古村治彦です。
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ドナルド・トランプの就任後100日の電撃的な施策を受けて、良い意味でも、悪い意味でも、トランプが「革命を進めている」という言説が出ている。良い意味で言うと、アメリカの肥大化した連邦政府と予算を削減する、既存の政治を破壊する、世界の警察官であることを止めるという評価になっている。悪い意味で言うと、これまでの安定した連邦政府のシステムを壊している、世界での役割を果たそうとしないことで、世界の平和と安定を脅かすということで、「脅威」「壊し屋」という評価になっている。
下記論稿の著者スティーヴン・M・ウォルトはトランプとトランプ革命について、以下のように書いている。
(貼り付けはじめ)
良い知らせは、トランプ主義はブルボン家、ロマノフ家、パーレビ家を倒したような大衆運動ではなく、トランプはその種の革命指導者ではないということだ。トランプ主義は「上からの革命(revolution from above)」であり、幻滅したエリート(多くの場合、軍部)のメンバーたちが権力を獲得し、旧秩序の重要な要素を新しいものに置き換える。この意味では、ムスタファ・ケマル・アタチュルク(不満を持ったオスマン・トルコの将軍)が率いたトルコ革命や、ガマル・アブデル・ナセルと「自由将校団(Free Officers)」(より不満を持った軍部の指導者たち)が率いたエジプト革命、あるいは日本の明治維新に似ている。「上からの革命」も紛争や戦争につながる可能性はあるが、「下からの大衆革命(mass revolutions “from below)」に比べれば破壊力は小さい。
(中略)
トランプを、根本的に新しく、潜在的に感染力のある世界モデルを推進する革命的指導者と捉えるよりも、時計の針を逆戻りさせようとする反動的な指導者(a reactionary leader seeking to turn the clock back)と捉える方が正確だろう。「MAGA」というスローガンが正体を露呈している。もし国を再び偉大にすると主張するなら、その視線は未来ではなく、バックミラーにしっかりと固定されている。
(貼り付け終わり)
トランプの「革命」は、「上(エリート)からの革命」であり、大衆が主人公の革命ではないとウォルトは述べている。そして、「反動的な指導者」であると述べている。私は、ウォルトの主張に同意する。しかし同意できないところがある。それは、トランプ革命が「上からの革命」であると述べている点だ。トランプを大統領に押し上げたのは、アメリカ国民である、トランプは選挙期間中に自分が行うことをはっきりと述べ、選挙で勝利し、そして、実際に実行している。そして、トランプ支持の中核は、貧しい白人労働者たちである。とすれば、これは「下からの革命」ではないか。
そして、私は、トランプが行おうとしているのは「維新(restoration)」だと『トランプの電撃作戦』で書いた。彼は、「古き良きアメリカ」を取り戻す、「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again)」と述べている。アメリカの本来の姿から逸脱した、現在の状況を変革するということを述べている。従って、現状を肯定する人々や勢力から見れば、「危険な、脅威となる革命家」と捉えられるが、現状が本来の姿から逸脱していると考える人々からすれば、「復元者(restorer)」ということになる。
しかし、それはあくまで理想の姿であって、現実は厳しい。連邦政府の予算と米国債の金利の推移を受けて、厳しい現実が見える。トランプが「古き良きアメリカ」を取り戻し、貧しい白人労働者たちを救おうとすることは非常に厳しい。それは、アメリカが大きな変容を遂げ、既に製造業の国として復活するためのポテンシャルを失い(歴史上喉の覇権国でもそうだったが金融に集中してしまった)、どうしようもなくなっているためだ。それに加えて、国力の低下も否めない。トランプは非常に厳しい仕事をさせられている。
(貼り付けはじめ)
ドナルド・トランプは革命家ではない(Trump Is Not a
Revolutionary)
-すべての政治的動乱(political upheaval)が同じように作られる訳ではない。
スティーヴン・M・ウォルト筆
2025年3月17日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2025/03/17/trump-president-policies-revolutionary-or-reactionary/
「革命指導者(revolutionary leader)」を想像しろと言われたら、おそらくフィデル・カストロやチェ・ゲバラのような戦闘服を着た髭面の人物、レオン・トロツキーやマクシミリアン・ロベスピエールのような熱情溢れる扇動者、あるいはターバンを巻いたルーホッラー・ホメイニ師の睨みつけるような姿を思い浮かべるだろう。しかし、78歳の肥満体型のアメリカ人不動産王で、髪を逆立て、ダークスーツに赤いロングネクタイを締めている人物を思い浮かべる人はいないだろう。
