古村治彦です。
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今回ご紹介する論稿は、第2次ドナルド・トランプ政権に対する批判をまとめるとこういう内容になるという論稿をご紹介する。著者はハーヴァード大学のスティーヴン・M・ウォルト教授だ。簡単に言えば、能力がないので政策決定や遂行で行き当たりばったりになり、言うことを変えて、他国からの信用を失う。それがアメリカの力を失わせることになるというものだ。
トランプ政権はポピュリズム政権であり、アメリカ・ファーストを掲げる。ポピュリズムは、既存の政治に対する一般大衆・有権者の反感・異議申し立てが原動力になり、ワシントンの既存政治を変えるために、アウトサイダーを自分たちの代表としてワシントンに送り込むということだ。今回のアウトサイダーはドナルド・トランプだ。トランプはこれまでの外交や政治を大きく変えようとしている。それは、既存の政治勢力やエスタブリッシュメントから見れば、行き当たりばったりで、言うことが変わるということになる。それが「国を破滅させる」という表現になる。
しかし、考えてみて欲しい。なぜ、人々がアウトサイダーをワシントンに送り込むという決断を下したのか。それは、これまでの民主党、共和党の政治がうまくいっていないという判断があったからだ。「彼らは失敗した。だから交代させる。もちろん、これまでの方法ではない、別の方法をやらせる」ということになる。アメリカの失敗と衰退がトランプを登場させたのであって、トランプが失敗を引き起こしたのではない。
しかし、同時に、これまでにも何度も書いてきたことだが、トランプは独特のバランス感覚で、過激な発言とは裏腹に、押したり引いたり、妥協したり、時には部下に責任をかぶせるような形で撤回したりということで、意外と常識的な線を保つ。これに対して、忠実な支持者たちは不満を持つが、離反しない程度を保っている。
アメリカの衰退は既にどうしようもないところまで来ている。トランプは何とかしようともがいている。それが行き当たりばったり、言うことがころころ変わるということになる。トランプに対応する際には慌てず、冷静に対応することが肝要だ。
(貼り付けはじめ)
どのように国を破滅させるか(How to Ruin a Country)
-ドナルド・トランプによるアメリカ外交政策の破壊を段階に合わせて解説する。
スティーヴン・M・ウォルト筆
2025年4月7日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2025/04/07/trump-ruin-us-foreign-policy-country/
このコラムを定期的に読んでいる皆さんは、私が国際舞台におけるアメリカの行動をしばしば批判していることをご存知のことと思う。ジョージ・W・ブッシュ大統領の外交政策は大失敗だったと私は考えていた。バラク・オバマ大統領の8年間は期待外れ、ドナルド・トランプ大統領の最初の任期は大混乱、ジョー・バイデン大統領の4年間は戦略と道徳の失策によって汚点が付けられた。しかし、残念ながら、トランプと彼が任命した人物たちは、わずか3カ月足らずで、彼ら全員を無能な外交政策の狂信的な行動で凌駕している。シグナルゲート事件が起こらなかったとしても、これは真実だっただろう。
明確に申し上げたい。トランプが外国のために行動しているとは思わないし、意図的にアメリカの安全と繁栄を損なおうとしているとも考えていない。ただ、そうであるかのように振舞っているだけだ。トランプは、便利な「アメリカ外交政策を台無しにする5ステップガイド」に従っていると言えるかもしれない。
●ステップ1:追従者たちと忠誠者たちを大量に任命する。(Step 1: Appoint a lot of sycophants and loyalists.)
国を滅ぼしたいなら、まずは愚かで有害な行為を誰にも止められないようにすることから始めるべきだ。つまり、無能で、盲目的に忠誠を誓い、あなたの庇護に完全に依存している、あるいは芯や信念に欠ける人物を任命し、独立心があり、信念を持ち、仕事が得意そうな人物を排除しなければならない。
ウォルター・リップマンが賢明に指摘したように、「皆が同じ考えを持つと、誰も深く考えなくなる(When all think alike, no one thinks very much)」。だからこそ、誤った指導者は国を窮地に追い込みやすくなる。反対勢力の不在は、ヨシフ・スターリンがソ連経済を誤った運営をし、毛沢東が悲惨な「大躍進政策(Great Leap Forward)」を開始することを許し、アドルフ・ヒトラーがヨーロッパの他の国々に宣戦布告することを可能にした。強力な国内反対勢力の不在は、2003年のブッシュ大統領のイラク侵攻を助長した。自国の外交政策を台無しにしたいなら、反対意見を無視し、追従者に頼るのは良い出発点だ。実際、ステップ1はプログラム全体にとって極めて重要である。愚かなことをたくさんやるなら、誰にも反論したり制約したりできないようにしたいはずだ。
●ステップ2:できるだけ多くの国家と喧嘩をする。(Step 2: Pick fights with as many states as possible.)
