異なる。そもそも、国際関係において、国に「友達」は存在しない。自国の利益のために協力するパートナーは存在するが、個人間の友達関係のようなある種のウエットさを持つ関係は存在しない。

 アメリカが日本と日米安全保障条約を結び、アメリカ軍を10万人単位で日本に駐留させているのは(駐留経費は日本負担)、アメリカの国益に資するからだ。「日本が友達だから、損得抜きで守ってあげよう」ということはない。しかも、駐留経費は日本持ちだ。世界規模で見れば、「アメリカが世界の警察(world police)で、世界の平和と秩序を守るために日本にアメリカ軍を駐留させる」という理屈になる。そして、現在では、「拡大を続ける中国を抑えるために、アメリカを中心とするアジア地域の同盟諸国を団結するためにアメリカ軍は存在する」という理屈で、アメリカ軍が日本にいる存在理由になっている。そして、「トランプは内向きで、アメリカを世界から撤退させる、つまり、アメリカ軍を世界から撤退させる方針である。そうなれば、アジアは中国のものになる。それは危険だ」ということが声高に主張されている。果たしてそうだろうか。

 アジアという地域を定義するのは意外と難しい。どこからどこまでがアジアかと言われると、東は日本から東南アジア、ユーラシア大陸のヨーロッパ地域以外というのが一般的な捉え方となるだろう。そして、中国が拡大して云々というのは、主に東南アジア地域と東アジア地域ということになるだろう。ここに、アメリカが存在しているから、中国の拡大を押さえ、アジアの平和を守れるという理屈だ。果たしてそうだろうか。第二次世界大戦後、アジア地域で起きた戦争(朝鮮戦争やヴェトナム戦争)や国内紛争(インドネシアでの架橋虐殺やクーデターなど)を見てみれば、アメリカが当事者(直接的にも間接的にも)となってきた。アメリカがいたからアジア地域の平和が乱されたと言うこともできる。

アジアでは、ASEANという枠組み、更にASEANプラス3(日中韓)という枠組み、中国の一帯一路計画、BRICSという多国間の枠組みが重層的に積み上がっている。この多国間枠組みで、地域の平和と安全を担保しようとしている。「中国を押さえる」というアメリカの意図を、同盟諸国という名の下請け国家にやらせようというのが、アメリカが現在やっていることだ。それに面従腹背で、だらだらとお付き合いをしているのが日本以外の国々だ。

 アメリカの国力の衰退は大きな流れである。いつまでも世界の警察をやってはいられない。撤退の時期が刻々と近づいている。それを何とかしようと色々と画策するのは、「引かれ者の小唄」である。私たちは「アメリカの世紀(American Century)」の黄昏を目撃している。

(貼り付けはじめ)

アジアは危険なまでに不均衡に陥っている(Asia Is Getting Dangerously Unbalanced

-ドナルド・トランプ政権は依然として注目を集めているが、真の物語は別のところにあるのかもしれない。
スティーヴン・M・ウォルト

2025年4月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/04/01/asia-trump-china-xi-hegseth-japan-south-korea-balance/

現在、アメリカの外交政策を揺るがす混乱の中で、国際政治のより根本的な側面を見失いがちだ。シグナルゲート事件(Signalgate)、ロシア・ウクライナ交渉(the Russia-Ukraine negotiations)、トランプ政権のますます明らかにするヨーロッパへの敵意(the Trump administration’s increasingly obvious animus toward Europe)、迫り来る貿易戦争(a looming trade war)、悪化する米加関係による自業自得の傷(the self-inflicted wound of a deteriorating U.S.-Canada relationship)、そしてアメリカ国内の民主政治体制への組織的な攻撃など、私たちは皆、気を取られている。こうした混乱についていくのに苦労しているのなら、それはあなただけではない。

少しの間、ニューズの見出しから少し離れて、長期的な影響を持つ大きな問題、つまりアジアにおけるアメリカの同盟諸国の将来について考えてみよう。ピート・ヘグゼス米国防長官は、同僚たち(とあるジャーナリスト)にイエメン攻撃計画についてメッセージを送るために安全でないアプリを使うのを止め、アジアの同盟諸国を安心させるために奮闘している。ヘグゼスの経験不足とこれまでの政権の政策を鑑みると、容易な話ではないだろうから、彼の成功を祈る。