よく言われるように、外見は人を欺くものだ(Appearances, as they
say, can be deceiving)。
約30年前に書いた著書の中で、私は革命(a revolution)を「既存の国家がその社会の構成員によって破壊され、新たな政治秩序が創造されること(the destruction of an existing state by members of its own society,
followed by the creation of a new political order)」と定義した。トランプ主義(Trumpism)の最終的な影響はまだ分からないが、一見すると、彼(そして彼の支持者たち)の願望はその定義に当てはまるように見える。過去2カ月で十分に明らかになったように、ドナルド・トランプ米大統領は前任者の政策を修正したり覆したりしようとしているだけではない。どの大統領も程度の差はあれ、そうした政策を進めている。むしろ、トランプとその支持者たちは、憲法そのものの意義を含め、数十年にわたりアメリカを統治してきた主要な制度の一部を破壊、あるいは根本的に変えようとしている。彼らはまた、アメリカの外交政策の主要側面に、広範囲にわたる、まさに革命的な変革をもたらそうとしている。これは、リチャード・ニクソンの中国への働きかけや、ジョージ・W・ブッシュの不運にも終わった中東変革の試みよりもはるかに根本的な動きである。
その前の本で私は、大衆革命[mass revolutions](すなわち、エリート層に対する民衆の動員から発生し、毛沢東やウラジーミル・レーニンのような長年の反体制派が起こす革命)は、恐怖と過信の致命的な組み合わせ(a fatal combination of fear and overconfidence)によって、ほとんどの場合、戦争につながると論じた。既成の政権を打倒しようとするのはリスクの高い試みであり、革命家になろうとする者たちは、集団行動の重大な問題(enormous collective action problems)に直面する。人々を説得して革命運動に参加させたり、支持させたりするためには、指導者たちは、乗り越えられないと思われるような困難にもかかわらず、反乱が成功すると信奉者を説得しなければならない。そのために指導者たちは、旧体制を悪であり、改革が不可能であり(だからこそ打倒しなければならない)、崩壊する運命にあるとするイデオロギーを広める。
フランスの急進派、アメリカ建国の父たち、ボリシェヴィキなど、様々な革命運動は通常、自らを国内外における新しい社会モデルの先駆者(the heralds of a new model for society both at home and elsewhere)と見なす。そのため彼らは、権力を手に入れた自分たちの成功が他者を鼓舞し、その模範がやがて他の地域にも広がると考える傾向がある。「イスラム国」はこの種の運動の最も新しい例である。イスラム国の指導者たちは、イラクとシリアに新たなカリフ制国家(a new caliphate)を樹立すれば、アラブ・イスラム世界各地、ひいては世界各地に同調的な動乱が起こると確信していた。
このような斬新な思想に基づく運動が権力を握ると、他の国々は当然のことながら、その例が伝染するのではないかと懸念する。特に新政府が自らの理念を他国に広めたいと積極的に宣言している場合はなおさらである。こうした可能性を恐れる既存政権は、新政権が強大化する前に排除しようとする誘惑に駆られるのも当然である。革命直後に通常生じる混乱と一時的な弱体化によって、この誘惑はさらに強まる。
したがって、革命政権は外国の介入を懸念する十分な理由があるが、そのイデオロギーは、外国の敵対勢力を、高まる革命の波に翻弄される張り子の虎(paper tigers who will be vulnerable to a rising revolutionary tide)として描く傾向がある。こうして、両陣営は同時に恐怖と過信に陥りがちである。つまり、相手は危険であると同時に、容易に打ち負かすことができると考える。どちらの側もしばしば誤りを犯し、典型的な結果は、同様の激変の波が急速に起こることも、新政権が速やかに打倒されることもない。むしろ、より一般的な結果は、フランス革命、ロシア革命、イラン革命(そして、程度は低いが、アメリカ革命、メキシコ革命、トルコ革命も同様)の後に続いたような長期にわたる紛争である。