国際政治は本質的に競争的であり、だからこそ国家は多くの友好的な相手と比較的少数の敵に囲まれた方が良い。したがって、成功する外交政策とは、他国からの支持を最大化し、直面する敵の数を最小化するものとなる。非常に有利な地理的条件にも助けられ、アメリカは世界の他の地域で重要な同盟諸国からの支持を得ることに驚くほど成功してきた。その成功の重要な要素は、巨大な影響力を行使しながらも、過度に攻撃的・好戦的に振舞わなかったことである。対照的に、ヴィルヘルㇺ二世治下のドイツ、ソヴィエト連邦、毛沢東主義の中国、リビア、サダム・フセイン政権下のイラクは全て、好戦的で威嚇的な行動を取り、近隣諸国やその他の国々が自国に対して力を合わせるよう促した。しかし、賢明な大国は、不必要な反感を買わないように、ヴェルヴェットの手袋でその拳を包むのである。
代わりにトランプは何をしているのか? わずか3カ月足らずの間に、トランプ政権はヨーロッパの同盟諸国を繰り返し侮辱し、同盟国の1つ(デンマーク)の領土を差し押さえると脅し、コロンビア、メキシコ、カナダ、その他数カ国と無用の喧嘩をした。トランプとJ・D・ヴァンス副大統領は、大統領執務室でウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領を公然といじめ、マフィアのボスのようにウクライナに強要し続け、アメリカの援助継続と引き換えに鉱業権を譲り渡すように求めている。大げさに言えば、トランプ政権は米国国際開発庁(USAID)を解体し、世界保健機関(WHO)から脱退し、世界最大の経済大国の政府はもはや恵まれない社会を援助することに関心がないことを明確にした。それに比べて中国を良く見せる良い方法があるだろうか?
そして先週、トランプ大統領は政治的スペクトラム全体にわたる経済学者からの度重なる警告を軽視し、同盟国と敵対国のリストに挙がる国々に対し、奇怪な関税を次々と課した。ウォール街はトランプ大統領の無知な決断を瞬時に受け止め、景気後退予測が高まる中、アメリカ史上最大の2日間の株価急落を記録した。この突拍子もない決断は、緊急事態への対応でも、他国から押し付けられたものでもない。自ら招いた傷であり、たとえ株式を1株も保有していなくても、何百万人ものアメリカ人を貧困に陥れることになるだろう。
地政学的な影響も深刻だ。一部の国は既に報復措置を講じており、世界的な景気後退のリスクをさらに高めている。しかし、反撃しない国でさえ、アメリカ市場への依存を減らし、アメリカ抜きで互恵的な貿易協定の構築を目指すようになるだろう。前回のコラムで述べたように、アジアの同盟諸国との貿易戦争を始めることは、政権が表明している中国との競争意欲と矛盾する。
●ステップ3:ナショナリズムの力を無視する。(Step 3: Ignore the
power of nationalism.)
トランプは熱烈なナショナリストを自称したがる(もっとも、国全体の利益よりも私腹を肥やすことに関心があるようだが)。しかし、他国も同様に強いナショナリズム的な感情を持っていることを認識していない。トランプが他国の指導者を批判し、領土を奪うと脅し、さらには併合を示唆する発言を続けると、ナショナリストたちの反感を買い、これらの国の政治家たちは、トランプに立ち向かえば国内での人気が高まることにすぐに気づくだろう。このように、トランプによるカナダへの威圧と貶めの不器用な試みは、カナダ国民の怒りを買い、自由党の復活を招いた。これはまさに、ジャスティン・トルドー前首相と後任のマーク・カーニー首相がナショナリズムという切り札を効果的に使ったからである。その直接的な結果として、アメリカへの旅行を希望するカナダ人が減少し(アメリカの観光産業にとって不利な状況である)、政府は他国との新たな経済・安全保障協定の締結も模索している。カナダのような友好的な隣国を我々に敵対させるには、驚くべきレヴェルの外交的無能さが必要だが、トランプはその任務を果たした。
●ステップ4:規範を破り、合意を破棄し、予測不可能になる。(Step 4:
Violate norms, abandon agreements, and be unpredictable.)