つい最近まで、私はこのテーマを、古き良きリアリスト的な勢力均衡・脅威論(good old-fashioned, realist balance of power/threat theory)に基づいた、シンプルで馴染み深く、むしろ安心感を与える物語で説明していた。その物語は、中国が貧困(poverty)、技術力不足(technological deficiency)、軍事力の弱さ(military weakness)から世界第2位の地位へと驚異的な台頭を遂げ、南シナ海の領有権を主張し、国際社会および地域の現状維持(the international and regional status quo)におけるその他の重要な側面を見直そうとする継続的な努力から始まる。

この物語において、これらの劇的な展開は最終的にアメリカと中国の近隣諸国のほとんどを警戒させた。その結果、バランスをとる連合(a balancing coalition)が形成され始めた。当初はアメリカの既存のアジア同盟諸国が中心となり、徐々に他のいくつかの国も加わって拡大していった。この連合の明確な目的は、中国によるこの地域支配(dominating the region)を阻止することであった。その取り組みの主要な要素は、この地域へのアメリカ軍の追加配備、オーストラリア、英国、米国間のAUKUS協定の交渉、アメリカ、韓国、日本の安全保障協力強化のためのキャンプ・デイヴィッド合意への署名、フィリピンに方針転換を促し、アメリカとの関係強化(アメリカ軍のプレゼンス拡大を含む)、インドとの安全保障協力の拡大、そしていわゆるクアッド[QUAD](アメリカ、インド、日本、オーストラリアを含む)の活動継続であった。もう1つの兆候は、台湾に対する地域の支持の強化であり、2021年6月に当時の岸信夫防衛大臣が「台湾の平和と安定は日本に直結している(the

この物語の教訓は明白だ。誰がホワイトハウスに就任しようとも、アメリカとそのアジアのパートナー諸国には同盟関係を継続・深化させる強力かつ明白な理由がある。また、楽観的な結論も導き出されている。すなわち、力のバランスは前述の通り機能し、中国がこの地域を支配しようとする試みは自滅的となるだろう、ということだ。

誤解しないで欲しい。私は自分のシンプルな物語を気に入っており、そこにはかなりの真実が含まれていると考える。しかし、この物語に疑問を抱く理由も増えている。そして何よりも、過度に油断すべきではない。

第一に、中国は手をこまねいている訳ではない。新たな状況に適応し、場合によっては成功を収めている。ディープシーク(DeepSeek)の人工知能モデルの発表は「スプートニクの瞬間(Sputnik moment)」とまでは言えないが、アメリカが中国の技術開発に課そうとしてきた障壁の一部を克服する革新能力を示した。中国は国内の半導体製造能力と量子コンピューティングに多額の資金と労力を注ぎ込み続けており、アメリカが背を向けている多くのグリーンテクノロジー(電気自動車など)で既に優位に立っている。トランプ政権がアメリカの大学を不当な理由で標的にし、アメリカの科学者と外国の研究者の共同研究を困難にし、研究開発への連邦政府資金を削減している中で、中国の大学や研究機関は発展を続けている。アメリカが常に技術の最先端をリードするだろうと考えることに慣れているなら、もう一度考え直した方がいい。

第二に、アメリカにとって最も重要なアジアの同盟諸国の1つである韓国は、弾劾訴追された尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が2024年12月に戒厳令を布告しようとして失敗に終わった後、政治的混乱に陥っている。たとえ現在の危機が最終的に解決され、安定が回復したとしても、韓国社会は依然として深刻な分極化が続く可能性が高いだろう。野党の李在明(イ・ジェミョン)が最終的に大統領に就任する可能性も十分にある。李は米韓関係に懐疑的で、これまで中国と北朝鮮に対してより融和的なアプローチを好んできた。

第三に、中国は深刻な人口動態問題に直面しているが、日本と韓国も同様だ。台湾の年齢の中央値は44歳、韓国は45歳近く、日本は50歳近くになっている。アメリカは約38歳、中国は40歳を少し超える程度だ。対照的に、インド、インドネシア、フィリピンの人口ははるかに若く、年齢の中央値は30歳未満だ。前者のグループの場合、人口減少と高齢化が進むことで、若い男女を労働力から引き離して軍人にすれば経済の生産性が低下するという理由だけでも、軍事力を大幅に増強することが難しくなるだろう。

そして、集団行動(collective action)の問題がある。たとえ各国が共通の脅威に直面し、互いに協力して対処する明らかなインセンティヴがある場合でも、他国に重労働を委ねたり、最大のリスクを負わせたりしようとする誘惑に駆られる。これはもちろん新しい現象ではないが、今後もなくなることはない。強力な同盟諸国のリーダーシップと持続的な外交によって克服することは可能だが、今後数年間、どちらも豊富に得られるとは考えにくい。

ここでトランプ政権についてお話しする。

Which brings me to the Trump administration.