良い知らせは、トランプ主義はブルボン家、ロマノフ家、パーレビ家を倒したような大衆運動ではなく、トランプはその種の革命指導者ではないということだ。トランプ主義は「上からの革命(revolution from above)」であり、幻滅したエリート(多くの場合、軍部)のメンバーたちが権力を獲得し、旧秩序の重要な要素を新しいものに置き換える。この意味では、ムスタファ・ケマル・アタチュルク(不満を持ったオスマン・トルコの将軍)が率いたトルコ革命や、ガマル・アブデル・ナセルと「自由将校団(Free Officers)」(より不満を持った軍部の指導者たち)が率いたエジプト革命、あるいは日本の明治維新に似ている。「上からの革命」も紛争や戦争につながる可能性はあるが、「下からの大衆革命(mass revolutions “from below)」に比べれば破壊力は小さい。
また、トランプ主義が伝染する可能性も低い。トランプとスティーヴ・バノンのような支援者たちは、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子、ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相、ブラジルのジャイル・ボルソナロ前大統領のような独裁者や非自由主義的な民主政治体制指導者と共通の大義名分を築いてきたし、政権はドイツの「ドイツのための選択(Alternative für Deutschland)」やフランスの「国民戦線(the
National Rally)」のような右翼過激派と強い親和性を示してきたが、これらの運動はトランプ主義に先立つものであり、彼に触発されたものではない。トランプは根本的に新しい革命モデルを発明したのではなく、オルバンやトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアンのような指導者たちが完成させた民主政体の後退と自己欺瞞の脚本に従っているだけだ。世界最強の国がこうした独裁者たちと手を組んだことは重要だが、この映画はこれまで何度も見てきた。また、トランプ大統領の初期の動きが、カナダ、ドイツ、イギリスをはじめとするいくつかの国の主流派政党を助けていることは注目に値する。フランス革命とは違う。
トランプを、根本的に新しく、潜在的に感染力のある世界モデルを推進する革命的指導者と捉えるよりも、時計の針を逆戻りさせようとする反動的な指導者(a reactionary leader seeking to turn the clock back)と捉える方が正確だろう。「MAGA」というスローガンが正体を露呈している。もし国を再び偉大にすると主張するなら、その視線は未来ではなく、バックミラーにしっかりと固定されている。
70年間の経済成長を牽引してきた管理された自由貿易ではなく、彼は1世紀以上前にウィリアム・マッキンリー大統領が課したような輸入税[import taxes](いわゆる関税[tariffs])を求めている。人種や性別の平等、そして他の少数派への寛容ではなく、彼は白人至上主義(white supremacy)と伝統的な性別役割分担への回帰を求めている。国際法とワシントンが主導的な役割を果たす協調的な多国間機関に導かれた持続的な国際的関与ではなく、トランプは関与を放棄したいと考えている。規範に制約された大国間の競争ではなく、彼は1世紀前と同じように、大国が自由に何でも手に入れられるようにしたい。言論の自由や愛国的な反対意見の代わりに、彼は報道機関の封鎖、従属的な大学、そして政治的見解のみを理由に合法的な居住者を国外追放する権限を望んでいる。野心的な移民の到着によってエネルギーが更新される多様な国家を統治する代わりに、壁に囲まれ、ここで生まれた一部の人々だけが市民であるアメリカをトランプは望んでいる。科学と証拠に基づく公共政策の代わりに、彼は「事実(facts)」が彼とロバート・F・ケネディ・ジュニアの言う通りになることを望んでいる。
イーロン・マスクがこのプロセスにおいて果たしている、奇妙に破壊的な役割を除けば、このプロセスには目新しい点も革命的な点もない。これは、他の多くの場所で完成され、追求されてきた、お馴染みの独裁者の戦略であり、通常は彼らにとって不利益となる形で行われてきた。ただ、ここアメリカではそうではない。忘れてはならないのは、アメリカ合衆国はこのような国家運営方法に対する革命によって建国され、時とともに、宣言された理想に近づいてきたということだ。これまでは。独立宣言250周年を目前に控え、来年私たちが祝うのが、宣言に込められた革命的な理念ではなく、その崩壊だとしたら、それは実に悲劇的なことだ。
※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント: @stephenwalt.bsky.social、Xアカウント:@stephenwalt
(貼り付け終わり)
(終わり)

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』
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