強大国の賢明な指導者たちは、規範や規則、制度が、互いの関係を管理し、弱小国をコントロールするための有用なツールになることを知っている。大国は必要であればルールを書き換えたり、反故にしたりするが、あまりに頻繁に、あるいはあまりに気まぐれなことをすれば、他国はより信頼できるパートナーを探さざるを得なくなる。北朝鮮やフセイン政権下のイラクのように、慢性的なルール破りという評判を得た国家は危険視され、排斥されるか封じ込められる可能性が高い。
トランプとその部下たちは、こうしたことをまったく理解していない。彼らは、国際制度や国際規範はアメリカの力を制限する厄介なものでしかなく、予測不可能であることが他国のバランスを崩し、アメリカの影響力を最大化すると信じている。彼らは、国家間の関係を形成する制度は、そのほとんどがアメリカの利益を念頭に置いて考案されたものであり、こうした取り決めが通常、他国を管理するワシントンの能力を高めていることに気づいていない。ルールを破ったり、主要な国際機関から脱退したりすることは、他国が自国に有利なようにルールを書き換えることを容易にするだけだ。
さらに言えば、予測不可能であることはビジネスにとって悪影響を及ぼす。アメリカの政策が一夜にして変わるようでは、企業は賢明な投資判断を下すことができない。また、信頼性の低さという評判が広まれば、他国は将来的にアメリカとの協力を躊躇するだろう。トランプ大統領が約束にほとんど意味がないことを何度も実証しているのに、トランプ大統領が何かすると約束したからといって、分別のある国がなぜ行動を調整するなどと考えられるだろうか?
●ステップ5:アメリカの力の基盤を揺るがす。(Step 5: Undermine
the foundations of American power.)
現代世界において、経済力、軍事力、そして国民の幸福は、何よりもまず知識にかかっている。アメリカが何十年にもわたって世界最強の経済大国であり続け、軍事力も強大である主な理由は、その科学技術力(scientific and technological edge)にある。強力な研究機関の必要性こそが、中国がこの分野に数兆ドルを注ぎ込み、世界クラスの大学や研究機関をますます多く設立している理由だ。したがって、アメリカを偉大な国にしたいと願う大統領は、科学の進歩と革新においてアメリカを最前線に維持するためにあらゆる手段を講じるはずだ。
その代わりにトランプは何をしているのか? 政府の要職に科学知識に乏しい人物たちを起用することに加え、第二次世界大戦以降、アメリカにおける知識の創造と科学の進歩に拍車をかけてきた研究機関に対する公開捜査を宣言した。コロンビア大学やハーヴァード大学、プリンストン大学やブラウン大学を、極めて疑わしい理由で標的にしただけではない。米平和研究所を閉鎖し、ウッドロー・ウィルソン国際学者研究センターを解体し、保健福祉省を粛清し、全米科学財団を解体し、数十億ドルの医療研究費を差し止めると脅した。その結果はどうなるだろうか?
科学研究プログラムは閉鎖され、博士課程は削減された。外国人科学者は他の共同研究者を探すだろうし、アメリカは優秀な頭脳の持ち主をこの国で研究させ、働かせることができなくなるだろう。実際、アメリカを拠点とする科学者の中には、自分たちの研究が十分に支援され、尊敬される国に移住する者も出てくるだろう。トランプ大統領は、アメリカの権力、威信、影響力の重要な要素を薪割り機に投入しようとしている。
守るべきなのは自然科学や医学だけではない。社会科学者、地域研究プログラム、人文科学を攻撃することも危険だ。なぜなら、これらの研究分野は、社会が社会問題に対処するための新しいアイデアを生み出す場だからだ。また、新しいアイデアや政策提案が検証され、批判され、誤りが暴かれ、修正される場でもある。偉大な国家を目指すなら、あらゆる政治的立場の学者が既存の経済政策、政治慣行、社会状況を調査し、疑問を投げかけることも必要だ。そうすることで、国民や指導者は何がうまく機能し、何が機能していないかを理解し、代替案を提案・評価できるようになる。政治家があらゆる政治的立場からの反対意見を黙らせたり、無視したりすると、愚かな政策が採用される可能性が高くなり、失敗したとしても修正される可能性が低くなる。だからこそ、独裁者は権力を集中させようとする際に、たとえそれが必然的に国を愚かで貧しくすることになっても、常に大学やその他の独立した知識源を攻撃する。
言い換えると、トランプ政権は、意思決定のあり方について私たちが知っていることのほとんど、そして世界政治について私たちが知っていることの多くを侵害している。集団思考(groupthink)を歓迎し、誠実な政策議論よりも指導者への盲目的服従(blind
obedience)を優先している。国家が脅威に対してバランスを取ろうとする自然な傾向を無視し、現在の同盟諸国を疎外し、場合によっては敵に転じるリスクを冒している。ナショナリズムの永続的な力を見落とし、歴史と経済学入門で教えられている保護主義の有害な影響を否定している。アメリカを再び偉大にするどころか、これらの誤りはアメリカを貧しく、弱体化し、尊敬を失わせ、世界における影響力を弱めることになるだろう。
紳士淑女の皆さん、これこそが国の外交政策を台無しにする方法だ。
※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント: @stephenwalt.bsky.social、Xアカウント:@stephenwalt
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(終わり)

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』



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