一方で、ドナルド・トランプ大統領は中国を経済的および軍事的なライヴァルだと述べており、政権の要職には著名な対中強硬派がいる。中国との対峙は、超党派の幅広い支持を得られる数少ない課題の1つでもある。しかし他方では、アメリカのビジネスリーダー(特にイーロン・マスクのような人物)は、中国との衝突によって自国と北京との商業取引が阻害されることを望んでいない。トランプ大統領は過去に台湾防衛に懐疑的な姿勢を示しており、政権が最初に取った行動の1つは、台湾の半導体メーカーTSMCに対し、今後数年間でアメリカに約1000億ドルを投資するよう圧力をかけることだった。トランプ大統領は(実績こそパッとしないものの)自らを交渉の達人だと自認しており、良好な関係にあると主張する中国の習近平国家主席と何らかの取引を成立させたいと考えている。しかし、その際に彼が何を譲歩するかは誰にも分からない。結局のところ、トランプ政権が中国をどのように見ているのか、そしてアジアで何をする(あるいはしない)用意があるのか​​を正確に知ることは難しい

さらに、中国に対抗するという戦略的目標と、同盟国・敵対国を問わずトランプの保護主義的なアプローチとの間には、深刻な矛盾がある。トランプが最初の任期開始時に環太平洋パートナーシップ協定(the Trans-Pacific PartnershipTPP)を破棄して以来、アメリカはアジアに対する真剣な経済戦略を持たず、バイデン政権も同様に戦略を打ち出していない。先日発表された外国製自動車・自動車部品への関税は、韓国と日本に大きな打撃を与えるだろう。これは、両国との戦略的連携を強化する理想的な方法とは到底言えない。北京はこの好機を逃さず利用し、王毅外相は先日、日本と韓国の当局者との会談で貿易と安定の「大きな可能性(great potential)」を強調し、「近い隣国は遠く離れた親戚よりも良い(close neighbors are better than relatives far away.)」と述べた。

トランプとマスクは、重要な政府機関を混乱させ、経験豊富な政府関係者を忠実な人物に交代させ、国家安全保障会議(the National Security CouncilNSC)と国防総省で素人同然の活動を続けている。もし私がアジアにおけるアメリカの同盟国だったら、専門知識の喪失と大統領の気まぐれに対する制約の撤廃を心配するだろう。それも非常に心配する。

最後に、アメリカ政府の基本的な性格が、これまでアメリカとアジア諸国の同盟関係を結びつけてきた絆を弱めるような形で変容しつつあるのかどうかを検討する必要がある。これらの同盟関係は、共通の価値観や制度に依存してきた訳ではない(例えば、韓国、台湾、フィリピンはいずれも長期にわたって独裁政権下にあった)が、近年、アジアにおけるアメリカのパートナー諸国のほとんどが志を同じくする民主政治体制国家であったという事実は、これらの絆を強化するのに役立ってきた。しかし、アメリカ自身が独裁政治体制(autocracy)への道を歩んでいるのであれば、このもう1つの結束の源泉(そして、これまで明確に区別されていた米中の政治秩序も)は失われてしまうだろう。

私はリアリストだが、それでも私のシンプルな物語には一理あると考えている。世界には国家以上の上位存在がない、つまり無政府状態の中にある国家は脅威に対して極めて敏感になる傾向があり、強大で野心をますます強める中国は、近隣諸国とアメリカが協力して北京の影響力を抑制する十分な理由を与えている。強いて推測するなら、アメリカのアジア同盟は存続するだろう。なぜなら、アメリカは中国がアジアで覇権大国(hegemonic power)となることを望んでいないからだ。地域におけるパートナーなしではそれを阻止することはできない。そして、潜在的なパートナーは中国の勢力圏内に居ることを望んでいない。しかし、以前ほどこの予測に自信を持っているわけではない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント: @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt
(貼り付け終わり)
(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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